超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
連邦の部隊をさっくりと全滅させてからは、特に連邦もちょっかいをかけてくることはなく、ザンジバルは予定通りにソロモンへと入港していた。
ザンジバルの推進力なら直でサイド3に行くこともできたのだが、ここでガルマの嫁さん(予定)を拾っていかないと、デギン公王にイセリナ嬢が対面できるのが、いつになるか分からないのである。
下手したら対面する前に、デギン公がソーラレイで蒸発するとかいう笑えない事態も有り得るから、俺としても反対する理由がない。
そういった事情があったので――。
「ああ、ガルマ様!
もう二度と離れませんわ!」
「私もだイセリナ。
不安にさせてしまって本当にすまない!」
ソロモンのドック内で、映画みたいなラブストーリーが繰り広げられていた。
抱き合ってないで、とっととザンジバルに乗り込んでくれませんかねぇ。
ドックに詰めている兵たちの視線が温かいのが、ちょっとむず痒い。
まあ、それはガルマとイセリナの恋愛ドラマを見ているから……
もう1つの原因は、俺の頭の上にいる。
「うーー、あーー!」
「はいはーい、分かりましたっと!」
俺の頭の上で、俺の髪を掴みながらもっともっととせがんでくる0歳児……もうじき1歳児か。
その要求に応えて、俺は
そう、俺は現在、ミネバ・ザビ殿下の子守りの真っ最中である。
母親であるゼナ様がガルマとイセリナの横で見守っている間、ミネバの相手は誰がするのかというと――俺しかいなかった。
というか、ゼナ様付きの侍女が相手しようとすると盛大にぐずりだした。
途方に暮れている侍女の人が気の毒だったので、慣れている俺が世話役を買って出たという次第である。
というか、サイド3のドズル邸からゼナ様に仕えていた数名の侍女は、俺とも面識があるのだが、最初から俺に押し付けようとしていたような気がする。
まあ、最近はミネバとは通信機越しでしか顔を合わせてはいなかったので、『なんか最近遊んでくれない』とフラストレーションがたまっていたのかもしれない。
俺が相手しはじめると途端に泣き止んだし。
無重力空間なので、肩車をしてもミネバが落ちるということはない。
彼女が俺の後頭部から離れないように、注意して手で押さえながら、動きだけは派手に見える、だがスピードは出さないといった人間遊覧飛行を続けている。
現在、ラル大尉は、ザンジバルとムサイで構成された即席艦隊の司令官として、ムサイをソロモンに係留する手続きに行っている。
リックドムもソロモンに置いていく予定である。
ソロモンまで到達した以上、ザンジバル1隻でも、護衛としては過分に過ぎるという判断だ。
まあ『白銀』と『青い巨星』がゲルググJで護衛するんだから、
ちなみに俺はそのまま一度、サイド3にガルマと一緒に戻ることになっている。ガルマが帰還するまでが護衛だから、ある意味当然か。
はしゃぎ疲れたミネバが眠りについたのを確認し、侍女にゆっくりと手渡す。
満足そうな寝顔をしている気がするので、飛び回ったかいがあったとはいえるだろう。
そうして、ソロモンにて一仕事を終えた俺は、手続きの終わったラル大尉と合流し、一行にイセリナを加えてソロモンを後にした。
ちなみにドズル中将はサイド3でガルマを待っている。
というか、キシリア少将、ギレン総帥も含めて親兄弟全員で待っているらしい。
ソロモンを出立し、ザンジバルを飛ばすこと1日。*1
俺たちはほぼ1年ぶりにサイド3へと帰還することになった。
スペースボートから降り立てば……大量のマスコミと群衆。
『帰還おめでとう』やら『ガルマ様の無事を祝って』やらの横断幕がやたら目につく。
なんだよ『オデッサの軍神に感謝』って横断幕は。
誰だよオデッサの軍神……いや、何となく分かるけど、分かりたくはない。
あの眉無し、本当に自重しねぇなぁ。
というか、これだけの観衆の中、ガルマとイセリナがそろって車に乗って公王庁に行くのか。
もうこれ既成事実で良くないか?
と、そうだった。
念のために、ガルマの乗る車に爆発物が仕掛けられていないかチェックしておかないと。
ラル大尉と示し合わせて、用意された車をすべてチェックする。
無作法に映るかもしれないが、過去にサスロ・ザビの一件があった以上は用心するに越したことはない。
あれの犯人は
とはいえ、ここまで大々的に報道されている以上、ガルマ暗殺の可能性はもう高くない。
奇跡の生還劇を演出した以上、ここでガルマを暗殺しても、これ以上に戦意が上がることは期待できないからだ。
公王に面会後、公王が泣きついてガルマが退役すれば、さらに暗殺する意味合いはなくなるだろう。
ほとんど戦勝パレードのような空気の中、俺とラル大尉は2台目の車に乗ってガルマの後をついていく。
信じられるか?
これ1年戦争12月のジオン本土の空気なんだぞ。
本来の歴史に比べてジオンに若干余裕があるとはいえ、いかにガルマが人気なのか窺える。
熱狂と歓声の中をひたすら進み、公王庁へと到着する。
イセリナを伴って公王庁に入っていくガルマに、俺は声をかけた。
「ガルマ、
ガルマはこっちを見ると、笑顔でサムズアップをして公王庁の中に入っていった。
まあ、あの様子ならばイセリナとの結婚の許可は取り付けられるだろう。
事前の根回しも終えて、ドズル中将とキシリア少将が既に味方である。
ドズル中将はギレン総帥も説得するとか以前に言っていたので、デギン公王も認めざるを得ないだろう。
さてと、これにて俺の長期任務は終了といったところである。
この後呼び出されて新しい任務が言い渡されるだろうが、それまでに1回、
「さてと、これにて任務完了と」
「おい、エルンスト。どこへ行く?」
踵を返した俺を、ラル大尉が呼び止めた。
「いえ、地上に赴任したガルマの護衛任務も無事完遂しましたし、孤児院の方に顔を出そうかと」
「お前、まさか聞いていないのか?」
ん?
何の話だろうか?
「今後のことについては特に聞いてませんが、後日に呼び出されて新しい任務を下されるものかと」
「誰も伝達しておらんかったのか……。
はぁ」
ラル大尉が頭を押さえながらため息をついた。
何かこの後に予定でもあるのだろうか?
「この後、貴様の勲章授与式がある。
貴様が地球に行っていたおかげで、授与する予定のものが溜まっているそうだ。
大人しく待っていろ」
「へ?」
思わず呆然とする。
いや、たしかにオデッサの撤退戦の時のあれこれで、勲章が授与されるみたいな話は聞いていましたよ。
でも今日授与されるとか一言も聞いていないのですが?
「ガルマ様の一件で慌ただしかったから、みんながお前に伝えるのを忘れていたようだな。
俺もまさか、誰もお前に伝えていないとは思わなかった」
地上での事務作業、実質的に半分以上を俺が取り仕切っていたから、みんながみんな「誰かがエルンスト大佐には伝えてるだろう」ってなったパターンかよ。
頭が痛くなるような事務的ミスだが、ニューヤーク撤退からの一連の騒動を振り返ると、必要以上に追及するのもはばかられる。
ガルマを無事に送り届けることにのみ集中していた俺の落ち度でもある。
だがなぁ……。
「ラル大尉、公王庁に入る予定があると知っていたら、クリーニングした軍服に着替えてきたのですが……。
今の服装でも不敬罪とかになりませんよね?」
肩の辺りとか、ミネバが掴んでいたから割とヨレヨレになっている気がする。
「なぁに、多少崩れていた方が、『激戦からガルマ様を守り抜いてきた』感が出るわ」
それってTPO的にはギリギリアウトってことじゃないですかーー!
一応、ドズル閣下が気を利かせてくれて、新しい軍服を用意してくれていたので、式典で恥はかかずに済んだ。
デギン公王、ギレン総帥、ドズル中将、キシリア少将、それにガルマとイセリナというサイド3のザビ家勢揃いの中で式典が執り行われた。
そんな中で授与されるのは俺1人。
なんだこの圧迫面接?
あ、式典に正式に参加できるということは、イセリナ嬢はデギン公王のお墨付きをもらったっぽいな。
それはそれとして、式典用の『ダイクンの間』でマスコミが大量に群がる中、嬉々として俺の胸に勲章を付けていくギレン総帥は、やはりいい性格をしていると思う。
嬉しそうに「君こそ真のジオン国民を体現する存在だ」とか、絶好調っすね総帥。
とはいえ、同時に10個もの勲章が授与されるのはさすがに訳が分からん。
少し重いというか、バランスが悪くて服の据わりが悪い。
とりあえず、最高位の勲章以外は孤児院に置いておくことになりそうだ。
マザーに預かってもらう形になりそうだが、弟や妹たちのおもちゃにならないことを祈るのみである。
副賞として孤児院への支援が更に手厚くなるらしいので、それはそれでよしとする。
というか、既に3食と教育の支援は受けているのに、これ以上手厚くなるというのはどうなるのだろうか?
さらに3時のおやつでもつくのだろうか。
孤児院としてはあり得ない悩みではあるが、そろそろ、兄弟姉妹がぽっちゃりしない程度には、栄養には気を付けてもらわないといけないかもしれない。
余裕がない時代の、食えるだけ食うって習性が抜けていないと、あっという間に孤児院出身とは思えない体形になってしまうだろう。
もしそうなったら、俺がブートキャンプさせなくてはならなくなってしまう。*2
ともあれ、無事に勲章の授与式も終了した。
勲章の授与そのものよりも、その後の総帥の演説の方が長かった気もするが、それはまあジオンの平常運転だろう。
やたらレビルを煽りまくっていた気がするんですが、そのヘイトはどっちかというと俺に向かってきそうなので勘弁して欲しい。
ちなみに、式典の後でドズル中将に聞いたところ、ガルマはデギン公王に泣きつかれて軍を退役することを了承し、代わりにイセリナとの結婚をもぎ取ったとのことだった。
ある程度予想はしていたものの、いきなり婚約をすっ飛ばして結婚となったか。
どうやら、そろそろ連邦がソロモンかグラナダか、どちらかの攻略に本腰を入れてくるだろうから、この機を逃せば結婚式が行えるタイミングが読めないからだそうだ。
ガルマの今後としては、ダルシア・バハロ首相の秘書として政務を学び、そちらの道へ進むとのことである。
デギン公王付きでないのは、実際にデギン公王はそうしようとしたらしいのだが、「今のデギン公王だと確実に甘やかすから、ガルマのためにならない」と、ギレン総帥とキシリア少将に反対されたらしい。
正論すぎてまったく反論できない。
まあ、いずれはガルマ・ザビ首相を目指すのだろう。
そちらも適任すぎて、何も言うことがないな……。
サイド3勤務なので、新婚にも優しい職場環境だろう。
結婚式は数日後になるとのことで、俺はその日までドズル閣下の厚意で、ドズル邸に滞在することになった。
孤児院へは一度戻ったものの、大騒ぎになるのでそんなに長く滞在することができなかったのが残念である。
みんなに地球の土産話ぐらいしかできなかった。
俺の実家なのに、今後は帰省する際に変装とかが必須になってしまうのだろうか……。
ちなみに、俺は友人として式に参列することが決定らしい。
まあ、士官学校の同期かつ、副官と護衛をやっていたのでそうなるか。
また、シャアも出席予定のため、サイド3へ呼び戻されているそうだ。
原作と異なり、この世界ではいい友人関係が続いているから、これも当然の結果だろう。
ホワイトベースと遊んでいるのかと思っていたのだが、割とそれ以外の連邦の部隊も蹴散らしていたらしく、サイド3に戻ったら大佐に昇進する予定らしい。
ゼナ様とミネバもサイド3に戻って、結婚式に出席するとのことだ。
結婚式での俺の仕事が主に子守りになりそうであるが、それは別に構わない。
それと、2人は結婚式が終わっても、そのままドズル邸にしばらく滞在するとのことだ。
すぐに戦場になるかもしれないソロモンに戻らせるよりはいいと思う。
意外なところでは、ラル大尉とハモンさんも招待されているようで、これは護衛されたガルマ本人とドズル中将の意向だろう。
ドズル中将としては、このままラル大尉にガルマの護衛を続けてもらいたいらしい。
ラル大尉も先日、サラミス級を見逃したガルマを好ましく思っているらしく、その申し出を受けるつもりのようだ。
このまま『ザビ家の戦争』に参戦するよりは、ラル大尉にとってもいい条件だったのだと思う。
それにしても、一回り以上年下の結婚式に出席って、これドズル中将からラル大尉への「早く結婚しろ」って圧力じゃないよな?
読んでいただきありがとうございます。
イセリナ拾って、サイド3戻って、勲章貰って、ガルマ結婚。
諸々の雑事を一気に片づけた感じ。
それはそうとして、主人公を一番振り回しているのひょっとしてあの眉無しなのでは?
多分ミネバと遊んでいるのが一番の癒し。
そろそろソロモン戦の準備かな。
コンスコン戦がキャンセルされたのもありますけど、原作でもサイド6でのテムさんとの再会の後、いきなりソロモン戦まで20日ぐらい飛ぶんですよねぇ。