昼の採掘場跡地には、乾いた風が吹いていた。
崖を囲む岩肌には、つい先ほどまで暴れていた再生適応体たちの残骸が転がっている。砕け、崩れ、黒い影となって霧散していくそれらを背に、アクアは膝に手をつき、大きく息を吐いた。
――強かった。
以前の再生体とは比べものにならない。攻撃の間合い、反応速度、力配分。すべてがこちらに最適化されていた。
それでも、倒した。
倒せたのは、負けられない理由があったからだ。
崖上に立つ“敵ライダー”が、ゆっくりと拍手をした。乾いた音が、だだっ広い採掘場に反響する。
「素晴らしい。なかなかやるじゃないか」
その声は落ち着いていて、どこか愉快そうだった。
黒と白を基調にした洗練された装甲。アクアと同じ“仮面ライダー”の姿をしていながら、決定的に違う気配を放っている。
「……チッ。再生体が弱いのはお約束だろ」
アクアは強がるように吐き捨てる。
「……約束だったな」
アクアは立ち上がり、真正面から敵ライダーを睨む。
「教えろ。全部だ」
敵ライダーは肩をすくめ、ゆっくりと語り始めた。
「おまえは、勘違いしている。
この世界には――もともと仮面ライダーなど存在しない」
その言葉は、重く、冷たく、一直線に胸を貫いた。
「おまえが“仮面ライダー”という概念を持ったまま生まれたことで、世界は歪んだ。我々――怪人、適応体とは、その歪みを修正するための免疫反応だ」
アクアの指先が、わずかに震える。
「世界を壊しているのは……おまえ自身だ」
視界の端で、ルビーの笑顔がよぎる。
アイが、リビングで笑っていたあの日の光景が、胸を締めつける。
「……じゃあ、アイが消えたのも……」
敵ライダーは、あっさりと肯定した。
「そうだ。本来なら、あの女はおまえの目の前で刺されて死ぬ。それが“正しいシナリオ”だ。悲劇があり、絶望があり、それを消費する者がいる。完璧なエンターテイメントだった」
語気が、次第に熱を帯びていく。
「それを台無しにしたのがおまえだ。
だが、あの女は修正の際に願った。――おまえたちを守ってほしい、と。
その想いが、おまえの中の“ナニカ”に反応した。
だからおまえは、この世界で仮面ライダーになれた」
アクアは俯いたまま、肩を震わせていた。
怒りか、悲しみか、それとも――後悔か。
「……誰かの幸せを願って、何が悪い」
低く、絞り出すような声。
「アイが刺されて死ぬのが“娯楽”だって?
それを守ろうとした俺が……世界の敵?」
拳が、固く握りしめられる。
黒と緑の装甲の奥で、仮面ライダー魂が燃え上がるのを、アクアは確かに感じた。
「――ふざけるな」
顔を上げたアクアの目は、もはや迷いを失っていた。
「お前は仮面ライダーじゃない。
世界を守る者でもない」
一歩、前に出る。
「お前は、悲劇を食い物にする“敵”だ」
敵ライダーは、薄く笑った。
「理解したか。それでいい。
さあ、続けよう――世界の修正を」
風が、強く吹き抜ける。
採掘場跡地の空に、二人の仮面ライダーが向かい合う影が伸びた。
アクアは、確信していた。
この先に待つのが、どれほど過酷な戦いであろうと。
――それでも俺は戦う。
――ルビーと、アイが笑い合える世界を取り戻すために。
仮面ライダーは、世界の悲劇を許さない。
最終決戦の火蓋は、すでに切られていた。