超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
ギャプランの部隊を撃退した後、アウドムラは何事もなかったかのように無事にヒッコリーへと到着した。
少々拍子抜けする印象ではあったが、よく考えると別に不思議なことはない。
連邦の正規軍が大量の捕虜返還で混乱している以上、アウドムラを現実的に追撃できる余裕がある部隊はそこまで多くない。
あのギャプラン部隊が例外だったと考えた方が筋が通っている。
そもそも、ギャプランはガンダリウム合金製の試作機だ。
いくら試作機には予算をかけられるといっても、連邦にはクソ高いルナチタニウム合金を湯水のように使う予算はない。
試作機の試作機ぐらいなら、無理して完成させられるかもしれないが、今回出てきたのは総数5機のギャプランだった。
あれが全部ルナチタニウム合金製?
下手したらサイコ・ガンダムの方が安くつくわ。
アナハイムがティターンズに流したマラサイから、ガンダリウムγの技術が流出し、それによって実用化に漕ぎ着けたと見るのが自然だ。
基礎設計や実機検証は既に済んでいたところに、ガンダリウムγの技術が最後のひと押しになった形だろう。
マラサイが流されたのがほんの数か月前であることを考えると、ティターンズ側の技術陣も寝る暇を惜しんで解析を進めたと見える。
普通に考えて、デスマーチだっただろう。
それに、いかにルナチタニウムよりコストパフォーマンスが格段に優れているとはいえ、ガンダリウムγの生産も安いものではない。
ギャプランは現状ではクソ高い機体であるはずなのだ。
そう考えると、強化人間の乗った1機はともかく、HADESを搭載(推定)した機体を4機も用意して実戦に投入したのは、随分と大盤振る舞いだ。
予算的にも、開発期間の面でも、完成したばかりの機体のはずだ。
あれを寄越したのがレビル研だと断定はできないが、奴らも随分と無茶をするものだ。
ヒッコリーでは特に問題もなく、カーゴシャトルの準備が終わり、アムロとクワトロ大尉は無事に宇宙へと飛び立っていった。
アーガマに拾われた後、クワトロ大尉はアーガマのMS戦闘部隊長として復帰し、アムロはグラナダで家族と再会した後、アレックスの改修に立ち会う予定だ。
アムロはこの機に、正式に籍を入れればいいと俺は思っている。
アレックスも近代化改修すれば、ガーベラのようにそれなりに戦える機体になるだろう。
とは言っても、根本の技術が7年前のものだ。
ガンダムMk-Ⅲでもいいから早く開発してこっちに回してくれないものかね。
カミーユにZガンダムが回されるとしても、クワトロ大尉、アムロ、俺がガンダムMk-Ⅲに乗ったら戦力的には十分すぎるだろう。
乗っている面子を加味すると、シロッコのジ・Oぐらいなら正面からでも粉砕できそうだ。
まあ、レビル研とやらが大人しくしていてくれるなら、という仮定は付くだろうが。
連中が何をしてくるか分からない以上、ZZガンダムですら今すぐ欲しいぐらいだ――技術的に無理だとは分かってはいるんだが。
シャトルを無事に打ち上げて、ヒッコリーを離れたアウドムラは、太平洋の赤道付近に広がる熱帯収束帯の雲域に紛れて飛行していた。
分厚い雲に視界を遮られ、さらにミノフスキー粒子まで散布している。
こちらを外部から捕捉するのは容易ではないだろう。
そんなアウドムラの会議室で、俺はカラバ側のメンバーにカミーユを加えた面々と、今後の方針を話し合っていた。
ちなみにカミーユは俺の「地球に残ってくれ」という頼みに、あっさりと承諾を返してくれた。
彼としても、『あの異様な動きをするギャプラン』のことは気になっていたらしい。
「やはりニューギニアですかね?」
ハヤト艦長が言った。
「まあ、そこしかないでしょう」
俺も同意する。
レビル研とやらの調査の足掛かりとしては十分だろうし、基地から大気圏脱出用のシャトルやブースターを強奪できれば、こちらの都合のいいタイミングで宇宙に帰還もできる。
ニューギニアは現在建設中のティターンズの基地の1つである。
その所在は、ジャブローのコンピューターに残されていたので、エゥーゴ・カラバとしても攻撃の選択肢には入れやすい。
というか、他の基地の所在はきっちりとコンピューターから消去されていた。
原作通りキリマンジャロに基地があるのかすら、現時点ではわからない。
「他にあるはずのティターンズの基地が分からない以上、仕方ないんじゃないの?」
スレッガー大尉がこぼす。
リュウ中尉もそれに続いた。
「既存の軍事施設や宇宙港、それに宇宙へのアクセスのしやすさから地域はある程度絞れるものの……」
俺が続く。
「オーストラリア北部だとダーウィン、マウントアイザ、ヒューエンデン、インド南部のマドラス、北上してラサ、そしてアフリカのキリマンジャロ……」
「多いですね」
カミーユがげんなりとしながら言った。
そう、ひたすら多い。
原作知識があるため、多分キリマンジャロなんだろうなぁ、とは予想だけなら付けられる。
だが、それを他人に信じてもらえるかは別問題であり、しかもそれが都合よく当たってくれている保証もない。
オーストラリアにコロニーが2回も落ちていたりする以上、トリントン基地がティターンズの拠点に採用されている可能性だって否定できない。
キリマンジャロだと決め打ちして、それが外れていたらもう最悪だろう。
結局、ティターンズの本命の拠点がどこにあるのか、それを裏付ける情報が入ってくるまでは下手な行動はできない。
「現状では連邦政府を刺激しすぎるのも良くない。
ダカールから距離が離れている以上、ニューギニアが最も現実的だろう」
ハヤト艦長がそう結論付ける。
とはいえ……。
「敵もそれは分かっていますよねぇ」
カミーユが渋い顔をした。
こっちが現実的な選択肢を選ぶということは、相手はそれに対して対策を打ってくるということだ。
明らかにニューギニア基地に関しての防諜レベルだけが甘い。
ジャブローが自爆せず、コンピューターから情報を抜かれるとまでは予想はしていなかっただろうが、それでも『攻められる可能性が高い』ということは、ティターンズ側も最初から分かっているだろう。
下手したら、返還した捕虜の中から復帰したパイロットが配備されていてもおかしくはない。
ほぼ留守だったジャブローを攻めるのとでは訳が違う。
「基地を攻略するにはドダイも足りていない。
どこかで補給は必要だろうな」
俺はそう言う。
ジャブロー戦のように宇宙からの直接降下でもない限り、基地の上空にMSを運ぶための足が必要だ。
さすがにカラバも事前に全部見越して、ドダイ改を潤沢に用意していました、というわけにもいかない。
また、MSの交換パーツや弾薬も無限ではない。
しっかりとした補給先は確保しておきたい。
と、なると――。
そのタイミングで、会議室にはいたが、壁にもたれて今まで黙していたカイ・シデンが口を開いた。
「なら、ニューホンコンに行くと良い」
全員の視線がカイに集中する。
「ニューホンコンのルオ商会を訪ねれば、少しはマシな補給もできるはずだ」
やはり原作通り、ホンコンに行くのが現実的な選択肢になってくるか。
俺も口を開く。
「ルオ商会……エゥーゴの大型出資団体の1つだな。
レーザー回線を使わせてもらえるなら、アーガマ経由でアナハイムへの伝手も使えるだろう」
ルオ商会のトップであるルオ・ウーミンと俺には直接の面識はない。
さすがに宇宙に出てくるほど彼に暇はないからだ。
ただ、聞いた話によると、義娘のステファニー・ルオに表向きは商会の舵取りを任せているらしい。
まーたここだけ劇場版展開かよ。*1
とはいえ、ウォン・リーの娘さんということは、知人の娘が交渉相手ということでもある。
俺としては接触がずいぶんしやすいので、好都合だとも言える。
スレッガー大尉が口を開いた。
「なら決まりだね。
ハヤト艦長さんよ、よかったら俺とケヴィン中尉、あとカイとでルオ商会に行かせてくれないか?
ニューホンコンには妻と子どもたちがいてね、ついでに会っておきたい」
この辺りは原作通りなのか。
とはいえ、ティターンズが公然と軍事行動を起こしにくい自治都市、となるとそもそもの数が少ないわけで、ニューホンコンに避難しているのはそこまで不思議なことではない。
まあ原作でも、香港特務機関ががっつりとティターンズ寄りだったわけで、ミライ・ノアがアウドムラへの人質にとらわれた以上、完全に安全であるとは言えないわけなのだが。
「ミライさんが?
もちろん構いません。
本来ならアウドムラに避難してもらうべきなんでしょうが……」
ハヤト艦長のその言葉を、カイが茶化した。
「これから基地を攻めようって飛行空母に、ガキどもを乗せるわけにもいかんでしょ」
「ただしホワイトベースは除いて、だがな」
それを締めたリュウの言葉に、俺とカミーユを含めた全員が笑った。
ホワイトベースに子ども*2が乗っていた逸話は、それなりに有名なのである。
ニューホンコンへ進路を変更したアウドムラは、敵部隊に遭遇することもなく目的地へ到達し、現在は湾内に着水していた。
自治政府の担当者をハヤト艦長が相手している中、俺はスレッガー大尉とカイ・シデンと共に、ホンコンの街中を歩いていた。
カミーユはリュウとともにアウドムラで待機である。
ホンコンはその経済力から連邦政府からも一目置かれており、そこに攻め込んでくるような馬鹿は普通はいないはずなのだが、相手がティターンズである以上、原作のように攻め込んでくる可能性は想定しておくべきだろう。
現に原作ではサイコ・ガンダムが襲来していた。
とはいえ、どこかの仮面の王子のように「馬鹿は来る」とまでは断言できないため、あくまで念のためではある。
と、先導しているスレッガー大尉が振り向いた。
「少しいいかね、中尉?」
そう言いながら、親指で少し先にある喫茶店を指さしている。
つまりは「話がある」ということだろう。
俺の横を歩いているカイ・シデンから、俺の正体については聞いているだろうし、まあ、そうなるか。
俺は頷いた。
「構いませんよ」
3人で喫茶店へと入り、奥の席へと移動する。
奥まったところにあるため、会話内容が盗み聞かれる心配も少ないだろう。
注文した飲み物が配膳された後で、スレッガー大尉が切り出した。
「さてと、改めまして
オデッサとコンペイトウ……いや、ソロモンでは世話になった」
ニヤリと笑うスレッガー大尉だが、別段敵意めいたものは感じない。
俺はウーロン茶を口に含んでから、返した。
「どちらも敗走していたのはこちらですけどね。
あと、別に隠すつもりはないですが、大佐呼びは勘弁してください。
さすがに悪目立ちします」
スレッガー大尉は「違いない」と笑った。
カイもニヤニヤとしながらこちらに話しかけてくる。
「そういえば、俺もテキサスで機体の足をぶった切られたっけなぁ」
「あれは近接装備をガンキャノンに持たせなかった連邦に文句を言ってくれ。
おかげで逃げるための時間は稼げたがな」
俺の回答に、カイはケラケラと笑った。
「やっぱり足止め目的だったのかよあれ」
その後も、連邦・ジオン双方の視点から一年戦争の思い出話が続いていく。
この会話の目的はなんと言うことはない。スレッガー大尉からの心遣いだ。
『自分たちにはエルンスト・ヴァルツァーに対する遺恨はない』と示すためのものである。
これから共に戦う相手に
そういう打算もあるにはあるだろうが、本当のところ、彼らは連邦軍への帰属意識をそこまで持っていないというのが大きいのだろう。*3
おそらくは、一年戦争の当時からずっと。
彼らはずっと地球連邦軍としてではなく、ホワイトベース隊として、仲間たちと共に生き残るために戦ってきたのだろう。
そういう意味では、俺と彼らは近い者同士であると言えた。
少し意外なことだが、カイ・シデンからはミハル・ラトキエの一件に関する恨みつらみを聞くことはなかった。
俺の一年戦争での足跡は、当時の軍関係者で、なおかつ俺の存在を確信している人間なら、辿ろうと思えば辿れるだろう。
だから、『大西洋、血に染めて』の一件とは無関係だと思っていたのかもしれない。
実際無関係というか、俺はホワイトベースがミハルと接触したかどうかどころか、この世界にミハル・ラトキエがいたのかすら知らんのだが……。*4
そういったわけで、しばらくの間、俺たちは歓談を楽しんだ。
なお、ホワイトベースを誘蛾灯にしてジャブローの位置を特定したことについては黙っておいた。
喫茶店でわだかまりを解消した俺たちは、店を出るとまっすぐルオ商会へと向かった。
商会の内部は、コロニー行きの闇チケットを求める客でごった返していた。
原作のTV版だとアムロがここで不用意にルオ・ウーミンの名前を出したことで警備員に暴行を加えられて気絶するわけだが……。
よく考えると、ルオ商会内部でルオ・ウーミンの名前を出して暴行を受けるのって理不尽じゃね?
そんなことを考えながら、受付に割り込んで――申し訳ないがこっちも暇じゃない上に、別にコロニー行きのチケットが欲しいわけじゃないので勘弁してくれ――「奥の女性に、ウォン・リーから話が行っているはずだ、と伝えてくれ」と告げた。
1分も経たずに、警備員が「こちらへ」と俺たち3人を案内する。
良かった。
なんとかコンタクトは成功だったようだ。
別に警備員に殴りかかられても、余裕で全員叩きのめすことはできるだろうが、そうなると悪目立ちってレベルじゃないからな。
おそらくルオ・ウーミンもステファニー・ルオも、俺の正体はアナハイム経由で知っているだろう。
警備員が殴りかかってこなかったのは、既に味方だと分かっていたからか、あるいは返り討ちに遭うと分かっていたからか。
どちらかまではさすがに分からない。
割と立派な応接室に通され、俺とスレッガー大尉はソファへと腰かける。
カイはもうくせなのか、座らずに壁に背を預けたままだ。
応接室に1人の女性が入ってきた。
俺の予想通り、彼女がステファニー・ルオなのだろう。
「ルオ商会のステファニー・ルオです。
義父の名代を務めています」
彼女から挨拶を受けて、座ったままでは失礼なので、俺とスレッガー大尉も立ち上がった。
「カラバのスレッガー・ロウ大尉です。
こちらは――」
「エゥーゴのケヴィン・コナー中尉です。
ウォン・リーさんにはお世話になっております」
それぞれが軽く握手を交わす。
「フリージャーナリストのカイ・シデンだ。
カラバとエゥーゴに協力している」
カイはそう言うと軽く手を振るだけにとどめた。
これはもう本人の性格だろう。
顔合わせが済んだのち、補給の要請は拍子抜けするほどあっさりと認められた。
スレッガー大尉は担当者と補給内容の打ち合わせのために席を外し、カイは「んじゃ、俺は本来のお仕事に戻るわ」と去って行った。
おそらくカイはアウドムラに戻らず、外部からの情報収集に当たるのだろう。
そういったわけで、現在応接室には俺とステファニー女史の2人だけである。
正直、世間話するような話題もないために少々気まずい。
そんなことを考えていると、ステファニーが口を開いた。
「さて、
ひとつお聞きしたいことがありますの」
やはりウォン・リーあたりから俺のことは聞いていたか。
現在、地球上にいるエゥーゴの主要メンバーは俺1人だ――カミーユはあくまで民間人協力者だからな。
実質的に、俺がエゥーゴを代表して受け答えをすることになる。
「何でしょう?
それと、
「あら失礼。
では――」
ステファニーは一拍おいてから、話を切り出した。
「なぜあなたがた――エゥーゴは、そこまで好戦的になれるのです?」
好戦的と来たか。
言わんとしていることはなんとなく分かる。
30バンチを実際に見るまでのエマ中尉と同じ感覚を持っているのだろう。
補給を快諾してくれた以上、この感覚はあくまでステファニー・ルオ個人のものであり、エゥーゴを支援すると決めたルオ商会としての行動とは別であるということか。
公私の線引きはなかなかしっかりしている。
そのまま答えてもいいのだが、エゥーゴを代表して回答する以上、ここはこう答えておく必要がある。
「仰っている意味が分かりかねますが?」
言わんとする意味は推測がつくが、エゥーゴが好き好んで戦いを吹っかけているわけではない、という意思表示だ。
ステファニーは、まるで事実を確認するかのように言葉を重ねた。
「そうではなくて?
ジャブローを攻撃したばかりでしょう?
それなのに今度はニューギニア。
自ら虎の尾を踏み続けているように、私には見えます」
なるほど。
ジャブローを落としておいて次はニューギニアだ。
たしかに第三者から見れば、基地だけ落として回っているように見えなくもない。
「言いたいことは分かります。
実際、ティターンズがジャミトフ・ハイマンだけのものならば、我々ももっと穏便な手段を取れたでしょう」
「ならば――」
「だが、バスクは違う」
ステファニーの言葉を遮って俺は言い切った。
息を飲む彼女を前に、俺は静かに続ける。
「ジャミトフは政治と組織運営には長けているが、現場で軍を動かすタイプじゃない。
奴自身もそれを理解している。だから、ティターンズの実働部隊を直接指揮する人間が必要だった。
そこまでは正しい。
だが、その役目にバスク・オムを選んだことは奴にとって致命的なミスだった」
これは本当に俺の素直な感想だ。
制御できない狂犬をトップに据えた結果が、今のティターンズだと思っている。
俺の語気に気圧されたのか、ステファニーが若干震える声で問うた。
「そのバスクという人物は……、そこまで歯止めの利かない人物だと?」
その問いに、俺はこれまでに奴のしでかした凶行を、指を折りながら数えていく。
「デモへの毒ガス攻撃で1つのコロニーを全滅させる。
こちらの民間協力者の家族――非戦闘員を人質にして殺害しようとする。
挙句の果てには、友軍ごとジャブローを核で吹き飛ばそうとする。
今はコロニーの1つから居住する民間人を追い出して、軍事施設に改造中だったか……」
本来ならば、ここで『友軍ごとデラーズ・フリート残存部隊にソーラ・システム照射』も入ったはずなのだが、ソーラ・システムが本来の目的であるコロニーを蒸発させるのに成功したこの世界では奴はその凶行には及んでいない。
しかし、それが無くても奴の危険性を理解するには十分だろう。
絶句しているステファニーに、俺は続けた。
「そんな人間が軍事部門を統括している以上、力による抵抗を止めろというのは、
我々は、
これは俺個人の偽らざる本音でもあった。
そもそも、連邦がもう少しスペースノイドにほんのちょっと……それこそ毛の先程度でもいいから気を使ってくれていたら、暁の蜂起は起こらなかったし、そこから始まる一年戦争も様変わりしていただろう。*5
そして、連邦の宇宙に対する蔑視を伴った無関心さは、一年戦争を経た今でもほとんど変わっていない。
「エゥーゴに賛同してくれとまでは言いません。
ですが、我々も戦いたいがために戦っているというわけではないことは、ご理解いただきたい」
そう言ってから、俺は出されていた紅茶を一口飲んだ。
すっかり冷めてしまっていたが、まあ仕方ない。
エゥーゴを代表する側としては言うべきことは言えたつもりである――さすがにクワトロ大尉のように、地球の環境問題まで踏み込むのは俺のスタンスではなかったため省いたがね。
原作TV版のアムロのように好き勝手言えたらいいんだが、これでもジオン正規の士官教育まで受けた身なので、そこまではなぁ。
……よく考えたら、TV版のアムロ、ステファニー相手に割と意味不明なこと言ってたので、士官教育関係なかったわ。*6
ステファニーは一度、目を閉じて深呼吸する。
ゆっくりと目を見開くと、幾分か落ち着いた様子でこちらに聞いてきた。
「あなた個人も、エゥーゴの理念のために?」
エゥーゴという団体としての戦う理由の次は、俺個人かぁ。
「賛同はしていますが、直接戦う動機は違いますね」
まあ、この問いに関しては、幾分情勢に流されて戦っているとも言えなくはないが、それでも俺なりの答えはある。
「差し支えないなら、お聞きしても?」
俺は紅茶のカップをテーブルに置き、ステファニーの目を見て言った。
「私はこれまでも、そしてこれからも、私にとって大切な人たちのために戦っています」
最初は、孤児院の家族たちが人並みの暮らしを送れるようにするためだった。
そこに世話になった第2の家族とも言えるドズル・ザビ閣下の一家、友人であるガルマやシャアとその一家――色々なものが引っ付いてきたのが今の自分の戦う意思の源流なのだろう。
そして――。
「そのためには、バスク・オムは障害でしかない」
俺は言い切った。
正直な話、現時点ではバスクの一派さえ潰せれば、ジャミトフだけならば利害次第で交渉が成立する余地がある。シロッコが出世して台頭してくると、奴も何とかしなければならないだろうが……。
口には出さなかったが、おそらくはレビル研とやらも障害になるのだろうが、未確認の情報をここで話すつもりはない。
ステファニーはこちらへの視線を動かさず、聞いてきた。
「その大切な人たち、というものの中にはあなたご自身は入っているのですか?」
意外な問い返しに、俺は一瞬、言葉に詰まってしまった。
「――考えてもいませんでした」
口から出たのはそんな言葉だった。
実際、考える必要がなかったというのが正しいのだろうが。
「いえ、自分を犠牲にとかいう悪い意味ではなく――。
その、つまり――
肉体のスペックは自分でも分かっているし、悪運も折り紙付きだ。
生き延びるだけならば、敵地のど真ん中に単身放り出されてもやっていける自信がある。
とはいえ、第三者から見れば凄いことを言っている自覚はある。
クワトロ大尉やガルマが聞いたらうんうんと頷きそうだが――そうしたら蹴る。
一瞬、呆気にとられた表情をしたステファニーだったが、すぐに笑いだした。
そうだよな。
普通ギャグにしか聞こえないよな。
彼女はひとしきり笑った後、なんとか真面目な表情を取り戻すと、言った。
「あなた方のやり方すべてに、もろ手を挙げて賛同するつもりはありません。
ですが――少なくとも、あなた方が戦い続ける理由については理解しました」
「それで十分ですよ。
感謝します、ミズ・ステファニー・ルオ」
どうにも、こういう自分語りは性に合わないな――。
時間はやや遡る。
アジア沿岸の太平洋上に1隻の艦があった。
ミノフスキー・クラフトが生み出す浮揚力によって、海面から数十mの高度を保ちながら、ゆっくりと北上していく。
その艦名はホワイトベースⅡ。
一年戦争末期に完成したものの本格的な実戦投入には間に合わず、戦後は宇宙で運用されていたが、宇宙艦隊の更新に伴って現在は地球に降下して使用されている、ペガサス級強襲揚陸艦の3番艦である。*7
そのホワイトベースⅡのブリッジに、一人の士官が立っていた。
身に着けているティターンズの制服には中尉の階級章が見える。
金髪と鋭い目つきが、周囲に威圧感を与えている。
その青年、ジェリド・メサ中尉は侮蔑的な表情を隠しもせずに言った。
「よくもまあ、こんな時代遅れの老朽艦が浮いていられるもんだ」
ブリッジの人員たちに不快感が走る。
とりわけ、ホワイトベースⅡの艦長は顔を歪ませた。
しかし、ティターンズではない彼らには、ティターンズの士官であるジェリドに食って掛かる勇気はない。
たとえ艦長が少佐であり、ジェリドが中尉であっても――ティターンズであるということは、そのような無茶がまかり通るということなのだ。
怒りを抑え、なんとか平静を装いながら、しぼりだすような声で艦長が言った。
「ジェリド中尉、この艦が最新艦に比べれば型落ちであることは認めますが、就航からまだ7年です。
そこまで旧いわけでは……」
艦長の言っていることは間違っていない。
税金で建造される軍艦などは、一般的には10年以上の運用を前提としているものだ。
だが、そんな艦長の言葉をジェリドは鼻で笑い飛ばした。
「7年も昔の艦なんて老朽艦で十分だろ?」
偏見まみれのその言い草に、艦長は露骨に顔をしかめると、今度こそ黙り込んだ。
最優先で予算が分配され、特権を付与されるティターンズと、一般の地球連邦軍所属艦の乗員とでは、意識の共有が困難だと思い知ったためである。
思えばホワイトベースⅡの扱いも屈辱的だ。
第一線を退いたとはいえペガサス級強襲揚陸艦であり、伝説の艦『ホワイトベース』の名を冠するこの艦は、地球降下直後よりティターンズの命によってニューギニア基地に配属されていた。
しかし、艦のクルーたちがティターンズに編入されることもなく、命ぜられる仕事は資材の運搬といった、本来の運用とはかけ離れた雑用のみ。
挙句の果てには、先日地球に降下してきたという、この若い中尉に顎でこき使われる始末だった。
先日降下してきたということは、エゥーゴにジャブローを攻められて落とされた連中だろう。
捕虜になって先日返還されたと聞くが、昨日の今日でこうも傲慢に振る舞えるのか……。
艦のクルーたちの恨みつらみなどどこ吹く風といった様子で、ジェリドはブリッジのクルーに尋ねた。
「おい、あとどれぐらいだ?」
「――もうそろそろ視認できるはずです」
クルーからの報告に、ジェリドは持っていた双眼鏡を覗き込んだ。
水平線の彼方に、黒い点のようなものが見える。
それを確認し、ジェリドは呟いた。
「あれが、わざわざ俺が運ばなきゃいけないって機体か」
相応の距離があるというのに、あの大きさで視認できるということは――。
「かなりでかいな」
「は、はい。
データによると30mほど、変形すれば40mにもなるそうです」
クルーからの情報に、ジェリドは「ん」とぶっきらぼうに返す。
「あれがサイコ・ガンダムって奴か。
ムラサメ研も道楽が好きなものだ……」
そして、そんな道楽品の運搬を任されている自分も落ちたものだ。
そうジェリドは自嘲した。
エゥーゴを追撃して地球に降下したジャブロー攻防戦は、ジェリドにとって散々な結果だったと言っていい。
与えられたマラサイでガンダムMk-Ⅱと交戦したは良いものの、互いに撃ち合ったビームライフルの余波によりこちらの機体は誘爆。
何とか脱出したかと思えば、ジャブローはエゥーゴに占拠されてしまった。
捕虜となってしまったジェリドではあったが、彼にとってはさらに屈辱的なことに、その処遇は無条件返還ときたものだ。
お前に人質としての価値などない。
そう言われている気がした。
同じく地上に降りた同僚のカクリコンや、師匠のような存在であるライラも、戦死していないのなら同じような捕虜になっていたのだろう。
とはいえ、ティターンズのパイロットたちはバラバラに収容されていたので、彼らの存在を窺い知ることはできなかった。
唯一、不幸中の幸いと言えることがあるとすれば、自分が返還された基地がジャブローから最も近い基地の1つだったということだろう。
基地に到着したミデアを降りるや、他の捕虜連中をかき分け、時には殴り倒しながら最前列に躍り出たジェリドは、ティターンズの身分証を提示して、他の誰よりも迅速に手続きを受けた。
その甲斐あって、連邦軍の事務方が本格的な混乱に陥る前に原隊復帰を果たしたジェリドは、こうしてニューギニアのティターンズ基地に一時的にではあるが配属されたというわけだ。
ジャブローを守り切れなかったとはいえ、連邦軍の事務系統が混乱する最中、ジェリド1人のためにニューギニアへの特別便が手配されたのも、ティターンズの威光がまだまだ健在であることを示している。
建設途中であるニューギニア基地では士官の数が少ないため、ティターンズが防衛のために士官をかき集めている最中であるという事情を差し引いてもだ。
そんなティターンズの中で、現在ジェリドは汚名返上の機会を虎視眈々と窺っていた。
サイコ・ガンダムが近づいたことにより、にわかにブリッジが騒がしくなった。
「サイコ・ガンダム接触します」
「牽引用ワイヤー射出!」
「全ワイヤー、接続を確認。
以後、サイコ・ガンダムは浮揚のみ確保されたし」
サイコ・ガンダムとの接続で艦が揺れた。
ブリッジが慌ただしくなってきた中、ジェリドはホワイトベースⅡの後部搬入口へと向かった。
サイコ・ガンダムからパイロットが乗り込んでくるとすればそこしかないだろう。
ティターンズから、ニューギニア基地の防衛戦力の提供を求められたムラサメ研が差し出してきたのがこのサイコ・ガンダム、そしてその専属パイロットの強化人間である。
サイコ・ガンダムはその巨体故に、ホワイトベースⅡの格納庫には入りきらない。
単体でニューギニアに向かおうにも、サイコ・ガンダムの推進剤は、日本のムラサメ研からニューギニアまではとてももたない。
そのため、ホワイトベースⅡが途中まで迎えに出て、ミノフスキー・クラフトで浮揚するサイコ・ガンダムを牽引し、推進剤の消耗を抑える必要があった。
ジェリドが目的地に到着したころには、ホワイトベースⅡとサイコ・ガンダムの間に渡された連絡用ゴンドラから、2人の女性がホワイトベースⅡに乗り込もうとしていた。
おそらくは、ムラサメ研の研究者と、サイコ・ガンダムのパイロットの強化人間だろう。
そう判断したジェリドは彼女たちに向けて一歩歩み出た。
「ご苦労、俺は今回の一件を任されているジェリド・メサ中尉だ」
一般的なスーツを着用した女性が前に出る。
おそらく、こいつが研究員だろう。
「ナミカー・コーネルです。
ムラサメ研の主任インストラクターです」
続いて、ノーマルスーツに身を包んだ女性がヘルメットを外して敬礼する。
かなり若い――幼いとも言っていい少女だった。
どう見ても20歳には届いていないだろう。
「同じくフォウ・ムラサメ少尉」
これが強化人間って奴か。
ジェリドは値踏みするような目で、フォウを見た。
「ほぅ……。
お前さんがあのデカブツのパイロットというわけか?」
そんなジェリドの視線に物怖じせず、フォウが一歩前に進み出た。
「中尉、お願いがあります」
「何だ?」
興味深げな態度のジェリドに、フォウが言った。
「モビルスーツの出撃後は、私の自由にやらせてもらいたいのです」
ジェリドの目が細くなった。
半眼で、その視線がフォウを射抜く。
「俺の指図は受けない――と?」
「人の指図では動けないのです、私」
ぷは、とジェリドが吹き出した。
『ここは軍隊なんだぞ』と言わんばかりの、嘲るような視線で眼前のフォウを見る。
「ずいぶんと吹かしたことを言うじゃないか?」
しかし、フォウには一切物怖じする様子はなかった。
「許可がいただけないのであれば、日本に帰ります」
ジェリドとしても、帰られてはさすがに困る。
強化人間とやらがどれほど使い物になるかも分からない。
なら、好きにやらせて実力を見るのも悪くないだろう。
出撃の手綱さえ俺が握っていれば問題はない。
「いいだろう。
だが出撃のタイミングは俺が決める。
作戦行動中の自由を認めてやるとはいえ、貴様の上官は俺だ。それを履き違えるな」
「ありがとうございます」
敬礼するフォウに背を向けて、ジェリドは歩きだした。
しかし、10秒も経たないうちに、彼を呼び止める声が響く。
「ジェリド中尉!」
視線を向ければ、ホワイトベースⅡのクルーと思しき男が、こちらに向かって走ってきている。
その慌てようからして、何かあったのか?
「なんだ?」
「それが――」
躊躇する様子の男に、ジェリドは答えを促した。
「早く言え」
「ほ、香港特務機関から情報が入りました。
その……アウドムラがニューホンコンに入港していると」
それを聞いたジェリドは一瞬驚いた表情を見せたものの、すぐさま不敵な笑みを浮かべた。
「アウドムラが……?
ふ、ふふふ……」
「中尉?」
訝しげなクルーに、ジェリドは真顔に戻ると命令を下した。
「艦長に伝えろ。
ホワイトベースⅡは香港に向かう。
同時に香港特務機関にも連絡を取れ。もっと情報が欲しい」
「し、しかし……」
あくまでホワイトベースⅡの今回の任務は、サイコ・ガンダムの輸送である。
そう言いたげな男に、ジェリドは顔を近づけ、睨みつけた。
「この件の責任者は俺だ、何か文句はあるか?」
ジェリドはニューギニアの基地司令直々に、
基地司令もティターンズの士官であるため、ジェリドが『ニューギニア基地の防衛のために先んじてアウドムラを叩く』と言ってしまえば、ホワイトベースⅡは従うしかない。
「わ、分かりました」
ブリッジへと走り去っていく男を見ながら、ジェリドは自身に訪れた機会を神に感謝した。
その口元に、牙をむいたかのような攻撃的な笑みが浮かぶ。
「サイコ・ガンダムを受領した途端にアウドムラが見つかるとは、俺にもツキが回ってきたな。
待っていろよアウドムラ。ジャブローで俺が味わった屈辱を、お前たちにも味わわせてやる」
読んでいただきありがとうございます。
ホンコン・シティ関連のお話になってきます。
会話劇中心になって、戦闘まで行けませんでした。
なのに14000字近くあるのはどう考えてもおかしいと思うの。
・ニューギニア攻略戦決定
原作でも描写外であったらしいですね。
拙作では普通にやります。
原作での「何でニューギニアに基地があるってカラバ知ってんだろう?」という疑問への拙作なりの回答となります。
ついでにキリマンジャロを決め打ちできない理由の提示だったり。
というか、現時点でダカールの近くにあるキリマンジャロは、そこにジャミトフがいると分かっていたとしても、戦力的に攻略は難しいイメージがありますね。
やるならせめてカミーユとケヴィンにZを寄越せ。
・香港での会話
原作死亡キャラを交えた会話って難しいけど楽しいですわ(笑)
スレッガー大尉が生きていたらこんな感じだったんだろうなという、自分なりの妄想です。
『機動戦士ガンダム』本編では、ア・バオア・クーの直前あたり、完全にホワイトベースは『ザビ家は倒さないといけないけどホンマ連邦もあれすぎる』みたいな空気でしたからね。
スレッガーさんも染まっちゃったということで、ジオン組に特に遺恨はないよと。
アムロ?
奴が何年ボッシュと一緒に居ると(以下略)
・ステファニーとの会話。
劇場版とTV版の設定ちゃんぽんにより、彼女はルオ・ウーミンの息子の嫁、かつウォン・リーの実の娘となりました。
それはそうと、TV版における彼女とアムロの会話が、本気で噛み合っていないように感じる(笑)
というか、アムロが何喋ってるんだって感じ。やっぱりお前ニュータイプだわ。
拙作ではエマ中尉とレコア少尉による、30バンチ事件の云々は結構端折っていたので、ここで同様のコンセプトの場面として入れさせてもらいました。
まあ、拙作ではジャブローの次にニューギニアと、割と節操なく基地を落としたがっているようにも見えなくはないですからね。
・復活! ジェリド・メサ中尉復活!
みんな大好き金髪のイケメンライバル枠の復活ですよ(笑)
ちなみに割とホワイトベースⅡのクルーに対してジェリドが横柄ですが、彼は彼で捕虜になった屈辱で頭に血が上っている真っ最中ですので、普段の3割増しぐらいで粗暴です。
横にライラ大尉でもいれば話は別だったんでしょうが、捕虜は男女別に分けられちゃいましたからね。
ベン・ウッダー大尉の代役みたいな感じでの登場になりましたけど、こうして考えると、お話の展開に関しては『味方のカツ・コバヤシ』『敵側のジェリド』って、話の起点にするにはとても便利なキャラだなぁと思いました。
そして繰り返しますが14000字弱です。なげぇよホセ。
せめて12000字ぐらいに抑えて読みやすくしたいなぁと思いつつも、今回の話の構成だと明らかにジェリドのシーン最後に入れた方がいいじゃんってなってしまう。
連載開始時の5000字前後だった頃と比べると、だいぶ読むための熱量を要求する作品になってしまっているのが申し訳ないです。
よろしければ、またお付き合いいただけますと幸いです。
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