超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
一応4話までは既に書いているので、そんなに時間開かないかと思います。
時間は再びしばし流れ――
今現在、俺は士官学校の式典ホールの最前列に座っていた。
広い天井、規則正しく並ぶ椅子、壁に掲げられたジオンの紋章。
空調は効いているはずなのに、空気は妙に熱気を感じる。
胸の奥に渦巻く期待、緊張、焦り。そして連邦に対する不満と義憤。
野心と不安、誇りと怒りが、薄い靄みたいに漂っている。
こういう場は人の感情が濃い。
「今ここに、諸君等有望なる新入生を迎えて大いなる期待を禁じえない!」
現在は士官学校入学式の真っただ中、ギレン・ザビ国民運動部部長の演説中だ。
推薦を受けていてなんだが、俺はギレンとは直接会ったことはない。
ただ推薦状に添付されていた紙に「期待している」の一文が書かれていた程度であり、俺にとって
原作描写からカリスマ性はあると分かっていたが、生で見るとさらに圧が凄い。
声量や声質だけではなく、言葉の組み立て方が、人を動かすために作られている。
あれは政治家というよりは、演出家に近い。
ちなみに俺の席は最前列のガルマの隣。俺の左隣にも人がいることから、成績順ではない。
明らかに上からの息がかかった配置である。
最前列は、俺の背の高さからありがたかったけど。
ガルマよ。どさくさに紛れて俺の頭を撫でるな。
そしてデギン公王。それを微笑ましい目で見るな。
連邦軍からの来賓たちは、幸いにも気付いていないようだが、もし気付かれると居たたまれなくなってゼクノヴァを起こすことも辞さないぞ。
俺の高まった羞恥はそれぐらい起こせる。*1
見て分かるように、ガルマとの面通しは合格発表の数日後に無事終わった。
というか、末っ子だったガルマは自分が庇護できる存在が欲しかったようで、物の見事に猫可愛がりされる状況になってしまった。
俺はお前よりも好成績で合格したはずなのだが……。
それをオブラートに包んで伝えたのだが、「それはそれ」で返されてしまった。
こいつ無敵か?
まあ、弟扱いというよりは、どちらかというと愛玩動物の扱いに近いものを感じるので、俺の成長に合わせて――俺の頭の位置がガルマの手に丁度いい位置でいられる間だけだと我慢するしかない。
きっと。多分。
俺への意識をそらすためにも、早くシャアにライバル意識をむき出しにしてほしいのだが、既に俺に成績で負けているのに一切気にしない謎メンタルが醸成されてしまっているので、本当にシャアをライバル視してくれるのかが少し怖い。
「移民一世以来の困難な時代を経て、かつて棄民とさえ呼ばれていたスペースコロニーの住民達は選ばれた民となった!」
ギレン部長の演説が続く中で、俺は後方から近づいてくる気配を捉えた。
大勢の人間の中で、妙に輪郭がはっきりしている感覚。
入学式に遅れてきているのに動じず、ゆっくりと歩いてくる胆力。
視線を浴びているのに、浴びていないように歩く。
人混みの中で、そこの空気の色だけが変わる感覚。
あれがシャア・アズナブル。
俺のニュータイプ能力は、現時点で既に実戦に耐えうる程度には習熟している。
物心ついた時から自身がニュータイプであることは、前世の記憶によって分かっていたのだ。
その素質を眠らせておくなんてもったいないことはできないし、している余裕もない。
だから俺は、物心がついた段階から、感覚もそれなりには鍛えることにした。
とはいえ、ニュータイプ能力の鍛え方など、各作品主人公たちのように命がけの実戦経験を積むか、クェス・パラヤのようにインドで修行する程度のことしか直接的な手段は知らない。
強化処置? はははご冗談を。
そんな俺は、まず『ニュータイプとは何なのか?』を自己定義することから始めた。
当然、『人の革新』とかそういう
殺気を読み、サイコミュを起動させ、時にバリアを発生させ、ニュータイプ同士で共鳴を起こし、最終的にはアクシズショックやゼクノヴァを引き起こす、超能力としか呼べないような技能の共通点。
俺はそれを考えた末、ニュータイプとは『ミノフスキー粒子による感応波を感知できる能力のある人間』であると定義づけることにした。
他にも定義は考察上色々と出てくるのではあろうが、自分で定義しないと訓練も何もできないからだ。
幸い、俺が生まれた年あたりから、ジオンではミノフスキー型核融合炉を用いたモビルスーツの開発が始まっているはず*2であり、それによって発生したミノフスキー粒子は、拡散して薄まりつつも、俺が生まれ育った空間に存在しているはずである。
そう信じ、瞑想やらを駆使してミノフスキー粒子を介した他人の思念波を感じようとすること数年。
最初に『人の気配』を感じることを自覚してからは、割と早かった。
歴代主人公のように鍛え方をよく分かっていないまま、闇雲に実戦で磨くよりは、『ガンダム』という作品群を知っているがゆえのアドバンテージが大きかったのだろう。
アムロの言っていた「後ろにも目をつける」という感覚は「多分これかな」と思う程度には実感があるし、実機はまだ開発されてすらいないが、ファンネルやビット程度なら問題なく動かせると思う程度には空間の把握能力も高い。
具体的には、弟の一人に頼んで後ろから消しゴムを投げてもらい、それを見ずにキャッチできる。*3
運動性の高い機体さえあれば、『機動戦士ガンダム戦記』のオープニングムービーでのアムロの回避のようなこともやってやれないことはないだろう。*4
あれを初めて見たときは「天パひっでぇ」という感想しか湧かなかったのだが、自分がそれをできる側になるのもドン引きである。
ただ残念?ながら、Zガンダムのウェーブライダーでの突撃や、ZZガンダムのハイメガキャノン・フルパワーは機体が仮にあったとしても現時点では不可能だと思う。
俺のニュータイプ能力の大小以前に、ミノフスキー思念波によって発生した人々の残留思念がそもそも少ないのだ。
あれは、人々が亡くなる際に発した思念の断末魔、その
だから、どれ程優れたニュータイプでも『今は』使えない。
この『ニュータイプが感じる死者の魂=思念の
普通、人間というものは成長に従って、ある程度価値観が変化して行くものである。*5
しかし、一年戦争から10年以上経ったU.C.0093の『逆襲のシャア』の時代であっても、アムロが夢の中で会話したララァの言動から受ける印象は変わっていない。
死亡したのが17歳だとして、14年経っても言っていることが17歳のままと捉えても違和感のない言動ではないだろうか?
ア・バオア・クー戦では「ララァにはいつでも会いに行けるから」とある程度ポジティブに捉えていたアムロが、「そりゃあエゴだよ」と返したのは、成長なのか老いたのかはさておき、対照的だろう。
つまり『死者』の価値観は、その死後、どれだけの物を見聞きしようが不変である。*6
それは魂とは言っても、本当の意味での『魂』ではないのではないか。
そしてララァ本人が言っていた、「意識が永遠に生き続けたら拷問」だというのはつまり『そういうこと』だと俺は思う。
と、まぁ、推論の上に推論を重ねまくった結論だが、能力が無事に使えている限りはこの認識で構わない。
今後、新たなる解釈が公式で示されるかもしれないが、そもそもこの世界で公式などもう知りようがないしな。
むしろ、『死者の思念』を、ミノフスキー思念波を媒体とした『残留思念の
後はその都度実戦において、能力を自分で微調整していけばいい。
使いこなせない道具に意味はないのだ。
……そして、その感覚で今、背後の気配がこちらへ近づいてくる。
静かで、冷たい。
これは決意と鋭さだろうか。
あとは、奥底に封じ込めてある、僅かな殺気。
ああ。
やっぱり。
あれはキャスバル・レム・ダイクンであり、エドワウ・マスであり、シャア・アズナブルだ。
「未来の将星を目指して邁進せよ! 我と我が戦線に加われ!!」
そんなことを考えている間に、ギレン部長の挨拶が終わった。
続いてドズル大佐、いやドズル校長が前に出る。
「本学の校長を拝命しているドズル・ザビである!」
相変わらず元気のようで安心した。
同時に、最前列にいる俺は、あの声の直撃を受けるため少々うるさい。
「俺はすこぶる正攻法な男だ、これから貴様らを徹底的に鍛える!」
あの、なんでこっちを見てニヤッて笑っているんですかね。
俺に向けての視線だと思うが、俺の背後にいる学生ほぼ全員から怯えの感情しか感じ取れないんですが?
「エリートか何か知らんが、弱い青白い奴には用はない!
覚悟のない者は今すぐ立ち去れ!」
ドズル校長らしい檄の入れ方だが、ビビる周囲をよそに、その言い分には、思わず不敵な笑みが浮かぶ。
覚悟なら既にあの夜に示した。俺にとっては今更の話なのだから。
その後もドズル校長の演説は続き、
「俺は、本学の務めがせいぜいコロニー自警団の養成なんかだとは考えていない!
本当の軍人! 本当の士官を育て上げることだと考えている!
校長として言いたいことは以上だ」
来賓のレビル将軍を紹介した時にブーイングが飛ぶ一幕はあったが、無事終了した。
気持ちは分かるが来賓にブーイングってお前ら……。
入学式のパンフレットに書かれている予定の通りなら、次は新入生紹介だな。
後ろの座席から名前を呼ばれた新入生が返事と共に起立していく。
多少のざわめきはある。だがそれは、式典に相応しい範囲のざわめきだ。
ガルマの番が来るまでは。
「ジオン共和国出身、ガルマ・ザビ!」
「はいっ!」
隣のガルマが呼ばれ、元気よく立ち上がった。
ちょっとしたどよめきが起こる。
「あれがザビ家の……」とか「御曹司か……」といった声が漏れ聞こえてくる。
ガルマ、気にしなければいいんだが。
こいつは必要以上にそういうことを気にするタイプだったはずだ。
そう考えていると、俺の名前が呼ばれる。
「ジオン共和国出身、エルンスト・ヴァルツァー!」
「はいっ!」
腹から声を出して返事をし、起立。
瞬間、時が止まったかのように静まり返る。
数瞬の後、「子供?」「いやに小さいぞ」「声変わりもしてなくないか?」「15歳じゃないと受けられなくなかったっけ?」といったざわめきがホールにあふれ出た。
ちょっと待て。
物珍しいのは分かるが、ガルマの後なのにその反応はないだろう?
野生の天才児よりも、ザビ家の御曹司の方が珍しいだろうがお前ら。
後ろから感じる思念が「何で?」「理解不能」といった感情一色に染まって勘弁して欲しい。
見ろよ。連邦の来賓も目をぱちくりとさせているぞ。
というか、俺、最前列に座っていたのに見てなかったのかよ――そういえばずっと、演説してるお偉いさん方しか見てなかったね、おたくら。
ジオンの士官候補生なんて、連邦にとっては見る価値もなかったんだろうか。
あまりのざわめきが少し予定外だったのか、議会進行の人が慌てて補足説明を述べる。
「エルンスト・ヴァルツァー新入生は、弱冠8歳*7ながらも、その能力・資質に疑いなしとの特例推薦をギレン・ザビ部長、並びにドズル校長より認定され、諸君らと同じ入学試験を突破したものであります!」
それでようやく騒ぎが収まってくる。「特例推薦とかそういえばあったな」とかいう声が聞こえた。
フォローありがとう、進行の人。
けど、これで俺の名前はガルマ・ザビの次に全新入学生に覚えられてしまったな。
正面から喧嘩を売られるとかならともかく、隠れていじめとか面倒くさいんで遭わなければいいんだが……。
まあ隠れてやろうが悪意の思念を俺が感じ取れる以上、誰がやったか分かるんだが。
「以上。265名。代表、ジオン共和国出身、ガルマ・ザビ!」
「はいっ!」
ガルマが前に出て、フラッシュを浴びる中で宣誓を始める。
写真の隅っこに俺も写りそうだな。
ガルマを見て気付いたが、ひょっとして、仮に誰かが俺をいじめたらガルマが激怒したりするのだろうか?
精神年齢のせいもあるし、いじめにあっても「暇だなぁ」程度にしか思わないんだ(さすがに物理的被害があれば弁償させる。そもそも公費で支給される勉強道具にそんなことしたら問題行動だろう)が、悪意のある思念に気づいたら回避するようにはしよう。
ガルマの報復で退学者が出るとか嫌だよ俺は。
宣誓するガルマの後姿を見つつ、俺はそう決意した。
エルンストの現状。
珍獣枠。
誤字修正しました。
報告ありがとうございます。