ありふれた職業で石の頭   作:作家名109

11 / 11
すれ違う想いと, 鳴り止まないツルハシ

オルクス大迷宮のどこか. 檜山がぶち抜いた「回復の泉」の前. 光輝が器で水を汲み上げると, 生徒たちが列を作ってそれを飲んでいた.

 

「さあ, みんな一口ずつ飲んでくれ. 檜山が僕たちのために見つけてくれた生命の水だ」 「悲鳴(ひめい)じゃねえっつってんだろ! ただムカついて叩いただけなのに水が噴き出したんだよ!! あぁクソっ!」

 

プンプンと怒る檜山の肩を, 龍太郎がガシッ! と掴んだ.

 

「ぎゃああああ!!」

 

……おぉ, 痛そうだぜ.

 

「ハハハ! こいつ、また謙遜しやがって. なあ檜山! さっき団長が言ってたぜ, お前が壁を叩いたあの角度と力加減, タダ事じゃなかったってな. ハジメから普段教わってた技術なのか?」 「技術なんてあるかボケェ! あいつが俺に何を教えるんだよ! 俺とあいつはただ……ぎゃああ!! 言ったって無駄だ!」

 

檜山は絶望し, 洞窟の隅へと追いやられた. そこで木の枝を拾い, 地面に文字を書き始める. 【南雲の野郎……マジで死ねクソボケカス……】 その様子を見ていた雫が, 「ぷふっ」と吹き出した.

 

「ふふ、檜山くん, もう受け入れなさいよ. その手に持っているツルハシが, 南雲くんの遺志(いし)だってことを」

 

その言葉に檜山は飛び上がり, ツルハシを投げ捨てた.

 

キィィィィン!

 

「持たねえよ! 持つかよ! 俺は魔法使いだって言ってるだろ! 俺の杖はどこだ! ファイアボールを撃たせろ!!」

 

すると, いつの間にか背後に忍び寄っていたメルド団長が, ツルハシを拾って再び檜山の手の中に押し込めた.

 

「おっと, 気をつけたまえ. 友の遺品じゃないか」 「…………」

 

檜山は渋々それを受け取った. (みんな狂ってる……) ぐぬぬと, 彼の唇が前歯に押し潰される. その様子を「悲しみ」と解釈した団長が語りかけた.

 

「檜山くん. 君の魔法の才能も惜しいが, 今の我々のパーティに必要なのは安全を見抜く目だ. 南雲くんが墜落する直前, 君にこのツルハシを『託した』のは, 君の潜在能力を見抜いていたからではないかな?」 「託したんじゃなくて, あいつがうっかり落としたのを……むぐっ!」

 

言い終わる前に檜山の口を塞ぐ手. 光輝だった.

 

「そうですよ. 南雲は分かっていたんです. 自分がもしものことになった時, このパーティを支えられる唯一の助言者は檜山しかいないということを……二人は暗黙の契約関係だったんですね」 「契約なんてあるかよ! あいつはただ落ちたんだよ! 一人でクサビ石を抜いて自爆したんだよ!!」

 

檜山が必死に光輝の手を振り払うと, 横にいた女子生徒の一人が顔を赤らめた.

 

「まあ……檜山くん, 南雲くんの死を『自爆』と表現してまで, 彼のミスを覆い隠そうとしてるのね. 本当は手抜き工事のせいなのに, 南雲くんの名誉のために自分のせいにしようとしてるの?」 「はぁ……ただあいつがバカだから落ちたんだって……」

 

もはや声に力がない檜山. その姿に龍太郎がケラケラと笑い飛ばした.

 

「おおお! 親友をバカ呼ばわりできるその堂々たる態度! さすが親友(しんゆう)だぜ! よし, 檜山! その意味で次の区域のトラップ調査も頼むな!」 「嫌だ! 行かねえよ! 俺はここから一歩も動かねえ!! 南雲のクソ野郎……お前が生きて帰ってきたらマジで……マジでこのツルハシでお前の頭に釘を打ち込んでやるからな!!」 「おお……こんな状況でも無事な帰還を諦めないのか! やっぱりお前は真の友人だ」

 

一方, 迷宮の奈落のどこかでは…….

 

カギィィィン! カギィィィン! カギィィィン!

 

ミスリルの輝きを帯びたツルハシが壁を砕く. 一心不乱にツルハシを振るっていたハジメ. 彼の横では……

 

「グルルゥ……」

 

爪を切られたクマヤマが, 荷物を山ほど背負わされていた.

 

「ふぅ……」

 

汗を拭うハジメ. 彼は隣の熊に目配せした.

 

「クゥーッ! やっぱりミスリル配合を8:2にすると手応えが違うな! クマヤマ! お前もそう思うだろ?」 「クオォォォン!」

 

奴は丸くなった前足で拍手をした. パンッ! パンッ! あまりに音が大きくて, ツルハシ作業に割り込みそうな勢いだ.

 

「ひひっ、お前もそう思うか? あ……でもこれ見てると檜山のことを思い出すな. あいつ, 元気にしてるかな? あいつにどんな武器を作ってやるべきか……魔法使いで力がないから, 普通のは重いだろうしな」 「ウゥン?」

 

クマヤマが首を傾げると, ハジメは天井の上を指差した.

 

「あ, 知らないのか? 檜山大助っていう, 俺の最高のパートナーがいるんだ. 表向きはツンツンしてるけど, 実は中身はお前みたいにフワフワした奴なんだぜ」 「クゥ……」

 

クマムル(?)になったクマヤマ. こいつ, 嫉妬してやがる ww

 

「おい, 嫉妬すんなよ. お前は俺の1号ペットで, 檜山は俺の1号フレンズなんだから. あいつは昔から俺によくしてくれたんだ. 今日もそうだぜ. あいつが投げてくれたポーションのおかげで, 俺はここでこうして元気にツルハシを振れてるんだからな. あいつは今頃, 上で泣いてるぜ」 「クオォォ?」

 

首をかしげるクマヤマ. くりくりした瞳には疑念が宿っているようだ.

 

「あ、マジだって!」

 

その気配にハジメが声を荒らげた.

 

「檜山はそういう奴なんだよ. あ、そうだ. クマヤマ. お前, 地上に上がったら檜山に気に入られなきゃダメだぞ? あいつはちょっと繊細だから, 最初はお前に火の玉を飛ばしてくるかもしれないけど, それは『会えて嬉しいぜコンチクショー!』って意味だから, そのまま食らってやれ」

 

その言葉にクマヤマが毛を逆立てた.

 

「グルルル……」 「心配するな. お前には特別に『魔力耐性コーティング』の鎧を作ってやるから. 檜山の不器用な愛情表現を耐え抜くには, それくらいなきゃな. よし, 材料収集を続けよう! 今度は檜山にやる武器の材料だ!」

 

ドォォォン! バキィッ!

 

ハジメは鼻歌を歌いながら巨大な岩を一気に砕き割った. ……こいつ, 本当に人間か?

 

「檜山は不思議だよな. 俺にずっと話しかけてくれて, 関心を持ってくれて……あんな友達, 他にいないぜ」

 

……そうだな. それを「そう」解釈する友達も他にいないだろうよ.

 

「後で上がったら, この『深淵の魔石』で作ったソードスティックをプレゼントしてやろう. ひひっ. あいつ、きっと『こんなのいらねえよ!』って叫びながら, 寝る時は大事に抱きしめて寝るんだろうな. ハハハ」

 

このレベルになると, 勘違いも一級品だ.

 

一方, 檜山は?

 

ズルズルズル……

 

魂の抜けたような表情でツルハシを引きずり, あちこちを巡回中だった.

 

「南雲……南雲……南雲……」 「聞こえるか? 移動中も南雲の名前を呪文のように唱えているよ. やっぱり友情の力は偉大だね!」

 

呪文(じゅもん)ではなく呪い(のろい)だったのだが, 隣にいた光輝には違って聞こえるようだった.

 

「お前, あんまり無理するなよ. ハジメの野郎も, お前が元気に迷宮を出ることを望んでるはずだ」 「あいつは俺が迷宮で朽ちるのを望んでるよ……いや, 俺があいつをそうしたかったのに……なんで俺が……なんでぇぇぇ!!」 「まあまあ! 現場監督! 弱音はそれくらいにして! ここの壁の音がちょっと変だぜ! 点検頼むわ!」 「分かったよ!! 壊してやる!! 全部ぶっ壊してやるよ!! 南雲ぉぉぉぉぉぉ!!」

 

ドッガァァァァーン!!

 

壁が崩れると, 今度は何やら箱がポロッと飛び出してきた. メルド団長の目が丸くなる.

 

「こ, これは?! 魔力増幅の玉手箱か?!」 「わああああ! 檜山! 檜山! 檜山!」 「うるせぇぇぇぇ!! 黙れバカ野郎どもぉぉぉぉぉぉ!!!!」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。