超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
本当に人生とはこんなはずじゃなかったことばかりである。
本来なら、ア・バオア・クーの戦いにおいて俺は、キシリアがギレンを暗殺するまで、適当に戦いつつ、高みの見物を決め込んでいるつもりだったのだ。
敗色が濃厚になれば、撤退する軍に合流して、それを支援しながらそそくさと撤退するだけのお仕事だったはずなのだが……。
レビルは生き残ってソーラ・システムをぶっ放してきた上、変な使命感から俺に殺意をマシマシに向けてくるし、そのせいで俺はNフィールドのど真ん中を単騎突破する羽目になり、ペイルライダー3機と戦闘する羽目になった。
一仕事終えてSフィールドに戻ってくれば、今度はドロワの防衛の指揮を執りつつ――ドロワには見知った顔のパイロットたちが大勢所属しているので、これは仕方ないと思えるが――、敗色が濃厚となりどう撤退するかを考えようとするタイミングで、重要な部分を任せられていた艦隊が独断で撤退して戦線に穴が開き、それを何とかしなければならない。
デラーズの離脱については、まああのハゲならやるよね、とは思ってはいた。
実際、奴は総帥直下の親衛隊所属である。
総帥を射殺し、指揮権を乗っ取った形であるキシリアに従う道理はないし、いずれ撤退するだろうとは思っていた。
でも、別にこのタイミングでなくてもいいだろう?
原作だとあと1時間も経たないうちにキシリアが1人で逃げ出そうとして、シャアにバズーカで射殺される*1ので、せめてそれまで待てよ。
これぐらいは言っても許されるだろう。
とにかく、やることが……やることが多い。
デラーズ艦隊の抜けた穴をドロワの部隊だけで埋めることは事実上不可能である。
そのため俺は、空いた穴を無理に埋めるために突出しようとする部隊を、制止することしかできない。
あんな規模の穴、埋めようと思ってもそこから撃破されていくだけだ。
「総司令部、こちらエルンスト。
一部艦隊の離脱により、戦線に穴が開いた。
ドロワだけでは戦線が維持できない。
撤退戦に移行する判断を求む!」
ひたすら押し寄せる敵を捌きつつ、通信機へと怒鳴る。
俺やドロワの部隊がMSを撃破しすぎたせいか、敵は見事にこちらを迂回するように2つに割れている。
ドロワの両側面を迂回してア・バオア・クーに取りつく部隊が目に付く。
俺やMS部隊が、片方を迎撃しようと移動すれば、反対側に連邦が雪崩れ込むだろう。
離れすぎてその間にドロワが撃沈されてしまえば、それこそ戦線の崩壊が止められなくなる。
ドロワごと移動させても、穴の開いた箇所が移動するだけなので、同じことになるだろう。
「エルンスト大佐か」
通信機からキシリア少将の声が聞こえた。
少将自ら通信に出てくるとは珍しいな。
てっきりオペレーターの誰かからの通信が来ると思っていた。
「ハッ、エルンスト大佐であります」
「Nフィールドが崩壊した今、Sフィールドも崩れつつある。
遺憾であるが、撤退するしかないと判断した。
貴様はドロワ隊、並びに残存艦隊を率いてEフィールドに移動、そこでNフィールドから撤退する友軍を支援したのち、独自の判断で撤退せよ」
おや、原作と違う展開だな。
原作だと、秘密裏に1人だけザンジバルで脱出しようとしたところを、シャアにバズーカで狙われて首が吹っ飛ぶという、シュールすぎる最後だったはずであるが――。
「閣下はどうなされますか?」
「ア・バオア・クーの兵たちをまとめた後、Eフィールドを経由して脱出する。
撤退ルートの確保は貴様が頼りだ。しっかりやるがいい」
そして通信が切れる。
1人だけでこっそり撤退しないのは意外といえば意外であった。
まあ正式な撤退支援命令が出された以上、やることは1つだろう。
「こちらはエルンスト大佐だ。
ドロワ、並びにSフィールドの全残存艦隊に通達する。
生き残った艦は陣形を再構築次第、Eフィールドへと後退し、友軍の撤退支援に当たれ。
これはキシリア閣下の命である!」
周囲へと通信を入れる。
キシリアからの正式な命令である以上、宇宙攻撃軍の隷下ではない連中でも従ってくれるだろう。
シャアのジオングでもいればもっと楽もできるのであるが、ないものねだりをしても仕方ない。
逆に考えよう。
少なくともオデッサよりはマシだと。
あれは地獄だった。できれば2度とやりたくない。
ドロワを中心に編隊を組み始めた、すべての友軍に向かって俺は告げた。
「全軍、長丁場になる。
弾薬が心もとない機体から順次、補給に入れ!」
ア・バオア・クーに取りつこうとする敵は放置しつつも、こちらに攻撃してくる敵だけは徹底的に殲滅していく。
敵の波が衰えた瞬間を見計らい、少しずつEフィールドに後退する。
そんな作業をひたすら繰り返していく。
途中でEフィールドに展開していたビグ・ラングたちが合流し、実質的に補給拠点が増えてくれたのは正直助かった。
ガトーも俺も、何回補給に戻ったか分からない。
ケリィ・レズナー大尉も無事であり、ビグロを駆って俺たちの撤退作業に加勢してくれている。
シャアの到着までは俺がガンダムの相手をしていたこともあり、原作のソロモン戦にて彼の片手を奪った因縁の相手とは、最後まで会わずに済んだようだ。
文字通り、総力を挙げた撤退戦である。
何機落としたかもう数えてすらいない。
それはそうと、マグネット・コーティングを施したアクト・ザクが恐ろしい。
オデッサの時のギャンならば、とっくに警告表示が点灯していたと思うが、まだまだ計器を見る限りは戦闘続行が可能なようだ。
関節の負荷が本当にかかってこないな。
とはいえ、連邦の追撃も中々終わる気配がない。
こちらの部隊もだんだんと息切れが激しくなってきていた。
まず、その巨体ゆえに簡単に修理も補給も行えないビグ・ラングとビグロが戦線を離脱した。
推進剤が切れるとモビルアーマーはただの的となるため、仕方ないだろう。
それに伴って第603技術試験隊の母艦ヨーツンヘイムも撤退したが、ここは技術試験艦がここまでついて来てくれたことに感謝するところだろう。
次いで、ドロワにも地味にダメージが積み重なっていき、そろそろ戦場に留まるのが難しいと判断した俺の指示によって、ドロワもサイド3へと撤退する。
各所から炎が上がっていたので、これ以上戦わせては爆散する危険もあっただろう。
ガトーは撤収するドロワの護衛にあてた。
どのみちドロワが沈むと大量の兵が路頭に迷うため、護衛に腕の立つパイロットは絶対に必要だったのだ。
俺がここから抜けるわけにいかない以上、消去法でガトーしかいなかった。
撤退援護部隊の残りは俺と、命知らずな随伴のゲルググが10機ほど。あとは覚悟を既に決めているムサイが2隻。
ア・バオア・クーからの艦隊の撤退作業はまだ終わらない。
先ほど、キシリア少将の乗ったザンジバルは無事に通過したのだが、まだ結構な数のムサイやチベが残っているため、それの護衛を続ける必要がある。
計算しても、あと10分ほどはここを維持し続ける必要があるだろう。
ただ先ほど、しれっとシャアの気配を乗せた、マ・クベ中将のアサルムが通過した際は、「おい、そこの馬鹿に一般兵のゲルググでいいから与えて放り出せよ」と思ったのは許してもらいたい。
さらに連邦からのおかわりが来た。
ビームマシンガンは既に打ち尽くして投棄している。
ビームライフルの残弾はまだ残っているのだが、万が一のために温存している。
そのため俺は現在、アクト・ザク専用のブルパップガンで戦闘している。
そのブルパップガンも残弾が心もとないな。
「大佐、私のビームライフルを使ってください」
そう言ってビームライフルを差し出してくるゲルググを手で制する。
「阿呆、それはお前の身を守るために使え。
そんなことより次が来るぞ、備えろ!」
もう何度目か分からない敵の増援の反応だ。
その敵機の影が、別方向からの射撃によって複数が爆発した。
モニターに映ったのは明らかにジオンの機体だと分かるモノアイの光。
「援軍か?」
横合いから連邦に殴りかかったのは、ドット迷彩を施されたゲルググの部隊である。
迷彩が周囲の残骸と溶け込んで、機体の判別が付けづらいな。
形状からすると、あれは海兵隊仕様のゲルググ
ということは……。
「突撃機動軍の……
「正解さ。
博識だねぇ『白銀』のお坊ちゃん」
ゲルググの1機から通信が入ってくる。
女性の声だ。
荒くれ者ぞろいの海兵隊に所属している女性パイロットというのは、ジオン軍内でも有名だ。主に悪名でだが……。
まあ、俺はこの人物が誰なのかを知識として知っている。
「間違っていたら失礼。
貴官はシーマ・ガラハウ中佐で間違いないかな?」
どうやら当たっていたらしい。
シーマは鼻で笑う。
「はっ、『白銀』の大佐殿にまで知られているとは私も鼻が高いねぇ。
どうせ、ろくでもない話しか聞いていないだろう?」
既に敵の増援は海兵隊によって殲滅されている。
そしてこの言い方。
これは友軍から、腫れもの扱いされ続けてきた感じだろう。
だが、舐めないでほしい。
あの『
なにせ、オルテガは話が通じなかった。
今度は俺が笑い飛ばす番だ。
「安全な後方でしか騒げない
この窮地において、お前らは救援に駆け付けてくれた。
戦場で、それ以外に大事なことがあるのか?」
俺の返答はどうやらお気に召したらしい。
シーマの顔が、作り笑いから、本当に面白いものを見つけたという表情へと変わった。
「ハッ、違いないねぇ。
どうやら、予想していた
――背中はあずけるよ?」
「誉め言葉として受け取っておこう。
俺も背中をあずけよう。
残り5分、ここを死守だ。
構わんな?」
新しい敵の反応が出た。
ブルパップガンからビームライフルへと持ち替える。
シーマ艦隊が掩護についてくれる以上、無理に温存する必要もないだろう。
「ボーナスは出るんだろうね!?」
シーマの声に俺は叫び返した。
「終わったら上に掛け合ってやるよ!」
こうして、白銀色のアクト・ザクと迷彩柄のゲルググたちが、ア・バオア・クー戦、最後の戦場を駆け抜けていった。
「さて、これで最後の友軍が離脱したわけだが……」
少し困ったことが起きた。
2隻いたムサイであるが、1隻が奮闘の末に撃沈されてしまい、もう1隻はエンジンが損傷して片肺になったため、先に離脱させてしまった。
残ったゲルググたちはムサイの護衛をさせてサイド3に向かわせている。
要するに、足がない。
さすがにアクト・ザクの推力でサイド3までは無理だ。
「どうやら足がないようだねぇ、『白銀』の大佐殿?」
シーマから通信が入る。
そういえば、シーマ艦隊はザンジバルを保有していたんだったな。
若干にやついているのは、こちらに恩を売っておこうという打算の表れだろう。
生憎と――そういう打算にもとづいた関係は嫌いじゃないんだよな。
「どうやらそのようだ。
困ったなぁ。誰かがサイド3までタクシーしてくれると助かるんだがなぁ?」
こちらも露骨な棒読みで、取引を持ち掛ける。
シーマは一瞬呆けたような顔をした後、爆笑した。
「ぷっ、あっはははは。
いい度胸してるじゃないか」
だが、次の瞬間には真顔になった。
さすが荒くれ者ぞろいの海兵隊を率いてきただけのことはある。
「……ただじゃないよ?」
取引を踏み倒すほどボケているつもりはない。
しっかり払わせてもらうさ。
とりあえず、了承の意味を込めて、俺は機体の右手を上げた。
「ヘイタクシー、いっちょサイド3まで頼むわ」
こうして、俺たちはア・バオア・クーを後にした。
読んでいただきありがとうございます。
ようやくア・バオア・クー戦終了。
本当に負け続ける戦いが得意ですねこの主人公。
そしてみんな大好き(独断と偏見)シーマ様登場。
宇宙の蜉蝣2において、ア・バオア・クーの撤退戦に参加していたようなので、ここでぐらいしか接点を作る機会が無いなと思っていました。
シーマ様はガトーのような、相手も同じ志に違いないと思っている生真面目軍人とでは完全に水と油ですが、この主人公は相手に応じて対応が変えられるので、それなりにいいコミュニケーションが取れたのではないかと。
これ『黒い三連星』ゼミでやったところだ。
キシリアが撤退を判断した理由ですが、他にザビ家が生き残っているからですね。
「私が死ねばザビ家が失われる」って状況ではないので、『最悪、自身が死んだとしても兄と弟が残る。だからア・バオア・クーから離脱中に自分が死んでも、彼らに迷惑をかからない行動を選択した』という感じです。
なのでシャアも見逃した感じ。
多分キシリアが1人で逃げていたら「ギルティ……」でズドン。
シャアとアムロですが、多分MS戦が終わったらノーサイドで、普通に語り合ったんだと思います。
セイラさんも多分合流して3人で対話するガンダム最終回。
……撮れ高最悪では?
【完全なる私用】
ちなみにX(Twitter)にて、裏設定とかではないと思いますが「私がこう解釈している」みたいな話をちょくちょくしていますので、よろしければ活動報告からでも覗いて見てもらえると嬉しいです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=336388&uid=14458