ありふれた職業で石の頭   作:作家名109

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絶望のベヒモスと、不器用(?)な友情

破竹の勢いで20層に到達した一行。

メルド団長は「マジかよ……」という表情を隠すように、二回ほど咳払いをした。

「コホン……よし! 目標達成だ! 全員、怪我はないな? ここで少し休んだ後、帰還する!」

メルド団長の言葉に、生徒たちからはブーイングの嵐。

「えぇー、もうですか?」

「団長、俺たちの魔力、まだビンビンですよ?」

「そうですよ! たかが20層なんて。正直、汗もかいてませんし」

雰囲気はまるで、試験が終わった後に新作のレイドボスを狩りにネカフェへ繰り出したガキどものようだ。

「お前ら……自惚れるなよ。迷宮がいつ牙を剥くか分かったもんじゃない」

マジでそれな。調子に乗ってると痛い目見るぞ、お前ら。

そんな団長を遮ったのは、意外な人物だった。

「ですが団長、みんなの言うことにも一理あります」

出た、班長の光輝だ。おい、お前まで何でだよ?

「予想よりモンスターが弱いです。僕たちが強くなりすぎたせいもあるでしょうが」

彼は聖剣を肩に担ぎ、自信満々に笑いやがった。

あーあ、フラグ立てるなよ……。

「せっかく来たんです。もう少し探索して『未発見区域』でも見つければ、王国への大きな貢献になると思いませんか?」

その言葉に賛同するように、龍太郎が手を上げた。

「賛成! 体も温まってきたところだしな! もっと強ぇ奴はいねぇのか?」

「あんたたち、本当に……安全第一だって言ってるでしょ」

雫(しずく)がため息とともに額を押さえたその時、奥の通路を偵察していた生徒が叫んだ。

「あ! ここを見てください! こっちにめちゃくちゃデカい門があります!」

その言葉を合図に、生徒たちがどっと押し寄せる。蔦に隠されていた巨大な観音開きの石門が姿を現した。

何やら奇妙な雰囲気に、檜山がペロリと舌を出す。

「ほう……これは匂うな。宝物庫の匂いだぜ」

「決まりだな。普通、こういう門の後ろにはレアアイテムが転がってるもんだ」

水魔法使いの近藤も目を輝かせている。

こいつら、物欲の塊かよ。

雰囲気が過熱する中、メルド団長は首を傾げた。

「おかしいな……私の地図では行き止まりになっているはずだが。隠し部屋か?」

その時、隊列の後ろからツルハシを持ったハジメが近づいてきた。

「……!」

「あ、南雲。君も気になるだろ? 何かすごいものがあると思わないか?」

光輝の問いに、ハジメは答えず壁に耳を当てた。

「……」

「あいつ、何やってんだ?」

本当だよ、何やってんだ。

龍太郎の言葉に、ハジメが手をひらひらと振った。

「静かにしろ。共鳴音が聞こえるだろ」

「共鳴音?」

「この門、ただの石じゃねえ。内部に魔力で出来た……何かが仕込まれてる。それに床だ……この微かな振動。これは自然な地殻変動じゃねえ。巨大な『何か』が動いている音だ」

お前、表情がマジすぎるだろ。

中になんか入ってんのか?

全身全霊で壁を透視するかのように、ベッタリとしがみついてやがる。

だが、その姿が逆に龍太郎の好奇心を刺激しちまった。

「巨大な何か?!」

「おい、この匂いも嗅いでみろ。誰かが……俺たちを待っているような気がするんだよ」

「匂いがするのか? うぉぉ……燃えてきたぜぇ!」

「おいバカ。燃える前に調査だろ。まずは……」

その言葉を遮るように、檜山が割り込んできた。

「おい、石バカ」

「あんだと、コラ?」

「ビビってるなら一人で帰れよ。シラけさせんなよな」

ここぞとばかりに、モヒカン・ヤンキーも加勢する。

「そ、そうだぜ。南雲の野郎はさっきから石の話ばっかりしやがって。俺たちが守ってやるんだから、何をビビってんだよ」

その言葉に、龍太郎がケラケラと笑い飛ばした。

「クハハハ! おいハジメ! そんなにピリピリすんなって! お前の気持ちも分かるが、俺たちにはメルド団長もいるし、俺も、光輝もいるんだぞ!」

「……バカ野郎。勇気はいいが、無謀なのはただの抜け作だ。どう見てもヤバい匂いがプンプンするだろ」

そんなハジメを、団長が無言で見つめた。

そうだ団長、ガツンと一発言ってやってくれ。

「うーむ……あいつの言うことにも一理ある。罠の可能性も否定できん」

くぅぅ、さすが年長者の慎重さ。これですよ、これ。

しかし!

「あぁ、団長! いつまであいつの言葉に振り回されるんですか! チャンスは来た時に掴むもんでしょう!」

「そうだそうだー!」

ガキどもの熱気に押し切られちまった。

浮かれまくったこの空気。

その勢いに、メルド団長も仕方なさそうにため息をついた。

「ふぅ……よし。ひとまず入り口だけ確認する。危険な兆候が見えたら即撤退だ。いいな?」

「はい!!」

納得いかない様子で、ハジメがバッグを漁る。

「……クソが」

手のひらにペッと唾を吐き、ハジメはツルハシを拾い上げた。

不吉な予感が背筋を駆け上がる。

ギィィィィィィ――。

巨大な門が開かれた。

部屋の中はさらに巨大で、さながらサッカースタジアム!

それを包み込むように、天井の水晶が真昼のように輝いていた。

「うわぁ……綺麗……!」

「ヤバい! ここ完全に隠しマップじゃん!」

生徒たちははしゃぎながら部屋の奥へと歩を進める。中央には複雑な幾何学模様が描かれた魔法陣があった。

……おい、嫌な予感しかしないぞ。

地の文の俺と同じ気持ちなのか、ハジメが目を見開いた。

「……?!」

……いや、別のところを見てやがる。

後ろだ!

その様子に、香織もつられて首を巡らせた。

「ねぇ、今度はどうしたの?」

「香織、後ろを見ろ。敷居の高さがおかしい。入る時は平らだったのに、今は微かに盛り上がってきてる」

「……本当だわ」

「ちっ、これあれだ。俺たちが部屋の中央に到達した瞬間……」

その時だった。

ウォォォォン……。

部屋中央の魔法陣が赤く輝き始めると、ハジメが絶叫した。

「クソ野郎ども!!!! 伏せろぉぉぉ!!!!」

ズゥゥゥゥゥゥン!!!!

ハジメの叫びと同時に、入り口側の天井が崩落した。巨大な岩が降り注ぎ、退路を完全に塞ぎやがった。

ほら見ろ、言わんこっちゃない。

地の文の俺と同じ表情で、団長が手を振る。

「罠だ!! 全員、集まれ!!」

「キャァァァ!!」

「な、何だよ! なんで門が閉まってるんだよ!」

「言っただろ! 注意しろって言っただろ、このバカどもがぁ!!」

その時、部屋の反対側の壁がゆっくりとせり上がり始めた。

シューーーッ!

蒸気が噴き出し、その暗闇の中から巨大な影が這い出してきた。

ドシン。

ドシン。

地震でも起きたかのように床が鳴る。

全長10メートル、高さ5メートル。

全身を鋼のような甲殻で覆われた怪獣。

頭には天を突くような巨大な角がそそり立っていた。

団長の顔が真っ白に染まる。

「ベ……ベヒモス……?!」

「ベヒモスって……神話に出てくるあの怪物かよ?!」

グルルルルル……。

ベヒモスの赤い瞳が生徒たちを舐めるように見渡す。

いや、見るだけじゃなかった。

グォォォォォォォォォォォ!!!!

咆哮。

音というよりは圧力に近い「何か」!

その一撃で、数人の生徒が尻餅をついた。

うわっ、痛そうだな。

それでも、団長の構えは乱れなかった。

「陣形を整えろ!! 魔法部隊、全力で撃て!! 奴を牽制しろ!!」

「ふ、ファイアボール!! ウィンドカッター!!」

数十の魔法がベヒモスに降り注いだ。

ド派手な爆発!

その時、誰かが呟きやがった。

「や、やったか?」

おい!! お前、そのフラグだけは絶対に言っちゃダメなやつだろ!!

こいつ、絶対呪術師だろww

案の定、煙が晴れると、そこには傷一つないベヒモスの姿があった。

フハァァ……。

奴が煩わしそうに息を吐くと、真っ青な牙が露わになる。

ハジメは何かを思い出したように口を開いた。

「ちっ、あいつの骨格……あれだ。あれ。えーと……ミスリルだ! 魔法耐性がマックスだぞ!」

「なら物理で叩き潰せばいいだろ! 食らえッ!!」

止める間もなく飛び出したのは龍太郎!!

ドガァァァン!!

大地を蹴り、土煙が舞う。

その勢いはさながら戦車。

大砲のような筋肉パンチが、ミサイルのようにベヒモスの足を直撃した。

キィィィィィン――!!!

火花が散った。

おお、あんなの食らったら普通は骨も残らねえぞ。

「ギャァァァァァァッ!! 俺の手ぇぇ!!」

だが、砕け散ったのは龍太郎の拳の方だった?!

なんてこった、筋肉ダルマの龍太郎の兄貴が……。

ベヒモスは龍太郎を見下ろし、前足を振り上げた。

「龍太郎!!」

「どけぇぇぇ!!」

光輝が聖剣でベヒモスの爪を受け止めた。

さすがは頼りになる班長だ!

ガギィィィィン!

「くっ……!! お、重い……!!」

しかし、聖剣の光が危うく揺らぐ。

光輝の膝が折れ、床がひび割れ始めた。

「みんな……逃げろ……僕が……止めている間に……」

「バカ野郎! 逃げる場所なんてどこにある! 入り口は塞がってるんだぞ!」

団長が嘆くように叫んだ。

阿鼻叫喚。生徒たちはパニックに陥り、悲鳴を上げるか隅っこで震えている。

この混乱の中、檜山は柱の陰に隠れてガタガタと震えていた。

ガクガクブルブル。

「クソっ……死ぬ……マジで死ぬ! おい、南雲! お前、何とかしろよこの野郎! いつもの石自慢はどうしたんだよ!!」

あまりの切羽詰まった状況に、口から出まかせが飛び出した。

だが「口は災いの元」ならぬ、その言葉は意外にも通りがかった香織を刺激した。

「そうよ! ハジメくん! 檜山の言う通りだわ! あなたの知識が必要なの!」

まさかの反応!

檜山は慌てて手を振った。

「あ、いや、クソッ、そうじゃなくて!」

檜山が狼狽している刹那!

カギィィィン! カガガガッ!

いつの間にか、ハジメがツルハシを振るい始めていた。

「通れぇぇぇぇぇ!!」

見せつけるように炸裂するハジメの連撃!

ドゴォォォン!!

え?

マジで貫通しやがった。

厚さ2メートルの壁がぶち抜かれ、涼しい風が吹き込んできた。脱出路だ!

「団長!! 道、作りました! 早く逃げてください!!」

「全員退却!! 南雲が開けた穴へ走れ!! 振り返るな!!」

「助かったぁぁ!! お母さぁぁぁん!!」

生徒たちが押し合いへし合い穴へと逃げ込む。

龍太郎は雫に肩を貸されながら足を引きずり、光輝は最後まで残ってベヒモスを牽制した。

おお、班長の責任感……。

「この野郎……!」

「光輝! お前も早く来い!!」

「わ、分かった!」

ようやく跳躍する光輝。

ドガァァァン!!

同時に降り注ぐ爪撃! 彼がいた場所には巨大なクレーターだけが残った。

あんなのをずっと受けてたのかよ。やっぱり班長は半端ねえ。

光輝が脱出するや否や、ハジメは再び地面に手を突いた。

先ほどツルハシで掘った穴の下端。

「錬成! 入り口封鎖!!」

しかし、魔力のスパークが散るだけで、石壁はびくともしない。

パチッ。

壊れたライターのような、力ない音だけが響いた。

「ちっ、魔力切れか?!」

ハジメの焦った声が聞こえた瞬間、穴の向こうからギラリと光る赤い瞳が現れた。

……うわっ、マジか。

ベヒモスだ。

奴は「こんにちは、お仕置きの時間ですよ」と言わんばかりの勢いで、前足を穴に突っ込んできやがった。

ドォォォォン!!

その瞳と正面から目が合った檜山は、心臓が口から飛び出しそうになった。

(あ、あの怪物が中に入ってきたら、俺が一番最初に踏み潰される!)

檜山の脳内では、すでにベヒモスの足元でペシャンコなジャーキーになった自分が上映されていた。

死への恐怖が、彼の腕を勝手に動かした。

「ひ、ひぃぃっ! この無能な石バカ野郎! これ飲んで早く壁でも何でも塞げよ! 死にたくなかったらな!!」

檜山は高濃縮魔力ポーションを投げつけた。

実は自分の命よりも大切にしていたへそくり的な代物だったが、今はそんなことを言っている場合じゃなかった。

シュンッ――パシッ!

ポーションの瓶は、まるで誘導ミサイルのようにハジメの懐へと収まった。

「おお……! 檜山、サンキュ!」

ハジメの目がキラキラと輝いた。まるでクリスマスプレゼントをもらった子供のような、純粋な眼差し。

……イカつい筋肉ダルマがそんな目をするなよ、怖いだろ。

檜山も地の文の俺と同じ気持ちなのか、顔をしかめた。

(サンキュじゃねぇよ! それ、俺の全財産みたいなもんなんだぞ! お前が失敗したら俺が死ぬからやったんだよ、この野郎!)

檜山は心の中で血の涙を流しながら、ぷいっと顔を背けた。

「だ、黙れ! うるさいからさっさと仕事しろ!」

その時だった。

ポンッ。

重厚で温かい手が檜山の肩に置かれた。

班長、光輝だった。

「檜山……君というやつは本当に……」

「あぁクソ、何だよ! 手をどけろ!」

檜山が神経質に肩を揺すったが、光輝の目にはすでに感動の涙が浮かんでいた。

「自分の非常用ポーションまで南雲くんに譲るなんて……本当は誰よりも南雲くんを信頼し、大切に思っていたんだね。君のその友情、僕は本当に感動したよ」

「はあ? はあ?! おい光輝! 耳腐ってんのか? 俺は今、こいつのことを無能な石バカだって……」

「分かってる、分かってる。『無能だから僕が支えてやるしかない』っていう、君なりの愛情表現なんだろ? フフッ、檜山らしいね」

すると、横から龍太郎も加わった。

「うぉぉ! 意外と熱いところあるじゃねぇか、檜山くん!」

その言葉に、檜山は血が逆流する気分だった。

歯を食いしばり、心の中で絶叫した。

(違うわボケ! 俺はただ生きたいだけなんだよ! あの野郎が壁を塞がないと俺たち全員お釈迦なんだよ!!)

だが、檜山の本音なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに、ポーションを飲み干したハジメが元気に叫んだ。

「おおお! 檜山! 恩に着るぜ! おかげで魔力フルチャージだぁぁぁぁぁ!!」

充填された魔力!

バチバチッ!

スパークが散ると、穴の開いた壁が再び石で覆われた。

もちろん、安心はできない。

あくまで応急処置だ。

ベヒモスが体当たりでもすれば、すぐに壊れるのは目に見えている。

なんせあの龍太郎の兄貴が殴ってもビクともしなかった骨格だ。

ドォォォン! ドォォォン!

噂をすれば影。壁の向こうから奴が壁を叩く音が聞こえてくる。

走りながら、ハジメは団長に叫んだ。

「うわ、あいつ長くは持ちませんよ。走るしかないです。20層の外へ……いや、この区域の外へ!」

「どこへ行く? この通路は地図にないんだぞ!」

「風が吹いてくる方……あっちです! 巨大な橋が見えます!」

彼の指先が指し示した場所に、救世主のように、巨大な峡谷を繋ぐ古い石造りの橋が現れた。

しかし。

「はぁ……クソ。山を越えてまた山かよ。あの橋……」

橋を一瞥したハジメの目が細められた。

「手抜き工事の匂いがプンプンしやがるぜぇぇぇぇぇ!!!!」

……もうそれ、職業病だろ。

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