攻撃は、通らない。
骨にまで響く衝撃だけが、一方的に積み重なっていく――少し前までの話だ。
黒と緑の装甲に走る無数の傷を、アクアは一歩引きながら見下ろした。呼吸は荒く、視界の端が白く滲む。それでも、不思議と恐怖はなかった。
(……おかしいな)
さっきまで、確実に追い詰められていた。腕は重く、脚は鉛のようで、次に立ち上がれる保証なんてなかったはずだ。
それなのに。
胸の奥から、じわじわと熱が湧いてくる。
炎のように激しくはない。だけど消えない、芯のある熱だ。
(仮面ライダー魂……それだけじゃない)
耳鳴りの向こう、風に混じって――声が聞こえた。
「……がんばれ」
「負けるな」
「立てるだろ」
はっきりとした音じゃない。言葉ですらないかもしれない。
それでも確かに、“こちらを見ている誰か”の想いが、世界の底から押し上げてくる。
敵ライダーが、一歩下がった。
「……なぜだ」
仮面の奥から、苛立ちが滲む。
さっきまで虫を見るような目をしていたその声に、焦りが混じっている。
「なぜ、まだ立てる?」
アクアは答えない。
代わりに、胸の奥に沈んでいた記憶が浮かび上がる。
――星野アクアマリンになる前の自分。
テレビの前で、何度も拳を握りしめた夜。
どれだけ傷ついても、何度倒れても、最後には立ち上がる“あの背中”。
(そうだ……これが、俺の原点だ)
人の想いは、消えない。
忘れられても、書き換えられても、それでも残る。
それが積み重なった時、世界さえ変える力になる。
アクアは大きく跳び、敵ライダーの攻撃圏から距離を取った。
砕けた地面に着地し、ゆっくりと立ち上がる。
そして、宣言する。
「……本物を、見せてやる」
風が巻き上がる。
黒と緑の装甲が、光に包まれていく。
「変・身」
重ねられた変身。
仮面ライダーの“オリジナル”。
現れたのは、無駄のない白と黒のライン、赤いマフラーが風になびく姿――
原点にして、不屈の象徴。
「な、何だ……おまえは……!」
敵ライダーが、初めて明確に動揺した。
アクアは一歩、踏み出す。
「守るために、立つ者」
拳を強く握りしめる。
そこには、世界中から集まった声と、想いと、涙が宿っていた。
「――仮面ライダー!!」
渾身の一撃。
一直線に放たれたライダーパンチが、敵ライダーの胸部を貫く。
光が弾け、エネルギーが暴走し、次の瞬間――
爆散。
轟音が収まったあと、アクアはその場に立ち尽くし、静かに構えを解かない。
戦いは終わった。だが、守る意志はまだ燃えている。
「……」
そこへ、駆け寄ってくる足音。
「アクアぁぁぁぁ!!」
MEMちょだった。
涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔、スマホを握った手は震えている。
「すご……っ、すごすぎ……っ! ほんとに……
アクアは振り返り、苦笑いのように目を細めた。
「……うるさい」
それだけ言って、彼は再び空を見上げる。
世界はまだ、完全には変わっていない。
それでも――確かに、今この瞬間、守れたものがあった。
明けましておめでとうございます
次で最終回です