超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ジオンが地球からの撤退を決定し、1週間が過ぎた。
ニューヤーク基地は数々の人員や物資を宇宙に打ち上げつつ、打ち上げが追いつかない人や物はキャリフォルニアベースにガウで輸送して、順調に規模を縮小しており、その規模はかつての数分の一程度にまで落ち込んでいる。
兵員もだいぶ目減りしているが、兵器の数――特にモビルスーツは数えるほどしかこの基地に残っていない。
残された兵器たちの大部分はマゼラアタックやギャロップといった、地上から撤退する以上、もはや使い道がないと判断された兵器たちだ。
解体しての再資源化が間に合わなかった兵器たちと言ってもいいだろう。
キャリフォルニアベースで解体できるなら良かったのだが、現在そちらの工廠ではドムを宇宙用のリックドムに改修する作業が最優先になっていて、とても解体に回せる余裕はない。
北米中に存在する、ほぼすべてのドムがキャリフォルニアベースに集まっているのだ。完全にキャパオーバーである。
まず間違いなく、地上から完全撤収するタイミングになってもドム全機の改修すら終わらない。
本国が撤収を決めても、地球に残る決意が固い部隊や、地上での破壊工作任務を命じられた部隊といった連中が結構いるようなので、改修できなかったドムは彼らに託していくことになるのだろう。
大西洋で破壊工作任務を完了したマッドアングラーもキャリフォルニアベースに向かっており、そこで宇宙に上がるシャアから、地上に残る闇夜のフェンリル隊に譲渡される予定である。
俺も宇宙に上がるのだから、イフリートもフェンリル隊に渡していいかもしれない。
そのような理由から、ニューヤーク基地は既に人員よりも兵器の方が多い、陸戦兵器の墓場と化している。
現存するモビルスーツも、陸戦型ザクとグフが合わせて20機程度。
それに加えて、修理が終わったマドロックしかない。
イフリートは連邦の小規模な侵攻への対応にずっと使い続けてきたため、マドロックの修理が終わったタイミングで「いい加減フルメンテをさせろ」と整備班からクレームがついてしまい、キャリフォルニアベースで分解整備中である。
修理されたマドロックも、先日の戦闘データを反映して若干の改良が加えられたらしいのだが、それでも完成には程遠いのが現状だ。
ガンダムとの戦闘を想定するのなら不安が残るが、シャアが送ってきた情報によると、ホワイトベースはまだ北欧にいるらしいのでわざわざ北米に来ることはないと見ていい。
そう考えるのにはちゃんとした理由がある。
連邦軍の立場を想定してみれば、ホワイトベースを既に撤収予定であるジオン軍の追撃に充てるぐらいなら、さっさと宇宙に上げた方が有効活用できると考える。
仮に北米に回して、先日のようにエンジンが大破するようなことになれば、ホワイトベースは宇宙の戦いに完全に間に合わなくなる。
なにせホワイトベースエンジン大破事件の、下手人の俺が北米にいるのである。
それでも送るということは、つまり『俺1人を討ち取れるかもしれない』という賭けの代価として、『宇宙での反攻作戦をホワイトベース抜きでやるかもしれない』というリスクをベットするということだ。
連邦にとっては完全に博打である。
レビルの目がバスク・オムぐらいに曇っていればあり得るかもしれないが、さすがにそこまで近視眼的になることは考えづらい。
仮にそうなっても、ゴップ提督がストップをかけるだろう。
ゆえにホワイトベースが北米に来る可能性は排除して構わない。
そして、アムロ・レイの乗るガンダムがいないのであれば、仮に他のガンダムタイプが送られてきたとしても、俺なら現状のマドロックでどうとでも対応できる。
あくまであの天パが異常なのである。
そんな、ニューヤーク基地の完全撤収となるはずだった日の午後に――。
基地に緊急警戒警報が鳴り響いた。
「連邦の基地攻略部隊か?」
警報に呼び出されたガルマが、レーダー担当の兵に尋ねる。
ガルマと一緒に撤収作業の指揮をとっていた俺も同行している。
「はい。ボストンより上陸したと思われる一個大隊を確認。
現在、数十機のMS、並びにビッグトレーが確認できます。
それ以上の詳細はミノフスキー粒子の濃度が高く、確認できません」
どうやら連邦軍は、ニューヤークの北東部の海岸地帯から上陸して、こちらへとゆっくり進軍してきているらしい。
今確認されている敵戦力では、ニューヤーク基地が撤収作業に入っていない場合だと、とてもじゃないが戦力が足りない。
敵にこちらの撤収状況が漏れていないのであれば、増援が来て戦力がさらに増えることになるだろう。
こちらの状況は、ガウ攻撃空母が5機駐留しており、これらすべてが飛び立てば基地の放棄が終わるといった、撤収完了寸前の状況だ。
「我々の目的は基地の撤収だ。無理に敵を撃破する必要はない。
ガウへの物資の積み込みと、離陸準備が完了するまでの時間さえ稼げればいい」
ガルマが方針を告げる。
特に問題もないので、副官としては言うことはない。
この程度の戦力ならば、連邦側はおそらく基地攻略前の前哨戦、強行偵察といったところだろう。
現状の基地残存戦力でもしのぎ切るだけなら十分可能であるし、敵が一時撤退した後に悠々と脱出すればいい。
優先度を考えるなら、敵の到着前にガルマが最初のガウで脱出し、最後のガウで俺が脱出すれば特に問題はないだろう。
最悪の場合でも、基地にはギャロップが残っている。
ホバー走行ができるマドロックともども、陸上ルートを使ってキャリフォルニアベースに到達できる。
「ガルマ、まずはお前の身が最優先となる。
指揮は俺がとるから、お前は第1陣のガウでキャリフォルニアベースに……」
「それは却下だ、エルンスト」
ガルマに遮られた。
え?
いやちょっと待ってくれ。
「現状この基地で一番重要なのはお前の身の安全なんだぞ。
最優先でお前が移動しなくてどうするんだよ」
「そんなことは重々承知しているさ。
だがなエルンスト」
ガルマはこっちをじっと見つめたまま続ける。
「この状況で率先して逃げ出すような司令官に、誰が命を預けたいと思えるんだ。
……たしかに私は、君と比べて軍人の適性はない。
それはこの1年で嫌というほど理解している」
自分で言うのもなんだが、それは比較対象が悪いだけだと思う。
味方に対しての冷徹な判断ができないという点においては、確かにガルマは軍人に向いていないとは言える。
だが残念ながら、ジオン軍には軍人というよりは頭が武士な連中も多いので、ガルマに軍人の適性がないというのは比較論で言うなら否なのである。
ただガルマは軍人としての適性に対して、政治家としての適性が抜きんでているだけだ。
「私はザビ家の人間というだけで、この場に立っているのも同然の人間だ。
決して能力に見合ってこの地位についているわけではない。
姉の心遣いで私はここにいる。
だからこそ……!」
ガルマは一瞬たりとも、こちらから視線を離さない。
迷いのない瞳が俺を見つめ続けていた。
「この状況で真っ先に逃げ出すようなことはできない。
それだけはできない。
脱出するとしても、最後に、君と一緒にだ。
それだけは絶対に譲れない」
ガルマはそう言い切った。
決意と覚悟を決めた顔をしている。
とはいえ困ったな。
ガルマに万が一のことがあるリスクを考えると、これは副官としては受け入れがたい。
どうやって説得したものだろうか……。
そう考えていた時、オペレーターの1人が突然言った。
「ガルマ大佐、撤収作業と迎撃作戦における司令部として、ガウ5番機を臨時の司令室に設定することを進言します」
……は?
一瞬固まった俺をよそに、ガルマが返答する。
「承知した。準備の出来ている者から順次、5番機へと移動しろ。
15分後にこの司令部は閉鎖する。私もすぐに向かおう!」
ちょっと待て。
副官の俺はそれを了承していないぞ。
他のオペレーター連中も、粛々と司令部の移動作業に移っている。
うわぁ、どうすんだよこれ。
ガルマが最後まで残る流れが既成事実化しようとしている。
副官の俺の権限ではガルマを強引に移動させることはできない。
本当にどうしよう……。
心の中で頭を抱えていると、誰かが俺の肩を叩いた。
目を向けると、そこにいたのはこの基地で俺の副官みたいな位置にいた壮年の大尉だった。
俺やガルマが頻繁に移動するという事情から、実質的なこの基地司令と言ってもいい人物である。
そんな男が、俺に向かってにやりと笑った。
「大佐、あなたの負けですよ。
どのみちMSで迎撃しつつ、随伴部隊の指揮もとるんでしょう?
撤収作業も含めた、全体の指揮なんてとれねぇですよ」
ちくしょう、味方がいねぇ。
時間も限られているし、こうなったガルマを説得できるとも思えない。
何より司令系統の人員全てが、ガルマの味方になってしまっている。
こうなったら、MSでなるべく敵を撃破して、ガルマの安全を確保する方針に切り替えた方がよさそうだ。
「仕方ない……。
俺は
残存しているMS部隊、ドップ部隊の展開は急がせておいてくれ!」
それだけを告げ、格納庫に向かって走り出す。
オデッサの撤退戦でも同じようなことをした気がするが、さすがに今回は
あの時と違って十分な支援や事前準備の時間がない。
そもそもオデッサの撤退は夜明け前の開始だったが、今は昼過ぎだ。
敵の中心に入り込んでも、袋叩きにされるだけである。
基地の火力支援も利用して、有利に立ち回るしかない。
マドロックのコックピットに到着した俺は、機体の起動シーケンスに入る。
各部チェック……修理したてであるため、オールグリーン。
駆動プログラムに修正が入ったためか、腕の動きも前回よりは若干ではあるがマシになっている。
ビームライフル、300mmキャノン、グレネードランチャー、バルカン、全て残弾フル。
戦闘行動に問題なし。
機体のチェックをしていると、管制の通信が切り替わった。
臨時司令部としてのガウに完全に移行したようだ。
オペレーターからの通信が入る。
「敵第1陣、基地北北西20kmに到達しました。
迎撃準備に入ってください」
「了解した。エルンスト機より各機へ。
準備の完了した機体より順次発進。
基地より3kmの地点で敵を迎撃する」
順次発進したMSを率いて、迎撃に最適であろう地点へと移動を開始する。
ミノフスキー粒子によって有視界戦闘を強制されている以上、これ以上離れると基地からの援護が届きづらい。
08MS小隊劇中にて陸戦型ガンダムが10kmの狙撃を成功させていたが、あれは陸戦型ガンダムが事前に山の斜面に潜伏しており、かつミノフスキー粒子も散布されておらず、一方的に先手を取れる状況からの狙撃である。
既にミノフスキー粒子が散布されている以上、長距離からの狙撃はラッキーヒットを除いてあり得ない。
防衛線を張るのであればこの距離が適切だろう。
数分と経たずに、想定された迎撃ポイントに到着する。
俺と共に展開したグフ7機、ザク15機の部隊は全機、機体を低くした状態で動きを止め、敵の反応を待つ。
振動センサーに敵の反応が現れた数秒後、基地からの援護砲撃がその地点へと降り注いだ。
さすがに直撃を期待するのは虫が良すぎるが、これで敵の集団はバランスを崩し、進撃は止まる。
「ザクはマゼラ砲で射撃始め!
グフは斉射の後、左右に展開して突っ込むぞ。
煙幕弾、準備!」
叫びつつ、俺も照準を合わせた目標へ向けて、300mmキャノンを発砲する。
狙い通りにジムを盾ごと粉砕し、運が良かったのか、その後方にいた別のジムの胴体にも風穴が開いた。
ザクたちのマゼラトップ砲も、敵部隊にそれなりの損害を与えている。
その直後、グフの放った煙幕弾が敵部隊の左右両翼を煙で包み、ザクが射撃する正面以外が白煙で覆われた。
そこにグフたちが突撃していき、射撃した分、一拍遅れて俺も敵部隊に向かう。
移動しつつ、おまけとばかりにビームライフルでもう1機ジムを撃破する。
ホバー走行である分、グフたちにはすぐに追いついた。
そのままグフたちを追い抜いて、彼らより一拍早く敵陣に突入する。
俺はマドロックのビームサーベルを引き抜くと、フルスロットルで混乱の収まらない敵陣を駆け抜けつつ、進路上にいたジムの数機を通り過ぎる瞬間に斬り捨てていく。
前回は初の近接戦が
数機のジムが、慌ててこちらにビームスプレーガンを向けているが、ここで俺だけに注目するのは命取りだ。
追いついたグフ部隊のヒートサーベルが、ジムたちを背後から切り裂いた。
数秒も経たず、強行偵察を兼ねていたのであろう、第1陣十数機は全滅することとなった。
敵に二の足を踏ませるには十分だろう。
「よし、一旦引くぞ!」
味方に命令を出して撤収を開始する。
これでガウの撤収準備までの時間はそれなりに稼げるだろう。
読んでいただきありがとうございます。
この時期のジオン地上軍は、撤退撤退また撤退みたいな感じですよね。
作中に出る予定はまったくありませんが、たぶんトップ小隊はバイコヌール宇宙基地から宇宙に帰れていますので、キキの村は無事でしょう。
対してユーリ・ケラーネ将軍はバイコヌールが混雑しているので、将兵の帰還を妨げるわけにはいかないと、ギニアスのもとに向かって原作ルートかと思われます。
南無……。
なんかガルマが某英国無双なこと言い出しましたが、筆が滑りました。
とはいえ、ガルマはこういう時、最後まで逃げないとは思っています。
主人公の権限ではこうなったガルマを止められないのが、宮仕えの辛いところ。
あと、主人公の通算撃墜スコアのイメージは『1年戦争開始時から天パのガンダムが参戦していたら』みたいなイメージですので、多分色々と記録をぶっちぎることになりそう。
戦後に実は複数人だった説でも出るんじゃないですかね。
ちなみにニューヤークに来た連邦軍は海軍と陸軍主導で、レビルの潜在的な政敵のイメージ。
「レビルに笑われるのは何としても避けたい」ってイーサン・ライヤー大佐も言ってましたしね。
なのでホワイトベースはいい加減宇宙に行ってもろて。
あと、誤植であると指摘を受ける一部の表現ですが、アニメ・漫画でよくある表現だったり、実際にガンダム作品中で使われる表現は、あえてそのまま使用していますのでご了承願います。
特に指摘が多いものですと「状況を開始する」とか「噴射剤」とか「ビーム兵器をドライブ」とかですね。
普通にガンダム作品で使われている表現も割とありますので『そういうもの』と思っていただければ幸いです。