超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。


本当にモビルスーツに乗らないなこの話。







第61話 フォン・ブラウンの戦士――はいない

 

 アムロ宅でシャアの近況を含めた諸々の情報交換をした俺は、泊まっていけば、という誘いを固辞して、拠点のホテルに戻ることにした。

 デラーズが宣戦布告をした以上、のんびりしていては地球と宇宙の一般航宙便が一時的に差し止められる可能性もある。

 それまでに宇宙に出ていないと、以降の予定に影響が出かねないし、何より帰りがとても面倒くさくなってしまう。

 

 セイラがいる以上、アムロはそうそう腐らないだろうし、ボッシュを置いてきたのは野暮だった気もしないではない。

 だが、仮にセイラが妊娠でもした場合、即座にアムロへの人質になってしまうだろうし、そうなった場合に備えて、セイラをフォン・ブラウンにでも脱出させる手筈を整えられるボッシュは、アムロにとってもかなり得難い人材のはずだ。

 無駄になることはあるまい。

 

 拠点にしていたホテルに戻ると、俺は補佐の軍人とともにいったんニューヤークに戻る。

 部屋はそのまま長期の契約を維持したままだ。

 彼には、スペースポートから宇宙に上がる俺を保護者のような顔で見送った後にシャイアンに戻って、アムロの周囲に俺の息のかかった人間を送り込む工作を担当してもらうことになる。

 連邦軍のメインデータベースに俺がバックドアを仕込んでおいたこともあるので、それを使えば、そいつだけでも十分やり遂げられる仕事だろう。

 

 そして、アムロ邸を退出してから24時間も経たないうちに、俺は再びフォン・ブラウンの民間用スペースポートへと降り立っていた。*1

 フォン・ブラウン、ニューヤーク、シャイアンのルートを往復した形になるな。

 ビジネスマンか何かかよ俺は。

 

 とりあえずビジネスホテルでも取るかと思いながら歩いていると、俺の前方に1人の男性の姿が見えた。

 禿げた頭に顎髭のスーツ姿の男性は、こちらを確認するとゆっくりと一礼した。

 

「お待ちいたしておりました、大佐」

 

 これが本当のビジネスマンということか。

 まめなことだ。

 

 先日、潜入してデータを引っこ抜いて来るにあたって、関係者の顔と名前はすべて頭に叩き込んである。

 奴が俺のことを知っているように、俺も奴のことを知っている。

 

「こちらが取ったアポイントメントは、数日後だったと思っていたが?

 オサリバン常務」

 

 そう言って、俺はアナハイム・エレクトロニクス、フォン・ブラウン支社の常務、オサリバンと握手を交わした。

 

「かの『白銀』と面識を得られるのならば、それより優先されることなどございません。

 ホテルの部屋をお取りしております。

 まずはごゆっくり旅の疲れをお癒しください」

 

 そう言って、オサリバンはスペースポートのVIP送迎用スペースに停めてあるリムジンに俺を案内する。

 まあ、ホテルを自分で取らずに済んだ分、手間が省けたと思うことにするか。

 

 

 

 夕飯をホテルのレストランでオサリバンとともに取った後で、俺は気分転換を兼ねて、フォン・ブラウンの街中を歩いてみることにした。

 奴とビジネスの話をするのはアポイントメントの当日ということで、歓談しながらのディナーということになったのだが、味はともかくとして、オッサンが13歳の子供にひたすらおべっかを使ってくるのを受け流しながらの食事は精神的に疲れた。

 こちらがニュータイプ能力により、ある程度感情を読み取れるのでなおさらである。

 

 しかも最高級ホテルのスイートをアナハイム持ちで数週間借り上げて、「滞在の間ご自由にお使いください」とか、どれだけこちらとのパイプ構築に力を入れているんだか……。

 

 

 夜の時間帯になって街全体の灯りが消されて、疑似的な夜となった街並みを歩いていく。

 ついつい街の地理を頭に叩き込んでしまうのは、職業病と言ってもいいかもしれない。

 ある程度歩き回り、繁華街に入ろうとしたところで、俺は少し気になる思念を感じた。

 

 どうも複数人の喧嘩のようなのだが、片方が無抵抗というか、無気力というか――。

 さすがにただのリンチとかなら見過ごしておくのも気が咎めるというのもあり、俺は様子を見に行くことにした。

 モノレールの高架下横、ビルに挟まれた空き地でやりあっているようだ。

 ――と、既に終わったのか、男が3人去っていくな。

 

 俺は静かになった空間へとゆっくりと歩いていく。

 そこに倒れている男が1人、連邦軍の制服で黒髪の若い男性だ。

 

 俺は呟いた。

 

「よりによってこのタイミングだったか……」

 

 つまり、俺は逃げ出したコウ・ウラキが、チンピラたちに殴られて意識を失った直後の場面に出くわしたというわけである。

 

「どうするかなぁ」

 

 少し悩む。

 

 原作ならこの場面でコウは、元ジオン公国大尉であり現在はジャンク屋をやっている、ケリィ・レズナーに拾われる。

 そして、ケリィとの交流や彼が修理していたヴァル・ヴァロの修理を介して、自身を見つめ直したコウはパイロットとして再起することになる。

 だが、この世界ではフォン・ブラウンにケリィ・レズナーはいない。

 彼は1年戦争で片腕を失わなかったため、いまだに現役のパイロットとしてジオン共和国国防軍で元気にパイロットをやっている。

 たしか今は出世して少佐になっているはずだ。

 

 そんなわけで、この場でコウを拾って介抱してくれる人間はいない。

 ――俺を除いて。

 

 正直、見捨てても大勢に影響はないだろう。

 

 原作『機動戦士ガンダム0083』において、たしかにコウ・ウラキは主人公であり、アルビオンの面々は主人公陣営としてメインのキャラクターではある。

 だが、作品の展開上『デラーズ紛争』という舞台においては、彼らは徹底的に蚊帳の外である。

 情報も戦力も回されず、自身の判断――悪く言えば勝手な判断で、盛大な独り相撲を取り続けているという、ある意味可哀想な役回りである。

 

 それどころか、後半はその判断がひたすら裏目に出て、『連邦に寝返った、味方であるはずのシーマ艦隊を攻撃して撃滅』したり『シーマ艦隊への攻撃を優先して、ソーラ・システムの防衛に参加しない』とか、どちらかというと状況を悪化させる要因だ。

 仮に、アルビオンがシーマ艦隊を味方であると飲み込んで、コウがガトーの足止めに終始していたら、ソーラ・システムは普通に落下するコロニーを蒸発させていただろう。*2

 

 さらに言えば、この世界にはシーマ艦隊なんてもう存在していない。

 似たような顔つきの別人、エフェメラ・ハント率いる民間輸送船団が存在するだけだ。

 ガトーの代役はマンスフィールド大佐がこなすとしても、前提とされる状況は完全に違っているだろう。

 そもそも原作より戦力が充実したデラーズ・フリート相手に、たとえガンダムを有していようとも、アルビオン隊だけでできることなどたかが知れている。

 

 なので、コウ・ウラキが再起しようが引退しようが、大勢に影響はないと判断できる。

 だがなぁ……。

 

 大勢に影響があるとかないとか以前に、殴られてぶっ倒れている人間をこの場に放置していくのは、人間として気が引ける。

 俺は陣営としてはジオンだがアクシズ派閥だ。

 現状では、連邦軍と積極的に敵対しているわけでもない。

 原作のケリィほど面倒を見るつもりはないが、手当てぐらいはしてやってもいいだろう。

 

 俺はそう判断すると、気を失っているコウを背中に担いだ。

 ……酒臭いなこいつ。

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 朝の光に僕は目を覚ました。まぶしさに思わず目を細める。

 光は大きな窓から差し込んでいた。

 

 周囲を見回して、自分の状況を確認する。

 自分が寝かされていたのは立派なベッドだ。

 部屋も調度品がバランスよく整えられていて、高級ホテルの一室なのだろうか。

 一体、誰が僕を……。

 

 ベッドルームからドアをくぐり、部屋の外へと出る。

 外はリビングのようになっていて、高級そうなソファやテーブルが並んでいる。

 

「気が付いたようだな」

 

 そんな僕に声がかけられた。

 

 声の方向に顔を向ける。

 リビングの窓側には、大きなビジネス用の机と椅子が置いてあり、そこに金髪の少年が座っていた。

 椅子に座っているのではっきりとはしないが、背丈からすると12、3歳ぐらいだろうか。

 

「少し待ってくれ……よし」

 

 少年は操作していたコンピューターの電源を切ると、こちらに向かって歩いてきた。

 こちらの顔を観察するように見て「ふむ」と頷く。

 

「だいぶ殴られたようだが、食欲はあるか?」

 

 年齢に不相応な、落ち着いた様子で訊ねられた。

 

「あ、うん」

 

 意外だったため、思わず生返事をしてしまう。

 少年は、親指で背後の方向――バスルームと書いてある扉を指して告げた。

 

「とりあえず顔を洗ってくるといい。

 朝食にしよう」

 

 

 

 

 

 やはりここはホテルだったようだ。

 しかもかなり高級な、スイートルームとかだろう。

 

 ルームサービスで部屋に運び込まれた朝食を、少年と2人で挟んでいる。

 焼きたてのパンにオムレツ、ベーコンにハム、ヨーグルトにジュースまでついてきている。

 

 きっと結構高い。

 

「あの……これは?」

 

「金なら気にしないで良いから食え」*3

 

 そう言って、少年は優雅なテーブルマナーで食事を続けて行く。

 仕方ないので、僕も相伴に与ることにする。

 

 ある程度食事が進んだところで、僕は切り出した。

 

「昨日はありがとう。

 自分はコウ・ウラキ。モビルスーツのパイロットです」

 

 少年は、ゆっくりとこちらに視線を向けた。

 行動が年相応とは思えないほど落ち着いている気がするけど、なぜかしっくり来るような感じもする。

 不思議な少年だ。

 

「俺はデュオ・マックスウェル。

 あんた、脱走兵か?」

 

「え?」

 

 思わぬ質問に、一瞬呆けてしまう。

 脱走――そんなこと考えもしなかった。

 たしかにアルビオンに無断で一夜を明かしてしまっている以上、そう言われても仕方がない気がするが……。

 

 彼はオレンジジュースを一口飲んでから続けた。

 

「昨日、港に連邦軍の艦が入ったと聞いた。

 大方そこだろう?

 しばらくは黙っておいてやるし、ここにいても構わないから、その間に自分の身の振り方でも決めるといい」

 

「あ、ありがとう」

 

 そう言うことしかできない。

 彼にメリットがない以上、これは厚意で言ってくれているのだろう。

 しかし、身の振り方か……。

 

 考え始めた僕に、デュオは聞いてくる。

 

「で、なんで逃げたんだ?

 戦いが怖くなったのか?」

 

 怖いかと言われると少し違う。

 あのアクト・ザクはたしかに強かった。

 モンシア中尉は「あれの色が『白銀』でなくて良かったな。そうだったらお前は今頃おっ()んでたな」と言っていた。

 たしかに、僕が生き残れたのはガンダムの装甲に助けられたのもあるが、ただ単に運が良かっただけだろう。

 

 だが、恐怖に支配されたのかというと少し違う。

 怖いという感情よりも、1号機を自分の慢心のせいで壊してしまった不甲斐なさが情けないという気持ちの方が強かった。

 

「いや。

 でも、自分のせいでモビルスーツが……」

 

 なんとか絞り出した一言だったが、デュオはそれを一蹴した。

 

「やめておけ」

 

「え?」

 

 僕の聞き返しに対して、彼は一拍おいてから続けた。

 

「どれだけ優れていても、モビルスーツなんてものは所詮機械だ。

 それを壊していちいち気にしてるようでは、パイロットには向いていない」*4

 

 なんだか、妙に実感がこもっているような感じがして、説得力があるような気がする。

 モビルスーツはただの機械……か。

 

 あれだけ派手に1号機を壊した自分が、そう開き直っても良いものなのだろうか。

 

 ヨーグルトをつつきながら、デュオが聞いてくる。

 

「なあ、あんたはなんでパイロットになろうと思った?」

 

「そ、それは……モビルスーツに興味があったからで」

 

 これは本当だ。

 

 士官学校時代からモビルスーツに興味があったのでパイロットになろうと思った。

 トリントン基地でテストパイロットになったのは、今でも間違いではないと思っている。

 

「なら開発部門でも、テストパイロットでもよかったはずだ。

 なんで、連邦軍の軍艦に乗って、前線部隊になんてわざわざなったんだ?」

 

 彼の一言が、すとんと心の隙間に落ちた気がした。

 思い出したのは、あの日の光景だ。

 

 奪われたガンダム試作2号機。

 それを奪還すべく、出撃した自分。

 手玉に取られた挙句、エリック・マンスフィールドに見逃されたという屈辱。

 アレン中尉の遺品を回収する際、彼の戦死をあらためて突きつけられた時の無力感。

 

「あ……」

 

 そうか。

 

 僕は単純に、色々なものが悔しかったんだ。

 そんなものが現実のことわりであるなんて、認めたくなかったんだ。

 

 朝食を平らげたデュオが、静かに席を立つ。

 

「何かに気付いたようだな。

 数日ならこの部屋にいても別に構わんから、ゆっくりと自分の原点でも見つめ直せばいい。

 じっくり考えて、それで自分で決めればいい。

 自分で納得さえできたのなら、進むも逃げるもあんたの自由だ」

 

 なんとなく、自分の道が見えてきそうな気がする。

 というよりは、最初の方向性を取り戻せたのか。

 

 しかし、このデュオという少年は何者なのだろう。

 とても世話になった身ではあるが、バニング大尉のような上官に相談している気分になってくる。*5

 

「ありがとう。

 しかし、君は一体?」

 

 僕の質問に、デュオはいたずらっぽい笑みを浮かべてこう言った。

 

「ただの通りすがりの観光客だ。*6

 多少お節介な、な」

 

 

*1
地球から最も遠いはずのサイド3と地球の距離ですら1日で移動できるので、この世界の航宙速度は本当に常軌を逸している。

*2
コウがシーマを相手にしたため、フリーになったガトーがソーラ・システムのコントロール艦を破壊した。これによってコロニー落としが成功した。

*3
どうせアナハイム持ちである。

*4
さすが冗談のような数の機体を、とっかえひっかえしてきて、時には自爆させてきた人間だ。面構えが違う。

*5
大尉どころか大佐やぞ。

*6
仮面ライダーではない。




読んでいただきありがとうございます。


速攻で月面に戻ってきました。

これからデラーズの声明に同調した、ジオン残党の頭すっからかん……もとい、純真なギレン派とか、「とにかく連邦を殴れればそれでいい」って狂犬、もとい熱心なキシリア派とか、頭が鎌倉武士なドズル派とかが合流してくるので、地球と宇宙の定期便が不安定になりそうですし仕方ないです。


オサリバンは多分後ほどまた出番があるかと。
清濁併せ呑むというよりは、かなりダーティーな側面が強い人間ですが、取引しやすいというのはとても便利なキャラだと思っています。
1話の「ガンダムキチのおもしれー女」から、シナリオの都合上、後半にガンダム3大悪女にまで上り詰めた彼女より、とても使いやすい……w



ちなみに前話で、デラーズが「キシリアの息のかかった売国奴」とキシリア派に喧嘩を売るようなこと言っていましたが、これは失言でもなんでもなく、彼の素です。

原作でも「シーマは私が導く」「志を持たぬ者を導こうとした、我が身の不覚であった」とか言っているので、この禿野郎は、半ば本気で「自分が導けば道を誤った人間でも、改心して自分の理想に従う」と思っている節があると思っています。




そして何故か出てくる0083主人公。
タイミング的にも、デラーズの宣戦布告の翌日か翌々日ぐらいに逃げ出しているので、タイミングがドンピシャだったりしました。

最初は出す予定なかったんですが、展開考えると面識作っといた方が面白いかも?みたいな感じに思いましたので、オリチャー発動して登場と相成りました。
拾ってくれるケリィさんいないので、あのまま空き地に放置するのもさすがに可哀想かなとも……w

なお、ラトーラさんが可哀想と思われる方は、先日のラルさん主導の交流会にケリィさんも同行していてそこでラトーラさんと出会った、という脳内補完してもOKですw

コウがあっさり立ち直りつつあるように見えますが、原作でもケリィさんとの敵味方を越えた友情はともかく、コウのパイロットとしての復活自体は「自分がどこまで行ってもパイロットである」と自覚するだけで終わっていたので、この程度のカウンセリングで十分再起できると思っています。





それはそれとして、お前がガンダムで出撃したせいで撃沈された、サラミス2隻の軍人に対しては何か思うところはないんかと、個人的に思わなくもない。
いや、相手がシーマ様だったので、仮にジムで出ててもサラミスを撃沈されていた可能性は否定できないんですが。
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