超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。

遅れてしまい申し訳ないです。


第58話 会談の続きと月面都市

 

 

 デラーズからの勧誘という嬉しくないサプライズが終わったので、俺たちは休憩を取ることにした。

 しかし、いくらアクシズが片道に数ヶ月かかる遠方だといっても、俺への勧誘メッセージをガルマに宛てる根性は恐れ入る。

 まあ実際に俺がこのメッセージを受け取っている以上、状況を読む能力自体はかなりのものがあるのだろう。

 

 ……本当に、ギレン・ザビの狂信者でさえなければなぁ。

 本当に惜しい。

 

 

 会議室のテーブルに着いて、出されたコーヒーを飲みながら、俺はガルマと今度はプライベートな情報のやり取りに移った。

 

 まず、俺の実家の孤児院だが、年齢が満たない弟妹たちを除いて、全員が無事にジュニア・ハイへの進学ができたようだ。

 最年長の兄なんかは、この前新設されたアナハイムの工業学校に進学したらしい。

 実質的な留学であるため、費用もそれなりにかかっただろうに。

 ガルマたちは孤児院の支援と保護という約束を守り続けてくれているようだ。

 

 ついでに言うと、ガルマは福祉政策の手綱もしっかりと握っているらしく、ジオン全体で見ても新たな戦災孤児は、別の孤児院で十分にキャパが足りたらしい。

 なのでこの3年間、新しい孤児がやってくる(兄弟が増える)こともなかったようだ。

 負担が増えなかったこともあり、マザーも元気らしいので、ひとまずは安心である。

 

 一度顔を出しておきたいが、デラーズの動き次第ではスケジュールの余裕がなくなる可能性がある。

 出せるとしても、アクシズに帰還する直前とかになってしまうだろう。

 

 そして次に――。

 

「これが頼まれていた『彼ら』の新しい戸籍の一覧と、会社の登記だ」

 

 そう言って、ガルマがテーブルの上に厚めの封筒を置いた。

 

 俺はそれを受け取って、中に入っていた書類の束に目を走らせていく。

 内容に齟齬がないことを確認し、再度中身を封筒へとしまった。

 

「すまないな。

 量が量だけに手間だっただろう?」

 

「なんてことはないさ。時間の余裕はあったからね」

 

 俺が受け取ったのは、シーマ海兵隊員全員の新しい戸籍情報の一覧だった。

 

 以前、シーマ中佐たちに「運送会社とか向いてそうだな」と言ったことがある。

 その時の彼らの反応は、総じて「お尋ね者でなきゃ、やれたんでしょうがね」という反応だったのだ。

 

 彼らはこれまで、アクシズとジオンとのやり取りの一部を担ってもらっていたという功績もある。

 恩義や功績には、報酬をもって報いるのが俺の流儀だ。味方に対して「騙して悪いが……」なんて冗談じゃない。

 だから俺はドズル中将の許可を得た上で、前もってガルマに彼女たちの新しい戸籍の作成を依頼していたのである。

 

 アサクラの命令によるものとはいえ、シーマ海兵隊が戦争犯罪を犯していたという事実は消えない。

 彼女たちが自分の意志で新しく一歩を踏み出すには、それは強い枷となってしまうだろう。

 だから、ここでその枷を叩き壊しておくことにした。

 

 シーマ・ガラハウ中佐という存在はここで消える。

 そして、新しくエフェメラ・ハントという人間が誕生する。

 

 また同時に、新しくハント輸送船団という会社が設立される。

 身分を一新された海兵たちは、これで表舞台に復帰できるだろう。

 

 彼女たちの会社は今後、これまでと同様にアクシズとサイド3との秘密物流の一端を担ってもいいし、その合間に民間の輸送を担ってもいい。

 それは彼女たちの自由である。

 

 これもすべてガルマのおかげである。

 

「それでも助かった。

 こちらで用意しようにも、数が数だからな。

 共和国の協力があるとないとでは大違いだった」

 

 実際問題として、数名程度なら俺がハッキングして戸籍を捏造することはできる。*1

 だが人数が数十名規模になってくるとさすがに手間であるし、そこまで大人数だと露見するリスクもさすがに大きくなってくる。

 ジオン共和国という、戸籍を管理している側の協力が得られるのなら、それに越したことはなかったのだ。

 

 1年戦争での海兵隊への不遇な扱いに、ガルマも心を痛めていたのだろう。

 晴れ晴れとした様子で言ってくる。

 

「ソーラ・レイからマハルへの復元工事もほぼ終わりつつある。

 彼らにとっては吉報になるといいんだが……」

 

 俺はそれを聞いて感心した。

 

 本当にすごいなガルマ。

 ソーラ・レイはコロニーを銃身とした巨大レーザー砲だ。

 円筒形部分は残っていても、その底部は抜けて宇宙空間と繋がっていたし、円筒内側にある建造物も全く残っていない状態だった。

 それを3年と少しで元のコロニーへと復元するとか、並大抵のことではないだろう。

 

 掛け値なしに感心している俺に、ガルマが続ける。

 

「そして君の偽装戸籍なんだが、こちらになる」

 

 手渡してくる書類を受け取って、内容を確認する。

 今回の地球圏滞在の間だけ使う用途の、即席の偽造戸籍もガルマに依頼しておいたのである。

 

 シーマ海兵隊と違って、俺は滞在期間中だけ誤魔化せればいいため、彼女たちの戸籍と比べると雑に作るように頼んでいた。

 

「ありがとう。

 ん? 名前の欄がないぞ?」

 

 別サイドからの難民の子供とかいう、それっぽい経歴が並べられているが、名前の欄だけが空欄である。

 

「名前は君が決めてくれればいいよ」

 

 そうガルマが言ってくる。

 

 そう言われてもどうしようか。

 考えつつ戸籍にもう一度目を通す。

 

 即席では誤魔化せても、俺の目から見ると色々と雑だ。

 後々、精査されれば速攻でバレるだろう。

 

 いやまあ、そう頼んだからなのだが。

 デラーズ紛争の間に何が起こるか読みきれない以上、その期間だけ使うものと割り切っていたからな。

 ジオン共和国との繋がりだけ隠蔽できるのならば、後で俺が『白銀』だとバレてもそれは許容範囲と割り切っている。

 

 なので、グリプス戦役が俺の知識通りに来たとしても、その時は別の戸籍をあらためて用意する必要があるだろう。

 だから偽名も一時的なものであるし、そんなに深く考えなくてもいいはずだ。

 それにしても偽名か……。

 

 ああ、そうだ。

 

「とりあえず――デュオ・マックスウェルとでもしておこう」

 

 お前の名前は偽名に用いられる運命なのである。*2

 

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「よき交流でしたな」

 

 そう言って、私は対面しているアナハイムの人間と握手を交わした。

 

「こちらこそ、かの有名な『青い巨星』殿の意見を得られて嬉しい限りでした。

 技術者同士の交流も良い感触だったようですし、機会があれば次回も行いたいものですな」

 

 そう言って笑うアナハイムの重役――たしかオサリバンとかいったか――に別れの挨拶を済ませ、私――ランバ・ラル大佐はここ数日の常宿としているホテルへと戻っていた。

 先ほどまで、ジオン共和国とアナハイム・エレクトロニクスとの非公式の技術交流が行われていたのだ。

 私はそのジオン側の代表として、月面都市でアナハイムの重役との友好関係を構築することが、今回の任務だった。

 

 ジオン公国は停戦協定を受け入れてジオン共和国になる際、賠償の一環として、ジオンの軍需産業を半分程度売却している。

 売却された半分を連邦が購入し、残りを購入したのがアナハイムである。

 つまり、アナハイムは旧ジオン公国の軍需産業の1/4を所持していると言ってもいい。

 

 だが、さすがに技術や箱モノを購入しただけでは、全体的なノウハウが不足しがちとなってしまう。

 その弱みを突いたのがジオン共和国だ。

 今回、行われたのはジオン共和国のパイロットと技術者をまとめてフォン・ブラウンに派遣し、その知見を得たアナハイムに恩を売ることを目的とした交流だった。

 

 ――表向きは、だが。

 

 無論、しっかりとアナハイム内へのパイプの構築もできているので、表向きの目的に嘘はない。

 だが実のところは、交流会というのは盛大な囮でもある。

 

「お疲れさまです、ラル大佐」

 

 ホテルの自室に戻った私に声がかけられる。

 視線を向けると、部屋の中には1人の少年が見えた。

 ここ3年ほど会わなかったので、すっかり背が伸びており、一瞬誰かと思ってしまう。

 

 そして、相変わらず気配が読みにくい奴である。

 

「もう戻っていたのかエルンスト。

 首尾はうまくいったのか?」

 

 部屋の中に立っていたのは、戦友でもあるエルンスト・ヴァルツァー大佐だった。

 かつては部下だったが、私が予備役になった際に階級で抜かれ、先日私が昇進することによって階級が並んだという、上下関係が分かりづらい関係だ。

 本人は「年上ですし先任士官なんですから」と言って私に譲ってくれるので、それに甘えさせてもらって部下だった頃のような態度を取らせてもらっている。

 

 数日前、ガルマ様から首相府に呼び出された私は、3年ぶりにこいつと再会した。

 そのまま、私はこいつとアナハイムとの交流メンバーを引き連れて、月面にやって来て現在に至っている。

 

 こいつの仕事は、我々がアナハイムと交流している間、潜入して内情を探ってくることだ。

 そう、我々の裏の任務は、この小僧の動きをアナハイムから隠すための囮である。

 とはいえ、交流メンバーでこの事実を知っているのは私1人であるため、他の面々は完全に技術交流のつもりだっただろう。

 

 エルンスト提案のこの作戦は、ジオン共和国としてはメリットしかなかったため、ガルマ首相やマ・クベ大将も承諾して行われた。

 

 成功してアナハイムの情報を得られれば、共和国としてはアナハイムや連邦の技術レベルが知れて丸儲けである。

 たとえ失敗しても、エルンスト・ヴァルツァー大佐はアクシズの人間であるため、ジオン共和国とは無関係で通せる。

 エルンスト本人にのみリスクを負わせる作戦のようだが、この点をその当人がメリットとして主張してきた以上、誰も難色を示せなかった。

 

 まあ私としては、この小僧が潜入工作で失敗するイメージがそもそも湧かなかったのだが。

 

 エルンストは不敵な笑いを浮かべると、懐から1枚のディスクを取り出した。

 

「色々と取れました。

 面白いことになっているようですよ」

 

 そのまま、部屋に設置しておいたコンピューターへとディスクを差し込む。

 コンピューターから光が走り、ホテルの壁をプロジェクターとして、画像が表示された。

 

 それに記されている情報を見て、私は息を飲む。

 

「こ、これは……」

 

 壁に映し出されたのは数機のガンダムの概要図と、その詳細であった。

 

「ガンダム開発計画。

 連邦からの予算も潤沢に投入されているようです。

 モビルスーツ用最新技術の開発に、相当力を入れていると見ていいでしょう」

 

 エルンストの所感を聞きながら、情報に目を走らせていく。

 私とてモビルスーツを開発した初期メンバーの1人である。

 技術者でなくともある程度の情報ならば読み取れる。*3

 

 ジオンの技術との格差を埋めるための、ジオン系技術と連邦系技術の統合を主目的とした、新規技術の開発が目的か。

 ガンダムの地上用発展型の1号機、()()()()()()()()()の核搭載MSの2号機、ガンダムにモビルアーマーの攻撃力を持たせるための3号機、空間戦闘における白兵戦能力を追求した4号機。

 どの機体も凄まじいスペックであることが伝わってくるが……うーむ。

 

 想定される限界数値とか、まさかと思うが――。

 

「この計画、仮想相手に()()を想定していないか?」

 

 そう言うと、エルンストは苦笑しつつ頭を押さえた。

 

 当たりだったか。

 私もつられて苦笑する。

 

 対コロニー落とし用の2号機は別としても、オデッサの撤退戦でこいつにぶつけるための1号機。

 ソロモン攻略戦にて、ビグ・ザムに乗ったこいつを止めるための3号機。

 アクト・ザクに乗って、ア・バオア・クーで暴れまわるこいつを止めるための4号機。

 

 コンセプトが噛み合いすぎている。

 このデータを発見した時、こいつも頭が痛かっただろう。

 こいつは1年戦争で暴れ過ぎた。

 完全に連邦のトラウマになっているじゃないか。

 

 ただ、モビルスーツの性能だけが勝敗の要因とはならない。

 凡庸なパイロットがこれらの機体に乗っていても、こいつならば、たとえブグに乗っていても返り討ちにするだろう。

 

 4つも機体を作ったところで、乗りこなすことができるパイロットを見つけることはそんなに簡単ではない。

 噂に聞くガンダムのパイロットなら十分だろうが、それでも1人しかいない。*4

 あくまでも技術検証とそのフィードバックのための計画と見るべきだろう。

 

 だとすると技術検証のスケジュールは――。

 

「ん?

 2週間後に1号機と2号機が地球に降りるのか?」

 

 エルンストは、かなり深いところまで情報を抜いてきたらしい。

 新型のペガサス級でトリントン基地に移動するとある。

 

 トリントン基地といえば、核貯蔵庫があったな。

 ならば2号機のテストが主目的か。

 

 そこまで考えたところで、エルンストが静かに告げてくる。

 

「デラーズの狙いが見えてくると思いませんか?」

 

「――たしかにな」

 

 アナハイムはジオニックやツィマッドの1/4を購入している。

 しかも人員ごとだ。

 

 デラーズの奴が、この情報を入手していたとしても何も不思議ではない。

 

「だが、奴の目的が本当に2号機の強奪であったとしても、我々には何の対処もできんぞ?」

 

 連邦軍に垂れ込んで警戒を促そうとしても、連中がジオン共和国からの情報に素直に従うとは思えない。

 それ以上に、なぜ我々がガンダム開発計画のスケジュールを握っているのかと突かれて、共和国の立場が悪化するだけだ。

 

 それはエルンストも分かっているようで、奴はお手上げといった様子で首を横に振った。

 

「ええ、ですから、デラーズに対しては連邦軍に頑張ってもらうということで――。

 俺は今後に備えた仕込みをしようかと」

 

 こいつ、さっき我々を囮としたように、今度はデラーズを囮として使うつもりか。

 ゲリラ戦術の基本はこいつの士官学校時代に私が教えたものであるが、優秀すぎる生徒を持って本当に嬉しい限りだよ。

 

 

 

 

*1
入学金・寄宿費・学園援助金の未納と資産調査程度なら容易に誤魔化せる。

*2
ヒイロが偽名を名乗る時は大抵これ。とばっちりを食らうデュオも割とお約束。

*3
『黒い三連星』は除く。奴らには技術的な話は理解できない。

*4
なお「『白銀』と殴り合えるとかニュータイプって怖っ」と飼い殺し中。




読んでいただきありがとうございます。
なんとか1週間開けずに投稿できました。


ガルマとの会談からの、月面にてガンダム開発計画の概要入手です。

孤児院の面々とシーマ艦隊については、個別に場面を描写すると冗長になりすぎると判断してこうなりました。
「アナハイムの学校」と「エフェメラ・ハント」についてはニヤリとしていただけたら嬉しいです。

エフェメラさんについては、今後もアクシズと共和国の物流を担ってもらう感じではありますが、拠点をサイド3にして、アクシズと往復していない時期(常時往復してるわけではない)は民間の物流も担って、好きに稼いでねって感じ。



主人公の偽名については一回やってみたかったんです許してください



ラル大佐。

序盤の主人公の保護者B再登場。(Aはドズル)
ガルマが首相になったのと同時に大佐に昇進しました。
そしていい加減年貢の納め時は来たようです(真面目な会話シーンだったので入れようがなかった)
多分、月面に来るまでにおめでとうとは言われていると思います。

後日、ドズルから「おせーんだよてめー(意訳)」というメッセージが届けられる模様。



ガンダム開発計画。

気が付いたら2号機以外、対主人公想定して開発されていた。
いやまあ1年戦争で暴れ過ぎましたし、こうなるのではないかなと。
1号機が対ギャン、3号機が対ビグ・ザム、4号機が対アクト・ザク。
この世界線ではマ・クベが核恫喝していないので、2号機の開発目的はコロニー落とし阻止用途がメインです。

この設定全部、書き始めてから浮かんだ(オリチャー)
いや、月面に行く展開自体、書き始めてから浮かんだオリチャーなんですが。

なお、中身が天パでなければ普通に返り討ちにする模様。


とりあえず、これでデラーズの襲撃スケジュールが判明したので、次回から裏で動けると思います。




【完全なる私用(再掲)】
X(Twitter)にて、作品の裏話みたいなもの?をちょくちょくしています。
よろしければ覗いてみてもらえると嬉しいです。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=336388&uid=14458

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