超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい   作:正樹

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なんとか書けましたので投稿します。


第75話 嫌な予感が……。

 

 5月18日、エゥーゴによるジャブロー制圧からちょうど一週間が経った日の夜明け前――。

 

 ジャブローから同時に、大量の航空機が離陸した。

 捕虜を乗せ、完全なオートパイロット設定にしたスードリ、並びに10機近いミデアが飛び立っていく。

 全機の離陸が完了したことを確認し、数十秒遅れでエゥーゴのメンバー全員を乗せて、アウドムラもジャブローを後にした。

 

 目指すは北方の北米大陸――ハヤト・コバヤシの指示によって、カラバに制圧されたケネディ宇宙空港である。

 ジャブローからの道程は約4000km、警戒しつつ飛行して10時間前後といったところだ。

 捕虜送還による攪乱効果も含めれば、組織だった追撃を受ける危険性は少ないだろう。

 

 もっとも、同じ北米大陸にブラン・ブルターク少佐の部隊が原作通りにいるとすれば、さすがに迎撃に来る可能性がある。

 ブラン少佐当人かは、一年戦争後の人員配置次第だろうが、仮に彼がいなくともオークランド基地に所属しているような、近い立ち位置の部隊が1つぐらいは迎撃に来るかもしれない。

 

 まあ、エゥーゴもそれを見越して、オークランド基地にも捕虜を満載したミデアの1機を向かわせている。

 一応、現時点ではオークランドのニュータイプ研究所はまだティターンズ側に回っておらず、一般的な連邦軍基地のひとつでしかないのだが、念のためである。*1

 自動操縦のミデアを確認して迎撃に上がってきたアッシマーが、ミデアから出ている短距離通信を受信したら、途端にミデアの護衛に回るわけだ。

 

 仮に、アウドムラに攻撃を仕掛けられるタイミングに、オークランドがティターンズ側に寝返ったとしても、航空関連施設は捕虜の受け入れでてんやわんやになっているだろう。

 なんせ、機密性の高いニュータイプ研究所を擁する基地だ。

 返還された連邦軍人が、何かの間違いで機密区画に入るようなことがあれば問題になる。

 スパイが紛れ込んでいないかの軍籍照合だけでも相当な時間と手間を取られるだろう。

 

 本腰を入れて俺たちを追撃できる余裕があるとは思えない。

 アウドムラに追撃をかけるとしても数時間単位の遅れが出る可能性は高いし、そうなったら俺たちはその数時間でケネディ宇宙空港からエゥーゴのパイロットたちを宇宙に帰すことができる。そうしたら後は逃げるだけだ。

 

 ついでに言うと、こちらでは、原作で彼らの移動拠点となるスードリは、アウドムラに随伴すらしていない。

 仮に攻撃があったとしても、攻撃を一度しのいでしまえば彼らにこちらを追撃する手段が無いため、原作よりもかなり楽になるはずだ。

 

 むしろ不確定性が高いのは、原作におけるブラン隊とのケネディでの戦闘の後に攻撃してくる、ロザミア・バダムの乗るギャプランの方だろう。

 原作で彼女の所属するオーガスタ研と、それに併設されているオーガスタ基地だが……俺が一年戦争の時に一度壊滅させている。

 戦後、基地と研究所は再建されたとは聞いたが、一度壊滅している以上、以前と同じ規模というわけにもいかず、その規模は縮小されているという話だ。

 

 そうなると、オーガスタ研にロザミアがいるのか、そして、ギャプランで攻撃を仕掛けてくるのかは全くの未知数である。

 ギャプランそのものは、主にオークランド研究所で開発されているので、存在はしていてもおかしくはないんだが……。*2

 これについては、来ても来なくても柔軟に対処するしかないだろう。

 

 そういった心づもりで、俺は数時間の空の旅を楽しんでいた。

 一年戦争時代にはガルマの副官として滞在し、デラーズ紛争の時にはアムロを訪ねた。

 北米には何かと縁が多いな。

 

 そんなことをぼんやりと考えていると、ボッシュに声をかけられて、彼が正式にアムロの下に就くことへの許可を求められた。

 別に俺の許可を得る必要もないとは思うのだが、彼曰く『けじめ』だそうだ。

 律儀な男である。

 

 なお、彼もアムロと一緒に宇宙に上がるつもりだそうだ。

 こいつアムロ慕い過ぎだろう。

 

 それはそうと、アムロが宇宙に上がるのは、妻子が月にいる以上、仕方がないことだとは思うが、それでカラバの戦力は大丈夫なのだろうか?

 そう思ってボッシュにそれとなくカラバの戦力について聞いてみたのだが、他にも優秀なパイロットたちが揃っているため、特に問題はないだろうということであった。

 

 あーー、これは俺がオデッサで逃がした将兵たちが潜伏していて、今になって合流してきたりしているのかもしれない。

 まあ、明らかに原作より規模が大きくなっているティターンズにも対抗できる程度の戦力を有しているのなら、問題はないだろう。

 

 俺はそう判断すると、アウドムラの格納庫を見に行くというボッシュと別れ、アウドムラのブリッジに向かうことにした。

 

 

 

 

 アウドムラは全長こそ317mと、アーガマの323mとさほど違いはないが、全幅はアーガマの124.1mに対して524mと、4倍強もある。

 その圧倒的なボリュームを活かした生活環境も整えられており、食堂や娯楽室を含めた居住スペースはおろか、非番の軍人用のバーまでもが設置されている。*3

 

 そのバーの一角で、アムロ・レイはクワトロ・バジーナ大尉(シャア・アズナブル)と並んでカウンターへと座っていた。

 とはいっても、いつ出撃があるかは分からないため、互いのグラスに入っているものはジンジャーエール(ノンアルコール)であったが。

 

 アムロはシャアが手に持ったグラスに、自分のグラスをカチンと合わせると、一口飲んで切り出した。

 

「エ……ケヴィン中尉だけでなく、あなたも地球圏に戻っていたとは思いませんでした。

 なぜ、地球圏に戻ってきたんです?」

 

 もしケヴィンがここにいれば、原作の同じセリフのニュアンスの違いに驚いたに違いない。

 原作では問い詰めるような口調であったが、ここでアムロが発した言葉は、純粋な疑問の様子を呈していた。

 同時に、この発言には若干の心配――「地球圏に戻ってきて大丈夫なのか?」という意思も込められている。

 

 それを感じたクワトロ大尉は、グラスに口を付けると、一言だけ返した。

 

「ララァが妊娠したのでな」

 

 それだけでアムロは察した。

 キャスバル・レム・ダイクンの子ども――シャア本人の気質も考えると、さぞアクシズ(遠方の小惑星)では育て辛いだろう。

 

「それは、おめでとうございます。

 ということは、クワトロ大尉も?」

 

「ああ、妻子持ちだ。

 付け加えるならば、私たち一家の隣にアルテイシアも子どもと暮らしている」

 

 アムロは意外そうな顔を一瞬した後、それもそうかと自分で納得した。

 

 エルンストの手引きでアムロの下に付いたボッシュが、伝手を通じて宇宙にセイラを逃がしてくれたのだ。

 その伝手はカラバとエゥーゴの筋だろうし、ならばそこにクワトロ大尉が介在しても不思議はない。*4

 

「そうでしたか……セイラさんのこと、ありがとうございます」

 

 アムロの感謝に、クワトロ大尉は笑いながら「構わないさ」と返した。

 

「私にとっても大切な妹だ。礼を言われるほどのことじゃない。

 宇宙に上がったら、久しぶりに顔を見せてやるといい。

 ララァとも育児仲間として仲良くしてくれているようだ」

 

「ええ、そうします」

 

 2人は同時にグラスへと口を付けた。

 

 そして数秒後、クワトロ大尉の「私のことは義兄(にい)さんと呼んでも構わんのだぞ?」という発言に、ジンジャーエールが気管に入ったアムロは盛大にむせた。

 

 

 

 

 途中にあるリラクゼーションルームで差し入れ用の飲み物をいくつか購入すると、俺はアウドムラのブリッジに辿り着いた。

 ブリッジの前には所在なさげに佇んでいるカミーユがいる。

 大方、ガンダムMk-Ⅱのチェックを終えてブリッジに来たのは良いものの、馴染みの顔がおらず、入っていいものかどうか躊躇していたのだろう。

 民間人協力者であるカミーユの立場を考えれば仕方ないか。

 

 俺はカミーユの肩を叩き、「俺と一緒に入っていいぞ」というニュアンスを出してブリッジに入り込んだ。

 

「ハヤト艦長、お疲れ様です。

 コース、分かりましたか?」

 

 俺はそう言いつつ、ハヤトや操縦士などのブリッジクルーに「差し入れです」と言って飲み物を配る。

 差し入れは偶然にも2本余ったので、1本をカミーユに渡して、残りは自分で飲ませてもらうことにする。

 

 ちなみにハヤトは俺の正体を既に知っているが、この場にいる俺はケヴィン中尉であり、ハヤトはアウドムラの艦長という立場上、階級こそ付いていないが実質的な地位は中佐に相当する。

 エゥーゴ以上にジオン出身者が多いカラバでは、ほとんど公然の秘密になってしまっているだろうが、一応混乱を招かないように、俺は丁寧語を使っている。

 

 まあ、一年戦争のテキサスコロニーで、カイ・シデンもろとも、自分の乗っていたガンキャノンを行動不能にされた相手に、臆することなく対応できるこの人の胆力も大したものであると思う。

 

 ハヤトは「ありがとう」と受け取ると、少し難しい顔をした。

 

「ケネディへのコース設定自体は問題ない。

 ただな――」

 

 そう言って、差し入れたコーヒーを一口。

 

「オークランドのニタ研*5がティターンズに回ったということだ」

 

 あーー、原作と同じくここでもオークランドはティターンズに回るのね。

 劇場版だと『吸収された』という強引なニュアンスの表現だったが、回ったということは自主的に寝返ったということだろう。

 

「それは面白くない知らせだな」

 

 ブリッジの入り口から声が響く。

 振り返ると、そこにはクワトロ大尉が立っていた。

 その後ろにアムロの姿も見える。

 

 先ほどまで旧交を温めていたというところだろう。

 そういえばこいつら、義理の兄弟でもあったな。

 

 そんなことを考えながら俺は口を開いた。

 

「一応、オークランドにも捕虜返還のためのミデアを1機飛ばしています。

 その受け入れがある以上、即座にオークランド基地からの追撃があるとは考えづらいですが――。

 なぜこのタイミングでオークランドはティターンズへ?」

 

 ジャブローで核が爆発しなかった以上、ティターンズの『エゥーゴが核でジャブローを破壊した』というプロパガンダは通用しない。

 

 そうなると、オークランド研究所がティターンズに寝返るにしてはタイミングが中途半端だ。

 最初からティターンズ寄りならばもっと早くにすり寄っていただろうし、そうでないなら、まだしばらくは中立を装って様子見を続けるのが自然だろう。

 

 その疑問はクワトロ大尉も持っていたようで「たしかにな」と呟いた。

 

 ハヤト艦長は「未確認の情報ではありますが」と断った上で続ける。

 

「レビル研の介入を受けて、オーガスタ研がオークランド研を説得したそうです」

 

 ん?

 

 ちょっと待て。

 なんか聞き覚えがあるが聞いたことはない、そんな矛盾した単語が聞こえた気がするぞ。

 

 俺は落ち着くために、コーヒーを一口飲んでから確認する。

 

「今、どこの介入を受けてと?」

 

「レ(・)ビ(・)ル(・)研(・)の(・)介(・)入(・)を(・)受(・)け(・)て(・)、です」

 

 そのハヤト艦長の言葉を受けて、クワトロ大尉も困惑している。

 

 そりゃそうだ。

 レビル研なんて単語、聞いたことがない。

 

 名前からしてレビル将軍が関わっていると思われるが、そのレビル将軍は俺がア・バオア・クーの戦いで抹殺している。

 残留思念という名の怨念までご立派だったので、あれで生存しているはずがない。

 

 クワトロ大尉もレビルが死んでいることは知っている。

 彼は少々、戸惑った様子で口を開いた。

 

「失礼だがハヤト艦長、我々はそのレビル研というものの名前を聞いたことがない。

 その名前はレビル将軍に由来しているものだと思うが、将軍はア・バオア・クーで戦死されたはずだ」

 

 ハヤト艦長は「でしょうね」と半ば苦笑交じりに返した。

 

「ここ数年、名前が聞かれるようになった研究所です。

 頻度はごくごく稀ですが、傍受した通信に名前が出たこともあります。

 場所も研究内容も謎に包まれているのですが、世界各地のニタ研に強い影響力を持っているのはたしかなようです。

 我々としては、一年戦争の英霊であるレビル将軍の名を使った、ニタ研の折衝・総括部門なのではないかと分析しています」

 

 そう言ったハヤト艦長の言葉には、たしかに一定の説得力がある。

 『研究所』と呼ばれている以上、何らかの組織実体は存在するはずだ。

 なのに、その居場所も研究内容も不明となると、研究所という名を冠した官僚的機構であると判断するのはごく自然なことだろう。

 

 クワトロ大尉はその言葉に一応の納得を見せた。

 アムロとカミーユは「そんなものもあるのか」程度の軽い表情で話を聞いている。

 まあ、彼らはニタ研についての知識がそこまでないだろうし、そういうものかと納得するしかないのだろう。

 

 だが、ア・バオア・クーでのレビルの妄執を眼前で体験した俺には、何か嫌な気配がまとわりついている気がしてならなかった。

 この予感が当たっていた場合、あのジジィは7年経っても俺に祟ってくることになる。

 

 頑固な汚れ過ぎんだろ……。

 

 

 

 

 しかし数時間後、拍子抜けするほど何事もなく、アウドムラはケネディ宇宙空港に到着した。

 

 気持ち悪いと感じるほどにエゥーゴのメンバーの帰還作業は進み、原作のような妨害攻撃もなかったため、エゥーゴは大半のパイロットを乗せたシャトルを宇宙に帰還させることができた。

 用意できていたシャトルはMS用のカーゴがない1隻のみだったが、原作TV版では2隻あったシャトルのうち、1隻が爆散していたということを考えればどうということもないだろう。

 

 残っている主なパイロットたちは、機体と一緒でないと宇宙に戻れない、俺、クワトロ大尉、カミーユ、アムロ大尉の4人のみである。

 ボッシュもエマ中尉たちと一緒に、先にアーガマへと上がっていった。

 宇宙用の機体への習熟期間も必要なので、仕方がないだろう。

 

 一応、彼にはブライト艦長とブレックス准将に宛てたメッセージを運んでもらっている。

 内容はレコア・ロンド少尉の心的外傷の疑いと、早急な診察・処置の必要性を述べたものだ。

 ロベルト中尉が戦死するどころか、アッシマーとの交戦すらも無い、あっさりとした展開である*6以上、小説版のようにレコア少尉がこの場でトラウマを克服することもないだろう。

 

 ゆっくり療養してくれマジで。

 

 

 シャトルを無事打ち上げた俺たちは、ケネディ宇宙空港を制圧していたカラバのスタッフを収容すると、もぬけの殻となったケネディを飛び立った。

 原作のような軋轢もなかったため、カイ・シデンも引き続きアウドムラに搭乗している。

 北米を脱出した後、適当な場所で降りて連邦軍やティターンズへの調査活動に復帰するとのことだ。

 

 アウドムラの次の目的地は北米西海岸のバンデンバーグ近郊にあるシャトル基地、ヒッコリーだ。

 この辺りの勢力図関係は、原作とさほど変わりないらしい。

 

 ただ、現時点で既にヒッコリーと連絡が付いているというのは、カラバというネットワークの底力を感じさせる。*7

 ハヤト艦長も「じきに迎えが来ます」と言っていた。

 ベルトーチカ・イルマでも来るのだろうか?

 

 まあ来たとしても既にアムロ・レイは妻子持ちであるため、本編Zガンダムの恋人関係は成立しないのではあるが……。

 ベルトーチカが、エマリー・オンスのような「相手に家庭があっても構わない」という厄介なスタンスを持ち合わせていないことを祈っておくか。

 

 そんなことを考えていると、アウドムラの艦内に警報が響き渡った。

 このままヒッコリーまで何も起こらないでくれるとありがたかったのだが、さすがにそうはいかなかったか。

 

 アウドムラのミノフスキーテリトリーに、複数の機体の侵入が確認されたことが艦内放送で流されると、即座にアウドムラは迎撃態勢に入る。

 とはいえ、ケネディでのシャトル打ち上げに妨害が入らなかった時点で、捕虜返還作戦は大成功だと言っていいだろう。

 

 すでにアムロ大尉を含めた俺たち4人は、それぞれ己の機体へと乗り込んでいる。

 エゥーゴから譲られたネモにも、カラバのパイロットたちが搭乗していく。

 ただ、3機のリック・ディアスについては、カラバ側で搭乗するパイロットが既に決まっているらしく、彼らが到着するまでは放置されていた。

 

 俺はガーベラを起動させると、アウドムラとのデータリンクを開始する。

 敵はかなり速い。

 アウドムラとの相対速度を考えると、これはギャプランだろうか?

 でも、それにしては複数機が確認されている。

 サブフライトシステム(ドダイ改)に乗ったハイザックなどを随伴していると、こんな速度は出せないはずだが……。

 

 ハヤト艦長の指示を受けて、俺とクワトロ大尉はそれぞれ1機のドダイ改へとMSを乗せる。

 アレックスという機体にまだ慣れていないアムロと、地上での戦闘経験がまだ浅いカミーユは2人で1つのドダイ改に搭乗し、カバーし合う形になった。

 残りのネモはアウドムラの格納庫から応戦という形になる。

 

 

 敵機が迎撃可能距離までもう少し、というタイミングで俺たちは機体をアウドムラから発進させる。

 数秒後に、機体のセンサーが敵機の姿を捉えた。

 

 やはりギャプランか。

 しかし5機もいるのは少々予想外ではある。

 

 こいつらは、原作通りにオーガスタから出撃したものなのだろうか。

 だが、原作よりも規模を縮小させているオーガスタ研究所に、5機ものギャプランとそのパイロットとなる5人もの強化人間を用意する力などあるのだろうか?

 この時期のギャプランは急激な方向転換のGに一般のパイロットが耐えきれず、強化人間でもなければその性能を活かしきれないはずなのだが……。

 

 

 そう考えながら、ガーベラのロングレンジ・ビームライフルの照準を合わせる。

 こちらに向かってくるギャプランとの相対速度なら、回避運動は間に合うまい。

 

 そう思って放った3連射であるが、残念ながらすべてが回避された。

 

 ――おかしい。

 

 ギャプラン部隊との交戦機動へと移り、俺はドダイを操作しながらも違和感を抱いた。

 先ほど避けられた攻撃は、殺気を可能な限り絞って放ったものだ。

 たとえ相手が強化人間であっても、3発をすべて回避するというのは、相手側の反応速度が高すぎる。

 

 そして、5機のギャプランの挙動にも違和感がある。

 おそらく、1機は『普通の強化人間』が乗っているのだろう。

 ただ純粋に強く、こちらの行動を先読みして撃破しようとする、戦いの意識が感じられる。

 

 この機体のパイロットがロザミア・バダムなのかは分からないが、こいつの相手はアムロ大尉とカミーユに任せることにした。

 手強い相手ではあるが、彼らならば対処は可能だろう。

 

 問題は残りの4機である。

 こいつらの挙動は、端的に言って異常だ。

 

 こちらが射撃する前に回避行動に入るのは――一般のパイロットからしてみれば発狂ものだろうが――まだ理解できる。

 俺もクワトロ大尉もアムロ大尉も、何なら無意識にはカミーユですら、殺気を読んで直前に回避するのは、ニュータイプの素養のある人間にとっては不可能ではない。

 いわゆる『後ろにも目をつけるんだ』というやつだ。

 

 しかし、こいつらはビームを撃(・)た(・)れ(・)て(・)か(・)ら(・)回避している。

 これだけ聞くと一般のパイロットたちと同じ挙動であるが、その反応速度がとにかく尋常じゃない。

 

 この世界のビームは、公式設定で言及されるような、亜光速というほどの速さでは飛んでいない。

 とはいえ、実体弾よりは遥かに弾速が速い。*8

 直撃するコースにいながら、ビームの発射を見てから回避するなど、人間の反応速度とは思えない。

 

 クワトロ大尉も敵の機動に困惑気味だ。

 

 それはそうだ。

 ただ単に、ビームライフルを回避されるだけならば分からなくはない。

 

 ランダム回避の結果、こちらの射撃を回避されることなど、運動性が増したこの時代のMSにおいてはよくあることだ。

 ニュータイプ相手ならば、こちらが撃つ前に回避行動を取られても、互いの読み合いの結果だと理解はできる。

 

 だが、機動自体はひたすら素直なのに、撃たれた瞬間に超反応で回避する――こんな回避のされ方は、気持ち悪さが半端じゃない。

 

 しかも、回避行動の鋭さに反して、攻撃行動がお粗末なのもあって、余計にちぐはぐな印象を受ける。

 一応、お粗末とは言ったが射撃は正確だ。

 回避機動の甘い一般のパイロットなら、なすすべもなく撃墜されているだろう。

 

 だが、正確過ぎる。

 

 こちらのランダムな回避機動を予測して射撃をしてくるといったことがない。

 もっと言うと、感じられる殺気すら非常に薄い。

 

 攻防のバランスがまるで釣り合っていない。

 体感的に、俺たちが何を相手にしているのかが分からない。

 

 俺はロングレンジ・ビームライフルからビームマシンガンへと武装を切り替えると、回避先に別のビームが待ち構えるよう、相手の回避方向を誘導しながら弾幕を形成することにした。

 相手の正体が分からない以上、ビームライフルの単体射撃では効果が薄い。

 逃げ場を塞ぎ、そこに一撃を加えていくしかないだろう。

 

 さすがに回避機動を弾幕で制限される形になると、すべてを回避し切るのは無理なようだ。

 撃墜には至らなかったものの、敵機に数発の被弾が認められた。

 撃墜するつもりで罠をはったのだが、そのギャプランは進行方向とほぼ真逆の方向へ加速をかけて、強引に離脱した。

 

 明らかにおかしい。

 

 あれは強化人間であっても、心肺機能にダメージが出かねない機動だ。

 それ以上に、あんな機動を繰り返していれば、いずれ機体のフレームそのものにもダメージがくる。

 

 強化人間というものが、被験者本人の命をほとんど顧みない運用をされていることは知っているが、人的資源という側面からすると明らかに釣り合っていない。

 冷徹な物の言い方だが、強化人間の製作費はそこそこお高い。

 原作において、フォウ・ムラサメやロザミア・バダムを使い回し続けたのは、新しく強化人間を作るのに洒落にならない費用がかかることも、一因だろう。

 このような使い潰す運用をしていれば、研究所の予算などすぐに枯渇するだろう。

 普通に考えるとありえない。

 

 機体の扱いからすら『勝利できるならば失っても構わない』という運用上の意図を感じる――。

 

 うん?

 

 ここまで考えた末に、俺はとある既視感を覚えた。

 コンビネーションのパターンも、機体の反応速度も、俺の知るそ(・)れ(・)とは明らかに隔絶している。

 

 だが、このコ(・)ン(・)セ(・)プ(・)ト(・)には見覚えがある。

 ……ひとつ、試してみるか。

 

 俺は、ギャプランと交差する瞬間にドダイからガーベラをジャンプさせた。

 そのまま、ガーベラのバーニアとスラスターを全開にしてギャプランに肉薄する――ガーベラの推力を舐めんな。

 一(・)瞬(・)硬(・)直(・)し(・)た(・)ギャプランに、俺はビームサーベルを引き抜き、奴の推進機に突き立てた。

 

 離脱するガーベラに蹴り飛ばされたギャプランは、誘爆を繰り返しながら墜落していく。

 

 ――似ている。

 

 思い至った途端、その類似点が次々に見えてくる。

 まるで機械のような反応性、パイロットや機体のことも無視した勝利――いや、敵機体の撃破への執着。

 

 そして――高速機動戦用のギャプランに対し、肉薄されての格闘戦を挑まれると思っていないが故の一瞬の硬直。

 

 俺はガーベラをドダイに着地させながら、呻くように呟いた。

 

「……ペイルライダー」

 

 7年の時を経て、一年戦争の怨念が再び顔を出そうとしていた。

 

 

 

 ペイルライダー計画。

 元は、一年戦争時に地球連邦軍が立案したモビルスーツの開発計画の1つである。

 その肝は、ジオンから亡命したクルスト・モーゼスによりもたらされた『EXAMシステム』を元に、オーガスタ研究所が独自に開発した戦闘用オペレーティング・システム『HADES』を搭載した次世代型MSの開発だ。

 

 MSに疑似的なニュータイプ挙動をさせようとした『EXAM』に対し、『HADES』はパイロットを制御システムの一部として扱い、システムが演算した最適解を強制的にパイロットへとフィードバックさせる……早い話が宇宙世紀版のゼロシステムだ。

 搭乗するパイロットには、『HADES』が要求する機動へ追従するため人為的な身体強化が施され、神経伝達の向上を促す薬品も投与され、おまけにシステムに従順になるための思考鈍麻処置なども施された。

 

 原作において、その計画の完成形であるペイルライダーは1機のみが製造され、ア・バオア・クーの戦いに投入された。

 そしてその機体は、ジオンのマルコシアス隊との激闘の末、パイロットであるクロエ・クローチェと共に彼らに鹵獲され、『HADES』は連邦の手から失われた。

 

 それが本来の歴史である。

 だが、この世界におけるペイルライダー計画にはいくつかの分岐点があった。

 

 まずは、俺が一年戦争で、ペイルライダーが製造されるはずのオーガスタ基地を壊滅させたこと。

 これで開発が頓挫してくれれば最上だったのだが……。

 

 次に、その計画がレビル将軍の目に留まったこと。

 最後に、ギレン・ザビの人類優性思想の象徴であるとエルンスト・ヴァルツァー(俺)を認識したレビル将軍が、ギレンの思想ごと俺を否定するための手段としてペイルライダーを採用したことだ。

 

 それによって、レビル派の高官であるグレイヴ個人によるプロジェクトの1つでしかなかったはずのペイルライダー計画は、レビル将軍肝いりの計画へと躍進した。

 HADESも、正史ではペイルライダー自体が1機しかおらず、その1機も前述の通り、ア・バオア・クーの戦いで行方不明となり、連邦軍にとっては事実上失われるはずだった技術だ。*9

 

 だがこの世界では、レビルの手によって梃入れされた結果、ア・バオア・クーの戦いで少なくとも3機の存在が確認されている。

 まあ、その3機をぶっ壊したのは俺であるが。

 俺は確認していないが、マルコシアス隊が本来の1機――クロエ・クローチェ機と交戦していたのならば、4機が現存していたということになる。

 

 つまり……少数ながら、すでに複数機のペイルライダー(HADES搭載機)を製造できる段階には達していた。

 だから、連邦に『HADES』の製造技術が残っていたとしても不思議ではない。

 

 ――不思議ではないのだが、一番の計画推進者であるレビル将軍が戦死してなお、この狂気の計画を維持し続ける連中(アホ)がいたとはにわかには信じがたい。

 

 ペイルライダー計画において、パイロットは基本、使い捨ての消耗部品である。

 人的資源を容赦なく食い潰していく以上、強化人間並にコスパが悪いと言える。

 

 色々な意味で信じられないのだが、実機が目の前に立ちふさがる以上、現実として認めるしかないだろう。

 敵の正体に思い至った俺は、通信機のスイッチを入れて叫んだ。

 

「クワトロ大尉、こいつらは人(・)形(・)だ!」

 

 ア・バオア・クーで俺がペイルライダーと戦ったことを以前から聞いていたクワトロ大尉はすぐに察した。

 

「人形……!?

 道理で人と思えない挙動をするっ!」

 

 相手の気持ち悪い対応の理由もわかった以上、幾分かはやりやすいはずだ。

 だが、それで状況がすぐさま逆転できるかと言えばそうでもない。

 

 ここが地球上の空中戦であり、相手がギャプランであるというのは、それだけでかなりの不利な状況だと言える。

 ドダイとの機動力の差は、それだけで中々のハンデだ。

 

 先ほどは交差する際にガーベラの機動力に物をいわせて強引に撃墜したが、そう頻繁に取れる戦術でもない。

 何より、相手がペイルライダーの現代版であるとするなら、何度も同じことを繰り返していれば学習される危険性も出てくるだろう。

 この場で全機を撃墜すれば済む話ではあるが、逃げられた時のことを考えると、さすがに躊躇してしまう。

 

 そう考えながら、アムロとカミーユのコンビに目を向ける。

 そちらは強化人間の乗るギャプランに対し、不利ではないものの攻めきれないといった感じだった。

 

 まあ無理もないだろう。

 アムロの乗っているNT-1アレックスは、一年戦争のオーパーツとも言われるべき機体だが、それでもロールアウトからすでに7年の時が経過した機体だ。

 

 過敏すぎるとまで形容された反応速度に加えて、それを十全に活かせるアムロが操縦している限り、たとえギャプランといえどもアレックスを落とすことは難しい。

 だが、逆にアレックスにもギャプランを撃墜するだけの決め手が足りない。

 アレックスの装備は、当時のまま――そう、主武装は7年前のビームライフルである。

 

 グリプス戦役期の最新型と比べれば、さすがに武装の世代差は否めない。

 腕部コネクタの交換などの処置を施す暇も材料も無かったため、ネモのライフルを流用することすら難しい。

 しかもビームが減衰しやすい大気圏内の戦闘だ。

 遠距離から一発当てただけで、ギャプランを確実に仕留められるかと言えば厳しい。

 

 そして、これが最大の難点であるのだが……アレックスのセンサー性能が低い。

 アレックスのセンサー有効半径は5900m、ガンダムMk-Ⅱの11300m、百式の11200mと比べると約半分だ。

 ちなみに、ガーベラも4年前の旧式ではあるのだが、こちらはロールアウト時に改修が施されており、センサー類は百式のものと同等になっている。

 強化人間の乗ったギャプラン相手では、アレックスのセンサー有効距離など、たった数秒で圏外へ抜けてしまう。

 

 アムロのニュータイプ能力なら、相手の攻撃を先読みしてかわすことは容易だろう。

 移動するギャプランに照準を合わせるのはさすがに難度が高い。

 殺気を感じて来る方向が分かっていても、コックピットのモニターが認識すらしない距離から、それに照準を合わせるというのはなぁ……。

 

 それをアムロも理解しているのだろう。

 アムロは牽制に徹しており、攻撃はカミーユのガンダムMk-Ⅱが担っている。

 アムロからの指示も飛んでおり、カミーユもそれを吸収して大気圏内の空中戦のコツをモノにしつつある。

 

 多少時間はかかるだろうが、撃墜されるのは相手の方だろう。

 アムロたちを無視してアウドムラを攻撃しようとしても、その挙動を見逃すアムロではない。

 結果的に、敵を釘付けにしつつアウドムラの防衛も果たすという点から見れば、現状の戦力では最良と言える。

 

 ここにZガンダムが1機でもあれば、かなり楽だったろうが、無いものねだりをしても始まらないしな。

 となると、残る3機のペイルライダー型のギャプランをどう処理したものか……。

 

 クワトロ大尉との連携で、1機ずつ虚を突いて削っていくしか現状では思い浮かばない。

 

 負けるとは思ってはいないが、少々長丁場になりそうだ。

 敵のアッシマーの増援とかが来ないと良いのだが……。

 

 そんなことを考えていると、クワトロ大尉の撃ったビームライフルを避けたギャプランの1機に、別方向からのメガ粒子砲が突き刺さった。

 完全に予想外だった方向からの一撃に、ギャプランは爆散する。

 

 ビームライフルの一射を避け、回避機動を終えた直後の敵機に予想外の方向からの偏差射撃――いい腕をしているが、あんな方向に味方機は展開していないはず。

 

 レーダーに目を向けると、かなりの速度で接近してくる反応が2つ。

 

 速いな。

 マッハ5程度……ギャプランに引けを取らないぐらいの速度はあるぞ。

 

 そう思いながら、所属不明機からの次なる攻撃をかわしたギャプランをロングレンジ・ビームライフルで狙撃する。

 強引すぎる機動変更で、それも避けたギャプランだったが、それは想定通り。

 その位置に避けることを読んでいた百式のビームライフルの直撃を受け、3機目のギャプランが落ちた。

 

 これで残るペイルライダー型のギャプランは1機だが……。

 ようやく視認できる距離まで近づいた、所属不明機――まあ十中八九友軍だろうが――に視線を移す。

 

 モニターに映ったのは、懐かしいフォルムが2つ。

 重力下仕様に改修されているのか、細部が自分の記憶と違っている気がするが、一年戦争において、MSと互角以上に戦えた数少ない戦闘機。

 

 俺は思わず呟いた。

 

「コア・ブースターかよ」

 

 コア・ブースターとギャプランの戦場。

 ここは『ジョニー・ライデンの帰還』だった?

 

 いやいやいやいや……。

 

 あれは宇宙世紀0090年(3年後)の出来事だし、この世界のジョニー・ライデンは現在、ジオン共和国軍で元気にMS部隊の隊長をやっているはずだ。

 そもそもザビ家の復讐装置(アスタロス)自体、俺とガルマが念入りに焼却した上、ミナレットは現在アクシズと共に火星圏の向こう側だ。

 ジョニ帰が始まる余地はない。

 

 いかんいかん。

 さすがの展開に少し混乱しているな。

 

 コア・ブースターから通信が入る。

 エゥーゴ、カラバの共通使用帯域だ。

 

「こちらカラバのスレッガー・ロウ大尉だ。

 アウドムラとそこに居候しているエゥーゴのパイロットたち、援護は任せてくれよ」

 

 続いてもう1機からの通信も響く。

 

「同じくリュウ・ホセイ中尉だ。

 ヒッコリーへのエスコートは任せてくれ」

 

 ハヤト艦長の言ってた迎えってお前らかよ!

 

 本当に一年戦争同窓会だった。

 なんでこの戦場に、俺、シャア、アムロ、ハヤト、カイ、スレッガー、リュウと揃ってんだよ。

 

 むしろ、なんでここまでしてブライトいねぇんだよ。*10

 

 

 

 

 2機のコア・ブースターが合流してからは早かった。

 強化人間が搭乗していたであろうギャプランは、2機目のペイルライダー型のギャプランが落とされた直後に離脱行動に入っており、3機目が落とされた際には既にセンサー範囲からも離脱していた。

 残った1機のペイルライダー型は、さすが機械制御というべきか、6対1という絶望的な戦力差となっても引くことを選択せず、あえなく撃墜されることとなった。

 

 そのことに、若干疑問が残っている。

 

 監督している上位存在からの命令があれば、ペイルライダーとて退却行動は取れたはずだ。

 俺が敵ならば、今回得られたアウドムラとの戦闘データをむざむざ失うのは惜しいと考える。

 最初はあの強化人間がリーダー機なのかと思っていたのだが、離脱の際にペイルライダーは一切の援護行動を取らなかった。

 ひょっとすると、『ただ目標が同じだから同行していた』というだけの別のプロジェクトだったりするのだろうか?

 

「いよう、アムロ大尉。

 もう坊主とは呼べないな」

 

「スレッガー大尉こそお元気そうで。

 リュウさんもよく来てくれました」

 

「俺もまた会えて嬉しいよアムロ。

 しかし、意図せずにホワイトベース隊がこんなに集まるとはな」

 

「まったくだよ。ハヤトとアムロだけでも同窓会かよって思ってたのにさ」

 

「ははは、しかしカイの言うことももっともです。

 ブライトさんを含めて、ホワイトベース隊の主要メンバーの多くがエゥーゴかカラバに参加している。

 連邦政府がどれだけ俺たちを恐れ、封じ込めようとしてきたかの証左でしょう。

 俺も戦争博物館の館長なんて閑職に押し込まれてましたしね」

 

 集結したホワイトベース組が、同窓会のように盛り上がっている中、ガーベラのコックピットから出た俺は無言で考えていた。

 さすがに原作と展開が違いすぎる上に、情報も無いために考えがうまくまとまらない。

 すべてが仮定の上に仮定を重ねた、推論とすら言えない空想しか頭に浮かばないな。

 

「やはり、あれが気になるのか?」

 

 俺に声をかけてきたのはクワトロ大尉だ。

 この場で、ア・バオア・クーに現れたペイルライダーについて知っているのは俺と彼だけなので、俺が考えていることにも思い当たったのだろう。

 

「ああ、レビルの妄執が詰まったあの機体(ペイルライダー)と今更再会するとは思わなかった。

 それに――」

 

「レビル研か?」

 

 クワトロ大尉の言葉に俺は頷いた。

 自意識過剰であると言われれば否定はできない。

 だが……。

 

「このタイミングで、俺を殺すためにあの計画を推進したレビルの名前を冠した研究所。

 偶然とは思えん」

 

 エゥーゴのパイロットとして、名を隠しながらではあるが、表舞台に再び俺が出てきたタイミングでこれだ。

 そもそも向こうがケヴィン・コナーとエルンスト・ヴァルツァー(白銀)を同一人物だと把握している証拠すらない。

 

 しかし、それでも気持ち悪さが半端ない。

 

「たしかにな」

 

 肯定するクワトロ大尉。

 奇妙な沈黙のまま数秒が経ち、俺は意を決して口を開いた。

 

「なあ、クワトロ大尉」

 

 それを読んでいたかのように、クワトロ大尉は微笑を浮かべた。

 

「地球に残りたいのだろう?」

 

「……わかるか?」

 

「わかるさ。

 あれが、君が7年前に意図せず残してしまった負の遺産かもしれないというのなら、それを私は尊重しよう。

 だが君(・)の(・)上(・)官(・)と(・)し(・)て(・)、許せるのはレビル研の調査までだ。

 それを解決するのはカラバであり、我々エゥーゴであるべきだ」

 

 あくまで調査に留めて、1人でレビル研をなんとかしようとするな、か。

 

「ありがとう。

 調査に留めるし、ある程度調べたらちゃんと宇宙に戻る」

 

 友人の心遣いに素直に感謝を述べておく。

 

 そもそも、カラバですら名前しか聞いたことのない正体不明の『研究所』だ。

 一朝一夕で見つかるとも思えないし、その足跡だけでも辿れれば今は十分だと考えるべきだろう。

 

 オークランドの転向にレビル研が介入したという話が事実であり、今回のギャプラン部隊にもレビル研が関与しているという俺の推測が正しければ、少なくともティターンズ寄りの組織である可能性は高い。

 そうなると、差し当たって調査の足掛かりになりそうなのは、ニューギニアに建設中のティターンズ基地か、あるいは日本のムラサメ研究所あたりだろう。

 

 オークランドに攻め入るのは現実的ではないな。

 アウドムラが北米にいるとバレている以上、袋叩きに遭う危険性が高い。

 

「それと、カミーユを地上に残す。

 君が面倒を見てやるといい」

 

 クワトロ大尉の申し出に、俺は「いいのか?」と返した。

 たしかにカミーユにとって、地球での経験はまたとない糧になるだろう。

 だが、アーガマにとってガンダムMk-Ⅱとカミーユが貴重な戦力になることもまた事実だ。

 

「いかに君とはいえ、エゥーゴから君1人だけを地球に残していくわけにはいかんよ。

 アムロ君は妻子に会わせてやる必要があるだろうし、残れるとしたらカミーユしかいない」

 

 クワトロ大尉の言い分に、俺はそれはそうだと納得した。

 

 単純な消去法である。

 まず、クワトロ大尉が地上に残るのはなしだ。

 エゥーゴとしては、俺かクワトロ大尉のどちらかは可能な限り速やかに宇宙に戻ってもらいたいと考えているだろう。

 前述の理由から、アムロも宇宙に上げなければならない――付け加えると、センサー類とライフルだけでもなんとかしないとアレックスは辛いだろうが、アウドムラではそれは無理だ。

 

 と、すると残っても問題がないのはカミーユだけということになる。

 

「一応、こちらでもカミーユに地上に残るように頼んでおく」

 

 俺はそう答えておく。

 

 さすがにカミーユには残ってもらう立場だ。

 こちらが頭を下げておく必要はあるだろう。

 

「了解した。

 エゥーゴの上の連中も、カラバに供与したMSの運用支援とパイロット教育という名目ならば、うるさいことは言わないだろう」

 

 リック・ディアスには試運転や模擬戦で数回しか乗ったことがないんだが、まあ仕方ないか。

 しかし、2機にスレッガー大尉とリュウ中尉が乗るとして、残る1機は……まさかハヤト艦長か?

 

 アムロに鍛えられたシャイアン出身のネモ隊も加味して考えると、アウドムラの戦力も割と凄いことになってくるな。

*1:
原作でもオークランドのニュータイプ研究所が明確に敵に回るのは、ジャブロー自爆後にケネディに向かう途上。

*2:
設計に用いられた基礎データがオーガスタ研からで、開発は主にオークランド研究所という設定。ただし資料によってオーガスタとの共同開発・関与の表記もある。

*3:
成層圏プラットフォーム機能を有しているため、本来の運用法では常駐する人員が必要であり、彼らのために用意されたもの。

*4:
正確にはクワトロ大尉は住居には関与していない。事情を知ったアナハイムが勝手に気を利かせた。ただし、セイラは育児がある以上、本格的な就職が難しく、連邦に辿られる危険性からアムロの給与にも手を付けるわけにもいかなかったため、生活支援という面ではクワトロ大尉はかなり援助している。

*5:
ニュータイプ研究所の略。

*6:
当のブラン少佐は現在、大量の返還された捕虜がおかしな真似をしないか、アッシマーのコックピットから監視するという業務に忙殺されている。

*7:
本当は北米大陸におけるガルマ効果。とにかく隠れジオンシンパが多くなっている。

*8:
メガ粒子砲については亜光速とする設定が存在する一方、映像作品ではそれより明らかに遅い速度で描写されることがある。本作では映像描写を優先。『逆襲のシャア』でも、レズン・シュナイダーが機影を確認できない遠距離からνガンダムに狙撃され、そのビーム射撃に対応する描写が存在する。

*9:
鹵獲されたペイルライダー自体は、ネオ・ジオンによってトーリスリッターに改造されて使い続けられた。なお、ブラックボックスであったHADESは、根幹部分の解析・再現には至らなかった。

*10:
理不尽。





 読んでいただきありがとうございます。


 ジャブロー脱出からの云々となりました。
 また、ようやく一年戦争からの本作最大級のバタフライ効果を出せました。



・ブラン少佐出番キャンセル


 まあ、ブラン少佐の出番を知っていれば、これぐらいのハラスメントはしておくでしょう。
 アッシマーだけだと、逃げに徹したアウドムラは追えない上に、移動拠点になるスードリは今頃大西洋の向こうです。

 大人しく捕虜の監視業務やっててどうぞ。



・レビル研、ギャプラン、ペイルライダー・ギャプランについて


 まあ、こんな感じです(笑)

 一年戦争編でペイルライダーを複数機出した時点で、これは考えておりました。
 レビル研の正体については作中で追々語っていけると思いますが、主人公にとっては「あの糞爺」と百回連呼しても多分足りない。

 多分「無理してでも、あの時オデッサで殺っておけば」とか思ってそう。

 ペイルライダー・ギャプランの戦闘機動の異常性を描写するのが難産でした。
 うまく描写できていればいいのですが……。

 7年も経っているので、機体性能もシステムも、原型となったペイルライダーより相当進歩しているという設定で書いています。
 イメージとしては、初登場の頃のモビルドール・トーラスみたいな感じで書いてました。

 あいつ射撃避けすぎなんだよ。

 おかしい、HADESは本来ゼロシステムに近かったはず……。


 強化人間の乗ったギャプランについては、わざわざ変える意味も薄いので、原作通りロザミアを想定しています。

 ちなみに、アレックスは宇宙で改修されたら準ガーベラ級にはなれると思います。
 むしろ、そのままのアレックスでギャプランと勝負になっているアムロがおかしいんだ。

 カミーユも隠れてどんどん経験値を積んでいる模様。



・ホワイトベース同窓会


 女性陣とブライト艦長がハブられているけど、実質同窓会。

 ジョブ・ジョン?
 ああ、いましたねそんな人()

 アムロと4年間模擬戦していたシャイアン組に加えて、リック・ディアスが3機(原作だと1機)、さらにスレッガー、リュウと加わっているので、アムロが抜けても総合的にはカラバは強化されているイメージ。

 ついでに、しばらくはケヴィン中尉が教導してくれる。




 そして再び16000文字超えです。
 シーンの切りの良いところまで書こうとすると、文章量が膨れ上がるというジレンマ。

 これからは原作と違って、仕方なく地球残留ではなく、意図のある地球残留・調査編になります。

 よろしければ、またお付き合いいただけますと幸いです。
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