超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。


第54話 「ここでオリチャー発動!」「やめろぉ!」

 

 

 シャアの突然の告白に、この場にいる全員が凍り付いたまま数秒が過ぎた。

 その中で、いち早く復帰して声を上げたのは、シャアの親友のガルマだった。

 

「ど、どういうことなんだシャア?」

 

 たしかに、普通に考えると衝撃的な内容すぎて意味が分からないだろうな。

 かく言う俺は「もう知らねぇから好きにしろ。お前が始めた物語だろ」と、半分どうにでもなれモードである。

 

 俺からしてみれば、その場のノリで決めたようにしか思えないんだが、どうするんだシャア?

 

「言葉の通りだよガルマ。

 私はシャア・アズナブルの()()()()()()()()()()()()ジオン軍士官学校へと入学した。

 さすがに本名で入学するわけにはいかないからな」

 

 こいつ、ふてぶてしいにもほどがあるだろう。

 

 シャア・アズナブル(本人)を謀って1人だけ定期便に乗せて、お前を殺すつもりだったキシリアに誤認させて、船ごと爆殺させたのはお前だよ。*1

 なんで、本物のシャアが善意で協力したみたいなトーンで喋ってるんだ。

 

 こいつ、『嘘は言っていないが全部は喋らない』って、詐欺師の論法で押し通すつもりだわ。

 

 心の中で激しく突っ込みつつも、俺の精神はすでに宇宙猫のような状態に陥っている。

 何も言うべきことが思いつかないので、静観するしかない。

 

 まあ、この世界でこいつは、ザビ家を誰1人として殺していない。

 リノを謀殺した件については、唯一証拠を持っていた俺が、その証拠をシャア本人に抹消させたので表に出ることはない。

 あとは、シャア・アズナブル(本人)の謀殺さえ気取られなければ、こいつの手は一般人の血には塗れていないことになる。

 

 ならばこのタイミングでのカミングアウトも、そこまで大事にはならないかもしれないが、どうなるのか……。

 

 ――なにやらガルマがうつむいて震えているな。

 

「……らしい」

 

「ん?」

 

 ガルマは顔を急に上げ、叫んだ。

 

「素晴らしい!」

 

 そのままシャアに詰め寄るガルマ。

 さすがのシャアもその反応は予想していなかったらしく、軽くうろたえている。

 

「が、ガルマ?」

 

「ジオンの国父たるダイクンの遺児が、父の名を冠する国のために名を偽ってまでも……!

 シャア、いやキャスバル!

 君の事情や祖国に対しての想いを汲み取ってやれなかった僕を許してくれ!」

 

 ガルマが泣きながら、シャアの両肩を掴んでいる。

 基本的に思い込みが激しい上に、人の良いガルマのことだ。

 彼の中では、シャアの憂国の義士としての感動的な物語が展開されているのだろう。

 

 シャアの内心描写さえ無視すれば、状況証拠としては大体あっているので、否定できる要素がないな……。

 

 ガルマの反応に、さすがのシャアもたじろいでいる。

 少しは親友をペテンにかけている後ろめたさでも感じればいい。

 

「あ、ああ……」

 

 さすがに否定するわけにもいかず、シャアも曖昧な肯定をすることしかできない。

 

「そうか、そうだったのかキャスバル!

 貴様という奴はまったく!

 俺にぐらいは話しておかんか!」

 

 ドズル中将も涙を流しながらシャアの背中を叩いている。

 シャアが少し痛そうだ。

 ドズル閣下、もっと力込めていいですよ。

 背骨にヒビ入れるぐらいまでなら許可します。

 

 ラル中佐まで泣いている。

 まあラル中佐にとっては昔、自分が命がけで脱出させた幼子が立派に育ってくれたようにしか見えないだろうから仕方ないか……。

 自分の父であるジンバ・ラルが、幼いシャアに復讐心を吹き込み続けたなんて事実、知らない方がいいに決まっている。

 

 そして、コンスコン少将は満足そうに頷き、マ・クベ中将は興味深そうな顔で静観している。

 ダルシア首相に至ってはどうしていいのか分からずに完全に困惑顔だ。

 

 

 どうするんだよこの状況。

 

 

 キシリア少将は裏の事情が分かっているはずだ。

 そりゃあ、本物のシャア・アズナブルの乗った宇宙船を爆破したのはこの人だからな。

 シャアが本物を謀殺したことを知っていれば、そのシャアの動機が復讐だということも薄々は感づいているだろう。

 

 実際にはまったく復讐していないので、それを言い出すことはできないだろうが……。

 俺がシャアを思い止まらせたのもあるだろうが、そもそもザビ家が身内同士で自滅しすぎなんだよ。

 

 そんなキシリア少将の内心は現在、凄いことになっているだろう。

 ニュータイプとして心を読むまでもなく、ドズルとガルマとシャアの3人を見る目が、「マジかこいつら……」って雄弁に語っている。

 

 言いたいことは分かりますが、それはもう飲み込んでください。

 そこの泣いている2人が、あなたが今後のジオンを託した連中です。

 

 先ほどから感動しっぱなしのガルマが、シャアに語りかけている。

 

「やはり、連邦の圧政に苦しむ国民を見捨てられなくて来たのかい?」

 

「……それもあるな」

 

 実に白々しい。

 すごく蹴っ飛ばしてやりたい。

 1発ならアルテイシアも許してくれるかもしれない。

 アルテイシアと面識はないけど。

 

 当初はザビ家への復讐を考えていたって部分、なかったことにする気だぞこいつ。

 

 ただ、原作でシャアがガルマを謀殺したのも『やれそうだから試してみたら本当に殺せちゃった』ぐらいには復讐する気なかったからなこいつ。

 最初から、からっぽの復讐心(ジンバ・ラルの怨念)でしかなかったのは間違いないのだろう。

 

「今後は、キャスバルと呼んだ方がいいかい?」

 

 ガルマの質問に、シャアは首を振る。

 

「いや、これまで通りシャアで頼む。

 君を見ていて思ったが、私に政治家としての適性はない」

 

 そうだな。

 お前、政治家としての能力は超一流だが、性格的に政治家にまったく向いてないからな。

 

 そうでなければ、ブレックス准将に託されたエゥーゴを途中で放り出して失踪しないだろうし、ボロボロだったネオ・ジオンを『フィフス・ルナを地球に落とせる』レベルまで再興しつつ「私はあこぎなことをやっている」とか言わないだろう。

 

 しかし、さっきから俺が横から、凄い目で見ていることには気付いているだろうに、このニュータイプの図太さはどこから来たのだろうか。

 

「これからのジオンは、君が民と共に率いていくべきだ。

 私がここで名を明かしたのは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と思ったからに過ぎない」

 

 ここぞとばかりに、シャア本人にとっての()()をガルマに押し付けていくなこいつ……。

 でもこれは実際、政治的にもかなり大きな、外向けのメッセージとなるのではないだろうか。

 

 ダイクンの遺児であるキャスバル・レム・ダイクンが、そのダイクンを暗殺したという噂もあるデギン公王の末子であるガルマ・ザビを、()()()()()()()()()()として認めた構図になる。

 

 元々、敵対派閥ですら友好的な中立派閥へと変えてしまうほどのカリスマ性と、人たらしの才覚を持っているのがガルマ・ザビという人物だ。

 ダイクン派の連中も、彼にだけは敵対しにくいという状況だった。

 

 そんな状況で、キャスバルとガルマの友情という美談だ。

 しかも、証人としてラル家のランバ・ラル中佐までいる。

 

 こうなってしまうと、ダイクン派の連中もガルマへと協力することになるだろう。

 皮肉なことに、ジオンが敗戦するからこそ、ジオンが強力な一枚岩になるという構図だ。

 

「なので、私がキャスバルでいるのはこの場限りだ。

 今後はまた、シャア・アズナブルとしてよろしく頼む」

 

 こいつ、政治的役回りをガルマに押し付けたいがために、ここまでの構図を即興で立てたのか……。

 恐ろしいほどの才能を、恐ろしいほどに無駄遣いしている。

 シャアって怖いわ。

 

 そんなシャアの、事情を知らなければ親友への激励としか取れないメッセージに、ガルマが更に涙を流しながら「うん……うん!」と頷いている。

 

 感動の1シーンのはずなのに、舞台裏を知っていると茶番劇なのが酷すぎる。

 俺とキシリア少将のため息が重なった。

 

 

 

 

 シャアの正体カミングアウトも無事(?)終えて、後は各々のやるべきことに向けて解散というタイミングで、俺は軽く手を上げた。

 

「最後にひとつだけよろしいでしょうか?」

 

 キシリア少将がこちらへ視線を向ける。

 

「エルンスト大佐、何だ?」

 

「終戦に向けていざ、というこの時に申し訳ありません。

 ですが、この時しか言い出せる機会がありませんでした。

 ザビ家のお三方に、お願いしたいことがございます」

 

 ふむ、とキシリア少将は少し黙考し、返した。

 

「貴様はジオンにこの1年、とてもよく尽くしてくれた。

 言ってみよ」

 

「ありがとうございます。

 それでは……。

 お三方は、アサクラ大佐という人物を知っておられますか?」

 

 

 

 結論から言うと、アサクラ大佐はアクシズの受け入れ対象から外され――いわゆるブラックリスト入りすることになった。

 代わりにと言うべきか、シーマ艦隊を含む海兵隊の名誉回復の通達がキシリア・ザビ少将とドズル・ザビ中将の連名で出されることとなった。

 

 種は単純である。

 

 元々、ブリティッシュ作戦における、コロニー確保のための毒ガス散布作戦は突撃機動軍(キシリア傘下)のアサクラ大佐に命じられていた。

 だが、アサクラ本人は熱烈なギレン総帥のシンパであり、キシリアから命じられた命令を不服と感じていた。

 よって彼は作戦の実行のすべてを、配下のシーマ艦隊に丸投げし、シーマ艦隊は『散布するのは催涙ガス』だという嘘の情報を与えられて、毒ガスをコロニーに散布することになった。

 しかもアサクラ大佐は、毒ガス散布の全責任をシーマ中佐に押し付けて、自身は知らぬ存ぜぬを決め込んだ。

 

 これがジオン軍における、シーマ海兵隊の悪名の正体である。

 

 普通ならばこの悪名を覆すことはできないだろう。

 何せ、証拠というものがない。

 中佐であるシーマが何を訴えても、物証がない以上、大佐であるアサクラが言ったことの方が信じられてしまうのが、軍隊という組織だ。

 

 だが今、それをひっくり返すことのできるカードがすべて揃っている。

 

 この場にいるのはまず、アサクラに命令を出した、当の本人であるキシリア少将。

 次に、ザビ家の人間にしてダルシア首相の補佐として、毒ガスの持ち出し等の全情報を管理している総帥府のすべてに、自由に出入りできるガルマ・ザビ。

 そして最後に、今後のジオンの主力艦隊となるアクシズ艦隊の総司令官たるドズル・ザビ中将がいる。

 

 毒ガス散布作戦がギレン・ザビ総帥からキシリア少将へ、そしてキシリア少将からアサクラ大佐へと発令されている作戦記録は、グラナダと総帥府をそれぞれ探せばすぐに見つかった。*2

 また、アサクラ大佐の名義で、毒ガスが軍の備蓄から正式な作戦行動として持ち出された記録も、総帥府ですぐに見つかった。

 義憤に燃えるガルマが、物凄い速さで資料を見つけ出していたが、彼の性格を考えると当然の結果だった。

 

 全員で資料を確認した後、その場でキシリア・ザビ少将とドズル・ザビ中将連名による海兵隊への名誉回復宣言が通達された。

 並びに軍の通信回線を通じて、アサクラ大佐に対し、怒り狂ったドズル・ザビ中将の叱責が届けられることになった。

 

 これで、ジオン本国とアクシズには、アサクラ大佐の居場所はもう存在しない。

 海兵隊の面々も、多少は留飲を下げられたと思いたいな。

 

 なお、その発令の後、アサクラ大佐は数隻のムサイとともにサイド3から姿を消していた。

 同じギレンシンパであるデラーズのもとにでも転がり込むとか――奴にできるのは、どうせその辺りだろう。

 

 今はこれで十分だ。

*1
なお、ジ・オリジン本編で本当にやっている。

*2
グラナダの記録を探したのは、通信回線で指示を受けたキシリア少将の部下だったが。




読んでいただきありがとうございます。


シャア、ちゃっかり復讐を、最初から考えてなかったことにする。

ガルマが良い奴すぎるのもありますが、ザビ家を1人も殺していない以上、この解釈は仕方ないかと。
士官学校時代もガルマが怪我した時、普通に助けてましたからね。

ガルマに流されてドズルも信じ込みました。
すでに自身の死を覚悟しているキシリアが黙っている以上、これはもう止められんわ。



ついでにシャア、政治的なしがらみを全部ガルマに押し付けることに成功する。

だって、傍から見たらどう見ても『ダイクンとザビの歴史的な和解』なのよ。
しかもラル家の生き残りが見届け人なのよ。

ガルマの立場を脅かさないという宣言に等しいので、キシリアさんも安心して死ねる。

今後、シャア=キャスバルはスペースノイドの代表としてではなく、ジオンを守るためにザビ家支配の母国へと危険を顧みず舞い戻った、真の騎士として受け継がれていくことでしょう。

ホンマこいつは……。




アサクラ処分ダイジェスト。

随分あっさりしていると思われるかもしれませんが、ここまでアサクラをひっくり返せる材料がそろっている状況で、アサクラなんて小物に時間をかけるのも、なんか違うよなぁとw

アサクラに対する叱責は『部下(シーマ)に任務を丸投げで押し付けたこと』と『その責任を全てシーマに押し付けたこと』がメインです。

『毒ガス注入』は一応ジオンの正式な作戦扱いなので責任はギレンにあります。
『催涙ガスだと嘘をついた』のは『部下が良心の呵責から作戦が遂行できなくなるという事態を危惧した』という言い訳の余地が残ってしまいますので。


後でたぶんドズル中将がリリーマルレーンに頭を下げに行ってる。
なんか自分たちの名誉が回復される通知が来た瞬間、現時点での軍のトップが、直々に頭を下げに来た時の海兵隊の心境はいかに?
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