超人スペックで転生させられた俺はせめて正しい敗北を選びたい 作:正樹
全然関係ないですが、卒業から開戦までガルマってどこで勤務してたんでしょうね?
デギン直属で秘書みたいなことでもしてたのかな?
ズムシティから宇宙船に乗り込んで十数分。
サイド3のエキストラ・バンチにそのコロニーはある。
通称、ダークコロニー。
ジオンのモビルスーツ開発拠点にして、しばらくの間、俺の勤務地となる場所である。
ドズル大佐とゼナ嬢の婚約成立から数日。
士官学校の卒業式を無事に終え*1、新任少尉となった俺は辞令を受け取り、そのコロニーへと足を踏み入れた。
案内役となった軍人さんに連れられるまま、中央管制室、兵舎、食堂、
「おいおい、どうしてこんなところにガキがいるんだよ!?」
ダミ声を響かせながら、大仰な仕草で歩いてくる大男。
ヒゲもなく、隻眼でもない。強いて言うなら特徴のある鼻。
恐らくは、彼がオルテガ准尉だろう。
「職場見学にしても来るところは選んだ方が良いぞ坊主!」
その後ろから、声をかけてくるオルテガよりは小さいが、十分体格が良い巨漢。
隻眼の彼は分かりやすい。
彼がマッシュ准尉。
そしてその後ろからニヤニヤと笑いながら歩いてくる、マッシュと同じぐらいの体格のヒゲをはやした男。
最後の彼がガイア少尉。
後に『黒い三連星』と呼ばれるエースパイロットグループだ。
ラル大尉に言わせると「兵隊ヤクザ」だそうだが。
とはいえ、これからしばらくはともに仕事をする同僚である。
関係構築をしないわけにもいくまい。
姿勢を正して敬礼をする。
「本日付けをもってこちらのテストパイロットに任命されました、エルンスト・ヴァルツァー少尉であります。
これからよろしくお願いします!」
「少尉だぁ?」
あからさまに信じてないなオルテガ准尉。
「軍人ごっこはよそでやった方が良いぞ小僧」
マッシュ准尉もか。
ここみたいな軍の秘密開発拠点に、無関係の人間が来るはずがないことはこいつらも分かっているだろう。分かっているよな?
なので、分かった上で舐めくさっているのだろう。
年齢を考えれば仕方がない部分はあるが、正直、このままでは話が進まない。
視線をガイア少尉に向けると、彼は「仕方ねぇな」という顔をした。
「新任の少尉が着任するという話は聞いてはいる。
士官学校
「でもよぉ、ガイア少尉。
こんなちびっこい奴がモビルスーツの操縦なんてできっこねぇぞ」
まだ言うのかオルテガ。
「そうそう。
モビルスーツのGでお陀仏になる前にママのところに帰った方が良いぞ小僧」
お決まりの煽り文句に生憎なんだが、
「そう言うな。上にも何らかの思惑ってもんがあるんだ」
まあ分かってはいたが、ガイアも俺を認めてはいない口ぶりだ。
仕方あるまい。
「お三方は小官の適性に疑問をお持ちのようで?」
オルテガが鼻で笑い飛ばした。
「ハッ、適性以前の問題だろうが。
軍人ってのは俺らみたいな屈強な男たちの仕事だ。
貴様みたいな小さい貧弱野郎につとまるわけがねぇだろぉ!?」
よし、うまく言葉は引き出せた。
声のトーンを一段落とす。
「ならば、
「できるもんならな!」
いきり立つオルテガ。
「どうやって証明してくれるんだ?」
ニヤニヤ笑いのマッシュ。
ガイアも面白そうな顔をしていて止める気はないようだな。
さて――。
数歩下がり、オルテガに顔を向ける。
そのまま手のひらを上に向ける形で前に突き出し、指で「かかってこいよ」というジェスチャー。
つまるところ、
話の通じない兵隊ヤクザ相手にはこの手に限る。*2
まあ真面目な話、現実的な問題として、こういう手合いには実力を示さないことには話の前提が成立しない。相手が話自体を聞く気がないからだ。
そして、こういった場合において、示すべき
ひたすら単純な
だからスマートではないが、敢えて泥臭い手法を取ろう。
「来いよ
そのご自慢の肉体がただの木偶の坊だって証明してやるからよ」
煽り返されることは想定してなかったようで、オルテガは一瞬で乗ってきた。
「上等だ。しつけのなっていないクソガキが!」
煽ったのは自分だが、本当に沸点低いな、
ちなみにオルテガを指名したのは、奴が一番の巨漢なので実力を示すには一番分かりやすかったからと、奴が一番挑発に乗ってくれそうだったからだ。
奴の言動が一番むかついたからということではない。多分。
ちなみに俺の身長はオルテガの腰ほどまでしかない。*3
奴にとっては逆に殴り辛くないか、この体格差。
「殺すなよオルテガ!」
「死んだら書類が面倒くせぇから加減しろよ」
野次を入れるマッシュとガイア。良い感じにアウェーである。
他にいる整備兵たちは、おろおろと遠巻きに見ているだけだ。
まあ、こんな風になった
「大丈夫。この一発だけでこいつは病院よぉ!」
オルテガが無造作に近づいてきて、振り下ろすようにパンチを繰り出してきた。
確かにパワーだけはありそうなんだが――
俺は身体を少し捻ってパンチをかわすと、そのまま奴の腕を取って、一本背負いの要領で床に叩きつけた。
いい音が響く。
「ガッ!」
背中を強打して呼吸が一瞬止まったらしく、すぐには起き上がれないようだ。
良かったな。ここが低重力区画で。
ここの床は金属製だし、1G区画でやってたら、下手したらお前の方が病院送りだぞ。
何が起こったという顔をしている2人を尻目に、しゃがみこんでオルテガの顔を覗き込む。
この一瞬だけで決着とあっても、周囲どころか本人すらも納得しないだろう。
だから――
更に煽る。
「
「こ、の、クソガキゃあぁぁぁっっ!!」
真っ赤になって起き上がったオルテガを相手に、さぁ、第2ラウンドだ。
最初は残虐ショーが始まるのかと戦々恐々としていた整備たちの視線が、「なんだこいつ?」と変化していくのを背中から感じる。
まあ、確かに。
実際に見ている最中といえども信じがたいというのは理解はできる。
初等学校低学年ほどの少年が、2mを優に超えている大男相手に立ち回っている姿は、常識と照らし合わせると脳がバグるだろう。
そんなことを考えながら、オルテガのフックをかわす。
先ほどの一本背負いで学習したのか、大ぶりなテレフォンパンチはすっかり鳴りを潜めた。
今はジャブを主体とした、図体にしてはスマートな戦い方にシフトしている。
なので俺も無理に投げを狙わず、拳打と蹴りを主体にしている。
タフさだけならシャアを余裕で越えているわ。
そう考えながら、何発目か分からなくなりそうな蹴りをオルテガのあごに叩き込む。
「グッ……ガァッ!」
おっと、食らいながらも痛みを我慢して反撃か。
しかしそんな闇雲に腕を振り回しても、当たってはやれない。
本来ならば。
別段、完封勝利は難しくない*4が、これは連中に俺の実力を認めさせる
なので、わざとギリギリでかすめることによって、若干のダメージを演出する。*5
まぁ正確に言うと、こいつの馬鹿力は、かすめただけでも普通にダメージが入ってくるので、演出というとちょっと語弊があるのだが。
かすった部分の一部はあざにでもなっているだろう。
そんな攻撃を数発受けて、俺はそこそこ苦戦している風に見えるはずだ。
対するオルテガは、俺よりはるかに多い手数を放ったうえで、俺の攻撃を無数に受けたのもあって、息が完全に上がっている。
殴り合いが始まって数分。
そろそろか。
「貴様らぁ―――ッ!
何をしている―――ッ!!」
ようやくラル大尉がやってきた。
殴り合いを始めてから、整備員の誰かが大尉に通報でもしたんだろう。
怒りの形相を浮かべながら、走って来る。
オルテガもラル大尉の前でまで続けるつもりはないらしく、腕を下す。
俺はといえば、これからしばらく直属の上官となる相手だ。
戦闘態勢を解除して背筋を正した。
そして――やはり喧嘩の言い訳となればこれだろう。
「ハッ! レクリエーションであります!」*6
そう言いながら、オルテガに視線を向ける。
この脳筋、「何言ってるんだこいつ?」みたいな顔をするな。分かれ。
数瞬後、ようやく理解したのかオルテガが続けた。
「新任と先任との仲を深めておりましたぁ!」
やればできるじゃないか。
「レクリエーションだぁ?」
まあ当然ながら信じるわけがないラル大尉。
だが、当事者2人がこう言っているんだ、押し通されれば認めるしかない。
どうしてやろうかという表情のラル大尉に声をかけたのは、意外にもマッシュだった。
「まあまあ大尉、面白い交流だったぜ。
ヴァルツァー
ガイアも続く。
「確かにな。
先任少尉としてしごきがいがありそうだ」
少なくとも、この2人は同僚として、軍人として俺を認めてくれたというわけだ。
最後に残ったオルテガはと――
「ふんっ!
俺様たちが先任士官だということを忘れるなよ、
友好的かはともかく、少なくとも、認めてはくれたようだ。
改めて敬礼をする。
「これからよろしくお願いします!」
こうして、『黒い三連星』とのファーストコミュニケーションは無事――とは言い難いものの、何とか終わった。
最初の一歩は何とか踏み出せたようなものであるが、問題はこの先である。
ある程度のマシな関係を構築できそうな上で言うのもなんだが、『黒い三連星』が兵隊ヤクザと呼ばれるぐらいにガラが悪いのは否定しようがない。
実際、マッシュやオルテガの言動はチンピラそのものであるし、ガイアも言動の節々から、性格の悪さがにじみ出ていると言ってもいい。*7
ただ、作中で彼らがシャアに異常なほどの敵意とライバル心を向けていたのは、彼らの素行の悪さだけが原因ではないと思う。
彼らはラル大尉のような、自分たちが『明確に上である』と認めた相手以外には、たとえ相手の階級が上であっても見下されることを本能的と言ってもいいほどに嫌う。
シャアやマ・クベなどへの態度がまさにそれだ。
ならば、『黒い三連星』にはどうやって接すればいいのか。
仲良くなれるかはともかく、彼らと適度に付き合う方法は実は難しくない。
彼らの自尊心に砂をかけないようにすればいいだけである。
それだけなのだが――。
それがシャアには無理なのが最大の問題なんだよなぁ……。
あいつも自身が認めた相手にしか敬意を払わないタイプの人間だ。
それだけならまだしも、言動が無意識に相手を煽っているのが、『黒い三連星』相手には致命的だろう。
これから1年もしないうちにあいつが合流してくるとすれば、オルテガが毎日キレ散らかすことになりそうだわ。
「レクリエーションであります!」がやりたかったんだ。
まあ冗談は置いときまして。
黒い三連星に嫌われるシャアと対比して、そこそこ上手くやれるエルンストという構図を最初に想定していて、「じゃあ、こいつらに認めてもらうってどうすればいいんだ?」とまず考えました。
佐官になったシャアどころか、将官のマ・クベにすら敬意払わないんですもんこいつら。
多分ラル大尉は腕っぷしから認められていると判断し、こういう展開になりました。
群れのボスか何かかな?
ちなみにラル大尉が原作で評した『兵隊ヤクザ』という評価は、実に端的にこいつらを表していて好きです。
投稿予約をした後で、日間ランキング1位というありえないはずのものが目に入りました。
拙作を評価してくださった皆様に、この場を借りてお礼を申し上げます。
本当にありがとうございます。