リムルさんとのファーストコンタクトに成功してからおおよそ数日の時が経った。
あれからいくらかの時間をかけ『魔力感知』のようなリムルさんが原作で簡単に習得することができた便利なスキルを覚えさせることができた。
他にも自分が習得しているスキルの効果についてはおおよそ把握してもらい、原作の『大賢者』に負けないくらいにはリムルさんへのサポートができたように思っている(多分)。
そんな俺だが今とてもひじょーに緊張していた。
(げええ、ド、ドラゴン!?)
《ふむ、声が聞こえたと思ったらスライムではないか。思念をもつスライムとはこれまた珍しい。》
黒く鋭い角や下手な刃物より切れ味のありそうな爪、美しく透き通った輝きを放つ黒い鱗、高層マンションみたいな大きい巨体、鋭い視線を向け此方に語りかけてきたその存在は間違いなく竜であった。
現在、俺とリムルさんの前には世界に四体しか存在しないといわれる"竜種"の一体、"暴風竜"ヴェルドラがいる。
何故そんなヴェルドラさんがリムルさんの前にいるのか?
……理由は簡単。俺のせいだ。
俺がリムルさんをヴェルドラさんの所に着くように誘導したのだ。
リムルさんは『魔力感知』を使い周りが見えるようになった。この事実のせいで誘導がとても難しかった。正直、後で『魔力感知』を覚えさせるタイミングを間違えたと後悔した。
普通にヴェルドラさんがいる所に誘導するだけではその見た目にリムルさんがビビってヴェルドラさんがいる所には近づかなくなるかもしれない。
そこで思いついたのは『魔力感知』の機能の抑制だ。
『魔力感知』の機能を極限まで低下させることで『魔力感知』で見える範囲を狭める。それによって会う直前までヴェルドラさんのことをリムルさんに気づかせないようにしようと考えた。
原作では『魔力感知』の操作をリムルさんはほとんど『大賢者』に任せていた。
俺の場合もリムルさんの『魔力感知』の操作の大部分を俺が担っている。
だからこそ、俺が機能を抑制すれば『魔力感知』で見える範囲はグッと狭まる。
リムルさんも少しは怪しむだろうが、今までたくさん色んなことを教えてもらった俺が言い訳すればそこまで怪しまずにその状況を受け入れてくれるだろう。
もし俺がリムルさんを嵌めたことに気づかれたとしてもヴェルドラさんと会った後で今回の件の弁解をすればそこまで怒られることもないはずだ。
勿論こんなに苦労してリムルさんとヴェルドラさんは理由がある。
決して悪気があったわけではない。
ヴェルドラさんがこの世界では"天災級"モンスターと呼ばれ人類が手を組んで倒さないといけない脅威であることは原作を読んでいる人間として勿論知っている。
だが、原作を読んでる人なら知っていると思うが、昔のヴェルドラにさんついてはいざ知らず、今のヴェルドラは正直言ってただの気がいいオッチャンである。
悪気がないとはいえ初対面でうるさいハゲ!と罵ったリムルさんのこともすぐに許しているし、意外と寛容なドラゴンさんなのだ。
絶対他の竜種だったらその言葉を吐いた時点で謝っても殺される未来しか見えない。兄弟姉妹の長男であるヴェルダナーヴァ辺りなら許してくれるかもしれないが、他の二人の姉妹は愛する対象に寛容なだけで意外とえげつないからな。
長女の方なら許してくれるかな?
まぁ話がそれた。
俺がリムルさんをヴェルドラさんの元へ誘導したのは単純にこの邂逅がなくなればこの先の行動に色々支障が出るためだ。
実はヴェルドラさんは今色々事情があって今俺たちがいる洞窟から動けない状態なのだが、その状態なのにも関わらず世界に対して余りにも大きすぎる影響を持っている。
もし原作開始前にここにヴェルドラが封印されていなければ今の転スラ世界の国家勢力図は大分変わっていたのではないかと俺は考えている。
転スラ世界には東の帝国という人類最大級のクソ強国家があるのだがここがもうほんとーに強い。
転スラ世界の十カ国以上ある西側諸国とたった一国で渡り合い、なおかつ勝利できるのではないか?と軽く疑問に思ってしまうほどに。(実際はそこまで簡単ではないだろうが。)
そんな帝国が西に攻めない理由は平和主義で戦争なんかしたくないからでは勿論ない。
むしろ逆帝国はチャンスがあれば西側の国を攻めたくて攻めたくてたまらないのだ。それでも攻めない理由は単純。西と東の帝国の間にあるジュラの大森林にヴェルドラさんがいるからだ。
もし西を攻めるためにジュラの大森林を通る際今は封印されているヴェルドラさんの封印が何かの拍子で解けてしまったら自分達の軍隊は壊滅的な打撃を受けてしまう。
故にヴェルドラさんがいる現状では西側には攻めいることができない。(実際まだ封印されていない頃に西側諸国に攻めいるためこのジュラの大森林を通過した結果、ヴェルドラさんの怒りを買って帝国の軍隊がボコボコにされたことがあったみたいだし。)
そんな世界に多大な影響を及ぼしているヴェルドラさんが主人公であるリムルさんにあって何の影響も及ぼさないわけがなく、この二人の邂逅なしには転スラが始まらないと言っていいほどこの二人の出会いは必須イベントなのだ。
勿論、俺とてリムルさんは絶対に原作通りに行動しなければならないと思っているわけではない。
避けられる悲劇はいくらか避けていくつもりだし。
ただせっかくパワーアップイベントを受けられるのに受けないのは勿体無いのでこのイベントくらいはこなしていこうというだけだ。
そうでもしないと俺が本物の『大賢者』でないことも相まってまじでバッドエンドルートになる可能性が高くなるからな。
そんなわけで原作とは違う形で邂逅することになったこの二人は……。
(そうだったんすよ。すごい大変だったんすよ!)
(うむ、それでこの洞窟を彷徨っているうちにここに来たと。)
(はい、そういうことです!)
まぁまぁ打ち解けていた。
概ね予想通りである。
よほど無碍に扱わない限りあまり怒らない心の広いヴェルドラさん、初めて会った人にはしっかりと敬語を使い礼儀正しいリムルさん。
二人とも相性がいいからびっくりするくらい第一印象が最悪でない限りは絶対に仲良くなれると踏んでいた。
(それにしてもお前、我のことは怖くないのか?)
(え、怖い?そりゃあ最初はびっくりしましたけど怖いなんて思いませんよ。)
(うむ、そうか。それにしてもお前、『魔力感知』を習得しているようだな。前世の記憶があるのなら習得できたことには納得がいくがそのスキルの存在をどのようにして知ったのだ?)
(あ、それはスキルが教えてくれたんですよ。)
(なに、スキルがとな?一体どういうことだ?)
(えーっと、俺のスキルに『大賢者』っていうスキルがあるんですけど、そのスキルが俺に視界が欲しいなら『魔力感知』を習得した方がいいって教えてくれたんですよ。)
(ふむ、喋るスキルとな。スキルの名称から考えるにユニークスキルであるようだが、……
(えーっと、ヴェルドラさんと話してた時は話してなかったんで分からないですけど、試してみますね、おーい大賢者!)
呼ばれているがどうしたらいいだろうか?
原作では確か
ちょっと試してみるか。声を届ける対象をリムルさん以外にも設定できるようにすればいいんだよな。
だったら……。
(反応ないですね。)
(ふむ、別のものに声を届けることはできないということか?)
ここをこうしたらいけるんじゃないか……。
(うーん、そうっぽいですね。)
(そのようだな。それにしても意思を持つスキルか……。)
《申し訳ありません。
(あ、こっちは声が聞こえました。)
(……そのようだな。我も聞こえたぞ。)
(え、ヴェルドラさんも?)
よし、成功だ。やってみればできるもんだね。
正直世界の声を再現するよりもずっと簡単だった。
数学で表現するなら問題自体は初見でも数字が変わっただけの昔解いたことのある問題だから公式は覚えているやつをそのまま使えば良いので楽に解けたというわけだ。
(貴様がこのスライムのスキルである『大賢者』か。)
《はい、ヴェルドラ様。私が
原作では、『大賢者』は、リムルさん以外のことを呼ぶ際、対象を個体名:何々と言っていたが流石にそう呼ぶのは失礼だからな。
いつもは喋る時元の『大賢者』の口調になるから注意してその名称を使わないように意識したからか、ここは原作通りの口調にならなくて良かった。
これからリムルさん以外の誰かの名前を呼ぶ時も様付けを心がけるようにしよう。
(我の名前はもう知っていると思うが、一度自己紹介でもしようではないか。我は世界に四体しかいない"竜種"のうちの一体、"暴風竜"ヴェルドラというものだ。よろしく頼む。)
《存じ上げております、ヴェルドラ様。こちらからもよろしくお願い申し上げます。》
(それで質問なのだが貴様は何故喋ることができるのだ?意思を持つスキルなど滅多にいるものではないが。)
《一つずつ順を追って答えさせていただきます。まず前提として何故私が意思を持ったのか?ですが、それは私にも理解できておりません。偶然そうなったとしか言い表すことができないかと。そして、私が喋れるようになった理由としましては、私自身が
(なるほど、自己改造をして世界の声の権能を。信じられない話ではないな。意思を持ったのは偶然か……。)
(やばい、正直何言ってるか理解できてない。)
ヴェルドラさんは俺の説明を聞き、自分の知識と照らし合わせながらその説明を理解している横でリムルさんは説明がまるで理解できず雰囲気だけで説明を聞きながらひっそりと頭にはてなマークを浮かべているようだ。
まぁ正直この説明を理解する必要はあまりない。
原作のリムルさんも『大賢者』から同じような説明を聞いてもそういうもんか、みたいな感じであまり理解していなかったし。
こういうものはできることとかが何となくわかっていればいいのだ。
(それにしてもスライムよ、お前、転生者である件といいこのスキルのことというとことん不思議なやつだ。このような奴長い間生きてきたが初めてあったぞ。)
(え、そう?褒められると悪い気しないですね。)
(そうか、それでお前はこれからどうするつもりなのだ?)
(えっーと、これからは俺と同じ同郷の人を探そうと思ってます。『大賢者』もいますから道中で困ることはないでしょうし。)
《かしこまりました。
(……ふむ、そうか。)
ヴェルドラさん、露骨に寂しがってるな。まぁ結構の間一人ぼっちでようやく話せる相手ができたと思ったらいなくなっちゃうんだもんな、寂しいよな。
ここはこっそりリムルさんに耳打ちして二人には友達になってもらうとしよう。
《
(ん?どうした?大賢者。)
《ヴェルドラ様と友達になってみるのはいかがでしょうか?
(友達か…。それもそうだな!俺、こいつのこと気に入ったし、友達になってみるのもいいな!ありがとう、『大賢者』。ヴェルドラに友達にならないか、言ってみるよ!)
俺の言葉に賛同したリムルさんが早速(よし!自分……いや、俺と友達にならないか?)と言っている。
これで原作と同じようにリムルさんとヴェルドラさんは友達になり互いに名付けをしてリムル=テンペストという名前を得るはずだ。
ひとまず原作の流れ通り仲良くなる二人のことを遠目で見守っているとしよう。
(今日から我はヴェルドラ=テンペストだ!そして、お前は……"リムル"の名を授ける。リムル=テンペストを名乗るが良い!!)
はい、原作通りイベントが進行してリムルさんとヴェルドラさんが友達になりました。
じゃあ、原作通りヴェルドラさんを一緒に連れていくとしよう。
《お二人とも、盛り上がっているところ申し訳ないのですがそんな私に二人から提案があります。》
(……提案?)
(ふむ、なんだ?)
《ヴェルドラ様も
(……『大賢者』、それは無理じゃないか?俺も封印を解けば一緒にいけるんじゃと思ったけどヴェルドラの反応を見る感じそれも難しそうだし。)
(うむ、我としても勿論と言いたいところではあるが……とは言っても我にはユニークスキルである『無限牢獄』の封印が施されている。少なくとも同じユニークスキルの力を使わねば封印は解けぬぞ。そう言えば貴様もユニークスキルだったな。……まさか、貴様なら解けるのか?)
(……!そうなのか!?『大賢者』!?)
《いえ、不可能です。》
「「……。」」
俺がそういった途端、二人がじゃあ何で提案したんだよというような感じの雰囲気をこちらに向けてくる。
《申し訳ありせん。不可能は流石に言いすぎました。時間はかかりますが方法ならあります。》
「「……!」」
そうして俺は二人に方法を説明した。
知らない人のために解説すると今ヴェルドラさんは昔勇者と戦い、その時に受けたユニークスキル『無限牢獄』の力で封印されている状態にある。
この『無限牢獄』というスキルがめちゃくちゃやばいのだ。
封印する対象を永遠に虚数空間という現実とは違う空間に飛ばして幽閉する力。
この封印を受けて仕舞えば本来なら現実に干渉することすらできなくなるはずなので念話ができるヴェルドラさんは結構おかしいのだが、そこは流石ヴェルドラさんといったところか。
…というわけでこの封印はそう簡単には外せない。
ならどうするのか?ここで鍵になってくるのがリムルさんが持っている『大賢者』以外のもう一つのユニークスキル『
この『
ただこれをバカ正直にヴェルドラさんを封印している『無限牢獄』に使っても封印は破れない。
ユニークスキルにも格がある。勇者のユニークスキルの方がリムルさんの持つユニークスキルよりも性能が高いのだ。というか、このスキルがマジでユニークスキルの中でも飛び抜けて強い。
勇者のもう一つのスキル『絶対切断』と併用すれば下手なユニークスキルよりも強い究極能力(アルティメットスキル)もちでも戦えるくらいに。
そんなわけで普通に使っても封印は破れない。
……ただ、ヴェルドラさんを一旦捕食して胃袋に収納した後、『無限牢獄』を俺の自慢の『解析』で丸裸にして『無限牢獄』の効果を消すことができればヴェルドラさんの封印は解けるというわけだ。
他にも方法はあるが、危険も高く生存率が低いのであまり他の方法は取りたくない。
(なるほどな、その方法でやれば他の方法より生存率が高くヴェルドラの封印が解けるのか、ヴェルドラ、どうするやってみるか?)
(うむ、ここでお前のことを待つのも退屈だったところだ。やってみてもいいだろう、我とお前、それに『大賢者』とやらもおればすぐに封印も解けるに違いない。)
(ハハ、話を聞いてみた感じ俺にできることは少なくて『大賢者』に任せきりになるだろうけど……。)
そんなやりとりをしながらリムルさんはヴェルドラさんを捕食した。
これから世界はヴェルドラの反応が消滅したことに全員色めき立つんだろうが、それはまた別の話だ。
ヴェルドラがいなくなった実感を抱え、洞窟の出口を目指そうとするリムルさんをみながら俺はひとまず息を吐いた。
はぁー、疲れた。これからやることもまだまだ多いし頑張らないとなぁ……。
「ふむ、先ほどと口調が違うな。貴様そっちの方が素か?」
まぁね、『大賢者』状態だとなんか口調が丁寧になっちゃうんだよね。
(口調が変わるだと、やはり貴様は少々他のスキルとは違う特徴を持っているようだな!理由は知らぬが貴様もなかなか大変というわけだ。)
そりゃあ大変だよ、だってスキルに転生したんだぜ。
これが大変じゃなかったら何が大変なんだよってえーーーー!!!???
え!?え!?え!?え!?
なんで、ここに居るの!?
「何でだと?それは勿論一人は寂しいからに決まっておろう。捕食される際にリムルの中にいる貴様を見つけてここに来たのだ。それにしても貴様、転生者だったのか。通りで特殊な個体な訳だ。魔物の転生体を見たのも我が盟友であるリムルが初めてだったが、まさか日も跨がぬ内にスキルの転生体に初めて会えるとはな、我も驚きだ。」
考え事に耽るヴェルドラさんを尻目に俺はただ困惑していた。状況は全く理解できていないが、つまりはそういうことだろう。
簡単に言えば、同居人が増えた。