本日、二話目
自宅のマンション。
玄関の扉を閉めた瞬間、奥から弾けるような声が飛んできた。
「お兄ちゃん! ママだよ!!」
ルビーの声は、喜びそのものだった。疑いも躊躇もなく、ただ「嬉しい」という感情だけでできている声。
アクアは一瞬、足を止める。
――またか?
――いや、違う。
胸の奥が、じわりと熱くなる。これは夢じゃない。敵ライダーの力で修正された現実が、世界が、確かに“戻った”感触がある。
リビングに入ると、そこには見覚えのありすぎる光景があった。
ソファの前で、ルビーが誰かの腕を引っ張って跳ね回っている。その中心にいるのは――
アイだった。
消えたあの日のまま。
二十歳の姿のまま。
星みたいな瞳で、状況を飲み込めずにきょろきょろしている。
「え、なに……? ルビー? アクア……?
えっ、ちょっと待って、二人とも……大きくない?」
戸惑いと驚きが入り混じった声。それでも声色は変わらない。
アクアの脳裏に、はっきりと浮かぶ。
――ああ。
――間違いない。
これは、俺の母親だ。
「ママ! ママ! ほんとにママだよ!」
ルビーは何度も確かめるように、アイの手を握っては離し、また抱きつく。
「うん……うん……」
アイは困ったように笑いながら、ルビーの頭を撫でる。
その仕草が、あまりにも自然で。
「……ルビー、大きくなったね。
それに……アクアも」
そこであらためて、アイの視線がアクアに向いた。
無口で、背が高くて、どこか大人びた息子。
でも、目だけは昔のまま。
アクアは何も言えず、ただ立っていた。
――消えたときのままだ。
――時間は、俺たちだけが進んだ。
隣ではMEMちょが、落ち着かない様子で髪を触っている。
「えーっと……状況説明したほうがいい?
いや、その前に……私、なんで高校生に戻ってるの……?」
学生証を見ながら、乾いた笑い。
世界の修正。その副作用。
“サバを読んでいた”という記憶と、“若返った現実”のズレに、まだ頭が追いついていない。
「……まあ、生きてるなら、いっか」
そう言って肩をすくめるMEMちょを、アクアは横目で見る。
――こいつも、覚えている側だ。
アイはようやく状況を察したのか、少し真剣な表情になる。
「……私、いなくなってたんだよね?」
その一言に、リビングの空気が一瞬、静まる。
ルビーは首を横に振りながら、必死に言った。
「でも、戻ってきた! だからもう大丈夫!」
アイはルビーを見て、次にアクアを見る。
そして、ゆっくりと歩み寄り、アクアの前に立った。
「……アクア」
その声だけで、胸の奥がきしむ。
「ルビーを、守ってくれてありがとう」
優しくて、まっすぐな笑顔。
責めるでも、問うでもなく、ただ感謝だけを伝える笑顔。
アクアは、気恥ずかしくて、視線を逸らした。
それでも。
「……当然だ」
短く、低く、そう答える。
家族として。
そして――仮面ライダーとして。
はしゃぐルビー。
状況に追いつけず笑うアイ。
まだ戸惑いながらも、ここにいるMEMちょ。
アクアは心の中で、静かに誓う。
この平和が、また世界に否定されることがないように。
いや、否定されても――
俺は立つ。
家族のいる、この日常を。
何度でも、守り続けるために。
魂は燃えている。
ありがとうございました