Rational or Ethics   作:宮枝嘉助

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Rational or Ethics【Ⅲ】

 

 

 

 

 コンピューターネットワーク上には、デジタルモンスターという種族がいる。

 

 彼等はサーバー毎に独自の生態系を作り上げ、多種多様の繁栄を見せて来た。

 中には平和な世界があったり、戦争中の世界があったりするのだが、今回語られている2人の少年が居る世界は、後者の中でも過酷な部類に入る。

 何故なら、そこでは世界を二分した全面戦争が引き起こされていたからだ。

 

 とある所に、天才的なプログラマーが居た。

 そのプログラマーは、ふとした偶然からウイルスとワクチンが共存したフォルダを作り上げてしまう。

 

 そのウイルスとワクチンは、両方共自分で組み上げたプログラムであった為、そのプログラマーは好奇心からその2つのプログラムを戦わせてみる事にした。

 どちらの性能が上か、という単純な興味からだ。

 

 ところがその実験は、意外な結果をプログラマーに見せた。

 いや、正確に言えば結果ではなく、経過なのであるが。

 というのも、結果がいつまで経っても出ないのである。

 それも、単に性能が互角だというだけでなく、どちらの性能も実験の中で進化し続けているのだ。

 

 そこで、プログラマーの興味は2つのプログラムの性能差ではなく、2つのプログラムがどこまで進化出来るのかという点に移る。

 しかしその結果を見る為には、この戦いを出来得る限り長引かせなければならない。

 そこでプログラマーは、2つのプログラムの争いで生じたゴミのデータを元にあるプログラムを作り上げた。

 

 それは、一言で言えば“戦いを管理する為のプログラム”であった。

 片方が進化し過ぎて戦力差が生じた場合、戦力の多い方に戦いを仕掛けて戦力差を調整して両者の均衡を保つ、という役割のプログラムだ。

 

 そしてそのプログラムは今、戦力差を調整する為、凄まじい進化を遂げたワクチンに向かって攻撃を仕掛け始めていた──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 “調整者”の魔槍による突きの斬撃が、空気を切り裂く音を発しながら降り注ぐ。

 咄嗟に後ろを振り返った“ワクチン”は愕然とした。

 あの槍の範囲に全員が入ってしまっている。

 

 だが、ヴィクトが持つ盾は全員を守れる程大きくは無い。

 時間にするとほんの一瞬であったが逡巡するヴィクト。

 

 

「──っ! テンセグレートシールド!」

 

 

 結局答えは出せず、ヴィクトは仕方無く自分とサトルだけを守る形で幾何学的模様のバリアを展開した。

 迫り来る斬撃の数は凄まじいが、一撃一撃の威力はさほどでもなく、防ぐのは容易い攻撃。

 

 しかしそれは、防御手段そのものを持っていればの話だ。

 もう戦えない程に弱っているメギドラモンと、ただの人間に過ぎないシュウがそれを防ぐ手段は無い。

 

 そして、いくら一撃の威力が低いと言っても、人間如きが喰らえばひとたまりも無いのは必然──。

 

 

「ちっ、ここまでか──!」

 

 

 避けられる訳が無いと、迫り来る斬撃を前に確信したシュウ。

 ならばせめて、と目をつぶって可能な限り静かに死の瞬間を受け入れる事にした。

 

 ……だがしかし、いつまで待っても、少なくとも一瞬は感じるハズの痛みが全く無い。

 不思議に思ったが、痛みが全く無く死ぬ事もあるのかもしれないと考えた瞬間、シュウは驚愕した。

 自分が物を思い、考える事が出来ている……つまり、まだ生きているという事実に。

 

 

「──何故……?」

 

 

 あの瞬間、高村のパートナーは高村だけを守る事を選択し、盾を展開していたハズだ。

 あの攻撃が自分にだけは当たらなかった等という奇跡が起こったとは到底思えず、シュウは自らの目でそれを確認する為、目を開けた。

 

 だが、視界は開けなかった。

 目の前を、紅い壁が塞いでいた。

 シュウはすぐにその正体を悟る。

 

 

「な……グラン、お前──」

「シュウ……良かった、無事で……」

 

 

 目の前の壁が少し動き、その隙間から覗いた瞳がシュウの姿を捉える。

 視界に捉えたシュウは珍しく、不安げな表情を見せていた。

 グランはその姿を見て少し驚く。

 

 グランとシュウのコンビは、結成されてからそんなに長くは無い。

 と言っても、お互いの性格を大まかにでも理解するぐらいには十分な期間があった。

 その間でグランが分かったシュウの性格は、冷酷と言ってもいい程に合理的な考え方をする少年だという事。

 その目的の為ならどんな手段をも厭わない少年だった。

 

 ……そんな印象だったからこそ、今目の前で見せられているシュウの表情は意外であった。

 

 

「このバカが……俺の事なんて放っておいて自分の身だけ守っていればいいだろう!」

「何言ってんのさ……パートナーを護るのは当たり前だろ……?」

 

 

 明らかに無理をして言っているグランの言葉に対して、シュウは返事を返す事が出来なかった。

 自分が元の世界に帰る為の道具としてしか見ていなかった存在が、自分の事をパートナーだと言っている。

 信じられない物言いではあったが、シュウは不快には感じなかった。

 

 

「せっかく……シュウが元の世界に……帰る目処がついたんだ。絶対に……死なせるもんか……絶対に護ってみせる!」

 

 

 グランはもはや立ち上がる事すら出来ない状態だというのに、目だけは死んでいない。

 そのグランがシュウを護るという固い決意を口にした瞬間であった。

 シュウが持っている黒い筺体が色鮮やかな真紅の輝きを放ち始めた。

 

 

 

 

「アルフォースセイバー!」

「おっとぉっ! 貴様の剣では俺様のゴーゴンは斬れんよ! そうらっ!」

 

 

 ヴィクトの左腕から伸びる光の剣を、相手のデジモンはまるで棒切れを受け止めるかのように左手の盾であしらい、右手の槍で鋭い突きを放つ。

 その突きの速度は凄まじく、ヴィクトのスピードを持ってしても完全には避けきれない程で、徐々にダメージが蓄積されていく。

 

 

「ぐっ──くそっ!」

 

 

 たまらず距離を取る。

 だが、敵はそれを見越していたのか、即座に標的を変えた。

 

 

「ほらほら~俺様から離れると仲間が死ぬぞおっ! デモンズディザスター!」

「くそう! テンセグレートシールド!」

 

 

 それを見たヴィクトは即座に剣を盾に変え、この攻守兼ね備えた強敵の元に突っ込んで行った。

 

 その理由は他でもない。

 距離を詰める事によって相手の攻撃の範囲を限定し、自分の後ろに攻撃を逸らさないようにする為だ。

 しかし、目論見が不成立だったにも関わらず、この敵の笑みは消えない。

 

 

「ん? どうした? 攻撃しないと俺様は倒せんぞ? まあ、攻撃出来た所で貴様の攻撃は通用せんがなあ!」

 

 

 敵は、盾で全て防がれていようとお構い無しに槍で突き続けてくる。

 未だ決定的なダメージは受けていないヴィクトだったが、このままではマズイという事は十分に察していた。

 

 まず1つ目は、こちらの攻撃が通用していないという事。

 敵の盾は非常に強固であり、剣での攻撃は全く通用しない。

 2つ目は、あまりに敵の突きが速い為、完全に避ける事が不可能であるという事。

 そして3つ目は、2つ目にも関係する話だが、接近した状態では盾を解除して剣に切り替える時間が無いという事。

 この敵の突きなら、切り替える間に5回は刺されてしまうだろう。

 

 つまりこのままでは、攻撃に転じる事すら出来ずズルズルと体力を消耗していくばかりなのだ。

 かといって態勢を整えようとして距離を取ろうものなら、先程のように仲間が狙われてしまう。

 だからヴィクトが今出来る事といえば、盾の展開に集中しつつ、考えを巡らせる事だけであった。

 

 

「ぐっ……お前がオレ達を狙う理由は何なんだ? いや、それ以前にお前は何者なんだ?」

 

 

 打開策を考えながらも、ヴィクトはその疑問を投げ掛けずにはいられなかった。

 この敵は明らかに“白の軍勢”である自分達と“黒の軍勢”である相手の両方を狙っている。という事は“白”でも“黒”でもない第3の勢力が存在するという事なのだろうか?

 

 

「自分達が死ぬ理由ぐらいは知っておきたいか? ……いいだろう、教えてやる。まず、俺様は“レギュレイツ”のカオスデュークモン」

 

 

 正直疑問が解けるとは思っておらず、少しでも攻撃の手が緩む事を期待して話し掛けてみただけだったのだが、攻撃の手こそ緩まなかったものの、気になる単語が耳に入ってくる。

 

 

「──続いて目的だが、貴様等“ブレイカーズ”と“ガーディアンズ”の戦いを長引かせる事だ」

「その目的とオレ達を狙う事と何の関係があるんだ?」

「分からんか? 貴様等が戦いの均衡を崩しかねん存在だからだ。現に貴様等の力ならば、戦いは一気に決着に向かうだろう。それを望まないのが俺様達、という訳だ」

「──そんな事をして、お前達は一体どうするつもりなんだ?」

「はっ、知れた事。やがて疲弊しきった両陣営に俺様達が攻め込み、世界を手に入れるのさ──!」

 

 

 

 

 ──くそっ、あのままじゃオレ達が負ける……でも、どうすれば……?──

 

 一方、そんな状況を険しい表情で見上げていたサトルは、ヴィクトが現在置かれている苦境を正確に把握し、打開策を懸命に模索していた。

 接近した状態では攻撃に転じる事が出来ず、かといってヴィクトが離れるとこっちが狙われる。

 

 ──順番に考えろ。もうどこかで無理をしないとこの状況は打破出来ない所まで追い詰められてる。なら、どこで無理をするのが一番リスクが低いかを考えれば──

 

 まずは、接近した状態のまま盾を剣に切り替えるという方法だが、これは恐らくハイリスクローリターンという最悪の選択だ。

 剣に切り替える瞬間に何発か攻撃を受けてしまうのはほぼ確実で、その攻撃で致命的なダメージを受けてしまう可能性もある。

 その上、剣の攻撃では敵に通用しない事は先の攻防で分かり切っている事。

 つまりそれでは徒にダメージを負うだけである。

 

 となると、一度距離を取って大技で反撃に出るしか選択肢は考えられないが、これだとヴィクトが退いた瞬間に自分達が狙われ、殺されてしまう可能性がある。

 

 ──ヴィクトが勝たないと、どちらにせよオレ達は殺される……なら、賭けに出た方がいいのか? もっと他に何か──

 

 

「サトル……聞こえるか? サトル──」

 

 

 その時、賭けに出るか否か逡巡していたサトルの耳に、今は聞こえないハズの声が聞こえて来た。

 しかもそれは、漫画とかでよくあるような頭に直接響いて来るモノではなかった。

 サトルは我が耳を疑いながら、自分の右手に握られている筺体を見る。

 

 

「その声……ヴィクトなんだよな?」

「ああ、サトル──」

「分かってる。このままじゃオレ達は負ける。そうだろ?」

「──そうだ。そして、オレ達が勝つには……」

 

 

 そこで、筺体から聞こえて来る声は止まった。

 それだけで、ヴィクトも自分と同じ考えに行き着いたのだと察した。

 

 ──ちくしょう、本当にこれしか無いのか? ……くそっ、オレ達にあいつの攻撃を防ぐ方法さえあれば──

 

 

「おい貴様、ヴィクトとか言ったか? 1つ訊きたい事がある」

 

 

 その時、突然シュウが横から割って入って来た。

 驚き目を見開いているサトルを他所に、シュウは言葉を続ける。

 

 

「貴様の盾は、展開したままで誰かに渡す事は出来ないのか?」

「──分からない。受け取った奴に盾を展開出来るだけのエネルギーさえあれば、もしかしたら出来るかもしれない」

「そうか……ならば、グランに賭けてみてくれないか? 今ならその力があるような気がするんだ」

 

 

 その言葉を聞いて、サトルは意外だと思った。

 その提案そのものもそうだが、何より藤代がそれを言ったという事自体が意外に感じた。

 あまり不確かな事は言わないタイプの人間だと思っていたからだ。

 しかし、今はそれぐらいしかやってみる価値のあるモノが無かった為、余計な事は言わない事にした。

 

 

「え……そんな不確かな方法なんて……」

「それでもやらないよりはマシだ。ヴィクト、その方法で行こう」

「でも、もし盾が使えなかったら──」

「……その時は、私が命に代えてでもお前のパートナーを守ってやる。だからヴィクト、お前は奴を倒す事だけに集中していればいい」

 

 

 サトルの言葉を聞いてもまだ躊躇していたヴィクトだったが、シュウのパートナーであるグランにまでこう言われては流石に躊躇している訳には行かない。

 

 

「──分かった。グラン、そっちの事はお前に任せる」

「了解した」

「……話はまとまったな。よしヴィクト、作戦開始のタイミングはお前に任せるからな。こっちの体力や敵の体力を見極めて、作戦を発動してくれ」

 

 

 

 

「作戦会議は済んだか?」

「──っ!」

 

 

 サトルとの話が終わり、意識の全てを目の前の敵に集中させた瞬間、敵にそんな言葉を投げ掛けられた。

 ヴィクトは動揺を隠し切れず、身を強張らせる。

 

 

「俺様は遥か遠くから貴様等の戦いの音を聞いていたんだ。地上での話し声ぐらい聞こえていないとでも思ったか?」

 

 

 敵のダメ押しの一言でヴィクトは苦虫を噛み潰してしまったような表情になる。

 一瞬、焦りの感情がヴィクトの心を染め上げた。

 そして、その心の変化を敵のデジモンは見逃さなかった。

 その瞬間、敵のデジモンは何と、自ら後退したのだ。

 

 

「なっ──!」

 

 

 驚いたヴィクトは更に動揺し、完全に動きが止まってしまう。

 その隙に敵のデジモンは盾を前に掲げ、その盾が妖しい光を放ち始めた。

 紫紺の輝きが盾を淡く包み込み、禍々しさを醸し出していく。

 

 

「守れるものなら守ってみろ! ──ジュデッカ・プリズン!」

 

 

 敵の一声と共に紫紺の煙のようなモノが盾から射出された。

 敵の一声で我に返ったヴィクトは直ぐさまサトル達の元へと飛んだ。

 煙なだけに足はさほど速くは無く、あっという間に煙を追い越してサトル達の元に辿り着く。

 そうして振り返って、向かって来る煙を見た時に初めてヴィクトはそれの恐ろしさを認識した。

 

 

「か、枯れていく……!」

 

 

 この荒野に僅かながらも健気に生えていた雑草達が、敵の出した煙に触れた途端に枯れ果て塵と化していくのだ。

 その様子を見ていた誰もがこの煙の危険性を認めざるを得ない。

 ヴィクトは急いで盾を展開し、その盾を展開している腕輪を外す。

 

 

「グラン、受け取れ! サトル達を頼む!」

「任せろ! ヴィクト、お前はさっさとあいつを倒して来い!」

 

 

 グランの力強い言葉を受けて、ヴィクトは腕輪を渡す。

 グランがその腕輪に触れた途端、展開されていた盾が突然巨大化した。

 それはまるで、腕輪が新たな主に合わせるかのようであった。

 その現象と時を同じくして、ヴィクトの翼が蒼い光に包まれた。

 

 

「Vウイングブレード!」

 

 

 ヴィクトの両翼から翼の形をした光の刃が射出される。

 風を纏った光の刃は、死の煙を切り裂いて目の前に道を切り拓く。

 

 だが、ここでヴィクトは強い焦燥感に駆られる。

 先程の敵の言葉の割に守るのが簡単過ぎるのだ。

 確かに攻撃自体は恐ろしいモノであったが、防ぐのは容易過ぎたが為に腑に落ちない。

 だが、理由はそれだけではない。

 何と、切り拓いた道の先に相手が居ないのだ。

 

 

「死ねぇっ!」

 

 

 その時、上空から声が響き渡った。

 その声に釣られて上を仰ぎ見てみれば、怒声を発しながら魔槍による無数の斬撃を発する敵の姿が。

 ヴィクトは咄嗟にサトル達を庇うように上に移動し盾を展開しようとするが、今は盾が展開出来ない事に気付き愕然とする。

 

 

「しまっ────!」

 

 

 愕然とし、頭の中が真っ白になった時間が生じる。

 そして、それがヴィクトが犯した致命的なミスとなった。

 防御の体勢すら取れないまま何発かの斬撃がヴィクトの体を貫く。

 

 

「ぐ────ぁ────っ!」

 

 

 防御こそ出来なかったものの、究極体となったヴィクトには蒼き甲冑とアルフォースという力がある為、致命傷には至らない。

 

 だがそこでヴィクトは気付いてしまう。

 自分の体を盾にしただけでは下に居るサトル達に攻撃が届いてしまうという事実に。

 ヴィクトは直ぐさまサトルを助けに行こうとするが、未だ止まない斬撃の雨がヴィクトをそこに足止めした。

 今度は、ヴィクトは自分の甲冑の装甲を上手く使い攻撃を上手く受け流す。

 だが肝心の斬撃の雨は容赦無くサトル達に降り注いでいくのであった。

 

 

 

 

「まずいグラン、上だ!」

 

 

 サトルとシュウはグランに寄り添うように立ち、既にシールドの下に入っている。

 だが頭上の気配に真っ先に気付いたのはシュウであった。

 その声を聞いたグランは、頭上を確かめる事もせず即座に盾を頭上にかざす。

 直後、斬撃の雨がサトル達を覆う障壁を貫かんと降り注ぐ。

 

 

「くっ……マズイ、このままじゃ……!」

 

 

 グランが展開している盾は敵の攻撃を弾いている。

 しかし、早くもグランは苦悶の表情を浮かべ始めた。

 盾が大き過ぎる為、エネルギーの消耗が激し過ぎるのだ。

 当然それだけではなく、ヴィクトとの戦いで元々限界ギリギリの状態であったという事も理由の1つとして挙げられる。

 

 

「パワーが足りないみたいだぞ。藤代、何とか出来ないのか?」

「倒した敵のデータはグランが進化するのに全て使ったんだ。他にパワーを上げる方法があるならお前達との戦いでとっくに使っている!」

 

 

 そんなやりとりをしつつ、2人は全く同じ疑問を感じた。

 ヴィクトは、サトルのパートナーは一体どうして進化する事が出来たのか。

 その理由が解れば、もしかしたら今の状況を打開する手掛かりが掴めるかもしれない。

 

 

「高村、そういえば何故お前のパートナーは進化出来たんだ? 俺と同じように倒した敵のデータを使ったとかそういうのじゃなさそうに見えたが……」

「今丁度オレもそれを考えていたんだ。そもそもオレ達はお前達程敵を倒していない。だからきっと、倒した敵のデータを集める以外に方法があるハズなんだ」

 

 

 そう言いつつサトルは慎重に記憶を辿っていく。

 ヴィクトが進化した時、何か起こっていなかったかを。

 今言った言葉は事実で、そもそもサトルは倒した敵のデータをああいう風に利用出来るなんて想像だにしていなかったのだから。

 サトルがヴィクトと出会った時には既に成熟期であったのだから、進化の場面に立ち会ったのは2回しかない。

 しかし1回しかなかったという場合よりは遥かに多くの手掛かりが探り出せるハズである。

 

 そうして思い出せた共通項の1つは、どちらもかなり危機的な状況であったという事。

 もう1つは、更なる力を懇願していたという事。

 そしてもう1つは、自らが手にしていた白い筺体が強く発光状態にあったという事。

 

 

「────それだ!」

 

 

 言ってサトルはシュウの腰に下がっている黒い筺体を指した。

 奇しくもそれは発光状態にあった。

 怪訝な表情を見せつつも話を聞く姿勢になっているシュウに向かって、サトルは言葉を続けた。

 

 

「こいつが凄く強く光った時に、ヴィクトが進化していたと思う」

「……それで? こいつは何故光ってるんだ、高村?」

 

 

 そう言ってしまった直後、シュウは舌打ちする。

 自らの記憶から必死に手掛かりを探してくれている相手に掛ける言葉では無い。

 グランの状態を見てもうほとんど時間が残されていない事を悟り、生じた焦りから自然と発してしまった言葉であった。

 だがサトルはそうは受け取らなかったらしく、ただ懸命に記憶を辿っている。

 

 

「────! ……心、だ」

「心?」

「そうだ……間違い無い。オレか、或いはヴィクトかもしれないけど……心から強く願った時、こいつは強く輝いていた」

 

 

 サトルの出した答えを聞いて黙考するシュウ。

 思い返してみれば、自分のこの黒い筺体が輝いていた時も確かに何かを願っていたと思う。

 仮にこれが正解だとするなら、今強く願うべきなのは──。

 

 

「グランに、もっと力を──!」

「シュウをもっと守りやすい体を──!」

 

 

 シュウが願うと同時に、話を聞いていたグランも強く願った。

 このままの姿でもシュウを守る事は出来るがエネルギーの消耗が激し過ぎる為、具体的なビジョンこそ無かったが、それでもグランは願わずにはいられなかった。

 そしてその願いが届いたのかどうかは定かでは無いが、シュウの持つ黒い筺体──サトルの持つ白い筺体と共に、後にD-グロウと名付けられる筺体──が真紅に光り輝いた。

 溢れんばかりのその真紅の光は、まるで意志を持っているかのように動き出し、グランをその輝きで包み込む。

 

 すると、まずグランが支えていた盾に変化が起きた。

 シュウとサトルの上だけを守る大きさに変化し、更にエネルギーの塊のようだった盾が金属製のモノに変化した。

 

 次に、グラン自身にも変化が起こる。

 紅い光に包まれたまま巨竜はその姿形を変え、シュウとサトルの傍に立つ1人の巨人の形に変貌を遂げた。

 一言に巨人、と言っても巨竜であった時よりは遥かに小さい。

 それでも背の高さはゆうに2mは超えているのだから、シュウ達から見れば巨人と言ってしまっても差し支えあるまい。

 

 そして、巨人を包み込んでいた真紅の光は、まるでその巨人に吸収されるかのように消えていった。

 光が消えた後に現れたのは、銀色の甲冑に真紅のマントを羽織ったデジモンで、色が異なる事以外は敵と瓜二つの容姿。

 

 

「ま、まさか進化したのか……?」

「高村、多分違う。これは──」

「──変化、と言うべきだろうか。進化の段階は究極体である事に変わりはない。今の私の名は、デュークモン」

 

 

 グランは平然と斬撃の雨を受け止めながらそう言った。

 盾がエネルギー消耗型ではなくなったおかげで、グランに必要なモノは盾を支える力だけとなった。

 しかしこのまま支えているだけでは斬撃の雨は止みそうには無く、どうやら反撃に転じる必要がありそうだ。

 グランは左手で盾を支えつつ、右手を構える。

 すると、その右手に敵が使っているモノにそっくりな槍が出現。

 同時に槍は光を帯び始め、敵に狙いを定めたグランはそれを一閃した。

 

 

「──ロイヤルセーバー!」

 

 

 その突きは一条の鋭い矢となって上空から攻撃を繰り出し続けている敵に迫る。

 力強いその矢は、敵の斬撃と衝突してもものともせずに一直線に突き進んで行く。

 

 

「何!? ──ちぃっ!」

 

 

 そして攻撃が当たる直前、カオスデュークモンは舌打ちしつつ盾で迫る斬撃を受け流す。

 だがその瞬間、必然的に攻撃の手が止まる事になる。

 それをヴィクトは見逃さなかった。

 

 

「一気に距離を詰める! ──ドラゴンインパルス!」

 

 

 

 

 蒼き光の竜と化してヴィクトが攻勢に転じたのと同時に、攻撃が止んだ事に気付いたサトルも意識を目の前のデュークモンからヴィクトへと戻す。

 ヴィクトは光の竜となって敵に突撃を仕掛けていた。

 それを見た途端、サトルの脳裏に言い知れぬ不安が過ぎる。

 

 ──やっぱり盾が無いと──

 

 そう思うと同時に、サトルはシュウ達がやっていた事に見よう見真似で挑戦した。

 サトルはヴィクトの盾の復活を願う。

 刹那、サトルの白い筺体から蒼色の光が溢れ出し、光の柱となってヴィクトを追った。

 

 

「グラン、攻撃の準備だ」

「了解」

「藤代、いきなり何を……?」

「敵の盾は強固だ。もしかしたら貴様のパートナーの攻撃だけでは破れんかもしれん。だから、これは保険だ」

 

 

 シュウはそれだけ言うと、パートナーの方に向き直ってしまった。

 デュークモンはというと、最初からサトルの言葉を聞いていなかったのか、こちらを振り向きもせずに盾を掲げてエネルギーを集中させ始めている。

 そして、シュウの言葉を聞いたサトルは得心こそするものの、一抹の不安も覚えた。

 万が一、2人の攻撃を同時に放っても防ぎきられてしまったら……。

 だからサトルはもう1つ願う。先程の奇跡をもう一度、と──。

 

 

 

 

「バカめ! ジュデッカ・プリズン!」

 

 

 だが、ヴィクトの接近をそう簡単に許す程敵もバカではない。

 カオスデュークモンは突っ込んで来るヴィクトに向かって、掲げた盾から死の霧を噴射した。

 猛スピードで迫っていたヴィクトは敵の反撃に反応出来ず、霧の中に完全に包み込まれてしまう。

 

 

「し、しまっ──ぐああぁぁああっ!」

 

 

 光のエネルギーを身に纏っていたのが幸いした。

 光が掻き消されてしまう一瞬前に自分が何をされたのかに気付く事が出来たのだから。

 気付く事が出来れば、対策も立てられる。

 今ヴィクトはアルフォースの力をフル稼働させて死の霧に対抗していた。

 しかし、アルフォースの再生力を持ってしてもこの霧の力には対抗しきれず、徐々に生命力を削り取られて行く。

 だがそこへ蒼い光の柱が伸びて来て、ヴィクトを包み込むと同時に霧を吹き飛ばす。

 そしてヴィクトを包み込んでいた光が消滅した時、蒼き聖騎士の左腕には腕輪の輝きが。

 

 

「──まだまだぁっ!」

 

 

 腕輪が戻り、サトルの想いも受け取ったヴィクトは、またも光の竜と化して敵の元へと突撃を開始した。

 カオスデュークモンは今度は槍を構え、無数の突きを繰り出す。

 

 

「バカの1つ覚えが……失せろ! デモンズディザスター!」

「──テンセグレートシールド!」

 

 

 ヴィクトは、今度は盾を展開しつつ突撃を敢行した。

 紫紺の騎士の突きは蒼き聖騎士の光の盾の前に全て弾かれ、両者の距離は確実に狭まって行く。

 ここまで来て、初めて紫紺の騎士に焦りの感情が生まれ始めた。

 しかしそれはまだ小さなモノで、カオスデュークモンは自身の優位をまだ確信していたという事に変わりは無い。

 

 

「……っ! だが、貴様の攻撃では俺様を倒す事は出来ん!」

「──────」

 

 

 直前まで引き付けて盾を構えるカオスデュークモン。

 だが、ヴィクトの突撃を受け止めるつもりで構えたその盾に本来来るハズの衝撃は来なかった。

 盾を油断無く構えたまま横から覗いてみるが、蒼い聖騎士の姿は無い。

 その途端に紫紺の騎士の焦りの感情が肥大化していき、せわしなく左右を見渡すが蒼い聖騎士は見付からない。

 その時、話し声のようなモノが暗黒騎士の耳に入る。

 だが、焦っていたカオスデュークモンは、その情報をただのノイズとして扱い、聞き流した。

 

 

「うおおおぉぉぉおおおっ!」

「────っ!?」

 

 

 ふと上を見上げた瞬間には、眼前に光を纏った聖騎士が迫っていた。

 カオスデュークモンは咄嗟に盾を掲げ、間一髪の所で直撃を免れる。

 しかし迫り来るアルフォースブイドラモンの勢いは凄まじく、カオスデュークモンは攻撃を防いだ姿勢のままで地面に墜落させられる。

 

 

「……ふ、ふはははは! 驚かせやがって! だが何度も言ったように貴様の攻撃は俺様には──」

「──シャイニングVフォース!」

 

 

 正確には真上からでは無く斜め上方からだったヴィクトの攻撃は、やはりカオスデュークモンの盾を破るには至らない。

 だがそれで諦めるヴィクトではない。

 ヴィクトが敵の真上に移動すると、胸部のV字型の装甲が黄金色に輝き始め、そこからV字型の巨大なレーザーが放射された。

 

 

「ぬぐ、おおお……!」

「はああああ……! まだ出せるハズだ! もっと力を──!」

「ぬおっ! くっ、おおおぁ……だが、効かぬぞ貴様の攻撃など……!」

 

 

 ヴィクトの気合いに応えたのか、V字型のレーザーは更にその大きさを増し、当然その勢いも増す。

 だが、それでもカオスデュークモンが掲げている盾は破れない。

 そんな、蒼き聖騎士にとってあまり芳しくない状況のハズなのだが、不意にヴィクトの表情に不敵な笑みが浮かんだ。

 

 

 

 

「今だ!」

 

 

 激しく光り輝いている白い筺体からヴィクトの声が響き渡る。

 それを聞いたサトルは無言でシュウを見つめ、頷く。

 そしてそれを見たシュウはそのままグランの方へ向き直り、ただ指示を出した。

 

 

「行け、グラン!」

「──ファイナルエリシオン!」

 

 

 パートナーの指示に応え、デュークモンは盾に充填されていた膨大なエネルギーを解き放った。

 盾から放射されたエネルギーは一条の光線となり、敵を目指して空気を裂く唸り声のような音を発しながら飛んで行く。

 敵はすぐに攻撃に気付いたのだが、上から押さえ付けるようなヴィクトの攻撃のおかげで身動きが全く取れない状態のようであった。

 

 

「──ッ! うおおおお! おのれぇぇぇえええッ!」

 

 

 そしてその声がそのまま紫紺の暗黒騎士の断末魔の叫び声となった。

 真紅の聖騎士の盾から放たれた光はさながら黄金の矢となり、カオスデュークモンの姿を跡形も無く消し飛ばすのであった……。

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