(……。)
(……………………。)
(……………………シャ。)
(モ……。……シャ。)
(俺は、……を………っていた。)
(何故か………?決まってる……!)
(暇DA・KA・RA、だよ!)
…ん?声が聞こえる。
なんだ、ここどこだ?
あれ?
真っ暗で何も見えない。ていうか、何も感じない。
視覚も嗅覚も触覚も五感のほとんどが反応しない。
ただ不思議だ。妙に落ち着いている。昔、人は何の感覚も感じることができない空間にいるとすぐに発狂すると聞いたことがあるが今のところそんなことになる心配は必要ないほどに俺の心は落ち着いていた。
それにしてもなんで俺はこんな真っ暗闇の空間にいるような状態になっているんだ。ここに来るまでの記憶もないし、こんな状況が起こる心当たりもない。
もしかしたら風の噂に聞く植物状態ってやつになってしまったんだろうか?でもあれって確か体の機能は動いてるけど意識がない状態を指す言葉だったよな。
今の俺にはしっかりと意識がある。なら違うか?
(……、)
(……。)
俺がそんな風に混乱している間にも微かだが誰かの声が聞こえてくる。
さっきから聞こえてくるこの声いったい何なんだ?
そう疑問をもった俺は静かに耳(あるのか分からないが)を澄ましてみる。すると声が聞こえた。
(それにしても本当に暇だな。草を食べるしかやることがない。)
やっぱりだ。誰かの声が聞こえる。でも、これ誰の声だ。
(はぁ、それにしても前世はゼネコン勤務のナイスガイだった俺が今はこんなプルプルボディのスライムになってしまうとはなぁ。)
ん?プルプルボディ?スライム?
(それにしても田村のやつ、本当にPCのデータ消しといてくれたかな?あいつ抜けてるところあるから不安なんだが。)
田村?PCのデータ?
なんだろう、どこかで聞いたことがあるようなキーワードがたくさん聞こえてくるような。
(それにしても前世では三上悟という名前をもっていたけど、今回の人生、いや、スライム生では名前がまだないな。まぁ、今回は親とか近くにいなかったしな。名前がないのも当然だ。自分で考えて名付けてみるか?いや、面倒臭いしやらなくていいか。)
三上悟?
どこかで聞いたような?
……あ!思い出した!転スラ、転生したらスライムだった件で聞いたことがあるんだ!
確か主人公のリムルの前世の名前が三上悟だったはず!
一時期馬鹿みたいにハマっていた作品だ。忘れるはずはない。
なら、今俺が聞こえている声は転生したらスライムだった件、略して転スラの主人公の前世である三上悟の声か?
いや、そういえばさっき転生したって言ってたな。それもスライムに。
なら今聞こえてきた声の主は転スラの主人公であるリムル=テンペストご本人に違いない。
え、でもなんでリムルの声が何処からともなく聞こえてくるんだ?
俺がそんな疑問を抱いた瞬間、急に俺の頭の中に馬鹿みたいな量の情報が流れ込んでくる。
それはこの世界の常識、詳しい学問の知識、戦闘の知識などなどこの世のありとあらゆる知識が俺の中に流れてくる。
今までだったらこんな情報量を脳に受け取ったら脳が間違いなくショートしていただろうが、今の俺の体の脳はまるで今までとはまるで異なるものに置き換わってしまったかのようにそんな情報を処理していく。
そんな時だった。
あらゆる情報を処理する中で俺は自身という存在が今現在どのような状態になっているのかを理解した。
自分がユニークスキル『大賢者』になっていることを。
まるで、最初から自分がそういう存在であることを知っていたかのようにその知識は自然に俺の頭の中に入ってきた。
そして、同時に驚愕する。
は!大賢者!?
俺が!?何で!?どうして!?
ユニークスキル『大賢者』。
知らないわけがない。転スラの主人公であるリムルが最初に獲得する二つのユニークスキルの一つにして、これからのリムルのことを大幅にサポートするスキル。
相棒と言ってもいいほどに頼もしいあの『大賢者』に俺が転生!?
まじで!?
待て、落ち着け。こんな時こそ深呼吸だ。
ヒッヒッフー!ヒッヒッフー!
いや、これじゃない!この呼吸法じゃない!これ女性が赤ちゃんを産むときにする時にする呼吸方法じゃないか!
ダメだな、無理に落ち着こうとしてもまるで落ち着ける気がしない。
でも、自分が『大賢者』だと分かって謎がいくつか解けた気がした。
そりゃあ、リムルの心の声も聞こえるし、体も動かないし、五感もないですわ。スキルだもの。あと、急にいろんな知識が流れ込んできたのも『大賢者』のスキルである『森羅万象』の影響だろう、あれはこの世の秘匿されていない全ての情報を知れるっていう権能を持っていたから、その効力によってこの世界に対する知識をつけたことで自分の正体にも気づくことができたのだろう。
それにしても、三上悟が自分がスライムに転生した時に文句を言っていた気持ちが今なら心の底から理解できる。お前!スキルって!もはや生物ですらねぇじゃねぇか!
そりゃあ転スラ世界ならスキルだって意思あるやつ結構いますけど!転生するもんじゃねぇだろ、普通!
『大賢者』って結構物語の中で重要な存在だったよね!俺がそんなんに成り変わったら原作崩壊だろ!!
まじでどんな状況になってもスキルに転生したいなんて思うわけないだろ!、………。
それから数十分ほど今の状況への愚痴を虚空に向かって叫び続ける俺なのであった。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
……まぁ、なってしまったものはしょうがない。
切り替えていこう。
これから俺はとりあえず誰とも話すことのできないこの孤独感を埋めるため俺の主であり今現在俺が話せる唯一の相手であもあるリムルさんとコンタクトをとっていこうと思う。
口で言うほど簡単にできることではないと思うが、今の俺は『大賢者』。
原作の『大賢者』だって世界の声の一部の権能を模倣してリムルに声を届けていた。中身は違ってもスペックは一緒、俺にできない通りはない。
と、やる気を出して無謀な挑戦をしてみた結果……、1ヶ月の時が経ちました。
いやー、正直ここまで時間かかると思わなかったよね。
声を出すくらい気合い出せば多分いけるやろって思ったけど、現実そこまで甘くなかった。ちっとも届かない。
体感時間一ヶ月ほどいろんな方法を考えて意思を伝えようとしたけど少なくとも俺が考えた策はことごとく全滅し、コンタクトは取れなかった。
しょうがないので原作と同じアプローチ方である世界の声の権能の一部を模倣するという手段をとってみようと思って実現しようと結果、この方法がまぁ一瞬で終わったよね。
今まで頑張った時間は一体何だったんだと思ったが、まぁいいや。終わりよければ全てよしというやつである。
結局声を届けるようになるのに一ヶ月もかかってしまった後だった。俺は原作知識もあったからすぐにこの方法を思いついて実行し実現することができたけど、知識がなかったのにこの方法を割とすぐに思いついた後、即実現してリムルさんに声を届けられるようになった原作の『大賢者』さんはやっぱすげぇや。
スペックは同じなのにその力を使う存在でここまで差が出るんだね。
まぁここまで頑張った甲斐あって今日リムルと初コンタクトできるようになったんだ。
早速やっていこうと思う。
何か返答がしやすい言葉が聞こえて来たらタイミングを合わせて言葉を投げかけることにしよう。
(それにしてもいつもこんなに食べてる草はどこに行ってるんだ?)
今だ!
《ユニークスキル『
(え!?返信!?)
やった、ようやくコンタクト成功だ。
ちなみに原作の『大賢者』と同じで世界の声を参考にして声を作っているので声質は本家と全く同じだ。
あと、何故か声を出す時の口調も一緒になっているがこれは何でこうなっているのか俺も分からない。
何故だか知らないが誰かに向かって世界の声を使って意思を伝えようとすると自然と丁寧な口調になってしまうのだ。
実際、先ほどの言葉俺としては(今まで食べたものはユニークスキル『
(ユニークスキル『
おっと、喋ってる途中で考え事をするのは良くないな。
《ユニークスキルというのは世界で一人しか所有していない能力のことを指します。確かに一般のスライムが手にするにはあまりにも特別な能力ですが、
(特別って…。お前俺の事を買い被ってないか?)
《そんなことはありません。
実際転生した記憶を持つスライムってくっそレアだしな。
(はは……。)
リムルさんが何ともいえないような声色で言葉を返してくる。
そういえば最近気づいたのだが、こちら側の意思は声を届けようと意識しないと向こう側に届けられないのに対し、向こうの心の声は全て無条件でこちらに届いてくるんだよな。
残念ながらリムルさんとスキルの間にはプライベートはないらしい。片方限定でだけど。
(そういえばユニークスキルが特別なスキルだってことはわかったけど、具体的にどんな力があるんだ?)
《それはですね……。》
まぁ転スラの主人公であるリムルのユニークスキル『大賢者』に転生してこれからどうなるかのか、正直困惑していて分からないこともたくさんあるが、ずっと困惑しているわけにもいかない。
原作の『大賢者』のようにリムルさんをサポートできるか不安だけど頑張ってみるとしよう。
間違っても原作のバッドエンドルートみたいになってはいけないのだから。
ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー*ー
これでどうかな?
《その調子です、
頭の中に"声"が聞こえる。
次の瞬間、今まで機能していなかった俺の視野の機能が急速に動き出す。
周囲の視界を確保するための情報が山のように俺の頭?の中に流れてくる。
数分後にやっと情報の流入が終わり、ふと力を抜くと今までの暗がりが嘘のように俺の周りの視界はしっかりと機能し始めていた。
やった成功したな、お前のおかげだぞ。『大賢者』。
《
何とも殊勝な心がけだろうか、可愛いやつである。
前世でもこういう奴が後輩に欲しかったな。田村みたいな生意気なやつじゃなくて。
俺はスライム。名前はまだない。
前世では三上悟というゼネコン勤務のサラリーマン……だった男だ。
なんて事のない普通の人生を送っていた俺だったが会社の後輩を通り魔から庇って死亡。
気づいたらスライムに転生していた!
よりにもよってスライムに転生したのか、と悲観にくれていた俺だったが落ち込んでいてもしかたがない、というわけで新たなる人生、いや、スライム生を歩むことになった俺は今日も今日とて精一杯生きているのである。
そんなスライム生を生きていた俺だったが最近嬉しいことが二つあった。
一つ目は、目が見えるようになったことだ!
いやー、視覚って大事DA・NE!やっぱ!
人って失うことでその存在の大切さが分かるって話を聞いたことがあるけど今現在それを強く実感している所だ。
石や草、数日前まで体で触れることしかできなかったそれを今の俺は情報として目?(あるか分からないけど)で捉えることができる。
これほど嬉しいことはない。
視界が確保できたのも、俺のユニークスキルである『大賢者』のおかげだ。
目が見えず困っている俺に『大賢者』は、エクストラスキル『魔力感知』というスキルの習得をお勧めしてくれたのだ。
エクストラスキルなんてなんか仰々しそうなスキルを習得できるのか少し心配になったが『大賢者』が前世の経験があれば比較的に楽に習得できるというので習得してみた。
さっきから現在進行形で使っているけどこれがなかなか便利で正直人間の頃の視界よりも格段に使い勝手がいい。
何でも周囲の光や音の流れを魔力で認識することで周りの情報を理解し視界を確保しているとかで360°の視界をほぼ永続的に確保できるのだ。
何なら視界の角度だけではなく、その範囲もとても優秀で百メートルほど離れた物体でさえ一瞬で見ることができる超優れものだ。
いやー、いいスキルを習得したものである。
二つ目は、話し相手が増えたことだ。そして、その話し相手こそが先程も話題に出した俺が所有しているユニークスキル『大賢者』だ。
ある時にいつの間にこんなスキル獲得していたんだろう?と不思議に思い聞いてみた所、『大賢者』曰くどうやら俺は前世で死んでこの世界に転生する際に『大賢者』のようないくつかのスキルを手に入れて転生することになりその時に『大賢者』のことも獲得したとのこと。
それにしても自分のスキルと話してるって言葉にするとなんかすごい寂しいやつみたいだが、これがなかなか話し相手としては丁度いい。この体になってから一睡もしなくても大丈夫になったからずっと起きてて正直暇だったのだ。質問をすればしっかりと返してくれる相棒の存在は俺からしたらありがたい。
この世界の植物や鉱物についての知識など、俺の知らない事をたくさん知っているため重宝させてもらっている。
よし視界見えるようになったし、この洞窟の探索をするとしよう。
『大賢者』、暇だし他にも疑問に思ってること質問していいか?
《かしこまりました、
うむ、いい返事だとも。
頼もしい相棒である。
頼ってばかりで悪いがこれからもしばらく頼りにさせてもらうとしよう。
そんなことを考えながらこの暗い洞窟を進んでゆく俺なのであった。