超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
レビルの怨念が消滅し、フェーベの爆発が収まるのを見届けた後で、俺は周囲を確認する。
フェーベとペイルライダーの爆発によって、ソーラ・システムのミラーも大半が破損するか、衝撃で配置がぐちゃぐちゃになっている。
再度発射することはもう不可能だろう。
ならばNフィールドに留まる理由はない。
レビルを討ち取った俺は、アクト・ザクをア・バオア・クー方面に向けた。
Nフィールドにおける戦況は、連邦の旗艦を撃沈したことによる動揺を差し引いても、連邦が少し優勢といった辺りだ。
Nフィールドの陣形の中心であったドロスの移動で陣形が大きく崩れたことに加えて、ソーラ・システムによってア・バオア・クーからの援護射撃が激減していることが原因だろう。
だが、このまま彼らが奮戦すれば拮抗状態ぐらいへは持ち直せるだろう。
「こちらエルンスト。
ソーラ・システムの破壊、並びに連邦宇宙軍旗艦フェーベの撃沈に成功。
一時帰還して補給したのちにSフィールドの戦線へと戻る」
手短に報告だけを上げてから、ある程度主戦場を迂回しつつ進むことにする。
残弾にはまだまだ余裕があるが、戦場を大横断して交戦し、さらにそこから取って返す以上、プロペラントは一度補給しておきたいところだ。
迂回するとはいえ、敵がまったくいないわけではない。
若干、Eフィールドに張り出しつつ移動している。
ここは主戦場ではないのだが、それでも連邦の艦艇やMSが散見される。
それらを蹴散らしながら進んでいると、右手――ア・バオア・クー側に、何やら巨大な影が視認できた。
コンソールを操作し、モニターの映像を拡大する。
赤い、異様なシルエット――。
俺は呟いた。
「この世界にあるのか、ビグ・ラング」
MA-05Ad ビグ・ラング。
本来は超弩級モビルアーマー『ラング』として開発されていた未完成の機体に、頭部ユニットとしてビグロを流用した、急造品のモビルアーマーである。
ただし、モビルアーマーとはいえ、その真価は戦闘力というよりも、接続された大容量コンテナを駆使した移動用補給基地としての運用だ。
『MS IGLOO』においては、モビルポッド・オッゴの移動拠点として意外な活躍を遂げた機体ではあるが――。
「確か、無いよなオッゴ?」
この世界には、俺の知る限りオッゴが存在していない。
まあ、当たり前の話ではあるのだ。
MP-02A オッゴは1年戦争末期の戦況悪化に伴った、モビルスーツの絶対数不足を解消するために開発された機体だ。
だが、ゲルググが原作より少し早く量産され、俺とガルマが大量のドムをリック・ドムへと改修し宇宙に打ち上げたこの世界では、モビルスーツがそこまで不足していない。
さすがに潤沢に供給されているとまではいえないが、それでも一部の兵がザクⅡに乗っている程度のことだ。*1
そんな状況で、ジオンの技術本部がモビルポッドをわざわざ実戦投入する理由がない。
ついでにいうと、『MS IGLOO』ではオッゴの操縦員として学徒兵が大量に動員されていたが、それもないだろう。
現状、ジオン公国軍には学徒兵は存在しない。
俺やマ・クベ中将、ドズル中将の行動によって兵員の損耗が抑えられているため、正規の軍人がまだ不足していないからだ。
さすがに自主的にハイスクールを退学・休学してきた志願者までは
それでも原作ほどにはパイロットが枯渇していないため、志願者たちは主に後方支援や補給員、調理係といった業務に従事している。
また、仮に原作通り、第603技術試験隊にヘルベルト・フォン・カスペン大佐が着任していたとしても、状況は大きく違っているはずだ。
ソロモン戦における、ソーラ・システムの被害は極力抑えたからな。
あの戦いで、ソーラ・システムに焼かれて全滅していたはずのカスペン戦闘大隊は、大多数が無事だろう。
彼が着任したとしても、彼の率いるカスペン戦闘大隊と複数のMSとともに合流しているはずだ。
そう考えると、ビグ・ラングの仕事はゲルググやリック・ドムの補給と修理になるのかもしれないな。
オッゴの代わりにと考えると豪華すぎるな。
普通に彼ら、第603技術試験隊だけでも、Eフィールドの防衛ができそうだ。
一応、少しでもビグ・ラングの仕事を減らしてやるかと、道中の敵を多めに撃墜していく。
ついでにビグ・ラングに手を振ると、向こうも巨大なアームを使って器用に手を振り返してきた。
劇中での彼らの仕事は、ア・バオア・クーでの敗戦が決定づいてからだったので、戦場が違う俺はこれ以上は手伝えない。
どうか頑張ってほしい。
予想外の人物たちとニアミスをしつつ、Sフィールドを目指していると、常に届いていたはずの指揮通信と戦況報告が途絶えた。
そのまま、不自然な沈黙が続いている。
軍全体が動揺に包まれているが、何が起こったのか、俺には想像がついた。
――キシリアがギレンを殺ったな。
総帥の死亡によって、ジオン軍全体が一時的な機能不全に陥った。
これを機に、連邦が攻勢を強めてくるだろう。
そろそろSフィールドに入る宙域だ。
俺は通信のスイッチを入れる。
「こちらエルンスト。
ドロワ、Sフィールドの戦況はどうか?」
「こちらドロワ。本部からの指示が途絶えました。原因不明。
それに乗じ、敵連邦軍が攻勢を強めつつあります」
連邦軍もこんな機会を逃してくれるほど甘くはない。
本部からの指示がない以上、俺が一時的に代理で指示を出しておいた方が良いか。
「MS隊を集結しつつ、防御を優先しろ。
ドロワが沈んだらSフィールドは総崩れになるぞ」
「りょ、了解!」
Sフィールドに帰還した俺は、そのままドロワの内部へと入っていく。
俺の指示をもとに防衛線が再構築されているので、ガンダムが突撃してくるなどという事態が起こらない限りは大丈夫だろう。
戦況を聞く限りだと、そのガンダムはまだジオングとイチャイチャしたままである。
シャアも中々に頑張るなぁ。
機体を着艦させ、周囲の兵たちがアクト・ザクへの補給に入るのを確認してから、コックピットから出る。
レビルの相手をして、なんというか精神的に疲れた。
思考の硬直した爺さんとの交信は、予想以上に時間の浪費感が強かった。
軽めの食事をとっても罰は当たらないだろうと、休憩区画へと移動する。
補給用のハンバーガーを受け取って、チューブに入ったコーヒーとともに急いで胃に放り込んだ。
消化にはよくないだろうが、仕方ないだろう。
そろそろ機体の補給も終わっている頃か。
そう考えて格納庫に戻ろうとすると、見知った顔が向こうからやってきた。
「これは大佐。
フェーベの撃墜、おめでとうございます」
ソロモンで世話になった、『ソロモンの悪夢(予定)』ことアナベル・ガトー大尉だ。
あの働きなので、そろそろ少佐に昇進してもいいとは思ってはいるのだが、さすがに本国に時間的余裕がない。
昇進するにしてももっと後のタイミングになるのだろうが、その戦闘が終結した後、ジオン軍がどうなっていくのかまではさすがに分からないからなぁ。
「ああ、戦場を端から端まで往復したかいはあったと思うよ。
大尉も食事か?」
「ええ、連邦が攻勢を強めてきそうですので、今のうちにと」
まあ、このタイミングでないと、次はいつ補給できるか分からないしな。
ベテランほどそれが肌で分かるのだろう。
「それがいいだろう。
本部からの指揮系統が回復するまでは、ドロワの防衛を優先してくれ。
ここが無ければSフィールドは持たん」
「承知しました。
ドロワは私が死守いたしますので、大佐は存分に動いていただければ!」
少し狡い手ではあるが、こう言っておけば
こいつの実直さは、デラーズに利用されるのはちょっと可哀想だと思っていたからな。
ソロモンでは助かったし、ちょっとしたお礼というかお節介である。
「俺は終わったし、先に戦場に戻る」
そう言い残すと、俺は敬礼するガトーを背に、格納庫へと向かった。
ドロワから戦場へと再出撃すると、それなりに状況が変わっていた。
戦況自体はまだ維持できているし、全体的な余裕もまだあるといえばある。
だが、敵が温存していた全ての機体を、これを機と見て放出してきたような印象を受ける。
敵機がとにかく多い。
物量が連邦の最大の武器とはいえ、お前らいい加減にしろよ。
幸い、補給したばかりなので、アクト・ザクの推進剤も残弾も十分ある。
連中の出鼻をくじくためにも、再出撃早々、俺は機体の推力を全開にして敵集団の横っ腹に突っ込んだ。
なんだか最近、突撃戦法ばっかり取っている気がする。
物量に押されているこういう状況では、今のところはこういう手が一番有効なのである。
敵味方双方のMSの性能が極端に上がる、Z以降の時代だとそう簡単にはいかないだろうが――。
横方向からの俺の突撃に動揺した連邦の部隊を、正面に展開したドロワのMS部隊が着実に仕留めていく。
敵の勢いが削がれた以上、連邦がア・バオア・クーに取りつくためにはドロワを大きく迂回しなければならない。
少なくともSフィールドにおいては、劣勢ではあるものの戦況は維持できている。
対してNフィールドは割と悲惨である。
先ほど指揮系統がようやく回復したのだが、それによってギレン・ザビの戦死が公式に通達された。
タイミングが悪く、直後にNフィールドを維持しようとしていたドロスが撃沈。
連邦軍のMS部隊が既に取りついている状況だという。
ドロスが沈んだ以上、Nフィールドの友軍は帰るべき場所を失った形になってしまうのだが、俺がここでドロワを維持しなければSフィールドも同じ状況になってしまう。
Nフィールドのベテランパイロットたちが、各個の判断でア・バオア・クーに帰還してくれることを祈るしかないだろう。
「ジオングはどうなっている?」
通信で司令部に問い合わせる。
「識別信号解除。
撃墜された模様です」
シャアとアムロの気配は相変わらず感じているため、共に脱出したようだ。
高機動型ガンダムと高機動型ジオング、共に強化された以上、決着も変わらず相討ちといったところなのだろう。
そうなると、原作展開としては白兵戦に移るわけだが――あの2人に剣で斬り合うような理由ってあったっけか?
ララァが死んでない以上、無かった気がする。
気になることは気になるが、さすがに現場が忙しすぎて様子を見に行くこともできない。
戦闘の趨勢は、Nフィールドが崩壊した以上、敗北は確定だろう。
仮にSフィールドを完全に維持できたとしても、Nフィールドから侵入した敵がア・バオア・クーを落としてしまえば敗北である。
後は総司令部が停戦命令か撤退命令を出すのを待って――。
そう考えていると、通信機から新しい報告が飛び込んできた。
「デラーズ艦隊、Sフィールドの戦線より離脱します」
ああ――、このタイミングでさらに敵の圧力が高まることが決定したな。
あのハゲ野郎、せめてタイミング考えろよ。
読んでいただきありがとうございます。
とりあえず描写外で眉無し退場(無慈悲)
ガンダムとジオング相討ち。
Sフィールドに帰還する最中でEフィールドを経由するシーンを軽く流すかと書いている最中、「あれ? たしかEフィールドってなんかで出てたよな?」と思い確認。
結果として無駄に描写が増えましたw
最後にデラーズ離脱、ただしガトー合流阻止。
ドロワ沈まなかったらデラーズに合流する意味まったくないですしね。
この後は撤退戦ですね。
この主人公、撤退戦しかしてねぇな。
主人公視点以外のシーンの要望をたまにお見掛けします。
現状は一年戦争を終わらせることを優先しているため、終わって私に余裕ができたあたりで、適度に幕間挿入みたいな形で書けそうなら書いてみようと思います。
というか、敵視点になるとただのホラーなんだよなぁ……w
なので、敵視点だと結構書きづらいというw
ちなみに脱出した天パと仮面ですが
普通に会話しているか
シャア「剣で戦ったことは?」(なぜか声が子安)
アムロ「ないです」
シャア「それは残念」(なぜか以下略)
ってなってるかは私も分からないw