超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。




第68話 開戦前夜の反攻準備

 

 

 ティターンズに対抗するために反地球連邦組織『エゥーゴ』が結成されてから半年と少しが経過した。

 当初は軍事組織的な面をあまり表に出していなかったエゥーゴであったが、ある事件をきっかけにしてその方向性を「ティターンズへの軍事的抵抗」へと急激に舵を切ることになった。

 

 世に言う30バンチ事件だ。

 

 U.C.0085 7月31日。

 反地球連邦とスペースノイドの自治権拡大をスローガンとするデモに対し、ティターンズ総司令官のバスク・オム大佐が使用が禁止されていた毒ガスG3をサイド1の30バンチコロニーへと注入し、1500万人を虐殺した事件である。

 

 結論から言うと、俺はこの事件を防ぐことができなかった。

 

 実際に事件が起きるまで、俺以外の誰もが「敵対しているわけでもないコロニーに毒ガスを注入するなんて真似、いくらバスクでも取るはずがないだろう」という見方を崩さなかったのだ。

 

 それを責めることはできない。

 原作知識というものが無かったら、俺だってそう判断する。

 しかも、この世界でのバスクはデラーズ紛争において『味方ごと敵をソーラ・システムで焼く』という行動を取っておらず、「強烈なまでのスペースノイド蔑視主義者」以外の人となりが知られていないため、余計に「バスクならば何をしでかすか分からない」という説得が難しい。

 

 上層部の納得が得られない以上、事前にコロニー防衛用の部隊を揃えておくなど不可能だ。

 クワトロ大尉の提言*1によって、ある程度はエゥーゴ上層部も妥協を見せてくれた。

 だがそれでも「デモに対してMSを用いた弾圧が行われた場合」に備えて、30バンチ近辺の廃コロニーに3機のジムと、それを搭載できるように改造した航宙貨物船を配備し、そこに俺が加わるのが限界だった。*2

 

 この最小限度にも届かない備えにすら、「そんな無駄なことにケヴィン少尉を配置するなど人的資源の無駄遣いだ」とまで言われていたので、この時点のエゥーゴの認識、さらに言えば宇宙世紀に生きる人間の認識がいかに甘かったのかが分かるだろう。

 

 そして、いざ事件が起こった際には俺の機体を含めたジム3機が相手にするのは、その数倍の数のジム・クゥエルやハイザックの部隊である。

 俺の率いるジム部隊は、俺以外の2機もガスの注入を目の当たりにし、義憤に燃えて奮戦したものの、さすがに機体の性能差に加えて数の差が大き過ぎた。

 コロニー住民の生存可能時間内に防衛線を突破できず、防衛線を半壊させた程度で撤退せざるを得なくなってしまった。

 

 結果として、事前にノーマルスーツを手配しておいた十数名を除いて、コロニー側の住民はほぼ全滅してしまった。

 

 俺やジム部隊の記録映像、ならびに数名の生き証人が確保できたことが原作との違いになるが、影響は微々たるものだろう。

 ティターンズによる報道規制により「激発性の伝染病によるコロニー全滅」と報道されてしまった以上、ごく一部の人間への説得材料ぐらいにしか使い道がない。

 仮に今公開しても、報道媒体をほぼ統制下に置かれている現状では、「映像自体が捏造である」と上書きされるだけだろうとエゥーゴの上役も判断したようだ。

 

 とはいっても、エゥーゴ内においては映像の閲覧にそこまで制限をかけていない。

 俺と共に作戦に参加した2機のジムのパイロットが話を広めたことも相まって、ブレックス准将からの筋以外にも「ティターンズ許すまじ」という空気がエゥーゴ内で醸成されている。

 エゥーゴの上層部にも『ティターンズは本気で何をするか分からない』という共通認識が生まれたのは、決して無駄なことではないだろう。

 

 クワトロ大尉も「ティターンズを野放しにしておいたら家族にも累が及ぶ」と判断したようで、かなり真剣味が増した気がする。

 

 正確に言うならば、ティターンズではなく()()()()()()()()()制御不能の狂犬なのであるが、それを言ったところでこれも信じてもらえるとは思えないどころか、下手をすると正気を疑われかねないので黙っておくしかない。

 そもそも、奴が例外中の例外なのか、他のアースノイドの中にも奴のような境遇*3に陥れば、奴のようになる人間がいるのかまでは分からないしなぁ。

 

 犠牲が大きすぎたが、30バンチ事件をきっかけにエゥーゴに協力する月面やコロニーの企業も増えたのは、不幸中の幸いといったところだろう。

 

 ティターンズに反抗する力をつけるまで、デモの支援等も含めて表立った行動を控えることにしたエゥーゴに対し、ティターンズもその動向をつかむことができず、表面上は穏やかに時間が過ぎていく。

 

 

 

 そうして1年と少しが過ぎ、U.C.0087 2月頭――。

 

「ガンダムMk-Ⅱ?」

 

 月面都市グラナダの近郊に存在する都市、アンマンに設置されているアナハイム社のアンマン工場内部、エゥーゴの秘密拠点となっている部門の会議室のひとつで、クワトロ・バジーナ大尉が聞き返した。

 会議室にいるのは3名。

 クワトロ大尉の他にはアナハイムの重役であるウォン・リーと俺、ケヴィン・コナー少尉だ。

 

 ウォンさんが返す。

 

「そうだ。ティターンズが開発している、ティターンズの、ティターンズによる、ティターンズのためのガンダムだ。

 皮肉にも連中自身がそう標榜している。

 その機体のテストがもうすぐ、サイド7にて執り行われるらしい」

 

 ふむ、と考え始めたクワトロ大尉に代わって、俺がウォンさんに聞く。

 

「たしか、ジオン系の技術を排して作った、連邦系技術だけで新造した機体だとか?」

 

 ウォンさんが頷いた。

 

「そう。その通りだ。

 だから技術的な情報が我々に入ってこない。

 我々には情報が必要だ」

 

 ジオン系技術者が開発に関わっていたら、その伝手である程度情報が流れてくるからな。

 だからこそ、ティターンズはこういうコンセプトで開発したのだとも思う。

 

「そこで我々に強行偵察をして来いと?」

 

 クワトロ大尉が聞いた。

 作戦上、必要なことであると分かっているが、アンマンを離れることが微妙に嬉しくないといった表情だ。

 1歳になった子どもがいるという時期、さらには隣に居住している妹にも同年代の子どもがいるので、彼の心情も理解はできる。

 

「Mk-Ⅱが1年戦争におけるガンダムのようなブレイクスルーを秘めた機体であるのなら、エゥーゴとティターンズの彼我の戦力差はさらに拡大するだろう。

 そうなってしまっては取り返しのつかない事態にもなりかねないのだ」

 

 力説するウォンさんに、今度は俺が聞く。

 

「しかし、アーガマは先日完成しましたが、肝心のモビルスーツがありません。

 いくらなんでもジムやジムⅡで潜入と強行偵察をこなすのは難しいのでは?」

 

 つい先日、エゥーゴの象徴となる旗艦、新型の強襲巡洋艦であるアーガマが完成していた。

 だが、アナハイムはアーガマに搭載するモビルスーツの開発に少々難航している。

 

 俺やクワトロ大尉の手で、ガンダリウムγの製法それ自体はアナハイムにもたらされたのだが、それの大量製造のためのライン確保と応用するための技術の構築に、結構な時間を取られていたのだ。

 つい先日、その問題がようやく解決したため、アナハイムは急ピッチで新型の開発を行っている最中である。

 

 30バンチ事件の時に思い知ったが、ジムはもう完全に力負けしている。

 出力が負けているのは百歩譲って目をつむるとしても、推力が違いすぎるのは大きな問題だ。

 強行偵察の後、撤退行動の際に敵に追いつかれてしまうだろう。

 

 これを使うぐらいなら、俺が単身でコロニー内に潜入してガンダムMk-Ⅱを強奪して、Mk-Ⅱの推力で撤退した方がまだマシである。

 

 ジムⅡならばやってやれないことはないだろうが、これも特徴がないのが特徴であるような機体であるため、強行偵察に適した機体であるとはお世辞にも言えない。

 そもそもエゥーゴの象徴になるべきアーガマの主力MSにするには、性能面からも辛い。

 

「たしかにな。

 機体がない以上、まだケヴィン少尉に単独で潜入してもらった方が勝算がありそうだ」

 

 そう言って頷くクワトロ大尉。

 

 俺も内心で少し考えたとはいえ、少尉に潜入任務を丸投げするような、作戦とも呼べない案を口に出すな。

 後で尻を蹴りとばしてやろうかこいつ……。

 

「それについては心配はない。

 ようやく完成した」

 

 ウォンさんはそう告げると、立ち上がった。

 

「付いてきたまえ。

 第3製造区画だ」

 

 

 

 

「これがリック・ディアスですか」

 

 格納庫に着いたクワトロ大尉がそう漏らす。

 俺たちの眼前には3機の同型のMSが並んでいた。

 

 MSA-099 リック・ディアス。

 俺の知識と照らし合わせても、形状に大きな差異はない。

 つまり、MS開発技術が異常に進歩するグリプス戦役においては、さすがに後半には力不足となっていく機体ではあるが、現状においてはこの世界屈指の高性能機ということだ。

 

 ちなみに「ガンマ・ガンダム」と呼称されるのは事前に阻止した。

 明らかに技術の系譜としてはリック・ドムを彷彿とさせるフォルムである以上、これにガンダムの名前を与えると味方を混乱させるだけだとブレックス准将を説得したのだ。

 ガンダムZZ本編でも、頭部をザクに換装したZザクが出撃した際、ブライト・ノアが本気で敵と間違えるなと連絡していた。

 頭部の形状は機体の認識にそれなりの影響も与えるだろうし、「頭部がガンダムフェイスじゃない機体をガンダムと呼称することは混乱のもとだろう」と言えば、少し残念そうだったが納得してくれた。

 

 赤く塗装された機体が1機、これはクワトロ大尉専用だろう。

 それと、黒い通常色に塗装されたのが2機――ん?

 

 1機足りなくない?

 

「ウォンさん。

 残りはアポリー中尉とロベルト中尉の機体だと思うのですが……」

 

 俺の機体はどこだ、と暗にウォンさんに問う。

 

 さすがに俺だけジムⅡとかだと作戦行動がしんどいぞ。

 まさか本当に「お前単身でガンダムMk-Ⅱを強奪して来い。それがお前の機体だ」とか言われるのではなかろうな?

 

 そんな不安に駆られている俺に、ウォンさんはニヤリと笑った。

 

「安心したまえ。

 ケヴィン少尉の機体は隣の区画に用意してある」

 

 

 

 

 リック・ディアスの慣らし運転をするというクワトロ大尉を残して、俺とウォンさんは隣の区画へと移動する。

 その区画には別口の格納庫が存在しており、そこには1機のモビルスーツが佇んでいた。

 

「こいつは……」

 

 それを見て、俺は呆然と呟いた。

 データ上でしかないが、このシルエットには見覚えがある。

 背中に付いている3本の空間機動用ユニットが特徴的なこの機体は――。

 

「ガンダム試作4号機?」

 

 オサリバン常務との取引で得た、ガンダム開発計画のデータ。

 バーニアや細部に違いが見えるものの、その姿はデータで見たガンダム試作4号機ガーベラに酷似していた。

 

 ブレックス准将が「ガンマ・ガンダム」案をあっさり引き下げた理由はこれか。

 既に手元にガンダムタイプがあったからだ。

 

 ウォンさんが若干自慢げに語り始める。

 

「さすがに知っているか。その通りだ。

 これはガンダム開発計画の試作4号機、コードネームはガーベラ。

 その機体を最新の技術を用いて改修したものだ。

 原形機と比べて各部性能を最適化させている上、リニアシートと全天周囲モニターを採用し、重力下による運用も想定している」

 

 つまり、ガンダム・ガーベラとでも言うべき機体だろうか。

 ウォンさんが自慢げなのは、改修されたとはいえこいつの原形は、エゥーゴの手を借りずに()()()()()()()()()()()()()()()()()という自負があるからだろう。

 

 たしかにエゥーゴの機体として扱う分には、この機体のチョイスは悪くない。

 

 ガンダム開発計画は3号機までが連邦に提出されている――つまり、試作4号機の存在を知る人間は連邦軍に存在しない。

 さすがに連邦がデラーズ紛争の際にガーベラ・テトラを鹵獲していると仮定して、さらにこいつが鹵獲されるようなことがあれば、基礎フレームの類似性がバレてしまう危険性はある。*4

 

 だが、そこまで考慮に入れると何もできないしな。

 鹵獲されるぐらいなら自爆させる、その心構えでいれば問題はないだろう。

 

 何より、白兵戦を得意とした強襲用MSというコンセプトは非常に俺向きの機体であると言える。

 アクト・ザクやギャン、イフリートを思い出す。

 あの感覚で使える機体はありがたい。

 

「現行の技術で改修されているのでしたら問題はありません。

 ……ありませんが、ひとつお聞きしても?」

 

 俺は横目でウォンさんを見ながら尋ねた。

 

「……何かね?」

 

 答えるウォンさんも若干、返答に間が空いている。

 というか、少し目が泳いでいるのを俺は見逃さない。

 

「どうして()()()()()()()()()()()()のです?」

 

 そう、このガンダム・ガーベラ、まだ組み立て途中なのである。

 全身の装甲が貼り終わっていないので内部機構がむき出しになっているし、その内部機構もまだ部品が足りておらず、不自然なスペースが空いている箇所が何箇所かある。*5

 

 改修したとは言っても3年近く前の機体だ。

 なんで新造機のリック・ディアスよりもロールアウトが遅くなっているんだよ。

 

「……機体の各所をガンダリウムγに改装する際、細部の修正も必要と技術者どもが改修を始めたのだ。*6

 結果、リック・ディアスが先行してロールアウトすることとなった」

 

 たしかに装甲や駆動系やジェネレーターをガンダリウムγに更新しておかないと、後々の修理や補給でその都度、クソ高いルナ・チタニウム(旧ガンダリウム)合金を用意しなくてはならないというコスト面の事情は分からなくはないのだが……。

 

 それならばもう1機、リック・ディアスを組んでくれた方が良かったなぁ。

 何ならハイザックを横流ししてくれるだけでもいい。*7

 

 これはひょっとして――。

 

「……ちなみに、ガンダムMk-Ⅱの強行偵察には?」

 

 返答はウォンさんの爽やかな笑顔であった。

 諦めた顔ともいえる。

 

「間に合うと思うかね?」

 

 俺は「おおう」と呟いて、天を仰いだ。

 

 すまないカミーユ・ビダン。

 君はエゥーゴに加わる運命なのかもしれない。

 ワンチャン、ジェリドと出会わなければ……とは思うが、さすがに望み薄だろう。

 

 機動戦士Zガンダムの最序盤に、俺は間に合いそうになかった。

*1
「バスクが最悪、毒ガスを用いるかもしれない」という主張には半信半疑だが、ケヴィン個人は信用していることからの口添え。

*2
ブレックス准将の伝手で連邦軍から横流しした機体のため、ジムⅡやジム・カスタムですらない。エゥーゴ用MSの供給体制もアナハイム側が間に合っていないので、この機体しかない。

*3
南極条約の締結前に捕虜になり、拷問の結果、視力低下を患ってゴーグルの装着が必要になった。これにより、バスクはスペースノイドを憎悪するようになった。なお、複数の媒体にて言及されているものの、設定的には非公式設定。

*4
ケヴィンは知らないが、ガーベラ・テトラはコロニーとともに地球に落下し、途中で燃え尽きた。

*5
イメージとしては原作『0083』における初登場時のヴァル・ヴァロに近い。

*6
ガンダム試作4号機の元々の設計は旧ジオン公国系技術者の多い第2研究事業部。改修にあたって、彼らがケヴィン少尉の正体を仄めかされて、「『白銀』が乗るなら今の俺たちのありったけを!」とヒャッハーした結果。なお、その辺りの事情はウォンもケヴィンも知らない。

*7
なお、ハイザックに搭乗した場合、『リーオーに乗った途端、リーオーが異様に強くなる。アルトロンガンダムとも斬りあえる』というあの状態になる。




読んでいただきありがとうございます。

間隔が開いてしまい申し訳ありません。
花粉症と片頭痛と色々ありまして、Z再履修の時間がなかなか取れませんでした_(:3」∠)_


30バンチ事件とエゥーゴの急速な軍事強化、あとは新型機のお披露目。

さすがにジムで30バンチ事件を防ぐのは無理。
エゥーゴが軍事色を前面に押し出していないこの時点では、ブレックス准将の権限で秘密裏に横流しできるのはジムが限界だと思います。
これでジム・クゥエルとハイザック部隊相手に制限時間付きで突破するのは、無理ゲーではないかと。
それでも防衛線を半壊まで追い込んでいるので、残りの2機のパイロットも多分名無しのエース。
特に設定はしていないので、ウラキとかユウではない。

まあこれでエゥーゴ上層部も「あいつはヤバい」という認識ができたと思います。
特にクワトロ大尉(子持ち)の危機感が凄そう。


主人公の新型機に関しては、0083編の頃からガーベラにしようとぼんやり考えておりました。
まあ当初は『裏取引で現物をアクシズに持って帰って、アクシズの技術で改修したガーベラ持ってくる』みたいに考えていたので、道筋が完全に別物と化しましたけど。

そのせいで序盤に間に合わなくなるという。
この主人公、毎回、各作品の1話に顔出してないな。
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