ありふれた職業で石の頭   作:作家名109

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快適な演習場と, 勇者の謝罪

新しい朝が来た、希望の朝だ.

昨夜, あれほど豪雨がドバドバと降り注いだというのに, 演習場には水たまり一つなくサラッサラだ.

「おい, 何だこれ? 昨日、雨降ったよな?」

訓練のために集まった生徒たち.

彼らはいつもと違う地面の状態にザワついている.

「だよな. 普通なら今頃泥んこ遊び状態で, ブーツが死んでるはずなのに……完全に乾いた地面じゃん」

「南雲の奴, 昨日遅くまでスコップ振り回してたけど, マジで何したんだ?」

そこへ登場するメルド団長.

見てくれよ, 団長ニ키の目. 完全に点(・)になってやがる.

「ほう……!」

ドスッ, ドスッ.

軍靴 vs 地면.

地面の圧勝だぜ.

「驚いたな! 雨が降ったというのに、ぬかるみが一切ない! 地面が緩まず, 非常に硬いぞ!」

堅物の中隊長みたいだった団長が……今, 笑ってやがる!

あの! 堅物の! 団長が!

「普段なら排水が間に合わず, 午前訓練は座学に切り替えるところだが……完璧なコンディションだ! いや, 普段より走りやすいぞ?」

その時だった!

「フッ」

ハジメ、登板.

見てくれよ, あの鼻高々なツラ. 完全に調子に乗ってやがる.

「あ、当然ですよ、団長」

「一体何をしたんだ, 南雲? 魔法で水を蒸発でもさせたのか?」

「蒸発? そんな非効率な真似はしませんよ」

ハジメは人差し指を立てて、無駄にキメ顔を作った.

「バカね, 恥ずかしくないの?」

前腕筋とともに横に立つ香織の表情も歪んでいる.

だが、恥を知っていたらハジメじゃねえ.

「土の配合を変えて空隙を確保しました. そして決定的なのは, 地下30センチ地点に設置した『暗渠排水(あんきょはいすい)』システムです」

「あんきょ……はいすい?」

「ええ. 見た目は普通の土に見えますが, その下には砂利層と有孔管の役割を果たす水路がクモの巣のように張り巡らされています」

……何言ってんのか分からんが, とにかく水はけが良いってことらしい.

「雨水が地面に触れた瞬間, 重力によって砂利層に染み込み, 傾斜3度の水路を通って外郭へと迅速に排出されます. 水は『溜めるもの』ではなく『流すもの』. それが、この造작(ぞうさく)の基本にして哲学です」

……地の文(俺)にはさっぱり分からん.

同じ気持ちなのか, メルド団長も冷や汗をダラリと流した.

「う、む……まあ, とにかく大したもんだ. 錬成師は武器を作る職業だと思っていたが……こんな才覚もあったとはな. おかげで訓練効率が200%は上がるぞ! 感謝する、南雲!」

「うおおおお! 南雲! すげぇ、すげぇぞ!」

龍太郎の兄貴がテンション爆上げでぴょんぴょん跳ねてやがる.

この兄貴、筋肉の割に動きが可愛いなwww

「足が濡れねぇ! 快適だ! クッション性も最高! これならウォーキング・ランジ1000回も余裕だぜ! 膝に負担がこねぇ!」

「ははは, どういたしまして」

照れくさそうに笑うハジメ.

その様が可笑しいのか, 香織も「へへっ」と笑った.

「ムカつくわね、本当に. 口角がニヤついてるわよ」

だが, 香織の眼差しも嫌そうではないようだ.

このお姉様、ツンデレだな……ご馳走様です.

折よく, 輝く鎧を纏った光輝(こうき)が聖剣を腰に下げて近づいてくる.

「南雲!」

「おっ, 勇者様. 足元に気をつけろよ, サラサラすぎて滑るかもな」

「本当にすごいよ. 朝、出てくる時は『あぁ、今日の訓練は泥まみれだな, 鎧を磨くのが大変そうだ』って覚悟してたんだ. なのに足が全然濡れない! グリップも完璧だ! 君のおかげだよ」

リーダー公認の活躍に、ハジメの口角が耳まで届きそうだぜ, 諸君.

「へへへっ」

「いや、謙遜する必要はないさ」

光輝がハジメの肩に手を置いた.

……何だ? BLドリフトか? 地の文の俺は作者に失望したぞ.

重苦しい(?)見つめ合い!

「正直に言うと……謝りたかったんだ」

神妙に頭を下げる光輝だと?

「は? 謝る?」

おいおい, こいつら今何してんだ. BLゲーじゃないんだぞ.

「君が『錬成師』の判定を受けた時……戦闘に直接役には立たないと思って, 心配してたんだ. 『ハズレ』ジョブだなんて思っていた自分が恥ずかしいよ」

……おい, この勇者、性格までいいのかよ.

普通こういうポジションの奴は傲慢になりやすいってのに……すまん, 俺が悪かった.

「でも、僕が間違っていた. 君は君のやり方で, 僕たちを守ってくれていたんだね」

温かい眼差し.

くっ……この広い心から出た好意をBLだなんて勘違いするとは……俺の心が汚れてたみたいだ.

「あー、クソっ, 痒くなるようなこと言うなよ」

「ははは! 照れるなよ. 君がどれだけ否定しても, 結果が証明してる. 君は僕たちの心強い『足場』だ」

「足場? 石ってことか?」

「ああ. 礎(いしずえ)さ」

「へへっ」

石だと言われて喜ぶハジメ.

狂ってやがる. マジで頭の中に石が詰まってんじゃねえか……?

ニヤリと笑ったハジメが手を差し出した.

「それほど感謝してるなら, 言葉だけじゃなくて……その聖剣エクスカリバー、ちょっと貸してくれよ!」

「えっ? 聖剣を何に?」

「迷宮に行くとさ, 掘れない岩があるらしいんだよ. 硬すぎて俺の作ったツルハシじゃ無理なんだ. 聖剣なら綺麗に割れそうじゃん? 一回だけでいいから振らせてくれよ. な?」

「……それはダメだ」

急に真顔になる光輝.

断固拒否だぜ, 光輝コーラ!

「聖剣は魔物を斬る剣だ. 採掘用じゃない」

「ちぇっ. ケチな野郎だな. 減るもんじゃないだろ? あとで俺が研いで刃を立ててやるって言ってるのに」

聖剣って遺物だろ?

それをピッケル代わりにしようとするハジメの方が頭おかしい気がするぜ.

そう思っているのは地の文の俺だけじゃないらしく, 周囲の生徒たちもヒソヒソと話し始めた.

「南雲の奴、意外と使えるじゃん. 光輝とも仲良さそうだし」

「だよな. 毎日石ころ拾ってるからヤバい奴かと思ってたけど, 有能だな. やっぱ職業に貴賤はないってことか」

「なぁ, 今度うちの実家を建てる時, 南雲に相談してみようかな」

……いや, 違った.

世論がポジティブに変わってやがる.

これが……技術職の威厳ってやつか?

『月光彫刻師』とか『テンペル』みたいな感じか?

一方, 訓練場の隅の木陰では……?

「ギリ……ギリ……ガリ……ガリ……」

檜山大助が歯ぎしりをしながら立っていた.

目の下はクマで真っ黒、唇は切れてて、文字通り「嫉妬の炎」に焼かれてやがる.

まあ、そりゃあハジメの方を見てりゃな.

「笑うな……? 今、笑ってんのか……?」

こいつ, 自分の頭を掻きむしってやがる.

ハゲるぞ.

(あり得ない……! 昨夜、俺が……完璧に台無しにしてやったはずなのに!)

全くだぜ. 一体どうなっているんだ?

昨夜の深夜2時に戻ってみようか~~~.

月明かりもない暗闇の中.

檜山は痛む腰をさすりながら, ヒーヒー言いながら演習場に這い出てきた.

「ヒヒヒ……南雲の野郎……お前の掘ったそのご立派な排水路……これでパンパンに詰まらせてやるぜ」

何で詰める気なんだよ.

彼が指を弾くと, 燃え盛る岩石が生成された.

「明日の朝には演習場は水浸し、お前はメルド団長に大目玉だ!」

檜山はハジメが掘った溝を踏みつけ, 持ってきた岩を叩き込もうとした.

排水管破壊作戦か?

「えいっ! 入れ! 潰れやがれ!」

ドゴォン!

思いっきりぶち込んだ!

だが, 岩は跳ね返されるだけで, 排水路の中に入っていかない.

「えっ? なんで入らないんだ? 何なんだよ、これ!」

そう.

ハジメが設置した天然フィルターが強固すぎたのだ.

あの、植物の根で錬금術したネットみたいなやつ.

あのネットが, 燃える岩をまるでトランポリンのように弾き返してやがる.

「クソッ! 破れろ! 破れやがれ! このクソったれな草の根ども! なんで火で焼けないんだよ!」

あの植物が火属性耐性を持っていることは, ハジメ本人も知らない秘密だったぜ^^

天運が味方したな, ハジメ.

一方、檜山は怒髪天だ.

ネットを狂ったように踏みつけている様を見てくれよ.

「いいから! 弾けろよ! 頼むから!」

ベキッ!

だが, 砕けたのは檜山の方だった.

「あだだだっ! クソっ! 俺の足がぁぁ!!」

捻った足首とともに, 檜山は泥んこに尻餅をついた.

……ざまぁねえな.

だが, 檜山は諦めない.

「くっ……そうだ、水だ! 水を注いで溢れさせればいい! おい、早くしろ!」

「わ、分かったよ、檜山!」

隣に立っていたモヒカンのヤンキーが指を弾くと, 水がドバドバと注ぎ込まれた.

ドボドボドボ!

こいつ、水魔法使いだったのかよ.

それを見て檜山はニィッ……と笑った.

「さあ! 溢れろ! 逆流しろ!」

だが、水は触れた瞬間に「シュゥゥゥッ」と音を立てて, 1秒で地中に吸い込まれていったぜ.

「……え? どこ行った! 行くな! 吐き出せよ!」

地面を掘り返してみるが, すでに水は消え失せ, 地面はサラッサラだ.

~~~昨夜の出来事は、そういうことだったのです、諸君.

ブルブル.

檜山の拳が震えてやがる.

これ完全に、あの「プルプル震えるカエルの画像」そのものだぜ.

「クソッ……俺の計画が失敗するなんて……あの野郎、排水路に何を仕込んだんだ……」

その時, ハジメと光輝が笑いながら会話している姿が檜山の目を刺した.

(光輝……なんであんなゴミに笑いかけてるんだよ? 勇者の隣は俺の場所だろ! あんな泥まみれの石バカ野郎じゃなくて!)

嫉妬. 劣等感.

ありとあらゆる負の感情.

その顔色を見て, モヒカンが尋ねた.

「大助くん、大丈夫か? 顔色、マジでヤバいぜ. どこか悪いのか?」

「黙れ. 触んな」

こいつの目に血走った光が宿った、その時.

「よし! 注目!」

メルド団長が生徒たちを集結させた.

「みんな聞け!」

凄まじく野太い声だぜ.

「今日見せた訓練の成果は、実に素晴らしかった. 特に南雲の排水工事のおかげで非常に快適だった」

檜山の表情が腐っていくのが、ここからでも見えるぜ.

「よって! 予定されていた『ホルアドの町の実習』は……一週間後とする! 一週間の間, 個人整備および装備の点검を徹底するように! 以上、解散!」

その言葉に、檜山の目が燃えた.

(見てろよ……今度の実습……町の外へ出れば……ダンジョンの中なら……そこなら……!)

おいこいつ、今、何考えてやがる.

(その時は絶対失敗しない. テメェをそのご自慢の土の中に, 永遠に埋めてやるぜ)

檜山の指先で小さな火花が揺らめいて消える.

マジで狂ってやがるな, こいつ.

あいつがそんなことしてる間、メルド団長がハジメを呼んだ.

「待て, 南雲」

「はい, 団長」

「お前の荷物を見せてみろ」

メルド団長の目が、ハジメが抱えている風呂敷包みに向かった.

「お前、何をそんなにバタバタと担ぎ込んでるんだ? 食料か?」

団長兄貴, 純真すぎるぜ. 食料ならそんなに大事そうに担がないだろ.

ハジ메は淡々と答えた.

「いえ. 工具(えんじょう)です」

「工具?」

ハジメが包帯をドサッ!と下ろすと,

ドォォォォン!!

地面が鳴った. あれ、最低でも40kgはあるぜ. キチガイか.

「……開けてみろ」

ガサガサ.

その中には、玲瓏(れいろう)たる……石ころが詰まっていた.

団長の顔が歪む.

「……これは何だ」

「非常用の『チャン돌(でかい石)』10個, 携帯用野戦スコップ, 予備の刃が3枚. それから……」

ハジメは拳大の, 表面が荒々しく削られた石を取り出した.

「投擲用(とうてきよう)に加工した『石ころ手榴弾』です. 破片効果がシビれますよ」

「バカ野郎!! 迷宮をぶっ壊す気か!!」

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