RIDER,RIDER いい曲ですね
アクアは、夜の街に滲む光を見つめながら考えていた。
擬態――それは生き残るための知恵だ。弱きものが、強きものの影をまとう。あるいは、無害を装い、敵の視線から消える。虫だけの話じゃない。人もまた、思いを鎧にして生きている。偽薬が効くのも、聖痕が疼くのも、心が身体を引きずっていくからだ。
なら、俺は何だ。
問いが胸に落ちた、その瞬間だった。
空気が歪む。生温かい風に、鉄と獣の臭いが混じる。街灯の下、影が不自然に重なり合い、ひとつの塊になる。羽毛と鱗、節足と牙。あり得ない配列で縫い合わされた肉体が、ぎしりと音を立ててこちらを向いた。生理的嫌悪が背骨を這い上がる。
――怪人。
頭が理解するより早く、背骨が警鐘を鳴らす。これは、あの時の強盗なんかじゃない。逃げ場も言い訳もない、世界の裏側から、理由もなく溢れ出た“異物”だ。
怪人が吠える。音というより、内臓を直接揺さぶる圧。足元のアスファルトに亀裂が走る。
アクアは一歩、前に出た。
恐怖は、ある。だがそれ以上に、確信があった。
擬態は逃げるためのものじゃない。
“なりたい自分”に、身体を合わせる行為だ。
子供の頃から、理由もなく胸に住みついた影。調べても、誰に聞いても存在しないはずの存在。それでも消えなかった輪郭。
――仮面ライダー。
「……変身」
声は低く、静かだった。
次の瞬間、世界が反転する。視界の縁が硬質な黒に縁取られ、胸の奥で何かが噛み合う感触がした。骨が軋むほどの圧迫と、それを上回る安堵。まるで、長い間ずれていた歯車が、ようやく正しい位置に戻ったみたいに。
身体が“俺”に追いついてくる。
装甲が展開する。昆虫の外殻を思わせる曲線と、人工的な直線が共存したシルエット。息を吸うたび、肺が澄み切る。視界は研ぎ澄まされ、怪人の重心、筋肉の伸縮、次の一手が手に取るようにわかる。
怪人が突進する。
アクアは避けない。
一歩、踏み込む。拳を引き、叩き込む。
衝撃は音より先に結果を生んだ。怪人の身体がひしゃげ、空気が爆ぜる。痛みはない。あるのは、役割を果たしているという実感だけだ。
——擬態? 違うな。
これは逃げるための偽りじゃない。
これは、守るための姿だ。
怪人が崩れ落ち、闇に溶けていく。街は何事もなかったように静まり返り、遠くで救急車のサイレンが鳴った。
アクアは息を整え、拳を見下ろす。
迷いはない。
たとえ世界が否定しても、
たとえ誰も知らなくても。
仮面ライダーは、確かに——
ここにいる。