超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ご了承ください。
あと、特に何もない時系列は盛大にかっ飛ばしていきたい。
俺がドズルの邸宅に侵入して直訴してから半年と少し。
士官学校の入試は無事終わった。
いや、無事と言うと少し語弊があるかもしれない。
問題そのものは、むしろ拍子抜けするほど解けた。問題なのは、その問題を解ける俺の方だろう。
学習教材は図書館で閲覧できる教科書類に限られていたが、さすがヒイロスペック。
それだけで入試問題の全問を解ける程度になれるのは、宇宙世紀においてもチートと言ってもいいだろう。
あいつガンダムに乗らず、単独の工作員として動いた方が強かったんじゃないかと思う。ガンダムファイターかよ。
笑い話のように言ってみても、現実問題となるとそうもいかない。
例え過程がどうであろうと、この身体が
むしろ一番の難問はマザーの説得の方だった。
成人もしていない己の『息子』がいつ死ぬかとも分からない軍人になるというのは、正常な倫理観を持つ『親』なら耐えがたいことだ。
それが理解できる分、俺としても説得はかなり心苦しかったが、ここは誤魔化すわけにはいかない。
現状の孤児院の状態と、ここ数年のうちに訪れる危機、もたらされるだろう結果を冷静に、かつ辛抱強く説くという正攻法を粘り強く続けた結果、何とか承諾をもぎ取ることができた。
しかし、母親代わりの人が泣きそうになるのを説得するのは中々精神に来る。
元より聡明な人である。俺が何をしようとしているかは理解していたのだろう。
だが理解しても納得できるかは別ということだ。
その感覚は、前世の倫理観が多少なりとも残る俺にも分かる。
ただ、俺は自分が
この選択こそが、全員が幸福に生き残る道であり、当然、そこには俺も含まれるという説得が功を奏した形だった。
それでも、マザーの表情が曇ったのには気付いていた。
「全員が幸福に生き残るため」と言い切った俺を、信じたいのと、信じてはいけない気がするのと、その両方で揺れていたのだろう。
それでも最後に頷いてくれたのは、俺の言葉が届いたからだと信じたい。
一つ驚いたことに、ドズル・ザビからの推薦だけでなく、ギレン・ザビ*1の推薦までも何故かついてきた。
ギレンが俺の存在を把握するなどルートは一つしかない。
ドズル経由で情報が上がり、身辺調査の結果、俺を使える駒、兵士候補として判断したのだろう。
ただし条件があり、書類上の話だが、士官学校卒業までは実年齢に3歳足した形で過ごすようにということだった。
確かに8歳ですら嘘くさいのに、5歳で士官学校に入学とか、事実は小説より奇なりとはいっても程があると思われる。
プロパガンダとして利用するにしても盛りすぎだ。
いや嘘ではないのだが……。
要するに、実年齢を開示するにしても、連中が笑えないぐらいの実績を見せつけてからにしろ、というメッセージだと判断した。
実に政治屋らしい。
そして、一応の懸念事項だった、キシリア・ザビからの横槍もなかった。
これはおそらく、一年戦争も開戦していない現状では、キシリアもニュータイプ研究に着手しておらず、俺に自分で言うのもなんだが「天才児」以外の価値を見出していないからだろう。
戦争が進めばその見方は変わっていくだろうが、その時点で俺はドズル旗下の宇宙攻撃軍所属になっている予定だ。
強化処置のための人体実験などごめん被る。
そして合格発表日。
合否の有無を知らせる手紙の配達を孤児院で待っていた俺に手紙を持ってきたのは、なんとドズル・ザビ本人であった。
孤児院の玄関先が急に騒がしくなったと思い外に出ると、護衛らしき男たちが何人も立っていて、緊張感のある空気を醸し出している。
その中心に、あの巨体がいた。
ドズル・ザビ。
軍服があまりにも絵になる男だったが、いる場所が孤児院兼教会の前なので違和感が凄い。
「やりおったなエルンストよ。貴様が首席合格だ。末恐ろしいガキだ!」
がはは、と豪快に笑いながら入学書類等の入った封筒を押し付けてくる。
予想以上に重い気がしたのは、実際の重さではなく、現実という重みだろうか。
ドズルは随伴する人員に命じて、いくつかの紙箱を孤児院へと運ばせだした。
「あれは?」
「貴様と、貴様の家への餞別だ」
兄弟に勉強させてやるのだろう?とニカッと笑う。
そうなると、中身は幼少教育に使える教科書の類だろうか。
こういう心配りができるから兵士たちにも愛されるんだろうなこの人は。
俺は背筋を伸ばして敬礼し、礼を言う。
「感謝します。大佐殿」
「まだ入学もしていないのだ。そういう畏まった口調は無理にしなくて構わん」
「ありがとうございます」
俺に遅れて礼を言ったマザーに先導されて、孤児院の応接室へ移動する。
ドズルが席に着き、促されて俺も席に着く。
マザーが紅茶を入れ、一礼して退席した後――
部屋に残ったのは俺とドズルだけになった。
紅茶に口をつけ、ドズルは切り出した。
「さて、入学に当たっていくつか注意事項がある」
「はい」
「本来ならば新入生の宣誓は主席がやるべきだが、すまんがそれはさせられん」
「分かっています。子供が首席宣誓など、連邦に侮られるからですね?」
俺が宣誓などしたら確実に嘲ってくるだろう。
侮蔑の表情とともに「ここはいつからお遊戯会の会場になったんだ?」とか言ってくる姿がありありと想像できる。
「そうだ。宣誓は次席の、俺の弟ガルマ・ザビが行う。何か問題はあるか?」
「いえ、正しい判断だと思います」
「そう言ってくれると助かる。礼と言っては何だが――」
ドズルが少し姿勢を正した。
「この孤児院の運営については心配はいらん。俺と兄のギレンから支援してやる」
ありがたい話だった。
ザビ家の二人からの支援があるということは、少なくとも支援が続く限りは、家族がひもじい思いをすることはない。
それどころか、俺の頑張り次第によっては、ちゃんとした教育だって受けられるかもしれない。
俺も支援はするつもりであるが、本格的に支援ができるのは士官学校を卒業後――つまり最低でも3年後からとなってしまう。
ザビ家の意図が、俺という存在への
「本当にありがとうございます」
心からの感謝とともに頭を下げた。
「構わん。俺も兄もそれだけ貴様の将来性を買っている。
その代わり、士官学校から出る給与については孤児院への仕送りは禁じる。
分かったな」
禁じると言いつつ実質的な配慮である。
士官学校は俺の
少ない給与を無理に回さず、自己投資に使えということだ。
「それと、先ほども言ったが貴様の同期として俺の弟であるガルマ・ザビも入学する。
俺と違って体力はないが、心優しい奴だ。よくしてやってくれ」
ん?
10歳以上年上に対して、
「頼ると良い、とかではなく?」
ドズルは豪快に笑った。
「貴様が頼るようなタマか?
むしろガルマを引っ張ってやれ。入学式の前に一度面通しも済ませる」
これはあれだな。
入学前から完全に幹部候補生としての囲い込みに来ているな。
成績が成績なので当然かもしれないが。
俺に求められているのは、ガルマの側近の一人とか、いざという時のボディガードとかそういう類の役割だろう。
ガルマ生存という俺の目的を考えると好都合である。
「分かりました。
よき学友となれるよう、頑張ります」
「応。それでいい」
その後、ドズルは事務的な通達をいくつか話した後、「数日中にガルマに会わせるから待っていろ」という言葉を残して孤児院を後にした。
見送った後、孤児院の正門前で、俺はしばらく動かなかった。
少し思考に耽る。
(あの
ガルマが入学してくるということは、同期としてあのシャア・アズナブルも入学してくるということだ。
図書館で色々調べて分かったことだが、この世界は現状、ジ・オリジンの歴史に非常に近い道筋を辿っている。
少なくとも俺はそう考えている。
理由としては、RTX-65ガンタンクが既に実戦配備されていたからだ。
ジオン・ダイクンが逝去した時の市民への弾圧などで、容赦なく出動していたこともあって、新聞のアーカイブにも載っているから容易に確認が取れた。
暫定的にこの世界線をジ・オリジンであると仮定した場合、シャア・アズナブル(真)が謀殺され、代わりに
とは言いつつ、俺としては現状、シャア相手に何か特別な対応をするつもりはない。
奴が本格的にやらかすのは、ジ・オリジンの時空だと『暁の蜂起』における同級生の謀殺、その次に一年戦争におけるガルマ・ザビの謀殺だ。
後者はともかく、前者は謀殺されるリノ・フェルナンデスには可哀想だが、あいつが問題児過ぎて、それは殺されるわという感想しかない。
士官学校生の時点でシャアにキャスバルとして接するとか、シャアとしては間接的に自分を殺しに来ているとしか映らないだろう。
だから俺は『暁の蜂起』において、シャアを止めるつもりはない。
ガルマの謀殺は絶対に阻止させてもらうつもりだが。
そうすると自分の今できることは何かを考えると――
「予習でもするか」
俺はシャアに直接的なことは何もするつもりはないが、同級生としては別である。
精々、シャアの首位独走の壁になってやる。
教会礼拝堂の椅子に座ると同時に、書類と共にドズルから渡されたタブレットのスイッチを入れた。
教科書は全てこの中に入っているらしい。
さすが宇宙世紀。
画面に並ぶ教材一覧を眺めながら、俺は小さく息を吐いた。
士官学校生に給与が出るかどうかは独自設定です。
シャアについて辛辣な内心が目立ちますが、ネットでは散々ロリコンだのマザコンだの言われているからこんなもんだと思います。