超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
テンプテーションの救助と、その結果としてブライト・ノアがエゥーゴに加わってから数日が経過した。
なお、カミーユのガールフレンドであるファ・ユイリィは、テンプテーションに搭乗していた他の人たちと共に、居住スペースに避難民扱いとして滞在してもらっている。
この数日の間にブライト中佐は大佐に昇進していた。
元ホワイトベースの艦長という経歴と、7年という軍歴を考えると、妥当な昇進だろう。
彼が中佐で留め置かれていたということ自体、連邦軍による飼い殺し方針に過ぎない。
ブライト大佐は現在、ヘンケン艦長にアーガマの詳細のレクチャーを受けている最中だ。
彼が艦の基本構造――アーガマとホワイトベースの差異を把握でき次第、ヘンケン艦長がブライト大佐にアーガマの艦長職を譲ることになっている。
そして、それと同時にジャブロー侵攻作戦がスタートする予定だ。
ちなみに――面と向かってハッキリと聞かれたわけではないが――ブライト大佐は、俺の正体を薄々感づいているようである。
原作TVシリーズ作中での、カミーユやカツ・コバヤシ、ジュドー・アーシタといった少年組に対する態度より、明らかに敬意が払われている感じだ。
たとえるならクワトロ大尉に対する態度から、敬語だけを取り払ったような感じと言えばいいだろうか。
……大佐が少尉に対してする態度じゃねぇ。
まあ、状況証拠が揃いすぎているので、勘が良いとか以前の問題なのは認めざるを得ない。
思っていたより早いのは確かだが、時間の問題だろうと俺も思ってはいた。
こちらに隠す気があまりないというのも確かだが、加えて周辺も隠す気がなかったからな。
まず、ヘンケン艦長やクワトロ大尉が、俺に意見を求めてくる場面が多い。*1
さらに付け加えると、俺のエゥーゴでの経歴が『ブレックス准将直々の推薦で加入』と「裏に何かありますよ」と言っているようなものでもあるため、それで「新任少尉で、エゥーゴ純正のガンダムのパイロットです」と言って違和感を持つなというのは、さすがに無理がある。
艦長や実働部隊のトップが、意見を求めてくる新人少尉って何だよという話だ。
そして、これが極めつけだが、『クワトロ大尉が不在等の理由でMS隊の指揮が不可能であった場合、MS隊の指揮を俺がとる』ことをヘンケン艦長から知らされたことだ。
アポリーにロベルト、お前らがやれよ中尉だろって話である。
そう言ったら全力で首を横に振られた。
ホンマこいつら……。
先任中尉である2人がそんな感じなので、エゥーゴに入ったばかりのエマ中尉も2人に続くしかない。
つまり、『ベテランパイロットであるはずの、アポリー中尉やロベルト中尉よりも、部隊指揮官としての適性がある』と見られている16歳のパイロット……まあ一年戦争の経験者なら、さすがに薄々でも気付くよねって話である。
この様子では、軍人ではないカミーユは仕方ないにしても、エマ中尉にもそのうち気付かれるだろうなこれは。
まあ今のところ、ブライト大佐から面と向かって聞かれたわけでもないので良しとしておこう。
こちらから下手に触れて、「君がホワイトベースのエンジンを狙撃した
そして数日が経過して――。
「MS各機、順次発進!」
アーガマのブリッジから、通信越しにブライト艦長の指示が下された。
ジャブロー降下作戦の開始である。
アーガマに搭載されているMS――まず百式が、続いてリック・ディアスが次々と発艦していく。
フライングアーマーがかさばる関係上、俺とカミーユのガンダムペアはリック・ディアスの後だ。
俺は各種計器類を確認しながら、ガーベラの操縦レバーを握り直した。
通信越しにカミーユの声が聞こえる。
「ガンダムMk-Ⅱ、行きます!」
アーガマの左舷カタパルトから、フライングアーマーを装着したガンダムMk-Ⅱが飛び立っていく。
俺のガーベラは右舷のカタパルトで待機中だ。
アーガマからのMS発艦は、出撃タイミングがまったくの同時だとMSが衝突してしまう可能性があるので、次の俺の出撃までには数秒の間が空くことになる。
ちなみにだが、カミーユは出撃前にファ・ユイリィとは原作のような喧嘩をしなかったらしい。
こちらのカミーユには若干の精神的余裕が生まれているからだろう。母親も無事とは言いがたいが何とか生きてはいるしな。
まあ、出撃前にガールフレンドと喧嘩なんて精神的デバフなど、無いに越したことはない。
と、そんなことを考えている間に、こちらの発進許可のシグナルが表示された。
「ケヴィン・コナー少尉、ガンダム・ガーベラ発進する!」
カタパルトに押し出されてガンダムが加速し、さらに途中でバーニアを吹かせて猛スピードでアーガマから離れていく。
周囲を確認すると、他の艦からも順調にMSが発進を続けている。
発進したMSは、クワトロ大尉の百式とアポリー、ロベルト、エマ中尉の搭乗したリック・ディアスを先頭に編隊を組む手順になっている。
俺のガーベラとカミーユのMk-Ⅱは編隊の後方につくことになっているが、これは俺の進言によるものだ。
フライングアーマーを装着しているMSは、大気圏突入中にも割と自由に行動ができるため、「2機のガンダムは後方をカバーしつつ、大気圏突入中に編隊の前部に移動すればいい」と進言し、それをクワトロ大尉が了承した。*2
なぜ後方についたかと言えば、原作であったシロッコの強襲へのカウンターと、降下阻止を企むティターンズ部隊への迎撃を担当するためだ。
このタイミングの陣形は、後方からの攻撃に一番脆い。
それをカバーするために、機動力に優れたフライングアーマーを装備したガンダム2機というわけだ。
シロッコは俺が相手をするとして、その後に来るティターンズについても、俺が援護すればカミーユも十分戦えるだろうからな。
なお、俺としてはシロッコがメッサーラで強襲をかけてきた場合、その場の戦況次第ではあると思うが、可能なら無慈悲にそのまま退場させるぐらいのつもりでいる。
メッサーラはたしかに機動力に優れた機体だが、ガーベラの推力は頭がおかしいレベルなので、逃げに徹されない限りは追随できる。*3
近接戦に持ち込めば、メッサーラの『圧倒的な推進力と変形による戦術的優位性』という機体特性は十分に発揮できない。
その上、そこは『高機動性を活かした突撃・強襲・白兵戦』をコンセプトとする、ガーベラの得意な間合いである。
やろうと思えば、奴の動揺につけこんで、何もさせないまま撃墜することも可能だろう。
ジャミトフの暗殺といい、あいつ原作でロクなことをしていないからな……。
プラスになったことといえば、グラナダへのコロニー落とし作戦のリークぐらいだろうか?
それも、「連中ならやりかねない」という意識を持っていれば、諜報と哨戒で十分察知できる。
そうなると、シロッコを自由に行動させる意味は無いだろう。
そういった感じで、この場でシロッコを抹殺する決意を固めていたのであるが、肩透かしなことにシロッコのメッサーラは姿を見せなかった。
やっぱり、クワトロ大尉にメガバズで片側の推進器を吹き飛ばされたのが効いていたのだろうか。
あれから数日が経つし、修理も終わっているだろうと思っていたのだが、よく考えるとあれシロッコのお手製試作MSだったな。
パーツ交換が必要な場合、ジュピトリスまで行かないとパーツが存在しない可能性もあったか……。
もしくは、俺の漆黒の殺意を感じ取ったか?
そこまで殺意は出していないと思うので、これは杞憂だろう。
まあ、来ないなら来ないで構わない。
原作ではシロッコの強襲によって、シチリア、シブヤン、スルガと3隻ものサラミス改級が沈められ、エマ中尉のリック・ディアスも片腕を喪失し、ジャブロー降下作戦から離脱してしまった。
シロッコが来ないことで、奴によるMSへの被害がなくなったことも無視できないだろうが、特に艦船が無事なのは大きい。
沈まなかったモンブランも合わせて、4隻もの艦が無事であるということのメリットは、エゥーゴにとって計り知れない。
そして、そうなると警戒すべきはティターンズからの迎撃部隊だ。
こちらは反応があった。
部隊の右舷上……若干前方であるため、少し距離があるが、フライングアーマーの推力ならばすぐである。
ティターンズの迎撃部隊がこちらと接触した以上、後方からのシロッコの強襲の可能性はかなり下がったと判断していいだろう。
加入したばかりのシロッコでは、下手したら味方であるはずのティターンズから撃たれたり、乱戦に巻き込まれて地球の引力に捕まる危険性もあるからだ。
無論、警戒を切るつもりはないが、後方への警戒の必要性を既に訴えている以上、艦艇と宇宙に残る予定のMS部隊に任せても問題は無いだろう。
「カミーユ、編隊の前に出るぞ。
ティターンズの部隊が近づいている」
「了解です!」
後方警戒任務を終えた形の2機のガンダムは、編隊の中央を突っ切り、最短距離で最前部へと移動する。
ちょうど、ティターンズの部隊との交戦が始まったタイミングだ。
タイムテーブルとしては、大気圏突入まではあと2分と少しといったところか。
敵部隊へと牽制射撃をしている、クワトロ大尉の百式の横を速度を維持したまま通り過ぎる。
一瞬、百式とガーベラの視線が交錯した。
(前衛は任せろ)
(了解した。こちらは援護に徹する)
思念を介した打ち合わせを一瞬で終わらせると、俺は前衛部隊の牽制射撃で敵陣に開いた穴へと突撃する。
前方への推力はフライングアーマーの出力のみでまかない、こまめな回避機動はガーベラのバーニアで行っていく。
大気圏突入を終えさえすれば、フライングアーマーはホバー機能で移動が可能なので、プロペラントの残量にそこまで気を使う必要はない。
フライングアーマーの出せるトップスピードを維持しつつ、俺は敵陣を突き進んでいく。
元々、MSに一般的に装着する形の大気圏突入用バリュート装備とフライングアーマーとでは、最終的な機動力がまるで違ってくる。
俺は敵陣を散々ひっかき回しつつ、ガーベラのビームマシンガンをばらまいていく。
推力も運動性も当時とは桁違いではあるが、ア・バオア・クーでアクト・ザクで行った機動の焼き直しに近い。
それなりの数を撃破し、それ以上の数の敵MSに被弾させながら戦場を駆け抜けていく。
被弾させるだけでも、この戦場では十分効果があると判断してのことだ。
撃破するに越したことはないが、バリュート装備が破損するだけでもその機体は撤退せざるを得ない。
その状態で地球の重力に捕まったら、確実な死が待っているだけだからだ。
数機のハイザックやガルバルディを撃墜し、さらに何機かを撤退に追い込みつつ、敵陣を半円に大きく一周した俺は、編隊の最前部へと移動し、クワトロ大尉たちと合流する。
移動ルートの関係上、マラサイと交戦することはなかったのだが、どうやらクワトロ大尉たちとは交戦していたようだ。
数機のマラサイの撃墜がデータで確認できるし、いまだ数機が近くに展開してこちらにビームライフルを撃ってきている。
だが、こちらへの被害はさほどなく、百式の近くに付いていたMk-Ⅱも無事だ。
さすがに新兵同然のカミーユに、俺の敵陣突破について来いというほど鬼ではないので、普通にクワトロ大尉の援護を任せておいた。
エマ中尉のリック・ディアスも無傷なので、彼女も原作と違ってジャブローに降下できるだろう。
そして、時間だ。
周囲を灼熱と化した空気が覆いつくし、敵も味方もバリュートを展開し、大気圏突入の熱への対策を始めていく。
「カミーユのガンダムMk-Ⅱはこの場で待機。
俺は敵を削れるだけ削る」
「同行しなくていいのですか?
こちらもフライングアーマーです!」
カミーユの返答に、若干苦笑を含めて返す。
「抵抗できない敵を漸減するために撃破するのは、先日まで民間人だったお前には酷だ。
こういう仕事は軍人に任せておけばいい」
さすがに『抵抗できない敵』という部分に思うところがあったのか、カミーユは数瞬戸惑った後で「分かりました」と返してきた。
すまんなと心の中で詫びる。
さすがにカミーユが原作のように「こんな一方的な戦闘は卑怯だ!」と抵抗を感じることも無理はないとは思う。
だが、それに付き合って敵を放置しておくと味方パイロットの犠牲が増えることになるので、正規のエゥーゴパイロットとしては一方的に減らせるときに減らしておかないといけないのだ。
俺はフライングアーマーを前進させると、大気圏突入中のティターンズ部隊に襲い掛かった。
慈悲の気持ち?
ちょっと30バンチに忘れてきてしまったかな。
それはそれとして、熱のせいでモニターがぶれて識別しにくい。
味方のバリュートを破いてしまったとか、洒落にならないから気を付けねば。
数分後、大気圏突入の熱が収まっていく。
そろそろ敵も味方もバリュートを切り離して、自由落下に移るタイミングか。
俺はフライングアーマーを味方の編隊の近くへと戻していく。
戦果としては、この数分で暴れも暴れたりといったところだ。
撃墜したのは30機弱、6~7秒に1機落とした計算になるのか……ちょっとやりすぎたかな。
とはいえ、数を減らせば減らした分だけ、エゥーゴのMS隊が楽になるだろう。
俺がティターンズの相手をできればいいのだが、この戦いにおいては俺にもやるべき役目というものがある。
できる限り削った以上、味方のパイロットたちには頑張ってもらいたい。
モニターに映る地形データをチェックする。
幸運なことに、7年ぶりではあったものの、地形には若干の見覚えがある。
ならば、侵入孔の位置についてはおおよそ見当がつく。
7年越しに闇夜のフェンリル隊に感謝の意を捧げておく。
ジャブローからの迎撃は……まずは戦闘機主体か。
アッシマーもギャプランも、ドダイに乗ったハイザックすら出撃してこない。
脳内で疑いを深めながら、降下の障害になる戦闘機を撃ち落としていく。
更に地上に近づくと展開したMSの反応が見えた。
……ジムキャノンに、グフ飛行試験型、挙句の果てにはザクキャノン。
旧式のオンパレードだ。
これはもう確定だな。
降下地点周辺に展開している、敵のMSをビームマシンガンでなぎ倒しながら、俺は結論付けた。
ジャブローは空き家だ。
ならばやるべきことは決まっている。
モニターに視線を移してデータリンクを照合する。
ジャブローが散布したミノフスキー粒子のせいで遠距離のリンクが阻害されているため、百式やリック・ディアス隊、ガンダムMk-Ⅱの位置は不明。
まあ、彼らは固まって降下していたので、はぐれてはいないだろう。
実質俺の単独行動に近い形となるが、その方が俺には動きやすい。
続いてさらにデータリンクを検索すると、近くに3機のネモの小隊の反応があった。
パイロットは……都合のいいことに、
「そこのネモ小隊、こちらはケヴィン・コナー少尉だ。
近くにジャブローへの入り口がある、付き合え」
通信を入れると、即座に返答があった。
小隊のリーダーである曹長からのものだ。
「た、……少尉、ご無事でしたか!
当然、お供させてもらいます!」
お前、今大佐って言おうとしたな?
まあいい。
旧式で固められたほぼ空き家の要塞に、ガンダムとネモ3機の急襲だ。
時間との勝負になるが、勝算は十分だろう。
俺のガーベラと、一年戦争からのベテラン3人が操るネモは、道中の敵を鎧袖一触と言わんばかりに蹴散らしながら進んでいる。
侵入に使った入口が小規模だったため敵の警戒が薄く、奇襲に近い形での快進撃となっていた。
――とはいえ、この敵の抵抗の弱さは俺の確信をさらに強固にしていく。
ちなみにフライングアーマーは入り口近くに置いてきた。
ジャブローの空洞はMSがジャンプするに十分な高さではあるが、フライングアーマーで縦横無尽に駆けるとなると性能を活かしきれない。
それ以上に、ネモ3機と小隊を組んで行動するには邪魔だ。
「少尉、友軍と比較しても先行し過ぎじゃないですか?」
曹長から通信が入る。
まあ、突出しすぎていると普通ならそうとしか思えないレベルで、俺たちの部隊だけが先行している。
包囲されていないのは、敵の配置がまばらに過ぎるからだ。
特に数少ない防衛用のMSはほとんどが、地表部でエゥーゴの他のMS部隊相手の防衛に出ているのだろう。
「妙だと思わんか?」
俺が返した通信に、「え?」と返した曹長だったが、数秒も経たず――。
「そういえば、静かすぎますね」
と返してきた。
やはりベテランは話が早い。
「まるで引っ越し中か、空き家のような有様だ。
だから俺たちは状況を調べる。
幸い、敵の抵抗もほとんどないからな」
ジャブローに残された戦力が旧式兵器のオンパレードなこともあり、現状で最も戦闘が激しいのは、降下したティターンズ部隊を迎え撃っている地表付近だろう。
今のジャブローは進めば進むほど敵がいなくなっていく状況だ。
本当に要塞か?
「調べると言っても何を調べるんです?」
そう返してくる曹長に、俺はデータリンクを介して、ここ一帯の地形データを送信する。
「これだけの規模だ。
各エリアに最低一つはデータ中継用のセンターがあるはずだ。
そこに乗り込んでハッキングしてデータをいただく」
ミノフスキー粒子によって電波による通信の信頼性が落ちた分、通信回線は有線かレーザー通信が主体である。
しかし、隔壁や曲がり角だらけの地下施設では、レーザー通信だけで全区画を結ぶのも非効率だ。
ならば、ジャブロー中枢と有線で繋がった端末が、各区画には必ずあるはずだ。
「なるほど。
なら、でかくて空調設備が整っているビルを探します」
話が早くて助かるな。
4機のMSが四方を精査すれば、該当する建物はものの十数秒で見つかった。
「少尉、中にはまだそこそこの人員が残っているようです。
どうされますか?」
曹長の言う通り、MSのカメラはビルの入り口付近に固まっている十数名の姿を捉えている。
大体が逃げようと低層階に来たものの、外に俺たちのMSが展開しているため出るに出られないといった状況だろう。
目に見えているだけでこの数だ。実際には数十名はいると見ていいだろう。
「お前たちは、連中に投降するように呼びかけろ」
俺は3機のネモのパイロットに指示を出した。
「少尉はどうされるんで?
ごった返している入口に単独で入り込むのは危険では?」
曹長からの返答に、俺はニヤリと笑って返す。
たしかに、完全に投降の意思を示していない人間の集団を突っ切るのは、危険すぎる行為だ。
連中の中に反抗の意思を失っていない者がいれば、こちらへの不意打ちを許しかねない。
とはいえ、この状況では時間は一秒であっても惜しい。
「入口から、ならな。
だからこうする」
そう言うと、俺はガンダムのシールドを、建物の5階に位置する廊下へと突き刺した。
熱探知によると、5階に大型の熱源反応――大規模な電子機器が集中している区画があるようなので、ちょうどいい。
驚愕する味方機をよそに、俺は「後を頼む」と言い残してコックピットのハッチを開いた。
そのまま上前方に開いたハッチの端を跳躍して掴むと、掴んだ部分を支点にし、そのまま一回転して開いたハッチの上へと着地する。
そこからガンダムの腕へと飛び移ると、シールド伝いに走って建物の中に入り込んだ。*4
なお、後に残されたネモのパイロット達が
無人のコンピュータールームに難なく入り込んだ俺は、手早くハッキングを開始していく。
連邦軍のコンピューターへのハッキングは、4年前にも経験しているため慣れたものだ。
おまけに、探すべき情報の目星までついている以上、時間は数分もかからない。
程なくして、目当ての情報に辿り着いた俺は、それを2枚のディスクにコピーしていく。
探し当てた情報は当然、ジャブローの核による自爆装置の情報だ。
ご丁寧なことに、物理的に回線が切断されているため、こちらからハッキングによる爆弾の停止は不可能ときている。
そして残された時間は約1時間半。*5
ジャブローの司令官は自身が避難する時間を確保するため、起爆時刻をかなり先に設定していたらしい。
だが、その判断の甘さがこちらには助かる。
俺はコンピュータールームを出ると、そのままガンダムへと戻る。
操縦席に座った俺は、コックピットハッチを開いたままで、曹長の乗るネモにガンダムを近づける。
曹長のネモもコックピットハッチを開いた。
「少尉、何かつかめましたか?」
そう聞いてくる曹長に、無言でディスクの1つを投げ渡す。
「2機は捕虜をまとめた後に後退しろ。
残る1機はそのデータを小隊内で共有した後、即座に主力へ戻れ。
クワトロ大尉への報告と全部隊への情報共有を最優先しろ」
矢継ぎ早に指示を出す。
脈絡のない指示に、小隊の面々も少し混乱しているようだ。
無理もない話だが、悠長にすべてを説明している暇はないし、ディスクの中のデータを見てもらえばわかることなので、申し訳ないが端折らせてもらう。
「承知しましたが……少尉は?」
俺はコックピットハッチを閉じると、スラスターの火を入れながら、通信機越しに言った。
「
そして、その場からガンダムを飛び立たせる。
データをコピーしたもう一枚のディスクをガーベラのコックピットに読み込ませる。
ジャブロー全施設の地図データ、並びに自爆装置の位置を確認し、俺は操縦レバーを前に押し込んだ。
「これより突入する!」
エゥーゴのジャブロー攻略部隊は、パニック寸前となっていた。
敵が少なすぎると思った矢先、先行していた味方部隊からデータリンク経由でもたらされた情報によると、ジャブローを核で自爆させ、味方ごとエゥーゴを葬り去ろうとしているという。
普通ならばとても信じられない話だが、捕虜から聞き出したような情報ではなく、友軍がハッキングによって取得したデータという物証がある以上、信憑性は高い。
しかも、その情報をもたらしたのは、クワトロ大尉に続くMS部隊の実質的なナンバー2だ。
パニックに陥る寸前で留まれたのは、前線指揮官であるクワトロ大尉が、落ち着いて指示を出したからだろう。
ケヴィン自身が主力へ戻って情報を伝えず、その伝達を友軍に任せた時点で、クワトロ大尉には彼が何をするつもりなのかがおおよそ読めていた。
ゆえに他のメンバーよりもかなり冷静に状況を考えられている。
「で、君は少尉の指示通り後退してきたと?」
目の前で報告する曹長に問う。
ここはエゥーゴが既に制圧したエリアの1つに存在している建物内だ。
捕虜の集約や尋問などの実務を一括して行っている――臨時司令所として使われている。
クワトロ大尉の周辺には、先ほど接触していた曹長、そしてアポリー中尉を含めた数名のパイロットがいる。
問われた曹長はよどみなく答えた。
「はい。
少尉は我々には捕虜をまとめて撤退するようにと。
情報共有を優先するため、私が先行してまいりました」
多少の混乱はあったが、攻略作戦の早い段階で核自爆の情報を得られたのは非常に大きい。
ジャブロー内部に深入りしすぎてからだと、撤退の手段を確保するだけでも相当な手間と時間を取られてしまうだろう。
「よくやってくれた。
全部隊に通達しろ。
残り30分を切った時点で、我々は全軍撤退に移る。
部隊の三分の一は今すぐ脱出の足を確保しろ。残りはそれまでティターンズを押さえる」
落ち着いた様子で指示を出していくクワトロ大尉に、曹長が恐る恐るといった様子で訊ねた。
「大尉、一体少尉は何をしようとしているのでしょうか?」
「彼は『止めてくる』と言ったのだな?」
頷く曹長に、クワトロ大尉は答えた。
「ならば簡単だ。
ケヴィン少尉は、核の自爆を止めるつもりだ」
クワトロ大尉の発言に、曹長だけでなく周囲にいたエゥーゴの面々もぎょっとした表情を向けてくる。
アポリー中尉が、震えながら声を発した。
「し、しかし、物理的な回線が切られている上に、地下150mに埋まっている核ですよ?」
クワトロ大尉は手に持っていたタブレットを操作し、共有されたデータ内の、核爆弾周辺の見取り図を表示させた。
「150mもの深さに設置してある以上、ティターンズが場当たり的に設置した爆弾ではない。
元から情報秘匿の自爆用に設置されていたものだ。なら、メンテナンス用の通路が必ずある」
当然、施錠はされているだろうし、下手をすれば爆破されて埋まっているだろう。
だが、自身の知る彼ならばやれる。
そう信じる自分がいることに、クワトロ大尉は違和感を持たなかった。
「しかし、残り1時間もありませんよ?」
信じられないという表情で語りかけるアポリーに、クワトロ大尉は自信を持って返答した。
「彼ならばやってのける。私はそう信じている。
そして誇りたいのだ。爆破阻止をやってのける彼を。
やるべきことはシンプルと言ってもいいだろう。
この身体の素質の元となった人間――ヒイロ・ユイもやり遂げたことだ。
しかも、彼はOZのトレーズ・クシュリナーダの罠にかかり、地球圏統一連合のノベンタ元帥を自らの手で抹殺してしまったことによるショックで、半ば呆然自失になりながら、残り10分という制限時間でやってのけたのだ。
こちらは解除すべき爆弾が2つあるとはいえ、制限時間には余裕がある。
しかも、俺はやるべきことをすでに認識している。
できない道理はない。
手順としては、まずジャブローのメインコンピューターにハッキングし、自爆用の核爆弾の場所を把握する――これは既に済ませてある。
次にガンダムでそこへ急行し、メンテナンス通路への入口をビームサーベルで切り開いて侵入する。
ノックとしてはいささか乱暴だが、まず間違いなく施錠されているため、いちいち確認するのは時間の無駄だと判断した。
道中、爆破されて崩落している箇所があったので、通風坑を使って迂回する。
通風坑がそれなりの広さだったこともあり、関節を外して無理矢理通るといったことをしなくて済んだのは幸運だった。
地下150mを急いで下りきり、核爆弾の間近にあるコントロールユニットに辿り着けば、後はそれを解除するだけだ。
先ほどのハッキングの際に得ていた保守データの手順通りに、コントロールユニットを操作していく。
現地まで到達されること自体を想定していなかったのか、自爆プログラムそのものは正規の手順で解除可能であり、さほど時間はかからない。
1分とかからずに爆弾の停止信号を打ち込むと、爆弾のカウントダウン表示が停止する。
数秒後、完全に停止した証として、カウントダウンの表示も消失したのを確認し、俺はふぅと息を吐いた。
「残り1つ……」
行きよりも、150mも上のガンダムに戻る方が面倒だなこれは。
時間に余裕はあるとはいえ、ゆっくりするわけにもいかない。
俺は来た道を戻るために再び走り出した。
クワトロ大尉が各地への指示を出している最中、唐突に施設に備え付けられている通信機が作動した。
数瞬の音声ノイズが走ったかと思うと、エリア一帯に存在するすべてのスピーカーから、聞き覚えのある声が響き渡る。
「こちらケヴィン、ひとつ目の核爆弾の起爆阻止に成功した。
このまま、もう1つの停止に向かう」
おそらく、通信設備をハッキングして、ジャブロー全体に放送したのだろう。
エゥーゴのメンバーが「おお!」と沸き立っている中、クワトロ大尉はアポリーに笑みを向けた。
「だから言ったろう?」
その20分後、ケヴィンから2つ目の核爆弾停止の報告が入った。
その報を受け、エゥーゴは再び作戦行動をジャブロー制圧へと切り替える。
そしてさらに1時間が経過するころ、エゥーゴはジャブロー基地を無事に制圧した。
地球に降下したティターンズのMSはほぼすべてが撃破されるか行動不能に追い込まれ、基地に残されていた連邦軍の人員に加え、乗機を失ったティターンズのパイロットたちといった、大量の捕虜が生まれることになった。
制圧した基地の精査も重なって、別の意味でエゥーゴのジャブロー強襲部隊は壊滅寸前となるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
今回はさほど間を置かず投稿することができました。
とはいえ、展開自体は予想していた方もいるのではないかな、と思っています。
・シロッコさん出番キャンセル
前回、メガバズで片側の推進器吹っ飛ばされていましたからね。
パーツが欠損した状態ではジュピトリスに戻らない限り修理は無理でしょう。
なのでエマ中尉も地球降下です。
ジェリドとカクリコンは未定。
「アメリアー!」しているかもしれないししていないかもしれない。
ライラさんもいるかもしれないし、いないかもしれない。
・ジャブロー爆破阻止
安直すぎて申し訳ない。
でも、ガンダムW要素入れてグリプス戦役だったら結構な人がこれ考えるんじゃないかなぁと。
クワトロ大尉の発言がサリィ・ポォ?
ナンノコトデスカネ?
それはそうと、エリート軍人であったノインさんはともかく、サリィはどう考えても有能すぎやしませんかね?
これにてグリプス戦役序盤における最大の変更点を描写することができました。
少しずつ違う展開も見せて行けたらなぁと思っています。
ジャブロー爆破阻止は予想する人いるだろうなぁと思いつつ急いで書き上げたので、次回よりまた少々お時間をいただくことになるかもしれませんがご容赦願います。
よろしければ、またお付き合いいただけますと幸いです。