ありふれた職業で石の頭   作:作家名109

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奈落への転落と, 勘違いの聖域

逃げながらも, 龍太郎의兄貴は己の拳をまじまじと見つめた.

 

「マジかよ……あの化け物の甲羅, 何なんだ? 頑丈なんてレベルじゃねえぞ! 俺の拳が弾き返されちまった!」 「愚痴ってる暇はないわ. 奴が追いかけてくる前にこの橋を渡りきるのよ. 峡谷の向こう側なら, あの巨体じゃ追ってこれないはずだから」

 

雫(しずく)に「シャキッとしろ」と引きずられた先には, 年季の入りすぎた石橋が見えた. 幅はわずか2メートルほど. あちこちに亀裂が走り, 崩れている箇所も多い. ……マジで手抜き工事じゃねえか.

 

「よし, 隊列を乱すな! 一人ずつ冷静に渡れ! 走ると崩れる恐れがある!」 「はい……!」

 

団長の命令に, 怯えた生徒たちが恐る恐る橋の上へと足を踏み出す. その隊列の最後尾. 檜山(ひやま)とパシリのモヒカン・近藤が密かに視線を交わした.

 

(準備はいいか?) 檜山の囁きに, 近藤がゴクリと唾を飲み込んだ. (い……いつでもいけるぜ) (ついにチャンスが来た. この狭い橋の上なら, 事故を装って消すには完璧な場所だ)

 

こいつ……まだそんなこと考えてやがるのか. 彼はハジメの背中を睨みつけ, ゆっくりと距離を詰めた.

 

(はっ, ベヒモスのせいで余裕ねえだろ? お前はここで終わりだ, 南雲)

 

クソ野郎め……. 一方, その頃ハジメは何をしていたかというと.

 

「……」

 

彼は口を一文字に結び, 橋のあちこちを観察していた. まるで現場監督か, 熟練の土木作業員のように! 檜山はその背後にぴったりと張り付く.

 

(あと10メートル……橋の中間地点. そこがポイントだ. 近藤が魔法で足元に潤滑液を作ったら, 知らん顔して突き飛ばす. 完璧だぜ)

 

檜山の手が汗ばむ. 殺意と悦楽が混ざり合った感情. その時, 光輝がふと後ろを振り返った.

 

「檜山? 君, なんでそんなに南雲の隣にぴったりくっついてるんだ?」 「えっ? あ, いや……そ, それは」

 

おっと, 泥棒が自分からボロを出しそうだぜww ついに計画がバレるのか? しかし, 光輝の反応は真逆だった.

 

「そうか……やっぱり檜山だね. 口では厳しく言っても, 仲間を一番気遣っているのは君だったんだ」 「はぁ?!」 「南雲の荷物を後ろから支えてやろうとしてるんだろ? 落ちないようにサポートしてあげてるんだね?」 「いや, そういうんじゃねえって!」

 

檜山はぶんぶんと手を振った. 顔を真っ赤に染めやがって.

 

(俺があいつを? 何言ってんだよさっきから!)

 

彼は「ふんっ」と鼻を鳴らし, 咳払いとともに顔を背けた. その様子を見た光輝と龍太郎は……

 

「檜山な奴, いつも口ではああ言ってるけど, やっぱり義理堅いよな」 「オスッ, そうでなきゃ男じゃねえぜ」 「だから, 違うって言ってるだろぉぉ!!」

 

ツンデレの友情として勝手に自動翻訳! 地の文の俺すら予想外の展開だぜww

 

生徒たちが橋の中間あたりまで来た時だった.

 

パキッ. パキパキ…….

 

石の破片が落ちる不吉な音が響き……そして消えた. どれほどの深さなんだ! その恐怖が生徒たちを刺激し, 互いを押し退け始める.

 

「キャーッ! 何この音!」 「おい! 押すなよ! 怖いだろ!」

 

ざわざわと広がる, 疑心暗鬼と敵意. そこへメルド団長の怒号が炸裂した!

 

「落ち着け! 風のせいだ! 一旦停止して, 再び進行する!」

 

その言葉が終わるか終わらないかのうちに, ハジメがその場に止まった. ……いや, ウンコでもするみたいに屈み込みやがった. その姿に, 香織が首を傾げる.

 

「ねぇ, どうしたの?」 「さっきの音, 振動の周波数が変だ」

 

ハジメは橋のど真ん中でうずくまると, 地面に耳を当てた. さっきの「友情勘違い」のせいで後ろから荷物を支える形になっていた檜山が狼狽する.

 

(……?! 何だ, 何なんだ?! なんで急に座る?! 突き飛ばそうと思ってたのに!)

 

「南雲!! お前は何をしてるんだ! 立て直し次第出発するぞ!」 「団長, これ危ないですよ」 「な, 何だと?!」 「はぁ……やっぱりだ. これ, 施工不良ですよ」 「施工不良だと?! どういう意味だ!」

 

団長の怒鳴り声に, 屈んでいたハジメがドンッと荷物を下ろした. それを受け取らされる形になったのは, 自然と檜山だった.

 

「おいコラァ!!」 「この橋の床版, 材質が問題です. 全く, 誰が作ったんだこれ. 粒子が細かいのはいいですが, 湿気を含むと結合力が弱まるんですよ. おまけに継ぎ目のモルタル……石灰の配合比率がめちゃくちゃだ. 300年も持たずに腐ってやがる」

 

そこへ空気を読まない龍太郎が割り込んだ.

 

「おいおい! 300年持ったんなら十分じゃねえか?!」 「バカ言え! ローマの水道橋は2000年持ってるんだぞ! これは明白な手抜き工事だ!」

 

ハジメは檜山が持っていたバッグを指差した.

 

「おい, 檜山」 「えっ, あ, はい?」

 

彼は思わずバッグ(重い)を預かってしまった. その様子に, 生徒たちがヒソヒソと囁き合う.

 

「檜山くん, こうして見ると南雲くんの助手みたいじゃない?」 「なるほど……本当は南雲くんに憧れてたのかも……」 「黙れバカ野郎ども!!」

 

檜山の顔が引きつるのを見て, 光輝は小さく微笑んだ.

 

「人は見かけによらないね……」

 

彼がそんな慈愛の眼差しを向けている間, ハジメは自作の水平器を取り出して床に当てていた.

 

「ほら見ろ. 右に3度傾いてる. 重心が偏ってやがるんだ. 龍太郎, お前の体重は?」 「え? 俺? 95キロだぜ!」 「お前が通ったら崩れるな. お前は這って行け」 「ふざけんな! カッコ悪くて這えるかよ!」

 

そんな情報が飛び交い, 橋の上は瞬時に混乱に陥った.

 

「えっ, じゃあどうすればいいの? この橋, 崩れるってこと?!」 「ひっ……うぅ……!」 「こんなことなら……こんなことなら……!」 「ここに入ろうって言い出したのは誰だ!」

 

……一体どうしてこうなった. 発狂しそうなのは檜山も同じだった. 彼は近藤に目配せで訴える.

 

(クソ……もう知るか. おい近藤! 今、魔法をぶちかましてやろうか?!) (ダメだ……みんな立ち止まってこっちを見てるだろ. 今撃ったら俺が犯人だってバレバレだぜ!)

 

その時, ハジメが立ち上がった. いや, 再び身を乗り出した?

 

「ちょっとどいてろ. さっき音がした場所, 下側のクラックを確認しなきゃいけない」

 

ハジメは突然, 橋の欄干の外へと身を乗り出した. 橋の底板を目視で確認しようというのだ. イカれてやがる. 安全索もなしにか?

 

「ハジメくん?! 危ないわ!!」 「大丈夫だ, 香織. 安全診断の方が先決だ. このクラックがキーストーンまで達してたら, 俺たちは全滅だぞ」

 

ハジメの上半身が虚空にブラブラと浮いている. お尻だけで橋の上に引っかかっている状態だ. ……おいおい, 死ぬぞあいつ. その時, 檜山の目がギラリと光った.

 

(……!! チャンスだ!!)

 

お前, この状況でもまだ殺す気かよ……. 一体どんな恨みがあればそこまで執着できるんだ.

 

(あの体勢なら……突き飛ばす必要すらない. 手足でちょいと触れて中心を崩してやれば……そうか, 足元に魔法を撒く必要もねえ! 近藤の野郎に頼るまでもねえぜ!)

 

檜山がそろりそろりとハジメの背後に忍び寄る. その手と足が, 密かにハジメの隙を狙ったその時! 光輝が目を輝かせた.

 

「檜山! ナイスアシストだ! 僕が見てもあそこは危険そうだった!」 「なっ、何だとテメェ?」

 

その様子に, 雫もはにかんだように笑った.

 

「檜山くんって, 意外と優しいのね」 「違うわボケェ!! 俺はただこの石オタク野郎を蹴り飛ばそうと……!!」 「照れちゃって」

 

三人がそんなやり取りを繰り広げている一方, ハジメの目が鋭く光った.

 

「ふむ……ここだな. ここが一番脆弱だ」

 

彼が指先で橋の底板から突き出した石を一つ「トントン」と叩いた.

 

「これがクサビ石なんだが……状態がすこぶる……」

 

その瞬間.

 

ズゥゥゥゥン!! ドォォォン!!

 

遠くからベヒモスが再び壁に体当たりする音が響いた. その振動が橋を伝わってくる.

 

メキメキッ!!

 

「……あ?」

 

スポッ!

 

ハジメが触れていたクサビ石が, 呆気なく抜け落ちてしまった. まるでジェンガの最後のブロックを抜いてしまったかのように! おいマジかよ!

 

「あれ? なんでこれ……」

 

ガラガラガッシャーーーン!!

 

ハジメがお尻を乗せていた床板の部分が, まるごと崩れ落ちやがった.

 

「ちょっと待て!! タイム!! 何なんだよこれぇぇぇぇぇぇ!!」

 

その時, 檜山の目が輝いた. (……!! チャンスだ!!) 彼が手を伸ばそうとしたその瞬間――ハジメの体は何かに引かれるように落下し始めた.

 

檜山は手を伸ばそうとした姿勢のまま固まった.

 

「……?!」

 

彼の空振った手は虚空を裂いた. 届いてすらいない. ハジメは文字通り, 「勝手に」落ちていったのだ.

 

「このクソったれな王国め! 迷宮の維持補修予算をもっと増やせぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

悲鳴が遠ざかっていく. 彼の体は, 漆黒の闇の中へと一瞬で吸い込まれていった.

 

「ハジメくぅぅぅぅぅぅん!!!!」

 

香織が悲鳴を上げながら欄干へと駆け寄った. 雫が慌てて彼女の腰を掴んで止める.

 

「ダメよ, 香織! 行っちゃダメ!」 「離して! 離してよぉ! ハジメくんが! ハジメくんがぁ!!」 「嘘だ……南雲!!」

 

光輝と龍太郎も欄干にしがみつき, 下を覗き込んだ. だが, 見えるのは果てしない深淵のみ. 激突する音すら聞こえてこない.

 

「クソっ!! クソッタレ!! だから気をつけろって言ったんだよぉぉぉ!!」

 

ガギィィィン! メルド団長が兜を脱ぎ捨て, 床に叩きつけた.

 

「ありえん……あいつ, さっきまで石の説明をしていただろう……こんな虚しく?」

 

生徒たちは恐怖と衝撃に包まれ, 騒然となった. そしてその混乱のど真ん中. 檜山大助は, 呆然と手を伸ばしたまま立ち尽くしていた. 彼の瞳が激しく揺れている.

 

(……何だよ. 俺, まだ押してねえぞ? 魔法も使ってねえし……)

 

そこへ近藤がこっそり近づいて尋ねた.

 

「おい……ダイスケ……あれ, どうなったんだよ?」 「し, 知るかよ……あいつ, 自分一人で何かこねくり回して, そのままスポーンと落ちやがったんだよ!」

 

叫んでいた檜山の口元が, 奇妙に歪んだ. 安堵か? 虚脱か? それとも怒りか?

 

(ふざけんな……俺の計画は? 俺の復讐劇は?! 俺が卑劣に笑いながら『あばよ』って囁くはずのあの名シーンはどうなったんだよぉぉ!!)

 

ギュッ. 彼のインプラント費用(歯ぎしり)がさらに跳ね上がった.

 

(あの野郎は最後まで……死ぬ瞬間まで俺を無視しやがった. 俺の殺意すら必要ねえと言わんばかりに……一人で勝手にノリツッコミして落ちていきやがったんだ!)

 

彼は悔しさのあまり拳を握りしめた.

 

「チクショウ……チクショウがぁ!!」

 

おいおい……人が死んだっていうのに自分のことばっかりかよ. なんて利己的な野郎だ.

 

ポンッ. そんな檜山の肩を掴みながら, 光輝が涙を浮かべていた.

 

「檜山……君もそんなに悲しいんだね. さっき南雲くんの後ろにぴったり張り付いていた時から, 不安だったんだろ? だから助けようとして手を伸ばしたんだよね」

 

班長の勘違いスキル, カンストかよww このレベルになると, 光輝の目にはフィルターがかかっているとしか思えないぜ.

 

「え……? いや, それは……」 「見てたよ. 君が南雲くんに向かって手を伸ばし, 足を踏み出したのを……君の真実の想いは僕らみんな分かっている. 届かなくて悔しいんだろ? 自分を責めないでくれ!」 「…………」

 

檜山はポカンとした顔で, 何も言えなくなった. (これまた何の話だよチクショウ?!) 呆れ果てたその表情すら, やがてメルド団長の怒号にかき消された.

 

「悲しんでいる暇はない! 橋が崩壊している! 全員走れ!!」

 

ズズズズズズゥゥゥン!! ハジメが抜いたクサビ石のバタフライエフェクトで, 橋全体が崩れ始めた.

 

「うわぁぁぁぁ!! 助けてくれ!!」

 

こうして一行は, ハジメを追悼する余裕すらなく必死で橋を渡りきった. 背後で凄まじい轟音とともに, 橋は奈落の底へと消えていった.

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