超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
俺がザンジバルへと帰還してから20分ほど。
シャアがようやく戻ってきた時、その場にいた全員が目を疑った。
シャアが
その右頬には、思いっきり赤くなった手のひらの跡がある。
――だけならばまだよかったのだが、左頬には拳で殴られた跡もある。
駄目押しとばかりに、仮面には頭突きを食らったかのようなヒビまで入っていた。
俺には何が起こったのかある程度推測はできるが――。
容赦ねぇなぁアルテイシア。
普通、殴っても1発じゃない?
通常の3倍殴られるというのは、さすがは赤い彗星と言うべきか。
いや、妹を通常の3倍怒らせたのか。
そんな状況であっても、当のシャア本人が晴れやかな顔をしているので、誰も何も言えない。
殴られてスッキリした顔しやがって、無敵かこいつ。
ララァは持ち前の勘の良さで、大体何が起こったのかは察しているだろう。
黙ってシャアを迎えていた。
若干、顔が引きつっていた気もするが、それは見なかったことにしておこう。
ともあれ、無事(?)にシャアが合流した以上、テキサスコロニーに居続ける意味はない。
ザンジバルは急いで出港し、そのまま安全な宙域への避難に成功した。
ホワイトベースはガンダムとガンキャノンの救出で手一杯になってくれていたようだ。
原作通りに、シャアは金塊をゲートに残していったようだが、そもそも原作と関係なく、シャアに3連コンボ決めるような女性が、今更ホワイトベースを降りることはないと俺は思う。
むしろ、ア・バオア・クーまでシャアを殴りに来る予感がする。
それと、金塊の出所についてはおおよそ予想はつくが、まあ黙っておいてやろう。*1
ザンジバルにはエルメスの最終テストが残っているため、現在はソロモン改めコンペイトウ*2から探知できる範囲の外の宙域で停止していた。
シャアや俺が護衛について、数度のテストをしていたのだが、ララァに合わせた調整は滞りなく進んでおり、遠距離からのコンペイトウへの攻撃も――ララァには多少の負荷がかかっているらしいが、一応はできているようだ。
そんな折、グラナダから『ブラウ・ブロと、パイロットのシャリア・ブル大尉がザンジバルに向かうので、そちらもテストするように』との連絡がきた。
俺の機体の戦闘データ取りという名目はどこへやら。
シャアの副官みたいな仕事ばかり回されている気がするな。
ちなみに、シャリア・ブル大尉についてであるが、身も蓋もないのだが、俺としては「この世界にいたんだ」という感想である。
なにせ、ファーストにおいては登場から撃墜まで12分と、マグネット・コーティングフラグのための流れ作業のように処理されてしまっているし*3、劇場版に至っては登場すらしない。
ジークアクスにおいては重要人物の1人ではあったものの、俺はジークアクスを基本的には
ジークアクスと人物像が似ている小説版においても同様だ。
というか、小説版はほとんどすべてが別物なので、考えない方が良いだろう。
ジ・オリジン?
さすがにあのシャリア・ブルは、人格が違いすぎて*4同一人物だと思えないんだよなぁ。
優秀なパイロットであることは間違いないだろうから、せめて人格がジ・オリジンでないことを祈るのみである。
そんなことを考えていると、ブラウ・ブロが到着したようだ。
しばらくして、女性士官とシャリア・ブルと思われる男性士官がブリッジへと上がってくる。
よかった。見た目だけなら少なくともジ・オリジン版ではない。
「シムス・バハロフ中尉、シャリア・ブル大尉。
ただ今到着いたしました」
シムス中尉の挨拶とともに、2人が敬礼する。
それに応えて、俺、シャア、ララァの3人も敬礼を返した。
「ご苦労、シャアだ。
こちらがエルンスト大佐。
そちらがエルメスのパイロット、ララァ・スン少尉だ」
紹介の後で、シムス中尉がララァの軍服を気にする場面はあったものの、事務的なやり取りは滞りなく進んでいく。
その間、シャリア・ブルはずっと俺に視線を向けていた。
こちらを測っているような視線だ。実際、測っているのだろうが……。
「何かな、シャリア・ブル大尉?」
黙ったままで正面から見続けられるような趣味もない。
こちらから話を振る。
「非常に強い力のようなものを感じました。
エルンスト大佐からも、ララァ少尉からも。そしてシャア大佐からも」
「ほう」
初対面で相手の力量を感じられるのであれば、ニュータイプとしても十分に上澄みであると言えるだろう。
ただ、慣れていないのか、思考の断片が若干こちらに流れてくる。
他のニュータイプとの交流経験がない以上、それは仕方ないだろう。
流れてくる思考といえば、ここに来る前にギレンに釘を刺されていることについてだ。
自身がキシリアへの牽制であることを理解している……ん?
ああ、そうか。
キシリアの軍にドズル閥の俺がいるから、その監視も暗に含められているのかこの人。
現在、ドズル中将とキシリア少将の関係はそこまで険悪ではない。
地球では独立独歩でやってきたが、現場レベルでは俺が仲介に立って協力していたし、先のソロモン戦においても十分な援軍を出してくれていた。
ドズル中将が謹慎中の今、俺がキシリア傘下の軍に滞在していることは、2陣営が手を組んだようにも映る。
ア・バオア・クーに集結中の宇宙攻撃軍の指揮権を握っているとはいえ、ギレンにとってはいい気分ではないのだろうな。
ギレンにとってこのザンジバルは、3陣営が乗り合わせた牽制合戦の場というか。
「上からの無茶ぶりも大変だな、シャリア・ブル大尉」
そう言ってやると、大尉はぎょっとしたような目でこちらを見た。
キシリアへの牽制までは読まれることを承知していたみたいだが、俺の監視まで読まれるとは思っていなかったようだ。
「い、いえ……、さすがですね大佐」
「まあ、総帥のお立場ならやって当然だ。
気にすることはない」
そう言って、シャリアと握手をする。
「そう言っていただけると助かります。
大佐のその力、ニュータイプ全体の平和のためにお役立ていただけると、素晴らしいことだと思います」
強引に分類するなら、どうやら彼はTV版に準拠する人格のように思えるな。
政治の板挟みに苦労しているお労しい状況だ。
「その言葉、心しておこう」
とは言いつつも、俺の個人としての感覚では、後に続くニュータイプの面々を知識として知っているため、彼には申し訳ないが、
ニュータイプ同士が共感しても『あ、こいつとは殺し合うしかない』というレベルまで分かりあってから殺し合いをする例を知っているとなあ……。
まあ、その例の最右翼となるだろう、この世界の
そういう意味では、信じているぞハマーン・カーン。
そして、俺は世直しそのものについては、ガルマ・ザビや後に現れるかもしれないブレックス准将といった、オールドタイプにだって任せられる人がいると信じている。
というか、ニュータイプは極論に走りすぎる傾向があるから、その辺りが危なっかしくて、正直任せたくない。
お前のことを言っているんだぞ、そこの赤い奴。
……まあ、今のお前が
想像の数倍、自由人になっている気もするが、良い変化だと思っておくことしかできないわ。
「それで、大尉と中尉はこれからどうされる予定だ?」
シャアが尋ねた。
「このブラウ・ブロの実戦テストを行いたいのですが、その前に――」
シャリア・ブル大尉がこちらを見た。
「エルンスト大佐と模擬戦を一度経験させていただけたら、と思っています」
また俺かよ、と思わなくはないのだが――。
まあ、シャアのゲルググは現在修理中であるし、ブラウ・ブロと同じく試験中の機体であるエルメスと模擬戦をさせるわけにもいかないか。
実戦前のテストとして、模擬戦が必要であるという理屈は理解できるので、俺は申し出を了承することにした。
そして始まった模擬戦であるが――。
「これは駄目だな……」
俺は呟きながら、模擬戦用に出力を落としたビームマシンガンを、ブラウ・ブロの移動式有線メガ粒子砲へと叩き込んだ。
有線制御であるため、威力はあるし連射もきくのだが、なにせ砲台が4門しかない上に、本体そのものには攻撃兵装が付いていない。
たしかに有線である分、ビットよりも思念による攻撃の予測がし辛いという利点はあるものの、4門しかないのではさほど変わらない。
背後に近寄ってきたメガ粒子砲を、ビームマシンガンで撃墜判定にする。
「な、何故背後からの攻撃すら読めるのですか!?」
シャリア・ブルの困惑の声が聞こえてくるが、それこそニュータイプにとっては今後『後ろにも目をつける』感覚は割と必須になってくるし、今のうちに慣れておいてほしい。
そもそも原作において、シャリア・ブルはこれをやってくるアムロに敗北したのだ。
既に、マグネット・コーティングがガンダムにされていると仮定するならば、相手は平気で背後からの攻撃を回避してくるだろう。
俺は残っているメガ粒子砲の1基をゲルググで蹴り飛ばした。
そのままブラウ・ブロの本体へ肉薄すると、ビームサーベルの柄を突きつける。
コンピューターが撃墜判定を下して、模擬戦は終了した。
原作におけるガンダム戦と違い、俺はブラウ・ブロやシャリア・ブル大尉を知っているため、余裕を持って立ち回っている。
そのためゲルググのコンソールも無事だ。*5
ハッキリ言ってしまうと、ブラウ・ブロの完封負けである。
そもそもとして、運用の仕方が間違っていると思う。
ララァが乗るエルメスですら当初は直掩のリック・ドムを必要としていたのに、それの前段階の機体であるブラウ・ブロがニュータイプの乗るMSに1対1の戦いを仕掛けてどうするのだ。
「その機体の特性に合った戦い方は、臨機応変な援護砲撃だろうな。
MS相手に正面から戦うのは難しいだろう」
通信を開いてそう告げる。
せめて1基で良いので、本体に固定のメガ粒子砲を付けておけばなぁ。
エルメスもジオングも、パイロットが優秀ならそれで何とか戦えていたのだから。
ドッグファイトができないのは中々に厳しい。
その後に聞いたシムス中尉からの報告によると、俺の提言を受けてブラウ・ブロの運用方針を見直すことにしたらしい。
まあ悪い機体ではないのだ。
ニュータイプのエースの乗るMSという外れ値を相手にするには、足りない部分が露骨に出てしまうだけなので、直掩さえいれば恐ろしい機体になると思う。
原作においてシャリア・ブル大尉は、政治の道具になっている自分の境遇に絶望し、ガンダムとの戦闘による名誉の戦死を無意識に選んでしまったらしいのだが、この世界においてはそんなことをさせるつもりはない。
というか、人的資源としても非常にもったいないので、せめてア・バオア・クー戦には参加して欲しいし、可能ならシャアに付いてアクシズぐらいまで行ってもらいたい。
そもそもニュータイプとか関係なく、思慮分別のあるジオン軍人が貴重なのだ。
切実なのである。
その後、ララァの初実戦テストを兼ねて、連邦の小規模な艦隊を襲撃することになった……のだが、ブラウ・ブロの援護を受けたエルメスという恐ろしい構図が誕生してしまった。
エルメスもブラウ・ブロも近接戦闘は不向きなので、一応として俺やシャアが護衛に付いてはいたのだが、俺もシャアもほとんどそこにいるだけというレベルで2機が無双してしまった。
2機だけでマゼラン2隻にサラミス4隻、MSも含めてほぼ全滅させたという結果には、さすがにキシリア少将も満足がいったようだ。
報告の後、実戦に耐えうると判断された2機は、そのままザンジバルで運用される形になった。
同時に、グラナダとア・バオア・クーのちょうど中央部に連邦艦隊が集結しつつあるという情報が入った。
連邦がとうとう星1号作戦を発動させたらしい。
集結を阻止するべく、キシリア艦隊がザンジバルに合流することになったが、それでも艦隊数が違いすぎるので前哨戦にしかなりそうにない。
キシリア本人がそれを分かっていないとは考えづらいので、ア・バオア・クーに合流させる艦隊を遅らせるための、口実としての作戦行動なのかもしれないな。
そうだとしても、グワジン級がキシリア少将が座乗するグワジンと、マ・クベ中将が座乗するアサルムの2隻いるという豪華な艦隊なので、連邦を削るという目的も嘘ではないのだろう。
更にここに、シャア、ララァ、シャリア・ブル、そして俺と混じるわけで、個の戦力として見たら割ととんでもない構成になっているな。
読んでいただきありがとうございます。
セイラさんはかなりすっきりしたと思います。
これだと「兄は鬼子です」とは言い出さないですね。
ブライトにシャアとの関係を問われて、「兄です……一応」と心底嫌そうな顔で言いそう。
それはそれとしてもう1発殴っておけばよかったとは思っていそう。
そしてブラウ・ブロ登場。
信じられますか。
この作者、最初、劇場版のようにシャリア・ブルの存在丸ごと削ろうとしてたんですよ。
そのせいか、原作のエルメスvsガンダムまで行けませんでしたw
ブラウ・ブロの性能に対する評価は、私の個人的な評価だったりします。
正直、この時期のアムロを相手にするには、ブラウ・ブロだとちょっと厳しいよねと。
ん?
天パがおかしいだけ?
…………せやな。