ざっくり言うと、クラスメイト全員が異世界召喚された。
「うわあああああああ!」
「な、なんだよ! ここどこだよ!」
「お母さん! 助けて!」
「先生! 愛子先生ー!」
ガキ共はママを呼ぶ勢いで先生にすがりついた。
「落ち着いて! みんな落ち着いて! 私のそばを離れないで!」
だが、困惑しているのは彼女も同じだった。
正直、俺だって異世界召喚されたらああなるわ。
……だが、こういう空気の中で必ず水を差す野郎がいるわけで。
「おお……おおお! 成功だ! 勇者様たちが召喚されたぞ!」
「成功だ! ハイリヒ王国に栄光あれ!」
こいつらだ。
「あの、ちょっと待ってください! あなたたちは誰ですか? ここはどこなんです? なぜ私たちの生徒が……」
「ようこそ、トータスの勇者様方。私はハイリヒ王国の教皇、イシュタル・ロロムと申します。どうか落ち着いて私の話を……」
お前なら落ち着けるかっての。
そんな中、誰かが拳を握りしめた。ちょっとヤンキーっぽいツラした奴だ。
「話もクソもあるか! 警察呼べよ! 拉致だぞ、これ!」
くぅ~、スカッとするねぇヤンカーコーラ。教皇をぶっ潰せ。
だが、潰されたのはヤンキーの方だった。
「おい、うるさいぞ。静かにしろよ」
「こ、光輝くん?」
そう。
完璧超人でクラス委員長の光輝くんの威圧感は、ヤンキーすらもたじろがせる。
「大人が話してるんだ。まずは状況を把握しよう。先生もいらっしゃるんだから」
こいつ、骨の髄まで儒教精神だな。前世はさぞ立派な儒学者だったんだろうよ。
「あ……うん。やっぱり天之河くんだね」
「頼りになるわぁ」
女子共も嬉しそうに顔を赤らめてやがる。
正直、男の俺から見てもイケメンだわ。
そんな中、委員長クンが急に口を閉ざした。
「……」
「……」
「……」
すると他の連中もつられて口を閉ざす。
あいつらの視線を追ってみると、なんとまあ。頭を石ころみたいに丸坊主にした筋肉ダルマが、床にエビみたいに寝そべってるじゃねえか。
「おい、南雲」
「……」
呼んでるのに返事もねえ。
呆れた委員長が大声を出した。
「おい! 南雲ハジメ!」
「え? ああ、なんだよ、委員長」
返事が遅ぇよ。
「お前さっきから何してんだ? なんで一人で床に突っ伏してる? どっか痛いのか?」
「おい、静かにしろ。これ、聞こえるか?」
「何がだよ」
「……シブくないか?」
「……は?」
全くだ。こいつ何言ってんだ。
「これ、大理石じゃない。質感は大理石だけど、表面張力が異常だ。人為的に魔力を混ぜて圧縮した何かだ。それにこの継ぎ目を見ろ。モルタルがない。どうやって施工したんだ? 分子単位で融合させてるのか? うわ、ヤバすぎだろこれ」
「……」
光輝は口を閉ざした。正直、地の文を書いてる俺も何を言ってるのか分からん。
そんなお通夜状態の空気も知ってか知らずか、坊主筋肉ダルマ・南雲ハジメは教皇のジジイを見てこう言いやがった。
「じいさん!」
「はい? わ、私ですか? 勇者様?」
「ここの床材の施工業者はどこだ? いや、それより採石場はどこだ! これほどの純度の炭酸カルシウム結晶体、地球じゃ見たことねえぞ!」
……これである。
ビビった司祭が口を挟んだ。
「な、教皇様になんという無礼を……!」
「今大事な話してんだろ。で? どこで掘れるんだよこれ」
「い、いえ……これは神代の魔法で造られた神殿ですので……」
「神代? 古代地質学系か? うわ、伏線えぐいな」
……いや、お前の空気の読めなさがえぐいわ。
「このキチガイ野郎! 空気読めよ!」
「そうよ! 私たちは拉致されたのに、なんで石ころの話なんかしてんのよ!」
「あいつ、学校でも石拾ってたけど、ここでもこれかよ」
「あの子、相変わらずね。はは……」
お前らも呆れただろ? 俺も呆れたわ。ハァ……。
ハジメは慣れっこという風に、石を舐めた。
「ちゅるっ。……うるせえな。おい、檜山。そこどけよ。影になって結晶面が見えねえだろ」
「あぁ!? この石バカが……っ!」
「さあ、さあ! 勇者様方! お静かに! 詳しい説明は『ステータスプレート』を確認すれば分かります! さあ、この銀板を受け取ってください!」
ステータス?
キター! ステータス! 固有スキル!
興奮したのは地の文の俺だけじゃないらしく、ここのガキ共も大騒ぎだ。
「ステータス?」
「ゲームみたいな感じ?」
「うわ! 俺、魔力100もある!」
「職業、火炎術師だって! すげえ!」
火炎術師か……なんか炎の槍とか投げそうな職業だな。
畜生、この攻撃力は一体何なんだ!
「おお! 天之河光輝様の職業は[[[[[勇者]]]]]! 流石は勇者様です!」
おおお、案の定、委員長は勇者を引き当てた。
括弧を5つも使ってるあたり、何やら凄そうだ。
周りの女子共が歓喜の声を上げる。
「きゃあああ!」
「流石、光輝くん!」
ニヤリと笑った委員長は、周囲を見渡した。案の定、南雲ハジメとかいう坊主野郎が目に入ったようだ。
あいつは他の連中の歓声をガン無視して、あっちの方へ歩いていった。
……おい委員長、お前ジェントルマンすぎるだろ。
「なあ、南雲。お前は何が出たんだ?」
「え? ちょっと待て。……錬成師?」
すると、周りにいた連中が「ぷふっ!」と吹き出した。
「なんだよ錬成師って。生産職じゃん」
「さっき教皇が言ってたろ。戦闘系じゃないって。ただの鍛冶屋だろ、それ」
「光輝は勇者なのに、南雲はただの土方かよ」
「流石、石バカにふさわしいな」
だが待て、クソガキ共。お前らが着てる服や住んでる家は誰が造ったと思ってんだ?
この……ガキ共が……!
おい、南雲! お前も一言言ってやれ!
「……」
……なんで黙ってんだよ。
「あの……南雲勇者様? そう落ち込まないでください。錬成師も立派な……その、後方支援職ですので」
「教皇のじいさん!」
うわっ、ビックリした。人を驚かすんじゃねえ。
ほら、教皇のジジイもビビってるじゃねえか。
「は、はい?」
「この『錬成』ってやつ。説明テキストに『対象物の形質に介入し、形態を変容させる』って書いてあるんだが。これ、マジか?」
「は、はい……主に鉱石を精錬したり、武器を修理したりする際に……」
「鉱物の……構造に……直接……介入……?」
「はい?」
「ヤバい……最高すぎる……!」
「……はい?」
こいつ、また何か言ってるよ。
ハジメは飛び跳ねながら、隣にいたボーイッシュな幼馴染(純愛ものに出てきそうな奴)に駆け寄った。
「おい! 香織! 聞いたか? これ、アレだよ、『月光彫刻師』! いや、それより凄いわ! 自分が思った通りに石をポンポン造れるってことだろ!」
あまりの剣幕に、彼女は呆れたように腕を組んでジト目で見ていた。
「ちょっと、ハジメ。よだれ垂れてるわよ。拭きなさいよ」
「どけ! 実験だ! 実験しなきゃ! ふんぬうううっ! 錬成、開始ぃ!」
ゴゴゴゴゴ……。
バリィィィィン!
お、おい……床が……。こいつ何したか分かります?
正直、地の文を書いてる俺も分かりません。カメラが揺れすぎてて……。
「うわああああ! なんだ!? 地震か?」
「ゆ、床が!」
床が?
「成功だ……!」
何が成功したんだよ。
「このバカ野郎! なんで神殿の床を剥がしてんだ!」
キチガイだわ、こいつ。
「見てくれよ、香織。美しくないか? 完璧な球体だ。誤差0.01mm以内の真円。指先に伝わるこの滑らかな感触……はぁ、冷たい。硬い。最高だ」
「……あんた、それ武器にするために作ったの?」
おお、ジョジョ7部みたいに回転の力で削り取る、みたいなやつですか作者さん!?
「武器? 何言ってんだ。観賞用だよ」
……違うそうです。
「家に持ち帰って、水石の台座に置けば完璧だ。名前は……そうだな、『1号』だ」
こいつ、マジの石フェチ(イシバキ)じゃねえか。
「あ、そう。勝手にして。……先生! 南雲くんが床を破損させましたー!」
「南雲くん! 他国の文化財を損壊してどうするの! 早く謝りなさい!」
というか、こいつマジでヤバいぞ。文化財破壊しやがった。
「いえ、先生。これは損壊ではなく『芸術的再加工』です。この平板な床よりも、この球体の方が美学的に……」
「おい、南雲」
そんな中、ちょっとガラの悪そうなガキが手を振った。
「……なんだよ、また、檜山」
「それ、こっち貸せよ」
「お断りだ!」
「あぁ!? この野郎が……ぐぇっ!」
ベキッ!
ドガシャァァン!
「ぎゃああああああ!」
「ひ、檜山くん!?」
「血だ! 頭から血が出てる!」
檜山と呼ばれた奴が、頭を押さえて倒れ込んだ。
うわ、マジで『黄金の回転』かよ。
「……な、南雲! お前、何したんだ! 檜山くんに石を投げたのか!?」
「あのキチガイ、またやりやがった……!」
……どうやら初めてじゃないらしいな、連続投石魔め。
こういう奴は朝鮮時代に生まれて「石戦(ソッジョン)」にでも送り出すべきだ。
石戦が何かは、ニコニコ大百科かWikipediaで調べてくれ。
「……おい、檜山大介」
「うう……ううっ……俺の頭が……」
「……痛かったか?」
「お前……お前マジで……」
「ごめん! 手が滑った!」
ごめん!
合掌しながら深く頭を下げる姿は、まさにラノベの一場面だ。
「どこが手が滑ったんだよ! 大砲みたいな音しただろ!」
「手が滑った瞬間に、偶然加速度がついて、お前の額に弾性衝突を起こしたんだ。物理学的には十分にあり得る現象だろ」
こいつ、救いようのないサイコ野郎(トルゲイ)だな。
「はぁ!?」
「ヒィッ……」
「あ、あいつの目を見ろよ……」
「マジで狂ってんのか……?」
いや、マジで狂ってると思うぞ。
「南雲くん! 今すぐその石を置きなさい!」
「あ、先生。心配しないでください。これは危険なものじゃありません。ただの石ころです」
「血の付いた石を持ってそんなこと言われても説得力ゼロよ! それと光輝くん! お前も呆然としてないで止めなさい!」
「あ、え? ああ……南雲。謝れよ。いくらなんでも友達を傷つけるのは……」
全くだ。友達には石ころじゃなくて優しさをプレゼントしろよ。
だが、南雲というサイコ野郎はそんなことには興味がないようだ。
「なあ、光輝。お前、聖剣もらったんだろ?」
「え? あ、ああ。聖剣エクスカリバーらしいけど……」
「それ、ちょっと貸してくれよ」
「……急に何だよ」
「あそこの柱の裏に埋まってる青い宝石見えるか? あれサファイアの原石っぽいんだけど、普通の鉄の道具じゃ採掘が大変なんだ。聖剣ならいけるだろ」
「俺の聖剣をツルハシ代わりに使うな!!」
こいつ、マジで終わってるわ。