超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ドズル中将との通信を終えた後、グラナダにも通信を入れることになった。
兄であるドズル中将に連絡しておいて、姉であるキシリア少将に連絡しないのも、弟であるガルマとしては不義理になってしまうので仕方がない。
ただ、ドズル中将ですらサイド3を出立した直後のタイミングだったので、キシリア少将がグラナダにいるはずもなく、通信に出たのはマ・クベ中将だった。
今回はガルマが前面に出て、中将とやり取りをしている。
暗殺の可能性みたいな混み入った話をしない以上、突撃機動軍の傘下にあるガルマが相手をするのが自然だろう。
無事であることをキシリア少将に伝達することを頼み、ソロモンを経由してサイド3に向かう旨を伝え、無事に通信は終わった。
ただ、終わる間際、マ・クベ中将が俺に。
「ああ、エルンスト大佐。
ギャンでの活躍は聞いた。よくやってくれたな」
と、嬉しそうに言っていたのは、やはりギャンに何か思うところでもあったからなのだろうか。
そうはいっても、次期主力機がゲルググに決まっている以上は、改めて生産されることもないだろう。
ガルバルディあたりに俺のデータが活かされることを祈るぐらいである。
ともあれ、無事に通信を終えた俺たちは一両日中には基地を発たねばならないため、引き継ぎに走り回る必要がある。
ガルマはそれまで暫定的だった、ガルマと俺が不在時の司令系統を正式なものにすべく動いている。
どのみち、キャリフォルニアベースも今後、撤収に移る。数週間程度の人事だし、そこまでややこしいものにはならないだろう。
俺はというと――。
「では、イフリートをお願いします」
「大佐の愛機、しかとお預かりしました。
存分に働かせてみせましょう」
マッドアングラーに運び込まれるイフリートを背景にして、『闇夜のフェンリル隊』隊長である、ゲラート・シュマイザー少佐と握手をしていた。
死蔵されたり、マッチモニードといった変な連中に使われるぐらいなら、信頼できる部隊に使い潰してもらった方が良いだろうと、フェンリル隊に打診したところ、快く引き受けてくれたのである。
特殊部隊である性質上、白銀塗装は目立ちすぎるので、イフリートは黒灰色へと再塗装されている。
肝心のパイロットであるが、どうやらル・ローア少尉に与えられるらしい。
ゲーム媒体ではグフ・カスタムも乗機にしていた人間だ。イフリートの適性にも合っていると思うので特に不満はない。
というか、レンチェフ少尉とかに与えられなくてよかったと少し思ったりもする。
連邦兵をいたぶって殺すという奴のスタンスはどうしても受け付けない。
人道的な嫌悪感がないとは言わないが、「敵をいたぶっている暇があるなら仕事しろ」と思ってしまうのは、俺がブラック労働に慣れてしまったせいだろうか。
「大佐はもうじき、ザンジバルで宇宙に上がるのでしたな。
ランバ・ラル大尉がガルマ大佐の護衛につくとのことでしたが、奴に会ったらよろしく伝えていただけますでしょうか?」
「分かりました。伝えておきましょう。
ゲラート少佐は、ラル大尉とはお知り合いだったのですか?」
「ええ、この戦争が始まる前、ゲリラ戦時代からの戦友です」
この世界、広いようで人間関係が地味に狭いな。
まあ、それは向こうにとっても同じだったのだろう。
ゲラート少佐が聞いてきた。
「大佐は奴とはどういうご関係で?」
「ラル大尉は、モビルスーツの開発チームでの上官ですよ。
当時少尉だった俺に、色々教えてくれました」
こうして、意外な相手とラル大尉の話題で盛り上がる。
案の定というか、一番盛り上がったのは「さっさとハモンさんと籍を入れればいいのに」って話題であった。
本当にとっとと結婚しろ。
ひとしきり盛り上がった後に、ゲラート少佐と今後の予定を話していたところ、ニッキ・ロベルト少尉やシャルロッテ・ヘープナー少尉といったフェンリル隊の若手に見つかった。
結果として、握手やらサインやらをねだられた挙句、フェンリル隊全員との記念写真まで撮ることになってしまった。
俺との写真がお守りになるかは分からないが、彼らには無事に終戦を迎えてほしいとは思う。
フェンリル隊にはそれなりに多くのMSとマッドアングラーが配備されているのだし、地上に残っても原作よりは懐事情は楽になるといいのだが。
ちなみに、マルコシアス隊は現在、任務でキャリフォルニアベースにはいない。
オデッサの戦いで俺が大規模な撤退戦を仕掛けたせいで、置き去りにされることもなくユーコンで脱出できたらしいのだが、そこで損耗しなかったために色々と便利に使い倒されているようだ。
運命が味方してくれているのなら、今頃はスレイヴ・レイスと合流できているのかもしれない。
フェンリル隊やノイジー・フェアリー隊もそうだが、彼らはキャリフォルニアベースを拠点としているが指揮系統がキシリア直属なので、俺は彼らの任務を把握していないのである。
必要があれば、ガルマの副官として出動を要請するのが限界だ。
それと、イフリートは無事譲渡が終わったが、マドロックはザンジバルに積み込んで、サイド3行きである。
キャリフォルニアベースが撤収する以上、マドロックを地上部隊に譲渡したところで、パーツの供給が難しく、運用がまともにできないのだ。
ツィマッド社製のイフリートと、連邦のワンオフ機をジオンがいじくりまわしたマドロックとでは、事情が違うのである。
地上に置いて連邦に接収されるのも癪なので、サイド3で分解されて解析に回されるそうだ。
陸戦型である以上、これは本当にもうどうしようもないだろう。
また、立つ鳥跡を濁さずというべきか、ジオンの生物環境兵器『アスタロス』はガルマの許可のもとで焼却しておいた。
なので少なくとも、これが原因となって
とはいえ、奴らのことだから引き金の1つがなくなった程度では、結局
完全に他人任せではあるが、その辺りまで手を回そうにも、俺の手が足りないのでどうしようもない。
そもそもドズル中将傘下である俺が、ここまでキシリア少将配下のフォローに奔走していること自体、上出来だと褒められてもいいのではないだろうか?
マ・クベ中将、お願いだから代わってくれませんかねぇ。
そうやって色々と、基地各所をめぐっては手続きやら引き継ぎやらを終えて、2日後。
衛星軌道上に、ランバ・ラル隊を乗せたムサイが到着したとの知らせを受けて、俺とガルマはザンジバルに搭乗した。
ザンジバルにはマドロックと、リックドムが数機搭載されている。
ムサイと合流したら、ムサイ搭載のゲルググとトレードする形になる機体だ。
万が一、ラル隊との合流前に敵襲があった場合、俺がこれに搭乗して出撃することになるだろう。
衛星軌道上のムサイと合流しやすいタイミングで、ザンジバルは無事発進する。
フェンリル隊や基地所属の防衛隊が健在な中、発射妨害に連邦軍がやってくるというような『スパロボ的』なお約束もなかった。
数分して、ザンジバルは無事に衛星軌道上に到達する。
すぐにムサイからの通信が来たようなので、オペレーターに繋がせる。
数秒後、懐かしい顔が通信モニターに表示された。
酒太りしておらず、まだ若々しい容貌のランバ・ラル大尉である。
護衛任務なのだからか、ハモンさんは同行していないようだ。
「ラル大尉、お久しぶりです」
「エルンスト大佐か、久しいな。
中々派手に暴れているようだな、本国でもお前の噂でもちきりだぞ」
どれだけ尾ひれがついているのだろうか、想像したくないな。
今の俺がやっていることの大半は、そろそろアムロ・レイでもできることである。
ララァ・スンやシャリア・ブルといった逸材も芽を出すころだろうし、そろそろ俺1人の戦果を過剰に報道しなくても済むようにはなるだろう。*1
「以前のようにエルンストでいいですよ。
それとおそらくですが、本国に流れてくる情報は戦意高揚のために水増しでもされているのでしょう。
話半分に聞いておいてもらえると助かります」
なぜだか、ガルマが横からもの言いたげな目を向けてきているが、何かあるのだろうか?
ああ、そうか。
ラル大尉とガルマはほぼ初対面だった。
「ラル大尉、こちらがガルマ大佐です」
ガルマを紹介する。
「こんなところまで迎えに来てもらってすまないなラル大尉。
私がガルマ・ザビ大佐だ。
この、自己認識がいまいち足りていない彼の友人をさせてもらっている」
何気に失礼だなガルマ。
シャアが
そんな芸風、真似しなくてもいいんだぞ?
「はっはっは。
そこの小僧は昔からそうですよガルマ様。
あまり気にしない方が良いでしょうな」
ラル大尉も何気に酷い。
割と模範的な軍人をやってきたでしょうが俺は。
「それでは、不肖ながらこのランバ・ラル並びに小隊一同、ガルマ様の護衛に入らせていただきます。
つきましては、運搬してきた新型MSのゲルググをザンジバルに搬入したいのですが、よろしいかな?」
「ああ、問題ない。進めてくれ。
こちらからもムサイに搬入するリックドムと、そのパイロットを移動させよう。
サイド3までよろしく頼む」
と、通信が終わりそうだ。
「あ、ラル大尉。
ひとつだけお伝えしたいことが」
俺はラル大尉に声をかけた。
「ん? 後でではなくて今なのか?」
ラル大尉が怪訝な顔をする。
「ええ、ゲラート少佐からの伝言です。
"会ったらすぐに伝えるように"と」
「ゲラートの奴が?
分かった。なんだ?」
俺は息を吸い込んで、腹から声を出した。
「"いい加減に観念してハモンさんと籍を入れろ。ハモンさんが可哀想だとは思わないのか?"
以上です」
数秒後、ザンジバルとムサイの艦橋が爆笑に包まれた後、ラル大尉の怒声が響いた。
ガルマも笑っているからいいじゃないか。
読んでいただきありがとうございます。
イフリート譲渡とラル大尉との合流です。
アスタロスは厄ネタにしかならないので、ガルマに話したら焼却一択だと思いました。
多分、フェンリル隊とマルコシアス隊は原作よりもマシな状況じゃないかなぁと。
オデッサで計画的な撤退戦やりましたので、ファーストのような『マ・クベ大佐に置いていかれた』とか、ジ・オリジンみたいな『指揮官が殿で討ち死に』とかいう展開がなかったですしね。
ガルマが死んでないのでノイジー・フェアリー隊もマシではないかと。
地球からの撤退も計画的なので、もしかしたら何事もなく宇宙に帰れてるネームド部隊とかもいるかもしれませんね。
外人部隊とかは分からんw
それと、多くの感想ありがとうございます。
量が量なので返信はできませんが、全て楽しく読ませてもらっています。
「ギレン派閥はトップダウンが徹底しているから、眉無しが生きている限り、ハゲは独断ではそんなにやらかさないのではないか」という意見を見て、「なるほど」と唸らされました。
色々な解釈が見れるのがガンダムの面白いところだと思います。
まあ、少なくとも劇中のエルンストは「あのハゲならやりかねない」と思っているということでどうか……w
でも「それはそうとして、キシリア配下はやらかす」でほぼ満場一致なのは笑いましたw