5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
ポケモン歴2002年、10月16日。場所はカロス地方の中央都市ミアレシティ。
首都の中心部にそびえ立つランドマークである『プリズムタワー』を見上げ、12歳のユリーカは途方に暮れていた。
巷では『ミアレジムの秘蔵っ子』、『カロスに天才少女現る』ともてはやされる彼女は2000年にトレーナーデビューを果たし、その略歴には周囲が騒ぐものとしてじゅうぶんすぎるほどの実績がしっかりと備わっていた。
ルーキーイヤーでカロスリーグから地方予選を突破し、チャンピオンリーグに出場。結果としては2回戦で敗れたもののある程度の手応えを得ることは出来た。
チャンピオンリーグに主戦場を移しての2001年シーズンはトライポカロンへ参戦。
トライポカロンとは女性限定かつ完全非接触型のパフォーマンス競技……即ちポケモンバトルが存在しないのだが、ポケモンとの絆という面においてチャンピオンリーグまで駒を進めたことで手にした経験値は絶大であった。
瞬く間にマスタークラスまで勝ち上がったユリーカは、その勢いのままに優勝……とまではいかなかった。
準決勝の舞台で地元の強豪ミルフィを相手取り、惜敗に終わった。
敗因としてはポケモンのレベルやパフォーマンスそのものはダントツであったが、ユリーカ側のトライポカロンへの理解度が対峙したミルフィとは明らかに雲泥の差だった。競技レベルでの経験値の差が出たのだ。
9月に行われたトライポカロンマスタークラスを終えてすぐにユリーカは本業として定めているトレーナー修行を再度本格化させ、諸国行脚の旅に出ていった。
約1年間の修行の旅を終え、2001年度は参加を見送ったチャンピオンリーグに向けて兄シトロンと彼が作ったお手伝いロボット『シドロイド』の待つ自宅へ帰還した。
「なにがどーなってんの? コレ……?」
「ででぇー…?」
無事帰り着いたまではよかったのだが、その帰宅したプリズムタワー全域がバリケードに覆われており、警備員にジムの関係者と名乗り出ても中に入れてもらえないところで現在に至る。
「お帰りユリーカ! また背が伸びたんじゃあないか?」
「ただいま! えへへ、そうでしょ〜? じゃ、なかった。プリズムタワー! どうなってるのアレ!?」
「でねね、で〜ねね〜!」
仕方がないのでユリーカは父リモーネの経営する電気屋へと足を運んだ。
愛娘の帰宅にリモーネは歓迎するも、ユリーカと相棒のデデンネの様子に事情を知らないのだと把握した。
「お兄ちゃんにはこっちからいくら電話かけても出ないし、ポケラインも既読になんないんだよね」
「あー、やっぱりか」
「やっぱりって、もしかしてお兄ちゃんたち、まだ新婚旅行から帰って来てないの!?」
ユリーカの兄シトロンはポケモン歴1997年にカロスリーグ四天王ドラセナと交際を開始し、去年にジューンブライドとして無事盛大な結婚式を挙げていた。
式にはもちろんユリーカも親族として参加し、兄が所帯を持つのを心から祝福した。まぁそのお相手のドラセナにしても、ユリーカ直々に兄のことを『シルブプレ』したところから関係が始まったのだが。
「なんでも全国各地の竜の里に挨拶回りをする、って話だったからな。帰って来るにはまだしばらくかかるんじゃあないか?」
カロス地方に置かれている竜の里の重鎮でもあるドラセナの体面もあるのだろう、とリモーネは言う。
竜の里という場所の地理的なイメージとしてはスマホロトムの電波も通じるか怪しいものがあり、何より義姉となったドラセナはユリーカにとってバトルの師匠でもあるため彼女の事情だと言われれば納得せざるを得なかった。
「その分だとお兄ちゃんがプリズムタワーの権利を一切合切クエーサー社に売却したことも聞いてなさそうだな」
「えぇ!? じゃああそこ、もうユリーカとお兄ちゃんの家ですらないってことォ!?」
「まぁ、そうなるな」
クエーサー社なる存在のことは、ユリーカもなんとなく把握はしていた。
ミアレシティに到着し、記憶の中の景色と比べ、元々大規模な都市であったのがさらに近代化方面に様変わりした街並み、その一端を担うホログラム技術の大元を取り扱っている連中というのは、街中の大型ビジョンよりしつこいくらいに流れるCMから得られる程度のものだが。
今から遡ること5年前、カロスリーグの地方予選が終わり、表彰式の最中に行動を起こした悪の組織『フレア団』による世界の破滅を狙った凶行は、カロス中のジムリーダーがチャンピオンカルネの元に集結し、さらにはユリーカの仲間たちの活躍もあってすんでのところで食い止められた。
だがその被害は甚大で、特にカロスの中心都市であるミアレシティの再建は急務であった。
ユリーカからしてどういう経緯かは分からないし別段興味もないが、そこで名乗り出たのがクエーサー社なのだということは分かる。
リモーネは冷静に考えてみれば、シトロンとしてもユリーカに関してはプリズムタワーを手放したとして、自分のいる電気屋に帰れば済むことだろうという発想と思えた。
シトロンはシトロンなりに妹のことを一端の大人として扱い始めているのを『成長』であると、2人の父として結論付けていた。
「まぁせっかく帰ってきたんだ。ゆっくりするといいさ」
「そういうわけにもいかないよ。チャンピオンリーグがあるんだもん」
ユリーカは2000年に地方予選を突破したことにより制度上3回分権利を保有しているチャンピオンリーグへの参加を、トライポカロン挑戦のために2002年度大会では行使していない。
カロスクイーンを目指すのはまたいずれ再挑戦するとして、今度はトライポカロンで得た経験をチャンピオンリーグに活かす腹づもりであった。
大会参加に向けての調整のために帰省し、兄のいるミアレジムの施設を使わせてもらう予定であったのが見事に頓挫したわけだが。
「それならいい手があるぞ。ユリーカが夜大丈夫なら、だけどな」
「ユリーカもう大人だもん!」
リモーネにユリーカはぷくうと頬を膨らませる。
言い回しから、父が幼き日の夜に1人でトイレに行けずに頼ってきた頃のことを思い出していたのが分かったからだ。そういう目をしていたのだ。
「ハハハ、悪い悪い! 今ミアレでは、クエーサー社が主体になって夜間帯に『ZAロワイヤル』なるバトルイベントをやってるんだ」
「あ、それ聞いたことある! 街のモニターでCMやってた!」
「なら話が早いな。そこにはミアレ中の腕利きトレーナーたちが集まってるって言うし、勝ち上がった人はなんでも願い事を叶えてもらえるとまで来たもんだ。トレーニングするにはうってつけじゃあないか?」
「面白そうって思ってたんだよね! で、パパはそれ出てないの?」
「パパの願いごとはもう叶ってるからな」
父の大きな手が、可愛い娘の頭を優しく撫でる。シトロン含め、愛する我が子たちの成長をこの目で見ることこそが、親として最高の幸福であるとリモーネは知っていた。
「えへへ……」
そんな父の手の温もりにこそばゆくも温かい気持ちになりながら笑みを浮かべるユリーカ。
その腰のホルダーにセットされたモンスターボールより、首からリードのように後ろに黄緑色の突起が伸びている猟犬を思わせるフォルムのポケモンが姿を現した。
「こいつは、ジガルデか?」
「うん。プニちゃん」
ちつじょポケモンジガルデ。世界の生態系を守る秩序の監視者、などと称される伝説のポケモンなのだが、そんなことはユリーカにとっては些細な話に過ぎない。
5年前に出会い、絆を深めたのちに一度別れ、2年前にカロスの秘境エンドケイブにて互いの絆を再確認した両者は、誰に遮られることもなく道を同じくしていた。
現在のところ、形態としては本来の100%フォルムに対し、たった10%ほどのものでしかない。
コレに関してはそれこそ秩序云々などは関係なく、シンプルに高いパーセンテージのフォルムを維持するためのエネルギー消費が馬鹿にならないからである。要するに省エネだ。
「どうしたの? プニちゃん」
『ユリーカよ。この街の中心にそびえる塔の内部より、膨れ上がり続ける力が漏れ出している。その漏れ出した力に煽られ、暴なるものたちが現れよう』
「膨れ上がり続ける力……? 暴なるものたち……?」
「流石はジガルデ。あっという間にお見通しというわけか。まぁ、隠すつもりもなかったが」
ユリーカは、神妙な面持ちでリモーネを見る。そこには甘えん坊な娘ではなく、相応に修羅場を潜り抜けてきた『猛者』の瞳があった。
「パパ、お兄ちゃんはなんでプリズムタワーを売ったの?」
「あぁ……これは本人から聞いた話でパパが直接見たわけじゃあないが……シトロンがジムを開くためにプリズムタワーの権利を買い取ってすぐのことだ。ジムの施設を作るためにタワー全体の臨検をしてみたところ、一部エリアに現代技術ではどうやっても開けないブラックボックス化しているフロアがあったらしい。既に買い取り契約が完了した後だったから仕方なくその辺りは立入禁止区域として封印したんだと」
「そういえば昔、お兄ちゃんにあそこだけは近づいちゃ駄目、って言われてた場所あったっけ」
行くなと言われたら余計行きたくなる性のユリーカは、無論そんな兄の言いつけを無視して封印された区画への侵入を試みたことがある。すぐに施設内の見回りをしていた兄のコイルに見つかり、追いかけ回されたのは今となってはいい思い出だ。
「近年、ミアレ中で野生ポケモンの流入が増加し、さらにその野生ポケモンたちの中でトレーナーもいないのにメガシンカし、暴走する個体も現れて問題になっていてな。シトロンも、野生ポケモン側の異常が、封印していた区画より放たれるエネルギーが原因であると突き止め、その詳しい調査のためにより研究設備の整ったクエーサー社へタワーを託したんだ」
「それなら尚更新婚旅行どころじゃあないんじゃないの?」
「そこはまぁ……ドラセナさん側の都合もあるからなぁ……」
自分とほぼ同年代でありながら『義理の娘』となった四天王ドラセナに対し、リモーネもまた強く出れる立場ではない。その辺りはユリーカもすぐ理解をした。
「そのジガルデ……プニちゃんが慌ててることもないのを見るに、今すぐまずいことにはならんとは思うが……」
「うん……どうしたらいいか分からないことにはねぇ……」
自分たちの街になにやら異常が起ころうとしている、その把握はできてもならばどうすべきか? というところが不透明ではなんとも歯痒いものである。
そんな時だった。
「じいいいいいかあああああッ!!」
轟音、それは何らかのポケモンの鳴き声だった。
「でねねぇ!?」
「なになに!?」
『暴なるものの気配ぞ!』
「暴走メガシンカか!!」
リモーネはすぐに店の奥に引っ込んでゆく。
「パパ! ユリーカ先に行ってるね!」
「頼む! すぐに合流する!!」
店の奥からバシャーモがユリーカにサムズアップを送る。リモーネの相棒だ。
店の外に出てすぐのところでユリーカはプニちゃんの背に跨る。緊急事態だ、自分の足で行くよりずっと速い。
「プニちゃん! 気配のところまで連れてって!!」
『了解した、我が主人!!』
プニちゃんは瞬く間に屋根の上へ駆け上がり、ユリーカとともに疾風と化した。
『ユリーカ』
12歳。ポケモントレーナー。
トレーナーとしてはもちろんポケモンパフォーマーとしても非凡な才能を発揮する期待の超新星。
様変わりした故郷で起きる出来事を持ち前の明るさと爽やかさ、そして強さでポケモンたちと一緒にバッチリ解決していくこの痛快劇の主人公だ。