超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
収束された太陽光にソロモンが焼かれていく。
「被害状況を知らせろ!」
閃光が収まると、俺はオペレーターへと叫んだ。
「第8ゲート消失!
第80から第91メガ粒子砲座、応答ありません!」
ソロモンの固定砲台の1割強が消し飛んだということか。
「左翼部隊の被害は?」
「艦艇2隻、モビルスーツ10機ほどが退避間に合いませんでした!
現在要塞正面にて乱戦中の模様です」
十分に警戒していたうえの、たった1発でこの被害か。
本当に恐ろしい兵器である。
ドズル中将も難しい顔をしている。
ソーラ・システムの存在が既知である以上、原作で中将が取った、ソロモン周辺での水際防御は完全に愚策になってしまう。
取れる選択肢が極端に少ないのであろう。
俺はオペレーターへと尋ねる。
「ソーラ・システムの再照射までの予想時間は?」
オペレーターが算出する。
「……およそ15分程度と推定されます」
太陽光反射という原理を考えると結構長い。
だが、数百万枚のミラーの焦点計算がその時間で済むと考えると、怖いほど短いな。
15分は短すぎる。撃たれる側としてはたまったものじゃない。
中央部は乱戦になっているため、先ほどまで左翼に展開していた戦力をソーラ・システムの破壊に向かわせることは不可能だ。
向かおうとしたところで背中を狙い撃ちにされるだろう。
ソロモンから艦隊を出したとしても、ソーラ・システムの射線を迂回する形を取れば、到底間に合わない。
間に合わせようと一直線上に進んだ場合は、敵が焦点計算を途中で切り上げて、艦隊を薙ぎ払う危険性があるため、危険すぎる。
ドズル中将がしびれを切らしたように叫んだ。
「右翼に展開していた艦隊を集結させろ。ソーラ・システムの破壊に向かわせる」
だが、俺はそれを制止した。
「待ってください。
敵の第2射には間に合いません。的になります」
鶴翼の右翼として展開した部隊が、左翼方向にあるソーラ・システムに到達するためには3つのルートがある。
一つは敵旗艦本隊とソロモン正面の乱戦部の間を抜けるルート。これは左右から集中砲火を浴びるので論外だ。
もう一つはソロモン正面の混戦部を突き抜けるルート。
最後はソロモンの至近空域を通って、大回りする形でソーラ・システムへ向かうルート。
どちらにせよ時間がかかりすぎる。
「そんなことは分かっておる!
だがやるしかないだろう!?」
ドズル中将が苛立っている。
中将からしてみれば、一年戦争が始まって以来、初めての敗色濃厚な戦いだから仕方ない。
だからこそ、オデッサ、ニューヤークと負け戦を経験してきた俺が補佐すべきだ。
「閣下、意見具申よろしいでしょうか?」
「……言ってみろ」
「業腹ながら、主力部隊すら囮にした敵が一枚上手でした。
ソーラ・システムの2射目の阻止が困難な現状では、ソロモンの防空能力を前提に組み立てた我が軍の勝算は低いものとなります。
ならば、我が軍としてはソロモンにおける戦術的な勝利よりも、友軍の出血を抑えつつ、敵軍に出血を強いることへと目的を転換すべきです」
俺の意図を察したドズル中将の声色が変わる。
「エルンスト、貴様……。
敵を消耗させつつ、ソロモンを放棄しろと言うのか?」
俺は頷いた。
「指揮能力を持つ敵艦船の漸減、並びにソーラ・システムの破壊と同時に、ソロモンの戦力を温存したまま撤退します。
ソーラ・システムの位置を隠し通された時点で、我々の勝ちはありません。
ですが、ここの戦力を温存しア・バオア・クーにて態勢を立て直せば、我々に勝算はあります」
一応、ソロモンの戦力がほぼ全滅となることを覚悟すれば、敵戦力もほぼ壊滅までは持って行けるだろう。
ただ、連邦とジオンの国力が30対1である以上、ソロモンの戦力を生贄に3倍の戦力を消滅させたとしても、差し引きで言えばこちらの負けである。
ソーラ・システムの第2射を確実に阻止できるのであれば、他に手の打ちようもあるのだが、どう考えても間に合わない以上、既に損切りを考える段階になっているだろう。
ただし、少なくとも3射目だけは絶対に阻止する必要がある。
知識として知っているソーラ・システムは大体が使い捨てであるが、原作TV版において、衛星ミサイルでダメージを受けつつも2射目が可能であったことから、現状で無傷であるソーラ・システムは3射目を発射できるという前提で動く必要があるだろう。
なお、恐ろしい話であるが、劇場版では第1射だけでソロモンが放棄されている。
ドズル中将は呻いた。
「だが、それではジオンの栄光が……」
理性では現状を認識しつつも、基地司令としては相当に抵抗があるのだろう。
ならば少々、卑怯な言い方をさせてもらうしかない。
「無為に死なせた将兵の屍の上に築かれた栄光に価値はあるのですか?
あなたはその栄光をガルマ様に誇れるのですか?
……ガルマ様に、そのようなジオンを押し付けるのですか?」
「ぐ、ぬぅ……」
ドズル中将は力なく首を振った。
ガルマが生きている以上、「ガルマに残すため」というお題目は、ドズル中将にとっては特効となるかと踏んでいたが、予想通りだ。
あとは、具体的な撤退の手順の問題になる。
「連邦への攪乱と戦力漸減は私が受け持ちますので、ドズル閣下は撤退部隊の指揮をお願いいたします」
うなだれていたドズルが、いきなり立ち上がった。
「ちょっと待て、それはならん。ならんぞ!
それは俺の仕事だ!」
何を言っているのかこの人は。
原作でもそうだったが、中将が敵に吶喊してどうするというのだ。
「自分で言うのもなんですが、この戦場で最も機動兵器の扱いに長けているのは私です。
そして、艦隊指揮に最も長けているのは中将、あなたです。
あなたが撤退行動の指揮を執らないと、敵主力と乱戦状態になっているコンスコン艦隊も簡単には下がれません」
実利を考えても、これ以上の配置はあり得ない。
艦隊指揮に長けた軍人は、パイロット以上に貴重なのだ。
次点で艦隊運用に長けているコンスコン少将が、敵主力艦隊との乱戦中であることを考えても、ドズルに指揮してもらう以外の選択肢はあり得ない。
「要塞司令である俺に、生き恥を晒せというのか貴様!」
興奮したドズル中将の言葉に、俺の思考が一瞬停止した。
生き恥、だと?
どうやって説得しようか、とかそういった思考が消し飛んだ。
一瞬にして頭に血が上る。
「ふざけるな!」
俺の怒鳴り声に、ドズル中将も司令部の面々も、目を点にしている。
これまでの軍人人生で、俺は上官にここまで反抗的な態度を取ったことがなかったので、意表を突かれたのだろう。
叫んだことで多少は冷静さが戻ってくる。
だが、今の俺は自身の感情の赴くままに行動することが正解だと思った。
「生き恥、だと?
あんたの仕事はここで死ぬことじゃない。
ジオンを、ガルマを守ってやることだ!」
そのまま言葉を紡ぐ。
「軍を辞めたとはいえ、ガルマの身は決して安全なんかじゃない。
ギレン総帥にとってガルマは将来的な政敵だ。キシリア少将にとっては傀儡の駒だ。
あの2人の対立からあいつを守ってやれるのは、あんたしかいないんだ」
俺の剣幕に、ドズル中将は呆然と沈黙したまま、椅子に座っている。
「それと、お願いだ……」
俺はドズル中将の襟首をつかんで、その胸元に頭を押し付けた。
「ミネバを、父亡し子にしないでやってくれ……」
原作だと、夫を亡くしたゼナはアクシズの地で心労の末、病にかかってその生涯を閉じ、ミネバは家族を失ってしまう。
彼女を
それは、それだけは、断じて認められない。
数秒の沈黙が降りた。
誰も何を言っていいのか分からないのであろう。
そういう俺も、言いたいことを言いつくしたので、同じ状況だ。
そんな奇妙な沈黙は、予想外の方向から破られた。
司令室に、笑い声が響く。
「はっはっはっ。
閣下、これは一本取られましたな」
全員の視線が向かったのは司令室の入り口。
白と濃い緑で彩られた、パーソナルカラーのパイロットスーツを身に着けた士官が1人立っていた。
俺はその姿を見て呟く。
「マツナガ大尉……」
ジオンが誇るエースパイロットの1人、『白狼』ことシン・マツナガ大尉は笑みを浮かべたまま、腰に下げていた銃をドズルに向けた。
「閣下、申し訳ありませんが、グワランに搭乗していただきます」
形式だけ見れば反逆のように見える。
だが、手に持った銃には安全装置がかかりっぱなしな上、マツナガ大尉も柔和な笑みを浮かべたままである。
完全にただのポーズであることは、誰の目から見ても分かる。
ドズルの決心を促すために、あえて反逆というポーズを取ったということだ。
後々、処罰されることも覚悟の上での行動なのだろう。
ドズル中将も、それには気が付いているはずだ。
「シン、貴様……」
「ここにいる我ら全員、エルンスト大佐と気持ちは同じです。
あなたに死んで欲しくない。あなたにはまだまだ、我々を導いていただきたいのです。
我々の不忠をお許しください。さあ、グワランまでご移動を……」
マツナガ大尉の説得に、ドズル中将はとうとう折れた。
「分かった……。
グワランまで移動し、総司令部はそこに移動する。
各員、敵に悟られぬよう撤収の準備を進めろ」
ドズル中将は立ち上がり、ゆっくりと司令部から出て行く。
マツナガ大尉も同行するようだ。
俺はマツナガ大尉に静かに頭を下げた。
と、ドズル中将は廊下で立ち止まると、こちらを振り返った。
「だがなぁ!」
必死な顔で叫ぶ。
「待っておるぞ、エルンスト!
……待っておるぞ、サイド3で!」
そして、今度こそ司令室から去っていった。
マツナガ大尉が楽しそうな顔でこちらに手を振り、ドズル閣下の後に続く。
割とおちゃめな人だな、あの人……。
「死んだら絶対に許さんからなぁ!」
廊下の奥から、そんな声が響いてくる。
数秒の沈黙が降りた。
そして、指揮所が笑いに包まれる。
「いい
オペレーターの1人に言われた。
「お前、それ不敬だからここ以外で言うなよ?」
釘をさしておく。
顔を叩いて気合を入れる。
「さぁて、死んだら許さないとまで言われたんだ。
なるべく全員、生きて戻るぞ!」
ドズル中将がグワランに搭乗するまでは、ここが暫定的な司令部であり、俺が司令代行である。
俺は今後の作戦展開をオペレーターたちに説明した。
俺の指示をもとに、司令部の人員が各戦線に指示を出していく。
「敵第2射の照射予測範囲を算出します。
該当範囲の砲手を退避させ、遠隔による射撃に切り替えさせます」
「ソーラ・システムを過剰に警戒している風に装わせろ。
撤退準備を悟られるな」
「ビグロ部隊の出撃準備を整えさせろ。
クソ忙しいから覚悟しろと言っておけ!」
オペレーターたちの指示が走る中、俺も指示を告げる。
「敵の第2射照射後に衛星ミサイル全弾発射、同時に各部隊を出撃させる。
敵はおそらく、第2射の後にソロモンに取りつくだろうから、引き込んで迎撃させろ。
作戦全容を全艦隊と共有しろ。連携は密にしておけ。
司令部要員は順次グワランへ移動、基地要員も順次ムサイへ移動させろ。砲塔はオートで構わん。
俺も格納庫に移る。それ以降の指示はドズル閣下に仰げ」
オペレーターの1人が聞いてくる。
「しかし、そうなると艦艇が無くなります。
大佐はどのように脱出を?」
「コムサイでも何でも構わん。
1隻残しといてくれればいい」
別に俺1人が脱出するだけなら派手な艦は必要ない。
X18999コロニーに吶喊するヒイロとデュオのように、シャトルのようなものがあれば十分である。*1
俺は通信機のスイッチを入れ、全友軍に通達をかけた。
「全MSに告ぐ。敵攻城兵器の第2射確認後、特別部隊による吶喊をかける。
推力に自信があり、同行したいものは、第3ゲート付近に集合せよ。
なお、奇襲であるため、希望者全員は連れていけん。
選抜から外れた者は艦艇の護衛にあたれ」
残っていた分析官が聞く。
「しかし大佐、モビルスーツの推力だけで、あの深度まで強襲できますか?」
「モビルスーツならきついな」
そう俺は答えた。
乱戦中の空域を突破してひたすら突き進むには、ゲルググJの推力をもってしても足りないだろう。
そこに穴が開いていない限りは。
「まあ、穴をブチ開けるだけなら、適任の機体がここにある」
結局、あの欠陥兵器に俺が乗ることになってしまった。
まあ、長所と短所をきちんと把握していれば、どんな兵器でも使いようが生まれるということを証明してみせなければな。
読んでいただきありがとうございます。
参考のために、劇場版のソロモン戦部分をテレビ版と見比べたのですが、劇場版だとソーラ・システム1発でソロモン放棄決断しているんですよね。
どれだけ非常識な威力だったんでしょうか。
間に合わないあたりの台詞は、「とある怪獣映画」の「某特佐」の台詞をちょっと意識したりしました。
妙な連想ゲームですが、分かった人だけにんまりとしてもらえれば幸いですw
あの作品大好きなんですよ。
ドズル撤退までのロジックが、とてつもなく難産でした。
ガルマとミネバを説得材料に使った挙句、マツナガ大尉まで出演してもらってようやく説得完了です。
「父亡し子にしないでやってくれ……」の後に超小声で「親父」ぐらい言っても許されるかな? と迷った挙句に入れないチキンな筆者です。
入れても別に構わないということは脳内補完お願いします。
具体的な撤退行動については既に考えておりますので、次話までお待ちいただければと。
多分、一番邪魔なのは撤退艦船とかMSをガンガン撃墜していくであろうガンダム。
以下悪乗り。
やめて!
ビグ・ザムの火力で旗艦タイタンを焼き払われたら、搭乗しているティアンムまで燃え尽きちゃう!
お願い、死なないでティアンム!
あんたが今ここで倒れたら、レビル将軍との約束はどうなっちゃうの?
戦力はまだ残ってる。ここを耐えれば、『白銀』に勝てるんだから!
次話「ティアンム死す」
デュエルスタンバイ!