5 years later〜エピソードZA〜 作:nami73
先に現場にいた年上の少年少女は自分たちをMZ団と名乗るのだった。
「ふわわ〜……」
翌日、ユリーカはリモーネの電気屋の居住スペースに与えられた一室で目を覚ました。
まだ兄妹が小さい頃に寝起きしていた部屋であり、あちこちに幼稚園時代の絵葉書や工作が飾られている。ユリーカからすれば気恥ずかしい限りだが、処分できない父の親心を思えば引き下がるよりない。
寝ぼけ眼を擦り、ガチゴラスパジャマのフードを頭から背後に下ろす。
7歳の頃、兄の旅に同行していた際に来ていたのはトレーナーデビューするまでに入らなくなり、現在着ているのは2代目だが、コレも丈が徐々に短くなってきているのが密かな悩みであった。12歳以降のサイズが市販されているのか? という方向で。
「おはよ〜……」
「でね〜……」
「おう! 飯出来てるから食べちまいな」
「は〜い」
部屋を出てリビングに来れば、父は既に起き、開店準備をしていた。
ユリーカはデデンネと、ボールから出したゲッコウガ、プニちゃんにポケモンフーズを用意してからテーブルに付く。
残るガチゴラス、チルタリス、ウォーグルは体の大きさから部屋の中に出すことは憚られた。
その子たちの食事のためにユリーカはラッキーのタマゴから作られた目玉焼きとベーコンを口の中へ放り込む。カロス産の豆類を加工した代用肉の食感は燻製になっても懐かしさを喉から伝えてきた。
「昨日は悪かったな。帰ってきて早々面倒ごとを任せちまって」
「全然。いい運動って感じ」
手早く腹を膨らませたユリーカは店先に出ては残る3体の手持ちポケモンたちに朝食を用意する。
「また大きくなったみたいだな」
「でっかいのはパワーだもん」
フーズにがっつくガチゴラスらを褒める父に、ユリーカは得意げになる。
デデンネを相棒として小技も扱いこそするが、トレーナーとしてのユリーカの本領はパワーファイトにあった。
その象徴としてガチゴラスら3体は、通常の個体の今や3倍ほどの体躯を誇っている。
道行くミアレの通行人も、彼らの迫力に立派なもんだと目を丸くしながら通り過ぎていった。
「コレならZAロワイヤルでも『特例』が来るわけだ。さすが我が娘」
リモーネもまた、成長を続ける愛娘に目を細めていた。
時は遡る。
昨日、暴走メガジュカインを鎮圧したユリーカは、その場に居合わせた『MZ団』なるチームの案内を受け、ベール地区の中にポツンと佇む古びたホテルにやって来ていた。
「内装は頑張ってる方だろ?」
「そうみたいだね」
「でね」
正直オンボロ呼ばわりされても仕方ない外装に対し、内装はレトロなインテリアを基調とし、ホテルのロビーとしての機能性に問題は見られない。
「AZさんいないね」
「お出かけでしょうか?」
受付を見るデウロとピュールは話しながらも特にそこから言葉は続けない。
ユリーカは出入り口から向かって右手のソファへ促され、デデンネの入ったポシェットを膝に置き腰掛けた。
「しつこいかもだけど、さっきはホントにありがとう! 正直、かなりヤバかったと思う」
「いいよそんなの! 気にしないで」
頭を下げるガイたちMZ団にユリーカは両手を振りながら顔を上げるよう促す。
「そんなことより、ああいうのって前からあったの?」
「あぁ。半年前からだな。ミアレ中にワイルドゾーンが作られるようになってしばらくしてのことだった」
ガイからの話を聞きながらユリーカは、5年前にじんぞうポケモンマギアナを巡った冒険と戦いのことを思い出していた。
ジャービスとかいう悪人が、ポケモンとの絆を介することなく強制的にメガシンカを発現させた上で使役する『メガウェーブ』なる技術を扱っていた。
『どうかなプニちゃん?』
『まだ断言はしきれぬが、此度の騒動において人の悪意が介在してるようには見えぬ』
ガイの身の上話などは上の空で、ユリーカはボールの中のプニちゃんに問いかけていた。
プニちゃん曰く、ジャービスのような悪人が裏で手を引き、陰謀を企てているような気配はないとのことだった。
「流石チャンピオンリーグを主戦場とする強豪トレーナー……堂に入る雰囲気ですね」
「ただボーッとしてるようにしか見えないけど」
デウロとピュールからすれば、ユリーカがガイの話をあんまり聞いていないのはなんとなく分かっていたが気にはしなかった。
元より恩人だし、人助けの為の自警団を気取ってこそいるが、自分たちMZ団の事情にユリーカが興味を持つかどうかは本人次第でしかないと分かっているからだ。
ピコン!
ユリーカのスマホロトムがメールを受信する。
ポシェットからスマホロトムがユリーカの前で受信内容を告げていった。
『ユリーカ様。今、ミアレシティでは最強のポケモントレーナーを決めるための戦い、 ZAロワイヤルが開催されています。最高のランク:Aになれば最強の称号と名誉、そして叶う範囲で望みを叶えられます。参加の意思がおありなら添付の実行ファイルから ZAロワイヤルアプリをインストールしてください。あなたの参加をお待ちしております。 ZAロワイヤル運営』
「 ZAロワイヤルへの招待メールだろ? ドンピシャのタイミングだよな。オレたち、クエーサー社とも協力して暴走メガシンカポケモンへの対応をしてるんだ。ここに案内する途中に、オレがマスカットさんにオマエのこと話しといたんだ」
「マスカットさん?」
「クエーサー社の社長秘書で、オレたちに暴走メガシンカポケモンの情報を回してくれるんだ」
話を聞きながら、ユリーカは些細な引っ掛かりを覚えた。
『最強のポケモントレーナーを決めるための戦い』……ポケモンバトルを主体としたイベントならば大規模であればあるほど売り文句として使い倒されるフレーズなのは分かるが、本当の『最強』を知るユリーカからすればどこか釈然としないものなのだ。
「オマエのスマホロトム、ちょいと借り……」
「ぽちっとな」
それでも何もしないよりはマシ、とユリーカは添付ファイルからアプリのインストールを操作する。
ガイが動くより指先の動きは速かった。
『インストール完了。ユーザーネーム『ユリーカ』様、エントリー完了。なお、トレーナー実績を考慮した結果として、特例措置によりランク:Eからのスタートとなります』
「「ランク:E!?」」
「どうかしたの?」
「ZAロワイヤルは普通、Zから1個ずつランクを上げてくシステムで、いきなりランク:Eからなんて聞いたことない!」
「ガイでも先週、AZさんのフラエッテと協力して暴走メガアブソルを鎮圧した話を聞き付けたマスカットさんの差配によりランク:VからFへ上がったのはありましたが……」
「それだけ見込みあるトレーナーだってことだろ。なんたってチャンピオンリーグ出場者なんだから」
驚くデウロとピュールに対し、ガイは涼しい顔だった。ユリーカの実力を間近で見ていたが故だ。
「なぁ、頼むよ! MZ団として、ZAロワイヤルに参加してくれないか? オマエのその力でオレを……いや、ミアレを助けて欲しい!」
「強引だなぁー……」
「ああ、強引だぜ! でもそれくらい必死なんだよ! 頼む!」
言葉通り必死に頼み込むガイに、ユリーカは困り果ててしまった。
「それで、なんでその……なんだったか。MZ団とやらに入ってやらなかったんだ?」
時を戻そう。
ユリーカは結局のところ、ガイの勧誘を受けることなくホテルZを後にし、父の電気屋に帰り着いた。一応恩返しということで振る舞われた夕食のクロワッサンカレーは頂き、満腹にはさせてもらったが。
「んー……入りたくない理由がないわけじゃあないんだけど、入りたい理由も特にないから、かなぁ」
父に対してユリーカもイマイチ言語化しきれない。ただ、かつてカロス中を巡った仲間たちとの日々と比べていたのは確かだった。
『とりあえず、『まずはお友達から』ということにしませんか』
引き下がらないガイに対し、なおも渋り続けるユリーカ。そんな2人の平行線に対してピュールが妥協案を提示し、それで話は纏まる。
何かあれば助け合おう、ということでMZ団のメンバーとは連絡先の交換のみに留まった。
その日の夕暮れ時、ミアレシティの街中の一部が真っ赤なホログラムにより区画分けされてゆく。
黄緑色のホロで囲われているのが野生ポケモンたちの生息区である『ワイルドゾーン』、赤いホロで囲われているのは『バトルゾーン』とそれぞれ呼称されている。
このバトルゾーン内で毎夜繰り広げられる戦いこそがZAロワイヤルであった。
「おりゃあ〜!!」
ローズ地区6番地のバトルゾーンに飛び込んだユリーカは、文字通り無双の暴れ振りを披露していた。
このZAロワイヤルにおいてはルール上360度全てが警戒範囲であり、いつどこから対戦相手が仕掛けてくるか分かったものではない。
そんな不意打ち上等な環境において、ユリーカのパフォーマンスは圧倒的と言うよりなかった。
「つ、強すぎる…!!」
同じランク:Eはもちろんのこと、Aが終着点である以上事実上の最高位であるランク:Bのトレーナーですらユリーカにはまるで歯が立たない有様だ。
「ジュウジュウジュウジュウジュウ……! 占い通り帰って来ていたようテツね、憎きポケモントレーナーユリーカ!」
ひたすらユリーカが荒らし回っているバトルゾーンの状況をビル街の屋上よりニタニタとした薄ら笑いと共に見下ろす影が1つ。
でっぷりと肥えた醜男の瞳には、一方的な怨嗟の炎が燃え上がっていた。
「お前たちの邪魔立てにより無実の罪を被せられ、塞ぎ込んでしまったフェルベート兄様の無念は、同じく偉大なるスクライアの民として弟であるデフェール様が晴らしてみせるのテツ!!」
本人としてはいかにも正当な権利としてユリーカを見定めてから屋上より立ち去ってゆく。
『華麗なる復讐劇(デフェール曰く)』の幕が、今彼の脳内でのみ上がっていた。
「よーし! 誰でもいいからあと1人!!」
ZAロワイヤルはルールとして、バトルや、バトルゾーン内部を通した様々なミッションをこなすことでポイントが付与され、規定量を貯めることでアプリに『チャレンジチケット』が配布される。このチャレンジチケットがランクアップをかけた試合のための通行手形だ。
ユリーカが現在貯めているのは35000ポイント中34500ポイント。ランクアップ戦まであと一息といったところであった。
「ユリーカ……? やっぱりユリーカだ!!」
「誰? あたしのこと知って……あぁーッ!!」
かけられた声の主に振り向けば、ユリーカの中ですぐに思い出がフラッシュバック。
『アンタ、ラプラス防衛隊に逆らうつもり?』
『え? ラプラス防衛隊……ってことは、ラプラスがいるの?』
『『『えええええッ!?』』』
『なんでそれを知ってるの〜!?』
『だって今、『ラプラス防衛隊』って……』
5年前、ヒヨクシティへ向かう道中、デデンネと森の中を探検していたユリーカは湖に流れ着いたラプラスと仲良くなっていた子供3人組と出会い、親睦を深め合った。
男子2人を取り巻きにしていた白フチのサングラスに黄色のリボンを頭に着けた茶髪の少女は、今は1人でユリーカの前に姿を見せている……。
「ヒナ隊長!!」
「久しぶり〜!!」
「うん! ケンとジョーは元気?」
「元気元気! 今日は2人とも寝たいからって来てないけど」
思いがけぬ再会に手を取り合って喜ぶユリーカとヒナ。
ひとしきり再会を喜べば、やることは1つしかない。
「『ここにいる』ってことは……『そういうこと』だよね?」
「もち! 恨みっこなしだからね!」
ババッ!
互いに距離を取り、ボールを構える。
ここはバトルゾーン……トレーナー同士が出会えば、そこにあるのはポケモンバトルのみ。
「「いざ! 尋常に勝負! 勝負〜ッ!!」」
ユリーカとヒナは、同時にボールを投げ込みバトルを開始した。
『ガイ』
16歳。ポケモントレーナー。
ミアレの街のために働くMZ団のリーダーで人助けを何より優先する性格の持ち主。
パートナーポケモンはライボルトで高い実力を活かしてリーダーシップを発揮するぞ。