本日、二話目
瓦礫と粉塵が舞う採掘場跡地。昼の光は強いはずなのに、そこだけが薄暗く、空気が重かった。
黒と緑の装甲が地面に膝をつく。何度目かの転倒だ。立ち上がるたび、金属が軋むような音がして、仮面の奥で息が乱れる。
――まだだ。
少し離れた岩陰。スマホを握る手が震えている。
MEMちょは逃げなかった。
アクアの為に何かをやりたかった。
興味でも、アクセス数でもない。ただ悔しかった。
誰かを守るために立ち上がる姿が、世界に残らないことが。無かったことにされることが。
「……立った。立ちました……」
声が裏返る。実況なんて慣れているはずなのに、喉が締めつけられて言葉が途切れる。
画面の向こうでは、敵ライダーが肩をすくめ、余裕の動きで距離を詰める。
《敵つよすぎ》《これ主役どっち?》《勝ってる方だろ》
コメントが流れる。胸が痛む。
それでも、目を逸らさない。
黒と緑のライダーが前に出る。足取りは重いが、拳は下がっていない。
敵の一撃が頬をかすめ、火花が散る。衝撃で身体が浮き、地面を転がる。それでも、すぐに起き上がる。
「……また、立ちました……」
MEMちょは叫びたいのを必死で堪える。
実況しかできない。それでも、声を止めたら、アクアが消えてしまう気がした。
《あいつ、何回立つんだ》《黒と緑のやつ、根性あるな》
少しずつ、流れが変わる。
敵ライダーは苛立ったように舌打ちし、強引に距離を詰めて連打を叩き込む。ガードの隙間から衝撃が通り、仮面の奥で息が詰まる。
――守る。
その一語だけが、身体を動かしている。
「……攻撃、あたりました……でも、下がってない……!」
MEMちょの声が震える。涙が視界を滲ませる。それでもカメラは向け続ける。
黒と緑のライダーが、よろめきながらも踏み込む。パンチ、キック。効かない。それでも止めない。
《何あいつ》《仮面ライダーだろ》《MEMちょが言ってたやつ》
応援の文字が増え始める。
胸が熱くなる。
敵ライダーが嘲るように笑い、強烈な一撃で吹き飛ばす。崖壁に叩きつけられ、砂煙が上がる。
沈黙。
一瞬、世界が止まったように感じた。
「……立って……」
MEMちょは祈るように呟く。
砂煙の中、黒と緑が動く。ゆっくりと、確かに立ち上がる。
《まだやるのか》《かっこいい》《負けるな》
MEMちょの
怖い。敵がこちらを見れば、次は自分かもしれない。それでも――。
「仮面ライダーは……」
声が震える。涙が落ちる。
「仮面ライダーは、負けない!!」
叫んだ瞬間、画面の向こうで黒と緑のライダーが前に出た。
世界がどうであれ、忘れられようと、消されようと。
いま、この瞬間だけは、確かに――ここにいる。
MEMちょは泣きながら、実況を続けた。
それが、彼を世界に繋ぎ止める、唯一の方法だったから。
それでは良いお年をー