超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
RX-80PR ペイルライダー。
地球連邦軍の『ペイルライダー計画』で開発された高性能汎用機の試作機だ。
『EXAMシステム』をベースに開発された、特殊システム『HADES』を搭載し、それによって極めて高い戦闘能力を発揮する。
それだけ聞くと、非常に優れたシステムであるように思えるだろう。
だが、HADESは自身の導き出した最適解を、パイロットに強制的に適用する。
パイロットが機体を操るのではなく、HADESがパイロットを介して機体を操るのだ。
そのため実質上、パイロットはHADESからの指令を機体に伝達するための装置となり、ペイルライダーの生体部品として扱われる。
ハッキリと言ってしまえば、性質の悪いゼロシステムである。
その上、パイロットにはHADESの要求に応えるために様々な改造処理が施される。
身体機能の強化処置、薬物の投与による反射神経の強化、思考の鈍化など、非人道的な措置のオンパレードである。
後の時代の強化人間にも繋がる技術であるが、最初期の技術ということもあり、本当に倫理観を置き去りにしている。
そして、この人道を置き去りにした計画の総責任者はグレイヴという人物だ。
彼はレビル派の高級将校である。
ならば、その派閥のトップであるレビルが、試作機であるはずのペイルライダーを複数製造し、運用することは可能である。
可能ではあるのだが――。
「連邦の標榜する、個人の主権の確立とやらの末路がこれか!」
俺は吐き捨てた。
たしかにレビルならば可能ではある。
だが可能であることと、やっていいことであるかは完全に別だ。
これは常軌を逸している。
仮にレビルが生き残ったまま、連邦が勝利したとしても、戦後に対抗派閥から戦争犯罪を追及され、レビルは破滅するだろう。
これはそういったレベルの禁忌だ。
こちらに襲い掛かってくるペイルライダーたちを相手に、俺のアクト・ザクも戦闘行動に入る。
ペイルライダーのパイロットたちは、強化処理によって思考が制限されているからか、自我というものをほとんど感じない。
代わりに感じるものは、フェーベから漂ってくるレビルの敵意だ。
それがペイルライダー3機を包み込み、おぞましさを感じさせる一つの気配となっている。
その気配が、明確に語りかけてくる。
"待っていたよ『白銀』。
ここで貴様を討たせてもらう"
レビルからの思念だ。
そういえば、こいつもニュータイプの素養を持った人間だったな。
俺への敵意を異常発達させ、覚醒に至ったとしたら――。
「俺を倒すためだけに、この木偶の坊を3機も投入か。
堕ちたものだなレビル!
パイロットを部品に仕立て上げたか――、それでよくジオンを非難できたものだ」
このペイルライダーたちには、連携のデータまで入力されているようだ。
俺は、3機が連携を組んで向かってくるのをかわしながら嘲笑った。
しかもあいつは「待っていた」と言った。
ならばこのソーラ・システムは、ア・バオア・クー攻略の要であると同時に、俺をおびき寄せるための餌でもあったということになる。
なりふり構わないにもほどがある。
"たしかに、私はこの戦いの後に破滅するだろう。
だがそれでも、貴様の存在を認めるわけにはいかんのだ。
独裁の申し子め!"
随分な言い草だ。
「別に俺はギレンの信奉者じゃねぇよ!
たしかにジオンはやりすぎていた。
だが、その前に貴様ら連邦もやりすぎたんだ!」
連邦が宇宙移民をまともに人間として扱ってきていたら、そもそもジオンが独立運動を起こすことすらなかっただろう。
ひたすら宇宙移民を棄民として扱ってきた。
そして独立運動が起こると、銃器や戦車で散々市民を殺傷し、抑圧してきた。
それが十数年もの間、積もり積もった結果が、コロニー落としすら正義であると肯定してしまうほどに極まった、コロニー市民の反連邦感情だ。
"コロニー落としすら正当化するつもりか!?"
別に正当化なんてしてないんだがな。
「どっちもやりすぎだと言っているだろうが!」
連邦の圧政が憎しみを呼び、コロニー落としが更に憎しみを呼ぶ。
仮に、俺の知識通りに世界が進むのであれば、この後は連邦が勝利し、デラーズがコロニーを落とし、ティターンズがコロニーを弾圧しはじめる。
完全な悪循環に陥っている。
「それこそ、南極で休戦しておけばよかっただろうが。
貴様なら止められたはずだろう」
少なくとも、デギン・ザビはそれを望んだからこそ、レビルの脱出に手を貸したはずなのだ。
ギレンとキシリアは戦争継続を望んではいたが、レビルが継戦を主張しなければ、戦争は
"永き歴史と文化・文明を有する地球市民が、専制と独裁に屈することなどあってはならん!"
結局それかよ……。
というか、宇宙に棄民を押し付け、コロニーから利益を吸い上げるのが、歴史と文化を有する地球市民様の行いなのか。
そもそも貴様自身、ジオンに駐留している連邦軍の『横暴を止めなかった』、加害者側だろうに。
「要は、自分たちが最後に殴られたまま終わるなんて認めないって言っているのと何が違うんだ?」
"本質的には違わんかもしれんな。
だが、ギレン・ザビに屈することだけはできん"
開き直ってやがる……。
「ならば、ギレン・ザビさえ討てば軍を引くとでも言うのか?」
"そうはいかんな。貴様という存在は危険すぎる。
必ずや連邦にとっての禍根となろう。
ならばここで討つほかあるまい!"
随分と勝手な理屈を言ってくれる。
「連邦にだって
貴様なら知っているだろうに。奴のことも倒すのか?」
"たしかに彼の力は強力だ。
だが、所詮はたかがパイロット一個人にすぎない。
貴様とは違う"
俺はそれを鼻で笑った。
欺瞞にもほどがある。
何が違うというのか。
俺の何をもって、俺を
この戦争での士官としての戦果か?
この戦争で俺が立てた作戦は、俺が士官学校で受けた教育を元に組み立てたものだ。
ここに、俺のニュータイプとしての素質は関係がない。
フィジカルに関してはさすがにアムロと隔絶している自覚はあるが、少なくともこの戦争において俺が『破壊工作員として』活動した事実はない。*1
パイロットとしての能力だけで言えば、フィジカルの差を考慮に入れても、アムロの領域をそれほど超えたものではない。
俺はアムロを抑えられるし、アムロは俺を抑えられる。
結局、アムロをパイロットの領分に封じておくことが前提の『俺とは違う』でしかないだろう。
仮にアムロが戦後、士官学校に通いたいと言ってしまえば、たやすく崩壊する前提の話だ。
それに、俺は知っている。
『俺が生まれなかった世界』で、アムロ・レイが7年間も軟禁され続けていた事実を。
レビルの言っているのはそういうことだ。
『旗頭にならない限り』は、アムロは連邦にとって安全であるということだ。
俺の冷ややかな思考をよそに、レビルは続ける。
"私とてニュータイプの未来は憂いている。
だがしかし、ニュータイプとは本来、戦争なぞしなくても済む人間のことだ。
貴様はジオン・ダイクンの提唱したニュータイプの申し子でありながら、ギレン・ザビの提唱する『優性人類生存説』とやらの象徴となる"
ついに本音が飛び出したな。
結局のところ、『ジオン国民が選ばれし民である』というギレンの主張の補強に俺が使われるから、レビルのイデオロギー的には絶対に認められないということか。
自由を標榜するくせに、自分と違う思想にはどこまでも攻撃的になれる。
俺に見えているのは、よくある思考の硬直した老人の姿だ。
こいつが倒したいのはギレン・ザビ個人ではなく、ギレン・ザビの思想とそれを補強するかもしれないすべてなのだろう。
戦争前の連邦軍の態度を見るに、こいつにとっての排除対象には、コロニーの独立思想そのものも含まれていると見ていいか。
"ニュータイプとして強大な力を示しすぎた!
貴様が真のニュータイプだというのならば、余計にそのような存在は認めるわけにはいかん。
ニュータイプによる専横と独裁、そんなものは存在してはならない。
勝利者はニュータイプではなく、我々連邦でなくてはならないのだ!"
貴様だってニュータイプ
「もういい、分かった」
うんざりしながら俺は言った。
ご立派な経歴を持ち、有能な将官であるとか以前の問題だ。
こいつは本質的には、ただのよくいる老人だ。
ニュータイプとしての力に目覚めつつありながらも、『連邦の民主制』という大義が最優先であるために、それと競合する可能性がある、あらゆるものを拒絶している。
地球の有する歴史と文化とやらを誇りに思うがあまりの、思考の硬直だ。
そもそも、西暦時代ですら様々な課題が浮き彫りになっていたのに、この宇宙世紀の地球連邦では、既に民主主義が機能不全を起こしている。
というか、ここまででかい組織で運用することを前提とした政治形態じゃないだろう民主主義は。
その辺りの齟齬には、こいつは目を瞑ったままだ。
連邦の改革が必要だとは思っているだろう。
だが『民主主義による連邦制』という大黒柱には、こいつは決して手を付けることはない。そこが齟齬を生み出していることだけは認めることができない。
だからジオンに連邦軍が駐留していた時期にも、連邦軍の横暴を見て見ぬふりをし続けた。
その結果の1つとして俺が生まれたわけだが。
挙句の果てに、ジオンを倒すためという理由だけで、ペイルライダー計画なんて非人道的なものを認可した上に、
大義さえ掲げれば、あらゆる行為が正当化されると考えている。
まるでギレン・ザビじゃないか。
「間違いないよ。ニュータイプとか以前に、あんたはただの人間だ。
自らの思想を絶対視して、現実との差異を受け入れられず、それ以外にはひたすら攻撃的になれる――。
ただの頭が固いだけの頑固爺でしかない。ギレン・ザビと変わらない、ただの人間だ!」
"小僧が言うことか!"
改めて心に決めた。
こいつはここで討つ。
終戦の障害になるからなどという消極的な理由じゃない。
俺の意思で、俺の殺意をもって、ヨハン・イブラヒム・レビルを殺す。
レビルとの交信をしつつ戦っていた3機のペイルライダーへと、意識を集中させる。
伊達にレビルとのやり取りの中、ずっと戦ってきたわけではない。
連中のコンビネーションのパターンは既に覚えている。
教育型コンピューターによって、最適な挙動をパイロットに強制するとはいっても、そのために詰め込まれた戦闘データは高々数ヶ月程度のものだ。
劣化ゼロシステムにも程がある。おそらくモビルドールの方がマシだ。
俺は交差する瞬間、互いに打ち合うはずのビームサーベルの刃を消した。
そのまま相手のサーベルを、機体をひねってかわす。
そして、斬撃をかわされて体勢を崩したペイルライダーに、機体をひねった勢いのまま蹴りを叩き込んだ。
そのまま再展開したビームサーベルで袈裟斬りにする。
"なっ!?"
レビルの驚愕の思念を俺は受け流した。
通常のジムに比べたらはるかに強力な敵なのだろう。
だが、舐めないでほしい。
俺はさっきまで、高機動型ガンダムを駆るアムロ・レイと戦っていたんだぞ。
比較対象が悪すぎると言われると否定はできないが、ペイルライダーの3機程度では俺を抑えるには足りはしない。
戦力見積もりが甘すぎたな。
俺を本気で殺したいのならこの3倍は持って来いというのだ。*2
HADESは機械が判定する以上、まったく予期せぬ挙動には一瞬の硬直が入る。その点はモビルドールと似ていると言える。
ビームサーベルで斬り合う瞬間に刃を消して回避する機体など、MS黎明期である現在では、まだ想定していなかったのだろう。時代が進めば割と使われる手段だとは思うが。
だが、俺にとっては大きすぎる弱点だ。
元々、俺がレビルに意識を割いていたために拮抗していたにすぎない。
そんな状況から、さらに1機が失われた以上、俺を止められるものはこの場にはいない。
ビームマシンガンで敵の機動を限定し、盾の裏側に設置してあったビームライフルで狙い撃つ。
逃げ場を失ったペイルライダーは、ビームライフルに貫かれると、あっけなく爆散した。
これで2機目。
レビルから恐慌を起こしたような強烈な思念を感じる。
ルウムのような戦場単位で負けることは許容できても、自分の理念が負けることだけは許容できないのだろう。
俺はその辺りの感覚が全く理解できないし、そもそもレビルの理念なんて倒そうとすら思っていない。
レビルの完全な独り相撲だ。
どうか死ぬまでやっていてほしい。
俺は、最後のペイルライダーの頭部を、シールドの先端部で殴り倒す。
センサー系が一気に失われた結果、HADESが一時的に機能を停止して機体の動きが止まる。*3
そして、再起動の暇を与えるほど、俺は善人ではない。
俺は、そのまま停止した機体を、レビルのフェーベに向けて蹴り飛ばした。
俺とペイルライダー、フェーベが一直線上に並ぶ。
瞬間、俺はビームライフルを発射した。
ゆっくりと、だが正確に3連射する。
それはペイルライダーの頭、コックピット、動力部をそれぞれ貫きつつ、フェーベの艦橋やエンジンに着弾した。
"エルンスト・ヴァルツァァァッッ!!"
レビルの絶叫が聞こえた後、ペイルライダーの動力部の爆発とともに、あっけなくフェーベは爆炎に飲み込まれた。
フェーベから脱出した艦艇がないことを確認した俺は、苦笑した。
「しぶとすぎる。頑固な油汚れかよ」
レビルは死んだ。
間違いなく死んでいる。
その証拠に――周辺にレビルの怨念めいた思念が渦巻いており、俺に向かって手を伸ばしてきている。
俺を引きずり込もうとする残留思念だ。
俺がたとえば、グリプス戦役の終盤のカミーユ・ビダンほど精神が弱っていれば、俺の精神的平衡を失わせるほどには効いたのかもしれない。
だが生憎と、俺はカミーユに比べるとだいぶ図太いのだ。
精神を集中し、攻撃的な意思を伴って俺は叫んだ。
「失せろ怨念が!」
レビルの怨霊が、俺の思念波で強引に上書きされていく。
今後、レビルに化けて出てこられても反応に困るからな。
成仏はしなくていいから、とっとと消え去ってくれ。
読んでいただきありがとうございます。
レビルとの決着です。
戦闘力としてはさほどではなかった(比較対象:天パ)のですが、会話が中々の難産でした。
レビルの思考に違和感を感じられる方もおられるかもしれませんが、申し訳ありません。
私の限界がここで、これ以上は思いつかなかったです。
要は『自身(連邦)の理念こそが最高であり、それに反する連中は許しておけない。それに利する連中も許してはおけない』という思考の固まった老人という扱いとなりました。
ジオン・ダイクンの提唱するニュータイプの申し子+ギレンの優性人類生存説の体現者=2つの思想のハイブリッド、絶対に抹殺(否定)しなければならない。
こんな構図。
私怨ではなく、(筋違いで傍迷惑な)使命感、純度100%です。
まだ私怨の方がマシ?
……せやな。
戦争当初はレビルもそこまで敵視はしておらず『プロパガンダの駒だろう』という感覚であったはずですが、主人公が戦果を重ねていくに従って『ギレン・ザビの優性人類生存説』と『エルンスト個人』が、段々とレビルの中で同一化されていき、ここまでの妄執に至った感じです。
あの眉無しが散々喧伝したせいでもあるのでしょうが、『自身が破滅しようとも、最優先で抹殺しなくてはならない対象』とまでこじらせた、主人公にとっては迷惑でしかないストーカー爺ですかね。
同時に、ニュータイプの素養を持ち、実際に覚醒しつつも、これまでの人生で生きていた価値観(固定観念)がそれを台無しにしている頑固爺という解釈にしました。
多分、現実にもこういう人いるんじゃないかなぁと思ってたり。
まあ荒れそうですし、現実の誰がそうだとかいう話はご勘弁くださいw
あくまでこの作品のレビル像の話です。
ジ・オリジン設定が一部流入したこのレビルなら有り得る話ではないかと思っています。
ペイルライダーを採択したのは、(私の知る限りですが)、レビルが現実的に複数入手できそうな機体で、かつパイロットに頼らずにエースを相手できる機体で最上の物だったからです。
少なくとも、拙作のレビルはそう判断してペイルライダーを採用しました。
まあ、足りなかったんですけどね。
50年ぐらい後の時代の会話が、一部流入していると感じた方は、ニヤリとでもしてくださいw
ちなみにまだ眉無しは生きています。
連邦軍旗艦が撃沈されレビルが死んだので、連邦の党勢が一時的に乱れてNフィールドではドロス隊が盛り返すでしょう。
「フフ、Nフィールドはドロスの隊で支えきれそうだ」とかもうすぐ言いそうですね(何)