超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。


第69話 親と子と

 

 

 

 モビルスーツ、ガンダムMk-Ⅱを駆りながらカミーユ・ビダンは憤っていた。

 何に憤っているのか、自分でもはっきりとは分からない。

 家族のことを顧みない父にか、その現実から目を背けて仕事へと逃避した母にか、このような状況を作り上げたティターンズにか、あるいはその状況をどうすることもできない自身に対してか。

 

 自分を取り巻く状況の変化が急すぎて、頭が回らない。

 ただひとつだけ――現実として『母が人質に取られている』という問題だけは分かっている。

 ティターンズによって透明なカプセルに閉じ込められ、宇宙へと射出されたのだ。

 ガンダムMk-Ⅱを盗んだ自分の母親だという理由で……。

 

 それを知ったカミーユは、衝動的にガンダムMk-Ⅱでエゥーゴの軍艦であるアーガマから飛び出していた。

 だが、飛び出したはいいものの、どうするのがいいのかなど分からない。

 ただカプセルに近づいて、母親を助けなければならないという以上の考えが浮かばなかった。

 

 カプセルの近くに展開していたハイザックからの射撃を避けつつ、カプセルへとMk-Ⅱを接近させる。

 怯えた母の顔がモニター越しに視認できる。

 カミーユは思わず叫んだ。

 

「あなたは何やってんです!

 そんなところで!」

 

 カプセルを掴もうと手を伸ばす……。

 その瞬間、視界の端に閃光が走り、同時に自身の機体が激しく揺れた。

 

「な、なんだ?」

 

 視線をモニターに走らせる。

 左腕部に損傷。

 シールドを持たずにアーガマを出たため、直撃を受けた左腕が火花を吹いている。

 

 母親のカプセルは……下部に何かの破片が当たったのか、少し凹んでいるが、透明部は無事なように見える。

 

 撃ったのは――近くのハイザックか。

 だが様子がおかしい。

 そのハイザックは右腕を失っていた。

 喪失した右腕がマシンガンを握りしめたまま、近くに浮かんでいるのが見える。

 先ほどまでは五体満足でこちらに撃ってきていたはずだ。

 

 そのハイザックは自身のマシンガンを回収しようと手を伸ばし――。

 後方から飛来したビームに左足を撃ち抜かれて、大きくバランスを崩した。

 

 先ほど、ガンダムMk-Ⅱの腕を撃ち抜いたのはハイザックだ。

 そうカミーユは察した。

 おそらく、ハイザックは母の入ったカプセルを狙撃するつもりだった。

 だが土壇場で腕を撃ち抜かれたため、狙いが若干それてガンダムMk-Ⅱの腕に被弾したのだ。

 

 なら、そのハイザックを狙撃したのは一体誰だ?

 

 カミーユはレーダーを確認する。

 先ほどまで、ティターンズとエゥーゴは一時停戦状態だったため、ミノフスキー粒子の濃度はそこまで高くはない。

 ギリギリであるがレーダーに表示される。

 高速で接近中のこの機体は――。

 

「ガンダム……?」

 

 カプセルの狙撃に失敗したハイザックが撤退していくのと入れ違いになるような形で、その機体、ガンダムMk-Ⅱとは別のガンダムタイプのMSがサブフライトシステム*1に掴まって接近してくる。

 その機体はかつてのガンダムを連想させる青を基調に中央部が彩られており、頭部や四肢は白銀のカラーリングがされていた。

 最近は有名なパイロットにあやかって、機体を『赤』や『白銀』に塗りたがるパイロットが多いとも聞くので、多分それだろう。

 エゥーゴにも機体を赤に塗装している人間がいる。*2

 

 そのガンダムはMk-Ⅱに近づくと、こちらの肩を掴んだ。

 同時に接触回線を通じて声が聞こえる。

 

「こちらエゥーゴのケヴィン・コナー少尉だ。

 ガンダムMk-Ⅱ、カミーユ・ビダンで間違いないな?」

 

 声の感じからして同年代のような気がする。

 だが同時に、意志の強そうな感じも受ける。

 

「は、はい」

 

「事前にレーザー通信でアーガマから状況は聞いている。

 そのカプセルをアーガマへ……ちょっと待て」

 

 ケヴィン少尉のガンダムは、カプセルへと彼のガンダムの頭部を近づける。

 数秒後、「まずいな」と呟いた彼は、ガンダムの指から粘着弾(トリモチ)をカプセルへと発射した。

 

「っ!?

 何するんです!?」

 

 思わず激高しかけたカミーユだったが――。

 

「空気が漏れている。

 おそらく先ほどの衝撃が原因だ」

 

 返ってきたケヴィン少尉からの返答に血の気が引いた。

 

 トリモチで覆われたカプセルは中の様子が見えず、母の表情も確認できない。

 だが、なんとなくではあるが()()()()()()()()()()

 

「トリモチで応急処置はしたが、既に抜けた空気までは補充できない。

 一刻も早くアーガマへ行く必要がある」

 

 時間の余裕がないと分かるように、ケヴィン少尉は続けざまに告げる。

 

「俺がカプセルを運ぶ。

 この機体の推力はMk-Ⅱより高い。

 カミーユ、君は……」

 

 双方のレーダーが警告音を発する。

 アレキサンドリアから出撃したMS部隊だ。

 

 カプセルの破壊が成功しなかったため、ティターンズの指揮官が慌てて発進させたのだろう。

 

「ケヴィン少尉はアーガマへ!

 僕は奴らの足を止めます!」

 

 ガンダムMk-Ⅱを敵の方向へと向ける。

 

「左腕が動かないんだろう、無理はするな!」

 

 その言葉を残して、ケヴィン少尉の機体が遠ざかっていく。

 なるほど、たしかにすごい速さだ。直線の加速はガンダムMk-Ⅱを遥かに超えている。

 サブフライトシステムをその場に残していっているのは、こいつの主な役割が推進剤の節約ということなのだろう。

 

 ティターンズのモビルスーツがあのガンダムに追い付けるとは思えないが……。

 

「足止めの牽制ぐらいなら!」

 

 ガンダムMk-Ⅱの照準をつける。

 がむしゃらに戦うこと以外、カミーユには『もう母には会えないかもしれない』という漠然とした不安を拭い去る方法はなかった。

 

 

 

 

 

「ギリギリで間に合ってないよな……」

 

 カプセルを手にしたガーベラのスロットルを全開にしながら俺、ケヴィン・コナーはひとりごちた。

 正直、ガーベラのロールアウトが遅れた時点で、カミーユ・ビダンの両親の生存についてはほとんど諦めてはいたのだ。

 カプセルが完全に破壊される寸前に、おそらくジェリド・メサの搭乗したハイザックが狙撃可能範囲に入ったのは、運が良かっただけとしか言いようがない。

 

 まあ、ロールアウトが間に合っていたとしても、アーガマからガーベラを発進させていたのでは、ハイザックに気付かれて接近前にカプセルが破壊されていただろう。

 そう考えると、ロールアウトが遅れたこと自体は、事態を好転させていると言っていい。

 だが、もう少しだけ早かったら……とは思わずにはいられない。

 その結果が、カプセルの一部破損による空気漏れだ。

 

 トリモチでとっさに塞いだため、窒息死は免れるかもしれないが、このままでは酸素欠乏症になってしまう可能性も高い。

 一刻も早く、アーガマの格納庫を空気で満たした上でカプセルを開ける必要がある。

 

 と、その時。

 

「何だ?」

 

 何かがまっすぐ接近してくるのを感じ、機体を回避させる。

 

 先ほどまでガーベラがいた位置を、1機のモビルスーツがまっすぐ突っ切っていく。

 回避していなければ正面衝突のコースである。

 問題はその機体が味方機の反応を出していることだ。

 

「赤いリック・ディアス……、あれクワトロ機だよな?」

 

 クワトロ大尉があんな、あわや正面衝突しそうな機動を取るとは思えない。

 訝しみながら、ようやく見えてきたアーガマに通常回線で通信を入れる。

 

「こちらケヴィン少尉。

 ヒルダ・ビダン中尉を搭載したカプセルを運んできたが、カプセルから空気が漏れている。

 一刻も早く、格納庫を気密して解放する必要がある。準備してくれ」

 

 数秒が経ち、アーガマからの返答が入った。

 

「ケヴィン少尉、申し訳ないがこちらは緊急事態によるスクランブル中だ。

 ヒルダ中尉のカプセルは随伴のジムに預けて、少尉も協力してもらいたい」

 

 スクランブルとなると、搭載しているモビルスーツをほぼ全機射出するまで格納庫を閉じることができない。

 ゴール地点で待たされたのでは、ガーベラの推力がいくら高くても意味が無いぞ。

 

「何が起こったんだ?」

 

 思わず状況を尋ねた俺に、ブリッジから帰ってきた返答は無慈悲な現実だった。

 

「クワトロ大尉のリック・ディアスが奪われた。

 犯人は恐らくフランクリン・ビダン大尉だ!」*3

 

 うわぁ……。

 

 ここのタイミング、劇場版(星を継ぐもの)準拠なのかよ。

*4

 

 このサイズのカプセルは格納庫でしか開けられない。穴を開けて酸素を注入するにも、気密された空間でないと無理だ。

 下手をすると破損して窒息死が確定する。

 その上、これ以上の空気漏れを防ぐためにトリモチを付着させているので、格納庫内併設の収納スペースに入れて気密するのも難しい。

 

 残酷に聞こえるかもしれないが、エゥーゴとしては、ヒルダ中尉の生存とリック・ディアスを敵に渡さないことの重要性を天秤にかければ、後者を優先するのは当然の判断である。

 

「了解。

 カプセルをジムに預けて追撃行動に移る」

 

 ガンダム()が1機追撃に加わるのならば、緊急展開も最小限で済む。

 さすがにまだ出撃できていない残りのジム全機よりは、戦力になるという自負はある。

 格納庫内が気密されるのも少しは早まるだろう。

 

 しかし無自覚とはいえ、旦那であるフランクリンの身勝手な行動が、妻であるヒルダの生命を脅かす事態になっているのか。

 そして、その発端になったのは息子であるカミーユの行動であり、そのカミーユの行動の源泉となっているのは、フランクリンが愛人を作って家族を顧みなかったことだ。

 

 割と呪いめいたものを感じるな。

 

 格納庫のジムにカプセルを預けて、機体を翻す。

 戦場へと舞い戻りながら、先行しているアポリー中尉やロベルト中尉からのデータリンクを確認する。

 予想以上にティターンズのモビルスーツが多い。

 

 原作描写の約3倍近いMSがいないか、これ?

 

 奪われたリック・ディアスの動きに対応して、ティターンズからの艦砲射撃が既に始まっている。

 それに対抗するように、アーガマもメガ粒子砲を撃ち始めた。

 

 これは中々の混戦になりそうだ。*5

 できればカミーユの手を煩わせたくはないのだが、この状況でフランクリン・ビダンを見つけられるかと言われると正直難しい。

 特にフランクリンはニュータイプでもないので、感応で感じることすらできない。

 

 結局、その戦いでティターンズ側の艦砲射撃により、フランクリン・ビダンの奪ったリック・ディアスが撃墜されてティターンズが撤退するまで、俺は彼を発見できず、ハイザックとガルバルディを数機ずつ落とすに留まった。

 

 

 

 

 

 

 ティターンズ側からの艦砲射撃により父、フランクリン・ビダンの死亡を見届けたカミーユは、同じくガンダムMk-Ⅱに搭乗しているエマ・シーン中尉とともにアーガマへと帰投した。*6

 格納庫に機体を預け、通路を駆け抜けた彼は程なくして医務室へと到着する。

 

 そこには人だかりがあり、その中にはクワトロ大尉にヘンケン艦長、ブレックス准将の姿まで見える。

 いち早く、クワトロ大尉がカミーユの存在に気付いた。

 

「カミーユ君、残念ではあるが……」

 

 そう言うクワトロ大尉に促されて、カミーユは人混みをかき分けて中へと進む。

 その中心部にはベッドが設置されており、そこには1人の女性が横たわっていた。

 

「あ、ああ……」

 

 思わず声が漏れる。

 

 死んではいない。

 目は開いているし、呼吸もしている。

 

 だが、その目は何も映さない。

 息子であるカミーユの姿が目に入っているのに、何も反応を返さない。

 

 そこには酸素欠乏症の症状を呈した母、ヒルダの姿があった。

 

「な、なんで……」

 

 ケヴィン少尉のガンダムの速度なら間に合ったはずじゃないのか。

 そう言おうとした矢先、クワトロ大尉が告げた。

 

「フランクリン大尉がリック・ディアスを強奪したため、ヒルダ中尉の受け入れが遅れたのだ」

 

 その言葉にカミーユは凍り付いた。

 先ほどまでその強奪した当人(父親)とやりあっていたカミーユには、エゥーゴを糾弾することはできない。

 新型機であるリック・ディアスを奪われた以上、その奪還か破壊を最優先にするのは軍として当然のことだと自分にも分かる。

 

 先の言葉は、クワトロ大尉としては単なる事態の説明に過ぎなかったのだが、カミーユにとってその言葉はまったく意味が違うものとして捉えられた。

 

 ()()()()()()()()()()()()

 

 先ほど、父と交戦した際に、フランクリンが身勝手なことを喚きたてていたことが重なる。

 ヒルダが人質に取られていたのだと告げても、構わずにリック・ディアスを持ち去ろうとした父親。

 「親に銃を向けるのか」と言い放ちながら、息子である自分にビームライフルを乱射してくる父親。

 

 彼の中で、父親がすべての元凶であると認識されていく。

 引き起こした事態そのものはフランクリン本人が意図したものではないという一点を無視すれば概ね事実ではあるが、この状況になったカミーユ本人からしてみれば、もはや意図的であろうがなかろうが関係ないものとなっている。

 

 ただ、それを糾弾したい相手は既に死んでいる。

 しかも、ティターンズ側の艦砲射撃に撃ち抜かれ、脱出時に機体の爆発による破片にぶつかって、という自業自得のような最期だった。

 

 この激情を誰にぶつければいいのか分からない。

 どうすればいいのかも分からない。

 

 ただ立ちつくすだけのカミーユに、ブレックス准将が声をかけた。

 

「次の補給の際、ヒルダ中尉は月面に搬送されて、入院して治療を受けていただく予定だ」

 

 それにヘンケン艦長が続く。

 

「時間はかかるが、ゆっくりと快復する場合もある。

 希望を失うなよ」

 

「……ありがとうございます」

 

 カミーユには、ただ呻くように礼を言うことしかできなかった。

 

 

 

 

 レコア・ロンド少尉とクワトロ大尉に引き連れられて、カミーユはアーガマ居住区にあるリラクゼーションルームへとやって来ていた。

 部屋の壁すべてがモニターになっており、様々なシチュエーションを映し出してリラックスできる施設だ。

 

「お父様のことは誰のせいでもないわ。

 あそこは戦場だったのよ」

 

 レコア少尉がモニターを操作し、森林の映像を映し出しながら言った。

 それにクワトロ大尉が続く。

 

「お母様のことについては……冷たい言い方だが、ティターンズというのはああいうものだ。

 特に酷いやり方と言えないのが悲しいところだ」

 

 映像が切り替わると同時に、酸素濃度も若干高くなっているのだろうか。

 なんとなくそんな気持ちになりながら、深く息を吸って吐くことを繰り返す。

 

 そうしていると、部屋の外から声が聞こえた。

 

「ケヴィン・コナー少尉、入ります。

 エマ・シーン中尉も一緒です」

 

 扉が開き、2人の男女が入ってくる。

 1人は既に面識もある、ティターンズに所属していたはずのエマ・シーン中尉。

 彼女はティターンズの制服を脱ぎ、エゥーゴの制服と思われるものを身に着けていた。

 

 そんな彼女を見て、レコア少尉が言う。

 

「エマ中尉、サイズは大丈夫だったみたいね」

 

「ありがとう。現地徴用兵が希望だけれども、今は保護観察の身だから……」

 

 そしてもう1人。

 クワトロ大尉のものとは色が違い、袖があるエゥーゴの制服。

 青地に銀色で彩られたそれに袖を通しているのは、おそらくは自分と同年代程度であろう、金髪の白人男性。

 

 彼はまっすぐと部屋の中へと進むと、クワトロ大尉たちに向かって敬礼した。

 

「お久しぶりですクワトロ大尉、レコア少尉」

 

「君に丁寧語を使われるとむず痒いな」

 

 クワトロ大尉は苦笑する。

 彼とクワトロ大尉は、親しい関係なのだろうか。

 

 少年も苦笑しながらかぶりを振った。

 

「ある程度は我慢してください、民間人協力者の前でしょう。

 改めて、つい先ほどぶりだ、カミーユ・ビダン君。

 ケヴィン・コナー少尉だ。お母様のことは間に合わなくて申し訳なかった」

 

 予想はしていたが、彼がケヴィン少尉だったようだ。

 何とか身体を起こして、ケヴィン少尉と握手をする。

 

 そのまま、ケヴィン少尉はカミーユの隣へと腰かけた。

 そしてカミーユの右側面、クワトロ大尉と並んで座るレコア少尉の対面に、エマ中尉が腰かける。

 

 カミーユはうめくように返答する。

 

「いえ、あれは悪いのは父です。

 ケヴィン少尉のせいじゃない……」

 

 父が悪いと言い切ったカミーユに、思わずエマ中尉が声をかけた。

 

「でも、あなたのご両親だって……」

 

 その発言が何だか分からないが、カミーユにとっては無性に癇に障った。

 

「あんなの親じゃありません!

 あんなの……」

 

 思わず激高したカミーユは、その感情の赴くまま言葉を続けた。

 

「戦争がなくったって父は愛人を作ったし、母は母で父が若い女と寝ているのを知ってても、仕事に満足をしちゃってそんな父を見向きもしなかったんです。

 軍の仕事だ、ティターンズのだって張り切ってみせて……。

 エゥーゴだティターンズだってそんなのはどうでもいいんですよ。

 子供はね、親に無視されちゃたまんないんですよ」

 

 そして深く息を吐く。

 いくら呼吸しても酸素が足りない。

 そんな感じがする。

 

 黙って聞いていたクワトロ大尉が声を上げた。

 

「分からなくもない話だが……」

 

 最後まで聞くまでもなく、カミーユには彼の言わんとしていることが何となく分かった。

 

「死んだ人間のことは言うなというのですか!?」

 

 クワトロ大尉は頷いた。

 

「そうだ。

 その言動は、回り回って君自身を傷つけることになる」

 

 まるで親のようなことを言うその姿が、カミーユには耐えられない。

 

「大尉は僕の何なんです!?」

 

 そう食って掛かったカミーユの前に、横から腕が突き出された。

 腕を突き出してカミーユを制止した当人、ケヴィン少尉が静かにクワトロ大尉に告げる。

 

「クワトロ大尉、少しカミーユ君と2人で話をさせてくれないか?」

 

 クワトロ大尉は少々意外そうな顔をしたものの、すぐに快諾した。

 

「ケヴィン少尉?

 構わんよ。なら我々は食事にでも行っておくとしよう。

 エマ中尉もご一緒にどうですか?」

 

「え?

 ええ、レコア・ロンド少尉は?」

 

「付き合うわよ。

 ケヴィン少尉、後は任せます」

 

 そして3人が退室した後、残ったのはカミーユ当人とケヴィン少尉だけとなった。

 双方ともに何も言わず、奇妙な沈黙が場を支配する。

 

 たまらずに、カミーユが声を上げた。

 

「お説教ですか、ケヴィン少尉?」

 

 そんなもの聞きたくない。

 そういった感情を滲ませつつ言う。

 

「はぁ……」

 

 対するケヴィン少尉は、やれやれといった様子で深く嘆息した。

 そしてこちらをまっすぐに見つめると、いきなりカミーユの胸ぐらを掴み上げた。

 

 強制的にカミーユの視線とケヴィンの視線が交差する。

 

「おい、何を我慢している?」

 

「え?」

 

 ケヴィン少尉が何を言っているのか、一瞬分からずに思考が停止する。

 思わず呆然としたカミーユに、ケヴィン少尉は力強く言い放った。

 

()()()()()()()()()()

 

 その一言に、カミーユの思考が完全に停止した。

 

 この人は今、何と言った?

 泣いていいと言ったのか?

 

 混乱しているカミーユの服から手を放して、ケヴィン少尉は再度告げた。

 

「泣いて、いいんだ」

 

 そう言って、ケヴィン少尉はポケットから取り出したものをテーブルの上に置いた。

 

 それは母、ヒルダ・ビダンがいつも身に着けていたロケットペンダントだった。

 無表情のまま、カミーユは震える手でそれを開く。

 

 中に入っているのは、家族が仲違いしていなかった頃の写真。

 幼い時のカミーユとともに、笑顔を浮かべた両親が仲睦まじく映っている。

 

 ケヴィン少尉が部屋から出たことにすら気付かずに、カミーユはただ、ペンダントを握りしめながら慟哭した。

 

*1
後にゲターと呼ばれる機体の試作タイプ

*2
カミーユは知らないが、本人である。

*3
劇場版では身元を確認しているシーンはないが、さすがに身元を確認せずに「トイレを貸してくれ」という要請にアーガマのクルーが応じるとは思えないので、名乗っていると解釈。

*4
劇場版3部作の第1作『星を継ぐもの』において、ヒルダ・ビダンの殺害とフランクリン・ビダンによるリック・ディアス強奪はほぼ同じタイミングで起こっている。カミーユはほぼ同時に両親を2人とも失うという地獄の巻き展開。

*5
ロベルト中尉「クワトロ大尉が使っていないと分かった。アーガマも撃ちだした。敵のモビルスーツも取っ散らかっている。ガキは滅茶苦茶だ!」

*6
リック・ディアスの脱出ポッド、仕事しなさすぎ問題。




読んでいただきありがとうございます。


長らく時間がかかって申し訳ありません。個人的にはかなりの難産でした。
ヒルダ・ビダンをなんとか生存……これは生存で良いのか?をさせようと、タイミングがかなりの綱渡りに。
強引に思われるかもしれませんがご容赦いただきたい。

そして悲しいことに、彼女は装甲材の研究者なので、彼女が生きていても新しいMSが誕生するとかは基本ないという。
のでテム・レイ式退場法(何)
ちなみにフランクリンがやらかしていなければ普通に間に合っていました。

非常にどうでもいい話ですが、ロベルト中尉が劇場版で放った「クワトロ大尉が使っていないと分かった。アーガマも撃ちだした。敵のモビルスーツも取っ散らかっている。ガキは滅茶苦茶だ!」って台詞がテンポ良くて地味に好きです。



「シャア・アズナブルという人を~」キャンセル。
ここのシャアはそんなこと絶対に言い出さないし、劇場版仕様でエマ中尉が言う展開もなし。
そもそもザビ家と和解してるんすよ、このシャア。

「死んだ人のことを悪く言うな」のあたりもちょっと改変。
ここのクワトロ大尉は、あくまでカミーユのために言ってる感じ。
既に父親になっているシャアなら、「次の世代のための世直し」とかノンデリなことは言わないのではないかと自己解釈。
その父性が、毒父をさっき亡くしたカミーユに逆に刺さる。



「お前は今泣いていい」

Zガンダム編やると決めた時からこれがやりたかったw

キャラボイス的にオリ主言われる側ちゃうんかいとか言われそう。
まあキラ・ヤマトいないから仕方ない。


真面目な話、この時点のカミーユに一番必要なのって、無理に励ますことじゃなくて、「泣いていいよ。泣いて悲しんで、きちんと両親の死を受け止めるべきだ」って言ってやることじゃないかと思うんです。
次の時代への世直しをとか言ってる場合じゃない。
TV版のシャア、ノンデリが過ぎませんか?


ロケットペンダントについては捏造設定ですが、この人、カミーユに伝わってはいませんがそこそこ真面目に母親やっていたので、持っていてもおかしくはないと思います。



ほぼ週刊みたいな形になってしまっていますが、よろしければ次回もお付き合いいただけると幸いです。
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