超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
なんとか書けましたので投稿します。
俺にとって地球圏行きの最大の難関は、ぎゃん泣きするミネバのご機嫌取りと説得だった。
つい1年前に半年ほどの間空けていただけでも、1週間も拗ねられていたのだ。
短くても年単位になる今回の出張となると、難易度の高さも比ではなかった。
「私もエルといっしょに行く」とか言われても、ティターンズが蔓延っている今の地球圏になんて、危なすぎて連れていけるはずがないだろう。
何日にも及ぶ粘り強い交渉と説得の末、なんとかお姫様から地球圏行きの許可を得ることができたのだが、代わりに隔月でビデオレターをアクシズに出すことになってしまった。
本来なら毎月出せと要求されていたのだが、ジオン共和国との秘密定期船ですら片道2ヶ月かかる距離にあるのがアクシズだ。
毎月出すとなると何隻もの艦隊をその航路で常駐させる必要があるので、物理的に無理だ。
その辺は、さすがにドズル中将とゼナ様も説得に協力してくれたので、ミネバも何とか妥協してくれた。ドズル中将の計らいで、定期便が1便増えることになったが、地球圏との情報のやり取りを密にする意味もあるので、決してミネバのご機嫌伺いのためだけではない……はずだ。
かろうじてではあるが、この戦いは我々の勝利である。
ティターンズの専横具合によっては、アクシズの地球圏帰還の早期化もあり得るため、俺からの定時連絡の重要性がより増した形になった。*1
なんとか許可を得られた俺は、準備を既に整えていたアズナブル夫妻とアンディ、リカルド、他数名を連れて、再度地球圏へと赴くことになった。
片道に2ヶ月もかかるせいで、アクシズにいる期間がやたら短く感じてしまう。
ミネバが怒るのも無理はないが、こればっかりは勘弁してもらうほかはない。
地球圏に移動した俺たちは、まずは月面のグラナダへと向かった。
そこでアナハイム・エレクトロニクスと俺がコンタクトを取り、『アナハイムの宇宙船に発見され、救助されたクワトロ・バジーナ大尉と他数名』というカバーストーリーを作り上げる。
シャアとアンディ、リカルドはそのままアナハイムの艦で、連邦軍の拠点であるルナツーへと、軍籍の
戻ってきた時には、彼らはクワトロ大尉とアポリー中尉、ロベルト中尉になっていることだろう。
ララァ・アズナブルはアナハイムの協力を得て、グラナダの近郊にある都市、アンマンに住居を用意してもらえる手筈となった。
フラナガン機関での彼女の軍籍はガルマとキシリアが抹消してくれていたので、後はクワトロ大尉が戻ってくれば、彼女はララァ・バジーナとしてこちらで生活することになる。
アンマンはアナハイムの都市と言っても過言ではないぐらいにはアナハイムの影響力が強い。
治安も良く、医療や育児支援も十分に受けられるので、まず心配はないだろう。
1つだけ予想外だったのは、ララァとクワトロ大尉に用意された家族向けの高級マンションの隣に、まさかのセイラ・マスが住んでいたことである。
しかも妊娠中だった。
シャアがルナツーに行った以上、
引っ越しが終わった後で、ララァも交えて懇親会を兼ねて話を聞いたのだが、どうやらアムロの子を妊娠したのをきっかけに、ボッシュが俺のコネ経由でアナハイムに手配し、月面へと避難させたらしい。
そのままシャイアンに居たら最悪、ティターンズによって母子ともにアムロへの人質として扱われるかもしれないので、ボッシュの判断は正しい。
奴をアムロの側にねじ込んだかいはあったな。
ララァとセイラは初対面ではあるが、関係としては義理の姉妹となる。
両方と面識がある俺が間に立てば、小一時間後には仲良く話をする間柄になっていた。
すっかり意気投合している女性2人の話にはさすがについていけない。
俺は他の雑事を片付けると告げて、早々に別室へと避難した。*2
数日後、戻ってきたシャアことクワトロ大尉とセイラとの再会であるが、特に血なまぐさいことにならなかった。
ララァを通して、シャアのアクシズでの日々を知ったセイラには、シャアが本当に鬼子ではなく
クワトロ大尉が月面に居住している反面、忙しくなるのは俺の方である。
交渉や協力にと、月面やら共和国やらと、行ったり来たりする生活を送っている。
そのおかげでエゥーゴの結成自体は問題なく行える程度の根回しは既に終わっているのだが、肝心のエゥーゴの旗頭になるブレックス准将との接点が中々持てていないので、話が進んでいない。
15歳の俺が結成したとしても、そんな組織が一般のスペースノイドへの求心力を持てるとは思えない。そもそもジオン軍人が頭になって結成したところで連邦の反ティターンズ派閥が付いてくるわけがないだろう。
どうしようかと悩んでいると、その解決策は意外にもクワトロ大尉経由でやってきた。
共和国から戻ってきた俺は、クワトロ大尉からの呼び出しを受けて、アンマンの高級料理店へと赴く。
ウェイターに案内されて通された一室には、クワトロ大尉とメラニー・ヒュー・カーバイン、ウォン・リーともう1人の見知らぬ男性の姿が見えた。
クワトロ大尉が席を立ち、言った。
「
こちらはブレックス・フォーラ准将だ。
ティターンズの専横を憂いておられる、連邦の良識派の人間だ」
一応、まだ俺はデュオ・マックスウェルの偽造戸籍を使っているのだ。
ブレックス准将が立ち上がって、こちらに手を差し出してきたので、こちらも手を出して握り返す。
まあ、彼に偽名を名乗る必要もないだろう。
「デュオ・マックスウェルこと、エルンスト・ヴァルツァーです。
お会いできて光栄です。ブレックス准将」
「こちらこそ、かの『白銀』と会えて光栄だよ」
見た感じこそ好々爺という印象を受けるが、発言の端々からは強い意志とカリスマが感じられた。
たしかにエゥーゴを率いるのであれば、彼以外の適任者はいないだろう。
挨拶の交換が済み、俺が席に着いたのをきっかけに会議が始まった。
内容ははっきりと言ってしまえば、エゥーゴの結成についてだ。
この面子が揃っているのだから十分予想された展開ではあるのだが、シャア、もといクワトロ大尉が絡んでくるのは意外だった。
新婚生活でもうすぐ子供も生まれるのだから、加わってくれるとしてもエゥーゴ結成後だと思っていたのだ。
後で聞いた話であるが、俺があちこち移動しているせいでブレックス准将が接触のタイミングを読めなかったため、まずクワトロ大尉へと接触を図ったらしい。*3
ブレックス准将の掲げる、スペースノイド自治権の段階的拡大と権利強化の考えはシャアにとって魅力的に映ったらしく、話が合ったようだ。
すまんなシャア、面倒をかけた。
会議自体は滞りなく進んでいった。
というか、大半は俺が飛び回って根回しをしていたことの共有と追認だ。
さすがに連邦軍内部の根回しに関してはブレックス准将の手を煩わせるしかないのだが、それ以外の準備は大体終わっている。
エゥーゴの方向性も、現状はティターンズが軍事的な弾圧を強めてきた場合に備えて兵力を蓄えておくが、主な活動は平和的なデモの主催や支援という方向になりそうだ。
このままだと30バンチ事件も起こりそうであるが、残念ながら防ぐ手立てが思いつかない。
正直、この場にいる俺以外の全員、バスク・オムが『デモ鎮圧のためにコロニーに毒ガスを注入するほどの狂人』であることを知らない。
付け加えるとバスクは原作と違って、デラーズ紛争においても『味方ごとソーラ・システム照射』という正気を疑うような真似をしていない。*4
現時点では、俺が訴えても冗談としか受け取られず、まともに取り合ってはもらえないだろう。
こればかりは、奴の狂気を実際に体感してもらうほかはない。
事前に周辺宙域に待機し、速やかに救助に移るぐらいしか手はないが、仮に奇跡的なまでにすべてが上手くいったとしても、相当な犠牲は出るだろう。
そもそも、毒ガスの散布部隊とその護衛部隊が防衛線を展開している中、それを突破して救助活動に移れるかと言われると、まず不可能に近い。*5
精々、毒ガスが散布されても生存できるよう、宇宙空間活動用のノーマルスーツを多めに紛れこませておくぐらいが限界だが、1500万人分ものノーマルスーツなど用意できるはずもない。
犠牲になってしまう人たちには申し訳ないが、できることとできないことがあるのである。
何をするにしても、バスクの異常性を認知してもらわない限り、前提条件がまったく整わない。
おそらく、ティターンズのトップであるジャミトフですら、バスクがここまでイカれていることを実感していないだろうしな。
ちなみに、アクシズで開発された新装甲材、ガンダリウムγについてはアナハイムにその技術を提供済みである。
無論、ドズル中将の許可のもとだ。
ガンダム開発計画のデータの対価という形ではあるし、アクシズとしても最重要であるサイコミュ関連技術は漏らしていないため、別段問題はない。
そして会議も終盤となったところで、ブレックス准将が俺に切り出した。
「さて、エルンスト大佐。
よければ君にもエゥーゴの実戦部隊として参加して欲しいのだが……」
シャアに視線をやると、奴は黙って頷いてきた。
奴もエゥーゴにパイロットとして参加すると決めているらしい。
「それは私もそのつもりでしたので構いません。
ですが、私が
まず、俺がエルンスト
ジオン軍人がジオン軍籍のまま参加する、しかも大佐という幹部級で。
反地球連邦政府と名乗ってはいても、エゥーゴは連邦軍の1派閥である。
確実に「そんな
必死になって名前を隠す意味まではないだろうが、表向きは別の名前にしておいた方がいいだろう。
エゥーゴの思想に共感し、
また、エルンスト・ヴァルツァーとしての参加となると、ティターンズも無反応ではいられないだろう。
もっとも、ティターンズは「『白銀』なんてパイロットはいない。複数のエースパイロットの戦果を重ね合わせて生まれた、プロパガンダ用の虚像に過ぎない」とか言っているらしいので、そこまで過剰反応はしない気もする。*6
デラーズ紛争も「コロニーの落下はあくまで事故。デラーズの反乱は最小の犠牲で鎮圧された」と揉み消したようなので、ノイエ・ジールの存在すら連中は忘れ去っている。
ただそれでも、「だからエゥーゴはジオンの残党である」などというプロパガンダに利用されるのは面白くない。
名前を変えて参加するのが、一番面倒が少ないだろう。
「ならデュオ・マックスウェルとして参加するかね?」
ウォン・リーが聞いてくる。
俺は静かに首を振った。
「デュオ・マックスウェルはデラーズ紛争の時に色々と動きました。
この際、最初から新しい経歴を作った方が良いでしょう。
ブレックス准将、あなたの権限で新任の少尉をパイロットとして任官させることはできますか?」
ブレックスは苦笑する。
「可能ではあるが、いいのかね?
大佐からすると5階級もの降格だが」
周囲から「それは酷い」といった笑い声が漏れる。
俺も笑いながら言った。
「階級を気にして戦いに臨んだことはないですよ。
給料もこれまで十分以上にいただいてきましたし、問題はありません」
実際、1年戦争時代の給料のほとんどを孤児院宛てにガルマのところに残してきたが、アクシズ時代の給料とアナハイムからの謝礼という名を借りた賞与はたまる一方である。
悲しいかな、多忙なせいで使う予定もないので、少尉待遇に戻ったところで給与面で気にする必要は特にない。
実務的な側面としては――階級が少尉になる以上、クワトロ大尉の部下という立場になるのだろう。
シャアに指揮される側になるという、俺にとっては初めての経験にはなるが、奴の能力は信頼している。
こちらも問題はないだろう。
そう考えたら、普段は俺が指揮しなくてもいいのか。
なんだかんだと、俺が戦闘するときは大なり小なり指揮をしていることが多かったため、現場指揮を執らず、ただの1パイロットとして動ける経験は貴重かもしれない。
だが所用などでクワトロ大尉がいない場合、さすがにアンディとリカルド――いや、アポリー中尉とロベルト中尉の指揮下に入るのは違和感があるな。
そこは事前にあの2人と話し合っておくしかない。
というか、アポリー中尉とロベルト中尉も、俺を指揮して命令を下すとか違和感があるだろうしなぁ。*7
「ならば問題はないが、名前はどうするかね?」
ブレックス准将の問いかけに、俺は少し考える。
「そうですね……」
一時的な偽名として割り切っていたデュオの名前はともかく、グリプス戦役を戦うのであればヒイロ・ユイと名乗るのは無しだろう。
彼とは戦いに対するスタンスが完全に違っている。
ならばまったく新しい名前となるが、どうすべきか。
――未来にあったかもしれない、
「ケヴィン……。
ケヴィン・コナーとでもしておいてください」*8
その日、反地球連邦組織『エゥーゴ』が秘密裏に結成され、その創設メンバーの末端にケヴィン・コナー少尉の名前が記されることとなった。
読んでいただきありがとうございます。
取り急ぎエゥーゴ結成まで。
ただ、30バンチは多分防げない。
主人公以外、バスクがあそこまでキの字であることを、上司のジャミトフすら多分知らないので。
何度本編見直しても、あいつだけは別格に頭おかしい。
あと、主人公の新しい偽名。
最初、グレッグ・ペック(グレゴリー・ペック)にしようと思ってたんですが、グレッグ少尉って呼び方がどうしても個人的にピンとこなかったので没。
グレゴリーは短くしようがありませんでした。
ケヴィン・コナーは名前の弄りやすさから作者都合にて採用しましたw
C.D.Aでは誰かさんの偽名になってましたけど、本作では彼はアクシズに潜入すらできていないと思われるので、同名の人物はおりません。
ついでにセイラさん妊娠。
ボッシュの判断が早い。
本作のアムロに沈んでいる暇は本気でない。
多分、クワトロ大尉はうっきうき。
色々とお待たせして申し訳ないです。
ΖガンダムのTV版と劇場版を交互に見比べながら、ストーリーラインを考えているため、今後ともこのような投稿ペースになってしまうとは思いますが、よろしければ拙作にお付き合いいただければ幸いです。