サヴァイヴ〜ドルトムント財閥〜   作:一塔

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スターフォクス

コロニー外縁――貨物区画のさらに奥。

 照明が必要最低限しか点いていない通路を、ペルシアは一人で歩いていた。

 

 地図アプリの誘導は、途中から露骨に雑になる。

「この先、案内できません」みたいな無機質な表示。

つまり、ここは“表の街”じゃない。管理局の巡回ドローンの巡回ルートも薄い。人が来ないから、空気が冷たく澄んでいる。

 

「……倉庫って聞いてたけど、ほんとに倉庫ね」

 

 目の前にあるのは、古い整備用のハンガーを改装したような建物だった。錆びた外板。厚い扉。扉の上に、消えかけた英数字の管理番号。

 それでも、ただ古いだけじゃない。端っこに新しいセンサーが付いている。出入口の角度も、カメラの死角がない。古い皮を被った、今の設備。

 

(……隠れてるつもりが、隠し慣れてる)

 

 カラスが送ってきた位置情報は、ここでぴたりと止まっている。

 

 ペルシアは息を整え、扉の前に立った。

 ノックはしない。代わりに、指先で端末を二回タップして、通信を投げる。

 返事は、思ったより早かった。

 

『――認証されません。どちら様ですか』

 

 機械音声。だが、ただの受付AIじゃない。声の“間”が妙に自然だ。

 そして、音の出る方向が一定じゃない。天井、壁、床――どこからでも出せる。つまりこの倉庫全体がスピーカーだ。

 

 ペルシアは口角を上げた。

 

「宇宙管理局のペルシアよ。貴方は?」

 

 数拍の沈黙。倉庫の内部で何かが“考える”気配。機械音はしないのに、空気が少しだけ張る。

 

『――ナウスです』

 

「ナウス?」

 

『スターフォックスの補助人工知能。倉庫設備の管理、通信の中継、侵入者の判定を担います』

 

 淡々と、しかし誇るようでもない説明。

 ペルシアはその“語り方”を聞いて、妙に納得した。

 

(フォクスの作ったAI……そりゃ愛想はないわよね)

 

「じゃあ、ナウス。フォクスはいる?」

 

『現在、フォクスは――』

 

 そこで、ペルシアは言葉を切った。

 

 背後。

 ほんの僅かに床材が鳴った。

 呼吸の音。衣擦れ。指が何かを“構える”音。

 

 ペルシアは、反射で身体を捻らない。

 捻れば、相手の狙いが“正当化”される。

 

 代わりに、声だけを落とした。

 

「……来たわね」

 

 次の瞬間。

 

 背中、肩甲骨の少し下。

 冷たい金属が、布越しに押し当てられた。

 

(レーザー銃。しかも軽量型。安全ロック、外れてる)

 

 押し当てられた圧で分かる。銃口のリング形状。微弱な熱。

 ペルシアはゆっくりと息を吐き、両手を軽く上げた。大げさに見せるのではなく、“見える範囲”で。

 

「……それで。貴方は何者?」

 

 背後の声は、澄んでいるのに刃がある。

 若い。けれど油断のない声。

 

「私はクリスタル。貴方こそ、何者なの」

 

 ペルシアは肩をすくめる。銃口が少しだけずれる。相手が無意識に“反応”した証拠だ。

 

「だから言ったでしょ。宇宙管理局のペルシア」

 

「宇宙管理局が、何の用なの」

 

 警戒。嫌悪。……それと、少しの怒り。

 ペルシアはその混ざり具合が分かった。耳が拾うのは声色だけじゃない。呼吸の速さ、言葉の詰まり、足の重心――全部、情報だ。

 

「ちょっとね」

 

 ペルシアはわざと軽く言った。

 “深刻”にすると相手は深刻で返す。深刻で返されたら、銃は引き金に近づく。

 

「フォクスはいないの?」

 

「答える必要はない」

 

「……へぇ。クリスタル、あなたが答えないなら、ナウスに聞くけど」

 

『――回答権限は、現在クリスタルに移譲されています』

 

 ペルシアは心の中で舌打ちした。

 

(その連携、きっちりしてる。……フォクス、抜け目ない)

 

 クリスタルの銃口が、わずかに押し込まれる。

 

「余計なこと言わないで。ナウス」

 

『了解しました』

 

 機械音声が従う。だが従い方が“感情を抑えた”みたいに聞こえるのが面白い。AIなのに。

 

 ペルシアはゆっくりと言った。

 

「私は敵じゃない。少なくとも、今ここで撃ち合いに来たんじゃない」

 

「それを信じろって?」

 

「信じろなんて言わない。疑っていい。……ただ、撃つ前に一つだけ教えて。フォクスはどこ」

 

 背後で、クリスタルが息を吸った。

 答えようとした瞬間――別の声が割り込む。

 

「おいおいおい。いきなり銃口突きつけてんのか?クリスタル」

 

 軽い。ふざけてる。けれど、音の芯が硬い。

 “強い奴”の声だ。

 

 金属の扉が、内側から開いたわけじゃない。横のシャッターが、いつの間にか半分だけ上がっていた。そこから影が二つ滑り込む。

 

「ったく、警戒心は分かるけどよ。話くらい聞けって」

 

 赤茶けた羽根のような髪――いや、ヘアスタイルがやたら尖っている男。

 眼光は鋭いのに、口元は笑っている。

 

「ファルコ……」

 

 クリスタルが小さく呟く。名前を知ってるのは仲間だからだ。

 

 もう一人は、工具袋を肩に掛けた少年――いや、青年。丸い眼鏡の奥で目が忙しく動いている。入ってくるなり、天井と壁を見て「うわぁ……」と感嘆の息を漏らした。

 

「すっご……この倉庫、外見だけ古いのに中身は最新だよ。ナウス、センサー配置、完璧すぎるって!」

 

『ありがとうございます、スリッピー』

 

「えへへ、だろ?僕の名前もちゃんと覚えてるし!」

 

 ペルシアは一瞬だけ口角を上げた。

 

(……スリッピー。ファルコ。クリスタル。……で、フォクス)

 

 名前を聞いた瞬間に、脳内の情報が並ぶ。

 “スターフォックス”という呼び名が独り歩きしているせいで、噂だけは山ほど聞いた。

 だが実物は――想像より人間臭い。

 

 ファルコがペルシアの背中越しに声を投げる。

 

「で?管理局のお嬢さん。こんなところまで何しに来た?」

 

 “お嬢さん”という言い方が、わざとらしい。

 試してる。揺さぶって、反応を見るタイプだ。

 

 ペルシアは振り返らずに、肩越しに答えた。

 

「お嬢さんじゃない。統括官」

 

「へぇ、偉いんだ?」

 

「偉いだけ。給料は偉くない」

 

 ファルコが吹き出した。

 

「ははっ!言うじゃねぇか」

 

 その笑い声が空気を少しだけ緩めた。

 けれど、背中の銃口はまだ離れない。

 

 ペルシアは、クリスタルに言う。

 

「クリスタル。銃、下ろして。今ここで撃ったら、面倒なのはあなた達よ」

 

「脅し?」

 

「忠告。私は管理局の人間。撃たれたら、ここを潰す口実ができる」

 

 クリスタルが息を詰めた。

 ――図星。

 

 ペルシアは続ける。

 

「私は、口実が欲しいわけじゃない。潰したいわけでもない。……だから、撃たないで話したい」

 

 沈黙。

 その沈黙を破ったのは、スリッピーだった。

 

「ね、クリスタル。とりあえず下ろしたら?この人、嘘ついてる声じゃないよ。……いや、声色じゃなくて、呼吸の揺れが――」

 

「スリッピー、黙って」

 

「は、はい」

 

 クリスタルの声は鋭い。だが、ほんの少しだけ揺れている。

 迷いだ。

 

 ペルシアは、その迷いを押し込むように、あえて笑って言った。

 

「ほら。私、ちゃんと怖がってる。だから、撃たないで。ね?」

 

 クリスタルの銃口が、ほんの数ミリだけ離れた。

 それだけでペルシアは分かる。――撃つつもりなら、距離は詰める。離れない。

 

 ファルコが肩をすくめた。

 

「まあまあ。撃ったら面倒ってのはその通りだ。フォクス、どうする?」

 

 その名前が出た瞬間――倉庫の空気が変わった。

 ファルコの軽さが一段落ちる。スリッピーの目が一瞬だけ真面目になる。クリスタルの呼吸が少し浅くなる。

 

 そして、鉄骨の上――キャットウォークの影から、ゆっくりと人影が現れた。

 

 足音が、ほとんどしない。

 それなのに、存在感だけが落ちてくる。

 

「……ここまで来るのは、勇気があるのか、無謀なのか」

 

 低い声。

 怒っていない。

 でも、油断もない。

 

 ペルシアはようやく振り返り、上を見上げた。

 

 男は、軽装だった。動きやすいジャケット。腰にホルスター。

 目は落ち着いていて、獲物を見る目ではない。

 けれど、“世界を見る目”をしている。

 

「フォクス?」

 

「そう呼ばれてる」

 

 男はキャットウォークから階段を降りてくる。

 段差を踏むたびに、金属が鳴るはずなのに、ほとんど鳴らない。体重移動が上手い。鍛えた人間の歩き方だ。

 

 クリスタルが銃を下ろす。

 完全に下ろしたわけじゃない。いつでも戻せる位置。

 でもそれで十分だった。

 

 フォクスはペルシアの正面に立ち、距離を測るように視線を走らせた。

 

「宇宙管理局の統括官が、こんな場所に何の用だ」

 

 ペルシアは腕を組み、堂々と答えた。

 

「あなた達を探してた」

 

 ファルコが口笛を吹く。

 

「ストレートだな」

 

「遠回しに言うの嫌いなの」

 

 ペルシアは視線をフォクスから逸らさない。

 

「私、統括官専属の探索チームを作ってる。……A級ライセンスの操縦士が欲しい」

 

 スリッピーが「おっ」と小さく声を漏らす。

 クリスタルの目が細くなる。

 ファルコが面白そうに笑う。

 

 フォクスは、ほんの少しだけ眉を動かした。

 

「……うちの連中を雇う気か?」

 

「雇うって言い方は違う。協力してほしい」

 

「管理局は宇宙ハンターと関わらない。そういうルールだろ」

 

 フォクスの声は平坦だ。

 だが、その平坦さの奥に、確かな憎しみがある。

 “ルールで人を切り捨てる”組織への憎しみ。

 

 ペルシアは息を吐いた。

 

「知ってる。だからここに来た」

 

「矛盾してる」

 

「矛盾してるのは世界のほうよ」

 

 ペルシアは言い切った。

 

「管理局は、守る組織。だけど守るための手足が足りない。現場は穴だらけ。穴を埋めるには、腕のある人間が必要」

 

 フォクスは目を細める。

 

「腕のある人間が、宇宙ハンターに堕ちた理由も分かって言ってるのか?」

 

 空気が冷える。

 それは問いではなく、試しだ。

 ここで薄っぺらい正義を語れば、終わる。

 

 ペルシアは一瞬、口を閉じた。

 “答えを選ぶ”ために、沈黙を使う。

 

 そして言った。

 

「分かってるつもり。……管理局は正しくない。少なくとも、あなた達にとっては」

 

 スリッピーが目を見開く。

 ファルコが「へぇ」と呟く。

 クリスタルの呼吸が、ほんの少しだけ落ち着く。

 

 ペルシアは続ける。

 

「でもね、私は“正しさ”を売りに来たんじゃない。私は“仕事”をしに来た。守る仕事」

 

 フォクスの視線が揺れない。

 だからペルシアは、さらに踏み込む。

 

「あなた達が何をしてきたか、全部は知らない。知る権利もない。……でも、今も現場で困ってる人がいる。それは事実」

 

「……」

 

「私はその人達を助けたい。そのために腕が欲しい。あなた達の腕が」

 

 フォクスが一拍置いて言う。

 

「それで、俺達が協力すれば、管理局の中でお前はどうなる?」

 

 ペルシアは鼻で笑う。

 

「面倒なことになる。多分、死ぬほど」

 

 ファルコが腹を抱えて笑った。

 

「正直すぎんだろ!」

 

「正直じゃないと嫌いなのよ。私」

 

 フォクスは笑わない。

 でも、目の奥の氷がほんの少しだけ薄くなる。

 

「……目的は分かった。だが、信用は別だ」

 

「信用なんて最初からいらない」

 

 ペルシアは即答した。

 

「必要なのは契約。条件」

 

 その言葉に、ファルコが「出た」と笑う。

 スリッピーが嬉しそうに頷く。

 クリスタルはまだ警戒を解かないが、銃は下げたままだ。

 

 フォクスが言った。

 

「条件を聞こう」

 

 ペルシアは指を一本立てた。

 

「第一。探索チームは少数で動く。四〜五人。機密も多い。あなた達の身元は私が守る」

 

「守れるのか」

 

「守る。統括官の権限でね」

 

 ペルシアは二本目の指を立てる。

 

「第二。現場の判断は私がする。でも現場で必要なら、あなた達の判断も尊重する。上の命令で無茶はさせない」

 

 フォクスの目がわずかに細くなる。

 “上の命令で無茶”――それを止められるかどうか。

 彼はそこを見ている。

 

 ペルシアは三本目。

 

「第三。……あなた達が“宇宙ハンター”としてやってきたことを、私は問わない。今、守るために動けるか、それだけ」

 

 クリスタルが小さく息を吸った。

 ファルコが笑みを消す。

 スリッピーが真剣な顔になる。

 フォクスだけが、黙っている。

 

 ペルシアは最後に言った。

 

「で、返事は今すぐじゃなくていい。……ただ、A級操縦士が必要。あなた達の中にいるでしょ。もしくは知ってるでしょ」

 

 フォクスは視線を少しだけ逸らした。

 それは否定ではない。

 つまり、“いる”。

 

 ペルシアはその小さな反応を見逃さない。

 

「……あとは、あなた達の条件を聞く番」

 

 フォクスはしばらく沈黙した。

 倉庫のどこかで換気ファンが回る音がする。

 ナウスが息をしているみたいに、低い音。

 

 そして、フォクスは言った。

 

「ここでは話せない」

 

「じゃあどこで?」

 

「奥」

 

 フォクスが顎で示す。倉庫のさらに奥――外から見えない区画。

 つまり、彼らの“心臓部”。

 

 ペルシアは一瞬だけ笑った。

 

(招き入れるってことは、少なくとも“撃たない”ってこと)

 

「いいわ。案内して」

 

 フォクスが背を向けた、その瞬間――

 

「待って」

 

 クリスタルが低く言った。

 

 ペルシアは振り返る。

 

「なに」

 

「……貴方、どうやってここを知ったの」

 

 鋭い目。疑い。

 そして、ほんの少しの怒り。

 その怒りの矛先はペルシアではない。多分――カラスのような“嗅ぎ回る”存在。

 

 ペルシアは肩をすくめた。

 

「便利な人がいるのよ。嫌な感じのね」

 

 ファルコが「ハハ」と笑う。

 

「それ、友達?」

 

「友達じゃない。取引相手」

 

 ペルシアはきっぱり言った。

 

「……この件、他言無用。あなた達も、私も」

 

 フォクスが短く頷く。

 

「分かってる」

 

 その一言に、場の温度が少しだけ落ち着く。

 それでも、緊張が消えたわけじゃない。

 

 緊張は、必要だ。

 緊張があるから、命は守れる。

 

 フォクスが歩き出す。

 ファルコとスリッピーが続く。

 クリスタルが最後に、ペルシアの横に並ぶ。まだ完全に信用していない距離感で。

 

 ペルシアは小さく呟いた。

 

「……スターフォックス、ね」

 

 クリスタルが刺すように返す。

 

「軽く呼ばないで。私達は、名前で呼び合ってる」

 

「じゃあ、フォクス。ファルコ。スリッピー。クリスタル」

 

 ペルシアはわざと一人ずつ名前を呼んだ。

 呼んだ瞬間、スリッピーが少しだけ嬉しそうに笑ったのを、ペルシアは見逃さなかった。

 

 フォクスは振り返らずに言う。

 

「……ペルシア。お前が本当に“守る側”なら」

 

 足が止まる。

 

「これから先で、試す」

 

 ペルシアは笑った。

 怖いからじゃない。

 高揚だ。

 

「上等。試しなさいよ。私、試されるの嫌いじゃないの」

 

 倉庫の奥へ続く扉が開く。

 暗い。冷たい。静か。

 そこには“表の宇宙”では扱えない、裏の現実が眠っている匂いがした。

 

 ペルシアは一歩踏み出す。

 

(――守るために、汚れる覚悟はできてる)

 

 その覚悟だけは、足音より先に、心の中で鳴っていた。

 

 

 

 

  フォクスの背中について、ペルシアは倉庫の奥へ踏み込んだ。

 

 外から見れば、ただの古い貨物ハンガーだった。錆びた外板、鈍い匂い、消えかけた管理番号。けれど、一歩中に入った瞬間、空気の密度が変わる。

 

 湿り気が消え、温度が一定になり、換気の流れが計算されたものに変わった。床材は古いままだが、踏むたびに鳴るはずの軋みは抑えられている。壁の継ぎ目には薄いパネルが走り、ところどころに新しいセンサーが埋め込まれていた。

 

 ここは、隠れるために作られた場所だ。

 

 フォクスは先頭を歩き、ファルコは少し後ろで退路を確認するように視線を動かしている。スリッピーは壁の配線や端末に興味津々で、クリスタルはペルシアの半歩後ろを保ったまま、まだ銃から完全に手を離していない。

 

 ペルシアはそれを見ても、何も言わなかった。

 

 警戒されて当然だ。

 宇宙管理局の人間が、宇宙ハンターの根城に一人で踏み込んできたのだから。

 

 通路を二度曲がり、金属扉の前でフォクスが立ち止まる。

 

『識別コード確認。フォクス、ファルコ、スリッピー、クリスタル――認証。同行者、未認証』

 

 ナウスの機械音声が流れる。

 

「未認証で正しいわよ。今日は招かれた客だから」

 

『招かれた、の定義が曖昧です』

 

「可愛げないわね」

 

『可愛げは任務遂行に不要です』

 

「そういうところよ」

 

 ペルシアが肩をすくめると、スリッピーが小さく笑った。

 

「ナウス、こう見えて結構気にしてるんだよ」

 

『気にしていません』

 

「ほら、気にしてる」

 

『否定します』

 

 そのやり取りに、わずかに空気が緩む。だが、フォクスの目は緩まない。クリスタルの指も銃の近くから離れない。ファルコも軽口を叩いているようで、視線だけはペルシアの肩、足元、手の位置を見ている。

 

 誰も、完全には油断していない。

 

 扉が開く。

 

 中は、小さな司令室のようだった。壁一面のモニター、中央のホログラム台、機材ラック、整備工具、補給品、古びたソファ。隠れ家であり、基地であり、生活の場でもある。

 

 ペルシアは部屋全体を一望して、感心したように息を吐いた。

 

「思ったより、ちゃんとしてるのね」

 

「失礼なこと言うじゃねぇか」

 

 ファルコが笑う。

 

「もっと散らかってると思ってた?」

 

「宇宙ハンターの根城って聞いたら、もう少し酒瓶と金塊が転がってるものだと思ってたわ」

 

「映画の見過ぎだな」

 

「そうかもね」

 

 軽口を叩きながらも、ペルシアは観察を止めなかった。

 モニターの配置。武器の置き場。出入口。換気経路。逃げ道。

 ここは守るための場所であり、逃げるための場所だ。

 

 フォクスは中央の机の前に立ち、低い声で言った。

 

「端末を置け」

 

「管理局の機密端末よ」

 

「だからだ」

 

 短いやり取り。

 

 ペルシアは一瞬だけ目を細めたが、すぐに端末を机に置いた。カードケース、鍵束、通信タグも同じように並べる。

 

「武器は持ってないわよ」

 

「確認する」

 

「信用ないわね」

 

「あると思ったのか?」

 

「ないと思ってる」

 

 ペルシアが即答すると、ファルコが鼻で笑った。

 

「正直すぎんだろ」

 

「正直じゃないと、こういう場はやってられないのよ」

 

 スリッピーが機器を使って端末や所持品を確認する。軽い電子音が続いた後、彼は顔を上げた。

 

「追跡タグなし。発信もしてない。端末は生きてるけど、今は通信してないね」

 

『危険度、低』

 

「ナウスに低って言われたわ」

 

「安心しろ。ナウスの“低”は結構信用できる」

 

 ファルコが言うと、ナウスが淡々と続けた。

 

『ただし、信用可能とは判定していません』

 

「ほんと可愛くないわね」

 

 ペルシアが椅子に腰を下ろす。クリスタルはまだ座らず、壁際に立ったままだ。フォクスも座らない。

 つまり、これは歓迎ではない。交渉だ。

 

 ペルシアは先に切り出した。

 

「単刀直入に言うわ。私はあなた達――スターフォクスを、宇宙管理局に招き入れたい」

 

 室内の空気が、はっきりと変わった。

 

 スリッピーの手が止まる。

 ファルコの笑みが消える。

 クリスタルの目が鋭くなる。

 フォクスは表情を変えないが、空気だけが固くなる。

 

「……どういう意味だ」

 

 フォクスが問う。

 

 ペルシアは背筋を伸ばした。

 

「統括官直属の探索チームを作る。四人から五人。緊急時に救出、捜索、事故対応、未探索領域の調査補助まで動ける少数精鋭のチームよ」

 

「それと俺たちに何の関係がある」

 

「あなた達が欲しい」

 

 ペルシアは迷わず言った。

 

「フォクス、あなたはA級ライセンス保持者。ファルコも操縦士として十分な腕がある。スリッピーは技術支援として申し分ない。クリスタルは索敵、護衛、対人対応に向いている。ナウスの支援もあれば、即応性は一気に上がる」

 

 言葉を切り、一人ずつを見る。

 

「私は、スターフォクス全員を、宇宙管理局の正式な協力部隊――できるなら、私の直属チームとして迎えたい」

 

 沈黙。

 

 重い沈黙だった。

 期待とは違う。

 怒りとも少し違う。

 拒絶が形になる前の、硬い沈黙。

 

 最初に口を開いたのは、フォクスだった。

 

「断る」

 

 短い言葉だった。

 

 だが、その短さが一番重かった。

 

 ペルシアは眉を動かす。

 

「早いわね」

 

「考える必要がない」

 

 フォクスの声は低く、揺れない。

 

「宇宙管理局は信用しない」

 

 その一言で、場の空気がさらに冷えた。

 

 ファルコが腕を組み、目を細める。

 

「俺も同じだ。管理局に入る気はねぇ」

 

 スリッピーは少し困った顔をしたが、それでも首を横に振った。

 

「僕も……ごめん。ペルシアのことをどうこうじゃなくて、管理局は信用できない」

 

 クリスタルは、壁にもたれたまま静かに言った。

 

「私も断るわ」

 

 声は冷たい。

 それ以上を語るつもりはない、という硬さがあった。

 

 ペルシアは、四人の顔を順番に見た。

 

「……全員、同じ理由?」

 

 フォクスが答える。

 

「宇宙管理局を信用しない。それだけだ」

 

「理由は?」

 

「答える必要はない」

 

 即答だった。

 

 ペルシアは息を吐いた。怒ってはいない。むしろ、予想通りだった。ただ、ここまで切り捨てるように断られると、胸の奥に鈍い痛みが残る。

 

「過去に、何かあったの?」

 

 そう聞いた瞬間、クリスタルの目が一段鋭くなった。

 ファルコの指がわずかに動く。

 スリッピーの顔から、困ったような笑みが消える。

 フォクスだけは変わらない。だが、その沈黙が何より答えだった。

 

「答えない」

 

 フォクスは静かに言った。

 

「聞くな」

 

 短い。

 鋭い。

 踏み込ませない。

 

 ペルシアは両手を軽く上げた。

 

「分かった。聞かない」

 

 クリスタルが少しだけ眉を動かす。

 おそらく、もっと食い下がると思っていたのだろう。

 

 ペルシアは椅子に深く座り直した。

 

「でも、私は諦めないわよ」

 

 フォクスの目が細くなる。

 

「今、断った」

 

「聞いた」

 

「全員、断った」

 

「それも聞いた」

 

「なら、話は終わりだ」

 

「終わらない」

 

 ペルシアは即答した。

 

 その声に、部屋の空気がわずかに揺れた。

 

「私は今日、あなた達を無理やり連れて帰るつもりはない。そんなことをしたら、あなた達がさらに管理局を嫌いになるだけだもの」

 

 ペルシアは机の上に置かれた自分の端末を指先で軽く叩いた。

 

「でも、あなた達が必要なのは変わらない。私は統括官として、守るためのチームを作る。その核に、あなた達が必要だと思ってる」

 

「必要だと言われても、俺たちは行かない」

 

「うん。今日はね」

 

 ファルコが眉を上げた。

 

「今日は?」

 

「そう。今日は断られた。だから今日は引く。でも明日も、明後日も、その先も、私は諦めない」

 

 クリスタルが冷たく言う。

 

「しつこいのね」

 

「ええ、しつこいわよ」

 

 ペルシアは堂々と頷いた。

 

「守りたいものがある時の私は、かなりしつこい」

 

 フォクスは黙ってペルシアを見つめる。

 その視線にはまだ警戒がある。

 信用など欠片もない。

 

 それでも、ペルシアは視線を逸らさなかった。

 

「宇宙管理局を信用しない。分かった。過去に何があったのかも言わない。分かった。あなた達が今すぐ来る気がないのも、分かった」

 

 そして、少しだけ身を乗り出す。

 

「でも、私は“宇宙管理局”を信じろって言いに来たんじゃない。私を見て判断してほしい」

 

「お前も管理局だ」

 

「そうね」

 

 ペルシアは頷く。

 

「私は宇宙管理局の統括官。管理局の人間よ。だからこそ、あなた達の前に来た。安全な局長室から命令書を投げるんじゃなくて、こうしてここまで来た」

 

「それで信用しろと?」

 

「違う。信用しなくていい」

 

 ペルシアはきっぱり言った。

 

「疑って。試して。拒んで。それでも私は来る」

 

 スリッピーが小さく呟いた。

 

「……すごいこと言うなぁ」

 

「スリッピー」

 

 クリスタルが鋭く呼ぶと、スリッピーは慌てて口を閉じた。

 

 ファルコは腕を組んだまま、口元だけで笑う。

 

「面白ぇな。嫌いじゃねぇけど、信用はしねぇぞ」

 

「それでいいわ」

 

「いいのかよ」

 

「最初から信用されると思ってないもの」

 

 ペルシアは、視線をフォクスへ戻した。

 

「フォクス。私はあなた達を諦めない。直属のチームとして迎えたい。固定のA級として、私のチームに入ってほしい。これは変わらない」

 

 フォクスは、少しだけ低い声で言った。

 

「何度来ても答えは同じだ」

 

「そうかしら」

 

「同じだ」

 

「なら、何度でも聞くわ」

 

 フォクスの眉がわずかに動いた。

 

 部屋の空気が、また硬くなる。

 

 クリスタルが一歩前に出た。

 

「貴方、分かっているの? ここは貴方の職場じゃない。私達の場所よ。何度も来られても迷惑だわ」

 

「分かってる」

 

「分かってないわ」

 

「いいえ、分かってる」

 

 ペルシアはクリスタルをまっすぐ見た。

 

「だから無理やり踏み込まない。今日ここに入ったのは、フォクスが奥へ案内したから。次に来る時も、勝手には入らない。連絡する。拒否されたら引く」

 

「それでも諦めないの?」

 

「諦めない」

 

「……しつこい」

 

「言ったでしょ」

 

 ペルシアは小さく笑った。

 

「私はしつこいの」

 

 クリスタルは言葉を失ったように口を閉じる。

 怒っている。警戒している。だが、ペルシアの言葉を完全に切り捨てるには、少しだけ戸惑っている。

 

 ファルコが肩をすくめた。

 

「フォクス、どうする? この女、マジで来るぞ」

 

 フォクスはペルシアを見たまま、しばらく黙っていた。

 

 その沈黙の中で、ナウスの機械音声が静かに流れる。

 

『ペルシアの発言に、虚偽反応は検出されません』

 

「ナウス」

 

 フォクスが低く言う。

 

『補足しただけです』

 

「余計だ」

 

『了解しました』

 

 ペルシアは口元を緩めた。

 

「ナウス、ありがとう」

 

『感謝は不要です』

 

「ほんと可愛くないわね」

 

『可愛げは任務遂行に不要です』

 

「それ、さっきも聞いた」

 

 わずかに空気が緩む。

 だが、フォクスの警戒は解けない。

 

「ペルシア」

 

「何?」

 

「今は断る。これからも信用はしない」

 

「うん」

 

「それでも来ると言うなら、勝手にしろ。ただし、俺たちの線を越えたら、その時は敵と見なす」

 

 クリスタルの手が、銃の近くで止まる。

 ファルコの目も笑っていない。

 スリッピーも緊張した顔になる。

 

 これは脅しではない。

 警告だ。

 

 ペルシアは頷いた。

 

「分かった。線は越えない。越える時は、ちゃんと許可を取る」

 

「許可を取っても、断る」

 

「断られても、また聞く」

 

 ファルコが吹き出した。

 

「おいおい、会話になってねぇぞ」

 

「交渉って、最初はそんなものよ」

 

 ペルシアは平然と言う。

 

 フォクスはため息を吐いた。

 

「……変な女だな」

 

「よく言われる」

 

「褒めてない」

 

「褒め言葉として受け取る」

 

 そこへ、ナウスの声が再び響いた。

 

『警告。外周通路に未登録の監視ドローン接近。三分後、索敵範囲に侵入します』

 

 空気が一瞬で張りつめる。

 

 ファルコが舌打ちした。

 

「またかよ」

 

「最近多いの?」

 

 ペルシアが聞くと、ファルコは低く答えた。

 

「たまにな。どこの犬か知らねぇが、鼻だけはいい」

 

 クリスタルが銃を手に取る。

 

「管理局?」

 

 ペルシアは即答した。

 

「違う。管理局の監視ドローンなら、もっと正規の音がする。あれは隠す音」

 

 フォクスが目を細める。

 

「分かるのか」

 

「耳がいいのよ。噂どおりね」

 

 スリッピーが端末を叩く。

 

「ナウス、映像!」

 

『表示します』

 

 モニターに外周通路の映像が映る。

 黒い小型ドローンが、滑るように通路を進んでいた。外装は反射を抑えられ、機体番号はない。

 

 フォクスが低く言う。

 

「ペルシア、帰れるか」

 

「今出たら、私がここから出るところを撮られるわ」

 

「そうだ」

 

「なら、私が出ない方がいい」

 

「その通りだ」

 

 フォクスの目が鋭くなる。

 

「ファルコ、入口封鎖。スリッピー、通信妨害。クリスタル、ペルシアの退路確保。ナウス、照明制御」

 

『了解』

 

 照明が落ち、壁の一部が音もなく開く。隠し通路だ。

 

 ペルシアは思わず呟いた。

 

「……こういうの、大好き」

 

「ふざけないで」

 

 クリスタルが鋭く言う。

 

「分かってる。真面目にやる」

 

 ペルシアは端末と所持品を回収し、クリスタルの後に続いた。

 隠し通路は狭く、冷たい。配管の匂いがする。金属の壁に手をつけると、わずかに振動が伝わってきた。

 

 スリッピーの声が通信で響く。

 

『妨害入れた!でも完全じゃない。相手、プロトコル変えてきてる!』

 

「半自律ね」

 

 ペルシアが呟く。

 

 クリスタルが横目で見る。

 

「分かるの?」

 

「音と反応の間。遠隔だけじゃない。機械が自分でも判断してる」

 

 クリスタルは少しだけ目を細めた。

 警戒ではなく、評価に近い視線だった。

 

『追加警告。ドローン操縦者、二名。距離四十』

 

 ナウスの声。

 

 ペルシアは足を止めた。

 

「人もいる」

 

「ええ」

 

 クリスタルが銃を構え直す。

 

 ペルシアは端末を取り出し、管理局の緊急連絡テンプレートを開いた。

 

「私が表に出る」

 

「何をする気?」

 

「管理局の人間はね、正規の理由があれば強いの」

 

 ペルシアは素早く文面を打つ。

 

『宇宙管理局統括官ペルシア。現地点検のため貨物区画外周通路へ移動中。未登録監視機の存在を確認。現場確認を実施』

 

 送信先は、管理局警備監視班と局長室直通。

 

「……上を巻き込むの?」

 

 クリスタルが驚いたように言う。

 

「盾にするのよ。こういう時のための“上”でしょ」

 

「すごい性格ね」

 

「褒め言葉として受け取る」

 

 ペルシアは隠し通路から外周側へ出た。姿を完全には見せず、影の中に立つ。

 外にいる二人の足音が止まった。

 

「……誰だ」

 

 低い声。

 

 ペルシアは冷たく返した。

 

「宇宙管理局、統括官ペルシア。そちらの所属と機体番号を名乗りなさい」

 

 沈黙。

 

 相手の呼吸が乱れる。

 肩書きに反応した。

 つまり、こちらの権限を知っている。

 

「……通行許可が必要な区画だ」

 

「統括官権限で移動中。あなた達の許可証を提示して」

 

 さらに沈黙。

 

 ペルシアは続けた。

 

「今、管理局警備監視班に連絡した。正規の警備が来るわ。逃げるなら今よ」

 

 その一言で、足音が後退する。

 

「撤収だ」

 

 小声。

 ドローンが一瞬こちらを向き、すぐに引いた。

 

『脅威、離脱。距離百二十。増援兆候なし』

 

 ナウスが告げる。

 

 ペルシアは息を吐いた。

 

「ほらね」

 

 クリスタルが呆れたように言う。

 

「命知らず」

 

「違う。命が大事だから守ったの」

 

 クリスタルは言い返さなかった。

 

 司令室へ戻ると、ファルコが腕を組んで待っていた。

 

「管理局を盾にするとはな。えげつねぇ」

 

「褒め言葉?」

 

「褒め言葉だ」

 

 スリッピーは目を輝かせていた。

 

「すごかったよ! 権限ってああやって使うんだね!」

 

「変なところで感心しないで」

 

 クリスタルが言う。

 

 フォクスは静かにペルシアを見ていた。

 

「……お前が本気で守ろうとしているのは、嘘じゃないらしい」

 

「やっと分かった?」

 

「信用はしない」

 

 即答。

 

 ペルシアは苦笑する。

 

「本当に警戒心が高いわね」

 

「当然だ」

 

 フォクスは中央の机に手を置いた。

 

「だが、今日の件で一つだけ分かった」

 

「何?」

 

「お前は管理局を守るためだけに動いているわけじゃない」

 

 ペルシアは少しだけ目を細めた。

 

「そうね。私は、守りたいものを守るために動いてる」

 

「その言葉も信用しない」

 

「はいはい」

 

 ペルシアは椅子にもたれ、肩をすくめた。

 

「それでも、私はあなた達を諦めない」

 

 フォクスは答えない。

 

 ファルコが小さく笑う。

 

「フォクス、こいつ、相当しつこいぜ」

 

「分かってる」

 

 スリッピーが困ったように笑う。

 

「でも……ちょっと面白い人だよね」

 

「スリッピー」

 

 クリスタルが低く呼ぶ。

 

「ご、ごめん」

 

 ペルシアは立ち上がり、端末を胸ポケットにしまった。

 

「今日は帰るわ。これ以上いたら、本当に管理局の警備が来る」

 

「そうだな」

 

 フォクスが言う。

 

 ペルシアは出口へ向かいかけて、ふと振り返った。

 

「フォクス」

 

「何だ」

 

「私はまた来る」

 

「来るなと言っても?」

 

「連絡はする。勝手には入らない。線は越えない。でも、また来る」

 

 クリスタルが呆れたように息を吐く。

 

「本当に諦めないのね」

 

「ええ」

 

 ペルシアはまっすぐに答えた。

 

「私は、あなた達を必要だと思ってる。あなた達が管理局を信用しないなら、まず私が“信用しなくても話せる相手”になる」

 

 フォクスは黙っている。

 

 ペルシアは続けた。

 

「直属チームに入るかどうかは、その後でいい。今日断られたことは忘れない。でも、今日で終わりにはしない」

 

「……勝手にしろ」

 

 フォクスの声は冷たい。

 だが、完全な拒絶ではなかった。

 

 ペルシアはそれを聞き取り、小さく笑った。

 

「勝手にする」

 

 ファルコが笑う。

 

「気に入ったぜ、その性格」

 

「ありがと。あなた達に気に入られるまで、もう少し頑張るわ」

 

「いや、そこまで言ってねぇ」

 

「言ったも同然よ」

 

 ペルシアは軽く手を振った。

 

「じゃあ、またね。スターフォクス」

 

 クリスタルは何も言わない。

 スリッピーは小さく手を振りかけて、クリスタルの視線に気づいて慌てて下ろす。

 ファルコはにやりと笑う。

 フォクスは最後まで表情を崩さなかった。

 

 ペルシアが倉庫を出ると、外の夜風は冷たかった。

 だが、胸の奥は熱い。

 

 スターフォクスは全員、断った。

 宇宙管理局は信用しない。

 過去に何があったのかも答えない。

 直属にもならない。固定のA級にもならない。

 

 それでも、ペルシアは諦めるつもりなどなかった。

 

 むしろ、はっきりした。

 

 彼らは必要だ。

 あの警戒心も、あの連携も、あの拒絶も、全部含めて必要だ。

 

 守るためには、綺麗な人間だけを集めても足りない。

 傷を知っている者が必要だ。

 疑うことをやめない者が必要だ。

 命令ではなく、自分の判断で動ける者が必要だ。

 

 ペルシアは端末を開き、統括官専属探索チームの候補リストを表示する。

 

 スターフォクス。

 その名前の横に、取り消し線は引かない。

 

 代わりに、短く注記した。

 

『最重要候補。警戒心極めて高い。管理局を信用せず。継続接触。諦めない』

 

 ペルシアはそれを見て、小さく笑った。

 

「……見てなさいよ、フォクス」

 

 夜の通路を歩きながら、ペルシアは独り言を落とす。

 

「私は、しつこいんだから」

 

 その声は、誰にも届かない。

 けれど、彼女の中でははっきり響いていた。

 

 断られた。

 拒絶された。

 信用されなかった。

 

 それでも、終わりじゃない。

 

 むしろ、ここからだ。

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