5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
しょうがないので父の電気屋に帰れば暴走メガシンカポケモンが現れたというので対処に向かうのであった。
「じゅあかぁ!!」
ズッバァッ!!
「ふぅ〜〜ん……!」
「ああっ、スターミー!」
ベール地区北西部にある住宅街の屋根の上に外部からの侵入を拒むかのような力場が形成されている。
その内部では、致命傷となる一撃を受けてダウンしたスターミーに水色のパーカーを着た少女が駆け寄っていた。
スターミーをKOしたのはメガシンカしたジュカイン……その双眸は巨大な力に呑まれ、完全に正気を失っていた。
「じかあああッ!!」
「うッ……!」
「くっ、ズルズキンッ!!」
少女とスターミーに構わず追撃を仕掛けるジュカインの前に褐色の少年がズルズキンを立ち塞がらせる。
「ありがと、ピュール!」
「すぐに離脱を!」
「離脱って言ったって……」
スターミーをボールに戻すデウロは周囲のドームを見回す。とても通り抜けられるような代物とは思えない。
ズババババッ!!
「ずきゃあッ!?」
そんなやり取りの間にジュカインの腕部にある葉を使ったリーフブレードがズルズキンを滅多斬りにし、ダウンさせてしまう。
「くっ、ズルズキン……!」
「デウロ! ピュール! あとは任せろ!! いくぞライボルト!!」
「ぼるぁぁぁッ!!」
髪の先が赤茶けた淡い金髪の少年が、左腕のメガリングに指を翳す。
パートナーのほうでんポケモンライボルトが虹色の繭に包まれては、垂直に逆立った黄色のたてがみと背中の体毛が長く一体化し、全身で『雷』をイメージさせるメガライボルトへとメガシンカする。
「メガシンカにはメガシンカだね! ガイ、やっちゃえ!」
「あぁ! ライボルト! かえんほうしゃ!!」
「ぼふぁぁぁ!!」
シュボボボボォ!!
メガシンカポケモン同士の対面、ライボルトの口から放たれる灼熱のブレスにジュカインはたまらずガードするよりない。
「よーし、このまま押し込むぞ!」
手応えを掴んだ、そうガイが思ったところだった。
「じゅぶかぁ!!」
バオアッ!!
かえんほうしゃの勢いが弱まったところにジュカインの口からドラゴンエネルギーの奔流が放たれ、ライボルトを直撃したのだ。
「な、なにッ!?」
「いかにメガシンカによりパワーアップしているとはいえライボルトはでんきタイプ……かえんほうしゃのためのエネルギー変換で本場のほのおタイプに比べれば威力はどうしても劣る……! それにジュカインはメガシンカによりくさ、ドラゴンタイプとなり、ほのお技が効果抜群でもなくなります……!」
「じゃああのジュカイン、反撃のチャンスを窺ってただけってこと!?」
デウロにピュールは首肯せざるを得なかった。
「が、がぁう……!」
「大丈夫かライボルト!?」
メガシンカが解除されていない以上、戦闘不能にはなっていない。
だがライボルトが今の一撃でかなりのダメージを負ってしまったのは明らかだった。
『ユリーカくん! 私はローズ地区に現れた別の暴走メガシンカポケモンの対処に向かう! そちらは任せて大丈夫か!?』
「OK! そっちはお願い、パ……『バシャーモ仮面』!!」
屋根から屋根へ駆け抜けるプニちゃんの背でユリーカはスマホロトムの通話を切る。
街の一角にある電気屋の店主というリモーネの姿は彼の持つ顔の1つに過ぎない。
もう1つの顔とは、ミアレシティの平和を守る正義の味方『バシャーモ仮面』であった。
バシャーモ仮面の存在自体は兄妹揃って昔から知ってはいたが、その正体に関しては5年前のフレア団の凶行を巡る戦いの中で思いがけず知ったことだった。
ユリーカは、父である以上に街のヒーローに事態の鎮圧を任されたことが誇らしかった。
「見えた! アレッ!!」
『突入する! ユリーカは戦闘準備を!!』
「オーライ!!」
彼方にエネルギーで囲われたドームを確認し、跳躍するプニちゃんの周囲に、無数の『セル』が集まって来た。
バビビビビ!!
「でねね〜!」
デデンネが指し示す先へとセルたちが一斉にエメラルドグリーンの光線を放ち、ドームにこじ開けられた穴からユリーカたちは内部へ突入した。
「な、なにごとです!?」
「もしかして、バシャーモ仮面が来てくれたのかも!!」
「『さん』をつけてください。街のヒーローに対して失礼ですよ」
こんな時にまでコレか、とデウロはピュールに対して思った。ピュールはバシャーモ仮面の熱狂的大ファンなのだ。
「く、くそ……このままじゃやられる……!」
「ぼぁるぅ……!」
ライボルトの体力は残り僅か、暴走メガシンカ状態のジュカインの口が再度開き、りゅうのはどうが、
バオアアアアッ!!
無慈悲に放たれた。
『見えた!! 敵の数は1体、メガジュカイン!!』
「いっけぇぇぇぇぇ!! デデンネ!!」
「くうッ!!」
ガイは、せめて背後に庇うデウロとピュールの為に両手を広げた。大事な仲間を守る為に。
バババババッチィィィィィッ!!
万事窮すのところで受けるしかないと考えていた痛みが来ないことに不思議がり、目を開くガイが見たのは、ジュカインのりゅうのはどうをその小さな全身で受け止めるデデンネの姿。
「な、なんだ……?」
次いで、黒とエメラルドグリーンのツートンカラーのポケモンに跨る少女が舞い降りて来る。
『ヘルガー……じゃあないよな?』
記憶の中にある似たフォルムの犬型ポケモンとはどれとも合致することはない。
「バシャーモ仮面じゃ……ない?」
「だから『さん』をつけてください」
デウロもピュールも、見慣れぬポケモンから地面に降り立つ少女に目を丸くする。
一見するならば自分たちよりひと回り年下に見えるものの、この場に怖気付くことのない姿には歴戦の風格を感じさせられた。量ではない。彼女が経験して来たその『濃さ』に圧倒されていた。
「デデンネ、戻って来て!」
「でぇね!」
ジュカインのりゅうのはどうはデデンネには一切効いていない。ドラゴンタイプの技は、フェアリータイプのデデンネには通用しないのだ。
「き、きみは……?」
「話は後! まずはあのジュカインを助けてあげなくちゃ。いくよ、チルタリス」
「ちるぅぅぅッ!!」
『助けてあげる、だって?』
ガイは衝撃であった。ミアレシティに出現する暴走メガシンカポケモンたちは、プリズムタワーから放たれているエネルギーにより彼らの意思に関わりなく破壊衝動に支配されてしまっている……そんなポケモンたちの事情を知っているのは自分たちと、バシャーモ仮面に代表されるミアレに住む一部の腕利きトレーナーくらいのものなのだ。
「じぃぃぃ……!」
「ちぃる」
ジュカインは、ユリーカのチルタリスを前に歯軋りをした。本能から自身とのレベル差を痛感させられていた。
「大丈夫。ユリーカたちがすぐ苦しいの、なくしてあけるから」
「金髪に、黄色のポシェット……それに、ユリーカ……!?」
ピュールはハッとしてからスマホロトムで検索をかけてゆく。
ユリーカは、ペンダントに埋め込んだキーストーンに指をかざしてゆく。
「いきなりいくよ! ユリーカ奥の手! お義姉ちゃん直伝のメガシンカ!!」
「ちるうううううッ!!」
メガシンカの輝き、虹色の繭に包まれ、チルタリスがメガチルタリスへとメガシンカした。
「間違いない! 彼女は一昨年にカロスリーグの予選を勝ち抜き、去年はトライポカロンのマスタークラスまで到達したユリーカ選手です!」
「それって、かなり腕利きってことだよね!?」
「少なくとも、我々よりははるかに」
デウロとピュールが話す中、ガイは言葉が出なかった。ガイもまた、ユリーカのメガチルタリスに圧倒されていたからだ。
「じぃッ!!」
シュババババ…!!
「メガジュカインが消えた!? 逃げたの!?」
「このドームはメガジュカイン自身も閉じ込めてますからそれはないかと」
言葉は浮かばなくともガイには見えていた。
ジュカインは、己が全速力で周囲を飛び回り、チルタリスの、ユリーカの虚を突こうとしているのだ。
「流石メガジュカイン。速いね……でも!」
ジュカインの撹乱戦法を前に、ユリーカに動揺はない。
「もっと速くて、もっと凄いジュカインをあたしは知ってるから!!」
脳裏に浮かぶのは同じ世代に生まれたホウエンにいる我がライバル……次いであらゆる物事を経験値として吸収し続ける先達……そして、自分にポケモントレーナーとはなんたるかを示し、今もなお世界の頂点に君臨し続ける最大の目標。
彼らのジュカインは、どれもユリーカの中で鮮明に刻み付けられていた。
「じゅかあああああ!」
隙アリ! とばかりに上を取り、斬りかかるジュカインのリーフブレードは、
モコモコォッ!
メガシンカにより全身至る所で増量したチルタリスの羽毛の前にあえなく受け止められてしまう。
「痛め付けるのは嫌だから……チルタリス! パワー全開!!」
「ちぃるぅッ!!」
ボブアッ!!
「じゅかぁ〜!?」
チルタリスの羽毛が瞬時に膨張し、すぐまた元に戻る。その反動を、腕の葉による斬撃が受け止められたままだったジュカインはモロに受け、空中へ投げ出される。
「ムーンフォース!!」
空中で姿勢制御もままならない間に、チルタリスは全身に満ち満ちるフェアリーエネルギーを球状に凝縮させ、ジュカインへ発射する。
「じゅかッ……!!」
チュドオオオオオン!!
なす術なく直撃を受けるジュカインはエネルギー爆発に飲み込まれ、周囲を囲うドームが霧散していった。
直後、モヤの中から落ちて来るのはメガシンカが解除されたジュカインだ。暴走メガシンカが治ったのだ。
「す、凄い……!」
「流石はチャンピオンリーグまで進出しているトレーナーですね」
ユリーカが来てからまさしくあっという間だった、とデウロもピュールも気持ちを同じくする。
ガイは、ジュカインが暴走メガシンカから解放されたのには安堵したが、自分たちだけでは助けることが出来なかったであろうことに歯噛みした。
自らの力不足が悔しかった。
「はいジュカイン。コレをお食べ」
「じゅ、かぁ……?」
辛味はなく、まろやかで整った味わいは食べるものの好みを選ばない。ユリーカの差し出すオボンの実は、ポケモンの体力を回復させるのに最適な木の実の1つだ。
「ちる」
ジュカインは、差し出されたオボンの実とユリーカをキョトンとしながら交互に見ていたが、さっさと食え、とばかりに若干威圧のこもったチルタリスに促され施しを受けるよりなかった。訳も分からない暴走状態から助けてくれたとはいえ、ついさっき手痛い1発を叩き込まれた相手に逆らう気は起きなかったからだ。
「がじがじがじがじがじ」
硬い果肉は食べ応えを生み、ジュカインの体力を回復させてゆく。程なくして立ち上がり、動く分には問題ない状態まで持ち直すことが出来た。
「よかった。またどこかで会ったら、今度はあなたの本当の実力を見せてよね」
「じゅか……」
ジュカインはユリーカにペコリと頭を下げ、軽やかな身のこなしで屋根の上を飛び移って立ち去ってゆく。
「で〜ねね〜!」
デデンネは、立ち去るジュカインに手を振っていた。
「流石だな。あの暴走メガジュカインをああもあっさり大人しくするなんて」
「あたしだけの手柄じゃあないよ。あの子、あなたたちとのバトルでもダメージは受けていたし。あたしは、最後のひと押しを掻っ攫っただけ」
チルタリスを戻すユリーカは、ここで初めてガイたち3人を見た。3人とも14、5歳で、ぱっと見自分より少し年上かな? と判断をした。
「なぁ、もしよければオレの話を聞いていってくれないか? 近くにオレたちの拠点があるんだ」
「拠点? オレたち?」
「俺はガイ。俺たちはMZ団。ミアレの平和を守るためのチームなんだ」
ユリーカはプニちゃんと顔を見合わせる。
『なにか父君の知らぬ情報を掴めるやも知れぬ』
プニちゃんにユリーカが頷けば、
「でねね〜!」
ポシェットの中からデデンネが『いいよ〜!』と馴れ馴れしく返答をした。
『リモーネ』
39歳。電気屋。
シトロンとユリーカの父親で街のみんなに慕われている電気屋さん。
その正体はミアレを守る正義のヒーロー『バシャーモ仮面』。みんなには内緒だぞ?