シン・ライダーにつづけ   作:猫太鼓

9 / 13

本日、二話目


決戦 ①

 

昼下がりのリビングは、いつもより少しだけ静かだった。

カーテン越しの光が床に淡く広がり、壁に掛けられた時計の秒針の音が、やけに大きく聞こえる。

 

いつものように、絵を描くルビーがふと、アクアを見る。

 

何かを察している――そんな目だった。

 

アクアはキッチンでコーヒーを淹れていた。

黒い液体がカップに満ちるのを見つめながら、胸の奥で静かに燃え続ける“何か”を感じている。

仮面ライダー魂。

言葉にならない衝動と使命感が、今日に限ってやけに強かった。

 

「……ルビー」

 

呼びかけると、ルビーは少し驚いたように顔を上げる。

 

「なに? お兄ちゃん」

 

カップを二つ持ってリビングに戻り、テーブルに置く。

いつもの光景。

けれど、今日は“いつも”が終わるかもしれないという予感が、アクアの中に確かにあった。

 

「ちょっと、出かけてくる」

 

その言葉に、ルビーの指が止まる。

何も聞かずに「行ってらっしゃい」と言うこともできたはずなのに、今日は違った。

 

「……また、危ないところ?」

 

ルビーの声は、明るさを保とうとしている分だけ、少し震えていた。

 

アクアはルビーの前に立ち、ルビーと視線を合わせる。

誤魔化すことはしなかった。

 

「多分な。でも――」

 

一拍置いて、アクアはゆっくりと微笑んだ。

 

「必ず戻る。アイも、連れ帰る」

 

その名前を聞いた瞬間、ルビーの瞳がわずかに潤む。

それでも彼女は、泣かなかった。

泣けば、アクアを引き止めてしまう気がしたから。

 

「……うん」

 

ルビーは小さくうなずき、精一杯の笑顔を作る。

 

「いってらっしゃい。お兄ちゃん」

 

その笑顔は、昔と変わらない。

アイがいた頃、三人で並んで笑っていた頃のままだ。

 

アクアはその表情を胸に刻み込む。

 

「ミヤコさんとMEMちょには話してある。何かあったら、すぐ連絡しろ」

 

「わかってるってば。MEMちょ、さっきも変なスタンプ送ってきたし」

 

少しだけ空気が和らぐ。

アクアは軽く息を吐き、立ち上がった。

 

玄関へ向かう背中に、ルビーの声が飛ぶ。

 

「お兄ちゃん!」

 

振り返ると、ルビーは少し照れくさそうに、でも真剣な顔で言った。

 

「……絶対、負けないでね」

 

アクアは一瞬だけ目を閉じ、それから力強くうなずいた。

 

「仮面ライダーは、負けない」

 

玄関の扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 

―――

 

昼間の採掘場跡地は、風が強かった。

剥き出しの岩肌、削られた地面、かつて人の営みがあった痕跡だけが残る場所。

 

アクアはすでに変身を終え、そこに立っていた。

黒と緑を基調とした装甲が太陽光を鈍く反射し、赤い複眼が静かに輝く。

 

《予感がする》

 

いや、これは予感ではない。

胸の奥で、仮面ライダー魂がはっきりと叫んでいた。

 

――最終決戦は近い。

 

崖の上に、影が現れる。

 

かつて倒した適応体たち。

一体一体が、以前よりも洗練され、仮面ライダーに近い姿へと変貌している。

世界が、必死に“修正”しようとしている証拠だ。

 

そして、その中央に立つ存在。

 

明らかに違った。

無駄のないシルエット、完成された装甲。

まるで“正解”の仮面ライダー。

 

「……お前が、ボスか」

 

アクアの問いに、敵ライダーはゆっくりと頷く。

 

「そうだ」

 

声は冷静で、感情が読めない。

 

アクアは一瞬だけ警戒を強める。

罠かもしれない。

だが、やることは決まっていた。

 

「全員倒す。アイを取り戻す。そして、この世界を守る」

 

その宣言に、敵ライダーは小さく笑った。

 

「何がおかしい」

 

「いいや。ただ……人間らしいと思ってな」

 

敵ライダーは背後の適応体たちを一瞥する。

 

「こいつらをすべて倒したら、教えてやる。

 世界が、何を望んでいるのかを」

 

次の瞬間。

 

適応体たちが、崖の上から一斉に飛び降りる。

重力を無視するかのような動きで、一直線にアクアへと襲いかかった。

 

アクアは拳を握りしめる。

 

脳裏に浮かぶのは、ルビーの笑顔。

アイの声。

騒がしくて、温かかった日常。

 

「――来い」

 

黒と緑の仮面ライダーは、地を踏みしめる。

 

世界が悲劇を望もうとも。

修正が運命だとしても。

 

それでも――

 

仮面ライダーは、諦めない。

 

最終決戦の幕は、確かに上がった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。