5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
フレア団ヌーヴォ…かつて対峙した悪の組織の残滓と向き合い、待つのは真剣勝負あるのみ。
「それって、フラダリたちが全部悪いんじゃあないの?」
メディオプラザへ向かう道中、ユリーカはパキラからグリのことと、フレア団ヌーヴォのことを聞かされた。
それに対する所感として、ユリーカの一言は真っ直ぐでパキラには心地よかった。
「あっ、ごめんなさい……」
「いいのよ。どこからどう見てもその通りだもの」
言ってしまってからユリーカは、フレア団の責任を問うということはパキラも非難していることに気付き謝罪する。
そこにすかさず謝罪は不要であるとパキラはユリーカに返した。
フレア団の中枢に関わっていた人物として、パキラは司法取引でヌーヴォの監視及びいざという時の対処という任務を受けている。カロスリーグにおいて四天王である彼女の穴を埋めるだけの人材が確保できていないという側面もあり、かなり異例の措置であった。
「彼がZAロワイヤルに参加する理由はあなたが想像した通りのことだと思うわ。フレア団ヌーヴォはかつてカロスを、世界を破滅させようとしたフレア団とは違う。そのための証を立てたがっている」
「証……」
「彼の覚悟は、直接会って確かめて、返答したらいいわ。そのために私は、あなたをこうして案内しているんだから」
程なくしてメディオプラザに辿り着き、オレンジと白のツートンが映えるキッチンカーが見えてくる。
ユリーカは、自分たちの気配を察した眼鏡の男こそがこれから戦うグリだと直感した。
「ようグリーズちゃん。また来たぜぃ」
「悪いけど注文は少し待たせてもらうよ旦那。うちの『不味いの』は、グリにしか作れないからね。あぁ、旦那はコーヒー飲まないんだったか」
「ここのクロワッサンは腹に溜まって力が出るからな! なにより安いのがイイ!」
作業の合間の休憩としてやってきたタラゴン以下ラシーヌ工務店の従業員たちにグリーズはぶっきらぼうながら頭を下げる。
「おっ、兄ちゃんバトルするのか!」
彼女の視線の先にあるメディオプラザに設置されたバトルコートにて、ユリーカとグリが対峙しているのを見つけたタラゴンは喜んだ。
コーヒーブレイクもいいが、血湧き肉躍るポケモンバトルを見るのも好きなのだ。
『コレに勝てばランク:A……頑張れよ、グリ』
兄妹のように育ち、苦楽をともにしてきたグリの健闘をグリーズは祈っていた。
「パキラさんから話は聞いてますね?」
「はい」
「でね」
「おれは、おれたちは決してあなたやアランさん。それにチャンピオンサトシを恨んではいません。フレア団の末路は、その愚行の結果として当然のものだと思っています。フラダリ様のしようとしたことは、決して許されることではない」
グリに釣られてユリーカも右手側のプリズムタワーを見上げる。かつての自宅は、依然としてクエーサー社の徹底管理の下にあるままだ。
「フラダリ様たちが起動させた『巨石』の影響を受け、プリズムタワーの内部で溜め込まれていたメガエネルギーがミアレはおろか、カロス中へ漏れ出している……事態は一刻を争います」
再度、ユリーカとグリは視線を合わせる。
「おれはランク:Aとなり最強のメガシンカ使いとしてプリズムタワーに端を発した問題を解決し、フレア団の愚行の清算をします! そのためにはユリーカさん、あなたに勝たねばならない!! あなたにとってZAロワイヤルは、チャンピオンリーグを控えてのトレーニングに過ぎないのでしょうが、おれたちには勝たねばならない理由があるのです!!」
クワ! とグリの双眸が開かれ、確かな決意と覚悟が伝わってくる。
「……確かにあたしには、ZAロワイヤルであなたたちほど強く叶えてもらいたい願いなんてない。でもコレがポケモンバトルであるならば! 真剣勝負であるならば! 何が何でも勝ちたいと全力を尽くす!! こうやって戦って、戦って、その先にしか、あたしの『目指す背中』はないから!!」
ユリーカもまた、グリに対して退きはしない。
1人のポケモントレーナーとして、バトルの道の先にある大きな背を目指すならば勝利を求めて戦い続ける以外にないと知っているからだ。
「あくまで一個のトレーナーとして勝ちを狙う、か……リザードン!!」
「ぐるぅぅぅ!!」
キッチンカーの側に待機していたリザードンが飛翔し、バトルコートへと降り立つ。
「いくよ! ゲッコウガ!!」
「げこッ!」
ユリーカが繰り出すはゲッコウガ。
「あなたほどの実力者を相手に小手調べも小細工も無用! そのくらいは心得てます!」
グリは、左中指の指輪をリザードンへ翳せば、埋め込まれたキーストーンに右手で触れる。
「くそったれの……灰色の青春! リザードンよ、メガシンカで燃やそう!」
眩い光を放つ指輪ごと左腕を振り抜けば、リザードンが虹色の繭へと包まれる。
「ぐるぉうあああッ!!」
繭から姿を現すは漆黒のメガリザードンX。
ゲッコウガは、既に飛びかかっていた。
「メガシンカ直後を狙うだと!?」
「リーグではよく使われるテクニックよ」
グリーズの驚愕にパキラは涼しい顔で言い放つ。
「みずしゅりけんッ!!」
「こぉがぁッ!!」
ゲッコウガの右手には、みずエネルギーで生成された身の丈1.5mと変わらぬサイズの柳刃手裏剣が握られ、メガシンカしたばかりのリザードンへと振り下ろす。
「まもるッ!!」
しかしグリは冷静だった。
リザードンは両腕を胸元で交差させるクロスアームブロックを固めており、みずしゅりけんをきっちりガードする。
「メガシンカ直後の攻撃は、MSBCのユカリお嬢様以来2人目ですね。やはりチャンピオンリーグ、全国クラスともなれば違う……それでも!!」
グググ…!
ゲッコウガがなおもみずしゅりけんを押し込むも、リザードンがガードを開く腕力の前に逆に押し返されてしまう。
「おれはフラダリ様の……先代フレア団の愚行のせいで無念の時を過ごす同胞たちのために戦っている!! いち個人の夢や希望とは、背負っているものが違うのだ!!」
「ぐぉるおおお……!!」
グリの発奮がリザードンへ伝わり、瞳に萌える情熱の炎が伝播する。
「リザードン!! フレアドライブ!!」
「ぐぉおおおるッ!!」
刹那、リザードンの全身が蒼炎に包まれ、ゲッコウガに突撃を突き刺す。
ゲッコウガは吹き飛ばされ、ユリーカ後方のバトルコートを囲う金網へと背中を打ち付けた。
「コレが、仲間のために戦う思いの力です!」
グリの勝利宣告、とはならない。
「ぐるぅ!?」
「なッ!?」
何故なら直撃を受け、吹き飛ばされたゲッコウガが倒れているはずの金網にあるのは、布が破れ、中身の綿が飛散した『みがわり人形』の変わり果てた姿のみであったからだ。
「チャンピオンリーグに挑むということは、同じ地方予選突破者だけではなく、各地方の四天王とも戦うことになる……2年前の時点で、ユリーカさんは既に私を追い込むほどに強かった」
ユリーカの初めてのチャンピオンリーグ、その挑戦を跳ね返したのは他ならぬパキラだった。
「グリくん……確かにあなたはヌーヴォの中で誰よりも、このミアレでも指折りなほどに強くなった。でも2つの思い違いがあるわ」
パキラとてコレを口にするのは心苦しいことだった。フレア団の次世代たちに対してトレーナー修行を施したのもまた、彼女であったからだ。
「1つは、その強さは結局のところミアレの中だけの話。全国まで目を広げればあなた以上の実力者は掃いて捨てるほどいるのが現実よ」
「ぐるぅッ!?」
「は、はうあ!!」
気配を感じ、視線を空へ向ければそこには虹の繭があった。
『マスカットさんから暴走メガシンカの鎮圧のお礼ってことでもらったメガストーン、こんなに早く使うタイミングが来たなんて』
ペンダントのキーストーンを輝かせながらユリーカは一瞬だけ思いを馳せる。
先日、ZAロワイヤルでポイント稼ぎを終えて帰宅してみれば、自分宛ての贈り物を父から受け取り、中身を確認してそこにあったのがゲッコウガナイトだった。
「確かに今のあたしはただのポケモントレーナー。背負ってるのはあたし自身の夢と誇りだけ……でも!! だからこそ!! 負けて悔しいことや、挫けず歩き続けなきゃいけないことは知っている!! ゲッコウガ!!」
虹の繭から姿を現すは、新たなる『月光の牙』……!
「メガシンカ!!」
「こぉッが!!」
胴体、腿、前腕部に頭部を忍装束のような深い黒一色に染め、目の周囲を水色の鋭い形状に変化させたゲッコウガが、絶えず回転し続けるジェル状の粘膜で作った巨大な水の手裏剣を空中に浮かべて逆さに張り付いている。
「メガゲッコウガ……リザードンッ!!」
空中戦ならば、とリザードンが両翼を広げた瞬間だった。
「ぐぉう!?」
「なッ!?」
ジェル状の水手裏剣より発射されたみずエネルギーのクナイが蒼い翼を撃ち抜き、リザードンを地上へと釘付けにする。
「ゲッコウガ! 『凍結』みずしゅりけんッ!!」
「こぉがぁ〜ッ!!」
ゲッコウガが逆さから両足を大地へ向けて体勢を切り替え、張り付いていた水手裏剣をリザードンめがけ投擲する。
投げられたみずしゅりけんはみるみるうちに凍り付き、翼を撃ち抜かれたリザードンのお腹にヒットする。
『まもる』の技で防ぐ暇すらグリに与えはしなかった。
「足場にしていたジェル状の水手裏剣に冷気を纏わせ、空気と触れ合わせて凍結させた…!」
れいとうビームの応用だとグリが気付いた時にはもう遅い。
「臨・兵・闘・者・皆・陣・烈・在・前!」
9つの文字の呪文を唱え、それぞれに対応させた印を両手で結ぶ仕草をユリーカとゲッコウガはシンクロさせる。
「破ッ!!」
チュドンッ!!
そして念じた瞬間、リザードンに突き刺さったクナイと手裏剣が爆発し、致命の1発となった。
「ぐぉ、ばぁッ…!!」
「り、リザードン!!」
リザードンは仰向けに倒れ、メガシンカが解除される。
同じくメガシンカの解除されたゲッコウガはフィールドに着地し、ユリーカからボールの回収光線を受けていた。
「お疲れ様です。リザードン……ポケモンを躍動させるその強さ、認めざるを得ませんね」
『トレーナー:ユリーカの勝利を確認しました! おめでとうございます! それではランクアップ処理を行います』
ユリーカのスマホロトムがお決まりとなった動作とともにアプリ内処理を実行してゆく。
これでユリーカはランク:Aとなり、この定期的な電子音も聞き納めと言えた。
「フレア団の名前を捨てれば……ミアレを捨てれば……いや、コレはあなたには関係のない話ですね」
「メガリザードン、強かったです。対戦ありがとうございました」
「でぇね!」
戦った2人がコート中央で握手を交わせば、カフェの客や足を止めた通行人たちが拍手喝采となる。
「グリ……」
「彼女には教えられましたよ。決して諦めないことの大切さを。この教えを胸にこれからも頑張ります。頑張って、頑張って、頑張り抜いて、いつかヌーヴォの皆がミアレの人々に受け入れられるその日まで」
「それが2つ目の思い違いよ」
バトルコートを出て、グリーズに出迎えられたグリの決意に対してパキラは言い放つ。
瞬間湯沸かし器のようにグリーズが食ってかかろうとした時だった。
「ようグリ坊! 派手にやられちまったなぁ!だがいい線いってたと思うぜ?」
「おやっさん……」
グリの首筋に工事でならした太腕をタラゴンが巻き付けながら語りかける。
「リベンジするなら俺はいつだって付き合うぜ? 俺や倅じゃああの嬢ちゃん相手は無理だが、お前さんや、いつか出来る俺の孫くらいまでいきゃあ鍛え抜けばもしかするかもしれねェからよ!」
「そうだ! またリベンジしてくれよマスター!」
「マスターの安くて美味いコーヒーは最高だからな! きっとバトルももっと強くなれるぜ!」
「コーヒーとバトルで何の関係あんだ?」
「ははは……!」
温かい言葉が次々と投げかけられる。グリもグリーズも、目を丸くした。
「これが、2つ目の思い違い……確かに、全てのミアレの人たちが私たちとヌーヴォの区別はつけられないかもしれない。でも、あなたたちを知る人たちは、確かに『今のあなたたち』に信を置いている……」
語りかけるパキラの瞳は優しく、穏やかだ。
「あなたたちは、もうとっくの昔にミアレの人たちに受け入れられているのよ」
「……ッ!!」
決定的なひとことに、グリの表情がみるみる歪み、走り出す。奥底に抱いた願いの結実に、青年の感情が溢れ出すのが止まらない。
そしてそのままキッチンカーの中へ引き篭もってしまった。
「グリ!!」
「今はほっといてやんなグリーズちゃんよ」
なんで? という表情をグリーズはタラゴンに向ける。
「男ってのは、涙を人に見せちゃあならねェ難儀な生きモンなのさ」
「なんだよそれ……」
しみじみと語るタラゴンの理屈は、女のグリーズにはよく分からない。
ただ、グリと一緒に歩み続けてきた道に一定の成果が結実しているのを、グリーズもまた感じ取っていた。
「秩序の守り手と心通わせた少女ユリーカよ。見事ZAロワイヤルを勝ち抜いてくれた」
ユリーカがバトルコートを後にしたところを出迎えるは、スーツ姿で杖を突いた老人だった。
3mを越す体躯に、極端に長い手足が衣装に合っておらず肘と太ももから下をパッチワークで延長している。
「おじいさん、だあれ?」
ユリーカに、老人は穏やかに答えた。
「わたしはAZ。今こそきみに、このミアレの危機……その全てを打ち明けよう」
『グリ』
21歳。フレア団ヌーヴォのリーダー。
表向きはヌーヴォカフェのマスターとしてコスパ最高のカフェタイムをミアレの人々に振舞っている。
相棒のリザードンは、かつて先代フレア団にいたリザードン使いに憧れてヒトカゲから育て上げたらしい…?