超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
なんとか書けましたので投稿します。
なぜ、こんなことになっているのだろう?
肩で息をしながら、カミーユ・ビダンは心中で呟いた。
ここはアーガマのレクリエーションルーム――映像を壁面に映し出すことにより、様々なシチュエーションを再現する、リラクゼーションのための設備である。
ただ、現在はテーブルや椅子を片隅に移動させた上で、武道の修練場の映像が映し出されている。
何故この映像があるのかは分からないが、軍人たちがたまに鍛錬でもするのだろうか?
ご丁寧なことに、床には運動用のマットレスまで敷き詰められており、カミーユが所属していた空手部の稽古場を彷彿とさせる。
そして目の前には自分とは違い、息を切らせるどころか汗ひとつかいていない様子の男――ケヴィン・コナー少尉が立っていた。
彼も自分も、運動用のタンクトップシャツにトレーニングズボン、そしてスパーリング用のグローブを身に着けている。
本当に、なんでこんなことになっているのだろう?
酸素が足りず、ぼんやりしている頭で再び心中で問う。
たしか、最初はお袋が酸素欠乏症になって、泣きじゃくった翌日だったはずだ。
昨日に「お前は今、泣いていい」と言ってくれた当人が、「空手やってたんだろう? 組手するぞ」と唐突に言い出したのだ。
脈絡がないにもほどがある。
唐突過ぎるその申し出に、カミーユも最初は「そんな気分じゃない」と断ろうとしたのだ。
だが、そんなカミーユにケヴィンはこう言ってきた。「俺に一発でも有効打を入れることができればそこで終わりで良い。まあ自信がないなら別に構わないが?」と。
今にして思えば、見え見えの挑発だったとは思う。
だが、当時の自分は空手にはそこそこ自信があったこともあり、「さすがに俺を舐め過ぎだろう」と思ってその挑発に乗ってしまった。
ティターンズの士官に殴りかかった時といい、自分は挑発に弱いのだろうかと反省すべきだろう。
そして、その軽率な判断の結果が今のこの惨状だった。
牽制にと放った突きは、すべて避けられるか腕で払われた。
渾身の回し蹴りは、彼が身体をわずかにかがめただけで、虚しく空を切った。
全霊で繰り出した正拳突きは、完璧なタイミングでガードされた。
一か八かと放った胴回し回転蹴りに至っては、着地の瞬間を足で払われて盛大にしりもちをつく羽目になった。
こちらの出した攻撃は、すべて避けられるかガードされてしまっている。
その上、こちらがやぶれかぶれにと、ひたすらラッシュを仕掛けようと思った途端、彼の突きや蹴りがこちらの意識の外から襲い掛かってくる。
しかもその攻撃はすべて、当たる前に制動をかけて、こちらに触れる程度に抑えてくる。
あからさまに手加減されている。
多少なりとも腕に覚えがあるカミーユにとっては、感じる屈辱は倍である。
しかし、むきになればなるほど攻撃は単調になり、あしらわれる回数が闇雲に増えるだけだった。
この数日、体力が尽き果てるまでケヴィンにあしらわれては、泥のように眠るという日々が続いている。
本来ならば嫌になりそうだが、ちゃんと集中し、意識を乗せた攻撃に対しては、彼は避けたりいなしたりせず、ガードの上からではあるが受けてくれる。
そんなことを繰り返し、ハイスクール時代の空手の部活のように、師範に稽古をつけてもらっているようだとカミーユには思えてきていた。
部活と比べるといささかハードすぎて、終われば体力も残らないのだが。
それからさらに数日が経過して――。
その日も、限界を迎えてへたり込んだカミーユに対して、ケヴィンは「今日はここまでにしておくか」と構えを解いた。
床に大の字になり、呼吸を乱しながらカミーユは頷いた。
内心で「こいつ本当に人類か」と思っていることは秘密である。
そのまましばらくして、ようやく息が整ってきたカミーユは起き上がると、ケヴィンに礼を言った。
「――ありがとうございます」
「ん?」
疑問符を顔に浮かべるケヴィンに対し、カミーユは軽い笑みを浮かべた。
「俺が鬱屈しすぎないよう、発散させてくれてたんでしょう?」
さすがに実質的に両親を2人同時に失ったという限界寸前の精神状態でも、毎日、疲労で夢すら見ないほどの深い眠りについていれば、人間の脳はある程度は整理をつけてくれる。
ケヴィンが自分に対して気を使ってくれたのだろうと、なんとなく分かる程度には、カミーユのメンタルは持ち直してきていた。
カミーユの言葉に、ケヴィンが笑みを浮かべながら息を吐いた。
「そこまで周りが見えるようになったのならもう大丈夫だな。
ギリギリだったが、なんとか間に合ったようだ」
「間に合う?」
何に対してだろうと、カミーユは問い返す。
ああ、とケヴィンは頷いた。
「明後日、補給が届くんだが――。
その戻りの便で、ヒルダ中尉を
「ええ」
詳細な日程までは知らなかったが、補給が来るという話自体はカミーユも聞いていた。
すると、ケヴィンはしゃがみこんで、床に座ったままのカミーユに視線を合わせてきた。
「で、お前はどうしたい?」
「どう、とは?」
カミーユは意図が分からずに、オウム返しで聞き返した。
ケヴィンはカミーユの目から視線を外さず、ゆっくりと語り出した。
「カミーユ・ビダン。お前は軍人じゃない。
お前に、
お前の両親というジョーカーを切った以上、ティターンズがお前個人の身柄に執着する意味もなくなった。
お袋さんについていってやるのなら、それでもいい。
そう暗に言っているのだとカミーユには分かった。
「でも、ガンダムMk-Ⅱは……」
「
ケヴィンは一言で切って捨てた。
そのまま一息つくと、言葉を続ける。
「幸か不幸か、クワトロ大尉のリック・ディアスが大破した以上、大尉の代替の乗機が必要になる。
エゥーゴも新型を用意しているらしいが、それが届くまでは大尉が
だが、そういった事情は無しだ」
ケヴィンは一瞬だけ宙に視線を向け、言葉に一瞬迷ったようなそぶりを見せた後、静かに、だが力強く続けた。
「エゥーゴの連中がどう思っているかとか、病院での母親の待遇とか、そういった
母親の治療については俺が保証してやる。
お前個人がどうしたいか、を考えろ」
そして最後に付け加えた。
「なぁに、言ってみるだけなら
いたずらっぽく笑ったケヴィンに釣られて、カミーユは苦笑した。
そのまま数秒考えて――、当然ながら数秒程度ではハッキリとしたイメージも固まらないままではあったが、カミーユは漠然と思ったことを口に出した。
「今は……このままでいいと思っています」
「このまま――『民間協力者のパイロット』としてアーガマに残る、か?」
カミーユは頷いた。
虫のいい話だとは分かっている。
エゥーゴの軍人になって戦う自分というのは、正直想像ができない。
だが、ティターンズをそのままにしておくこともできそうもなかった。
ふむ、とケヴィンは数秒ほど考えた。
「それがお前の選んだ決断なら、俺はそれを尊重しよう。
ブレックス准将には俺から伝えておく」
「ありがとうございます」
まさか通ると思っていなかったカミーユは、素直に礼を言った。
そんなカミーユに、「ただし」とケヴィンは付け加えた。
「お前の意志でパイロットになると決断したんだ。
規律は守ってもらう。
それと、それなりの訓練は課させてもらうぞ」
「訓練、ですか?」
何となく意図を掴み損ねているカミーユに、「生き延びられる確率は高い方がいいだろう?」とケヴィン少尉は笑った。
それはそうだ。
会話を挟んで、ようやく立ち上れる程度に回復したカミーユは、ケヴィン少尉に連れられてアーガマの内部を移動していた。
重力区画から無重力区画へと向かっている。
しばらく進んでいると、前方に見知った顔が見えた。
レコア少尉とクワトロ大尉だ。
2人は打ち合わせでもしているのか、会話中である。
そんな2人にケヴィンが手を上げて、声をかけた。
「やあ、クワトロ大尉にレコア少尉」
クワトロがこちらへと視線を向ける。
「ケヴィン少尉……とカミーユ君か。
少しは元気になったようだな」
自分はそこまで露骨に元気が無かったのかと、少々気恥ずかしくなりながら、カミーユは言った。
「おかげさまで。
少しは心の整理がつきました」
カミーユの後に続いて、ケヴィンがクワトロに告げた。
「彼はこのまま民間人協力者としてパイロットを続けたいそうだ。
大尉、ブレックス准将には俺から話しておく」
「そうしてくれ。
アーガマは明後日の補給後、予定通り太陽電池衛星を攻撃する」
カミーユが蚊帳の外のまま、3人の打ち合わせが進んでいく。
ケヴィンがレコア少尉に尋ねた。
「レコア少尉は予定通り?」
「ええ、地球に降下します」
同じ少尉なのに、レコアが明らかに年下であるはずのケヴィンに丁寧語で話しているのは物珍い感じがする。
そう思った後、そうじゃないとカミーユは割り込んだ。
「地球に降りちゃうんですか、レコアさん?」
その言葉にレコアは嘆息した。
「まあ聞こえるわよね。
ええ、地球へ降りるの。ジャブローの偵察にね。まぁ、すぐに会えるわよ」
そう笑うレコアに、ケヴィンは不服そうに様子で言った。
「俺としてはいまだ納得してないんですけどね」
「ケヴィン少尉?」
レコアの声にケヴィンはすいません、と返しつつ続ける。
「レコア少尉を軽んじる意図はありません。
ですが、単身での偵察ならエゥーゴの誰よりも俺が適任でしょう」
なにやら凄いことを言い出したなとカミーユは思ったが、ここ数日のスパーリングの様子を見る限りでは、あながち間違っているとも思えなかった。
あの身体能力だ。
それを聞いたレコアは笑いながら首を振った。
「そうはいっても、私にはケヴィン少尉のガンダムはとても乗りこなせないわよ。
Gで潰れてしまうわ。
エゥーゴにガンダムを遊ばせておくような戦力的余裕もありませんしね」
クワトロ大尉がそれに続く。
「それに、スポンサーがたからの注文だ。
彼らはケヴィン少尉にガンダムに乗ってもらって、
やれやれ、とケヴィンは肩をすくめた。
そこまで食い下がっていかないのは、最初から通らないことは承知の上で「自分は納得していない」という意志表示をするつもりだったのだろうか。
軍隊とは面倒なところだ。
そんなことを考えているカミーユの横で、ケヴィンが続けた。
「スポンサーの無理難題に振り回されるのはいつも現場だな。
と、そうだ。お二方。カミーユに30バンチ事件の詳細を教えてやってもらえないか?」
脈絡のない単語が飛び出したことで、カミーユは会話に意識を戻した。
30バンチ?
たしか暴動があったコロニーだというニュースを見た記憶があるのだが、事件って何だ?
ケヴィンの発言に、クワトロ大尉が怪訝な顔をした。
「30バンチ事件について?
君は当事者だろう?」
「だから客観視できないだろう、クワトロ大尉?」
苦笑するケヴィンに、クワトロ大尉はふむ、とあごに手をやった。
「たしかに、君にとっては苦い記憶ではあるか」
「そういうことだ。
俺は先にブリッジに上がって、カミーユの待遇についてブレックス准将と話をしてくる。
後は任せた」
そう言って、ケヴィン少尉は去っていった。
その背中を見送りつつ、カミーユはクワトロに言った。
「先日も思ったのですが、ケヴィン少尉ってクワトロ大尉に敬語とか使いませんよね。
軍隊なのでしょう?」
その言葉にクワトロ大尉は苦笑した。
「彼とは10年来の付き合いでね。
年の離れた友人みたいなものだ。
敬語を使われるのもむず痒いので、こちらから頼んだのさ」
その後、いい機会だからと、カミーユはクワトロ大尉に連れられて、モニタールームへと案内されていた。
これからレコア少尉が、保護観察中のエマ・シーン中尉に30バンチ事件のことを説明する、その様子を傍聴するためである。*2
モニタールームに2人が着くとほぼ同時に、反対側から3人――エゥーゴの代表であるブレックス准将とアーガマの艦長であるヘンケン中佐、そして先ほど別れたケヴィンがやってきた。
ケヴィンだけは「やあ」と手を上げるジェスチャーをして、そのまま去っていく。
交差しながらクワトロ大尉と交わした短い会話からすると、このまま格納庫に行って機体の整備をするようだ。
本当にどういう体力をしているんだ。
モニタールームに4人が入ってしばらくすると、エマ中尉がいる観察室に着いたレコア少尉が入室する様子が映った。
そのまま挨拶代わりの世間話をしたレコア少尉は、エマ中尉に30バンチ事件のあらましを語りはじめた。
ティターンズによる反地球連邦デモに対する、問答無用の毒ガスによる虐殺。
それを主導したバスク・オム。
そして、エゥーゴによる阻止作戦とその失敗の顛末――。
それはカミーユにとって信じがたい内容だった。
同様の反応を示したのはエマ中尉もだ。
「彼女とカミーユ君には、実際に30バンチを見てもらった方がいいかもしれんな」
その様子を見て、ブレックス准将が言った。
「その方が2人も納得できるでしょう」
クワトロ大尉が返す。
映像越しに、レコア中尉の声が響いた。
「実際に現地で見てもらった方が早いのだけれども、ティターンズがこの事件を起こした時のエゥーゴによる阻止作戦の映像があるわ――残念ながら阻止は失敗したのだけれど。
見ますか?」
同意するエマ中尉の声が響いた。
数分後、その映像を見たエマ中尉がドン引きしていた。
ティターンズの非道に対してのリアクションとは思えなかったし、一体どんな映像を見せられたのだろう。
カミーユとエマ中尉が30バンチ事件の情報を聞かされたその日から、2日が経過した。
ようやくというべきか、エゥーゴの補給の艦艇が到着し、ヒルダ・ビダン中尉と大破したリック・ディアスの残骸、そして3機鹵獲したガンダムMk-Ⅱの内の1機を引き取っていった。
そして、それから間もなく、レコア少尉を地球に降下させる作戦が始まることとなった。
降下の障害となる太陽電池衛星と防空用戦闘衛星を攻撃し、安全を確保した後、レコア少尉を乗せた降下艇であるホウセンカを地球に向けて射出する作戦である。
衛星の攻撃に向かうのはクワトロ大尉の乗るガンダムMk-Ⅱ、並びにアポリー中尉とロベルト中尉の乗るリック・ディアスだ。
さすがに
当初、俺ことケヴィン・コナー少尉の
原作においてはこのタイミングでティターンズからの攻撃があり、僚艦であるモンブランが沈む。
モンブランの喪失は、戦力が潤沢とは言えないエゥーゴにとってはかなり痛いできごとだ。
防げるなら防ぐに越したことはないだろう。
こちらの補給が終わったタイミングは、裏を返せば相手にとっても、補給が終わるまでに十分な時間が経過したということでもある。
衛星への攻撃自体も、MSが3機もいる時点で戦力的には十分である。
敵からの攻撃の可能性を含んだ俺の進言に、ヘンケン艦長が同意してくれたこともあって、ブレックス准将は俺への指示を待機命令へと変更してくれた。
案の定というべきか、クワトロ隊が発進して間もなく、アーガマのレーダーが敵の編隊を捉えることとなった。
ミノフスキー粒子を散布している関係上、繋がるかどうかも分からないレーザー回線通信を繋げる以外、出撃したクワトロ隊を呼び戻す方法はない。
クワトロ隊が自主的に気付いてくれるまで、残存兵力のみで死守しなくてはならない。
敵の数は……推定20機、かなり多いな。*3
クワトロ大尉、アポリー中尉、ロベルト中尉の誰もいない現状では、少尉の俺がMS隊の前線指揮をとる必要がある。
ガンダムのエンジンに火を入れながら、俺は矢継ぎ早に指示を出していく。
ヘンケン艦長が指揮をとってもいいのだが、彼にはクワトロ隊の動向を把握しつつ、レコア少尉の乗ったホウセンカを射出するという仕事もあるので、MS隊の指揮まで任せてしまうのは忍びない。
ブリッジから「我々がMS隊の指揮をとる」と連絡が来ない限りは、俺が受け持っても問題はないだろう。
「モンブランのジム隊の3分の1はアーガマの直掩に当たれ。
俺はアーガマ、モンブランの中間に位置して攻勢防御に当たる。
クワトロ大尉たちが戦闘の閃光に気付いて戻ってくるまで耐えればいいんだ。
艦から離れずに、艦砲射撃と協力して防衛に当たれ」
ガーベラの推力は、現時点では現存するどの機体と比べても圧倒的である。
アーガマとモンブラン、2隻のうち攻撃を重点的に受けている艦に急行して、都度防衛に当たることも不可能ではない。
担当する俺の負担がその分増えるが、1年戦争の時に比べれば何ということはないだろう……特にオデッサ。
そんなことを考えながらガーベラの計器チェックをしていると、コクピットのモニターの片隅に人影が映った。
エゥーゴのパイロット用のノーマルスーツを身に着けた少年、カミーユ・ビダンだ。
カミーユはメカニックのアストナージに呼び止められた後、言葉を交わして、
乗り込む直前にこちらに頭を下げていたので、俺がガンダムMk-Ⅱの解体を遅らせるよう指示していたことをアストナージが話したのだろう。
原作においてのこのタイミングでは、ガンダムMk-Ⅱは解体作業中であり、左腕が解体されていた。
カミーユは勝手に乗り込んだ隻腕のガンダムで、なし崩し的に出撃していた。
今思い返しても、俺には何故あのタイミングでMk-Ⅱの解体作業に入っていたのか意味が分からない。
月面に到着してからでいいだろうに。
というわけで、俺はリック・ディアスが1機大破したのだからという理由で、ガンダムMk-Ⅱの解体にしばし待ったをかけたのだ。
アストナージは残念がっていたが、これでアーガマの防衛戦力は確実に増えたと言っていい。
とはいえ、敵の数も尋常じゃなく多い。
攻め手ではなく受け手である以上、余裕のある戦いとはいきそうにないだろう。
相手にもビーム兵器が標準装備されているのがグリプス戦役だ。
下手をすれば軍艦でもあっという間に沈んでしまう。
引っ掻き回して、敵に本領を発揮させない戦い方が必要になる。
……そう考えると、いつものことのような気がするな。
俺は気を引き締め直して、操縦桿を握った。
「ケヴィン・コナー、ガンダム・ガーベラ、出撃する!」
言葉とともに、機体を急加速させる。
そのままアーガマから飛び立って、計器に視線を向け、敵機を確認する。
おそらくだが、敵は3機編成の7小隊、計21機。
大雑把に見て、ワインレッドのガルバルディβが3小隊9機、残りがハイザックとジムⅡといったところか。
アーガマとモンブランにとっては、機動性に優れたガルバルディの方が脅威だろう。
そう判断し、ガルバルディ隊を優先して受け持つことにする。
「ジム隊は前に出すぎるな。
ガンダムMk-Ⅱはアーガマの直掩に回れ!
俺は戦力を削る!」
そう叫ぶと、俺はガンダムをガルバルディの小隊の1つへと向けた。
ガーベラには専用装備の1つとして、専用のロングレンジ・ビームライフルが装備されている。
俺はそれを取り出すと、こちらの射程圏内に入っているとは思っていない敵機に向けた。
「障害の排除を開始する」
そう呟いた俺は、機体をロックオンした後、わざとロックオンを手動で解除し、少しだけ照準をずらして発射する。
俺の狙い通り、ロックオンアラートに対し、回避行動を取った敵の
数瞬後、ひとつの閃光が起こって敵機の反応が1つ減る。
思った通りだ。
連邦のモビルスーツのOSは1年戦争時代のものからバージョンアップを重ねてきたものだ。
そして、ジオン公国と違って『機体ごとに操縦系統が完全に別物』という事態を防ぐため、連邦では
無論、機体ごとに最適化という名のカスタマイズを施されているため、各機体のOSがまったく同じというわけでもないし、7年も改良されてきたのだから、多少どころではないほど洗練されて見違えてはいる。
だが、その源泉には1年戦争時代のジムの――つまり『アムロ・レイのRX-78 ガンダム』の戦闘機動がしっかりと残っている。
そして、アムロ・レイとの戦闘経験の多さに関しては、この宇宙で
というか、他に相対した連中は、
源流であるアムロを嫌というほど知っている俺には、OSのプリセットに登録されている回避行動は予測しやすい。
特に『射程外からの狙撃回避』など、艦船による砲撃戦からのMSによる機動戦をドクトリンとする連邦は、改良の必要性すら感じていないだろう。
パイロットがカスタマイズした形跡もなく、本当にアムロ――特にニュータイプとして完全に覚醒する前の奴が取りそうな回避パターン、そのままだった。*4
俺や
そのまま俺は、僚機が射程外から撃墜され、事態が把握できない2機のガルバルディの内、1機をさらに追加の狙撃で撃墜する。
これで2機。
開戦のイニシアティブとしては上々だ。
射程距離の差を見せつけられて、遠距離戦では分が悪いと感じたのだろう。
残った1機のガルバルディは、推力を最大にしてこちらへと向かってくる。
原形が一年戦争時のジオンでも最高傑作のひとつと評されるガルバルディだ。
さすがの推力と思える速度でこちらに近づいてくる。
たしかに、遠距離戦ではガルバルディがガーベラに対抗することは難しいだろう。
ライフルもそうだが、搭載しているセンサーも含めて射程距離が違いすぎる。
距離を詰めようとするのも、自然な反応ではある。
だが――。
「1機で来るのは甘く見積もりすぎだな」
俺はガーベラのスロットルを全開にした。
ガルバルディと比較しても3倍強という、頭のおかしい推力が、ガーベラとガルバルディを一気に肉薄させる。
そのまま俺は、相対速度の差に戸惑うガルバルディをビームサーベルで胴薙ぎに斬り捨てた。
「これで3機」
戦闘開始早々に3機が撃墜されたことで、敵の編隊に明らかな動揺が生まれている。
オデッサで散々やった戦術ではあるが、7年経った今でもこの手法は割と有効なようだ。
敵の動揺が収まる前に、なるべく敵の数を減らして、可能なら更なる動揺を呼び込みたい。
「モビルスーツの性能を引き出させてやるほど、俺は優しくねぇよ」
そう言って、俺はガーベラを次の敵小隊へと突撃させた。
「凄いな……」
アーガマから出撃したガンダムMk-Ⅱのコックピットで、カミーユは思わず呟いた。
モニターの端には戦場を縦横無尽に駆け回るもう1機のガンダム、ガーベラの姿がある。
運動性自体はムーバブルフレームを搭載している、ガンダムMk-Ⅱの方が上であるはずだが、ガーベラはその圧倒的な推力と、そしてなによりも見切りの巧さによって戦場を半ば支配していた。
白銀色のカラーリングも相まって、それは戦場を貫く銀色の矢のようにも見える。
モンブランへと攻撃を仕掛けていたガルバルディの残存部隊は、既に5機が撃墜されて、残った機体も完全に腰が引けている。
アーガマへ攻撃を加えてくるハイザックやジムの部隊ですら、ガーベラの動向を気にしているのか動きがぎこちない。
まあ無理もないだろう。
先ほど、モンブランの近くの空域から、そのガーベラの狙撃によってアーガマの近くにいたハイザックが爆散したのだ。
高速機動戦をこなしながら、片手間に遠方の機体を狙撃するとか、意味が分からない。
すでにそういった雰囲気が戦場を包んでいた。
戦意で勝っていることもあり、数で劣りつつも、エゥーゴのジムⅡ部隊は善戦して敵を食い止めている。
戦況は優位に動いているようにカミーユには見えた。
「ケヴィン少尉、慣れているんだ」
これだけの立ち回りを無意識にできるはずがない。
完全に意図された、エースによる戦場のコントロールだ。
そう感じずにはいられない。
だが疑問は残る。
敵味方合わせて30機近い数のMS戦――この規模の戦いなんて、ここ数年起こったためしがない。
4年ほど前に
それ以外だと、もう一年戦争ぐらいしか思いつかない。
だが彼の年齢を考えると、その可能性は薄いだろう。*5
ただ、疑問を考え続けたまま生き残れるほど、戦場は優しくはない。
そう思い直したカミーユは、戦いに意識を集中させる。
「このっ!」
ガンダムMk-Ⅱの放ったビームライフルが、敵のジムⅡの1機の右腕に命中した。
装備していたライフルごと腕を失ったジムは、慌てた様子で撤退していく。
遠距離武器を失った状態でこの戦場になど、1秒でもいたくないのだろう。
気持ちは分からなくもない。
息をつく暇もなく、今度はハイザックがガンダムMk-Ⅱに襲い掛かってくる。
カミーユは意識を切り替えると、機体をハイザックへと向けた。
その数分後、戦闘の痕跡に気付いたクワトロ隊が戻って来て、数的優位を失った敵部隊が撤退するまでの間、カミーユはアーガマを死守した。
撃墜記録は0であるが、敵機を損傷に追い込み撤退させたのは3機。
新米パイロットとしては出来すぎとも言える記録である。
エゥーゴの損耗はというと、ジムⅡが2機撃墜され、モンブランが多少の被弾をしている。
決して無傷とはいえないが、対するティターンズ側はガルバルディが5機、ハイザックが3機、ジムⅡが1機撃墜されている。
一部破損で帰還した機体を含めても半壊と呼ぶにふさわしい惨状だ。
防衛戦という形にはなったが、この戦いはエゥーゴの勝利と言っても問題はないだろう。
これで、ティターンズも不用意な攻撃を控えることになるかもしれない。
そして敵の撤退後、レコア少尉はカミーユに礼を言い、地球へと降下していった。
戦闘から約1時間後。
ティターンズの旗艦である重巡洋艦、アレキサンドリアの一室にて、ジャマイカン・ダニンガン少佐は先ほど行われた戦闘の報告書を見ていた。
そばには先ほどの戦闘に参加したティターンズのジェリド・メサ中尉と、連邦軍のライラ・ミラ・ライラ大尉が直立している。
報告書を読み終わると、ジャマイカンはジェリドに対して盛大に嘆息した。
「20機近くも出したモビルスーツの半分弱がやられるとは、ティターンズとは名ばかりだな」
「少佐……」
ティターンズの士官は、他の連邦軍の士官よりも1階級上の扱いを受ける。
そのため、大尉であるライラと中尉であるジェリドは同格の扱いであり、なおかつ対エゥーゴに対して先任であるジェリドが、先の戦闘で指揮官の立場だった。
実際はジェリドがライラに教えを乞うたため、実質的な指揮はライラがとってはいたのだが、名目上の指揮官はジェリドだ。
そのため、ジェリドは何も言い返すことができない。
ジャマイカンはさらに続けた。
「モンブランへ打撃を与えた分、ライラ隊の方がまだいい働きをしている」
そう口に出したが、ジャマイカンはそんなことを思ってはいない。
ただジェリドへの嫌みの材料として取り上げただけである。
そこへライラ大尉が待ったをかけた。
「お言葉ですが……」
ライラからのインターセプトが意外だったのか、ジャマイカンは視線を彼女へと向けた。
「ジェリドをかばうのか?」
「違います。今回の敵は特別だと、ご理解いただきたいのです」
ジャマイカンは怪訝な顔をした。
「分からんな?」
たしかに20機近くのMSを出撃させて半数が撃墜となる散々な結果ではあるが、敵には2隻の軍艦からの艦砲射撃があったことを考えると、「ジェリドがこちらの予想を超えて無能であった」で片づけていいように思える。
そうジャマイカンは判断していた。
「自分は以前のホワイトベースを知りませんが、あのアーガマはあのホワイトベースのように見えるのです」
ライラの発言にジャマイカンは問う。
「何がそう感じさせるのだ?」
ライラはよどみなく答えた。
「アーガマの懐は、開いているように見えて、近寄ると厚い。
特にあのエゥーゴのガンダム。
あれは戦端から一気に戦場の空気を支配しました。
まるでかつてのガンダムのように……」
ふむ、とジャマイカンは先ほど、ここに来る前に確認した戦闘映像を思い出す。
「たしかに、戦闘記録を見せてもらったが、あのガンダムだけは動きが違うようにも見える」
しかし、エゥーゴのガンダムが際立った戦闘能力を見せていたとしても、それで浮足立った部隊を立て直せなかったジェリドの至らなさに目をつむる理由にはなるまい。
そう言うジャマイカンに、ライラは付け加えた。
「あのガンダム――機体の色といい、まるであの『白銀』ではないかと……」
そのライラの発言に、思わずジャマイカンは声を荒げた。
「馬鹿を言うな! 『白銀』などというものは存在しない。
ジオンのプロパガンダの産物だ!」
声を荒げた自分に、少し驚いた表情を浮かべるジェリドとライラに対し、ジャマイカンは続ける。
「常識的に考えてみろ。一年戦争で500を超える撃墜スコアなどありえん。
しかも連中の広報によれば、
あんなものは、複数のエースパイロットの戦果を合わせて作り上げた、戦意高揚のための虚像にすぎん」
そう吐き捨てると、ジャマイカンは部屋を出て行った。
数秒が経過し、ジャマイカンの気配が完全になくなったのを確認すると、ライラは笑いを浮かべた。
「プロパガンダの産物ね……ふふ」
ジェリドはその様子をいぶかしんだ。
「ライラ大尉?」
ジェリドの声かけに、ライラは真顔になると深く息を吸い、ジェリドへと視線を向けた。
「ジェリド、ジャマイカンはああ言ったが『白銀』は実在するんだ」
ライラの瞳は真剣であり、嘘を言っているようには見えない。
その凄味に、ジェリドは無意識に唾を飲み込んだ。
「私はア・バオア・クーで見たんだ。
ジムの大軍の中を突破して、護衛の
撃墜スコアがどうたらなんて、私の知ったことではない。だが――」
一拍を置いて、ライラは言い切った。
「少なくとも白銀色の機体を駆っていた
ジェリドには、そう語るライラの声に『恐怖』という感情が込められている気がしてならなかった。
読んでいただきありがとうございます。
いや、本当に長らくお待たせして申し訳ありません。
前話後書きで「ほぼ週刊」みたいなこと言っておきながら隔月刊やないかと。
活動報告でも書かせてもらったのですが、4月下旬~5月上旬の寒暖差で体調を盛大に崩してしまいました。
その結果として体内時計が狂ってしまい、幸いというか実生活に支障が出るほどではなかったのですが、『執筆のためにΖガンダムを視聴する時間』が中々取れなくなってしまつておりました。
それに加えて、この辺りカミーユ視点とかティターンズ内描写とか、個人的に書き辛いパートであったことも加えての、この盛大な遅筆状態ということで、どうかご容赦いただきたく……。
休んでいる間に、カイ・シデンのデイアフタートゥモロー(メモリー版とレポート版)4冊とか、漫画版Zガンダムの1巻とか買ったりしているので、モチベ自体は全然ありますので、ゆっくりですが書いていけたらなと。
というわけで内容についてですが――。
この時期にメインでやることって、まぁカミーユのメンタルケアですよねと。
劇場版ならかなりマシなのですが、TV版だとほとんどほったらかしからの、カミーユの独断出撃を経て、いきなりパイロット勧誘なんですよね。
ある意味凄いなエゥーゴ。
「おりたいならおろしてやってもいい」の台詞は、某世界一格好いいババァ(私基準)の台詞を意識したりしています。
元ネタ知っておられる人にクスッとでもしてもらえれば幸い。
ジュビロ(何)のセリフ回しは天才だと思う。
あと、この時点のカミーユに『自分で選ばせる』というのは割と重要かなと。
自分で選んだ以上、遅刻とかは許さないのでウォンさんにぶちのめされないw
主人公は「まあ最悪、自分と(妻子いるんでメンタル超強化されてる)シャアとアムロいれば、カミーユいなくても何とかするので、お母さんの側にいたいならそれでも良いよ」と思ったりしてます。
・レコア少尉の地球降下と30バンチ事件の説明。
この辺りは原作通りですが、「主人公がジャブロー偵察しに行った方が絶対早いやろ」ということに対する回答を差し込み。
ちなみに主人公が行った場合、速攻でジャブローがもぬけの殻であると物証付きでバレるので、ジャブロー攻めが無くなる模様。
原作知識のみだと「ジャブローにジャミトフいないよ」と言ってもさすがに信じてもらえないでしょうからね。
エマ中尉がドン引きしたのはまあ、どこかのパイロットがジムの性能に文句言いつつ、次々とジム・クゥエルやらハイザックやら撃墜していくキモい映像でも見たのでしょう。
・戦闘とモンブラン撃沈阻止。
エゥーゴの財力と人員は無限じゃないって感じで。
多分ジェリドはカミーユとやりあったハイザックの中ですが無慈悲にカット。
カミーユ(MSに最近乗った素人パイロット)の視点から見ると、主人公がバケモノ過ぎる点。
ちなみに敵パイロット視点だと、ガーベラが推力オバケなので、トールギス相手にしてるリーオーみたいな感覚に近いと思います。
ある意味ホラーゲーム。
なお、メンタルが完璧なのでクワトロ大尉もそれに追随できる戦闘力の模様。
赤い彗星は赤い彗星のまま。
大丈夫?
初遭遇した時点でメッサーラごとシロッコさん星にならないかな?
・ティターンズ側描写
特にTV版ですが、ちょくちょくティターンズ側の描写あるんですよね。
ジャマイカンの「白銀などいない」発言は、まあ普通に考えたら当然かなと。
2位と3位の撃墜数足したよりも多い撃墜数の1位ってなんだよって普通はなるかなと。
あと、ライラ大尉は一年戦争時、フェーベの近くに配属されていたのでSANチェックです(何)
もうちょっとしたら、一年戦争時代の行動から派生した原作との差異もちまちま出せるようになるかなぁと。
よろしければ、次回もお付き合いいただけると嬉しいです。