超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。

ゼータ本編まではまだまだかかりそう。




第66話 今後に備えて

 

 シーマ艦隊改め、ハント船団に乗り込んだ俺は、2ヶ月ほどの時間をかけて、アクシズへと無事辿り着いた。

 アクシズ先遣艦隊の帰還より、1週間ほど遅れての到着である。

 道中でアサクラの最後を船団の連中に話したのだが、歓声とともに祝杯を挙げていたので、彼らの溜飲もかなり下がったことだろう。

 マハルコロニーの再建も進んでいる以上、彼らがジオン公国から理不尽に奪われたものについては、ひとまず取り戻せたと思っていいか。

 

 ハント船団は、俺の移送ついでに輸送していた、共和国からの物資をアクシズに降ろすと、すぐに共和国へと帰っていった。

 民間の輸送船団になったのだから、あちらでも仕事が結構あるらしい。

 何よりなことだ。

 

 アクシズに到着した俺は、そのままドズル中将のところに帰還報告に赴いていた。

 

「エルンスト・ヴァルツァー大佐。

 地球圏への工作任務を終えて、ただ今帰還いたしました」

 

 そう言ってドズル閣下に敬礼する。

 なぜか部屋の隅で同席しているユーリー・ハスラー少将の姿も見えている。

 直立不動で静かに立っているが、その顔面だけは平静ではない。

 なんというか、主に右頬側が某世界的格闘ゲームの2作目(ストリートファイターⅡ)の敗北キャラの画像みたいになっている。

 物凄い力で思いっきり殴られたようにしか見えない。

 

 これはおそらく、ドズル中将にやられたものだろう。

 まあことがことだ。

 俺も1、2発ぐらいは覚悟しておくべきかもしれない。

 

 そう思っていると、ドズル中将は静かにこちらの頭に手を置いた。

 そのまま、ぐりぐりと頭を撫でてきた。

 

 そして、ドズル中将は静かに告げた。

 

「よく、無事で戻った」

 

 俺も笑みを浮かべて返した。

 

「はい。ご心配をおかけしました」

 

 

 そうして、俺の帰還の挨拶はあっさりと終わった。

 

 後から聞いた話だが、ハスラー少将もドズル閣下に1発殴られた後、「次はないぞ」と言われるだけで済んだようだ。

 ハスラー少将が一切抵抗も言い訳もしなかったというのも、それだけで済んだ原因なのだろう。

 

 デラーズ・フリートの兵士たちは、その後、別段トラブルを起こすこともなく徐々にアクシズへと馴染んでいった。

 というのも、彼らだけではなくジオンの一般将兵にも言えることなのだが、彼らは基本的に純粋というか、物事をあまり深く考えない傾向がある。

 なんというか、組織の空気に引っ張られやすいのだ。

 

 デラーズが率いていれば、たとえその中にドズル派やキシリア派が混じっていたとしても、ギレン派の思想に近い考えの集団が出来上がる。

 逆に言うと、ドズル中将が率いている限り、彼らの中のギレン派やキシリア派は穏健派に近い行動を取るようになっていく。

 

 幸いと言っていいのか、上が変わっても自身の主義を徹底して貫けるような将兵*1は、こぞってアイランド・ブレイド側に展開していたようで、アクシズに来た兵士たちの中にはほとんどいない。

 

 アクシズでのドズル閥による主導体制が揺るぐことはないだろう。

 

 

 

 とはいえ、俺の苦難はここからである。

 

 往復の4ヶ月を含めて半年近くもの期間を留守にしていたので、すっかり拗ねた王女様のご機嫌取りという難関ミッションが待ち構えている。

 共和国で大量に土産を購入してきたので、それでなんとか乗り切れるといいのだが……。

 

 なお、彼女の機嫌が戻るまで、1週間にも及ぶ長き戦いになった。

 

 ミネバ、無言でこちらを睨みながら、ぺちぺち叩いてくるのは止めなさい。

 というかこれ教えたのゼナ様ですよね?

 笑ってないでどうにかしてください。

 

 グリプス戦役の時を考えると気が重い……。

 

 

 

 そうして、アクシズの人口が増えたということ以外は通常運転に戻り、さらに1年と少しが経過した。

 そんなある日――。

 

「地球圏に戻りたい?」

 

 俺はコーヒーを飲みながら、テーブルを挟んで対面に座っている友人、シャア・アズナブルに問いかけた。

 

「ああ、ドズル中将の許可は既にとってある」

 

「なんでまた?」

 

 俺は聞き返した。

 ドズル中将が許可を出している以上、シャアがアクシズを離れることに問題は一切ない。

 

 だが、この世界のアクシズでは、原作のようにハマーン・カーンが台頭していない。

 ――そういえば、先日ついにそのハマーン・カーンを俺は目撃したな。

 

 既に原作のような『恥を知れ、俗物!』な人物像とは別人というか、モビルスーツを乗り回したがる名家の令嬢として、格納庫で周囲を振り回しているのが遠目にも見て取れた。多分振り回されている面々の中に、ナタリー・ビアンキ中尉とかもいるのだろう。

 どうやら、ハマーンがパイロット志願者の規定年齢に達してしまったため、父親であるマハラジャ・カーン氏も止めきれず、とりあえず訓練兵扱いとしてお茶を濁しているらしい。

 ちなみにハマーンの姉のマレーネ・カーンはゼナ様の侍女に、妹のセラーナ・カーンはミネバの侍女に、それぞれなっているため、普通に俺と面識はあったりする。

 

 なんで長女と三女がザビ家の侍女になっているのに、次女がパイロット志望なんだろうな……。

 

 少し話がずれたが、ハマーンが()()()()()になってしまっている以上、シャアにとってアクシズは別段、『忌まわしき記憶の地』でもなんでもないはずだ。

 わざわざ離れる理由があるのだろうか?

 

 シャアはコーヒーを一口飲むと、静かに俺に告げた。

 

「……ララァが妊娠した。

 4ヶ月目だそうだ」

 

「おお、おめでとう」

 

 うん。普通にめでたいな。

 アクシズに来て約4年。新婚家庭に初めて子供ができるまでの時間として、それが早いのか遅いのかは俺には分からんが。

 

「ありがとう。

 それでだ、生まれてくる子供は地球圏で育ってほしい、という思いがな……」

 

 アクシズの環境が原作よりもはるかに恵まれた状態であるとはいえ、地球圏と比べるとさすがに豊かではない。

 子供をあちらで育てたいという気持ちも分からないではない。

 そして、今が4ヶ月目ということは、近いうちに出立すれば安定期のうちに地球圏に戻ることができるだろうから、タイミング的にもたしかに悪くはない。

 

「それと、産まれてくる子にとっての環境が……な。

 私もララァも、子供は自由に育ててやりたい」

 

 ああ、なるほど。

 シャアにとっては、周囲からの視線も鬱陶しいのだろう。

 

 生き残ったザビ家と和解したとはいえ、生まれてくる子供は紛れもなく、キャスバル・レム・ダイクンの子供である。

 今更、産まれてくる子供を新たな指導者として担ぎ上げようとする連中はほとんどいないだろう。

 だが、「名家にふさわしい教育を」とか言い出す奴らは絶対に出る。

 というか完全に多数派だろう。

 幼少のころから家庭教師をつけるべきだとかいう連中はどこにでもいる。

 

 というか、ミネバにもいた。過去形であるが。

 ドズル中将の気質ならば、ミネバに群がるそれらを一喝して黙らせられた。

 しかし、シャアの気質では、善意で言ってくる輩にそういう対応は取りづらい。

 ただただ、うざったくてしょうがないだろう。

 

 そしてそれは、一般人出身のララァにとっても、かなりのストレスになるだろう。

 

「それは構わんが、あっちでの仕事はどうするんだ?

 共和国軍にでも入るのか?」

 

「それは遠慮しておこう。

 今更、シャア・アズナブルが共和国軍に加入したりすれば、さすがに連邦が黙っていないだろう」

 

 まあ、さすがに「おいちょっと待て」という反応にはなるだろうな。

 それは俺も同じだが。

 

「一応、共和国人として別の戸籍を偽造しようと思えばできるが?」

 

 デラーズ紛争の際に俺がガルマにやってもらった手だ。

 しかし、分かっていたことだが、シャアは静かに首を横に振った。

 

「己惚れているつもりはないが、兵たちの大半は私の顔を知っている。

 噂話をいちいち統制しなくてはならないラル大佐に、終わりの見えない迷惑はかけたくないな」

 

 まあ、こいつがシャアだとガルマやマ・クベ大将以外の上層部にバレてしまったら、産まれてくる子供の状況はアクシズとそう変わらないか。

 名家連中が多い分、下手したらアクシズよりも酷くなるかもしれない。

 

 まあ、ラル大佐なら「キャスバル様の為なら」って喜んで情報統制をしそうだが、そういう対応もシャアとしては望まないのだろう。

 俺はコーヒーで喉を潤すと、残った選択肢を考えた。

 

「なら、サイド3に住むという選択はないな。

 となると、消去法で月面が一番身近な選択肢になるか……」

 

 サイド6は治安が当てにならないので、妊婦を住まわせるには不向きだ。

 サイド1も治安はよくない。しかも、原作知識がある身からすれば、30バンチもあるサイドなので、俺としても絶対に推薦したくない。

 サイド7に至っては、いずれティターンズの本拠地となるグリーンノアがあるサイドなので論外だ。

 フォン・ブラウンかグラナダ、あるいはそれらの周辺都市ぐらいしか、まともな選択肢が残っていない。

 

「私もその線で考えている。

 ララァにとっても、月は悪くない環境だと思うのだ」

 

 ()()()()()()()()()の家族、として振る舞うのなら、それがいいと俺も思う。

 

 後は――こいつ本人はどうするのかだ。

 まさか父親になる人間が、無職というわけにもいくまい。

 

 アナハイムのテストパイロットという線でもいいのだろうが、どうせならば――。

 俺はシャアに提案してみた。

 

「シャア、お前の仕事だが――お前さえ良ければ、連邦軍に入る気はあるか?」

 

 シャアには原作でのあの役回り(クワトロ・バジーナ)をやってもらえばいいのではないか。

 

 原作と状況が違う以上、そうなったとしても『妻帯者で単身赴任のパイロット』という形になるだろう。

 Zガンダム本編でこいつが語ったように、「他に食う方法を知らん」というのは、こいつにとってはあながち間違いではないからな。*2

 

 俺の唐突なこの提案に、シャアは困惑している。

 

「どういうことだ?」

 

「連邦軍には、1年戦争で行方不明になった軍人の軍籍が大量にある。

 そして、艦船の内部機能が生きていたりで、彼らが生存していた場合、数年越しに帰還して軍人に戻ることも珍しくはない」

 

 俺の知るこの方法は『ジョニー・ライデンの帰還』にて説明されていた方法だ。

 1年戦争で未帰還になった数多くの部隊が存在するが、彼らは死亡が確認されない限り、『行方不明』『未帰還』として書類上は処理される。

 そして、そういった、どうなったのか不明の部隊の中から、自身に都合のいい部隊を見つけ出し、存続していたことにする。

 1年戦争による混乱で、部隊の顔写真データまで消失している部隊が山ほどあるので、証言や状況証拠に矛盾がなければ、復帰申請された部隊を連邦は承認するしかない。*3

 

 そして、俺はこいつにぴったりの連邦軍人を、数年前の潜入の時*4、既に発見している。

 本物のクワトロ・バジーナの軍籍を。

 

「なるほど。

 行方不明になっていた連邦軍士官の戸籍をもらい受けるわけか」

 

 シャアは納得したように頷いた。

 

「その後は連邦軍として復帰しようと除隊しようと自由だ。

 だが、お前さえ良かったら、連邦軍――ティターンズの監視を手伝ってもらえるとありがたい」

 

 クワトロ・バジーナ大尉がエゥーゴに参加するのかはこいつの自由なのだが、仮に参加してくれるのならば、原作でクワトロ大尉が担った役割を分担することもできるだろう。

 そうなってくれると、非常にありがたい。

 シャアが参加しなかったら、俺がそれをワンオペでしなくてはならない。

 中々にデスマーチなグリプス戦役を味わうことになるだろうが、なるべくならそれは避けたい。*5

 

 まあどちらにしても、ザビ家と和解したシャアもなのだが、いくら腕が立つ自信があるとはいえ、たかが1エースパイロットである俺に、政治的な求心力はさほどないため、ブレックス准将の暗殺だけは絶対阻止しなくてはならないのだが……。

 

 というか、原作通りのタイムスケジュールでグリプス戦役が起こったと仮定する場合、俺は17歳だぞ。

 エゥーゴの代表とか無理があるわ。

 まだヘンケン中佐や、途中で加入するかもしれないブライト大佐に丸投げした方がマシだろう。*6

 

 シャアは、手をあごにつけながら聞いてくる。

 

「ティターンズか。

 噂程度には聞いているが、酷いのか?」

 

「ガルマ経由の情報では、かなりな。

 規模もでかいが傲慢さも桁違いだそうだ」

 

 デラーズの裁判という、連邦の高官向けに格好の演出材料があったせいだろうか。

 ティターンズに回される連邦軍の資金はかなり潤沢なようだ。

 

 さすがにそれが原作よりも多いのかまでは分からないが、実際、かなり尊大になってはいるらしい。

 原作以上にジオン共和国が力を保持できていなかったら、何か圧力をかけられたり、妨害工作をされていたかもしれない。

 

 現状、ジオン共和国は連邦政府高官の一部と、非常に良好な関係を築き上げているらしいので、しばらくはティターンズにちょっかいをかけられる恐れはないようだ。

 

 本当にガルマすげぇわ。

 政務と交渉の天才である。

 

「せっかく地球圏に移っても、ララァや子供の身に危険が迫っては意味が無いな。

 いいだろう、協力しよう。

 私の部下の中で、希望する者がいれば連れていくこともできる」

 

 ということは、後のアポリーとロベルトこと、アンディとリカルドも来てくれるかもしれないな。

 エゥーゴは万年人材不足になるだろうからかなり助かる。

 

 ティターンズの雇用条件と権限がおいしすぎて、連邦側の人材でエゥーゴに加入しようとする人材って中々に希少なんだよな。

 ティターンズの非道を目の当たりにして、エゥーゴへ移籍できるエマ・シーンのような人格を持った人間は宝石よりも貴重な存在なのだ。

 

 なので、アポリー中尉とロベルト中尉、クワトロ大尉がエゥーゴに入ってくれるととても助かる。

 バリバリのジオン軍人であるとはいえ、連邦軍の軍籍を使ってエゥーゴに加入すればそれは連邦軍人なのだ。*7

 

 まあ、彼らがエゥーゴに加入するまでしてくれるかは分からないが、ティターンズが俺の知るようにバスク・オムの色が濃いのならば、シャアたちが参加してくれる可能性はそれなりに期待してもいいだろう。

 

「正直、かなり助かる。

 俺の年齢だと、連邦軍の軍籍を手に入れるのも一苦労だからな」

 

 俺の年齢で1年戦争で行方不明になっている連邦軍人などいるわけがないのだ。

 作るとすればいちからの捏造になるのだが、モビルスーツのパイロットとして登録するとなると、「どこでそんな訓練を受けた」という疑問が突き刺さる。

 

 ブレックス准将と面識を得られた後なら、少尉や准尉程度の階級でねじ込むことも可能かもしれないが、それまでは無理に軍籍を取らない方が無難である。

 

 シャアがコーヒーに口を付けながら聞いてきた。

 

「エルンスト。

 君は今16だったか?」

 

「まだ15だな。

 誕生日は8ヶ月ほど先だ」

 

 俺は現在、1年戦争当時のアムロと同い年である。*8

 現在の暦はU.C.0085の3月の頭だ。

 原作を当てにするのなら、グリプス戦役までは2年弱ほどの猶予がある計算ではあるが、その通りに進むかの保証はない以上、早まったり遅くなったりする可能性も視野に入れておかねばならない。

 

 どちらにしろ、俺は対ティターンズ工作任務ということで、前回よりもかなり長期の出張任務となるわけだ。

 先日6歳となり、わがまま度が跳ね上がりつつあるお姫様の説得、本当にどうしよう……。

 

*1
マレット・サンギーヌやエリック・マンスフィールドのような人間。

*2
正確には、やろうと思えば何でもできるがやりたがらない。

*3
すべて『ジョニー・ライデンの帰還』内の設定のまま。

*4
ボッシュの軍籍を捏造した時。

*5
デスマーチは1年戦争で十分である。

*6
なお、彼らは彼らで1艦長としては優秀でも、組織の指導者としてはまるで向いていない。

*7
連邦議会で正体をカミングアウトさえしなければ。

*8
エルンストの誕生日はU.C.0069の11月末。カミーユの1歳年上。




読んでいただきありがとうございます。

シャアがクワトロ大尉になるフラグ立て。

ララァとの間に子供ができたら、周囲が名家のための教育を勧めてくる環境とか、絶対こいつ嫌がりそうだよなと。

相手が善意で勧めてくるので、ドズル中将みたいに「ミネバにそんなものは必要無いわ失せろ!」とか叫べないだろうなという考察。

あと、若干流し気味にカーン家三姉妹の描写。
ハマーンだけ別人のようになってしまって……おおぅ。
マハラジャ・カーンは原作のように死亡はしませんが胃は痛めてそう。


ゼータ本編を再履修しながら話考えてますので、これからも時間をいただくことになるかと思いますが、よろしければお付き合いください。
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