超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
模擬戦により、シャアが無事にニュータイプへと覚醒してから数日後。
連邦が宇宙に戦力を上げ続けている状況の中、ソロモン駐留軍とグラナダ駐留軍は一刻も早く担当区域へと戻る必要があった。
だが、総司令官であるドズル中将には、時間の許す限り、家族と一緒に過ごしてほしかったので、俺が先行して現場での指揮を暫定的に取ることを申し出たところ、許可された。
そうして、俺はドズル中将よりも一足先に、ムサイに乗ってソロモンへと移動している途中だった。
ムサイには修理された俺のゲルググJも搭載されているので、現状ではサイド3でやり残したことはない。
ちなみにシャアは、ララァと共に月のグラナダに向かっている。
これからララァをテストパイロットとした、エルメスの試験があるのだろう。
どうやらフラナガン博士は、俺にもエルメスに搭乗して欲しかったようであるが、この状況で俺にテストパイロットをしているような暇はない。
というか、連邦がグラナダとソロモン、どちらを攻めるのかはまだハッキリしていないが、ソロモンを攻めるのならば俺はクソ忙しくなるし、グラナダを攻めるのであれば援軍の指揮は俺になるので、どちらにせよ忙しいことに変わりはない。
まあ、そもそもフラナガン機関がいまいち信用できないので、忙しくなくてもやりたくはないのではあるが。
サイド3からソロモンに至る宙域は、完全にジオンの勢力圏内であるため、連邦の妨害も入らない。
ムサイは順調に航行し、ソロモンまであと少し――という宙域で通信が入った。
艦長から、俺を名指しした通信であるとのことで、ムサイのブリッジに上がってみる。
通信モニターには、何かにつけて世話になっている気がするマ・クベ中将の顔が映っていた。
「これはマ・クベ中将」
通信越しに敬礼をする。
多分、今の時点でゲルググJに乗れているのは、この人のおかげである。
「ああ、エルンスト大佐。模擬戦のデータは見せてもらったよ。
実に壮健なようで何よりだ」
そう言って、マ・クベは愉快そうに笑った。
これは、ひょっとしたら、俺がシャアを模擬戦でボロボロにしていたからだろうか。
何やらこの人、原作もそうではあるが、シャアとは微妙に馬が合わないらしい。
というか、シャアと馬が合う人間自体が相当に希少と言った方が良いのか。
もしかすると、原作においてシャアと本質的にうまくやれる人間って、ララァとガルマとブレックス准将以外にいないのではないだろうか?
本来ならそこにラル大尉も追加すべきかもしれないが、ラル大尉は親しくなって正体がバレると、『キャスバル様』として接するだろうからなぁ。
そう考えてみると、ブレックス准将って凄いな……。
「と、雑談をしている暇はなかったな。
大佐、君に情報を贈ろう。色々世話になっているささやかな礼というものだ。
つい先日、連邦に潜り込ませているスパイから得たものだよ」
エルラン中将――スパイとバレずにまだ潜伏中なのか。
連邦サイドからしてみると迷惑でしかないだろうが、こちらからしてみたら地球から撤退した後だからこそ、そのありがたみは結構大きいのかもしれない。
いざというときには、連邦との交渉ルートにもなるのだろう。
「情報……ですか?」
「そうだ。君からドズル中将にお伝えするといい。
まず最初に、連邦の狙いは十中八九、ソロモンだ」
まあ、それはそうか。
月面にあるグラナダを先んじて落としたところで、できることが限られる。
あそこはジオンの軍事要衝であると同時に、大量の民間人がいる民間都市だ。
ソロモンより先に連邦が落としたところで、ジオンと同じような運用ができない以上、持て余すだけだろう。
8割ぐらいの確率で、連邦の狙いがソロモンであると俺は予想していたが、残り2割の可能性を考えなくてすむようになったのは正直助かる。
「あまり驚かんな。予想はしていたということか。
そしてその連邦だが、どうやら要塞攻略用の新兵器を用意しているらしい」
「新兵器……ですか?」
このタイミングでの新兵器か。
大体想像はつくというか、
「名前と原理だけは分かっている。
名称はソーラ・システム。
原理としては数百万枚のミラーを展開し、制御して太陽光を収束させ、標的を焼き尽くすといったもののようだ」
やはりソーラ・システムか。
そりゃあ、
実態は中々にえぐい兵器であるとは思うんだが。
ただ、予想していたものであるとはいえ、ソーラ・システムの存在を、情報提供という
俺自身、それなりに軍内部でも信用を稼げているという自負はある。
だから、ソーラ・システムへの警戒をそのまま提言したとしても、根拠のない与太話であると切って棄てられる可能性は少ないだろう。
だが、俺の原作知識からの情報は根拠がない。
どれだけ本気に受け取ってもらえるかは未知数である。
所属が違うとはいえ、同じジオン軍からの正式な情報としてドズル中将に上げられるのならば、それに越したことはない。
「その原理ですと、ミラーの制御には膨大な処理能力が求められますね」
「ああ、旗艦か、それに準ずる艦が制御にあたるだろう」
だとすると、やはり場所はティアンム中将と同じ場所に展開されるのだろうか。
いや、そう判断するのは早計だろう。
安易な決めつけは視野を狭める。
「情報ありがとうございます、マ・クベ中将。
戦闘が開始された際には、展開されたミラーの捜索に留意します」
「そうするといい。
それと、突撃機動軍からもパイロット数十名と、ゲルググとリックドムの混成だが、モビルスーツを合計で100機ほど援軍に向かわせている。
しっかりやることだ」
原作よりもジオンに余裕があるとはいえ、MS100機とは大盤振る舞いだなキシリア少将。
原作でドズル中将が「ドムの10機も送れんのか」とか不満を漏らしていたのとはえらい違いである。
突撃機動軍に余裕があるのも事実だろうが、先日の模擬戦の
「ありがとうございます」
そうしてマ・クベ中将との通信は終わった。
ハッキリ言って、現状のジオンには余裕がある。
オデッサの敗戦を理想的な形で処理したジオンは、兵員的にも資源的にも余裕があるし、何よりも『大きな負け戦』をいまだ経験していないために、士気も相当に高い。
ハッキリ言って、一年戦争におけるジオンの状態としては、理想的な状態と言ってもいいだろう。*1
だが、ここまで理想的な状態となっても、俺は連邦に勝てるとは正直思っていない。
原作における1年戦争において、「連邦もジオンも限界だった」とはよく言われている。
しかし、それに俺の今生でのジオンや連邦の内情、実際に戦って肌で感じた感覚とを照らし合わせると、『限界』の内訳が少し違っていたのではないかと解釈している。
まず、原作におけるジオンは、
学徒動員に、ザビ家内の不和、国内ではザビ家打倒に暗躍する連中、要所要所でオリチャーを発動してバズーカをぶっ放す赤い奴、etc。
それこそ、国体を維持できるか否か、ぐらいにまで追い詰められていた文字通りの限界だ。
それに対して連邦の限界は、戦後の復興まで視野に入れた上での限界、だった。
後のことまで考える余裕がある。
なりふり構っていられない、という状態ではないので、まだ余裕がある状況だったと俺には思える。
この戦争が始まって以降、俺という異分子の介入によって、ジオンの消耗は抑えられ、逆に連邦は相当な出血を強いられてきた。
それでも、『なりふり構わなくなった連邦』に勝てるとは、俺は微塵も思っていない。
たった3年で、宇宙艦隊をほぼ再建できるような『戦後復興に回せる余力』を、連邦が全て『現在』に注ぎ込んできたらどうなるのか、俺には見当もつかない。
ジムが何千機――下手をすれば何万機、編隊を組んでこちらに向かってこられたら、何をどうすればいいか分からないだろう。
とはいえ、それは連邦が完全になりふり構わなくなった場合である。
現実には「0か100か」といった極端な話など、まずはない。
もし仮に、連邦が最終的に振り絞った全力を出す時が来るとしても、その瞬間までは徐々に徐々にと、ある程度小出しにしてくるだろう。
最悪すぎる想定ばかりしていると、自身の足を絡めとられて動けなくなってしまう。
だが、楽観的過ぎる見方も自身の首を絞める。
つまり、何が言いたいのかというと、ソロモンの戦力が原作よりも充実している以上、それに対抗して連邦の差し向けてくる戦力も、原作の比ではないことを覚悟しておかねばならない、ということだ。
こちらの潤沢になった戦力を計算に入れた上で、それでもソロモンを通常兵力だけでも落とし切れると、連邦の上層部が判断する程度の戦力はかき集めてくるだろう。
マ・クベ中将からの情報をもらった俺は、それを報告書にまとめてからサイド3のドズル中将へと送信した。
ドズル中将は俺から数日遅れてソロモン入りする予定であり、今頃はガルマ夫妻とドズル一家、それにデギン公王を加えての家族団らん中といったところだろう。
俺の脳内イメージから、ナチュラルにキシリアとギレンが省かれているのは、独り者だから仕方あるまい。
ソロモンに到着した俺は、ドズル中将の代理として、防衛線の構築の指揮を執ることになった。
指揮とはいえ、やることは送られてくるモビルスーツの受け入れと、配置の指示が主である。
熟練兵にはゲルググ、新兵には推進剤の多いリックドムと割り当てていく。
たまにザクに乗りたがるベテランがいるが、いい加減にしろと無理矢理ゲルググを割り当てる。
ビグロも数機あるが、これは元のパイロットのまま、配置場所を割り振るだけでいいだろう。
そのパイロットの一覧に、ケリィ・レズナー大尉という名前を見かけて「いたのか」と若干思ったのはここだけの話だ。
まあ、特に意味はないがアナベル・ガトー大尉の近くに配置しておこう。
ソーラ・システムの存在をこちらが掴んでいる以上、戦闘の流れは違ったものになってくるだろう。
『一箇所に集中配備して、まとめて蒸発した』なんてことになると、目も当てられない。
敵の攻めてくる方向も原作通りとは限らないので、やれることは基本的にオーソドックスなものになってくる。
そしてある程度物資と人員をさばき終わった俺は、資料の片隅に記載されている、非常識なまでデカいサイズの補給コンテナに目を留めた。
あの眉無し、やっぱりこれ送りつけてくるのかよ。
「これがビグ・ザムかぁ……」
試作段階の未完成モビルアーマーにして、その状態でも非常識なほどの、火力と防御力に全振りしたバケモノマシンだ。
膨大な推力スペックを誇っているが、機体重量も膨大である。
最高速度は凄まじい反面、細かい戦闘機動は不可能だろう。
ものすごいスピードで直進できるのだが、弧を描くようにしか曲がることができない。
なおかつ、冷却系に致命的な問題を抱えており、最大出力で20分しか稼働できず、それ以上稼働させるとオーバーヒートを起こす。
……ピーキーすぎて使い所が本当に難しいなこいつ。
「ビグ・ザムが量産の暁には」って、そりゃこんなものを量産できるほどジオンに余裕があるのなら、ビグ・ザムが無くても勝てる戦いでしょうよ。
「一応組み立てておいてくれ。
あと、コックピット周りの改修も頼む」
とりあえず、ドズル中将が乗れないようにはしておこう。
色々と使い所が難しいが、少なくとも、総司令官が特攻する用途の機体ではないのである。
読んでいただきありがとうございます。
ストーリー的には全然進んでいない、申し訳ない。
ソーラ・システムの情報を掴んだという話と
でもそれはそれとして、連邦に本当に全力を出させると、何やってもすり潰されるぞという話。
とりあえず、私の認識はこんな感じです。
まあ、復興用の余力まで含めて、戦力強化に全パワーオールインなんて所業、議員連中が早々Goサイン出しませんので、地球全土を寒冷化ぐらいさせなきゃ平気平気。