ありふれた職業で石の頭   作:作家名109

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雲母(マイカ)の盾と、合法的な穴掘り

みんなが基礎体力練錬の後の魔力運用で死にかけてるってのに、見てくれよ、このハジメって野郎を。

「……」

おい、こいつ何してんだ。

「すぅーっ……」

うわ、地面に鼻をくっつけて座り込んでやがる。

「見つけたぞ、こんなところに隠れてたのか。いい色艶(いろつや)してやがる」

石に話しかけるんじゃねえよ、おっさん。

「この透明度……完璧な六角板状構造。爪先で軽く触れるだけで……」

パサッ。

薄い膜がクリスピーに剥がれた?! 何なんだ、あの石。

「まるで焼きたてのクロワッサンの層を剥がすような、この指先への感触。俺の地元じゃ味わえない極上のテクスチャーだぜ」

……こいつ、もう異世界に適응(てきおう)しきってやがる。

変な奴だよ、全く。

「おい、見ろよ。南雲がまた始めてるぞ」

「また石掘ってんのか?」

全く、飽きもせずによくやるよ。

ある意味、大したもんだぜ、マジで。

「放っておけよ。あいつ、昨日も一晩中城壁を磨いてたらしいぜ。衛兵たちの間じゃ『狂った左官屋』って呼ばれてるぞ」

「うわ、ガチの変質者じゃん……。でも、あんなに幸せそうだと文句も言いづらいよな」

その言葉通り、ハジメの野郎、ヘラヘラ笑ってやがる。

今のあいつは、剥がした岩石の破片を太陽にかざして悦に浸っている。

「見てくれよ、この輝き。流石は『千の顔』と呼ばれるだけはあるぜぇ」

ああ……よく分からんがハジメ、お前が幸せならそれでいいよ。悪いことしてるわけじゃないし、俺の心が狭かったのかもしれん。

人生、戦闘以外にもやることは多いもんな。

……ごめん、地の文(俺)が悪かった。反省するわ。

「おい、南雲」

だが、こういう空気に必ず水を差す野郎がいる。悪友の檜山だ。

「一枚……二枚……三枚……」

だが、そんなの関係ねえとばかりに、ハジメは石の皮剥きに夢中だ。

偉いぞ、ハジメコーラ! あんなチンピラは相手にするな。

「俺のシカトか?」

「……」

「おい。みんなが仕事してるってのに、お前だけ……」

コツッ。

檜山がハジメの肩を足で小突きやがった。……一線を越えやがったな。

コツッ。

「……あ。」

ほら見ろ、石っころが落ちちまったじゃねえか。

流石にハジメもキレたのか、唇を噛み締めて荒い息を吐き出した。

「おい。気をつけろよ」

そうだ。気をつけろよ、檜山。無駄に強がるんじゃねえ。そんなことしても女子はお前を好きになんねえぞ?

「あぁ? 気をつけろ? はっ! 錬成師の分際で、お前に何ができるってんだよ!」

「錬成」

「は? ……うわっ!」

拳大の石ころが、あいつの頭の上に降ってきた。

「痛っ!」

頭を抱えてのたうち回る檜山。

正直、いくらクラスメートでも、肩を足で小突くのはやりすぎだ。

同じことを思ったのか、他の連中も口々に言い始めた。

「あーあ、檜山の野郎。いい職業引いたからって調子乗りすぎだろ」

「放っておけばいいのに、なんでわざわざ絡むんだよ。南雲だってスキル訓練で苦労してんのにさ」

ざわざわ。

空気が不利になったのを察して、檜山は無駄に声を荒らげる。

「うるせえ! 俺が間違ったこと言ったか!? こいつが遊んでるのがムカつくだろ! みんなして綺麗事ばっかり言いやがって!」

「……」

「くそっ!」

檜山は拳を固めた。

こいつ、殴りかかる気か――と思った瞬間。

「錬成」

「うりゃあっ……!? どわぁっ!」

ズサァァァーーーッ!

……見事な股裂きスライディング。

俺の目も点になった。

「え? お、おわぁ!? おおおお!?」

ドガシャァァン!!

「ぎゃああああ!!! 俺の腰がぁぁ!! な、なんだ! なんでこんなに滑るんだ!? 油でも塗ったのか?!」

「雲母は横圧力を加えると非常によく滑るんだ。潤滑剤としても使われるのを知らなかったのか?」

いやー、知らんかったわ。お前のおかげで賢くなったよ、サンキューな。

そう。さっき剥いて遊んでいた石をどうにか変成させたら、魔法のグリスみたいな効果が出たわけだ。

錬成師、すげぇぇぇ!

「やべぇ、あいつの転び方見たか?」

「南雲、あいつマジで才能の無駄遣いだろ」

「こ……この野郎……!」

檜山は顔を真っ赤にして立ち上がった。

羞恥心と怒りが限界突破してやがる。

「笑うな!! 南雲、テメェ……ぶっ殺してやる! 火炎術師の力を見せてやるよ! ファイアボール!!」

ゴォッ!

檜山の掌から、バスケットボール大の火の玉が放たれた。

「おい、マジかよ!」

「檜山、トチ狂ったか!? 攻撃魔法を!」

「逃げろ! ハジメ!」

全くだ。

一線を越えすぎて、地の文の俺も言葉が出ねえ。

「灰になりやがれ! 死ねぇ!」

シュゥゥゥゥーーーッ!

ファイアボールが飛んでいく。

「……」

……おい、こいつ。なんで逃げねえんだよ。

「……!」

なんで目がキラキラしてんだよ!

おいおいおい、何する気だ。

「錬成!」

ハジメは足元に転がっていた石の破片を、平らな石板に変えた!

さらに錬成で地面の雲母の粉を瞬時に石板の上に……コーティング? 何だそれ。

「自家製・雲母シールド!」

ドォォォォン!!

ファイアボールが、ハジメの掲げた輝く石板にぶつかって粉々に砕けた。

火花が四方に飛び散ったが、ハジメは無傷。煤(すす)一つついてねえ。

「……え?」

「オイェス」

「ふ、防いだ……? ただの石板でファイアボールを?」

「お前な。雲母はストーブの覗き窓にも使われてた、実績のある断熱材だぜ。お前の火遊び程度じゃ、傷一つ付かないんだよ」

……だそうです。

おかげでまた知識が増えたわ。

「雲母は断열재(だんねつざい)」……メモしとこ。

クラスメートたちも、その斬新な防御方法に釘付けだ。

「うわ……マジで防ぎやがった」

「錬成師、実はぶっ壊れ性能(チート)なんじゃね?」

「かもな」

予想外の展開に、檜山はうろたえまくっている。

「こ……このキチガイが……!」

「あ、それと。ボーナスだ」

ふぅー。

ハジメが息を吹きかけた。

「反射(リフレクト)マン」

フゥゥゥゥーーー。

おいおい、次は何だ。

盾の表面に付着していた微細な粉末がキラキラと輝きながら、檜山の顔面に向かって飛んでいく!

逃げろ、檜山!

虚勢は失敗したし、今後の人生ハードモード確定だろうが、流石に失明はマズい!

「うわぁっ! 目が! 俺の目がぁぁ!! 痛い! 何か入った!」

「石の粉の味はどうだ?」

「何の騒ぎだ! 神聖な訓練場で私闘とは!」

そこへ、メルド団長がやってきた。

「この魔力の残滓……お前ら、今、攻撃魔法を使ったか?」

「団長! こいつが俺の目に土を撒いたんです! 目が開かないんです!」

……惨(みじめ)だぞ、檜山。

「南雲! 事実か!」

問い詰めるようなメルド団長。

果たして、ハジメの答えは?

「はい、すみませんでした」

くぅ~! クールだぜ、ハジメコーラ。

「……はぁ。頭が痛い。檜山は医務室へ行け! 南雲、貴様は……とにかく訓練離脱だ! 罰として、訓練終了後に居残りで演習場の整地作業を命ずる!」

いや団長、前後関係の調査くらいしてやってくれよ。

……って、ハジメの野郎、なんでまた目がキラキラしてんだよ。

「整地作業……つまり、合法的に穴を掘ってもいいってことですか?」

「……あ? まあ、そうなるが……」

「よっしゃあ! ついでに排水工事までバッチリ終わらせときます! もっと柔らかい土を運び入れましょうか?」

「……好きにしろ」

団長は呆れ果てたように頭を掻いた。

(こいつ、罰を与えたのになんで喜んでるんだ……? まさか、殴られながら悦ぶ……そういう趣味か……? くわばらくわばら……)

……何だよ。

団長、あんた想像力豊かすぎるだろ。

とにかく、そんなこんなで演習場の補수(ほしゅう)作業が開始された。

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