超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
会話パートって割と難産になりやすい気がします。
「先行?」
無事にニューヤーク基地を脱出して数時間。
追手がかかることもなく、今のところは順調に逃げ続けられている。
そんなギャロップのメインブリッジで、俺はこの艦の臨時キャプテンをしている大尉に問い返していた。
「はい。エルンスト大佐はガルマ大佐をお連れして先行し、我々よりも先にキャリフォルニアベースに向かっていただきたいのです。
我々は怪我人を抱えておりますので、キャリフォルニアベースまでは最短でも6日ほどかかる見込みですが、大佐たちだけでしたら3日程度で到達できるかと」
確かに俺たちが先行した方が早いことは早い。
連邦から未完成で鹵獲したマドロックには、マ・クベ中将によってドムのホバーシステムを移植されている。
ドムは巡航速度でも時速100km程度は出せるので、マドロックも同程度と考えてもいい。
対してギャロップは巡航速度で時速70kmほどだ。
最高時速で言うのなら、ドムやマドロックが時速350km、ギャロップも時速200kmは出せるのだが、オデッサの撤退戦と比べると、距離と時間が違ってくる。
数日にわたる行程を想定している以上、最高速度で常時飛ばすわけにもいかない。
少々話がずれたが、マドロック単体ならば大尉の言う通り、普通に先行できるのである。
「な、何故だ!?
僕たちは最後まで君たちとともに……っ」
不服そうなガルマを手で制す。
何もこの大尉も、意味もなくこんなことを言っているわけではないだろう。
「理由はいくつか想像はつくが、言ってみろ」
先を促した俺に、大尉は敬礼した。
「ハッ、前提条件として、我々が友軍から
大尉の言った着眼点は、俺としても懸念事項だった部分なので容易に想像がついた。
「離陸直前、ミノフスキー粒子を最高濃度に散布した状態でガウが離陸失敗……。
友軍からすれば、離陸前なのか離陸後なのか、いつ反応が消えたのかもわからない状態で、5番機だけがキャリフォルニアベースに到着していない。
端的に言えばMIA*1だな」
「はい。先に飛び立ったガウが我々の反応を検知できない時点で、キャリフォルニアベースはそう判断せざるを得ないでしょう。
ならば本国にも……」
キャリフォルニアベースの基地司令は俺やガルマの下についてはいるが、直接はキシリア少将の突撃機動軍に属している。
この情報はキシリア少将経由で、即座に本国に上がるだろう。
「確かに、俺たちはともかく、
仮に俺が消息不明になったとしても、『特殊任務に従事中』とでも言っておけばいくらでもごまかしが利くだろう。
だが、ガルマはそうもいかない。
政治的な存在感が大きすぎる以上、何が起こるか分からない爆弾だ。
原作のような『死亡』ではなく『消息不明』であってもまずい。
何より
ザビ家の人間関係が元からガタガタであることは自明の理だが、それをなんとかもたせているのがガルマの存在である。
当然、常にガルマに連絡がとれている必要はないのだが、『生死不明』となると、どこの人間関係が多重事故を起こすか分からない。
性格的に裏表がないドズル中将を除いた全ての人間が、互いに疑心暗鬼に陥ってもおかしくはないのだ。
まあ、大尉はそういった政治的事情まで踏まえての進言ではないだろう。
精々が「キシリア少将に一刻も早く無事な顔を……」といったところか。
「どういうことだい?」
こいつに一番分かりやすい言葉で説明するとなると――。
そうだな。
「デギン公王に物凄い心労がかかるってことだ」
ああ、とガルマは納得がいったように呟いた。
自身の政治的価値よりは、家族が心配すると言った方が伝わりやすい。
大尉が続ける。
「本来ならば一刻も早く、我々の無事を伝えるべきですが……」
大尉の言わんとすることは分かる。
連邦軍から隠れて逃亡している俺たちが、味方に助けを求めるとなると、位置情報と援軍要請を同時に電波で発信しなくてはならない。
「そうすると、連邦に俺たちの居場所が筒抜けになると。
なにせガルマ・ザビの身柄だ。北米中の連邦部隊が……下手したらジャブローからすら追撃が来るな」
連邦から隠れつつ逃亡している俺たちには、割と致命的だ。
キャリフォルニアベースからの援軍が来るまでの間、ガンダム1機とグフ2機で防衛をしなくてはならない。
さらに、こちらの物資は、撤退時にグフがガウの倉庫部分をヒートサーベルで『切り取って』積み込んでくれた分しかない。
弾薬が潤沢で、MSにドムがあった分、まだオデッサの撤退戦の方がマシだ。
俺たちに余裕があるのは、隠れ切っているという一点があるからに過ぎない。
「ですので、大佐たちにはガンダムでキャリフォルニアベースに先行していただき、いち早くガルマ大佐の無事を本国に伝えていただきたい。
また、2つ目の理由にもなるんですが、我々の移動ルートから位置を特定し、迎えを回していただきたい。
我々は敵に見つからず、なおかつ怪我人に負担をかけないよう、安全な行程を最優先する必要があります」
たしかに理には適っている。
結構な数の怪我人がいる以上、そこまで強行軍はできないし防衛戦も心もとない。
戦わずに済むように隠れながら進むことが最優先だ。
先行する俺たちも、モビルスーツ1機ならまず見つからない。
ついでに言えば、このギャロップは元々ニューヤーク基地に置いていく予定だったギャロップだ。
キャリフォルニアベースから航空隊が迎えに来てくれるなら、その場に乗り捨てていっても構わない。
現状打てる手としては悪くないだろう。
「いいだろう。
夜が明け次第、3日分の食料と水を積み込んで、俺たちは先行しよう。
それで構わないなガルマ?」
「そうだな。たしかに、その方がみんなの治療も早くできるというものか……。
みんな、必ず迎えを寄越す。
その数日、何としても耐えて欲しい!」
ここで兵の治療が理由として出るあたりが、ガルマが好かれる理由なんだろうな。
俺たちがギャロップという巨体で移動している以上、どうしても移動にあたって地形の制限は受ける。
だが、かといって夜間にサーチライトで照らしつつ地形を把握して進んでいると、発見される可能性が高くなってしまう。
そのため、俺たちはニューヤークより400kmほど西の目立たない場所で夜を明かし、日の出とともにガンダムで出立することにした。
ここからキャリフォルニアベースまで最短ルートを通ると4500kmほどある。
不眠不休で走り続けて2日間。まあ休息を入れつつ3日間という道程だろう。
ギャロップはさらに安全を確保するために、隠れられる箇所が多いルートを進むため、迎えが来ない限りは10日ぐらいかかりそうなルートを進む手はずになっている。
前日の夜にマドロックを整備してくれていた整備兵たちに感謝しつつ、機体を西へと走らせる。
俺のパイロットシートの後ろのスペースに、即席のシートも組んでくれたので、少なくともガルマの尻が壊れるようなこともないだろう。
前世での体験だが、振動する車内にクッションなしで長時間座っていると、本当に地獄だからな……。
巡航速度で延々と移動する関係上、常に気を張っているわけにもいかないので、俺たちは担当を分担することにした。
俺は機体の操縦と各種パッシブセンサーの監視を担当し、ガルマは通信機をパッシブモードにして、何かしらの通信を感知したら知らせる役割だ。
「しかしエルンスト、センサーはともかく、連邦の通信にまで気を張っておく必要はあるのかい?」
数時間ほど進んで、適当に話題を回しつつ雑談していたガルマが、ふと聞いてくる。
たしかに、見つかっていない以上、逃げることだけを考えたら敵の通信を拾う意味は薄いんだが……。
「近くにミデアでもいないかと思ってな……」
「ミデア?
連邦の補給部隊のか?
なんでまた……」
「強奪できたらキャリフォルニアベースまで早いだろう?」
ガルマ、その「うわぁ」って顔をやめろ。
敵の輸送機の強奪は、ガンダムパイロットにとってはたしなみなんだぞ。*2
残念ながらと言えばいいのか、近くにはミデアどころか敵の部隊すら今のところはいないようだ。
今のうちに距離を稼いでおくに越したことはない。
マドロックの速度をわずかに上げておく。
この程度なら燃料にほとんど影響は出ないだろう。
その日、休憩を挟みつつ15時間ほど進んだが、敵と遭遇するようなことはなかった。
山脈さえ越えてしまえば、キャリフォルニアベースまではすぐである。
一応、野生動物を警戒して、睡眠はマドロックのコックピットで取る。
ただでさえモビルスーツに急ごしらえで備え付けられたシートで眠らなくてはならない上、目立たないように機体を仰向けにしているために、ガルマの寝つきがかなり悪かったようであるが、我慢してもらうしかないだろう。
俺は慣れているので普通に眠れる上、ガルマよりも睡眠が短くても回復できるために問題はない。
本来ならば日の出とともに出立すべきなのであるが、ガルマの体調を優先し朝方まで寝かせてやることにする。
多少の遅れは出るが、3日目には到着できることに変わりはないからだ。
それでも欠伸をしているガルマに、温めた軍用食糧を食わせると、マドロックを出発させる。
昨日同様、順調に数時間ほど進み、そろそろロッキー山脈が見えてくるかという位置に差し掛かったところで、ガルマが通信に気付いた。
「エルンスト、全方位通信が入ってるんだが……」
全方位通信。
敵味方関係なく、あらゆる周波数で、強烈な電波で既存の通信を上書きして割り込む、一種の電波ジャックである。
なんだか、猛烈に嫌な予感がする……。
「ガルマ、つけてくれ。
どのみちパッシブだ。これで俺たちの位置が割れることはない」
「そうだな、分かった」
ガルマが機器を操作し、接続する。
少しノイズが走り、その瞬間――。
「我々はこれまでに、多くの英雄を失ってきた!
しかし、これは敗北を意味するのか!?
否、始まりなのだ!」
通信機からギレン・ザビ総帥の声が飛び込んできた。
え?
状況を信じられないままに、マドロックを停止させる。
ガルマも何も言わなかった。
手元の機器を操作して、音声回線から映像回線へと切り替える。
モニターに映るギレン、正面に大量の花で飾られた祭壇に……ネームプレートのような大量の板が設置されているのが見える。
一瞬切り替わった映像により、脇にある椅子にはデギン公王、ドズル中将、キシリア少将らしき姿が見えた。
その間にもギレンの演説は続いていく。
「私の弟、諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは、ニューヤークにて諸君らの同胞を宇宙に返そうと奮戦し、消息不明となった!
将兵の大半は宇宙へと無事帰還し、戦いはやや落ち着いた。
諸君らはこの戦争を、対岸の火と見過ごしているのではないか!?
ここにガルマがいれば、諸君らの甘い考えをきっと笑うであろう!」
いや、唖然としています。
俺の目の前で、わけが分からないといった様子で、口をあんぐりと開けています。
そういう俺も、何でこうなっているのか、わけが分からない。
「諸君の、父も、兄も、子も、連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!
この悲しみも、怒りも、忘れてはならない!
それをガルマは、その行動を以て我々に示してくれた!」
ギレンの演説がヒートアップしていく。
「我々は、この怒りを結集し、連邦軍に叩き付けて、初めて真の勝利を得る事が出来る!
この勝利こそ、ここに祀られた英霊たち全てへの最大の慰めとなる!
国民よ! 悲しみを怒りに変えて! 立てよ、国民よ!!
我らジオン公国国民こそ、選ばれた民である事を忘れないで欲しいのだ!
優良種たる我らこそ、人類を救い得るのである!!
ジーク・ジオン!!」
そして、通信はジーク・ジオンの大合唱の中で終了した。
俺もガルマも微動だにしない。
ガルマは何が起こっているのか理解できないのだろう。
それはそうだ、俺のように原作知識がない以上、状況を理解できる方がおかしい。
対する俺の方は、怒りなのか、呆れなのか、それとも感心なのか――いや、言うなればそのすべてが混在して、心の中で悪態をついていた。
あ、あの眉無し野郎、やりやがった!
ガルマがMIAの段階で
一応、ギレンは「ガルマが死んだ」とは言っていない。
あの様子からすると、おそらくは名目上は合同の戦死者慰霊祭といったところだろう。
だが、原作を知っている俺からすると、あれはガルマの国葬に他ならない。
たしかに戦意高揚効果は絶大だろう。
原作のようなホワイトベースと戦っての討ち死にではなく、味方を宇宙に返そうと懸命に働いた結果としてのMIAなら、より国民受けもいいだろう。
だが、
原作の展開ならばまだ理解はできる。
原作では『死んでしまったからには最大限、その死を無駄にしないでおこう』という、なんというか
だが、今回は違う。
ガルマはまだ生きているかもしれないのだ。
実質的に死んだ扱いにする、純度100%の打算だ。
後に生きていたことが判明しても、今度は『奇跡の生還』として戦意高揚に使うだろう。
根拠のない確信であるが、おそらくドズル中将は猛反対したはずだ。
自分で言うのもなんであるが、中将の命令で
俺の自惚れでないならば、ドズル中将は2人の生存を確信してくれていると思う。
そんな状況で、名目上は合同慰霊祭という体にしたとはいっても、実質的なガルマの国葬を執り行う?
士気高揚と引き換えに、ザビ家内の人間関係にどれだけ亀裂が入ったのか見当もつかない。
少なくともドズル中将はブチ切れているだろう。
デギン公王の精神状態がどうなっているのかも想像がつかない。
「え、エルンスト。
何が起こっているのだ?」
ガルマが恐る恐るといった様子で訊ねてくる。
目を閉じて、深く深呼吸をする。
「……すまんガルマ。
ここから少々……いや、かなり口が悪くなる。
見逃してくれるとありがたい」
「……ああ、言ってくれ」
「お前の兄の眉無し野郎が
さっきのは合同慰霊祭の体をとった、実質的なお前の国葬だ!
あの野郎、戦意高揚を狙ってやったんだろうが、とんでもない地雷を設置していきやがった!」
この状況で敬意なんて払っていられるほど、俺は大らかにはできていない。
こっちの苦労も知らずに好き放題しやがってと、心の中であらん限りの罵詈雑言を並べ立てる。
俺の口が悪くなったせいで、逆にガルマは落ち着いたようだった。
「これから我々はどうする?」
冷静に、ただやるべきことを聞いてくる。
こっちも、心中で散々悪態をついたので、少しは落ち着いた。
マドロックの操縦レバーを改めて握りしめる。
「悠長にキャリフォルニアベースを目指している余裕がなくなった。
時間が経てば経つほど、国民にお前の死が
悪いが今から休みはなしだ。
なんとしてでも今日中にキャリフォルニアベースに辿り着くぞ」
読んでいただきありがとうございます。
ギレンやらかす(故意)。
作者的には、あの眉無しはこういうこと平気でやると思っています。
たぶん最初は死亡扱いにしようとして、ドズル中将がバチクソにキレたから、妥協して合同慰霊祭って形に持って行った。
前話での狙撃距離ですが、ガンダムは設定が設定で上書きされていくものですし、「この作品ではそうなんだな」程度に思っていただけるとありがたいです。
一応、ミノフスキー粒子なし、先に陣取って十分狙えて10kmが無理ゲーの一歩手前という08MS小隊の描写を参考にしている、程度です。
どうでもいい話なんですが、作品によってはミノフスキー粒子で光学機器にまでノイズ走ってた記憶があるんですけど、どういう理屈なのかさっぱりです。