超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ほぼ月刊になってしまっているのは何とかしなければ……。
30バンチを無事に脱出してから1週間ほどが経過し、アーガマは現在、月面都市グラナダの近郊都市であるアンマン市に入港しようとしていた。
だからと言って、すべてが順調というわけでもなく、ティターンズの追跡はかわしきれておらず、近くまで追跡されてしまっている。
グラナダの周辺に潜んでいるということまでは知られてしまっているだろうが、原作TV版においては露骨にアンマンに潜んでいたことがバレてしまっているので、このまま確定情報を相手に悟られなければ原作よりも状況的にはマシ、というのがなんとも……。
ちなみに原作同様に、アンマン入港の数時間前に、アーガマの方向を探るためであろう威力偵察の攻撃もあった。
カミーユに実戦経験を積ませようと、俺を含めたアーガマのパイロットたちは、援護を主体にした立ち回り方をしていたのだが、数度の応酬を経ただけで、敵部隊は驚くほどあっさりと引いていった。
保護観察処分を解かれ、正式にアーガマのパイロットになったエマ中尉が出撃する暇さえなかったぐらいである。
ライラ大尉が生存しているから、ジェリド・メサのガンダムMk-Ⅱに対する敵意がそれほど高くなっていない――だけでは説明がつかないな。
ひょっとすると、グリプスから離れすぎたせいで、MSの補給が間に合っていないのかもしれない。
俺やクワトロ大尉が盛大にMSを撃墜していたというのも無関係ではないのだろう。
コスパの良いハイザックとはいえタダではないからな。
とりあえず、アーガマも本拠地に戻ることができ、ようやく落ち着けるというものだ。
俺も、市街地にアナハイムが用意してくれている自宅へと戻って、数日はゆっくりできるだろう。
一応、エマ中尉やカミーユには不用意に市外に出ないように言い聞かせておいた。
原作だと、何故か市外にノーマルスーツで出かけて、会話をカクリコンに傍受されてアンマンにアーガマがいることがバレてしまっていたが、あの時の2人は、何で外に出ていたんだろうか?
ライラ大尉を撃墜して鬱屈していた、カミーユの気分転換でも兼ねていたのだろうか?
もしそうだったとしたら、ライラ大尉が別に死んでいない以上、外出の必要性はないだろうし、休暇中の市内観光で十分リフレッシュはできるだろう。
まあ、2人がきっかけでバレなかったとしても、クワトロ大尉が受領する百式の慣らし等でMSの出入りもあるし、バレる可能性はそれなりに残っている。
周囲の都市に偵察を出さないほど、彼らもお花畑ではない。
いずれちょっかいをかけてくる、という心構えはしていた方がいいだろう。
とはいえ、それもティターンズがグラナダで、アナハイムからどれだけMSを補充できるかにかかっているだろうが。
こう考えるとアナハイムが本当に死の商人である。
いや、エゥーゴのメインスポンサーなんだが……。
アーガマから降りた俺は、市街地の中心部にほど近い自宅に帰って来ていた。
アナハイムが用意してくれた、単身者向けのマンションの一室だ。
単身者向けと言いつつも、間取りは結構豪華であり、無理をすれば数名が暮らせそうな物件ではある。
こんなものをポンと用意してくれるあたり、さすがアナハイムと言うべきだろう。
ちなみにクワトロ大尉夫妻が暮らしている、家族向けのマンションも同じ区画にある。
今頃はバジーナ一家に妹親子も加わって、家族水入らずで過ごしているのだろう。
アーガマから持ち帰ってきた私物を片付けたタイミングで、部屋にノックの音が響いた。
入室の許可を出すと、ジャケットに身を包んだ男性が入ってきた。
見知った顔だ。彼の名はキグナン・ラムザ。
エゥーゴの一員であり、グラナダに諜報員として滞在している男だ。
まあ、彼も俺やクワトロ大尉と同じく、ジオン公国軍出身であり、実務的には俺やクワトロ大尉の秘書めいたことをしてくれている存在である。
「おかえりなさいませ大佐」
原作で聞いたことのある一声に、俺は苦笑を浮かべた。
言う相手が違うがな。
「キグナン、今の俺はケヴィン少尉だぞ?」
「私にとってはエルンスト・ヴァルツァー大佐です」
こいつ、相手がシャアじゃなくてもこのやりとりをするのか。
まあ俺としては、外の耳がないところでやる分には好きにしてもらって構わない。
正直、俺個人としては「バレるならそれはそれで」程度のスタンスではある。
仮にカミーユやエマ中尉に聞かれれば、正直にぶっちゃけてしまうだろう。
だが、公にしたとしても当時のジオン公国民を除いた一般の人たちは、俺がエルンスト当人であるとは信じないだろう。
笑えることに、そもそも一部では都市伝説扱いされており、実在が疑われているらしい。
その上で、ティターンズは俺を執拗に狙ってくることになるだろう。
それはそれで面倒くさいので、外側に向けて積極的に公にしていくつもりはない。
キグナンをソファへ座らせると、俺は2人分のコーヒーを淹れる。
その片方をキグナンに渡し、俺もキグナンの対面のソファに腰を掛けた。
「シャアのところへは?」
「この後に伺う予定です。
家族水入らずの時間を邪魔するのも忍びないですし」
まあ、出張から帰ってきたばかりの夫を出迎えたララァ夫人のところに、即突撃するのは気が引けるのも分からなくはない。
ここである程度、時間を潰してから向かえばいいだろう。
「グラナダの方はどうなっている?」
「アレキサンドリアと他3隻が入りました」
4隻も入港したら、グラナダとしては港の広さ的にも邪魔で仕方ないだろうな……。
こういった感じで、連中の動向は現在、エゥーゴに筒抜けになっている状態だ。
グラナダは連邦軍の拠点ということになってはいるのだが、エゥーゴ寄りというか、内面はほぼ完全にエゥーゴ一色だ。
そもそもとして、連邦宇宙軍の中には、エゥーゴの構成員は割と多い。
原作でバスク・オムが「地球連邦の宇宙軍の半分はエゥーゴだと思え」と言ったのも、比喩ではないレベルだ。
まあ、全員がブレックス准将の理念に賛同した連中ではないのだが。
中には「連邦軍の給料の遅配が酷すぎるからエゥーゴに所属した」などという身も蓋もない連中もいるのだが、ティターンズに対抗するためにはそういう連中でも必要だということで、来るもの拒まずの精神でいるのがエゥーゴだ。
実際、こういった諜報では役に立つのも事実である。
「4隻か……。
残りはグリーン・ノアかルナ2あたりに補給に戻ったか?」
ライラ大尉の乗艦であるボスニアが残っているかどうかは微妙なところか。
劇場版だと、ライラ大尉はティターンズ所属に設定が変わっていたため、ジャブロー攻略作戦にまで駆り出されていたが、この世界での彼女はTV版と同じく地球連邦軍の所属だ。
追跡がひと段落付いた以上、ジャマイカンに「とっとと帰れ」と追い払われていても不思議ではない。
「おそらくは。
それと……そのグリーン・ノア2が動き出しました」
俺はコーヒーを一口含んでから、問い返した。
「
移動先はルナ2近郊か?」
元々、グリーン・ノア1と2のあるグリーン・オアシスは、サイド7に位置している。
2つあるコロニーのうち、グリーン・ノア1と呼ばれるコロニーは、1年戦争においてシャアの率いる部隊が試験中のガンダムを強襲し、アムロ・レイがガンダムに搭乗するきっかけとなったあらゆる意味で始まりの地だ。
そこから脱出したホワイトベースが、シャアからの攻撃を凌ぎながらでも2日ほどでたどり着けるような宙域に、ルナツーは存在している。
近場と言えば近場なのだが、軍事基地としてグリーン・ノア2を運用したいバスクにとっては、ルナツーとの中途半端な距離は障害になるのだろう。
「その可能性が高いそうです。
それと――お届け物がございます」
キグナンは懐から一枚のディスクを取り出して机に置いた。
「ハント船団を経由して先日届きました。
ドズル閣下からでございます」
ディスクを俺に渡したキグナンは、コーヒーを飲み干すと、そそくさと部屋を出て行った。
当初はもう少しゆっくりしていってもらうつもりだったのだが、メッセージに機密情報が入っているかもしれない以上、キグナンと一緒に見るわけにもいかないし、かといって再生を後回しにするわけにもいかない。
クワトロ一家の団らんに水を差してしまう形になってしまったが、勘弁して欲しい。
ディスクを機器に挿入して再生すると、数瞬のノイズの後に懐かしい顔がモニターに映った。
ジオン公国軍中将にして、アクシズ総司令官ドズル・ザビ閣下――俺の今生の父親のような存在でもある。
記録映像だけの一方的なものであるとは分かっているが、思わず背筋が伸びた。
「久しぶりだなエルンスト!
よくやってくれているな! まずはねぎらわせてくれ!」
開幕から褒められてしまった。
俺の立ち位置は、基本的には『エゥーゴに出向しているアクシズの構成員』といったイメージだ。
エゥーゴとそのスポンサーであるアナハイムも承知した上のことなので、アクシズ・ジオン共和国側とエゥーゴ・アナハイム側とのパイプ役と言ってもいい。
元々存在していた、オサリバンが持っていたパイプを、俺がそのまま引き継ぎ、発展させたような形だ。
オサリバン当人も顔と名前を変えてアナハイムに在籍してはいるのだが、俺を通した方が情報の伝達がスムーズなのは事実である。
その関係上、リック・ディアスなどのガンダリウム製MSの運用データ等も、アナハイムの許可の上でアクシズに送信している。
ガンダリウムγの開発データとのバーター取引に近い形と言っていい。
また、今回のメッセージへの返信として、こちらからの報告にはムーバブルフレームのデータも添付するつもりだ。
アナハイムも特にクレームを付けてくることはなかった。
まあ、元はティターンズから盗んだ技術であるわけだし当然か。
……なんだか、グリプス戦役中にドーベン・ウルフあたり開発できそうな気がしないでもないな。
それぐらいの技術の蓄積が、アクシズにもう既にありそうな気がする。
映像の中のドズル閣下が続ける。
「30バンチの一件についての報告はこちらでも受け取った。
それでだな――こちらでも検討の結果、アクシズを火星圏とサイド3との中間地帯に移動させることを決定した。
俺たちの動きがティターンズへの圧力となるだろう。
だが本来の目的は、連中が共和国――ガルマに手を出してきた場合、即座に動けるようにするためだ」
いきなり地球圏へ帰還ではなく、いつでも戻って殴りかかれる位置にいることでプレッシャーをかけるつもりか。
とはいえ、その気になれば1ヶ月もかからずにサイド3に到達できる位置である。
情勢がどう転んだとしても、臨機応変に対処できるようにしておく、という意味だ。
ティターンズとしては凄く嫌な立ち位置だろうなぁ。
「無論、今後のティターンズの動き次第では、完全に地球圏へと帰還することにもなりうる。
また、距離が近くなる分、情報も得やすくなるだろう。
お前を通す以外でも、アナハイムやエゥーゴと情報がやり取りできるはずだ」
それは正直ありがたいな。
俺やクワトロ大尉は、基本的に最前線であるアーガマに常駐している。
そのため、情報を送ったり受け取ったりするのにも、どうしても機会の制限というものが付いて回ってしまう。
特に、このままの流れを考えると、原作通りにジャブローを目指して地球へ降下する展開もあり得る。
そういったことを考慮すると、情報のやり取りに別のルートもあった方がいいだろう。
しかし、他のルートを確保したとしても、俺本人からのメッセージが滞るとミネバの機嫌は急降下するだろう。
恐ろしい話である。
マジで地球行きたくねぇなぁ。
地球降下、原作を鑑みても、カミーユの地球体験、カミーユとフォウとの出会い、アムロが戦線に復帰する以外にメリットが無いんだよなぁ。
カツ・コバヤシの加入をメリットに入れていいかは、評価が分かれるところだと思うので、今回は考えないことにする。
捕虜になっているかもしれないレコア少尉については……少々判断が難しい。
ジャブロー降下作戦がなければ基地の自爆も起こらず、少なくともすぐ殺される可能性は低いだろう。
だが、拘束中の扱いが安全だとも言えない以上、救出できるならした方がいい。
とはいえ、彼女1人の救出のためにジャブロー降下作戦を行うというのは考慮にすら値しない愚行だ。
ジャブロー攻略作戦ではどう少なく見積もっても、数十名のパイロットが戦死してもおかしくない激戦となる。
戦略上の損得がまるで釣り合っておらず、人的資源の浪費と言っていい。
そもそも原作の救出についても、カミーユによるニュータイプ感応頼りという、博打のような行動の結果でしかないのだ。
素質が同等で、戦歴がはるかに長い俺が感応すればもっと正確に居場所を割り出せるかもしれないが、ジャブローに降下するとなれば、俺には俺でやらなくてはならない役目というものがある。
ジャブローの引っ越しが確認できれば、捕虜交換なり別働隊による救出なり、もっと現実的な手段を取れる可能性もあるだろう。
特にこの世界では、アムロが既に立ち直っている以上、地球に降下することで得られるであろう戦略的メリットが、本気で『
なお、降下しても本当に出会えるのかは、前提条件が違いすぎるので未知数なものとする。
ジャブローを強襲する意味が、本当に俺には見いだせねぇ……。
いかんいかん。
思考が他所に行きすぎている。
俺は思考を切り替えて、画面のドズル閣下へと視線を戻した。
「何より、そろそろ俺もガルマに会いたいしな」
ドズル閣下はがっはっはっと豪快に笑う。
茶化しているように見えるが、これは嘘偽りのない本音だろうな。
「お前との連絡はこれまで通り、ハント船団を通して行うことになる。
ではな、エルンスト。
貴様に会える日を楽しみにしておるぞ!」
そこで映像は終わった。
これでジオン方面については、割と盤面が動くことになるな。
とはいえ、それが表面化するまでにはまだ少し時間がかかるだろう。
それはそうと、ドズル閣下からのメッセージだけで、毎回あったミネバからのメッセージがなかったな。
ひょっとしてドズル閣下、ミネバに伝え忘れて、撮り忘れてたんじゃないだろうか?*1
ドズル閣下からのメッセージを再生した翌日、俺はウォン・リーからの呼び出しによって、イースタン通りのマクダニエルというハンバーガーショップまで足を向けていた。
道中で、同じく呼び出されていたクワトロ大尉と合流し、そのまま店へと向かっているのだが、これどっちか1人で良くないか?
どう足掻いても、スポンサーからのごり押しでジャブロー降下作戦の強行指令だろう?
店に到着し、クッソ似合わない従業員の制服を着たヘンケン艦長に案内されて、奥の扉をくぐる。
そこにはアナハイムのウォン・リーをはじめとした、エゥーゴのスポンサーの面々がテーブルに着いていた。
机の上には、吸い殻が満載の灰皿とコーヒーカップが人数分――。
不健康すぎるというか、ハンバーガーショップなんだからせめてハンバーガー食えよ。
そんなことを考える俺の横で、クワトロ大尉が一歩前に踏み出した。
「ウォン・リー、諸君の協力で初期の作戦は完了した」
「クワトロ大尉、ケヴィン少尉、ご苦労」
ウォン・リーはクワトロ大尉と握手し、俺たちに着席するように促す。
俺とクワトロ大尉は、そのまま椅子に腰かけた。
「今日呼んだのは君たちがジャブロー侵攻作戦に反対だと聞いているので、その意見を聞きたくてな」
そうらおいでなすった。
まずはクワトロ大尉が話し出す。
「戦力差が一つと、地球上の破壊行動は地球を汚染します。
それに、あの重力の井戸の底に落ちて、脱出はどうするのです?
軍事的効果を考えれば、グリプスを撃滅する方が正しい」
クワトロ大尉は、割と環境保護論を前面に押し出す切り口だ。
まあ、『暁の蜂起』で除隊した後、一時期、地球でモビルワーカーを使う土木工事作業員をやってたので、地球の環境への思い入れもあるのだろう。
原作においては、あの時期が一番充実しているように見えるのは言ってはいけない気がする。
俺もクワトロ大尉に続いた。
「そもそもジャミトフが、あの
1年戦争の時点でジオンにすら開口部の場所や大まかな区画まで知られています。*2
そうである以上、ティターンズの拠点として見れば、ジャブローにさほど魅力はありません。
いるかいないかの博打を打つよりは、確実にグリプスにいるバスクを倒した方がいい」
と、こうは言ったものの、多分俺たちの意見は通らないだろうというのは半ば分かっている。
案の定、ウォン・リーは返してきた。
「しかしグリプスもバスクも、地球連邦の手足にしかすぎん。
本体を叩かねば、次のグリプス、次のバスクが生れるのは道理だ。
しかしジャブローは地球連邦の拠点だよ、こいつを叩けばグリプスだって補給がなくなる訳だ」
俺は内心で「やれやれ」と嘆息した。
一見もっともなように聞こえる。
だが、その発想には軍事的な検討が決定的に足りていない。
辛辣な物言いだが「上手くいけばいいなぁ」を「上手くいくはずだ」にすり替えて資源と労力を投入する、企業家のロジックだ。
それに失敗して、失うものが金銭ならまだいい。
だが、軍事行動の失敗の代償は味方の人命だ。
「上手くいかないかもしれない」状況を精査しないと、失敗した時の人的資源の損耗は洒落にならない。
訓練を受けた人員は一朝一夕で生えてくることはないのだ。
原作においても地球に降下した結果、ロベルト中尉が戦死することになっていたが、それに相当する戦果があったとは思えない。
しかも、ウォン・リーのその見通しも、原作通りにジャブローが引っ越していたとしたら、完全に空振りである。
とはいえ、レコア少尉からの連絡がない以上、「ジャブローは空き家ですよ」と原作知識を根拠に断言するわけにもいかない。
一応、空き家になっていない可能性も残っている。
何より、エゥーゴは艦艇もMSも補給もスポンサーに依存している。
軍事的に危険だからといって、彼らの総意を完全に突っぱねられる立場でもない。
成果がまったくないと断言しきれない以上、スポンサーからのごり押しには逆らえないのが悲しい。
ウォン・リーは続ける。
「それに世界が我々エゥーゴを認めて、民意を一挙に味方につけられる」
かなり楽観的なものの見方に、クワトロ大尉が苦笑した。
「ウォンさんは出資者だと思っていたが、政治家になるおつもりで?」
その言葉は、俺から見れば皮肉でしかなかったが、ウォン・リーはジョークと捉えたようで「馬鹿言え」と笑って返した。
続いて俺が口を開く。
「カラバ*3への連絡は?」
ウォン・リーは表情を真顔に戻した。
「とれている。モビルスーツはカラバに渡し、パイロットは
ただし、クワトロ大尉に支給される新型と、ケヴィン少尉の機体はどうにかして宇宙に戻したまえ。
ジャブローならばシャトルの1つや2つは残っているだろう」
それは実質ノープランという奴なのだ……。
クワトロ大尉は苦笑して言った。
「出資者は無理難題を仰る」
俺も同意見だよ。
ジャブロー攻略作戦が決まった以上、そこまでゆっくりしているわけにもいかない。
とは言え、それからの展開に原作TV版と何か大きな違いがあるわけでもなかった。
クワトロ大尉は百式を受領したし、ジャマイカンがグラナダへの「嫌がらせ」として残しておいたサラミス改級軽巡洋艦、サチワヌはエゥーゴの襲撃を受けて奪取された。
ちなみにこの時、カクリコン(推定)の襲撃があった。
さすがにアンマンからのMSの出入りが多すぎたせいか、感づかれてしまったようだ。
ただ、襲撃を受けたものの、その時のアーガマには、アポリー中尉とロベルト中尉がリック・ディアスとともに残っていた。
リック・ディアスに不慣れなエマ中尉を加えても3機。しかも2人はベテランだ。
結局、連中は何もできずに撤退していったらしい。
アポリー中尉とロベルト中尉が残っていたのは、俺がサチワヌ奪取作戦に参加する代わりだった。
敵の襲撃を警戒して俺が残ると主張したんだが、艦艇の奪取に俺の白兵戦能力が欲しいということで、2人の代わりに俺が出向くことになった。
来る可能性が高いと分かっていれば、襲撃を感知することはさほど難しくはない。
襲撃が来た時点でカミーユをアンマンに戻らせて、艦の奪取が終わった時点で俺も戻るつもりではあったのだが、カミーユがアンマンに着く前に敵は撤退してしまった。
後で聞いた話だとハイザックのみの部隊だったそうなので、リック・ディアス3機が――しかも2機はベテランのパイロットだ――相手なら仕方ないだろう。
無事にサチワヌを奪取し、30バンチに残してきたモンブランにも修理スタッフが向かったため、ジャブロー強襲作戦は両艦とも参加できそうである。
そうして、ジャブロー攻略作戦の準備にかかること1ヶ月ほど。*4
エゥーゴのメンバーは、各々の機体の重力下を含めた全領域運用のための調整や、新しく導入されたMSA-003『ネモ』に搭乗するパイロットたちの訓練などを、忙しくこなしていた。
月面でのカミーユ・エマ中尉組とカクリコン中尉たちとの銃撃戦が起こることがなかったため、その結果として生じる、ウォン・リーによるカミーユの制裁も無事回避された。
TV版ではこの銃撃戦で偶然ハロを拾い、その修理にかまけてミーティングに遅刻したことが原因でウォン・リーに殴り倒されてしまっていたが、この世界ではカミーユはそもそもハロを拾っていない。
まあ、仮に拾っていたとしても、俺が訓練の中で時間厳守をカミーユに叩き込んでいるので、遅刻することはなかっただろうが。
――そう思っていたら、なぜかアーガマに届いた補給物資の中にハロがあった。
そんなところだけ劇場版仕様かよ!
本当になんでだ?
艦内のレクリエーション用、とかなのか?
とりあえず、カミーユに渡しておくことにする。
俺が持ち運んで変に学習して、要所要所でエルンストと呼ばれる可能性はさすがに排除したい。
そして特筆すべきことだが……補給物資の中には、フライングアーマーが2機あった。
ガンダムMk-Ⅱとガーベラ用に調整されたものらしい。
正直、俺にフライングアーマーが支給されるのはとてもありがたい。
大気圏突入用装備であるバリュートを展開したMSは機動が大幅に制限されるが、フライングアーマーなら大気圏突入中でも構わず戦闘を継続できる。
この世界のティターンズはとにかく数が多いので、大気圏突入中にもできるだけ数を減らさないと、俺やクワトロ大尉はともかく、エゥーゴの他の面々がきつくて仕方がないだろう。
簡易的とはいえ正規の訓練を受けている今のカミーユが言うかは分からないが、原作のカミーユが「こんな一方的な戦闘は卑怯だ」と言って唾棄した行いである。まあ、今のカミーユであっても言葉に出さないまでも、積極的に行うことはないだろうが。
だが、俺は違う。
どこかで聞いたようなセリフだが、俺のスタンスは「一方的な『殺し』」だ。*5
どうしても避けられない場合を除いて、真正面から正々堂々と撃ち合いしていたら、数で劣るエゥーゴに勝ち目はない。
まあ、奇襲と敵戦力を減らせるときに減らしていく方針は、一年戦争からずっとだった気もするのだが……。
ここまで来たら百式にも用意して欲しかったところではある。
俺とクワトロ大尉でティターンズの部隊を漸減できれば相当楽になっていただろうに。
そして、可能な限りの準備を整えたアーガマは出航する――のだが、そこに案の定と言ったところか、ティターンズの襲撃があった。
嫌がらせ以上の意味はなさそうな規模だったので、特に大きな被害もなく撃退できたのだが、その中にマラサイの姿が確認された。
連中にとってもマラサイの慣らし運転を兼ねての襲撃だったのだろう。
やっぱりアナハイムからティターンズにマラサイが流れたか……。
これで、ティターンズにもガンダリウムγを使用した実機が渡ったことになる。
解析が進めば、装甲面での優位性は今後縮小していくだろう。
覚悟していたことだが、俺がアクシズから提供したガンダリウムγを使用した機体を、こちらに一言もなくティターンズに渡されたとなるといい気分はしない。
最初から分かってはいたことではあるが、アナハイムの上層部は節操がなさすぎると思う。
ビジネスパートナー以上の付き合いはあまりしたくないのが本音である。
そして、出航したアーガマに、新造されたラーディッシュ、奪取されたサチワヌ、修理されたモンブラン、さらにはグラナダから出航した数隻の艦艇が加わって、エゥーゴは10隻近い大艦隊を組むことになる。
艦隊の護衛に宇宙に残るMS隊を差し引いたとしても、全部で100機超という大部隊だ。*6
これほどの規模となると、合流したとはいえ、展開や準備にはそれなりの時間がかかってしまう。
ティターンズからの横槍を警戒しつつ、待機任務についていたアーガマの面々に、敵影らしき反応を発見したとの報告と連絡船テンプテーションからのSOS信号が飛び込んできた。
割と出来すぎなタイミングではあるが、ブライト・ノアがティターンズとの軋轢からグリーン・オアシスを離れる流れそのものは変わらなかったらしい。
テンプテーションの救助と未確認の敵機の迎撃に出撃するのは、原作通りのガンダムMk-Ⅱと百式。
百式の試験装備の1つであるメガ・バズーカ・ランチャーのテストを兼ねているため、俺はアーガマの警護で待機である。
原作通りの展開になるのかな、と思っていたのだが、さすがは
シロッコ*8よ、この世界のシャアは『ニュータイプのなりそこない』なんかじゃないと身をもって知ったか……。
まあ、直撃を避けたということは、シロッコ自身も大したものなのだろう。
直撃していたら、どこに当たったとしても機体ごと消し飛んでいる出力の兵器なのだ。
俺個人としては、シロッコがここで退場してくれても一向に構わなかったんだがなぁ。
シロッコも凄腕ではあるだろうが、それ以上に、取り回しが最悪で、MS単位の狙撃には徹底的に向いていないメガ・バズーカ・ランチャーという兵装を、機動力に特化したMA形態のメッサーラに当ててみせたクワトロ大尉も、凄まじい腕だと言っていいだろう。
原作だと、この時点のクワトロ大尉は人生最弱レベルで弱っており、メガ・バズーカ・ランチャーも命中する気配すらなく避けられていたのだが、この世界では現在進行形で強くなり続けている、今が最盛期の『赤い彗星』だ。
シャアにとってのデバフ要素が欠片もないため、下手をしなくても、原作の『逆襲のシャア』時点の本人を既に越えているだろう。
しかも奴は現在、妻子ある父親だ。
家族を守るという意思も、自身が生き残るという意思も、原作とは比べ物にならないほどに強い。
乗り換えたばかりではあるのだが、既に次の機体を用意しておく必要があるんじゃないかと思うレベルで百式をぶん回している。
なんとなく、2人揃ってゲルググJの限界性能に渋い顔をしていた時代を思い出すな。
そうして、メッサーラを撃退したカミーユとクワトロ大尉は、テンプテーションを伴って帰還し、その乗員をアーガマへ収容した。
その中にいた、ファ・ユイリィとカミーユとの感動的な再開もあったのだが、それは原作とさほど変わらなかったので、言及する必要はないだろう。
そして――。
「はじめまして、ブライト中佐。
エゥーゴに所属しておりますケヴィン・コナー少尉です。
ガンダム・ガーベラのパイロットを務めさせてもらっています」
そう言って、ブライト・ノアと俺は握手を交わした。
年齢に似合わぬ疲れが滲んだ顔だ。
一年戦争の英雄が、輸送船の艦長という閑職に回されて、なおかつティターンズからのハラスメントを日常的に受けるという環境は、相当過酷だったのだろう。
とはいえ、その面構えは一流の艦長と言って差し支えない。
さすがは一年戦争をホワイトベースの艦長として戦い抜いた男と言っていいだろう。
ホワイトベースに散々苦汁をなめさせてきた俺が言うのも何ではあるのだが。
場所はアーガマのブリッジ。
ヘンケン艦長とクワトロ大尉も同席している。
「はじめまして……。
そう、はじめましてだな少尉」
ブライト中佐は何やら首をかしげていた。
「何か?」
「失礼だが少尉、以前に私と会ったことは?」
おいおいおい。
勘が鋭いにも程があるだろう。
たしかに俺とブライト・ノアの直接の面識は過去に1回だけある。
連邦軍人の軍籍を利用して、ホワイトベースに補給するついでにジャブローの位置を探り当てるトロイの木馬を仕込んだ時だ。
しかし、その時の遭遇は一瞬でしかない。
まともに会話を交わしたのは、俺の父親役を演じていたなんちゃら軍曹だけだ。
それで既視感を覚えるって、さすがホワイトベースの艦長と言うべきか。
だが、俺があの時、ホワイトベースを利用してジャブローの位置を割り出したという秘密を、今さら公開しても誰も得をしない。
知っているのは、俺とガルマ、シャア、それに当時の作戦へ直接関わった少数の人間だけで十分だ。
俺はしれっと、すっ呆けることにした。
「いえ、初対面だと思います」
「そうか、つまらないことを聞いてしまったな、すまない」
まあ、MSの装甲越しなら数回遭遇しているので、いずれ俺の正体がバレるとしても、そっちの方向で納得してもらいたい。
ホワイトベースのエンジンに、奇襲でマドロックの主砲をぶち込んだのはたしかに俺だ。
ヘンケン艦長が告げる。
「ブライトキャプテンには、このアーガマの艦長に就任してもらう予定だ。
そうなれば、自分はブレックス准将のお供ができる」
そして、クワトロ大尉がブライト中佐に聞いた。
「しかしよろしいのですか?
ご家族が地球におられるのでは?」
その問いに、ブライト中佐は苦笑を浮かべて首を振った。
「大丈夫です。
両親は一年戦争で亡くしておりますし、私自身は寂しいかな、
こういった閑職に回されてしまいますと、出会いもなかったもので――」
――んん?
ちょっと待て。
なんか凄いこと聞いてしまったぞ。
「――地球に恋人とかはいらっしゃらないので?」
精神力を振り絞り、なんとか動揺を声に出さずに聞いてみる。
一体、ホワイトベースの内部で何が起こったというのだ。
「一年戦争の時に惚れた女性はいたんだがね。
悔しいが、恋敵だった私から見ても、彼はいい男だったからね」
スレッガー中尉ぃぃぃぃぃぃぃ!!
俺は内心で絶叫しつつ、イメージの中で頭を抱えた。
そうだよ。
ソロモンでビグ・ザムに乗ったの俺だったわ。
ホワイトベース隊が来る前に、散々暴れた後で自爆させたんだから、彼が死ぬ直接的な理由がないわ。
何ならその後で、アナベル・ガトーも交えて一戦してたわ。
その後、ア・バオア・クーで彼が戦死しなかったのなら、そりゃミライ・ヤシマと結婚するのは彼になるでしょうよ!
そういえば、ソロモン戦の時点でリュウ・ホセイも原作の死亡時期を越えて生き残っていたな。
今も生きている可能性は十分あるが、それはひとまず置いておこう。
悲報――どうあがいても、『閃光のハサウェイ』は始まらない件について。
いやまあ、その前日譚である『逆襲のシャア』を起こさせる気が無いので、今更ではあるのだが……。
とりあえず、ブライト中佐がエマリー・オンス女史と出会えるように祈っておこう。
読んでいただきありがとうございます。
申し訳ありません。
ここ数話、本当に月刊ペースじゃないかと言われても否定できない亀のような筆の歩みでした。
もう少し早く書きたかったのですが、ある程度書いた後に読み返して『原作のシーンにケヴィンがいるだけ(いない場合すらある)』の場面が多すぎて、「うわぁ、これ自分なら読みたくないわ」と思ってそのシーン全部抹消、とかしていました。
そのせいで原作における、アンマン入港時のジェリド奇襲、カミーユとエマへのカクリコンの奇襲(銃撃戦)、サチワヌ奪取時におけるカクリコン・エマ戦、アンマン出港時のティターンズからの攻撃(マラサイ戦)、とかは大幅カットとなりました。
……それでも13000字越えって何なんだろう?
・アクシズからのビデオメッセージ
まあ拙作におけるアクシズとの関係性を考えるとこんな感じ。
原作だとシャアはアクシズを出奔していますけど、拙作だとシャアですら結構太めのパイプ保持。ドズルはシャア・ララァ夫妻の仲人ですし。
ハマーンさんが仕切っていないのもあって、アクシズは段階を踏んで移動中のイメージ。
ミネバのビデオメッセージ入れたかったのですが、大筋と一切関係ないので今回はカット。
そのせいでドズルさんは娘に足を蹴られるのでした。
・ジャブロー降下作戦へのスタンス
主人公の内心としてはこんな感じ。
収支の点で言えば明らかにマイナスだし行きたくねぇ感。
まあ、どう足掻いてもスポンサーの意向で強制実施なんですけどね。
スポンサー連中、「意見を聞くため」とか言いつつ、「承諾させるため」に呼び出していましたよね。
この辺り、原作でもそんな感じでした。
結果ありきじゃねぇかよ。
ちなみにレコア女史に関しては、ケヴィンの評価は「原作にいるただのネームドキャラ」です。
(裏切りフラグを潰すつもりなので)裏切りキャラとしてのマイナスの印象も持っていない反面、原作でもメタスのパイロットになるまではMSの操縦訓練等は受けていないようでしたので、人的資源として見たら『名無しのエゥーゴパイロット>レコア』で特別プラス評価しているわけでもない感じ。
ああ、スリルジャンキーな面に関してはちょっと困った人……。
・ジャブロー戦準備
ここ、原作でも1ヶ月丸々ぶっ飛んでるんですが、TV版見てるだけだと数日しか経っていないように見えて困りました。
Zガンダムは本編の描写があっさりしているのに、一瞬で時間軸が端折られる場面が多すぎて……。
特に意味もなくハロ支給。
劇場版展開にしたことでカミーユは修正を免れました、やったね!
まあ、簡易教育とはいえ正規の軍人カリキュラムを受けているので、拾ったとしてもミーティング遅刻するような真似はしないでしょうけど。
あと、もう一機フライングアーマー支給。
大気圏突入中に原作のカミーユは攻撃を控えましたけど、基本的にメンタルが一般人なんだから仕方ないよねと。
なので、オデッサ・ソロモンと戦ってきた、斬首戦術のベテランさんにも支給しましょうねー。
味方パイロットの生命とのバーターなので、落とせるだけ落とすんだろうなぁ。
カクリコンさんが「アメリアー!」するかは未定。
・シロッコ?遭遇
まあ、遭遇したのはシャアとカミーユですが。
原作でメガバズ外していましたが、あれはシャアが歴代最弱レベルのシャアだったのもありますけど、そもそもメガバズってMS1機みたいな小目標を狙撃するための兵装じゃねーから!と思っています。
しかも相手は機動力オバケなMA形態のメッサーラだし、当たるはずがそもそも無いものだと。
それに掠らせたので十分拙作のシャアはバケモノというイメージで描写しました。
支給されたばかりの百式が持たん時が来ているので、ガンダムMk-Ⅲはよ(無茶ぶり)
・ブライト・ノア独身
これが一番今話でやりたかった(邪悪な笑み)
物語介入としては醍醐味ですよね。
スレッガーさん生きてるならそりゃそうなるよねという形。
まあ生まれながらに金髪のハサウェイはいるかもしれません。
各生存キャラに関しては、がっつり本編に組み込むことが難しい場合でも、なるべくニアミスとかで出演させられたらな、とは思っています。
内面はともかく、起こった事象だけ見れば割と原作沿いなのが何とも……。
ただジャブロー戦をきっかけに、結構な原作との乖離が起こってくると思います、多分……。
よろしければ、またお付き合いいただけますと幸いです。
次回の投稿にも、またしばらくお時間をいただくことになってしまうと思います。
申し訳ありません。
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