超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。

0083編、最終話となります。




第65話 最後まで面倒を見るのがお仕事です。

 

 

 アクシズ先遣艦隊へと撤退するデラーズ・フリート残存兵の最後尾とともに、俺はグワンザンへと帰還した。

 ノイエ・ジールを格納庫に収め、ハスラー少将に作戦完了を対面で報告した俺は、そのまま小型宇宙船を1隻借りてアクシズ先遣艦隊を離れた。

 

 一度帰還した理由は、当初はノイエ・ジールを預けるためだけであったのだが――帰還した後にもう1つの要件ができてしまった。

 本来ならば、俺が地球圏でやり残したことが済んだ後、アクシズまでの道中で再合流する手筈になっていたのだが、そこを「俺を待たずに先にアクシズに戻ってくれ」と変更することにしたのだ。

 

 正直、アクシズ先遣艦隊と共にアクシズに戻るのは、今の俺にはきつい。

 

 今のアクシズ先遣艦隊には大量のデラーズ・フリートの兵が乗船している。

 彼らは、俺の顔を見るたびに敬礼して「ジーク・ジオン」と唱えてくるのだ。

 格納庫で降り立った時点でなんかもう一大セレモニーのようになっていたし、グワンザンのブリッジに行くまでですら、何十回敬礼されたか分からない。

 

 こちらの精神がゴリゴリ削れてしまう。

 勘弁してくれ。

 

 それ以外の理由として、こちらを見事にはめてくれたハスラー少将と、数か月間同道することに思うところはないと言えばさすがに嘘になってしまう。

 だがそれ以上に、この兵たちの礼讃のシャワーの方がはるかに精神に悪い。

 

 そんな事情から、俺はアクシズ先遣艦隊に、自分を待たずアクシズに先行するように告げて、急ぎ足で艦隊を脱出したというわけだ。

 本来ならば、要件をすべて終わらせた後にハント船団に移送を依頼して、道中のアクシズ先遣艦隊に再合流という手はずだった。

 だが、もう追加料金を払ってもハント船団にアクシズまで運んでもらおうと思っている。

 

 ひたすらこちらを褒めちぎる連中に四六時中囲まれているよりは、荒くれどもに囲まれていた方が、精神衛生上まだマシである。

 

 

 数時間後――。

 俺は小型船を駆って、フォン・ブラウン近郊へ到着していた。

 廃港である第3宇宙港*1に宇宙船を停めると、この1ヶ月で3度目となるフォン・ブラウンへの上陸を果たした。

 

 メラニー・ヒュー・カーバインと交わしたいくつかの密約がある以上、アナハイムの息のかかった港から正規の手続きで上陸する手もあったのだが、今回は敢えて記録に残りづらいこちらのルートを取ることにしていた。

 

 夜間の時間帯になるのを待ってから、街へと移動する。

 そのまま市井の人々に紛れ、到着したのはアナハイム・エレクトロニクス社のフォン・ブラウン支社である。

 正規の手段で何度か入った建物であるが、今回は人目につかないように隠れて侵入する。

 すでに退社時間を過ぎていることもあり、人影はほとんどない。

 警備室にいた警備員を睡眠薬で眠らせて*2、映像記録を改ざんし、そのまま社内を移動して目的地へと向かった。

 

 数分もしないうちに、俺は目的地である常務室に到着した。

 中から感じるのは、1人分の気配。

 絶望しているような感情も漏れてくる。

 

 俺はゆっくりと、だが力強く扉をノックした。

 

「……っ!?

 誰かね?」 

 

 部屋の主からの問いかけを待って、俺は扉を静かに開けた。

 

「お久しぶりというべきでしょうか、オサリバン常務」

 

 そこには、ガンダム開発計画により連邦に与しながら、同時にデラーズ・フリートと密約を交わしてコロニーに推進剤点火用のレーザー照射を行った、アナハイム・エレクトロニクス、フォン・ブラウン支社常務、オサリバンの姿があった。

 見ただけでも、相当に憔悴しているのが分かる。

 

「エルンスト・ヴァルツァー大佐……」

 

 呆然とオサリバンが呟いた。

 

 まさか俺が来るとは思っていなかったのだろう。

 元から浮かんでいた冷や汗はそのままに、何故俺が来たのかを訝しんでいる表情が見て取れる。

 

「夜分にアポなしで失礼します、オサリバン常務。

 ずいぶんと顔色が良くないようですが大丈夫ですか?」

 

「こ、これはみっともないところをお見せしてしまいましたな」

 

 汗をハンカチで拭いながら取り繕うオサリバン。

 俺が刺客なのかと相当焦っていたのだろう。

 

 まあ、俺に年長者をいたぶる趣味などない。

 とっとと本題に入ることにする。

 

「前置きは省かせていただきます。

 オサリバン常務、我々と取引しませんか?」

 

 意外な単語が出てきたせいか、オサリバンがきょとんとした顔を浮かべた。

 

「取引……ですか?」

 

「ええ。

 あなたは現在、非常に困った立場に置かれている。

 ガンダム開発計画で連邦の新型MS開発に一枚噛みつつも、同時にデラーズ・フリートと密約を交わして協力し、最後にはコロニー落としの一端まで担わされることとなってしまった」

 

 ここには試作4号機の譲渡も含まれる。

 ガーベラ・テトラが連邦軍に回収され、その中身が試作4号機であると判明してしまえば、アナハイムにとってはとてもまずい。*3

 一応、試作4号機は途中で中断されたプロジェクトであるため、連邦軍も詳細は把握してはいないだろうが、1号機~3号機までの類似性に気付かれると、ほぼ詰みである。

 

 おそらくはアルビオンへのニック・オービルの潜入にも噛んでいるだろうが、連邦が本腰を入れて調べ上げれば、それもじきに明るみに出てしまうだろう。

 

「本来の予定ならば、それでも構わなかったのでしょう。

 推進剤に点火するためのレーザーの照射も、『月にコロニーを落とすと脅された』という言い訳が立つ。

 もし仮に、コロニーがソーラ・システムで破壊されて()()()()()()()()()、それで通ったでしょう」

 

 俺の話を聞いているオサリバンは完全に無表情だ。

 俺は彼の反応にトーンを変えることなく、話を続ける。

 

「だが現実は違った。

 デラーズが2つ目のコロニーを用意していたせいで、結局もう一方が地球へ落ちてしまった。

 落ちたのはあなた方が関わったコロニーではありませんが、落ちてしまった以上、連邦は()()()()()()()()相手を探すことになる。

 連邦からはコーウェン将軍、デラーズ・フリートからはエギーユ・デラーズ、そしてアナハイムからは――」

 

 俺はオサリバンへと視線を固定し、告げた。

 

「あなたしかいない」

 

 数秒か、もしくは十数秒か。

 目を閉じて沈黙していたオサリバンは、深く息を吐いた。

 

「……どれぐらいだと思われますか?」

 

 想定内の質問だったので、俺は即答する。

 

「おそらく20日ほど、といったところでしょう」

 

 コリニー派閥の一人勝ちになったとはいえ、核攻撃によって連邦軍自体がガタガタになっている。

 後始末のための準備ですら、10日はかかるだろう。

 その後に内部の関係者の始末、アルビオン関係者の軍事裁判も含めて――決着に1週間から10日ほど。

 

 オサリバンが()()されるのはそれからだろう。

 

 オサリバンが静かに聞いてくる。

 話しているうちに、ある程度腹をくくったのだろう。

 

「取引の内容をお聞きしても?」

 

 俺は静かに、彼に告げた。

 

「まず我々が提供できるものですが――。

 あなたを逃がして差し上げましょう」

 

 オサリバンの表情が変わった。

 

「……何ですと?」

 

 彼の返事には答えずに、俺は言葉を並べていく。

 

「少し遠いですが、グラナダで先日、交通事故により亡くなった男性がいます。

 身寄りはなし。このままでは明日にでも簡易宇宙葬によって弔われるでしょう。

 ()()()()()()()()()

 

 この不運な男性の死は完全に偶然のものであり、誰かの意図は介在していない。

 共和国、フォン・ブラウン、グラナダで『オサリバンと似たような背格好で、身寄りがなく、最近亡くなった人間』を探していたら、偶然引っかかっただけの人物である。

 

 彼が見つからなければ、俺たちは今回の計画を白紙に戻していただろう。

 

「……まさか」

 

 まだ現状を認識できていないな、オサリバン。

 先ほどまで自分の死が逃れられないものだと思っていたのだし、無理もあるまい。

 

 俺は多少、大仰な仕草で彼に説明していく。

 

「連邦は大きい組織です。大きすぎると言ってもいい。

 そして派閥による強烈なまでの縦割り構造です。

 誰かの暗殺を企んだ部署が、その対象が()()()()()()()ことを知ったとして、他の部署が先んじたことを否定できるでしょうか?」

 

 地球連邦というものは組織全体の特徴として、巨大な組織ゆえの官僚主義、縦割り行政や事なかれ主義が蔓延している。

 似たような仕事を請け負うが、一切の繋がりがない組織も複数ある。

 

 そして所属する派閥が違ってしまえば、互いに存在していることにすら気付かない。

 

 自身の生存の芽が出てきたことにより、オサリバンの顔色がいくぶんか健全に戻る。

 明確に詰んでいる状況でさえなければ、さすがは海千山千のルナリアンと言うべきだろう。

 

「私が()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そういうことにするのですね?」

 

 俺は頷いた。

 

「その通りです」*4

 

「その代価は?」

 

 俺はためらうことなく言い切った。

 

()()()()()()()()()()()()()()()

 

 オサリバンは表情をピクリとだけ動かしたが、黙ったままだ。

 俺は言葉を続ける。

 

「既に開発を主導したコーウェン将軍は失脚。

 試作2号機による大惨事を隠蔽するためにも、連邦はガンダム開発計画を凍結・抹消するでしょう。

 そうなると、アナハイムにとってそのデータは()()()()()()()()()()

 

「だが、私の一存では……」

 

 アナハイム・エレクトロニクスの内部情報、しかもプロジェクトのすべてのデータを勝手に漏洩したとなれば、アナハイムを完全に敵に回す。

 仮にこの場を生き延びられたとしても、近い将来、連邦ではなくアナハイムの手によって追い詰められることは目に見えている。

 オサリバンの躊躇は分からなくもない。

 

 だが、それは既に問題にはならない。

 

「ならば、こう言いましょうか?

 メラニー・ヒュー・カーバインから内諾は得ていますと」

 

 俺の言葉に、オサリバンは目を見開いた。

 

 この状況は俺の独断ではない。

 全て合意の上で準備された、オサリバン本人による最後の意思決定に過ぎない。

 

 これはジオン共和国、アナハイム、アクシズの3者によってなされた密約だ。

 元々、アナハイムはジオニックやツィマッドの一部を買収・吸収して、モビルスーツの製造技術を高めてきた。

 そのため最初から、一部の人脈を通じて製造データは漏洩していた。

 だが、一部の情報を入手できたとしても、それでは全体像を見通すのは難しい。

 

 なので「どうせ売り物にできないデータなら、密約を介して、承諾を得た上で堂々と貰ってしまおう」というのが今回の一件である。

 

 当然ながら、アナハイムの上層部は最初は難色を示していた。

 だが、地球にコロニーが落ち、なおかつ連邦軍でコリニー派が一強体制になる目算が強くなったことにより、アナハイムはついに妥協した。

 開発計画が凍結・抹消された場合、そこで培った技術は連邦の許可が下りるか、その技術を他社が開発する(一般的になる)までは製品化することができない。

 

 膨大な開発費がかかっている以上、丸損になるよりは、アクシズや共和国との関係強化に使うべきであるという、アナハイム側の損切りに便乗した形だ。

 

 その辺りの事情が呑み込めたのだろう、オサリバンの返答は早かった。

 

「そういうことでしたら喜んで!」

 

 慌てて自身のコンピューターを操作しはじめるオサリバンに、俺は告げる。

 

「明日の夜に()()()()()()()()、ここで拳銃自殺を遂げたものとして処理されるでしょう」

 

 グラナダからフォン・ブラウンへは陸路で10時間ほどの距離だ。*5

 グラナダに滞在している共和国の工作員にとって、ザルもいいところの身元不明者の遺体安置所から遺体を運び出す手間など、ないも同然だ。

 今から連絡を入れれば、明日の夜までには余裕で間に合うだろう。

 

 当然、オサリバンの死亡診断を下す医師にもアナハイムの息がかかっている。

 死因や死亡推定時刻の改ざんも話が付いているし、葬儀の際にバレないよう、特殊メイクによる顔の偽造も問題はない。

 

 連邦からの刺客が到着するころには、彼の宇宙葬すら終わっているだろう。

 

「あなたには明日、グラナダに赴いていただきます。

 そしてアナハイムのグラナダ支社は、中途採用ではありますが、1人の難民出身の男性を雇い入れることになる」

 

 オサリバンは死亡した難民と入れ替わる形になる。

 この時代、難民の死亡確認など、医師ですらまともに行っていない。

 死んだと思っていたら息を吹き返したという事例も、「まあそういうこともあるか」と特に怪しまれることはない。

 

 本当に、宇宙世紀では人の命が軽すぎる。

 

 ただ実際、アナハイム側にとってもオサリバンは、ジオン側との窓口になり得る人間である。

 何の見返りもない状況では、連邦に睨まれてまで助ける理由はない。

 だが、ジオン側が便宜を図ってくるのであれば、生き残る手助けぐらいはする――その程度には彼に価値を見出している。

 

 明るい表情でオサリバンが1枚のディスクを手渡してくる。

 

「委細承知いたしました。

 こちらがご所望のデータとなります。

 ようやく、安心して眠れそうだ」

 

 このデータがどう役に立つのかは未知数だが、『アクシズとアナハイムによる共犯』というパイプの強化という側面では十分だろう。

 

 これにて、俺の地球圏での任務はすべて完了となった。

 

 

 

 

▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 その後、オサリバンの偽装暗殺を演出したエルンストは、エフェメラ・ハントと名を変えたシーマ・ガラハウ率いる船団に依頼し、アクシズへの帰路につくこととなる。

 後にデラーズ紛争と称される事態に関わった人々のその後は、彼が知ることはおそらくない。

 

 

 本来の歴史から、大きく逸脱した経緯を辿った者について、ここに記そう。

 

 

 コウ・ウラキ少尉は事態の収束後、ガンダム試作3号機の無断使用の罪状により軍事裁判を受け、懲役8か月の有罪判決を受けた。

 エルンストの知る原作よりも刑期が短くなったのは、原作におけるシーマ艦隊への攻撃のような、連邦軍のコロニー迎撃作戦への妨害行動がなかったからである。

 

 翌年、連邦軍によるガンダム開発計画の抹消により、罪状が消滅したため釈放された彼は、そのまま軍を除隊する。

 デラーズ紛争の間、終始一貫して彼を支え続けた恋人からの誘いにより、彼はアナハイムのMS開発部のテストパイロットとして就職することになる。

 彼の戦いはここで終わり、幸せに暮らしていくことになるだろう。

 

 

 シーマ艦隊への攻撃という展開がなかったため、刑が軽減されたのはアルビオン艦長、エイパー・シナプスも同様である。

 原作において艦の私物化、独断で行った戦闘行為、数々の反逆罪、機密保持規定から逸脱により極刑判決が下されるはずだったシナプスであるが、シーマ艦隊との戦闘という反逆行為を行わなかったこと、また生存したバニング大尉による弁護もあったことから、シナプスには終身刑が言い渡された。

 翌年、ガンダム開発計画の抹消により、罪の大半が消失した彼は釈放され、不名誉除隊の処分を受けることとなった。

 そして身一つとなった彼は、故郷へと帰っていった。

 

 

 サウス・バニング大尉はデラーズ紛争を生き延びたものの、年齢による衰えを痛感したことから、紛争の終結後、パイロットを引退することとなる。

 別居中の妻との交流を再開しながら、彼は自宅近くの基地で、今日も教官としてひよっ子パイロットを怒鳴りつけている。

 

 

 エギーユ・デラーズは、裏切ったアサクラ大佐によって、連邦軍のバスク・オム大佐へと引き渡されることとなった。

 アサクラ大佐の裏切りを予想し、作戦の真の狙いを隠し通していたがゆえの彼の余裕の表情は、コロニーがオーストラリアに落ちたことで絶望へと変化することになる。

 彼が連行された連邦艦のブリッジでは、絶望の表情を浮かべて崩れ落ちるデラーズを見て、高笑いを上げるバスク・オムの声がただ響いていた。

 

 紛争の終結後、デラーズには数々の戦争犯罪の罪により、絞首刑が言い渡されることとなった。

 また、執行までの猶予期間中、彼にはバスクが直接口頭でティターンズの設立を告げたとも言われている。

 その後、処刑されるその瞬間まで、ずっと彼の表情はすべてを諦めたかような虚無の表情であった。

 

 

 

 そして、それから数年の時が流れ、再び歴史の歯車は回り出すこととなる。

 

 

*1
原作『0083』において、ここからケリィ・レズナー大尉はヴァル・ヴァロで出撃した。

*2
ガンダム世界でたびたび出てくる、異様に即効性のある睡眠薬。

*3
作中世界のほとんどの人間が、ガーベラ・テトラがコロニーと共にオーストラリアに落下したことを知らない。

*4
手法としては漫画『ジーザス』に近い。

*5
ジ・オリジン映像版4話より




読んでいただきありがとうございます。

これにて0083編終了となります。

最後にオサリバン救助とか誰得という展開ですが、正直ジオン側への明確な窓口って、アナハイムとしても生かせるなら生かしたいと思いましたので、見捨てる理由もないかなと判断しました。

ガンダム開発計画のデータを得たアクシズが何をするのかは、実際かなりのノープランです。
それはΖ編を書いている未来の自分に託します。


後は3人称というか神の視点で運命が変わった数名をつらつらと。
デラーズの部分書いている時に、脳内で郷里大輔さんの高笑いがずっと響いていました。



次回よりΖ編に入ると思います。

そして申し訳ありませんが、これより投降のペースが若干不定期になるかと思いますがご容赦ください。
TV版Ζガンダム全50話と、劇場版3部作を同時に確認しながら進めていくので、時間が足りないのです_(:3」∠)_

それでもよろしければ、これからも拙作にお付き合いいただけると幸いです。
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