Rational or Ethics   作:宮枝嘉助

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Rational or Ethics【Ⅱ】

 世界は、無数に存在する。

 まるで合わせ鏡のように。

 

 デジモン、というコンピューターネットワーク上に存在する種族が生息している世界も、それこそ無数と言っていい程に存在する。

 

 

 その無数の世界の中に、黒と白の粉が舞い続けている世界があった。

 

 舞っているのは、デジモン達の命。

 舞い続けている原因は、世界を2つに分けての戦争。

 両陣営の力は互角で、戦いは永遠に続くのではないかと思われた。

 しかし、戦いが始まってから3年の時が経過した頃、この世界に変化の兆しが現れ始める。

 

 今も黒と白の粉が舞い散っているこの大地の中で、雌雄を決する為に今にも激突せんとする光の竜と紅い焔があった。

 それを見ながら、青いマフラーを纏った少年──高村悟──はふと物思いに耽っていた。

 

 相手の茶色いニット帽をかぶった少年──藤代修──が帰らなければならない理由は、確かに自分の理由より重いと思う。

 だが、下らなくなんかは決してないと、胸を張って言える。

 

 

 サトルには、華宮結衣という幼馴染みが居た。

 彼女との関係は、端から見ればどう見ても恋人同士であるが、本人達はそうは思っていないという、微妙な関係。

 

 互いに恋愛感情が無い訳ではない。

 しかし、昔から仲が良かった……いや、良過ぎたが為に、告白という恋人同士になる為の儀式を通り越して恋人同然の付き合いをしている。

 

 周りの人間はというと、サトル達がどう見ても恋人同士な為、実はまだ告白も済んでいない友達以上恋人未満な関係である事に気付いていなかったりする。

 

 サトルがこの世界に召喚される前日の事だ。

 

 サトルは結衣とケンカをした。

 原因はサトルが部活のマネージャーと一緒に帰って来たからという、とても些細な事だった。

 ただでさえ自分の事を理解している相手だというのに、嘘が下手なサトルが結衣に嘘をついてしまったのがいけなかった。

 

 案の定、結衣に嘘を見破られ、ケンカになってしまった。

 何故サトルはそんな嘘をついたのか。

 その答えは至極簡単な事だった。

 例え嘘がバレてケンカになったとしても、そしてそのケンカの流れで「大嫌い」等と言われたとしてでも、本当の理由を知られたくなかったのだ。

 

 いや、本当の理由を悟られたくないという意味では、むしろケンカでもした方が悟られにくくなるからいいとさえ思っていた。

 

 ちなみにそのケンカをした日付は、12月4日。

 その20日後は、聖夜とまで云われているクリスマス・イヴであると同時に、結衣の誕生日でもある。

 

 今まで、サトルは結衣にプレゼントを贈った事が無かった。

 だが、今年はプレゼントを贈ろうと思い、部活のマネージャーに頼み込んでプレゼントを見繕ってもらった。

 そしてその帰りに結衣に見つかってしまったのが事の真相という訳だ。

 

 しかし、初めてプレゼントを贈るのを気取られたら恥ずかしいという事だけが嘘をついてまで隠した理由ではない。

 この初めてのプレゼントを贈ると同時に、贈りたい言葉があったのだ。

 

 

「……あいつに、ちゃんと好きって言うんだ。伝えるまで、死んでたまるか──!」

 

 

 それに、結衣は昔から泣き虫だった。

 本当に事あるごとに泣いていた。

 今回のケンカの後だって、泣いているかもしれない。

 自分が泣かせてしまった事だってよくあったが、その度に仲直りをし、結衣は仲直りの証に綻んだ笑顔を見せてくれていた。

 その笑顔を、自分が彼女に惚れるきっかけになった笑顔をもう1度見る為にも──!

 

 

「行けえっ、ヴィクト! そんな炎、ブチ破れええぇぇええっ!」

 

 

「ぐ……う、お……ぉぉおおおッ!」

「オオオオォォォオオオンッ!」

 

 

 サトルの叫びとは裏腹に、場は拮抗していた。

 光の竜と化したヴィクトはメギドラモンが放った炎と押しつ押されつの状態で激突していた。

 

 だがこれは異常ともいえる状態であった。

 究極体の、それも“四大竜”に数えられているデジモンの必殺技と、いくら強力な技とはいえ、たかだか完全体の必殺技が互角等という事態は、もはや奇跡と言っても過言ではない。

 

 しかし“世界”とは良く出来たモノで、為した事象には必ずそれ相応の代償が付いてくる。

 それは重力に耐える為の筋力であったり、生命が栄養を得る為に他者から奪う生命であったり、物を燃やす為に消費する酸素であったりするのだが、今回の事象については使用者の肉体が奇跡の代償となっていた。

 今まさにこの瞬間も、完全体に過ぎないエアロブイドラモンの身に余る強さの必殺技の反動がヴィクトの身体を蝕んでいた。

 

 

「──く、う……ああっ……!」

 

 

 その事は、技の使用者自身が1番理解していた。

 今も体中の組織という組織が燃え尽き死滅していっている。

 もう、それほど長くは保たないだろう。

 

 

「早く、決着を着けないと──!」

 

 

 とは言ったものの、メギドラモンの業火の勢いは凄まじく、押し止めるのがやっとの状態だ。

 だからといって、ここで避ければサトルが標的にされる。ヴィクトにはそんな予感があった。

 避ける事も炎を破る事も出来ず、その上このままでは身体が保たずに犬死にしてしまう。

 

 

「くそっ……ちくしょう! ちくしょう──! もっと、もっと力があれば!」

 

 

 ヴィクトはちらりとサトルを見た。

 サトルの目は真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 その姿を見ただけで、溢れんばかりの信頼感をヴィクトは感じ取る。

 

 ──応えてやりたい。

 こちらの都合で勝手に召喚してしまったあの少年を守ってやりたい。

 その為には、この邪竜だけは何としても討ち倒さないといけない。

 その為ならば、例えこの場で自らの命が燃え尽きてしまっても構わない──!

 

 

 そう決意を固めた瞬間。

 自らが放っていた光の量が増した。

 そしてその光は炎を穿つ力となりて、ヴィクトの道を切り開く。

 

 

「うあああああああああああああ!!!!」

 

 

 力を増した光の竜が邪竜の火炎を押し返し始めた。

 徐々に狭まっていく邪竜との距離。

 この調子で行けば押し切るのは時間の問題だったのだが、しかし。

 

 

「グオオオオォォォォオオオオッ!!!!」

 

 

 後少しで炎を完全に突き破る、という所まで迫った瞬間だった。

 邪竜の胸部にある記号が激しく輝きを放ち始めた。

 

 更に、それが輝くのと同時に炎の勢いが爆発的に増した。

 それは、自らの生命の危機を察知したメギドラモンの強い生存本能によって、何らかの力で封印されているという“デジタルハザード”としての力の一部が開放されたのが原因であった。

 その力でもって威力を増した炎は、直前まで迫っていた光の竜を押し返し始める。

 

 

「ぐ──くそっ! 後少しで届くんだ! 負ける……もんかああぁぁああッ!」

 

 

 だがヴィクトも負けじと力を込める。

 光の量は更に増大し、サトル達の目が眩む程になり、炎を再び押し返し始め──

 

 

 

 

 炎が、空を貫いた──。

 

 

 

 

 サトルは、一瞬何が起こったのか理解出来なかった。

 何故、紅い光が天まで伸びているのか。

 何故、先の瞬間までヴィクトが居た所が爆発を起こしているのか。

 

 

「え? あ……そんな、嘘だろ……ヴィクト……ヴィクトォッ!」

 

 

 サトルの慟哭を聞いて、シュウが我に帰る。

 シュウにとっても、この結果は予想外だった。

 シュウは今の激突の一部始終を見ていて敗北を覚悟していたからだ。

 

 

「……ふ、はははっ! 勝った! 俺の勝ちだ! これで残るはお前だけだ高村!」

 

 

 我に帰ったシュウは喜びに打ち震えた。

 自分の世界に帰る為の道が目の前に見えたからだ。

 後は高村を殺し、“白の軍勢”を焼き尽くせば──!

 

 

「さあグラン! これで邪魔者はもういない! こいつを殺せ! ……グラン?」

 

 

 喜び勇んで指示を出すシュウだったが、グランの様子がおかしい。

 グランが空を、正確にはさっきまでエアロブイドラモンが居た所を睨み付けたまま微動だにしない。

 

 まさか、あれだけの炎を受けてまだ生きているとでもいうのか。

 だが、今のグランにはほとんど理性は無い。

 だからこそ、今のグランは本能的に何かの気配を感じ取っているのではないだろうか。

 

 

「──死んじまった、のか……? なあ、冗談だろ、ヴィクト……」

 

 

 あまりの出来事に立っている事すら出来ずに膝をつくサトル。

 約束したのに、大丈夫だって言ってたのに、何より、ヴィクト自身から敗北を覚悟した悲壮感とかは全く感じなかったのに──

 

 

「絶対勝つって、任せろって言ってたじゃねえかよ……応えろよ、ヴィクトォッ!」

 

 

 サトルがその想いを吐き出した瞬間、サトルの腰にぶら下がっていた白い筺体がその輝きを増した。

 

 それと同時に、爆風が巻き起こる。

 その風は、先程爆発した地点の中心に向かってまるで吸い寄せられるように渦を巻いていたのだが、しばらくしてぱたりと風が止んだ。

 

 いや、正確には一瞬だけ風が止んだ。

 それは、確かに一瞬だったハズなのに、サトルにとっては時が止まったかのように長く感じられた。

 

 そしてその“一瞬”の後、またも爆風が発生した。

 ただし、今度は逆に吹き飛ばされるような爆風だ。

 その吹き荒れる嵐のような風で、サトルは思わず目をつぶった。

 

 その風もしばらくすると止み、サトルはゆっくりと目を開ける。

 その目に映っていたのは、蒼く輝く甲冑に身を包んだ竜の姿だった。

 その姿を見たサトルは、半ば本能的にその竜がヴィクトだと理解した。

 

 

「ヴィクト……! 生きてたのか……良かった。本当に──」

「──オレ、生きてる……のか? あの時、もう燃やすモノがデジコアしか無くなって、それでも燃やそうとしたら、身体が内側から弾けて……。それに、この姿……究極体に……?」

 

 

 今の事態に1番驚いていたのは、他ならぬヴィクト自身だったかもしれない。

 死を覚悟していたというのに、生きていたばかりか、進化まで出来てしまったのだから。

 あれほど蝕まれていた身体も全快し、その上ドラゴンインパルスを使った時以上に力が漲っている。

 それだけで、この究極体の持つ力が凄まじいモノである事が解る。

 そればかりか、今の自分の名前は勿論、今の自分が出来る事も解る。

 

 

「ガアアアアアッ!」

 

 

 敵が生きているのを見たメギドラモンは、直ぐさまヴィクトに飛び掛かり、その手に備わっている3本の鉤爪で切り裂かんとする。

 しかしメギドラモンが切り裂けたのは、ヴィクトが居た地点の空気のみ。

 ヴィクトはというと、一瞬の内に空高くまで移動していた。

 そしてそのままの勢いでヴィクトは上昇を続け、先程と同じ光の竜と化して突撃を敢行する。

 

 

「ドラゴンインパルス!」

「グラン、啼け!」

 

 

 その瞬間、シュウの声が響き渡った。

 シュウの手には黒い光を放つ筺体が握られている。

 しかし突然出されたその指示は、理性等ほとんど無いメギドラモンには届くハズが無いと思われたのだが。

 

 

「ヘル・ハウリング」

 

 

 邪竜の動きが一瞬停止し、その後再び動き出した時には、先刻と同様に大地が震え始めていた。

 同時に空間も揺らぎ、ヴィクトが纏う光も歪み始める。

 揺らぎは次第に大きくなり、遂にはヴィクトが纏っていた光でさえも霧散してしまった。

 

 

「今だ、グラン!」

「メギド・フレイム」

 

 

 そしてまた響くシュウの指示。

 またもメギドラモンはそれに従い、火炎を吐き出した。

 それも、シュウがちゃんと指示した方向であるサトルが居る方向へ──。

 

 

「くっ──!」

 

 

 舌打ちしながらもヴィクトは咄嗟に反応し、目にも留まらぬスピードでサトルの元へ飛んだ。

 だが火炎の足も速い。割り込む事は出来ても、必殺技を放つには時間が無さ過ぎる。

 加えて、サトルを抱えて避ける事も考えたが、サトルの後ろには“黒の軍勢”と戦闘中の“白の軍勢”が居る為、巻き込む訳にも行かない。

 だが、今の姿──アルフォースブイドラモン──ならサトルを守りつつ“白の軍勢”も守る事も不可能ではない──!

 

 

「ヴィクト、何をするつもり……まさか受け止めるつもりか?無茶だ、止め──!」

「テンセグレートシールド──!」

 

「やったか……?」

 

 

 炎が高村の居た所を包み込んでいるのを見ながら、シュウは自信無さげに呟く。

 正直な所、シュウは完全体同士で戦っていた時から力の差を感じていた。

 向こうがこちらを殺すつもりで戦っていれば、勝負にさえならなかっただろうと。

 それは、究極体同士になった今もそのままなのではないか、と考えてしまう。

 

 ふと、輝きを放っている黒い筺体を見るシュウ。

 相手のデジモンを見て言いようの無い悪寒を感じた途端に輝きを放ち始めた筺体。

 それのおかげなのか、突然グランに指示が届くようになった。

 なら、まだやれる事は残っている──!

 

 

「来るぞグラン! 全力で迎え撃て!」

「──! ……グオオオォォォオオオッ!」

 

 

 指示を聞いたグランは、胸部の記号を赤黒く輝かせながら咆哮した。

 人間の指示1つでいとも簡単に開放され始める“デジタルハザード”の力。

 これが、デジモンの力を最大限に引き出すと言い伝えられる人間の力なのだろうか。

 その力の高まりは、まるで留まる所を知らないかのように際限が無く上昇を続けていく──。

 

 サトルの目の前に紅い邪炎が迫るのと、蒼い影が立ち塞がったのはほぼ同時の出来事だった。

 その影──ヴィクト──が炎を真っ向から受け止めようとしているのを察知した瞬間、先程ヴィクトが炎に飲み込まれた光景が脳裏に蘇り、思わず止めろと叫んでしまった。

 目の前に迫る死の恐怖を前にして、サトルは目をつぶってしまう。

 

 ──が、いつまで経っても炎が身を焦がしたりはしなかった。

 サトルが恐る恐る目を開けると、目の前に広がっていたのは幾何学的な模様をした青緑色の光の膜だった。

 

 

「これは……ヴィクト、お前がやったのか……?」

 

 

 サトルの疑問に頷きで返事を返すヴィクト。

 それからヴィクトは振り返って、左腕にあるブレスレットのようなモノを見せた。

 その腕輪の中心にある宝石からこの光のバリアは発生しているらしい。

 

 

「──サトル、指示を」

 

 

 説明を終えた後、表情を一気に引き締めたヴィクトが発した言葉はたったそれだけだったが、その表情からは例えどんな指示を出されようと絶対に遂行してみせる、という決意が感じられた。

 しかしそれは、何度もサトルを直接狙われた事に対する怒りのようなモノも感じられて、言外に藤代を殺す指示を求めているかのようにも見えた。

 だからサトルは、こう言った。

 

 

「オレの指示は変わらないぞ、ヴィクト。確かにオレはあいつのデジモンに何度も殺されそうになったけど、それでもオレはあいつを殺すような事は絶対にしない。お前があのデジモンに勝って、オレは藤代を殴ってでも戦いを止めさせる。それでこの戦いは終わりだ」

「──うん、やっぱりそれでこそサトルだな。了解だ、……マスター」

 

 

 サトルの指示を聞いたヴィクトは目を見開いた後、一瞬微笑んで見せ、邪竜の方に向かって飛び立った。

 そしてそのまま、ヴィクトは三度光の竜と化す。

 

 

「最初の時より遥かに炎が強くなってた。あれじゃあ多分あの場所から必殺技を撃っても相殺されるだけだ。だったら、接近戦に持ち込む──!」

 

 

 光に包まれたヴィクトは、その速度を増しながら一直線に邪竜の元へ突撃した。

 だが、邪竜がそのままヴィクトの接近を許すハズがない。

 邪竜は光の竜目掛けて特大の炎を吐き出した。

 

 

「敵、殺ス……敵ハ殺ス……敵ハ皆殺ス──! メギド・フレイム──!」

 

 

 吐き出された灼熱の炎と光の竜が激しくぶつかり合い、辺りに大量の火の粉が降り注ぐ。

 しばらく経っても、火の粉の舞う量はほとんど変化が無く、両者の互角の攻めぎ合いが続く。

 

 互角……完全体の時の必殺技で究極体の必殺技と拮抗した状態でいられるのは、今のヴィクトの名に冠されている“アルフォース”という力が原因である。

 元々このデジタルワールドは想いを力に換え易い性質を持っているのだが、ヴィクトが持つ“アルフォース”という力はその性質を更に特化させたモノで、想いの強さをそのまま力に換える事が出来るのだ。

 それも、想いという数値化出来ない抽象的なモノである以上、理論上は無限に力を引き出す事も可能だ。

 

 これも余談になるが、ブイドラモンのような“古代種”は元々想いを力に換える性質が強い。

 その事はエアロブイドラモンがメギドラモンと互角のぶつかり合いをして見せた理由でもあるのだが、この能力は強力過ぎるが故に身体が力に耐えられない為、完全体以下の状態ではリミッターが設けられている。

 もしそれを無理にでも解除してしまった場合、先程のヴィクトと同様に身体が内側から崩壊し、やがて死に至る。……と、言い伝えられて来た。

 それは単なる言い伝え等では無く厳然たる事実であって、ヴィクトの身に起こった事は数々の偶然が積み重なった奇跡という例外である。

 

 1つ目は、ヴィクト自身の強さが既に完全体として完成の域に達していたという事。

 2つ目は、命を投げ出しても構わないとする程の覚悟が引き出した力があの瞬間でも急速にヴィクトを成長させ、進化に導いていたという事。

 そして3つ目は、サトルの持つ白い筺体から発し続けられていた光がヴィクトに更なる力を与え、同時にヴィクトの肉体の崩壊を遅らせていたという事。

 

 これらの事象が重なった上で、デジコアからも力を引き出そうとした瞬間に究極体に進化出来る条件が満たされ、進化の為の身体の再構成が始まった。

 ……というのが、ヴィクトの身体が弾けてから究極体となって復活するまでに起きた奇跡である。

 

 そんな奇跡で得た力は、完全体の必殺技ですら究極体に太刀打ち出来る程の強さにまで昇華してみせたのだった。

 

 

「同じ究極体になったんだ……サトルがくれたこの力で、今度こそお前を倒す! ──アルフォースセイバー!」

 

 

 光と炎の攻めぎ合いが続く最中、ヴィクトの左腕のブレスレットにはまっていた宝石が眩しい光を放ち、緑色に輝く光の剣が出現する。

 同時に光の竜が更なる輝きを放ち、その力を増す。

 

 

「貫けええええぇぇぇえええッ!!!!」

 

 

 ヴィクトの裂帛の気合いと共に光の剣を炎に向かって突き出した瞬間、炎が真っ二つに切り裂かれた。

 裂かれた炎の中を光の竜が突き進む。

 

 

「グラン! 薙ぎ払え!」

 

 

 蒼き光の竜が炎を切り裂き進む最中、シュウの声が響き渡った。

 その声は高村の所にまで響く程で、当然グランの耳にもそれは届いた。

 途端にグランの胸部の“デジタルハザード”の紋章が眩しく光を放ち、同時に右腕が紋章の色と同じ紅い光を帯びる。

 そしてグランはその右腕を、炎を切り裂き進んで来る竜に向かって振り下ろした。

 

 

「ウオオオオオオオオッ!」

「────っ!」

 

 

 迫る炎の全てを切り裂き、後は邪竜を斬るだけとなった瞬間、眼前に紅い光を帯びた爪が迫って来ていた。

 

 ヴィクトは咄嗟に剣で受け止める。

 だが邪竜の想像以上に重い一撃に、ヴィクトは体格差もあって吹き飛ばされそうになる。

 

 

「ヴィクト! 力の全てを剣に集中させるんだ!」

 

 

 その時、今度はサトルの声が辺りに響き渡った。

 マスターの声を聞いたヴィクトは直ぐさまそれを実行に移す。

 体に纏っていた蒼いオーラさえも解いて、持てる力の限りを剣に集中させる。

 その瞬間、剣が肥大化を遂げた。

 押されかけていた体を持ち直し、更に裂帛の気合いを込めて邪竜の爪を弾き飛ばす。

 

 

「ああああああっ! 喰らええええぇぇぇえええッ!!!!」

 

 

 そしてそのままの勢いでヴィクトは突き進み、邪竜の胸部で鈍く輝いている記号の中心に剣を突き立てた。

 だがヴィクトの勢いはそこに留まらず、邪竜の巨体をも吹き飛ばし、轟音と共に地面に叩きつけた。

 巨体が落下した衝撃で地響きが起こり、砂煙が立ち昇る。

 

 その煙の中から勢いよく飛び出して来る1つの影。

 そうして飛び出た蒼い竜の影は、一瞬にしてサトルの元に辿り着いた。

 

 サトルはそこで初めて、パートナーの進化した姿を間近で落ち着いて見る事が出来た。

 エアロブイドラモンの時よりも一回り大きく見える蒼い甲冑の聖騎士の身体からは、ただの人間に過ぎないサトルでさえも強く感じられる程の神聖な気が発せられている。

 

 

「…………」

「サトル」

「…………」

「サトル?」

「……え? ああ、どうした?」

 

 

 その神々しささえ感じられる程のパートナーの頼れる背中に思わず見とれてしまった。

 サトルが慌てて返事を返すと、ヴィクトは呆れたような調子で言った。

 

 

「どうした? って、あいつは倒したんだ。後はサトルの仕事だろ?」

「え? ──ああ、そっか、そうだな。……じゃあ、行ってくる」

 

 

 サトルは見とれて停止していた思考を再開する。

 そしてサトルは、恐らく呆けていた表情をしていたであろう顔の両頬をパンと1度叩いて引き締め、藤代の元へと歩き出した。

 

 シュウは横たわるパートナーの無残な姿を見て慄然としながら、こちらに歩いて来る高村を見据える。

 高村はこちらを睨みつつゆっくりと歩いて来ているように見える。

 

 シュウはもう覚悟を決めていた。

 あれだけ相手の命を狙っておきながら、自分の命は狙われない等という虫のいい話なんてあるハズが無い。

 先程は殺したくないと等と言った高村といえど、心変わりするには十分過ぎる程の条件が整っている。

 

 

「……藤代、お前の負けだ」

「──そうだな。グランはもう動けん。俺の負けだ。覚悟ならもう出来ている。好きにしろ」

 

 

 シュウは吐き捨てるように言った。

 目を閉じ、裁きの時を静かに待つ。

 だが、周囲は静かなままであった。

 

 

「藤代、オレが考えた案を聞いてみる気は無いか?」

 

 

 それは、死を覚悟していたシュウにとって全く思いがけない台詞だった。

 

 高村は何か提案があると言った。

 口ぶりからすると、まさか死に方を提案する訳でも無いだろう。

 ……という事は、高村はこの期に及んでもなおこちらを殺すつもりは無いらしい。

 

 

「……聞く気も何も、敗者に選択権は無い」

 

 

 シュウは半ば呆れながらも返事を返す。

 高村はそれを肯定と取ったようで、一息入れた後、こんな事を言って来た。

 

 

「お前を現実世界に帰らせる」

「な……!」

 

 

 シュウが一体どうやって、と問い詰める前に高村が続けた。

 

 

「お前を捕虜としてセラフィモンの所に連れて行くんだ。敵が減るとなれば、お前を帰す事を拒む理由は無えだろ?」

 

 

 高村が出した案は、シュウにとってまさしく盲点であった。

 戦力が減る事を味方が拒むなら敵に頼めばいい。

 しかも捕虜という形ならば、敵陣に入っても問答無用で襲って来る可能性も限り無く低くなる。

 

 

「いい案だ。だが、そんな事をしてお前にメリットはあるのか?」

 

 

 確かにいい話ではある。

 あるのだが、だからこそシュウはその話に裏があるのではないかと疑った。

 後に同じ手を“黒の軍勢”相手にも使うのかもしれないが、そんな手間をかけるよりここで自分を殺して行った方がずっと早い。

 

 

「──お前を殺す必要が無くなる。それ以上のメリットは無いさ」

 

 

 しかし、そう考えていたシュウに向かって真摯な表情で言われた高村の言葉は、シュウを納得させるのに十分な力を持っていた。

 つまり高村は、それほどまでに人を殺したくなかったのだ。

 

 

「……分かった。お前に従おう」

 

 

 納得さえ出来ればこれほどの好条件は無い。

 シュウは高村の案を快く承諾した。

 ……かと思われたのだが。

 

 

「高村、1つ訊かせてくれ。俺の事はそれで構わないが、グランはどうなる?」

「お前のパートナーの事か? ……多分、戦いが終わるまで城に封印されると思う」

 

 

 シュウの質問に、高村は表情を陰らせながら答える。

 だが、捕虜なのだからそれが妥当な所だろうとシュウは思った。

 

 

「そうか……分かった。グラン、それで文句は無いな?」

「…………ああ、殺されないだけ、マシだと思わないと」

 

 

 グランの声を聞いて、シュウの表情が驚きの色を見せる。

 まさか返事が返ってくるとは思ってもみなかったからだ。

 

 しかも、正気を取り戻している。

 蒼き聖騎士の剣が、邪竜の持つ凶気を鎮めたのだろうか。

 

 

「飛べるか? グラン」

「飛ぶぐらいなら、何とか……──っ!」

 

 

 ガタガタと体を震わせながら、体を起こすグラン。

 

 そのグランが、突如表情を変えた。

 その変化に気付いたシュウが、グランが見据えている方向を見る。

 

 

「──っ! 高村、伏せろ!」

「え……?」

「サトル、危ない!」

 

 

 ヴィクトが猛スピードでやって来てサトルを連れて離脱するのと、突然降り注いだ無数の斬撃の雨がサトルが立っていた大地を穿ったのはほぼ同時であった。

 地面を穿つ轟音が耳に届いて初めて、サトルは状況を理解した。

 パートナーの方を見ると、ヴィクトは攻撃が飛来して来た方向を睨み付けている。

 

 

「攻撃なんて、一体どこから……?」

 

 

 つられてサトルもヴィクトが睨み付けている方向を凝視するが、敵の姿などどこにも見当たらない。

 

 だが視線を彷徨わせている内に、ある一点に違和感を覚えた。最初はあるのか無いのか分からない程に小さい点だったモノが、段々大きくなってきている気がするのだ。

 だがそれは、次第にはっきりとデジモンの姿として認識出来るようになってくる。

 そして、そのデジモンはサトル達の上空までやって来て、そこで静止した。

 現れたのは、右手に槍・左手に大きな盾を持ち、銀色の甲冑に紫紺のマントを羽織ったデジモンであった。

 

 

「困るなぁ……均衡を崩してもらっちゃあ非常に困るんだよ……」

 

 

 そのデジモンはそんな事を呟くと、サトル達に向かって槍を構えた。

 槍が妖しく光を帯びていき、そして。

 

 

「だから……消えろ! ──デモンズディザスター!」

 

 

 魔槍から放たれた無数の突きが斬撃の雨となって、サトル達に再び降り注いだ──。

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