サヴァイヴ〜ドルトムント財閥〜   作:一塔

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信じる判断

 

護衛艦二隻の救助には、ほぼ一日を費やした。

 

当初の予測では。

 

アーウィン四機との合流まで八時間。

 

そこから牽引補助を受けながら第三セーシングポイントへ戻るまで、七時間余り。

 

合計でも十六時間以内。

 

そう見込まれていた。

 

だが、実際にはそうならなかった。

 

第一護衛艦の支持部は、外部映像で確認した以上に歪んでいた。

 

アーウィンが推進力を補助している間は安定していたが、航路変更を行うたびに張力の偏りが発生する。

 

その度に。

 

フォックスとスリッピーが牽引出力を調整し。

 

ジェームズが支持部の負荷を確認し。

 

護衛艦側が推進出力を落とす。

 

数値が安定するまで待ち。

 

それから再び航行する。

 

第二護衛艦も同じだった。

 

冷却系統の能力低下が、予想より早く進んだ。

 

推進出力を二十一パーセントまで落としても。

 

長時間航行によって、冷却材温度が少しずつ上がっていく。

 

数時間ごとに航行を止め。

 

予備冷却装置へ切り替え。

 

温度が下がるまで待機する必要があった。

 

ファルコは何度も先を急ごうとした。

 

その度にクリスタルが止め。

 

ジェームズが数字を突きつけ。

 

ペルシアが速度を落とすよう命じた。

 

救助のために出た船を。

 

さらに壊すわけにはいかなかった。

 

予定より大幅に遅れて。

 

護衛艦二隻とアーウィン四機が第三セーシングポイントへ到着した時。

 

宇宙管理局の警戒体制発令から、すでに十一日が経過していた。

 

大型画面に。

 

護衛艦二隻。

 

アーウィン四機。

 

グレートフォックス。

 

救助船。

 

医療船。

 

技術支援船。

 

補給船。

 

宇宙警察の巡視艦二隻。

 

全ての船影が表示される。

 

ようやく。

 

救援側の船が揃った。

 

だが。

 

喜んでいる時間はなかった。

 

第一護衛艦は、支持部の応急補強が必要。

 

第二護衛艦は、冷却材交換と冷却器の再調整が必要。

 

アーウィン四機も。

 

長時間の高速航行と牽引作業によって、燃料を大きく消耗している。

 

フォックス機、残燃料二十一パーセント。

 

ファルコ機、十九パーセント。

 

クリスタル機、二十三パーセント。

 

スリッピー機、二十パーセント。

 

全機。

 

すぐに再出動できる状態ではない。

 

第三セーシングポイントへ戻った瞬間から。

 

補給班。

 

整備班。

 

技術支援船。

 

グレートフォックスの作業用アーム。

 

全てが動き始めていた。

 

アーウィンへの燃料供給。

 

グラップリング装置の点検。

 

牽引ワイヤーの交換。

 

護衛艦への外部補強。

 

冷却系統の修復。

 

最短で進めても。

 

護衛艦二隻を再び未探索領域へ向かわせるには、最低六時間。

 

アーウィン四機は、燃料供給だけなら二時間。

 

牽引装置と機体の点検を含めれば三時間以上。

 

ペルシアは連盟指令室の中央画面を見つめていた。

 

第三セーシングポイント。

 

そこに集結した救援船団。

 

そして。

 

まだ第三セーシング領域へ到達していない調査船。

 

調査船の前方には。

 

動き続ける粉塵帯があった。

 

粒子密度は。

 

一時間前より僅かに上がっている。

 

粉塵帯の外縁も、少しずつ調査船側へ広がっていた。

 

ナミが監視結果を報告する。

 

「統括官、粉塵帯の拡大速度が上がっています」

 

ペルシアは画面から目を離さない。

 

「調査船との距離は?」

 

ナミが現在位置と粒子帯の外縁を重ねる。

 

「現在速度を維持した場合、約四時間十分後に外縁へ到達します」

 

マリも予測を更新する。

 

「ただし、粉塵帯の移動速度が現在のまま続いた場合です」

 

「拡大がさらに進めば、三時間半まで短くなる可能性があります」

 

ペルシアは救援側の準備状況を見る。

 

アーウィン四機。

 

最短三時間。

 

護衛艦二隻。

 

最短六時間。

 

救助船と技術支援船も。

 

粉塵帯を避けて調査船へ向かうには時間がかかる。

 

アーウィンだけを先行させれば。

 

調査船へ到達する前に。

 

調査船自身が粉塵帯外縁へ入る可能性がある。

 

フレイが宇宙管理局から報告する。

 

「統括官、護衛艦二隻の応急修理を三時間以内へ短縮することは困難です」

 

ペルシアは聞き返す。

 

「作業を分けても?」

 

フレイが答える。

 

「第一護衛艦の外部補強は短縮できません。接合部を固定する前に推進器を使用すれば、補強材そのものが剥離する可能性があります。第二護衛艦は冷却器の交換を省略できますが、その場合は未探索領域への再進入後、連続航行時間が二時間以内に制限されます」

 

ジェームズが短く言う。

 

「行かせる意味がない」

 

ペルシアは腕を組む。

 

「アーウィンだけ先に出せば?」

 

スリッピーがグレートフォックスの格納庫から答える。

 

「燃料だけなら二時間以内に終わるよ。でも、牽引装置を使うならワイヤーを交換した方がいい。護衛艦の牽引で、想定以上に熱が入ってる」

 

ファルコが言う。

 

「交換しなくても、一回くらいなら持つだろ」

 

スリッピーはすぐに否定する。

 

「一回が何時間になるか分からない。調査船の救助に使うなら、護衛艦より負荷が大きくなる可能性もある」

 

クリスタルも加える。

 

「燃料だけ入れて出すのは反対よ。現場へ着いた後で装置が使えなければ、戻るだけになるわ」

 

ファルコは黙った。

 

ペルシアは画面を見つめたまま、考える。

 

時間がない。

 

だが。

 

焦って出した救援隊が、現場で何もできなければ意味がない。

 

護衛艦を不完全な修理で出せば。

 

また途中で止まる。

 

アーウィンを不十分な点検で向かわせれば。

 

調査船へ着いた後に故障するかもしれない。

 

待つべき。

 

本来なら。

 

全てを整えてから出すべきだ。

 

だが、その間にも。

 

調査船は粉塵帯へ近づいている。

 

ペルシアは調査船の現在位置を拡大した。

 

速度。

 

推進出力。

 

機体負荷。

 

航路。

 

どれも大きな異常はない。

 

ジェームズの予測範囲内。

 

十日間。

 

リュウジは調査船を壊さずに動かし続けている。

 

だが。

 

粉塵帯は。

 

待ってはくれない。

 

「統括官」

 

シャオメイが呼ぶ。

 

「調査船から優先通信です」

 

ペルシアの顔が上がる。

 

「繋いで」

 

「接続します」

 

大型画面の一部が切り替わる。

 

調査船操縦室。

 

リュウジが操縦席に座っている。

 

前回の通信よりは、僅かに顔色が戻っていた。

 

だが。

 

疲労が消えたわけではない。

 

目の下に濃い影。

 

頬にも力がない。

 

それでも。

 

操縦席に座っている時のリュウジの目は。

 

正面の航路をまっすぐ見ていた。

 

「ペルシア」

 

「聞こえてる。どうしたの?」

 

リュウジは一度、前方の航路表示を見る。

 

「このまま粉塵帯へ入る」

 

連盟指令室の空気が止まった。

 

ペルシアは思わず前へ身を乗り出す。

 

「待って」

 

リュウジは答えない。

 

ペルシアは続ける。

 

「今、スターフォックスの燃料供給と機体点検をしてる。終わり次第、すぐに向かわせる。護衛艦二隻も修理中。六時間以内には出せる」

 

リュウジは静かに返した。

 

「六時間は待てない」

 

ペルシアの声が強くなる。

 

「待てないじゃない、待って。速度を落として、粉塵帯の移動を見ながら時間を作って」

 

リュウジは計器を確認する。

 

「速度を落とせば、粉塵帯に飲まれる」

 

「進路を変えれば?」

 

「外縁が広がってる。今から迂回路へ入っても、途中で塞がれる可能性が高い」

 

マリが航路予測を確認する。

 

「リュウジさんの予測と一致します」

 

ペルシアがマリを見る。

 

「他の迂回路は?」

 

マリが複数の候補を出す。

 

「第一候補は九時間増加。第二候補は十四時間。ですが、どちらも粉塵帯の移動が現在の予測から外れた場合、途中で再変更が必要です」

 

リュウジが続ける。

 

「迂回に入った後で塞がれたら、推進器が持たない」

 

ペルシアは言い返す。

 

「だからスターフォックスが行く。三時間以内に出せる」

 

「到達まで何時間かかる」

 

ペルシアは答えられなかった。

 

今の調査船の位置。

 

第三セーシングポイントから。

 

迂回航路。

 

アーウィンが燃料と装備を積んで発進しても。

 

到達には十時間前後かかる。

 

調査船は、それまで粉塵帯の前で待てない。

 

ペルシアは航路図を見る。

 

「なら救助船を先に出す」

 

フレイが静かに答える。

 

「大型船では間に合いません」

 

ペルシアは唇を噛む。

 

分かっている。

 

分かっていて。

 

何か他の手段を探している。

 

リュウジが言う。

 

「今なら突破できる」

 

ペルシアは即座に否定する。

 

「駄目。今の調査船で、もう一度粉塵帯へ入るなんて認めない」

 

「最初の粉塵帯より密度は低い」

 

「低くても粉塵帯よ。今の推進器では出力を上げられない」

 

「上げなくても抜けられる」

 

ジェームズが機体ログを見ながら言う。

 

「機体には異常はない」

 

ペルシアがジェームズを見る。

 

「本当に?」

 

「今のところはな」

 

「支持材の負荷も、安定してる。推進器温度も、正常範囲」

 

「なら突破できる?」

 

ジェームズは黙った。

 

数値だけなら。

 

現在の調査船に、新たな異常はない。

 

推進出力十パーセント。

 

構造負荷。

 

推進軸。

 

冷却系統。

 

いずれも十日間の範囲内に収まっている。

 

だが。

 

粉塵帯へ入る。

 

粒子衝突。

 

姿勢補正。

 

出力変動。

 

船体振動。

 

今まで抑えていた全ての負荷が、一度にかかる。

 

ジェームズは答える。

 

「今のデータだけなら、すぐ壊れる状態ではない」

 

ペルシアが詰め寄るように聞く。

 

「できるの?」

 

「分からない」

 

「どっちよ」

 

「粉塵帯の中の負荷は、外から計算しきれない。機体に異常はない。でも、安全とも言えない」

 

リュウジが静かに言う。

 

「機体は厳しい」

 

ジェームズの目が動く。

 

「何を感じてる」

 

リュウジは操縦桿へ手を置いたまま答える。

 

「右後方から、僅かに遅れて返ってくる」

 

ジェームズが機体図を開く。

 

「数値には出てない」

 

「分かってる」

 

「どの入力だ」

 

「姿勢補正」

 

「補助推進器一番を使った時だけ、戻りが遅い」

 

ジェームズがログを拡大する。

 

補助推進器一番。

 

入力。

 

反応。

 

姿勢変化。

 

全て正常範囲内。

 

数値上の遅延は検出されていない。

 

「ログにはない」

 

リュウジは短く答える。

 

「感覚的に厳しい」

 

指令室が静まる。

 

連盟職員の一人が小さく言う。

 

「感覚だけで、粉塵帯突破の可否を判断するのですか」

 

ペルシアの目が鋭くなる。

 

だが。

 

リュウジはその言葉へ反応しなかった。

 

ジェームズも、数字だけを見て否定しない。

 

十日前。

 

計器に異常が出ない段階で。

 

リュウジは推進器の違和感を報告した。

 

その感覚は正しかった。

 

今回も。

 

数値には現れていない。

 

だが。

 

操縦席にいるリュウジは。

 

船体の反応が厳しくなっていると感じている。

 

ペルシアは尋ねる。

 

「厳しいのに、突破するの?」

 

リュウジは前方の粉塵帯を見る。

 

「厳しいから、今行く」

 

「どういう意味?」

 

「時間が経てば悪化する」

 

「機体が?」

 

「両方。機体も、粉塵帯も」

 

リュウジは航路表示を操作する。

 

粉塵帯の密度。

 

拡大方向。

 

調査船の進入角度。

 

出口までの距離。

 

「今なら外縁の薄い場所を通れる。三時間後には、この区画も密度が上がる。待ってから入る方が危険だ」

 

ペルシアは声を強める。

 

「待ってから入れるなんて言ってない。スターフォックスを向かわせる」

 

「到着する前に、薄い場所が消える」

 

「なら別の場所から」

 

「その時には機体が持たない」

 

「どうしてそう言い切れるの?」

 

リュウジは少し黙った。

 

それから。

 

低い声で答える。

 

「船が重い」

 

ペルシアの表情が変わる。

 

数字ではない。

 

感覚。

 

操縦桿。

 

座席。

 

反応。

 

船全体から伝わるもの。

 

「重いって?」

 

「姿勢を戻した後、船が止まろうとする。推進器は動いてる。速度も落ちてない。でも、今までより一回ずつ遅い」

 

ジェームズが聞く。

 

「支持部がずれてると思うか」

 

「分からない」

 

「補助推進器か?」

 

「それも分からない」

 

「なら何が厳しい」

 

リュウジは一度目を閉じる。

 

操縦してきた十日間。

 

船体へ伝わる振動。

 

操縦桿から返る力。

 

出力を入れた時の動き。

 

止めた時の余韻。

 

言葉にしにくいものを。

 

何とか形にしようとしている。

 

「船全体」

 

リュウジは答えた。

 

「どこか一つじゃない。全体が、少しずつ遅れてる」

 

ジェームズは黙った。

 

数値には出ていない。

 

だが。

 

複数の小さな劣化が同時に進めば。

 

個別の異常値にはならないまま。

 

船全体の応答だけが鈍くなることはある。

 

それを操縦士が感じ取っている。

 

「今のうちに抜ける」

 

リュウジが言う。

 

「粉塵帯へ入る前に、出力を一度十二まで上げる」

 

ペルシアが即座に反応する。

 

「十パーセントを超えるの?」

 

「短時間だけ」

 

ジェームズが厳しい声を出す。

 

「支持材が開く可能性がある」

 

「分かってる」

 

「開いたら戻せない」

 

「開く前に落とす」

 

「お前の感覚だけで?」

 

「そうだ」

 

ジェームズの顔が険しくなる。

 

「危険だ」

 

「今残ってる選択肢は全部危険だ」

 

リュウジの声には。

 

怒りも苛立ちもなかった。

 

疲れている。

 

だが、迷ってはいない。

 

「迂回して、途中で塞がれる」

 

「待って、密度が上がる」

 

「救援を待って、機体が遅くなる。今抜ける。一番戻れる可能性が高いのはこれだ」

 

ペルシアは画面の前で拳を握った。

 

認めたくない。

 

粉塵帯へ入れたくない。

 

十日前。

 

あの粉塵帯で。

 

護衛艦二隻が離脱した。

 

調査船は壊れ。

 

隊内の信頼も崩れた。

 

リュウジは一人で操縦を引き受けた。

 

もう一度。

 

同じ場所へ。

 

今度は傷ついた船で入る。

 

止めるのが管理局の仕事。

 

帰すのが自分の仕事。

 

そう思って。

 

ここまで体制を作った。

 

なのに。

 

今。

 

リュウジは救援を待たずに行くと言っている。

 

ペルシアは低い声で言う。

 

「リュウジ」

 

「何だ」

 

「私はあなたを止めるために、権限を取り上げたんじゃない」

 

「分かってる」

 

「勝手に危険へ入るために、操縦を任せたわけでもない」

 

「分かってる」

 

「なら待って」

 

リュウジは答えなかった。

 

ペルシアはさらに言う。

 

「私は、あなたを帰したい」

 

「帰るために行く」

 

「失敗したら?」

 

「失敗しない」

 

ペルシアの声が強くなる。

 

「そんな保証どこにもない!」

 

「保証はない」

 

「なら!」

 

リュウジが静かに遮った。

 

「ペルシア」

 

ペルシアは言葉を止める。

 

「俺に操縦を任せてくれるんだろ?」

 

その一言が。

 

指令室の空気を変えた。

 

ペルシアは答えられなかった。

 

十日前。

 

自分が言った。

 

船をどう動かすか。

 

どこで止まるか。

 

戻るか。

 

進むか。

 

全てリュウジが決めていい。

 

本部の期待も。

 

調査隊の声も。

 

気にしなくていい。

 

いつもどおり操縦すればいい。

 

自分は。

 

その判断を支持すると言った。

 

だが。

 

今。

 

リュウジの判断は。

 

ペルシアが最も選んでほしくなかったものだった。

 

粉塵帯へ入る。

 

救援を待たない。

 

傷ついた船で突破する。

 

操縦を任せるとは。

 

自分が納得できる判断だけを認めることではない。

 

現場にいる操縦士が。

 

自分より多くの情報を。

 

数字にならない感覚まで含めて持っていると認めること。

 

その判断が怖くても。

 

任せること。

 

ペルシアは唇を噛んだ。

 

リュウジが続ける。

 

「信じてくれ」

 

声は疲れている。

 

だが。

 

弱くはなかった。

 

助けを求める声でもない。

 

無茶を通そうとする声でもない。

 

操縦士として。

 

必要な判断を伝えている声だった。

 

ペルシアは画面に映るリュウジを見る。

 

操縦席に座った時の。

 

あの目。

 

航路そのものを見ているような目。

 

数字だけではない。

 

船体。

 

粉塵。

 

時間。

 

乗員。

 

全てを同時に見ている。

 

リュウジは。

 

一度も自分だけが助かる航路を選ばなかった。

 

粉塵帯でも。

 

護衛艦離脱後も。

 

帰還中も。

 

全員を生きて帰すために操縦してきた。

 

今も。

 

恐怖や焦りで言っているのではない。

 

自分の船が。

 

今なら抜けられる。

 

今を逃せば厳しくなる。

 

そう判断している。

 

ペルシアは目を閉じる。

 

頭の中で。

 

全ての選択肢を並べた。

 

待機。

 

救援待ち。

 

迂回。

 

停止。

 

突破。

 

どれにも危険がある。

 

安全な選択肢は。

 

もうない。

 

なら。

 

最も現場を知る者へ任せるしかない。

 

ペルシアはゆっくりと目を開いた。

 

「分かった」

 

指令室の全員がペルシアを見る。

 

「リュウジを信じる」

 

連盟職員の一人が驚いたように声を上げる。

 

「統括官、本当に突破を認めるのですか?」

 

ペルシアは振り返る。

 

「認める。でも、リュウジ一人には任せない」

 

ペルシアの声が、統括官のものへ変わった。

 

迷いを残さず。

 

決めた後は。

 

全員を動かす。

 

「全員、配置を整えて」

 

フレイが即座に反応する。

 

「突破支援体制へ移行します」

 

ペルシアは次々に指示を出す。

 

「シャオメイ、調査船との全通信を最優先。通常回線を圧縮。位置、機体ログ、音声の順で必ず残して」

 

シャオメイが答える。

 

「承知しました。第三中継と第二中継を同時使用します。片方が切れても、もう一方で位置情報を保持します」

 

「ナミ、通信断に備えて最終位置の自動記録」

 

ナミが答える。

 

「一秒ごとに保存します。通信が切れた場合、推定航路を自動更新します」

 

「マリ、粉塵密度の変化をリュウジへ直接送って」

 

「前方だけじゃなく、左右と出口側も」

 

マリが答える。

 

「観測範囲を六方向へ拡張します。密度変化は数値と音声の両方で送信します」

 

「ジェームズ」

 

ジェームズはすでに機体図を開いている。

 

「見てる」

 

「出力十二パーセントを使える時間は?」

 

ジェームズは構造負荷を再計算する。

 

「確実に安全と言える時間はない」

 

「目安でいい」

 

「三十秒以内」

 

リュウジが答える。

 

「十五秒で足りる」

 

ジェームズがリュウジを見る。

 

「十二まで一気に上げるな。十一で五秒。負荷を見て十二。支持部が開いたら即十へ戻せ」

 

「了解」

 

ペルシアは続ける。

 

「スターフォックス」

 

グレートフォックスの格納庫からフォックスが答える。

 

「聞いている」

 

「燃料供給だけ終わった機体から先行準備。牽引装置は交換を続けて」

 

「でも、調査船が粉塵帯を抜けた後に停止したら、装置を積んだ二機だけでも出す」

 

フォックスが答える。

 

「俺とスリッピーが牽引装備を持つ」

 

ファルコがすぐに口を挟む。

 

「俺達は護衛か」

 

「そうよ」

 

ペルシアが答える。

 

「ファルコとクリスタルは外縁警戒。調査船が粉塵帯を抜けた瞬間に向かえるようにして」

 

ファルコが言う。

 

「分かった」

 

クリスタルも答える。

 

「リュウジの身体状態も通信から確認するわ」

 

「お願い」

 

ペルシアはリリアへ指示する。

 

「宇宙警察の巡視艦二隻を粉塵帯外縁へ前進」

 

リリアが確認する。

 

「粉塵帯へは入れません」

 

「入らなくていい。抜けた調査船を受け取れる位置まで、救助船と医療船の航路を確保して」

 

「承知しました」

 

「フレイ、救助船と医療船を前進待機」

 

フレイが答える。

 

「第三セーシングポイントから出します。ただし、粉塵帯外縁から安全距離を維持します」

 

「技術支援船も一緒に、補給船は後方待機」

 

「承知しました」

 

ペルシアはマーカスを見る。

 

局長は、ここまで一度も口を挟まなかった。

 

ペルシアが決めるのを待っていた。

 

「局長」

 

マーカスが答える。

 

「やれ」

 

短い言葉。

 

だが。

 

それで十分だった。

 

宇宙管理局として。

 

突破判断を支える。

 

責任も引き受ける。

 

そういう意味だった。

 

ペルシアは再びリュウジを見る。

 

「リュウジ」

 

「聞こえてる」

 

「突破を認める」

 

リュウジの目が僅かに動く。

 

「ありがとう」

 

「まだよ」

 

ペルシアは強く言う。

 

「勝手に始めないで、こっちの配置が整うまで待って」

 

「どのくらいだ」

 

「七分」

 

「五分で」

 

「七分」

 

「粉塵帯が動いてる」

 

マリが割り込まず、最新予測を送る。

 

ペルシアは数値を見る。

 

薄い進入口が閉じ始めている。

 

「六分」

 

リュウジは答える。

 

「分かった」

 

ペルシアは指令室全体を見渡す。

 

各担当が動く。

 

通信回線。

 

機体監視。

 

救助船。

 

医療船。

 

巡視艦。

 

アーウィン。

 

グレートフォックス。

 

全てが。

 

一人の操縦士の判断を支えるために配置されていく。

 

今度は。

 

リュウジだけが粉塵帯へ入るのではない。

 

物理的には調査船一隻。

 

だが。

 

その後ろには。

 

宇宙管理局全体がいる。

 

ペルシアは一つずつ確認する。

 

「シャオメイ」

 

「通信二重化、完了しました」

 

「ナミ」

 

「位置情報の一秒記録を開始しました」

 

「マリ」

 

「粉塵密度の直接送信を開始します」

 

「ジェームズ」

 

「機体監視、準備できた」

 

「フレイ」

 

「救助船、医療船、技術支援船、前進開始」

 

「リリア」

 

「巡視艦二隻、外縁待機地点へ移動中です」

 

「フォックス」

 

「アーウィン四機、発進準備へ移行した」

 

「ナウス」

 

「全船の通信中継及び位置追跡を開始しています」

 

ペルシアは最後に。

 

調査船を見る。

 

「リュウジ」

 

「準備できてる」

 

「進入口は?」

 

マリが送った観測値を見ながら、リュウジが答える。

 

「前方右、十一度」

 

「出口は?」

 

「二十五度左へ流れてる」

 

「途中で変わる可能性は?」

 

「ある」

 

「対応できる?」

 

リュウジは迷わず答えた。

 

「できる」

 

ペルシアは一度だけ息を吸った。

 

怖い。

 

止めたい。

 

待たせたい。

 

だが。

 

信じると決めた。

 

「分かった」

 

ペルシアはリュウジをまっすぐ見る。

 

「任せる」

 

リュウジの手が操縦桿を握る。

 

「必ず抜ける」

 

ペルシアは強く返す。

 

「ええ。全員連れて帰ってきて」

 

「分かった」

 

ペルシアは指令室全体へ向き直る。

 

「調査船、粉塵帯突破へ移行。全員、持ち場を離れないで、異常を感じたら、数値が出る前でも報告。リュウジの操縦を邪魔しない。でも、絶対に一人にしない」

 

そして。

 

通信画面の中で。

 

リュウジが前を向く。

 

主推進出力。

 

十パーセント。

 

前方。

 

粉塵帯。

 

薄い進入口が。

 

少しずつ閉じ始めている。

 

リュウジは静かに告げた。

 

「調査船、粉塵帯突破を開始する」

 

ペルシアは拳を握ったまま。

 

答えた。

 

「行って」

 

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