サヴァイヴ〜ドルトムント財閥〜   作:一塔

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雑音

 昼前の事務所は、いつものように静かな機械音と端末のタップ音で満ちていた。

 航行記録の整理、燃料ログの突合、次便の資料作成。十四班の仕事は“派手さ”とは無縁で、けれど一つでも抜ければ宙の安全が傾く――そんな種類の、淡々として重い作業が並ぶ。

 

 その均衡を、ペルシアの声がいきなり割った。

 

「……また退職者?」

 

 事務所の入り口付近、壁面の掲示板――正確には社内イントラの掲示を投影したパネルの前で、ペルシアが片手を腰に当てたまま眉をひそめている。

 その声がやけに響いたのは、皆が“聞こえないふり”をしていた話題を、彼女が真正面から引っ張り出したからだ。

 

「今月で何人目よ……」

 

 ペルシアの指先が、掲示の一覧を上から下へなぞる。

 名前、部署、最終出社日。

 事務的に整えられた文字列が、逆に冷たく見えた。

 

 リュウジは自席から顔を上げる。

 

「……そんなに多いのか?」

 

 ペルシアは振り返り、肩をすくめた。

 

「ええ。ドルトムント財閥ではよくあることよ」

 

 あまりにも当然のように言うので、リュウジは一瞬、言葉を失った。

 “よくある”で済ませていい数ではない。

 

 そのやり取りを、タツヤがのらりと受け取った。

 椅子を回してこちらを向き、いつもの軽い声で言う。

 

「悪い噂は絶えないんだよ。ライバル企業を裏で潰した話。異論を唱えた社員が解雇された話」

 

 笑っているようで笑っていない。

 タツヤの声には、軽口を装った苦さが混じっていた。

 

「……ドルトムント財閥は、リョク社長の独裁。都合が悪ければ古参社員すら即刻解雇される。巨大過ぎて、誰も逆らえないのよ」

 

 言い切ったのはペルシアだ。

 彼女は掲示板から目を離さないまま、吐き捨てるように続ける。

 

「旧体制のやり方と言えばそれまでだけど」

 

 リュウジは背筋を正して、タツヤに視線を向けた。

 

「……そんな会社だったんですか、タツヤ班長」

 

 タツヤは「まぁね」と片眉を上げ、軽く笑う。

 

「ただ、能力がある社員には恩恵が厚いっていうメリットもあるからね。実力主義と言えば、それまでだけど」

 

 ペルシアは渋い顔のまま、唇を尖らせた。

 

「“実力主義”って言葉、便利よね。切るのも、使うのも、正当化できる」

 

「言い方」

 

 タツヤが苦笑して宥めるように言う。

 

「でもまあ、十四班は特別だから。よっぽどのことがない限りは大丈夫だよ」

 

 その“特別”という単語に、リュウジは少し引っかかりを覚えた。

 特別扱いは恩恵にもなる。

 同時に、標的にもなる。

 

 ペルシアがようやく掲示板から離れ、今度はリュウジを見て指を一本立てる。

 

「まあ、アンタも気をつけなさい」

 

「俺が?」

 

「そう。S級って肩書きは盾にもなるけど、矢も集めるのよ。特に、あの社長の目に止まったらね」

 

 “止まったら”の言い方が妙に具体的で、リュウジは軽く眉を寄せた。

 ペルシアはそれ以上説明する気がないのか、椅子の背に掛けてあったバッグをひょいと肩にかける。

 

 そのタイミングで、タツヤが彼女の背に声を投げた。

 

「ペルシア、今日は頼むね」

 

「分かってまーす」

 

 ペルシアはくるりと振り返り、悪戯っぽく笑う。

 

「オシャレしてくる」

 

 言い残して、事務所の扉を軽快に抜けていった。

 

 扉が閉まると、さっきまでの彼女の熱が嘘みたいに空気が静まる。

 残ったのは、掲示板に並ぶ“退職”という文字列の冷たさと、タツヤの苦笑だけだった。

 

 リュウジは視線を戻しきれず、タツヤに尋ねる。

 

「……今日は何かあるんですか?」

 

「ああ」

 

 タツヤは椅子を回しながら、いかにも面倒そうに肩をすくめた。

 

「ちょっとした社交パーティーにね。ペルシアは俺の付き添い」

 

 リュウジは思わず納得しかけて、すぐに首を傾げた。

 さっきのペルシアは、浮かれているようで、どこか刺々しかった。

 

「それにしては……機嫌が悪そうでしたね」

 

 タツヤは「うーん」と曖昧に唸り、目線だけを事務所の奥へ滑らせた。

 そこにはエリンの席がある。

 

「まあ、それはエリンにでも聞いてみて」

 

 言い方が、いつもののらりくらりだ。

 ――でも、逃げている、というより。

 “俺が言うと面倒が増える”と分かっている人の顔だった。

 

 リュウジは小さく頷き、端末の画面に視線を戻すふりをした。

 だが指は止まったままだ。

 

(社交パーティー……ドルトムントの……)

 

 社交という言葉の響きは軽い。

 けれど“ドルトムント財閥の社交”となると、話が変わる。

 人脈、利害、上下関係、そして“見られる”という圧。

 たぶん、ただの食事会ではない。

 

 リュウジの端末に、次便の準備チェックリストが表示されている。

 いつもなら淡々と潰していける項目が、今日は妙に遠い。

 掲示板の“退職者”が頭から離れないのだ。

 

 ――能力がある社員には恩恵が厚い。

 ――都合が悪ければ古参社員すら即刻解雇。

 どちらも同じ会社の顔だ。

 

 その時、背後から静かな足音。

 声をかける前から、気配で分かる。エリンだ。

 

 エリンは資料束を抱えたまま、リュウジの横で足を止めた。

 いつもの落ち着いた表情。けれど、眼の奥に忙しさが見える。

 

「リュウジ、さっきの掲示板……見た?」

 

 口調は柔らかい。

 けれど“軽い雑談”ではない温度だ。

 

「……はい。退職者がまた増えてました」

 

 リュウジが敬語で返すと、エリンは小さく頷き、唇を結んだ。

 

「そう……。最近、増えてるのよ」

 

「ペルシアも言ってました。ドルトムントではよくあることだって」

 

「よくある、で片づけていい話じゃないのにね」

 

 エリンは苦笑したが、笑みはすぐに消える。

 そして、少し言いづらそうに続けた。

 

「今日の社交パーティー、ね……」

 

 リュウジは視線を上げた。

 

「何か問題があるんですか?」

 

「問題というか……空気が悪いの」

 

 エリンは“空気”と言った。

 それは彼女が一番敏感に感じ取る領域だ。

 船内でも、事務所でも、場の温度を先に拾うのはエリンの役目。

 

「退職者が増えてるのも関係してる。上が苛立ってる。だから、下に当たる。……こういう時のパーティーは、情報戦になりやすいの」

 

「情報戦……」

 

「誰が残る、誰が切られる。誰が取り入っている。誰が逆らった。――そういう噂が、グラスの音と一緒に飛び交う」

 

 エリンは言葉を選びながらも、淡々と事実を並べた。

 “場”を知っている人の口ぶりだった。

 

 リュウジは、ふと気づく。

 

「……だからペルシアは、機嫌が」

 

 エリンは小さく息を吐いた。

 

「ペルシアはね、ああいう場で“拾い過ぎる”のよ。耳が良いから。聞こえなくていい言葉まで聞こえる。拾った言葉を、心の中で噛んじゃう」

 

 リュウジは思わず、昨日の取材で自分が言ったことを思い出した。

 “耳だけじゃない。拾ったものを形にして指示に変える”

 ――褒めたつもりの言葉が、別の角度で刺さる。

 

「……でも、ペルシアは強そうに見えます」

 

「強いわよ」

 

 エリンは即答した。

 強い。

 けれど、強いからこそ、我慢が続く。

 

「強いから、怒る。強いから、守ろうとする。……そして強いから、疲れる」

 

 それは、誰かの話というより、エリン自身にも向けた言葉に聞こえた。

 

 リュウジは少し間を置き、静かに言った。

 

「俺にできることはありますか?」

 

 エリンは目を瞬かせてから、ふっと柔らかく笑った。

 ほんの少し、肩の力が抜ける笑い方。

 

「そうね……。今日はペルシアを“煽らない”。それだけで助かるわ」

 

 リュウジは苦笑した。

 

「……努力します」

 

「うん。お願い」

 

 エリンは資料束を抱え直し、立ち去りかけて、ふと思い出したように振り返る。

 

「リュウジ」

 

「はい」

 

「さっきタツヤ班長が言ってたでしょ。十四班は特別だからって」

 

「……はい」

 

 エリンの目が少しだけ鋭くなる。

 チーフパーサーの眼差し。

 船内の“状態”を整える人間が、危険の芽を見つけた時の目。

 

「特別っていうのは、守られてるって意味でもあるけど……“見られてる”って意味でもあるの。分かる?」

 

 リュウジは、胸の奥で何かがカチリと鳴った気がした。

 

「……分かります」

 

「なら大丈夫」

 

 エリンは頷き、今度こそ自分の席へ戻っていった。

 

 リュウジは、その背中を見送りながら、改めて掲示板の“退職”という文字列を思い浮かべる。

 ドルトムント財閥。

 巨大で、強くて、冷たい場所。

 その中心にいるリョク社長の影。

 

 その日の午後、事務所の空気はいつも通りに戻ったように見えた。

 端末の音、紙の音、椅子の軋み。

 だが、リュウジの中だけは違う。

 

 宙の危険は、計器に出る。

 人の危険は、掲示板に出る。

 

 そしてどちらも、“見落とした瞬間”に手遅れになる。

 

 リュウジは端末に指を戻し、チェックリストを一つずつ潰しながら、心の中で決めた。

 

(――今日、俺は余計なことは言わない。

 ペルシアが拾い過ぎないように、俺が余計な火種にならない)

 

 ……だが。

 

 “余計なことを言わない”ことが、時に一番難しい。

 特に、誰かが傷つけられそうな場面では。

 

 リュウジは目を伏せ、息を整える。

 社交パーティー。

 退職者が増える月。

 リョク社長の独裁が噂される巨大組織。

 

 今日という日は、ただの一日で終わらない気がしてならなかった。

 

ーーーー

 

 夕方の事務所は、日中よりも少しだけ空気が軽い。

 ――と言っても、それは“仕事が終わりに近づくから”ではない。十四班にそんな綺麗な終業は滅多に来ない。

 ただ、日誌を書き終えた者から呼吸が整い、端末の通知音が減り、紙の束が机の上から少しずつ消えていく。そんな小さな変化が、僅かな余裕に見えるだけだ。

 

 その余裕を、別種のきらめきが破った。

 

 扉が開く音。

 次いで、軽いヒールが床を叩く音。

 

 ドレス姿で現れたペルシアは、ハンドバッグをぐるぐると回しながら事務所に入ってきた。

 普段の制服とはまるで違う。布の光沢、肌の見え方、髪のまとまり。彼女の輪郭が、別の世界の照明に照らされたみたいに際立っていた。

 

「……あら」

 

 エリンが最初に声を漏らし、口元に柔らかい笑みを浮かべた。

 

「ペルシア、似合ってるじゃない」

 

「本当、綺麗です!」

 

 ククルが即座に目を輝かせて言う。

 あまりの素直さに、ペルシアは一瞬たじろいだように瞬きをしたが、すぐにいつもの口調に戻る。

 

「衣装一つでこんなに変わるんですね」

 

 カイエが淡々と言う。彼女の“淡々”は冷たいのではなく、観察の精度が高いだけだ。

 続いてエマが上品に頷き、少し声を落として言う。

 

「上品です。とても」

 

 褒め言葉が重なって、ペルシアは胸の前でバッグを抱えるようにして、わざとらしく肩をすくめた。

 

「なになに、みんなして褒めて。何も出ないわよ?」

 

 そう言いながらも、耳の先がほんの少し赤い。

 リュウジはそれに気づき、内心で小さく息を吐く。

 

(……緊張してる)

 

 社交パーティー。

 普段の船内や事務所とは違う場所。違うルール。違う視線。

 ペルシアは強い。けれど“強い”は“平気”の別名ではない。

 

 リュウジが言葉を選びながら口を開く。

 

「……本心だろ。よく似合ってる」

 

 途端にペルシアが動きを止めた。

 バッグを回していた手が止まり、肩がほんの少しだけ強張る。

 

 ペルシアは大きく目を見開いてリュウジを見つめた。

 

「……え?」

 

 その反応があまりに素直で、逆に事務所の空気が一瞬止まった。

 ククルが「えへへ」と笑い、カイエが小さく咳払いして視線を端末に戻し、エマが口元を隠して微笑む。

 エリンだけが、静かにその場を見守っていた。

 

 ペルシアは数秒遅れて“いつもの自分”を取り戻す。

 リュウジの腕に、わざと強めに肘を当てた。

 

「なになに、リュウジまで。惚れ直しちゃった? このこの〜」

 

「……やめろ」

 

 リュウジは即座に返す。

 頬に熱が上がるのを悟られないように、視線を逸らしながら。

 

 そのタイミングで、扉が再び開いた。

 

「いや〜、遅くなってごめん」

 

 のらりくらりした声。

 タツヤが、いつものジャケット姿で現れた。

 だが今日は、肩や襟元が少しだけ“社交”仕様になっている。普段の制服の着こなしとは違い、形だけ整えているのが分かる。

 

 ペルシアは即座に踵を返し、タツヤの前に詰め寄った。

 

「タツヤ班長、遅い。早く行きましょ」

 

「はいはい。急かすねぇ」

 

 タツヤが苦笑しながら言うと、ペルシアは「当然」と言わんばかりに顎を上げる。

 その姿は軽口の塊みたいなのに、足先だけが少し落ち着かない。

 彼女の中で“気合”と“不安”が同居しているのが、見える人には見える。

 

 タツヤが事務所内を一瞥し、最後にエリンへ視線を向けた。

 

「ああ、それじゃあエリン。後は頼んだわよ」

 

「はい」

 

 エリンは短く頷いた。

 その声は穏やかなのに、芯がある。

 “任された”というより、“支える”ことを当然としている人の声だ。

 

「それじゃあレッツゴー!」

 

 ペルシアが大げさに腕を振り、歩き出す。

 その背中にククルが「いってらっしゃい!」と手を振り、エマが「お気をつけて」と微笑む。

 カイエは視線を上げずに「……武運を」と小さく呟き、珍しくペルシアが「縁起でもない」と返して笑いを取った。

 

 ――けれど。

 

 歩き出したペルシアがエリンとすれ違う瞬間、彼女の速度がほんの少し落ちた。

 

 エリンは声を張らない。

 ただ、誰にも聞こえないくらいの音量で、ペルシアの耳元に呟いた。

 

「無理しないでね」

 

 ペルシアは振り返らない。

 振り返ったら、きっと“弱さ”が見えてしまうから。

 その代わり、口元だけを動かし、短く返した。

 

「……分かってる」

 

 それだけ。

 たったそれだけなのに、リュウジの胸の奥に小さな棘が刺さった。

 

(分かってる、って言うときが一番危ない)

 

 分かっているから、我慢する。

 分かっているから、飲み込む。

 分かっているから、笑ってやり過ごす。

 

 ペルシアはそのまま歩幅を元に戻し、いつもの調子に戻る。

 振り返って、わざと大声で言った。

 

「さーて今日は飲んで、吐いて、飲むぞ!」

 

「粗相はないようにね」

 

 タツヤが、わざと軽い声で釘を刺す。

 だがその“軽さ”の裏に、彼の責任が隠れているのをリュウジは知っている。

 社交パーティーは遊びではない。

 場で起きたことは、後で“仕事”として返ってくる。

 

 ペルシアが舌を出す。

 

「はーい、班長」

 

 そして二人は事務所を出ていった。

 

 扉が閉まると、そこに残ったのは、少し冷えた空気だった。

 さっきまでの華やかさが、瞬間的な幻だったみたいに。

 

 ククルがぽつりと言う。

 

「……ペルシアさん、すごく綺麗でした」

 

「綺麗よ」

 

 エリンが頷く。

 その返事は優しい。

 けれど視線は、どこか遠い。

 

 リュウジは自席に戻るふりをして、エリンの表情を盗み見た。

 チーフパーサーとしての“整えた顔”だ。

 ただ、その奥にある心配が、完全には隠せていない。

 

 リュウジは小さく呼吸を整え、エリンに声をかける。

 

「……エリンさん」

 

「なに?」

 

「ペルシアは、今日……何かあるんですか」

 

 エリンは一瞬だけ迷い、机の上の端末を整えるふりをした。

 それから、柔らかい声で言う。

 

「たぶん、何も起きない。起きないように、タツヤ班長が連れていくの」

 

「……でも」

 

「でも、ね」

 

 エリンは言葉を継いだ。

 目は淡々としているのに、その声音だけが少し低い。

 

「ドルトムントの社交は、笑顔で人を測る場所だから。

 “何も起きない”っていうのは、ただ平穏なだけじゃなくて……誰かがどこかで、黙って飲み込んでるってことでもあるのよ」

 

 リュウジは喉が少し乾くのを感じた。

 掲示板の“退職者”が、頭に浮かぶ。

 巨大すぎる会社。逆らえない組織。

 その中で、笑顔を保って生き残る人たち。

 

 リュウジはゆっくり頷いた。

 

「……分かりました」

 

 エリンはふっと笑う。

 いつもの柔らかさが戻る。

 

「心配してくれてありがとう。

 でも今は、私たちは私たちの仕事。十四班を整える。ね?」

 

「はい」

 

 リュウジは端末に視線を落とした。

 チェックリストを一つ、二つ、潰していく。

 けれど、心は静かに“外”へ伸びている。

 

 タツヤとペルシアが、どんな笑顔を見せ、どんな言葉を拾い、何を飲み込み、どこまで踏み込むのか。

 それが十四班の未来にどう響くのか。

 

 ――そしてもし。

 

 ペルシアが“飲んで吐いて飲む”と冗談を言ったその裏で、

 本当に何かを吐き出さなければ耐えられない夜になったなら。

 

 その時、守るべきものは宙の安全だけじゃない。

 十四班の“状態”もだ。

 

 リュウジは、画面の文字を追いながら、心の中で静かに誓った。

 

(……俺は、見落とさない)

 

ーーーー

 

 社交パーティーの会場は、ホテル最上階のガラス張りのホールだった。

 夜景の代わりに広がるのは、コロニーの人工の灯り――整然と並ぶ居住区画の光と、遠くに浮かぶ航路灯の点滅。そこにシャンデリアの光が重なり、やけに“明るいのに冷たい”空間が出来上がっている。

 

 グラスの触れ合う音。乾いた笑い声。香水と酒と高級な布の匂い。

 誰もが笑っている。けれど、笑顔の下で測り合う目が忙しく動いていた。

 

 タツヤはその空間を、いつもの“のらりくらり”で泳いでいた。

 肩の力は抜けているように見える。相手の話は半分だけ聞き、半分は流し、必要な所だけ拾って形にする。

 十四班の操縦室で見せる柔らかさをそのままに――でも、今は“部下を守るための柔らかさ”だ。

 

 ペルシアは、タツヤの半歩後ろ。

 背筋を伸ばし、笑う。相手の目を見て、頷き、グラスを合わせる。

 動きは完璧だった。ドレスも似合っている。髪も整っている。

 なのに、リュウジが褒めた時に見せたあの素直な驚きは、もうどこにもない。

 

 顔色には、疲れが出ていた。

 

 疲れの原因は、挨拶回りそのものではない。

 会話の中身――それを取り巻く“音”だ。

 

 「……今度の人事、聞いた?」

 「ねえ、あの部署の古参、切られたらしいわよ」

 「リョク社長の意向だって。逆らうと飛ぶって」

 「十四班? あそこは別枠でしょ。守られてるって噂」

 「守られてる、ねえ……見られてるんじゃない?」

 

 笑顔のまま、誰かを値踏みする声色。

 “冗談ですよ”の皮をかぶせて吐かれる悪意。

 本人がその場にいない誰かの人生を、紙コップみたいに潰す言葉。

 

 ――聞こえる。

 ペルシアには、それが全部聞こえる。

 

 彼女は平気なふりをして、グラスを口に運ぶ。

 喉を焼く熱が、耳に入ったものを一瞬だけ薄める。

 だけどすぐに、別の“音”が追いかけてくる。

 

 「若いのに、あの役職。運がいいのね」

 「運? 違うわ、あれは“拾われた”のよ」

 「拾われたって……誰に?」

 「決まってるじゃない。社長に」

 

 ペルシアは笑った。

 笑ったけれど、視界が一瞬だけ揺れた。

 アルコールのせいじゃない。胸の奥に、嫌なものが沈んでいく感覚。吐き気に近い。

 

(……笑ってる場合じゃないのに)

 

 彼女は自分の内側で呟く。

 自分は何をしにここに来た?

 タツヤの“付き添い”――表向きはそう。

 でも本当は、十四班に飛んでくる矢を、耳で先に拾うためだ。

 拾って、形にして、現場が潰れないように立ち回るためだ。

 

 分かっている。

 分かっているのに、気分がすぐれない。

 

 “組織”が好きになれない。

 “組織の物差し”で、現場の手足を縛る空気が。

 

 ペルシアはグラスを飲み干し、口元を拭う。

 笑顔を作る。

 ――そして、その笑顔が“仮面”だと見抜かれないように、もう一度だけ酒を頼んだ。

 

 ***

 

 一方その頃。

 

 ユイの家――というより、タツヤの小さな住まいは、今日も温かい騒がしさに包まれていた。

 夕食の片付け、歯磨き、寝る前の絵本。

 ユイは元気いっぱいで、リュウジの袖を引っ張っては笑い、エリンの髪を弄ってははしゃいだ。

 

「ユイ、今日はもうおしまい。おやすみの時間よ」

 

「えー、まだ!」

 

「まだじゃない。明日も元気に遊ぶために寝るの」

 

 エリンの声は優しいのに、譲らない。

 ユイは一瞬だけ口を尖らせ、でも結局、エリンの“正しい”に負けて、布団に潜り込んだ。

 

「リゅうじ……また明日も来る?」

 

「明日は仕事だ」

 

「えー……」

 

「でも、また来る。約束だ」

 

 ユイは目をこすりながら、満足げに頷いた。

 そのまま小さな呼吸が整い、数分もしないうちに寝息に変わる。

 

 寝かしつけが終わる頃には、部屋の灯りも落ち着いていた。

 キッチンの小さな照明だけがついている。

 エリンは静かに立ち上がり、食器を軽く整えると、コーヒーを淹れた。

 

 コトン。

 机の上にカップが置かれる音。

 その瞬間、リュウジはふと、壁の時計に目を向けた。

 

 針が進む。

 夜は深くなる。

 社交パーティーの終わりは、まだ見えない。

 

 エリンが微笑む。

 その笑みには、からかいと理解が半分ずつ混ざっていた。

 

「ふふっ。そんなにペルシアが気になる?」

 

「……いえ」

 

 リュウジは即答した。

 だが、エリンはすぐに首を傾けたまま言う。

 

「嘘つき。さっきから時計見過ぎよ」

 

「……流石、エリンさんです」

 

 リュウジが観念したように言うと、エリンはコーヒーを啜り、息を吐いた。

 

「まあ、心配する気持ちは分かるけどね」

 

 エリンは言葉を探すように、カップを両手で包む。

 

「ペルシアは、ああいうの嫌いだから」

 

 リュウジは眉を寄せた。

 

「……聞こえすぎること、ですか?」

 

「ええ。聞きたくないことまで聞こえちゃう」

 

 エリンは頷く。

 それだけなら、まだ耐えられるかもしれない。

 けれど、エリンは続けた。

 

「でも、それよりも――その話をしている“組織”が嫌いなのよ」

 

「組織が?」

 

 リュウジが聞き返すと、エリンは少しだけ姿勢を正した。

 チーフパーサーの顔になる。

 誰かを責めるのではなく、ただ“構造”を語る人の目だ。

 

「そう。私たち乗務員は、お客様の安全を守る。リュウジは操縦で安全を守るでしょう?」

 

「……ええ」

 

「そのためには、できることは何でもやる」

 

「もちろんです」

 

 リュウジが迷いなく答えると、エリンは小さく笑った。

 その笑いは嬉しさというより、同じ方向を見る人間への確認の笑いだ。

 

「でもね、それを“規則”や“組織の物差し”で邪魔されることがある」

 

 リュウジは息を飲んだ。

 エリンの言葉は、ただの愚痴じゃない。現場の痛みだ。

 

「たとえば……操縦の安全性度外視で、目的地までの最速運航をしろとか」

 

 リュウジの背筋が自然と伸びた。

 

「……それを許すわけにはいきません」

 

「ええ。それは私もペルシアも同じ」

 

 エリンは頷く。

 だが、そこで声を落とした。

 

「だけど、私たちが組織にいる以上、逆らうことはできないのも事実」

 

 リュウジは拳を握りかけて、やめた。

 感情で殴りたい相手が、ここにはいない。

 エリンが言っているのは、誰か個人の悪意ではなく、“構造”だ。

 

「組織は現場を見ていない」

 

 エリンの声は穏やかで、だからこそ重かった。

 

「見ていないのに、数字と規則と見栄で命令する。

 それでも、私たちは安全を守らなければならない」

 

 リュウジは静かに頷いた。

 自分も知っている。

 航路の“効率”と、実際の機体の“安全”が一致しないことがある。

 どれだけ説明しても、“指標”しか見ない相手がいることも。

 

「そのもどかしさが……ペルシアは特に嫌いなのよ」

 

 エリンはそう言って、ふっと息を吐いた。

 たぶん、ペルシアは今、会場でそれを聞き続けている。

 人の命を扱う仕事の外側で、命が数字のように扱われる音を。

 

 リュウジは、もう一度時計に視線を向けそうになって、止めた。

 代わりに、エリンの目を見て言う。

 

「……ペルシアは、強いです。でも」

 

「でも?」

 

「強いから、無理をする」

 

 エリンは一瞬だけ目を細め、柔らかく笑った。

 肯定の笑みだった。

 

「そうね」

 

 その瞬間、部屋の空気が少しだけ温かくなった。

 言葉にしたことで、“心配”が形を持ったからだ。

 

 エリンはカップを机に置き、少しだけ肩を落とす。

 

「ペルシアはね、現場が好きなの。

 客室の空気、乗務員の動き、乗客の声――全部が“今ここ”にある。

 だから、組織の話が嫌い。現場を見ないで語るから」

 

 リュウジは小さく息を吐く。

 

「……俺も、同じです」

 

 エリンは頷き、微笑んだ。

 

「だから大丈夫。ペルシアは、あなたみたいな人がいると少し楽になるのよ。

 “分かる”って言ってくれる人がいるだけで、拾ったものを一人で抱え込まなくて済むから」

 

 リュウジは言葉に詰まり、少しだけ視線を落とした。

 

「……俺は、何ができるでしょう」

 

 エリンは考えるふりをして、でもすぐに答えた。

 

「帰ってきたら、いつも通りにしてあげて」

 

「いつも通り?」

 

「ええ。軽口を言っても、流して。

 真面目な顔をしても、気づいて。

 必要なら、止めて」

 

 エリンの言葉は、指示ではなく信頼だった。

 そしてそれは、ペルシアの“味方”を増やすということでもある。

 

 リュウジは静かに頷く。

 

「……分かりました」

 

 その時、リュウジの端末が小さく震えた。

 通知ではない。着信でもない。

 ただ、圏内に入ったときに走る短い同期の振動。

 

 リュウジは画面を覗き、息を止めた。

 

 ――ペルシアからの短いメッセージ。

 

『まだ帰れない。大丈夫。たぶん。』

 

 “たぶん”が刺さる。

 大丈夫なら、たぶんは要らない。

 

 リュウジが無言で画面を見つめていると、エリンが気配で察したように首を傾けた。

 

「……ペルシア?」

 

「……はい。まだ帰れないって。大丈夫、たぶんって」

 

 エリンは小さく眉を寄せた。

 そして、何も言わずに一度だけ頷く。

 

「……分かった」

 

 エリンはコーヒーを一口飲み、カップを置いた。

 柔らかな声で言う。

 

「リュウジ。もし、ペルシアが帰ってきたら」

 

「はい」

 

「笑って迎えて。

 でも、目だけは見てあげて。

 あの子は“平気”を演じるのが上手いから」

 

 リュウジは、真っ直ぐ頷いた。

 

「……はい」

 

 時計の針は変わらず進む。

 ユイは寝息を立てる。

 部屋は静かだ。

 

 けれどその静けさの外で、ペルシアは今も“組織の音”を聞いている。

 笑って、頷いて、グラスを合わせて――聞こえてしまうものを飲み込んでいる。

 

 リュウジは端末を握り、短く返信した。

 

『無理するな。帰り、連絡しろ。』

 

 それだけ。

 余計な言葉は要らない。

 でも、繋がりは切らない。

 

 エリンが小さく息を吐き、リュウジのカップに視線を落とした。

 

「冷めちゃうわね。もう一杯、淹れようか」

 

「……お願いします」

 

 エリンが立ち上がる。

 湯気が立ち、コーヒーの香りが部屋を満たす。

 その温度が、今夜の不安を少しだけ薄めてくれた。

 

 ――社交パーティーが終わるのは、まだ先だ。

 だけど、ここには“現場の人間”がいる。

 拾ってしまった音を、ひとりで抱えないようにするための灯りがある。

 

 リュウジは再び時計を見た。

 今度は、隠さずに。

 

 エリンは何も言わなかった。

 ただ、静かに湯を注ぐ音だけが、夜を支えていた。

 

ーーーー

 

 挨拶回りが一通り終わったのは、会場の空気が「次は誰と話すか」から「誰と笑うか」へ移り始めた頃だった。

 名刺の角を揃える指先、グラスを持つ手の高さ、笑うタイミング――それらが、ようやく“正解”を見つけた人間たちが少しだけ緩む時間帯。

 

 タツヤはペルシアの横に並び、肩越しに彼女の顔色を覗いた。

 のらりくらりとした表情のまま、声だけを落として言う。

 

「……ペルシア。少し休んできな」

 

 ペルシアは一瞬だけ目を閉じて、それから薄く笑った。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 額の汗をハンカチで拭いながら、彼女は壁際へ下がる。

 背中に刺さる視線の角度を計算し、歩幅を整え、立ち止まる位置まで完璧だった。

 まるで“休む”ことすらパフォーマンスに見せるみたいに。

 

 ウェイターが近づき、トレイからシャンパンを差し出す。

 ペルシアは受け取り、グラスの脚を細い指で挟んだ。

 

 ひと息。

 喉の奥が乾いているのに、飲む前から気分は重い。

 

(まったく……嫌になる)

 

 口には出さない。

 出した瞬間、誰かの“材料”になる。

 ペルシアはそういう空気の匂いを、今日だけで嫌というほど嗅いでいた。

 

 グラスを唇に当てる。泡が舌を弾く。

 甘さと酸味と、ほんの少しの苦さが、胸の奥のざらつきをなでるように落ちていく――はずだった。

 

「お嬢さん。いま少しいいかな」

 

 声が、背後から差し込んだ。

 低いが、威圧で押してくる声ではない。

 むしろ、静かすぎるほど静かな声。

 その静けさが逆に、周囲の雑音を切り分けてしまう。

 

 ペルシアはグラスを持ったまま、ゆっくり振り返った。

 

 白髪混じりの短髪。年齢は五十代後半か六十代手前。

 背は高くない。だが、立ち方に“慣れ”がある。

 肩で威張らないのに、周囲が勝手に道を空けてしまうような人間の立ち方。

 

 ペルシアは笑顔のまま言った。

 

「すみません、私は付き添いなので。今、班長を呼んでまいりますね」

 

 断るための、正しい手順。

 相手の顔を潰さず、自分の立場も守る。

 いつものペルシアなら、それで十分だった。

 

 しかし男は、一歩も引かない。

 

「いや。君と話をしたかったんだ」

 

 ――その言い方が、嫌だった。

 “君”と呼ぶ距離感。

 こちらが拒否する前提を持たない声音。

 そして何より、次の一言。

 

「ドルトムント財閥の……ペルシアさん、だね」

 

 名前を呼ばれた瞬間、ペルシアの背筋がわずかに固くなる。

 愛想の笑みは消さない。けれど、目だけが冷える。

 

 ペルシアはグラスを軽く揺らし、泡の動きを見ながら言った。

 

「……おじさん、何者?」

 

 男は口元だけを上げた。

 

「私は宇宙管理局長をしている。マーカスだ」

 

 その肩書きが会場の空気を一瞬だけ変えた。

 周囲の笑い声がほんの僅かに遠くなる。

 名刺交換の動きが一拍遅れる。

 言葉にしなくても、人が“格”を測り直す瞬間の静けさ。

 

 ペルシアは眉一つ動かさない。

 ただ、シャンパンを一口含み、落ち着いた声で返す。

 

「宇宙管理局長が、私に何の用ですか?」

 

 マーカスは、真っ直ぐに言った。

 

「単刀直入に言おう。君の力を貸してほしい」

 

 ペルシアは首を傾げた。

 わざと“分からないふり”をする。

 相手の意図を先に言わせる。

 それは耳のいい彼女が身につけた、自己防衛の作法だった。

 

「……私の力?」

 

 マーカスは短く頷く。

 視線が、ペルシアの耳元に行ったように見えた。

 それだけで、彼女の内側の警報が鳴る。

 

「君の“耳”のことだ」

 

 ペルシアは笑みを崩さない。

 でも喉の奥がわずかに硬くなる。

 

「……ずいぶん詳しいんですね」

 

「調べたわけではない。必要があって知った」

 

 マーカスは声を落とした。

 まるで周囲に聞かせないためではなく、言葉の温度を下げるために。

 

「宇宙管理局で働かないか」

 

 ペルシアの指先が、グラスの脚を強く挟んだ。

 泡が落ち着き、液面が静かになる。

 

「……局長、ここでそれ言う?」

 

「ここが一番安全だ」

 

 安全。

 その単語が、皮肉に聞こえた。

 この会場ほど危険な場所はない。笑顔の裏で、人を切り捨てる言葉が飛び交っている。

 だがマーカスの言う“安全”は、別の意味だろう。

 

 ――ここなら、誰もが「ただの社交辞令」に見せかけられる。

 そういう計算。

 

 ペルシアは軽く息を吐いた。

 笑顔をほどき、少しだけ本音の温度を混ぜる。

 

「宇宙管理局が、ドルトムントの人間を引き抜くって、問題にならない?」

 

「問題になる。だからこそ私が出てきた」

 

 マーカスは揺れない。

 視線に迷いがない。

 それが余計に、ペルシアの神経を逆撫でする。

 

「……どうして私?」

 

 マーカスは答える代わりに、ひとつだけ質問を投げた。

 

「君は今、ここが嫌いだろう」

 

 ペルシアは笑った。

 笑い方だけは軽い。

 けれど目は笑っていない。

 

「……嫌いって言ったら、局長が喜ぶ?」

 

「喜ばない。理解するだけだ」

 

 マーカスはゆっくり続けた。

 

「私は、組織や規則で人の命を粗末に扱うことに嫌悪している。

 現場が守ろうとしているものを、机上の都合で折る。

 数字だけで“安全”を語る。

 ――私は、それが許せない」

 

 ペルシアの背中に、冷たい汗が滲む。

 

 マーカスは、続ける。

 

「君も同じだろう。

 君は聞こえてしまう。聞こえてしまうから、余計に嫌いになる。

 現場の声と、机の声の間にあるねじれを――君は誰より早く拾っている」

 

 ペルシアは黙った。

 否定したいのに、否定できない。

 彼の言葉が当たっているからではない。

 “当てられた”ことが腹立たしいのだ。

 

 マーカスは、ここでようやく“餌”を出した。

 

「宇宙管理局に、君の力を最大限に活かせるポストを用意する。

 新設の統括官だ」

 

 ペルシアの眉がわずかに動いた。

 新設。統括官。

 つまり、“既存のしがらみに縛られない席”だと匂わせている。

 

「現場の声を拾い、判断に変え、命を守る。

 規則のための規則ではなく、守るための仕組みを作る。

 君が守りたいものを、一緒に守ってほしい」

 

 ――甘い。

 甘すぎる。

 そして、怖い。

 

 ペルシアの耳には、会場の雑音が入ってくる。

 別卓で笑う声。

 誰かが“また退職者が出た”と囁く声。

 “リョク社長の独裁”と軽く言う声。

 

 組織が嫌い。

 だから、組織の中で“自由”と言われる席に惹かれる。

 

 分かっている。

 これは罠にもなり得る。

 マーカスが本気だとしても、宇宙管理局だって組織だ。

 どこにも規則はある。どこにも政治はある。

 ただ、形が違うだけ。

 

 ペルシアはゆっくりグラスを置いた。

 泡がまた、静かに立ち上る。

 

「……ヘッドハンティングは受けないです」

 

 語尾だけ丁寧にしたのは、わざとだ。

 相手が“局長”だからではない。

 ここで乱暴に断れば、余計な波紋が立つ。

 

 マーカスは表情を変えない。

 

「理由を聞いても?」

 

 ペルシアは一瞬だけ視線を落とした。

 胸の中にいる“現場の顔”が浮かぶ。

 タツヤののらりくらりの背中。

 エリンの整えた声。

 ククルの笑顔。

 カイエの淡々とした気遣い。

 エマの上品な手つき。

 そして――操縦室で“はいはい”と言いながらも守る人間。

 

 ペルシアは、少しだけ口角を上げた。

 

「確かに、組織や規則なんて現場では役に立たない。

 ……私も、そう思う」

 

 マーカスの目がわずかに細くなる。

 “賛同した”と取ったのだろう。

 

 だがペルシアは、そのまま続けた。

 

「でも、それ以上に――今いるメンバーが好きなんです」

 

 言葉にした瞬間、自分の胸の奥が熱くなった。

 好き。

 そんな単語をこの会場で使うのは、少し恥ずかしい。

 けれど、それが真実だった。

 

「十四班は、変なやつばっかりで。

 班長はのらりくらりで。

 チーフは怖くて。

 操縦士は生意気。

 私は……まぁ、うるさいし」

 

 ペルシアは自分で言って、少しだけ笑った。

 そして、真剣な目でマーカスを見る。

 

「でも、あの人たちは“現場の人間”なの。

 守ろうとしてる。

 誰かを切り捨てるためじゃなく、乗せてる人の命を守るために動いてる」

 

 マーカスは沈黙した。

 その沈黙が“否定”ではないことを、ペルシアの耳が拾った。

 彼の呼吸は乱れていない。

 怒っていない。

 むしろ、少しだけ――羨ましそうな気配。

 

「……そうか」

 

 マーカスは短く言った。

 

「君がその場所を好きだと言うなら、それは強い理由だ」

 

 ペルシアは、そこで初めて違和感を覚えた。

 この男は、権力者の割に“押してこない”。

 押せば動くと分かっているのに、押さない。

 

 だから余計に、怖い。

 

 マーカスは小さく頷き、手を差し出すわけでもなく、ただ言った。

 

「気が向いたら、いつでも連絡してくれ」

 

 その言葉は、逃げ道にも聞こえるし、網にも聞こえる。

 ペルシアは返事をしない。

 返事をしたら、約束になる気がしたから。

 

 マーカスはそれ以上何も言わず、周囲の人波へ溶けるように離れていった。

 背中が消えるまでの数秒、ペルシアは動けなかった。

 

 会場の音が戻ってくる。

 笑い声。グラスの音。靴音。

 だけど、さっきまでとは違う。

 音の一つ一つが、鋭く刺さる。

 

 ペルシアは髪をかき上げ、首筋の汗を拭った。

 その仕草は、余裕の演出ではない。

 本当に、息が詰まりそうだった。

 

「……何なのよ!」

 

 吐き捨てるように小さく言って、シャンパンを一気に飲み干した。

 泡が喉を滑り落ちる。

 胸の奥が熱くなる。

 でも、揺れた心は冷えたままだ。

 

 ――宇宙管理局の統括官。

 組織や規則に縛られない席。

 守りたいものを守る場所。

 

(……笑わせないで)

 

 そう思うのに、心の奥がほんの僅かに動いた。

 “もし”という言葉が、影みたいに生まれる。

 

 もし、十四班が潰されそうになったら。

 もし、現場の声が握り潰されそうになったら。

 もし、守るために守るべき場所が変わるなら。

 

 ペルシアはグラスを置き、手のひらを握って開いた。

 指先が少し震えている。

 

(……私は、ここが好き)

 

 それだけは確かだ。

 好きだから、守りたい。

 守りたいから、揺れる。

 

 その時、背後からタツヤの声がした。

 

「ペルシア。大丈夫?」

 

 のらりくらりの声。

 でも、部下を守る時だけは外さない、真面目な声。

 

 ペルシアは反射的に笑顔を作った。

 いつもの軽口の仮面をかぶる。

 

「大丈夫、大丈夫。ちょっと変なおじさんに絡まれただけ」

 

「変なおじさん?」

 

「白髪混じりで、偉そうで、やたら静かな声の――」

 

 言いかけて、ペルシアは止めた。

 ここで“宇宙管理局長”なんて言ったら、余計な耳が拾う。

 

 タツヤはそれを察したのか、追及しない。

 ただ、軽く頷いた。

 

「そっか。じゃ、もう少しだけ頑張ろうか」

 

「……うん」

 

 ペルシアは短く返し、もう一度だけ深呼吸した。

 そして、笑顔を整え直す。

 

 この会場で“守る”のは、命だけじゃない。

 十四班の明日。

 仲間の居場所。

 それを壊す音を、拾ってしまう自分の心。

 

 ペルシアはグラスを新しく受け取り、タツヤの半歩後ろに戻った。

 

 揺さぶられた心を、誰にも見せないように。

 ――けれど、揺れていることだけは、彼女自身が一番分かっていた。

 

ーーーー

 

 タツヤの家のリビングは、灯りだけが必要以上に整っていた。

 ソファの背にもたれたクッションは角が揃い、テーブルの上のコーヒーカップは湯気が細く立ち、時計の秒針だけが「遅い」という言葉を刻んでいる。

 

 エリンはカップを両手で包み、窓の外――コロニーの夜景へ視線を投げた。

 薄いガラス越しの光は綺麗なのに、胸の内側だけが落ち着かない。

 

「……遅いわね」

 

 ぽつり。声は静かだが、尻尾の先だけ尖っている。

 

「ええ。連絡もないです」

 

 リュウジは壁際に立ったまま、端末の画面をもう一度確認してから言った。

 敬語の中に、余計な感情は混ぜない。だが、眉間の皺が少し深い。

 彼は“待つ”ことにも慣れている。待つ時間に余計な想像をしないように、身体のどこかが訓練されている。

 それでも今日は、落ち着きが微かに削れていた。

 

 ユイは寝室の奥で眠っている。

 いつもなら寝息がこの家の安定剤になるのに、今夜はそれすら遠い。

 

「……タツヤ班長、遅くなるなら連絡するはずよね」

 

「はい。あの人はそういうところは外しません」

 

 リュウジがそう言った瞬間だった。

 

 ――ガチャ。

 

 玄関が開く音。

 

 二人は同時に顔を上げた。

 安堵が先に来る。「帰ってきた」――その事実だけで、胸が少し軽くなる。

 

 次の瞬間、

 

「たっだいまー!!」

 

 家が揺れた。

 正確には、夜の静けさが割れた。

 

 エリンの目が細くなる。

 リュウジの肩がわずかに跳ねる。

 

 玄関に現れたのは、顔を真っ赤にしたペルシアだった。

 足取りは、直進しているようで微妙に蛇行している。

 ドレスは崩れていないのに、本人だけが完璧に崩れている。

 ハンドバッグを掲げたまま、勝利の旗のように振っている。

 

「ぺ……」

 

 エリンが名前を呼びかけた、その上から――

 

「ペルシア! 静かにしなさい!」

 

 遅れて玄関に入ってきたタツヤが、即座に釘を刺した。

 のらりくらりの班長が“真面目モード”で出す声は、短くて強い。

 

 だが、酔ったペルシアには効かなかった。

 いや、効いているのに、効いていないふりをするタイプの酔い方だ。

 

「えー? 静かに? ここお家でしょ? みんなのお家ー」

 

 ペルシアは意味のわからない理屈で笑い、視線を泳がせる。

 そして次の瞬間、リュウジを見つけた。

 

「あれー? リュウジだ!」

 

 瞳がきらり。

 獲物を見つけた猫の目だ。しかも酔っている猫。

 

「ただいま〜」

 

 距離感ゼロ。

 ペルシアは勢いよくリュウジに突進し、そのまま抱きついた。

 

「うわっ――」

 

 リュウジは反射で受け止める。

 体幹が強い。そういう問題ではない。

 片腕でペルシアの背中を支え、もう片方でバランスを取る。

 まるで着陸時の衝撃を殺す操縦みたいに、丁寧に“抱きつき事故”を処理した。

 

 ――そして、エリンへ視線を送った。

 助けてください、というより、状況報告に近い目。

 

 エリンは微笑んだ。

 笑顔だ。

 ただし、その笑顔は「今から怒ります」を飾り立てるための笑顔だ。

 

「……ペルシア。声のボリューム、三分の一」

 

「えー? エリン、今日はね、すっごい大変だったのよー」

 

「それは明日聞くわ」

 

「明日? 明日は明日の私が頑張るもーん」

 

 言いながら、ペルシアはリュウジの胸元に顔を擦りつけた。

 本人は猫のつもりだ。

 リュウジは石像のつもりで耐えた。

 

「ペルシア、離れて」

 

 エリンの声が少し低くなる。

 

「やだー。だってリュウジ、いい匂いする。石鹸の匂い!」

 

「……それは、今日トレーニングしてましたから」

 

 リュウジは真面目に答えてしまう。

 ペルシアが「ほらー真面目ー!」と笑う。

 エリンが「会話を成立させないで」と目で言う。

 

 タツヤは靴を脱ぎながら、はぁ……と長いため息をついた。

 疲労の種類が“仕事”ではなく“ペルシア”になっている。

 

「タツヤ班長、大丈夫だったんですか?」

 

 エリンの声は心配の形をしているが、半分は確認だ。

 「何が起きたの」ではなく「ちゃんと説明して」。

 チーフパーサーの問いかけ。

 

「まぁ、社交パーティー自体はね」

 

 タツヤは頭を掻きながら言った。

 笑っている。

 いつもののらりくらり顔だ。

 ただし、目の下は少し疲れている。

 

「でも帰る途中で……浴びるほど、コンビニでワイン飲み干してね」

 

 言い終えた瞬間、エリンの目がさらに細くなった。

 

「……浴びるほど?」

 

「言い方が悪かった。浴びるほどは、ちょっと盛った」

 

「盛らなくていいの」

 

「でもまあ、飲んだのは事実」

 

 タツヤは逃げない。

 逃げると、もっと怒る。

 その経験則に基づく正しい姿勢。

 

 ペルシアはリュウジの腕の中で、ふふん、と勝ち誇ったように笑った。

 

「だってさー、班長、めっちゃ硬い話してたんだもん。

 私はね、耳がいいからね、色々聞こえるの。

 だからね、ワインでね、耳をね、洗ったの!」

 

「洗うものじゃない」

 

 エリンが即ツッコミを入れる。

 リュウジは心の中で(耳を洗う……)と反芻し、今夜初めて“呆れ”を覚えた。

 

 ペルシアは急に真顔になり、リュウジの顔を覗き込んだ。

 

「ねぇ、リュウジ。

 私さ、今日ね、すっごい偉いおじさんにね、なんかね、“来ない?”って言われたの」

 

 言葉が曖昧なのに、目だけが妙に鋭い。

 酔っているのに、核心だけは外さない時がある。

 それがペルシアの怖さでもあり、凄さでもある。

 

 エリンが、ぴたり、と動きを止めた。

 

「……ペルシア?」

 

 呼びかけの中に“事情を把握したい”が混じる。

 

 ペルシアは肩をすくめる。

 その動作が少し大袈裟で、可笑しい。

 

「えへへ。断ったけどね。

 だって、私、今のほうが好きだもん」

 

 その言葉のあと、ペルシアのまぶたがふわりと落ちた。

 落ちる前に、もう一度だけリュウジに抱きつく力が強くなる。

 

「……好き……」

 

 リュウジは固まった。

 

 違う。そういう意味じゃない。

 多分。

 いや、そういう意味の“好き”も含んで遊んでいる。

 酔っている時のペルシアは、境界線を踏むことをゲームみたいに楽しむ。

 

 エリンが咳払いをした。

 

「ペルシア。まず、靴。脱いで」

 

「靴ー? 靴はね、だってね、

 私、今日おしゃれしたんだよ? おしゃれは足元からなんだよ?」

 

「足元は玄関で終わり」

 

 エリンの言葉が鉄のように硬い。

 ペルシアはむぅ、と頬を膨らませる。

 

 タツヤが、リュウジに小声で言った。

 

「……ごめんね」

 

「いえ……大丈夫です」

 

 リュウジは敬語で返しながら、内心では“全然大丈夫ではない”と思っている。

 抱きつかれているのに、どう手を離すのが正解なのか分からない。

 振りほどいたら転ぶ。支えたら誤解される。

 S級の操縦より難しい局面が、家庭内にあった。

 

 エリンが手際よく動く。

 ペルシアのバッグを奪い、ソファへ放り、靴を脱がせる。

 その一連の動きが、救助活動の手順みたいに完璧だ。

 

「ペルシア、立てる?」

 

「立てるー。ほら、立てるー」

 

 ペルシアは立とうとして、ぐらりと傾く。

 エリンが即座に肩を支える。

 そして、リュウジへ視線を向ける。

 

「リュウジ。手、貸して」

 

「はい」

 

 二人でペルシアをソファへ“着陸”させた。

 ペルシアはソファのクッションに顔を埋め、ぷは、と息を吐く。

 

「……ふわふわ……ここ天国……」

 

「ここはタツヤ班長の家」

 

 エリンが冷静に訂正する。

 タツヤが苦笑いをする。

 

「で、ペルシア。

 どうしてコンビニでワイン飲み干したの?」

 

 タツヤの声が少しだけ真剣になる。

 のらりくらりではない。

 部下を守る時の声。

 

 ペルシアはソファに寝転がったまま、天井を見た。

 

「……嫌な音がいっぱいだったから」

 

 ふざけた調子が、少し落ちる。

 エリンの眉がわずかに動く。

 リュウジは何も言わず、ただ耳を澄ます。

 

「偉い人の声ってさ、

 “笑ってる”のに、笑ってないことあるじゃん」

 

 ペルシアの声が小さくなる。

 酔いが、言葉の飾りを削る。

 

「褒めてるのに、値踏みしてる声。

 心配してるのに、責任押し付ける声。

 ……ああいうの、やだ」

 

 タツヤが静かに頷く。

 

「……そうだね」

 

 ペルシアは寝返りを打ち、クッションに頬を押し付けた。

 

「それにね、班長。

 今日、私さ、ちょっと危ないこと言われた」

 

 エリンが息を呑む。

 

「危ないこと?」

 

 ペルシアは目を細める。

 その目は酔って潤んでいるのに、どこか醒めている。

 

「……“来ない?”って。

 私の耳、欲しいって。

 “自由に守れる席”があるって」

 

 エリンの顔から、笑みが消えた。

 リュウジも、背筋が伸びる。

 タツヤの目がわずかに鋭くなる。

 

 ペルシアは、ふっと笑う。

 

「断ったよ。

 だって、私――十四班が好きだもん」

 

 その言葉は、甘い。

 でも同時に、痛い。

 好きだから揺れる、と言っているようでもある。

 

 タツヤはしばらく黙り、やがていつもの調子に戻すように言った。

 

「……そっか。

 じゃあ、その“偉い人”は、相当しつこいかもしれないね」

 

「うん。しつこい匂いした」

 

 ペルシアは鼻を鳴らす。

 そして突然、リュウジの方へ顔を向けた。

 

「ねぇリュウジ。

 私、今日ね、頑張ったよ」

 

「……はい。頑張りましたね」

 

 リュウジは素直に答えた。

 その返答が、ペルシアの機嫌を一段階上げる。

 

「でしょ? 褒めて?」

 

「褒めます。偉いです」

 

「よし!」

 

 ペルシアは満足そうに頷き、そして――唐突に座り直した。

 

「じゃあ、もう一回飲もっか!」

 

「だめ」

 

 エリンが即答。

 タツヤも即答。

 

「だめだよ」

 

 リュウジは少し迷ってから、追随した。

 

「だめだ」

 

 ペルシアは三方向から同時に“だめ”を食らい、目を丸くした。

 

「なにそのチームプレイ!

 え、私、今の、いじめ?」

 

「いじめじゃない。介抱」

 

「介抱って響き、やだ!」

 

「響きはどうでもいいの」

 

 エリンが淡々と言い、立ち上がってキッチンへ向かう。

 

「水持ってくる。あと、解毒……じゃなくて、落ち着くもの」

 

「解毒って言った!」

 

「言ってない」

 

「言った!」

 

 ペルシアが抗議するが、声の勢いが少し弱い。

 タツヤはソファの横に座り、ペルシアの髪を軽く撫でた。

 父親みたいな手つきだ。

 

「……ペルシア。今日、よく頑張った」

 

 その一言で、ペルシアの顔がふわりと緩む。

 酔っているくせに、ちゃんと“欲しい言葉”を聞き分ける。

 

「……ん」

 

 短く返事をして、ペルシアは背を丸めた。

 

 リュウジは少し離れた場所に立ったまま、状況を眺める。

 この人たちは、仕事だけじゃなく、こういう時間でも“班”なのだと思った。

 守る。支える。

 そして、時々怒る。

 

 エリンが戻ってきて、ペルシアに水を手渡す。

 

「飲んで。ゆっくり」

 

「……はーい」

 

 ペルシアは渋々飲む。

 飲み終えると、急に目が潤んだ。

 

「エリン……今日さ……私、怖かったの」

 

 エリンの動きが止まる。

 そして、声が柔らかくなる。

 

「……うん。そうでしょうね」

 

 ペルシアは鼻をすすり、笑うように言った。

 

「でもね、私、逃げなかったよ」

 

「うん。逃げなかった」

 

 エリンが頷く。

 その肯定が、ペルシアの肩の力を抜く。

 

 タツヤが小さく咳払いをして、リュウジに目を向けた。

 

「リュウジ。今日は……ごめんね。巻き込んで」

 

「いえ。俺も……勉強になりました」

 

「勉強?」

 

「はい。……守るって、操縦だけじゃないんだなと」

 

 タツヤが、ふっと笑う。

 

「そうだよ。

 現場はね、守るものが多い」

 

 エリンが頷き、ペルシアの髪をそっと整える。

 

「今日は寝なさい。ペルシア」

 

「……うん……」

 

 ペルシアは目を閉じ、最後に小さく呟く。

 

「十四班……好き……」

 

 その言葉が、酔いの戯言に聞こえない。

 むしろ、今夜一番真面目な言葉だった。

 

 リビングに、ようやく静けさが戻る。

 時計の秒針が、また普通の速さで進み始めた。

 

 エリンはため息をひとつ吐き、リュウジを見た。

 

「……お疲れさま。リュウジ」

 

「はい。エリンさんも」

 

 タツヤはソファの背にもたれ、天井を見上げる。

 

「……明日、頭痛いんだろうなぁ。ペルシア」

 

 その声はのらりくらりに戻っていたけれど、

 誰にも聞こえないくらい小さく、最後に付け足した。

 

「……でも、戻ってきてくれてよかった」

 

 エリンが頷く。

 リュウジも、静かに頷いた。

 

 十四班の夜は、こうして騒がしく終わっていく。

 酔っ払い一人に振り回されながら――それでも誰も、手を離さないまま。

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