超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けたので投稿します。


ただ、一点だけ事前にお伝えしておきます。
今話、と(・)あ(・)る(・)キ(・)ャ(・)ラ(・)ク(・)タ(・)ー(・)一名に対して、かなり辛辣な描写が存在します。


人によっては説教臭いと感じられる部分もあるかもしれません。
その点だけ、あらかじめご了承いただければ幸いです。



第74話 ジャブローに散る(戦後処理で)

 

 先ほどまで格闘していた、施設内のコンソールから手を離すと、俺は大きく伸びをした。

 

「これでひと段落か……」

 

 エゥーゴがジャブローを陥落させた。

 その影響は地味に大きく、データ処理ができる人員は、俺を含めて漏れなくデスマーチ中になっていた。

 大量に得られた捕虜の処遇、メインコンピューターに残されたデータの分析、ジャブロー内の格納庫に使えるものがないかの探索、etcetc……。

 ジャブローに降下したエゥーゴの人員は、全員がMSパイロットであり、総員で100名前後しかおらず、とてもではないが人手が足りていない。

 

 攻略戦の最中にカミーユが救助したレコア少尉ですら容赦なく駆り出されている――どうやら、俺の予想通り捕まっていたらしい。

 ということは、おそらく性的拷問を受けたのだろう。連邦軍がそこだけお上品になったとは考えづらい。

 見たところ以前と違い、男性との接触を極度に避けようと、反射的に身体を引く傾向も見て取れるので、男性恐怖症も発症しているようだ。

 宇宙に戻れたらブレックス准将に具申して、後方に回し、診察を受けさせた上で療養させるつもりではあるのだが、人手が足りておらず、背に腹は代えられない今の状況では、彼女にも働いてもらう以外の選択肢がない。

 そんなわけで、クワトロ大尉とも相談の上で、当面は男性との接触が少ないデータ整理を任せている。

 

 また、同時に救出されたカイ・シデンにも、データ分析を手伝ってもらっているのが現状である。

 

 ちなみに俺は、この戦闘における戦果、並びに核爆弾の自爆阻止という功績から、ブレックス准将によって中尉への昇進が通達された。

 ジャブローのレーザー通信によって、アーガマと連絡を取った矢先のことである。

 

 タイミングが良いのか悪いのか、中尉に昇進したことによって、処理できる権限が増えた。

 悪い方に言うと、3人の中尉に任せるはずだった仕事がこっちに回ってきた。

 さすがにエマ中尉は自分の担当の仕事は自分でこなしてくれているのだが、アポリーとロベルトは「自分は現場主義だ」と言わんばかりに、ネモのOS設定を地上戦用に書き直す業務に逃げやがった。まあ、それも必要な仕事ではあるのだが……。

 

 そんなこんなで、先ほどまで俺はジャブローのコンピューターに残されたデータの分析をしていたわけである。

 とはいえ、引っ越し中のジャブローに機密データを残していくほど連邦軍も杜撰ではなく、ジャミトフがどこにいるかといった情報は得られなかった。

 原作知識を当てにすればキリマンジャロなんだろうが、ここまで状況が違う世界でも同じようにそこにいるのかは分からない。

 

 

 また、ジャブロー陥落から間もなく、カラバのハヤト・コバヤシによる接触もあった。

 原作ならば、ジャブローを脱出したアウドムラに合流という形になっていたが、こちらだとエゥーゴはジャブローを制圧しているので、普通に着陸してもらい、こちらに合流している。

 彼は彼で、各地のカラバ拠点への連絡など、さまざまな作業に忙殺されている。

 

 

 さて、このジャブロー攻略戦だが、総括すると戦術的には成功、戦略的には失敗である。

 

 

 エゥーゴのスポンサーの面々は『ジャブローさえ落とせば宇宙のティターンズへの補給が無くなる』と考えていた。

 しかし、肝心のジャブローが空き家であった以上、基地を制圧したところで、スポンサーが期待していたようなティターンズの補給網への戦略的打撃にはならない。

 

 何も得る物がなかったとは言わない。

 『ジャブローを落とすほどの力がある』と大衆にアピールする程度の効果はあるだろう。

 だが、スポンサーの方々が当初期待していた戦略的効果は、それぐらいしか得られなかったと言っていい。

 

 虚しいことに、エゥーゴもカラバも、ジャブローを制圧できても施設を維持し続けられるだけの人員がいない。

 

 先ほど言った通り、この基地にいるエゥーゴの人員は、捕虜だったレコア少尉を除いたすべてがMSパイロットであり、それも総勢が100名程度しかいない。

 ジャブローを維持しようと思うなら、この20倍は人員が必要になる。

 それだけいても、運用区画を絞りに絞った、最低限度の維持しかできない。

 まともに軍事基地として運用するなら、さらに4倍――8000人程度の人員が必要になるだろう。

 ジャブローの広さは本当に桁が違ってる……。

 

 そもそも、このメンバーは宇宙のエゥーゴが苦しい人材事情から、辛うじて抽出した虎の子のパイロットたちであり、宇宙に帰さないという選択肢はない。

 そんなことをすると、後々になってエゥーゴ本隊がティターンズにすり潰されてしまう。

 

 かといって、カラバにもそんな人材の余裕はありはしない。

 

 原作TV版でも、ケネディ宇宙空港から脱出する際、ガルダ級航空空母スードリを置いていったぐらいだ。

 あのシーン、スードリを拿捕したブラン少佐が「スードリに残ったエゥーゴのMSを叩き出せ」とまで言っているので、スードリにはジムⅡだけでなく、普通にネモも残されていたと考えるのが自然だろう。

 

 急いでいたとはいえそれを置いていく?

 

 普通に、『エゥーゴのメンバーが一緒の時はギリギリ運用できたが、エゥーゴメンバーの大半が宇宙に上がってしまうと、ガルダ級2機を運用できるほどの人材の余裕がなくなった』と見るべきだろう。

 

 俺という異分子が加わって状況が多少変化しているとしても、基本的にはカラバにも人材の余裕はない。

 少なくとも、ジャブローを維持するための数千人もの人員など、とてもではないが捻出できはしない。

 

 そういった事情もあり、ジャブロー陥落早々、クワトロ大尉、ハヤト・コバヤシ、エマ中尉、アポリー中尉、ロベルト中尉、中尉になって階級が並んだ俺、そして何故か俺について来てなし崩し的に参加していたカミーユを交えてブリーフィングが行われた。

 その結果、遺憾ながらジャブローは放棄するという方向で決着がついた。

 

 

 基地の放棄が決定されると、次に必要なのは捕虜の処遇である。

 元からジャブロー基地の運営に残っていた連邦軍人、乗機を破壊されたティターンズのパイロット、戦いの趨勢が決し、多勢に無勢であると判断して投降したパイロット、すべて含めて3000人超。

 繰り返すようだがこちらの人員は100名前後である。

 

 現状では、捕虜は武装解除したうえで区画ごとに分散収容している。

 というか、それ以上のことができない。

 

 どうするかと皆が散々頭をひねらせた結果、『無条件で連邦基地に送り届ければいいのでは?』という結論に至った。

 どのみち、エゥーゴもジャブローから脱出する以上、足取りを辿られるのは喜ばしいことではない。

 ならばどうするか。

 

 格納庫から引っ張り出してきた複数機のミデア、そしてカラバでは運用しきれるだけの人員がいないスードリに、捕虜を満載して地球各地の連邦軍基地へオートパイロットで向かわせればいいという結論に至った。

 

 まあ、輸送機のコックピットから、オートパイロットを弄れないようにプログラムを組むのは俺なのであるが……。

 

 手動操縦へ切り替えられないよう、操縦系統の一部も物理的に無効化させているが、さすがにこれは手すきの他のメンバーにやらせている。

 一度飛び立ってしまえば、部品がない以上修理もできない。

 

 ジャブローからバラバラの航路で四方八方に飛び散っていく航空機群の中から、エゥーゴのアウドムラだけを狙い撃ちするのは、さすがに骨が折れることだろう。

 なお、万が一にも捕虜が撃墜されてはたまらないため、各種輸送機には「捕虜しか乗っておらず、連邦軍基地へオートパイロットで飛行している」旨を短距離通信で垂れ流しながら飛行していく仕様だ。

 捕虜は全員、ボディチェックを受けてから搭乗させるので、無線機器の持ち込みも不可能だ。

 

 そしてMSを使って機体の両側面に地球連邦軍のマークも塗っておけば、誤って撃墜されることもないだろう。

 

 なお、スードリは南大西洋を経由してアフリカ大陸に渡り、沿岸部を北上してヨーロッパの連邦軍ベルファスト基地に着陸するという、大回りルートを取らせる予定である。

 ベルファストに到着するまで大きく迂回させるため、そこからスードリを再編して追撃に回したとしても、アウドムラとの時間差は相当に開いているはずだ。

 

 そして、俺の発案だが『輸送機に乗せる捕虜は男女別を徹底』させた。

 輸送機に詰め込めるだけ詰め込む関係上、同性でまとめた方がいいだろうという理屈だが、若干の意図は込められている。

 ジェリド・メサ中尉が生存していた場合、マウアー・ファラオとの邂逅を阻止するためだ。

 

 ライラ大尉が現在も生存しているのかは知らないが、ジェリドが変に強化されてもエゥーゴとしては困る。

 マウアーの有能さを考慮すると、本来ならティターンズに入ることすら阻止したいのだが、所属しているジャブローのニュータイプ研究所自体がティターンズ傘下であり、この時点ですでに彼女もティターンズの一員なので断念した。

 

 

 3000人もの捕虜の中から1名を見つけ出してどうにかすることなど不可能なので、大雑把に性別で区分するしかない。

 ティターンズのMSパイロットに至っては、名乗った姓名が正しいものかどうかすら分かりはしないので、ジェリドやカクリコン――生きていればだが――を見つけ出すことも難しいだろう。

 

 まぁ、嫌がらせとしてティターンズのノーマルスーツを着用している捕虜も分散させているので、各基地で解放されたとしても、再結集には相当に手間がかかるはずだ。

 

 

 

 なお、カラバに譲渡する予定のエゥーゴのMSであるが、アウドムラ1機にはとても積み切れないため、ハヤト・コバヤシの手配でミデアに乗せて、各地のカラバの拠点にピストン輸送の真っ最中である。

 アウドムラほどの巨体ならさておき、ミデアならば隠れて進む分にはそれほどの危険性はない。

 原作の一年戦争でも、マチルダ・アジャン中尉がジオンの勢力圏内で、バレずにホワイトベースに補給を行えていたしな。

 

 そんなことを考えていたら、マジでカラバの輸送部隊の責任者がマチルダ・アジャンだった。

 ハヤト・コバヤシから紹介を受けたので当人で確定である。

 

 え、死んでないの?

 

 しかもマチルダ・マルデン大尉として紹介を受けたぞ。

 

 ……ウッディ大尉も生きとるやんけ。

 ご結婚おめでとうございます。

 ついでに大尉に昇進もおめでとうございます。

 面識自体はなかったので、心の中でひそかに祝っておくことにする。

 

 たしかに俺が盛大に介入したせいで、原作におけるホワイトベースの北アメリカ大陸降下からオデッサ会戦、そしてジャブロー戦に至るまでのタイムテーブルを無茶苦茶にしてしまった自覚はある。

 オデッサ戦とジャブロー戦なんて、見事に順番が入れ替わっている。

 

 だが、スレッガー中尉といい、ここまで原作で死亡している面々が生存しているとは思わねえよ。

 そう考えると、黒い三連星(あの兵隊ヤクザども)、結局戦果無しだったのか、南無……。

 

 正直びっくりしたが、輸送部隊の責任者として考えると、彼女の有能ぶりは知っている。

 各地とのピストン輸送は激務だろうけど、頑張って欲しい。

 レビルの派閥だったはずの彼女がカラバに在籍しているのは、やはりハヤトといったホワイトベース組の繋がりからなのかね?

 

 

 そうして、MSの輸送と同時に、ジャブローのデータベースを片っ端から漁り、残っているミデアはないかーと探していると、これまたとんでもないものを見つけてしまった。

 

 ガンダムNT-1 アレックス。

 

 なんでこんなところにあるんだ。

 お前バーニィに相討ちでぶっ壊されたんじゃないのか?*1

 

 一瞬そう考えたのだが、よく考えたらこいつの開発をしていたオーガスタ基地は、一年戦争時代に俺が壊滅させていたわ。

 残された情報を見る限り、それによって開発が遅れ、アムロ・レイにはガンダム高機動型が支給されたこともあり、ロールアウトした時には一年戦争は既に終結。

 アムロ以外、誰もフルスペックでは扱い切れないとも形容される操縦のピーキーさから、最低限の保守整備を受けながら、ジャブローの格納庫で今の今まで埃をかぶっていたと……。*2

 

 む、虚しい……。

 バーニィやサイクロプス隊が死んでいないかもしれないのは素直に喜ばしいが、MS乗りとしてアレックスが哀れすぎる。

 

 しかもロールアウトから7年も経った現在では、マグネット・コーティング処理も全天周囲モニターもリニアシートも、現行の新型MSでは珍しくもない技術になっている。

 総推力も174000kgと中々のように思えるが、こちらにはさらに頭がおかしい224000kgのガーベラがいる。

 

 さすがに基礎スペックの暴力から、ジムⅡやネモよりは強いかもしれないが、それも乗(・)り(・)こ(・)な(・)せ(・)れ(・)ば(・)の話だろう。

 この機体のピーキーさに追随できるのは、エゥーゴでは俺かクワトロ大尉しかいないだろうが、どちらもアレックスよりも未来の基礎技術で作られた専用機が支給されている。

 原作のクワトロ大尉の戦績も相まって、百式は弱いイメージの機体として見られることが多いのだが、さすがに推力や反応速度ではアレックスに劣るものの、ムーバブルフレームによる運動性においては従来の機体とは一線を画す優秀な機体なのであり、総合力ではアレックスよりも普通に強いのだ。

 ガーベラについてはアレックスと同様の立場にある、旧式技術の最高峰として作られた、いわば後輩のような機体ではあるが、一応の近代化改修を受けているため、純粋に上位互換と言える。

 

 使い道が……使い道がない。

 宇宙に上げてアナハイムの技術検証用に分解するぐらいしか、本気で使い道がないぞ。

 

 そんなことを考えていると、ジャブロー周辺の警戒に当たっていたカミーユのガンダムMk-Ⅱから連絡が入った。

 味方識別信号を発していないミデアが接近しているらしい。

 

 悩み事から逃避する気分転換も兼ねて、俺はガーベラに飛び乗った。

 カミーユと合流した俺は、問題のミデアの空路上で待ち伏せることにする。

 数分後、ミデアの反応と共に、若干の懐かしさを伴った感覚が全身を走った。

 

「カミーユ、銃口を下げろ。

 大丈夫、味方だ」

 

 Mk-Ⅱに通信し、レーダー上のミデアが目視できるまで待機する。

 見えてきたミデアが発光信号で誘導を求めてきたので、カミーユとともにジャブローの滑走路へと機体を翻しながら、俺は呟いた。

 

「だいぶ早い到着だな、アムロ・レイ」

 

 ボッシュが良い仕事をしてくれたと見える。

 

 どうやら、アレックスの使い道は決まりそうだ。

 あのミデアにMSが搭載されていたとしてもジムⅡが精々だろうし、アレックスの方がアムロには合っているだろう。

 とはいえ、7年もの技術差は如何ともしがたいだろうし、アナハイムにはアムロ用の新型を用意するようにせっついておく必要があるだろうがな。

 

 

 

 

 

 さかのぼること数日。

 

 エゥーゴのジャブロー襲撃の報を受けたアムロ・レイは合流の準備に忙しい日々を送っていた。

 元々、彼が軟禁同然に配属されていたシャイアン基地は、核攻撃に備えシャイアン山の地下に建造されており、左遷された将兵が管理するだけの場所でしかなかった。

 だが4年前、エルンスト・ヴァルツァーの手引きによってアムロの下にボッシュ・ウェラー少尉が配属されてからすべてが変わった。

 

 左遷先という、誰からも注目されない部署であることをボッシュは巧みに利用し、結成されたティターンズに反感を持つ人間、さらには軍籍を偽って連邦軍に入隊した元ジオン公国軍人*3といった、その後カラバと呼ばれるグループのメンバーを、少しずつ増やしていったのだ。

 

 元々の人員がごく少数でしかなかったシャイアン基地は、数年かけてカラバの地下拠点の1つへと変貌している。

 とはいえ、元が核シェルターとしての設備を備えた基地でしかないため、防衛設備があるわけでもない。

 

 精々が、連邦軍上層部がアムロの退屈しのぎにと手配した、2機のジムが配備されている程度である。

 よって、ジャブロー襲撃の報を受け、基地の人員はシャイアン基地を放棄し、カラバのハヤト・コバヤシに合流すべく情報収集や、輸送手段の手配といった仕事に追われていた。

 

 そんな日のこと、基地でジムの調整をしていたアムロに、自宅から連絡が入った。

 ハヤトの妻であるフラウ・コバヤシ――旧姓はフラウ・ボゥ、アムロの幼馴染である――そしてハヤト・フラウ夫妻の養子である、カツ、レツ、キッカの4人がアムロを訪ねてきたと。

 

 エゥーゴへの合流まで時間がないとはいえ、さすがに無視をするわけにもいかない。

 残りの調整をメカニックに任せて、アムロはボッシュの操縦する小型機で自宅へと戻ることにした。

 

 無論、自宅の人員もすべてカラバに賛同するメンバーである。

 エルンストが用意しておいた、連邦軍の人員データベースへのバックドアを使ったとはいえ、これだけの人員を揃えたボッシュの手際も相当に良い。

 元ジオン親衛隊出身という話も、あながち嘘ではないのだろう。

 

 そのボッシュとも、4年もの付き合いを通じて、既に友人のようなものである。

 共に過ごした時間ならば、ホワイトベースのメンバーよりも長いのだ。

 内縁関係*4にあるセイラ・マスが妊娠した際には、彼女を月面に避難させる手筈を整えてくれたのもボッシュである。

 彼から悪意が感じられなかったこともあり、アムロは既に彼を深く信頼していた。

 

 ボッシュの操縦する小型機が着陸し、格納庫にゆっくりと向かっている最中、アムロは滑走路の端に見知った顔を見つけた。

 来訪の知らせの通り、コバヤシ一家の4人が待っている。

 

「よく、来れたものだ」

 

 思わず呟いたアムロに、ボッシュが返した。

 

「まったくです。

 ハヤト・コバヤシがカラバに参加していることはすでに連邦に悟られているでしょうに。

 連邦内部も、よほど混乱しているようで」

 

 おそらくはその通りだとアムロも思う。

 でなければ、一応は軟禁されている――実情はまったく違っているが――自分のところに、家長がカラバに参加した一家がたどり着けるはずがないだろう。

 

 しかし、遥々訪ねてきてもらったが、自分たちは明後日にはここから離脱する予定である。

 一日程度しか歓待してあげられないのが心苦しい。

 そう感じたアムロは、ボッシュへと口を開いた。

 

「ボッシュ、すまないが彼らの航空券の手配を頼む」

 

「分かりました。

 連邦の目が及びにくいところとなると……日本あたりが妥当ですか」

 

 名目上、アムロの監視役として赴任しているボッシュならば、航空券の手配も比較的容易だろう。

 少なくとも、アムロ本人が手配するよりは確実だ。

 

「それで構わない。

 手間をかける」

 

 そして、ボッシュに頼んでいることは航空券の手配だけではない。

 

 カラバを経由してハヤトから、カツ本人がカラバへの参加を希望していることも聞かされていた。

 ボッシュにも同じ話は伝わっている。ならば、彼の適性を見ておく必要もあるだろう。

 

 停止した小型飛行機から降りたアムロに、フラウ・コバヤシが声をかけた。

 

「おかえりなさい」

 

「フラウ・コバヤシ!

 カツ、レツ、キッカも、よく来てくれた」

 

 アムロは彼らに近寄って、やあ、と手を上げる。

 

「壮健なようで何よりだよ」

 

「アムロもお変わりなく」

 

 そう言ったフラウだが、その体形から妊娠しているということが推測できた。

 ハヤトとの間の子に違いないだろうが、身重の身体でここまでやってくるとは無茶をするものだ。

 

「ありがとう。

 また、どうしてここに?」

 

「話したいことは山ほどあるわ。

 今夜はお邪魔させてもらえて?」

 

 幼馴染であり、かつての戦友であるフラウの一家を拒絶する理由はアムロにはない。

 事情から長い間会えていないが、彼にも内縁関係ではあるが妻子がいる身だ。

 身重の身体で、しかも子を連れてここまでくることの大変さは、ある程度ではあるが想像はつく。

 

「歓迎するよ。

 ボッシュ! すまないが飛行機を格納しておいてくれ」

 

 手を上げて了解の意を示すボッシュを視界の端に確認して、アムロはコバヤシ一家を自宅へと案内することにした。

 

 

 アムロの自宅にて、家政婦による紅茶や間食の提供を受けながら、とりとめもない話を挟みつつ、アムロとコバヤシ一家は旧交を温めていた。

 

 しばらく歓談した後、フラウの義息子の一人であるレツ・コバヤシが唐突に聞いてきた。

 

「なんでアムロさんはジャブローに行かないんですか?」

 

 いずれ、話題を振ってくるとは思っていたものの、さすがに直球過ぎる。

 アムロは内心で苦笑した。

 

 一応、公的にはアムロは監視付きでここに軟禁されている身だ。

 監視要員がすべて、ボッシュ、いや、エルンストの息のかかったメンバーに置き換わっているだけである。

 彼らは一応、全員がカラバのメンバーでもあるので、監視要員がすべてカラバに置き換わっていると言っても間違いではない。

 当然、先ほどまで室内にいた家政婦も、本来ならば連邦の監視員ということになっている。

 

 だが、その内実をコバヤシ一家が知っているはずはない。

 そう考えると、先ほどの発言は迂闊すぎるな。

 

 アムロはちょっとした警告の意も込めて、筆談で『自分が監視されている』と伝えることにした。

 監視はされているが、内容が連邦に報告されないだけなので、あながち間違ってはいないだろう。

 

 フラウが身重の身なのだ。

 子供たちにも、もう少し警戒心を持ってもらいたい。

 

 

 

 そう考えていたアムロであったが、その警告の重さまでは伝わらなかったらしい。

 

 夕食の後、庭をカツと散歩していたアムロは、そのカツに詰め寄られていた。

 

「父はジャブローの動きを知ってカラバの一員として支援に向かったんです、それなのにあなたは何故ここにいるんです?」

 

「僕はカラバという組織の事は知らないな」

 

 一応、すっ呆けてはみる。

 

「エゥーゴの事も?」

 

「報道されている程度ならね」

 

 カツは、ここが半ば敵地であるかもしれないと、分かっていないようだ。

 若い、いや、幼いなと思いながらアムロは返す。

 

「ならばカラバに参加するとか!

 アムロさん!」

 

 だから、監視役が周囲にいる中で大声で話すことではない。

 何のために最初に筆談をしたのかという話だ。

 

「僕のように後方にいるものがいなければ、君たちは逃げる所さえなかったんだよ?」

 

 諭してはみるが、カツの勢いは止まらない。

 

「逃げ込んだんじゃありません!

 母を守るために仕方なくここまで従ってきたんです!」

 

 それは逃げてきたのと実質的には同じだろう?

 そう思うアムロだが、どう諭したものかと考えている間にも、カツの勢いは止まらなかった。

 

 近くに来たフラウがたまらず制止するものの「母さんは黙ってて」と聞く耳を持たない。

 

「あなたはここの生活が無くなるのが怖くって、軍の言いなりになっているんでしょ?」

 

 やら、

 

「子供の僕にこうまで言われて平気なんですか!」

 

 やら、

 

「地球連邦政府の監視は緩んでいます!ほんとの事を言ってください!」*5

 

 やら――。

 

 さすがに限度を超えているかとアムロが思ったその時、彼らの背後から声がした。

 

「そこまでだ、カツ・コバヤシ君」

 

 そこには、カツに向けて銃を構えているボッシュがいた。

 とはいえアムロから見れば、その銃には安全装置がかかっていて撃てないのが分かるのであるが、軍人でないカツにそんなことが分かるはずもない。*6

 

「アムロ大尉が言っていただろう?

 監視されているってね」

 

 冷徹を装って告げたボッシュの言葉を受け、カツが殺意にも似た怒りを込めてこちらを睨む。

 

「アムロさん、僕らを売ったんですか!?」

 

 その言葉にボッシュが「何を言っているんだ?」と漏らす。

 おいおい、若干演技が剥げかかっているぞ。

 

「アムロ大尉がわざわざ警告してくれたのに、ペラペラといらんことをしゃべり続けた。君の蒔いた種だろう?」

 

 さすがに身に覚えがあったのか、カツは「ぐっ」と呻いて黙り込んだ。

 

「別に君が抵抗しようが構わんが、流れ弾は怖いぞ。

 君のご母堂に何もなければいいがな」

 

「き、貴様っ!」

 

 ボッシュの悪役っぷりも中々のものである。

 とはいえ、この場にはフラウ・コバヤシもいる。

 

 これ以上、彼女を怖がらせる必要もないだろう。

 そう判断したアムロは、ボッシュに声をかけた。 

 

「もういいボッシュ、十分だ」

 

 その言葉を受けたボッシュは、即座に銃をしまって敬礼を返した。

 

「はっ、了解しました」

 

「え?」

 

 あまりの展開に硬直するカツに対し、ボッシュは「ははは」と笑いかけた。

 

「演技だよ、カツ・コバヤシ君。

 私もカラバのメンバーだ。ハヤト・コバヤシから君のことも聞かされている」

 

 フラウは青ざめた顔でカツの傍に寄りながら、ボッシュを睨んでいた。

 演技だったと分かっても、さすがに笑って許せるようなものではないだろう。

 

「……そうなんですか?」

 

 うむ、と返すボッシュに対して、カツの態度や漏れ出る感情から、彼がこれを『悪質な悪ふざけ』だと考えていることがアムロには感じ取れた。

 だが彼には申し訳ないが、これは悪ふざけではない。

 

 これはカツ・コバヤシという人間の軍人としての適性を見る試験である。

 

 ボッシュがカツに告げる。

 

「だからこそ、少なくとも今の君を我々の部隊に同行させることはできない。

 エゥーゴへの参加についても、私は推薦できん」

 

 アムロから見ても、カツは残念ながら、先ほどまでの言動から機密保持・状況判断の試験には落ちていると判断せざるを得ない。

 少なくともアムロも含めたシャイアン組が、そのままカツを同行させることはない。

 仮に、カツが何とか独力でカラバに合流できたとしても、この評価を無視してまで、ハヤトがリーダー権限でカラバへの参加を認めるとは思えない。

 

 また、エゥーゴにはボッシュをシャイアンへ送り込んだエルンストがいる。

 彼がブレックス准将への直接のパイプを持っている以上、ボッシュが「推薦できない」と明確に不適格と判断した相手を、何の確認もなくエゥーゴへ推薦することもないだろう。

 

 その言葉に、カツは露骨にうろたえた。

 

「ど、どうしてですか!?」

 

「自覚がないのかね?

 先ほどアムロ大尉が監視されていると警告したのに、周囲を危険にさらすようなことをまくしたてていたじゃないか。

 その状況判断の甘さ、自制心のなさは軍人としては致命的だ。君が味方になるなど、とても容認はできん」

 

 まるで試験の採点官の講評のように、ボッシュがつらつらと理由を述べていく。

 さすが元ジオン親衛隊、手慣れたものだ。

 

「でも、それはアムロさんに奮起して欲しくて……」

 

「ここで『でも』と自分の行動を正当化しようとするのなら、余計に君は軍人になるべきではない。

 問題なのは『でも』という言葉そのものじゃない。

 自分の目的が正しかったことを理由に、自分が周囲を危険に晒した事実まで正当化しようとしていることだ」

 

 ピシャリと言い切るボッシュだが、アムロもそれには同意する。

 拳銃を突きつけられ、『ここにいるのが本当に連邦からのアムロへの監視人員ならどうなっていたか』を実演された上でこの言動だ。

 

 ボッシュが、カツを軍事組織に入れるには危ういと判断するのも仕方ない。

 

 一年戦争初期のホワイトベースのように、緊急避難的に民間人を戦力として使わざるを得ない状況なら話は別だろうが、カツは『自ら志望して』カラバやエゥーゴに入りたいという意志がある。

 ならば、その言葉は適性の無さを自ら示してしまうだけだ。

 

 ボッシュは冷徹に続ける。

 

「アムロ大尉に再起してもらいたい、その気持ちは理解できる。

 だが君は、そのために周囲がどうなるかということを一切考えなかった。

 守るべきご母堂が近くにいるというのに、彼女の制止を「黙ってろ」と一蹴していたな?」

 

 さすがに数分前のことだ。身に覚えのあるカツは、顔面を蒼白にして何も喋ることができない。

 ボッシュの声が静かに響く。

 

「君の行動が示している以上、私は君を戦場へ連れていくことには反対だし、エゥーゴへの参加についても同様だ。

 君は、自分の目的が正しいと思いさえすれば、命令無視も無断出撃も辞さないだろう。*7

 そう私には見える」

 

 そして、とボッシュは一呼吸した。

 

「その結果として血を流すのは我々だ。

 君が士官学校なり、正規の訓練課程を履修するのであれば、軍人として必要な規律や自制心を、教育によって後天的に身につけることも可能ではあるだろう。

 だが、今戦っている我々には、君を一から教育するだけの人員も時間的余裕もないのだ」

 

 言いたいことを全てボッシュに言われてしまったな。

 そうアムロは思った。

 

 カツにとっては、十分すぎるほど追い打ちをかけられた気分だろう。

 だが、『カツを死なせないため』にも、これは必要な措置だったとアムロも考えている。

 

 アムロはそろそろいいかと口を出すことにした。

 

「ボッシュ、もういい」

 

 その言葉を受け、ボッシュは能面のような無感情な表情から、即座に軍人としての表情に戻った。

 

「はっ、出すぎたことでした。

 カツ君、私も言いすぎた。申し訳ない」

 

 その言葉を受けても、カツはうなだれたまま微動だにしない。

 ショックが大きすぎたかな。

 

 アムロは少しそう考えたが、この話を締めるのは自分でなくてはならないだろう。

 ボッシュだけに憎まれ役を押し付けるのは、昔からカツを知る年長者としても、ハヤトの友人としても、そして何より、一人の子を持つ父親としても情けないからな。

 そしてアムロは口を開いた。

 

「だがねカツ、僕もボッシュと同意見だ。

 君はカラバやエゥーゴに入ってはいけない。

 君に勇気がないとは言わない。

 僕から見て、才能だってあると思う。

 でも、だからこそ、今のままの君を戦場に出したくない。

 君のその一途さは、いずれ周囲の誰かの命を奪いかねない。

 そして最後には、君自身が死人に足を引っ張られることになる」

 

 うなだれたカツからの反応はないものの、話を聞いているということまではアムロには分かった。

 

「お母さんを守ってやれ。

 それが今、君がしなくてはならないことだ。

 そして、君たちにしかできないことだ」

 

 そう言って、アムロはカツの肩を優しくポンと叩いた。

 

 カツはうなだれながら「はい」とうめくことしかできなかった。

 

 

 

 

 場所は再びジャブローへと戻る。

 

 アムロとボッシュ、並びにシャイアン基地に身分を偽装して潜伏していたカラバのMSパイロットたちは、無事にジャブローへと合流した。

 とはいえミデアに搭載されていたMSはジムが2機、戦力としては心もとない。

 カラバに譲渡するためのネモが大量にある以上、ジムはジャブローに放置していくしかないだろう。

 

 少々意外だったのは、ミデアにカツ・コバヤシが搭乗していなかったことだ。

 ハヤト・コバヤシも交えてシャイアン組と情報共有をしていた際、ハヤトがアムロに確認する声が、横にいた俺の耳にも入ってしまった。

 どうやら、ボッシュが同行にノーを突きつけたらしい。

 ハヤトは残念がってはいたが、個人的にはでかしたボッシュと言いたい。

 

 原作において、カツ・コバヤシというキャラクターは劇薬のようなキャラクターである。

 たしかに、何度かカミーユが死を覚悟するような場面で、その命を救う活躍もあった。

 ただ、それ以上に軍規を無視し、感情で行動することが多い。

 恋愛感情につけ込まれ、捕虜だったサラ・ザビアロフの逃亡を結果的に許した一件など、普通なら軍法会議にかけられてもおかしくない重大な規律違反だろう。

 

 この世界では、エフェメラ・ハント船長(シーマ・ガラハウ)のように、境遇の違いから性格が違っている可能性も考えたが、ボッシュの話を聞く限りでは大差なかったらしい。

 

 無論、俺がいる以上はそういうことをさせるつもりはなかったが。

 というか、個人的な感情を理由に出撃命令を拒否するような人間をパイロットに任命する気など最初からなかったので、いたとしてもカツは補給部隊などの後方勤務に回すように具申しただろう。

 

 まあ、いない以上、そういった手間が省けた。

 

 

 

 アムロにアレックスが渡され、その調整に1日を費やす中、エゥーゴは脱出の具体的な算段を整えていく。

 

 まず、カイ・シデンの伝手を使い、ジャブローの核自爆をティターンズが目論んでいたというニュースを、アングラを中心に発信した。

 この目的はエゥーゴの支持を広めるためだけではない。

 エゥーゴのメンバーにとってはそれが主目的だろうが、俺としては別の狙いもある。

 

 ジャミトフ・ハイマンの耳に、バスクの暴走についての情報を確実に届けるためだ。

 敵役であるティターンズのトップであるため誤解されがちではあるのだが、ジャミトフの最終目的は『地球人類を宇宙へ叩き出し、地球環境を回復させること』である。*8

 

 ジャミトフがティターンズのトップである以上、バスクの命令で核を自爆させようとしたことはすぐに調べが付く。

 そうなれば、ジャミトフはバスクを追及する可能性が出てくるだろう。

 スペースノイドを殲滅するために地球を核で汚すとは何事かとかでも構わないし、敵に解除されるような核自爆など、作戦設計が杜撰すぎるとかでも構わない。

 バスクを叱責してくれれば、その分だけバスクの――ティターンズの対処が遅れてくれる。

 前述した捕虜返還工作と合わせれば、ある程度の時間稼ぎにはなるはずだ。

 いささか希望的観測に基づいた展望であるが、やるだけならタダであり、別に上手くいかなくても支障があるわけでもない。

 

 

 捕虜を乗せたミデアとスードリの出発準備も、すでに整っている。

 

 対してエゥーゴの面々が搭乗したアウドムラは、ハヤト・コバヤシの手配の通り、北米へと向かいケネディ宇宙空港からシャトルでパイロットを上げる予定となっている。

 

 とはいえ原作と違い、MSを打ち上げられる貨物シャトルの確保は出来ていないらしい。

 となると、仮にブラン・ブルターク少佐の部隊が強襲をかけてきて、それを被害ゼロで退けたとしても俺やカミーユ、クワトロ大尉、アムロといった専用のMSがある面々は地球残留がほぼ確定である。

 特にスポンサー直々に「絶対に持ち帰れ」と言われたクワトロ大尉と俺は、どう足掻いても不可能だ。

 カミーユとアムロですら、「ガンダムを置いて地球から上がってきました」と言えば白い目で見られるだろう。

 

 原作のヒッコリーのエピソード*9のような場面で、全員が宇宙に上がれるならそれに越したことはないんだがなぁ。

 

 サイコ・ガンダム関連が気にならないわけでもないのだが、あれは元々拠点防衛用の巨大可変MAだ。

 単機で長距離追撃することを前提とした機体ではない。

 仮に俺たちがいなくても、アウドムラが離脱に徹した場合、単独で追い縋り続けるのは難しいだろう。

 

 なので、宇宙に戻れるのなら戻ってしまっても構わないだろう。

 

 

 

 そして、ジャブローの放棄が翌朝に迫った夜、俺とクワトロ大尉はカイ・シデンから呼び出しを受けた。

 要件は見当がつくが、ハヤト・コバヤシへの手紙じゃないんだな。

 いやまあ、現在のジャブローは出入りが極端に制限されているから、早々に姿をくらませるわけにもいかないのか。

 

 クワトロ大尉と共に、指定された場所へ向かう。

 そこにはカイ・シデンにハヤト・コバヤシ、そしてアムロ・レイが待っていた。

 

「来てもらって感謝する。

 エルンスト・ヴァルツァー、そしてシャア・アズナブル」

 

 そう、カイが告げた。

 

 

 なんだよこの一年戦争同窓会。

 

 

 カイからの要件は予想した通り、『なぜ本名を名乗って活動しないのか』だった。

 たしかに、原作のクワトロ・バジーナ大尉なら『シャアという名前から逃げている』と言われても否定できないだろうし、実際にそれでカイが憤る気持ちも分からなくはない。

 

 だが、この世界では前提条件が違う。

 

 まず、この世界ではシャア・アズナブルという名前に、原作ほどの反体制的な政治力はない。

 シャアはザビ家打倒どころか、ザビ家を誰一人として殺していない。

 その上、現在のジオン共和国首相ガルマ・ザビと正式に和解をしており、それはニュースとして報道されている。

 

 今のクワトロ大尉は『ダイクンの遺志を継ぐもの』ではない。それはガルマを指す言葉だ。

 個人的な事情で言うのならば、妻子がいる今のクワトロ大尉に『赤い彗星』という名(・)声(・)は邪魔でしかないというのもある。

 

 

 第2に、俺が公的に名乗ることにもそこまでの意味は無い。

 まず、一般に公表したところで、そう簡単には信じてもらえない。

 9歳当時の俺の顔を新聞で知っているジオン公国出身の人間ならば、「どこか面影があるな」程度に思ってくれるかもしれないが、『白銀』という存在を伝聞でしか、下手をすれば都市伝説としてしか知らない一般市民にとっては、連邦が俺の存在を公式に認めていないのもあって、『名前を騙った宣伝工作』と映るのがオチである。

 仮に信じてくれたとしても、俺の存在は『ジオン公国軍のトップエース』でしかないのだ。

 政治的にどんな意味を持たせろというのか。

 

 組織内部への影響としても、公に認めてしまうことで、エゥーゴやカラバに参加しているジオン出身のパイロットたちの戦意は上がるだろうが、逆に言うと連邦軍出身のパイロットたちには恐怖や反感を与えてしまう危険性もある。

 

 公表することの利点がとにかく薄い。

 

 エゥーゴの内部で「ケヴィン中尉、あの『白銀』なんだって」「マジで!?」といったうわさ話程度に扱われるぐらいがちょうどいいと思う。

 

 

 最後に、公表しても効果が薄い反面、ティターンズは目の色を変えてくるだろう。

 あの『赤い彗星』と『白銀』が所属しているのだ。エゥーゴはジオンの残党が地球を支配するための隠れ蓑に過ぎない。

 こうプロパガンダに利用されるのが目に見えている。

 

 痛いことに、エゥーゴにもカラバにも結構な割合のジオン出身者が隠れているため、プロパガンダと言いつつこの批判が割と当てはまってしまうのだ。

 

 現状、公表することへのメリットとデメリットがまったく釣り合っていない。

 

 今後、百歩譲って公表するタイミングがあるとしても、それは原作でのダカール演説後のような、エゥーゴへの支持がティターンズを圧倒したタイミングぐらいしかないだろう。

 まあ、ブレックス准将を暗殺させるつもりはないし、その結果としてのダカール演説も起こさせる気はないのだが。

 

 

 そういった事情を一から説明すると、カイ・シデンは納得してくれた。

 さすがジャーナリストといったところか。

 ティターンズ側のプロパガンダに利用されるといった危険性についてはとても理解が早い。

 

 なのでアムロ大尉も、俺のことはケヴィン中尉って呼べよ?

 お前、とっさのタイミングで俺たちをシャアやエルンストって呼んでくるからな。

 ここにいる事情を知っているメンバーや、正体に薄々感づいているジャブロー降下部隊の面々の前ならまだしも、第三者の前でいきなり『連邦の白い流星』に呼ばれたら、相手がビビるってレベルじゃないからな?

 

 

*1:
バーニィは生きています。

*2:
0080におけるアレックスのパイロット、クリスチーナ・マッケンジーは優秀なシューフィッター兼テストパイロットであるが、彼女ですらアレックスのポテンシャルを活かしきれていない。

*3:
クワトロ大尉と同じ手法。

*4:
籍も入れたかったのだが、連邦軍の目がまだ届いているシャイアンでは難しいと判断した。

*5:
すべて原作台詞準拠。アムロが筆談で「監視されている」と警告したのも原作描写なので、原作でコバヤシ一家が拘束されなかったのはある意味奇跡と判断していい。

*6:
原作でもクワトロ大尉から教えられるまで知らなかった。

*7:
実際に原作では、命令無視や無断出撃、出撃拒否、恋愛感情を抱いていた捕虜に騙され、結果的に逃亡を幇助する等といった問題行為のオンパレードである。

*8:
手段の違いこそあれ『全人類が宇宙に上がってコロニーで生活すべき』と主張するエゥーゴとは、ゴール地点はとても近い。

*9:
クワトロ大尉とカツ・コバヤシが宇宙に上がり、時間切れによってアムロ・レイとカミーユ・ビダンが地上に残った。






 読んでいただきありがとうございます。

 ジャブロー攻略戦の後始末云々と、アムロ合流がメインのエピソードになります。
 地味な描写が多くて申し訳ない。


・ジャブロー放棄

 元々これは考えておりました。
 落としたとしても施設の維持ができる人員じゃないんですよね。
 カラバの人員不足ですが、原作TV版でのスードリをケネディに置き去りにしたことと、スードリを鹵獲したブラン少佐の発言を根拠とした『スードリにエゥーゴのMSが残っている』という描写から、エゥーゴの人員が抜けた後はスードリまで継続運用できるだけの人員的余裕がなかったのでは、と判断しました。


・捕虜とマウアー出番キャンセル

 ライラ、ジェリド、マウアーの三角関係も面白そうではありますが、変にジェリドが強化されても困ってしまうとの判断でボッシュートです。
 ジェリドやカクリコンが生きているかについてですが、連邦軍人の捕虜が多すぎていちいち名前を照合していられないことと、ティターンズのMSパイロットが正直に名前を申告するかもわからないということから、名前も確認せずに、ティターンズのノーマルスーツを着用している捕虜はバラバラに収容している程度の対応です。

 カラバからの応援を加えても100人ちょいしかいないので、純粋にマンパワーが足りていない感じです。



・カツ・コバヤシについて

 該当箇所を読んで、気分を害された方がおられましたら申し訳ありません。
 自分としては、どうマイルドに描写してもこれが精一杯でした。

 無断出撃も、出撃拒否も、命令違反も、サラへの好意から警戒を解いて結果的に逃亡を許したのも、全部原作内の描写なので、どう擁護しても『少なくともこの時点で軍事組織の実戦部隊に入れちゃ駄目でしょ』という結論にしか……。
 カミーユと違って、カツの場合は独房に入れられたり、殴られたりしても態度が改まらないのでどうしようもないと言いますか……。

 そういうわけで、拙作でのカツ・コバヤシはここでフェードアウトになります。
 代わりにアムロとボッシュが戦線に加わりますのでどうか……。

 他のシャイアン基地メンバーはカラバとして地上で戦う感じです。
 彼らはアムロの教え子になりますので、相当強いんじゃないかなと。



・アレックス

 バタフライエフェクトですw
 1年戦争(16話)でエルンストがオーガスタ基地を陥落させた際にも言及しておりますが、アレックスの開発が遅れたせいでルビコン計画未発動です。
 バーニィさん?
 38話の新兵訓練でしごかれている中に入ってるんじゃないですかね?

 ということで、7年越しにアムロのもとへ。
 ただ、7年の技術差は如何ともしがたく、ガーベラもそうですが、後々パワー不足になっていくものと想定しております。

 スペックだけならとんでもないのですが、グリプス戦役後半からの機体は、ムーバブルフレームによるスペックだけでは表せない運動性が肝であると私は認識しておりますので、そのうちアレックスもガーベラもZガンダム本編での最終局面の百式のような機体になっていくと想定していただければw
 とはいえ、パイロットがパイロットなので、やろうと思えば最終局面まで粘れると思います。

 まあ、それまでに普通に乗り換えると思います。



・「今の私はクワトロ・バジーナ大尉だ。それ以上でも、それ以下でもない」

 キャンセルです。
 なのでそんな大人修正されないw

 元の名前を名乗らない理由がしっかりしているので、さすがにカイさんも「クワトロ大尉と共に行動することはできない」とは言わないと思います。
 実際、シャア名乗ったら奥さんと子供が割と大変ですからね。



 戦闘が起こらないくせに16000文字弱です。
 どんだけぇ……。

 とりあえず、次話から宇宙に戻るために頑張るケヴィン中尉の話になると思います(無事に帰れるとは言っていない)


 よろしければ、またお付き合いいただけますと幸いです。


 また、たまに現在の進捗状況や作品の裏話などをX(Twitter)で呟いています。興味がありましたら、覗いてみてもらえると嬉しいです。
 https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=336388&uid=14458

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